「…はぁ…うぅ……」
ドイツ艦、アドミラル・グラーフ・シュペーの戦闘で被弾した日本海軍、二式水上戦闘機は海に着水。
波が揺れる中で日本海軍少尉、大賀虎雄は微かに意識を回復する。
「……厚木…隊長……」
虎雄はラバウル航空時代、ダンピール海峡から生還後の六勇士の結成前に、のちの隊長である海軍中尉、厚木十三と仲間たちと酒を呑み交わした記憶を呼び覚ました。
1943年3月末 ラバウル航空隊
「お前の名前は虎雄って言うのか~……」
「はい、父から付けて頂きました…干支の寅年に、干支の順番で3月に生まれました…」
「そうか、はっはっはっ!お前の親父さんは思いやりがあるな。虎は千里に行って、千里に帰る。…必ず日本に、故郷に帰るんだぞ虎雄……」
「はい、厚木隊長!」
僅かな力で左手で電鍵を押し、電波を発した。
「……虎は千里に行って、千里を帰る……(…ぬちどう宝……生きることに……敵に助けられても……許してくれますか…厚木隊長……)」
虎雄は教えられた『生きて虜囚の辱しめを受けず』の戦陣訓を無視し、ラバウル六勇士の言葉を信じ、救助を待ちながら、再び気を失った。
晴風 浴場
明乃は、濡れた服を洗濯に出し、大浴場でシャワーを浴びていた。
さるしまとシュペーの攻撃。そして、二度にわたる、正体不明の飛行物体の飛来で悩まされた。
「あれは…確か…昔、虎ちゃんに教えられた…ひこうき…これからどうすれば……私は艦長なんだから!…そうだよね、もかちゃん…虎ちゃん…!」
明乃は、元気を取り戻す。
シュペーの戦闘後、無事に戦線を離脱した晴風は、現在目的地もわからずに海面を進んでいた。
そして今その晴風の艦長である明乃は、シュペーから脱出し保護をした少女の様子を見に医務室へと向かった。
「美波さん…」
ノックをして医務室に入る明乃
「艦長?」
「様子はどう?」
「外傷はない。脳波も正常…後は、意識が戻るのを待つしか…」
「そっか…ありがとう、私見てるから美波さん、食事してきて」
「感謝、極まりない…」
明乃は、そう言うと美波は、お礼を言い医務室を出る。そして明乃は、ベットで横になっている少女を見て、微笑んだ。
そして炊飯所兼食堂室では晴風のクラスの子たちがカレーを美味しそうに食べていた。
「これが、晴風カレー」
「やっと食べられますね~」
鈴と幸子は、晴風カレーを見て言う。
「…美味い!!…」
志摩は、待望の晴風カレーを食べ、幸せな顔をする。
「甘がちだけど、コクがあります」
「ブルーベリージャムを隠し味に入れてるから」
幸子は、美甘に晴風カレーの感想を言う。すると
「美味しい!!」
「ん、美味しい!!」
光と美千留がそう言い、周りでは、美味しいと言う声が飛び交う。
「「 はぁ…やったぁ!! 」」
それを隣の炊飯所で見ていた杵崎姉妹が喜んでいた。
「マッチにも持ってってあげよ~っと♪」
「何がマッチよ‥‥」
「美化委員長はクロちゃん派ッスか?」
「はぁ!?」
食堂室で生徒達が和気藹々とカレーを食べ、談笑している中
「そういえばさ~さっきあの飛んでいたのなんだったんだろうね?」
「あ、それ私も思ったぞな」
まゆみの言葉に聡子がそう言うと一気に艦内の食堂内では、昨日のさるしまとさっきシュペーや晴風の前に現れた飛行物体の話題で盛り上がっていた。
「でもかっこよかったよな~こうビューン!って!!」
「確かにスキッパーや飛行船よりも速かったですしね。それよりあの急降下を見ました!まるでトンビのようでしたよね!」
「そうそう。それに何か落としてシュペーを小破させたよね?」
「うん。あれって爆弾かな?すごいよね?あれだけの砲撃を躱して、命中させるなんてね」
「そうそうバキューン!だったね!」
と、飛行物体が話題となっていた。
艦橋 ましろは、鈴と交代で舵を握っていた。
「(間違いない…あれは昔…横須賀で見た飛行物体だ…あの物体は…飛行機と言う乗り物…しかし、新一郎義兄さんは…あれと…どんな関わりが…)」
舵を握りながら悩みにつくましろだった。
「宗谷さん、お疲れ様…カレー持ってきたわ。」
すると、食堂室に居た洋美がましろの為にカレーを持って来てくれた。
「あ、すまない!」
ましろは、洋美からカレーを受け取る。
「余り、無理しないでね!」
そう言って、洋美は、戻ってきた。そんな洋美にましろは、嬉しかった。
カレーを食べようと口に持っていこうとした時
ビー…ビー…ビー…
突如、通信を知らせるベルが鳴る。
「通信?…はぁ…ついてない…」
突然の通信でカレーが食べられなくなった事にましろは、ガッカリする。
ガッカリしながら、艦内電話の受話器をとって耳に当てる。
「っ!?」
その通信内容を聞いたましろは思わず目を大きく見開いた。
そして、医務室に居る明乃にも
晴風、医務室
『艦長!…至急艦橋に来てください!』
艦橋からの呼び出しに明乃は、急いで艦橋に向かう。
晴風、艦橋
明乃が艦橋に着くと、ましろが驚愕した顔をしていた。
「シロちゃん如何したの?」
「非常通信回線が!」
「何所から!?」
「武蔵からです!」
「武蔵!?」
武蔵の言葉を聞いて、明乃は、驚愕しながら、ましろから受話器を受け取る。
『此方武蔵…此方武蔵…』
「もかちゃん!?…私、明乃!…どうしたの!?…何があったの!?」
明乃はもえかに話しかけるが、向こうの無線機の受信感度が低いのか、明乃の応答にもえかは答える事無く、必死に救援要請を伝える。
『非常事態発生…至急、救援を…現在、アスンシオン島北西…アスンシオン島北西…至急救援を…至急救援を……』
やがて、受話器からもえかの声は聴こえなくなり、晴風の艦橋は不気味な程の静寂に包まれた。
「もかちゃん‥‥」
明乃は受話器を持ったまま固まってしまう。
「艦長…!」
そして、電信室から鶫が伝声管を伝って報告する。
「鶫ちゃん…!?」
「長符号を受信しました!」
「長符号だって、一体どこから!?」
見張り台
「ふぁあ…」
鶫が長符号を受信したと同時に、見張り台の野間マチ子が傾きかけた陽の光が、夕暮れ時の太平洋を赤く染める。
穏やかな海面に反射してキラキラと光る様子はあたり一面に宝石をばらまいたような美しい景色であった。
そんな海を見ながら、見張り員の野間マチコは、本日何度目かのあくびをする時ー
『野間さん、周囲の海面に何か物体はある?』
「艦長…特に、ん?」
突如、伝声管から艦長の明乃が海面に何かあるのかを確認すると、光るのが見えた。
「(気のせい…?いや違う)」
マチコは遠視用の眼鏡をはずし、よく見ると海面になにか浮かんでいた
「あれは…」
それは濃緑の物体であった。それを見たマチコは
「右舷六十度、大型の漂流物!例の飛行物体です!!」
伝声管で艦橋に報告を行う。
その言葉は艦橋に残っていたましろと明乃に伝わり、その場でカレーを食べていた晴風の乗員たちは甲板へと出る。
「本当だ…さっきの飛行物体だ…」
甲板に集まった生徒たちは飛行機、二式水戦を初めて目の当たりにそう述べる。すると双眼鏡をもって見ていた幸子が
「艦長、あの物体のところに人が乗っています!」
「え!?」
幸子の言葉に明乃は双眼鏡で見ると、その物体の中に人が倒れていた。
「鈴ちゃん!艦をあの物体に寄せてくれる?」
「は、はい!」
「しかし、あの物体はさるしまとシュペーを小破させてます。近づくには、警戒をしたほうがいい、艦長!」
「う…うん…」
「砲雷科、警戒態勢を」
明乃の指示で鈴は晴風をその浮遊している物体に寄せる。
そして、ましろの指示で砲雷科は連装砲、機銃を二式水上戦闘機に向けて警戒した。
「シロちゃん、ちょっと行ってくる」
「危険です!艦長自ら行くなんて…!」
明乃はましろの言葉が耳に入らず、艦が二式水戦のそばに寄せると、明乃は二式水戦の翼に乗り操縦席を見る。
そこでは帽子とゴーグルをして顔はよくわからなかったが、目を閉じ動いていなかったために、明乃は風防を開けた。
「………大丈夫!?しっかりして!」
「………う…ん……ん…」
明乃の視点では、操縦士の左手には電鍵を押しながら長符号を発していた。
「発信源は、この人とこの物体からだったんだね…」
そして、明乃は操縦手の動脈に手を添えながら、彼の僅かな声が聞こえた。
「…声がある……生きてる…男の人…!」
パイロットが生きていることに明乃は安心し、操縦者を持ち上げようとするが一人じゃ持ち上げることができなかった
「だ、誰か手伝って!」
「よっしゃ!やってやるぞ!」
「うぃ…」
芽依と志摩は明乃の指示で動き、搭乗員を晴風に運んだ。
「(これが…ひこうき…)ねえ、シロちゃん。あれも持って行こう。この人の物みたいだし…!」
「え?でもどこに乗せるんですか?」
「魚雷用のクレーンで引き揚げて、置き場所もとりあえずは広い後部甲板に乗せとけばいいから」
「わかりました」
二式水戦はクレーンを使用し後部甲板に運ばれる。
そして操縦者は担架に乗せられ、医務室へ運ばれた。
艦橋組のましろと幸子、芽依と志摩はパイロットの所持物と二式水戦を簡素に調べた。
「おぉ~!!拳銃、装飾の短剣…!」
「…組み立て式の小銃…カッコいい…」
芽依と志摩は操縦士の所持する武装を、目を輝かせながら手にした。
「これは凄いです〜!この飛行物体が空を飛んで、さるしまとシュペーを破壊したなんて…」
幸子はタブレットで幾つかの写真を撮り納めた。
ましろは二式水上戦闘機の側に寄り、操縦席を見つめた。
「…っ!?…あれは…なんてとこ……」
機体の操縦席の後部には、横須賀の諏訪神社、母親の真雪がブルーマーメイドの現役を退く事を宣告した時に翔ばされた帽子が、操縦席内後部の無線アンテナに引っ掛かっていた。
ましろは機体に上り、操縦席後部に手を伸ばして掴み取った。
「(…良かった…見つけたよ…見つけたよ、お母さん…)」
ましろは安心した顔で、帽子を胸の中に掴んだ。
医務室
「艦長…急患か、いつでも手当ての準備しているぞ」
「食事中ごめんね美波さん」
「「 せぇーのっ! 」」
シュペーの生徒が眠っているベッドの隣で、媛姫と百々が二式水戦のパイロットを担架からベッドに寝かせた時、手帳が落ちた。
「手帳…艦長っ手帳ッス!」
「え…?手帳…」
明乃が百々から手帳を渡された時、パイロットは寝言を呟いた。
「…う……どこ…だ…どこ……なん…だ…あけの……もえか……」
「明乃…まさか…!?」
彼女はパイロットの手帳と装身具の名札を確認、名前は大賀虎雄だった。
「っ!?…そんな…あなたは……あなたは……虎ちゃん!?」
晴風が虎雄を保護した同時刻、横須賀女子海洋学校、会議室
「校長、海上安全整備局より連絡です」
「読んで?」
真雪の秘書の老松亮は、報告する。
「はい、今回の晴風、速やかに学内で処理できない場合、大規模叛乱行為と認定し、その際、貴校所属艦は拿捕、それが不可能であるならば、撃沈するとの事です」
何と、海上安全整備局から横須賀女子海洋学校に齎されたのは、問答無用の晴風への撃沈命令だった。
「っ!?」
海上安全整備局からの晴風撃沈命令に真雪は、驚く。
「このままでは、本当に反乱と見なされて、ブルーマーメイド及びホワイトドルフィンの本隊の治安出動もあり得ます」
「まだ、真実が分からないのに、生徒達を危険な目に遭わせる訳にはいかない!!」
ブルーマーメイドやホワイトドルフィンらの実働部隊が本格的に出動すれば学生の乗る晴風はただでは済まない下手をすれば死人が出る可能性があった。そのため真雪は海上安全整備局からの晴風撃沈命令に否定の声をあげた
「私達は生徒達の安全の為、あらゆる手を尽くしましょう!!」
「はい!!」
「まずは、国交省の統括官に連絡を…」
そう言い真雪は立ち上がる。