ハイスクール・フリート   ~空を翔る鳶と海虎~   作:鷹と狼

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坊ヶ崎沖で沈んだ戦艦大和や艦艇の乗組員の方々、黙祷を捧げます


第19話 坊ヶ崎の悪夢

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

 

 

 

横須賀女子学校で気を失った宗谷真霜は、ある艦艇の甲板で横になっていた。

 

 

 

「ここは…大和…?大和だけど形状が…なんでこんなに男性が…甲板に高角砲と機関銃座が…」

 

 

真霜が目の当たりにした大和は、呉所属の青いカラーラインはなく、呉所属の旗はかつての軍艦旗、紋章も菊が飾られていた。

 

乗組員は溢れるばかりの男性のみで、更に増設した高角砲や25ミリ機銃がびっしり設置されていた。

彼らは鉄兜を被り、空を睨みながら緊迫した状況だった。

 

 

「ねぇ…あなたたち…ねぇ…」

 

 

真霜が自身より同い年位の男性やそれ以上の男性、あるいは高中学生くらいの少年に声を掛けても、誰一人たりとも彼女に反応していなかった。

 

 

「もぅ…誰一人わたしに反応しないなんて、……それに、大和を中心に艦隊が円陣を組んでいるのね……規模は、巡洋艦と航洋艦…」

 

 

そう呟きながら暫くすると、艦内から次々と糧食を詰めたアルミケースを担い、それぞれの機銃座や高角砲の区画へ向かい、握り飯を支給していた。

 

 

「あら、おにぎり美味しそう~…おにぎりを食べる人たち、いい顔になっているね……」

 

 

食事の光景で乗組員たちは笑顔に溢れ、真霜はすかさず笑みを浮かべた。

 

後部甲板に向かって歩いていると、大和の艦尾にあるクレーンが作動、ある機体を格納庫から引き上げ、レールを敷く専用の滑車に載せた正体は、零式水上観測機だった。

 

 

「あ…あれは零観…も…もしかして…っ!?」

 

 

零観に反応した真霜はゆっくり近づくと、その機体のパイロットが、沖田新一郎と助手の金城幸吉だった。

 

 

「ねぇ新一郎、幸吉君!わたしよ、真霜よ!」

 

 

真霜が何度も新一郎と幸吉を呼んでも、どの乗組員同様に二人は反応しなかった。

 

 

「…新一郎…なんで…なんで聞こえないの……二人がいるってことは……新一郎が話していた……戦争の……沖縄……?」

 

 

真霜が立っているところこそ、昭和20年(1945年)4月7日。戦艦大和が率いる連合艦隊は、沖縄に向けての航海だった。

 

 

任務は、沖縄を侵攻する敵アメリカ軍艦隊を撃退し、その後に砲台と化するのである。

 

 

彼女が恐ろしげな気持ちになった時だった。

 

 

『「ガガ…敵機来襲!総員戦闘配置につけ!!」』

 

 

艦内ブザーが流れると同時に、乗組員は緊迫した状況でそれぞれの部署に配置し、空を睨んだ。

 

 

乗組員が睨む空には、分厚い雲が覆う空から大規模となる飛行機が飛来した。

 

 

「なんて数の飛行機、見たことがない……もしかして……この艦隊を襲うの…!?」

 

 

100を越える飛行機の群れを目の当たりにした真霜は、身体が震えた。

 

 

「くそっ、おでましか…迎撃する!急げ、エナーシャを回せ!零観をカタパルトに接続しろ!!」

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

新一郎の指示である整備員は本機のエンジン部にハンドルを回し、発動。数人の整備員が本機を押してカタパルトに接続した。

 

 

「沖田新一郎!」

 

 

「金城幸吉、発進!」

 

 

「…っ!新一郎…お願い……行かないで!!」

 

 

 

真霜の声は届かず、新一郎と幸吉が搭乗する零観が短いカタパルトを走り発艦、彼を含む3機の零観が敵機を迎撃に向かって飛行した。

 

 

「…ああ…あぁ…」

 

 

迎撃に向かった新一郎機は敵の航空機を撃墜、或いは敵機が落とした魚雷を幸吉が弓で矢を放ち、水中で爆破した。

 

敵の航空機の形状はフロートを装備しない水上機型では無く、スリムな上に速度が600を超えており、迎撃に向かった他の零観を簡単に討ち落とされた。

 

 

大和や軽巡矢矧などの艦艇の高角砲や機銃が敵機に向けて火を吹き、数機の機体が被弾し、海に墜ちた。

 

そして、敵の戦闘機の大群が甲板の兵士を狙い、機銃掃射を受けて血を流し、命を落とした。更に爆撃機の爆弾と雷撃機の魚雷攻撃を受けた。

 

 

「…そ…んな…そんな…あんまりだわ……」

 

 

ブルーマーメイドの災害現場で携わる真霜は、先ほど笑顔になっていた年上や年下の乗組員は命を落とし、幾人もの屍の山を目の当たりにし、顔を青ざめる。

 

たった一機残った新一郎、幸吉機は敵機の追撃攻撃を回避し、逃亡した。

 

だが、新一郎の巧みな操縦であるにも関わらず、敵はしつこく攻めて襲来した。

 

 

「…そんな…逃げて…逃げて新一郎、幸吉君!」

 

 

戦闘機の機銃が発射された、窮地に陥る時だった 

 

 

ギュイィィン  ダダダダダダダ

 

 

別方向から2機の味方の航空機、零式艦上戦闘機64型が飛来し、複数の敵の戦闘機が落とされた。そして、新一郎と幸吉の窮地が救われた。

 

甲板に居た真霜は常に所持する小型の双眼鏡を覗き、救援に飛来した戦闘機パイロットを見た。

 

 

「(あの…飛行機のパイロット、新一郎に似ている…あの少年が彼の弟さんなのね…)」

 

 

新一郎、幸吉機と救援に赴いた零戦の沖田進次郎と桜井洋介が次々と米軍機を撃墜する中、一時的に大和への航空攻撃を防いだ時、別の空域から米軍戦闘機が襲来。

 

 

「っ!?…そんな…そんなまさか……」

 

 

その中の編隊で、真霜は見覚えがある人物を目撃した。

 

米海軍戦闘機、グラマンF6Fヘルキャットのパイロット時代のトム・K・五十嵐、彼に似た兄、バッキー・S・五十嵐が新一郎の弟、進次郎に向けてロケット弾を発射、空戦に挑んだ。

 

 

「……トム君…そんな…」

 

 

 

この大和が戦う海でトムは進次郎との対決が始まったにも関わらず、攻防一体で決着が付き難い状況の頃。

 

 

 

「…今度こそ…今度こそ…あいつを落としてやる!!」

 

 

初陣のマリアナ海戦で戦闘機に搭乗し、トムの最後の空中戦が展開された。

 

 

 

トムは進次郎機の背後に取り付き、照準を入れた。

 

 

 

 

 

「これで、止めだ!!」  ドドドドドドドド

 

 

 

 

 

 

 

トムは機銃を放ち、進次郎機を掠めた。その影響で進次郎機のプロペラが止まり、海に向けて落下した。

 

 

 

 

 

「…やった…やったぞ!鷹のジークを墜とした!!」

 

 

 

 

 

 

 

トムは嬉しさの余り歓喜した。

 

 

 

ブルルルル

 

 

 

しかし、進次郎は殺されてはいなかった。トムの銃撃のタイミングで機体を滑らし、わざと掠めた時にエンジンを停止して海に落下した。

 

 

 

計器のスイッチを発動、プロペラが全力で回り始めた時を見計らって、操縦桿を手前に倒し上昇した。

 

 

 

 

 

 

 

グオオォン    ダダダダダダ

 

 

 

 

 

 

照準でトム機を捉え機銃を放ち、エンジン部と舵を被弾させ、機体が弱まったところで後ろに回り、機銃弾を浴びせ、トム機から火が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

「トム君…トム君…!!……ん…あぁ…ウィリアム……」

 

 

 

艦の甲板から見ていた真霜はトムを何度も呼び、心が届いたのかヘルキャットは水平に保ち、海上に墜落、すると一機のカタリナが墜落したヘルキャットの側に着水。

 

その機体を扱っていた人物こそ、ウィリアム・J・スパロウと、従軍看護婦のシャルロット・F・トラインだった。

 

ヘルキャットの操縦席から脱したトムは、ウィリアムのカタリナから投げ出された浮き輪に掴まり、救助された。

 

 

 

 

 

「トム君…よかった…よかった」

 

 

 

 

 

進次郎機はトムやウィリアムのカタリナの上空に飛来、旋回しながら敬礼し、大和が航行する海域に戻った。

 

その光景を目の当たりにした真霜はホッとし、無念を撫で下ろした。 

 

 

 

だが、その時点で数隻の艦艇が伍落、大和も次々と魚雷が命中、減速した影響で爆弾が命中、左の傾斜が激しく傾き掛けた。

 

 

 

 

 

「また、敵攻撃隊の来襲…!?」

 

  

 

 

 

新一郎・幸吉ペアは、進次郎と洋介に続き迎撃に向かった。

 

 

 

だが、数で圧倒的な敵攻撃部隊と対処が抑え切れず、大和が徐々に傾きかけていた。

 

 

「大和が…」

 

 

傾いた影響で乗組員は次第に海に投げ出され、真霜は宙に浮いていた。

 

大和がひっくり返り、その影響で大爆発。

 

 

 

巨大なキノコ雲が空を覆い、沈んだ海に重油が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14時23分、戦艦大和が沈没した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和が…大和が沈んでしまったのね……これが戦争…航空機による攻撃の脅威……ウィリアムさん…シャルロットちゃん…トム君…幸吉君……新一郎…」

 

 

 

不沈艦と謳われた大和が沈没。そして、これが新一郎たちが経験した、忌まわしい戦争を改めて知った真霜だった。

 

真霜は海戦で戦った男たちに涙を流し、手を合わせながら黙祷し、敬礼した。

 

 

 

「……うぅ…ぐるぅ……ああぁ~……」

 

 

 

真霜は急に腹部に激しい痛みを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀 ブルーマーメイド基地 

 

 

安全管理局と同様、基地内部は緊急で騒然としていた。

 

 

「ん……んん……はっ!?ここは…?」

 

 

ブルーマーメイドの一等監督官、宗谷真霜は魘され、医務室のベッドで目が覚め、緊急本部へ赴いた。

 

 

「宗谷監督官!」

 

 

「宗谷監督官、大丈夫ですか!?」

 

 

「え…えぇ…大丈夫よ、今入った報こ…」

 

 

「…姉ちゃん!!」

 

 

突如、妹の真冬が真霜の前に赴いた。

 

 

「姉ちゃん!いったいこれは何なんだよ!!」

 

 

「お、落ち着いてください真冬姐さん!」

 

 

「真冬艦長落ち着いてください!!」

 

 

真冬が真霜の胸ぐらをつかみすごい剣幕で攻めていたのを真冬の部下と平賀が抑えていた。

 

 

「姉ちゃん!なんだよこの晴風撃沈命令って!晴風にはシロが乗っているんだぞ!それだけじゃない!新一郎はどうなっているんだよ!あいつが保安局で逮捕されたってどうなっているんだ!!それに、トムは太平洋で逃亡、ウィル達も行方不明ってどういうことか説明しろ!!まさか、あいつらイーグルを見捨てて見殺しにするつもりじゃないだろうな!!」

 

 

「そんなわけないでしょ!!」

 

 

「「「 っ!? 」」」

 

 

今までにない大声でそう叫ぶ真霜に真冬たちは一瞬固まる

 

 

「そんなわけ…ないでしょ…私たちの妹と、大事な仲間と結婚する新一郎なのよ?見捨てるなんて絶対にないわ。それに私だってこんな事、認めたくないよ……それに……この子のためにも…」

 

 

「……真霜姉…ごめん…言い過ぎた………え…この子…?」

 

 

真冬も先の言葉に冷静になり真霜に謝る。

 

真霜はこの場にいる全員が晴風の反乱を否定しながら腹部を擦りつつも、真冬は姉の呟く言葉が気になった。

 

 

「私はどうしても晴風とウィリアムさん達カタリナが反乱したとは思ってないわ。だから私は晴風と新一郎たちの無実を証明したいわ」

 

 

「宗谷監督官。私たちも手伝います」

 

 

「あたしも手伝うぜ!!」

 

 

「みんな…ありがとう」

 

 

真霜は協力をしてくれる平賀や福内、真冬に礼を言う涙を流したかったが、今は、涙を流す時ではない。

 

 

「じゃまず、平賀と福内は、このまま明石と間宮と共に晴風及び、PBYカタリナ。そして、洋上に出現した飛行物体とパイロットの捜索を…上より先に晴風を抑えて…」

 

 

『はい』

 

 

「真霜姉、あたしは何をすれば…」

 

 

「真冬は、保安即応艦隊を率いて、晴風以外の行方不明の学生艦を捜索して、晴風が反乱したと同時に位置が不明なの、彼女らの安否が気がかりだわ!」

 

 

「カタリナと晴風以外の学生艦の捜索なんて、気が乗らねが、確かに真霜姉の言う通り、他の生徒の安否も気掛かりだ!!…分かったぜ真霜姉!!」

 

 

「じゃ、3人とも任せたわよ!!」

 

 

「「 はいっ!! 」」

 

 

「おぅっ!!」

 

 

 

 

 

「(この子の未来のために…戦争のない世界を作らないと…)」

 

 

 

 

真霜は腹部を擦りながら、未来の平和のために戦うことを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある無人島で、2機の飛行物体が座礁していた。

 

 

ある機体は零観に酷似、二枚羽で布と木製で造られ、二本のフロートを装備したオレンジ色の複葉機。

 

 

もう1機は胴体が太く濃いブルー、二本のフロートを装備した、国籍が星マークの戦闘機だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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