8月8日 ハワイ、オアフ島 イロクォイビーチ
「ママ!ここも鉄の網がなくなっているね!」
「ここのビーチに行くのは久し振りだね!」
ハワイの灯火管制が解禁されて1年、海岸に設置していた鉄条網が撤去された数ヶ月後にキャサリンとエミリーとエマは馬に騎乗して、笑いながらビーチを歩いていた。
「ねぇママ、パパはいつ帰ってくるかな?」
「そうねエマ……パパからの手紙で、もうすぐ戦争が終わる。その時にあたしたちはパパを迎えに行こうね」
「うん!」
「ねぇママ!パパが帰ってきたら、お馬に乗ってこのビーチに行こうね!」
「エミリー。そうね、パパたちと行きましょう!」
「ママ、お腹が空いた…ランチにしよう!」
エマの言葉に、キャサリンはポケットから懐中時計を確認した。
「ん……そうね、ランチの準備するから海で遊んで来なさい~」
「「 はーい! 」」
キャサリンの言うことを聞いたエミリーとエマは砂丘と海岸ではしゃいでいた。その中でキャサリンはランチを支度する時、空を見上げた。
「ふぅ、……ウィル……みんな………どうしているかしら………早く戦争が終わって……家族で平和に暮らしたいわ……」
「「 ママーっ! 」」
「……ん?」
キャサリンが双子の方に振り向くと、横たわっている黒い円柱の上にエミリーとエマが立っていた。
「…………あれは………っ!?」
双子が立っていた黒い円柱の正体は、真珠湾攻撃時の日本軍が投下した60キロ爆弾の不発弾だった。
「……エミリー、エマ!!そこから離れて!!」
「「 …え? 」」
ドガアアアアアアアァァァン
波打ち際に漂流物が爆弾の信管に当たり、大爆発を起こした。
イロクォイビーチにて、母親のキャサリンと双子のエマとエミリーが不発弾に接触、父親を残し、儚く散って逝った。
多くの軍人、民間人が犠牲を出した人類史上、最悪の第2次欧州、大東亜戦争が1945年、8月15日に終結、9月3日に正式に戦争が終結して半月。戦争で敗れた敗戦国日本。生き残った国民は焦土、荒廃した大地を彷徨い、着のみ着のままの暮らしで未来に絶望をしていた。その中、絶望する中でも幾人の国民は僅かな希望を抱き、祖国の復興を目指していた。
かつての敵であったアメリカ軍、1機の海軍双発水陸両用機、PBYカタリナが沖縄から九州へ向けて援助物資を運搬しながら哨戒飛行を行っていた。
9月17日 1345時 奄美大島上空ー
機長 ウィリアム・J・スパロウ
副機長 トム・K・五十嵐
電信=医療従事者 シャルロット・F・トライン
「スパロウ機長、トムさん。戦争が終結して半月……早いものですわね……」
「そうだなシャルロット、あの戦争で多くの仲間と僕たちの知人も散って逝った……」
「こらこら二人とも、口を動かすより手を動かせ。シャルロット、定期連絡!トム、周囲の確認!」
「「 了解! 」」
ウィリアムはサングラスを制帽のつばに載せて語った。
「二人はこの任務を終えたらどうする……?」
「わたくしはアメリカの医学校に戻り、赤十字のお医者様になったら故郷のパリを中心に傷付いた難民を助けたいですわ。」
「ほぉ、凄いなぁ」
「君なら出来るよ、シャルロット」
「いえ、ベルリンで戦死した友人との誓いです。トムさんと機長は…?」
「僕は、ハワイに戻ったら。飛行機の技術を活かして、兄貴とサトウキビ畑で耕すよ。機長は…?」
「私か、暫く日本の救援物資の運送に専念して、いつか愛機カタリナと世界の、七つの海を巡りたい。飛行探検家、ファントム・F・ハーロックの様に…それが、子供の頃からの夢だ。そして、眠る妻子に誓ってだ!」
ウィリアムの夢は、既に冒険飛行の時代が終わりを迎えているにも関わらず、妻キャサリンと双子のエミリとエマはあの戦争末期、ハワイの砂丘で日本軍の不発弾に触れて妻子ともども還らぬ人となった。
「……機長………、彼らも喜んでくれますよ。ロマンチックな……ん……んん?……?」
3人が将来を語る中、操縦ハンドルを握るトムが違和感を感じた。
「ん…?どうしたんだトム?」
「んん…それが……舵が訊きません」
「何っ!?」
「通信機に異常が」
「何だと!?」
カッアァ
「「「 ギャアあああぁぁー 」」」
落雷がカタリナに直撃してきりもみ落下した。
「……お父様……お母様……ステラ…アリシア……パウラ…マリー…ごめんなさい……」
「……兄ちゃん……ステラが待つ所へ往くよ……」
「……ランスロー……フィリップ…………キャサリン……………エミリー…………エマ……今逝くよ……」
ウィリアム、トム、シャルロットの3人は走馬灯を観た。そして、3人が搭乗したPBY-5Aカタリナは枕崎台風により行方不明に記録された。
そして、ある神のイタズラで、ある海洋の世界へ転移されたのであった。