西暦2006年
横須賀市、諏訪大神社
「ましろ!…走ると転ぶぞ…!」
「大丈夫だよ…おか~さん、おね~ちゃん、早く…!」
長女の宗谷真霜は、横須賀女子海洋学校の学生で、卒業後は母親の宗谷真雪は現役のブルーマーメイドで、真雪の後を追ってブルーマーメイドへ歩むつもりであった。
次女の真冬は中学生だが、まだ中学卒業後の進路は決めておらず、そして、三女のましろは小学生であった。
そんな過去の彼女は、親子水入らずで諏訪大神社の石段を駆け上っていた。
ましろが先に石段に登り、後ろを振り向くと真雪と真霜、真冬の3人が石段を登って来る。
「昔は、横須賀の街もここみたいに陸地が多かったんでしょう?…お母さん」
真雪の隣を歩く真霜は、昔の横須賀の街並みを尋ねる。
「ええ、学校で習ったと思うけど、日露戦争の後メタンハイドレードの採掘を機に日本は地盤沈下を始めた…水没した都市部に巨大フロート艦を建造してフロート都市に変わって海上開発が進んだ。」
「それで日本は海洋大国になったんでしょ…軍事用に建造された多くの船が民間用に転用されたけど、戦争に使わないという象徴として…艦長は女性が務める様になったんだよね。」
「それが、ブルーマーメイドの始まり…だよね真霜姉?」
「そしてその第一号が‥‥」
「あなた達の曾お婆様よ。それから代々宗谷家の女性はブルーマーメイドになっているの。お母さんもね」
真雪は歩きながら宗谷家の成り立ちを語る。それから4人は石段を上がり、裏山の山頂に着いて真雪がある事を告げる。
「でもお母さんは次が最後の航海になるの」
「「「 えっ!? 」」」
告げた言葉が、最後の引退だった。その発言にましろを始めとして、真霜と真冬も驚き、唖然とした表情で母、真雪を見る。
「これからお母さん、ブルーマーメイドの先生になるの。こんな広い海のように豊かで清々しい海に生きる女の子を育てていくのよ…」
真雪は諏訪神社の裏山の山頂から見える海を見つめながら現役を退いた後の事を娘達に語る。
「私…そんな女の子になりたい!」
「お母さんが先生になる学校に入る!」
真雪の言葉に真霜は自身の将来を宣告して、次女の真冬も横須賀女子海洋学校に入学すると心に決めた。
そしてー
「わたしも!!…わたしもはいる!!」
三女のましろも小学生でありながら、真冬と同じ横須賀女子海洋学校を目指す。
「…楽しみにしているわ」
そう言って真雪は自分が被っていたブルーマーメイドの制帽をましろに被せ、ましろは恥ずかしそうな表情をする。その時ー
「あっ!?」
「…!?…」
突然、凄まじい爆音で風を切るような速度を出していた濃緑でフロートを付けていた正体不明の飛行物体が飛来、ましろが被っていた帽子が飛んでいき、真雪の帽子は正体不明の飛行物体と空の彼方に飛んでいき、消えた。
「あ、あああ……!!」
「…なぁ…なんだよあれ…?…お母さん、真霜姉…」
「分からないわ…私も初めて見るわ…空飛ぶ物体……」
真霜の表情は何処と無く、笑みを浮かべながら輝いていた。
「(…あれが将来の…この海が守れるわ…)」
その飛行物体を見て、未来のための革新を思うのであった。
それから10年後、2016年1月某日 呉 ー
「………ふぅ、やっと書類が終わった…」
宗谷真霜はブルーマーメイド安全監督室情報調査室長/一等監保安督官の現最高責任者となった。
日が沈んで夜になったところに監督室のデスクから一本の電話が架かってきた。
「……はい、こちら宗谷保安監督……お母さん…!」
「『真霜、監督官のお勤めお疲れさま。』」
「…横女の校長を務めているお母さん程じゃないわ…ましろはどう?」
「横須賀女子海洋学校の入試で猛勉強しているわ。」
「そうなんだ~♪あの娘は横女受かるといいねぇ~」
「うふふ、そうね。それに真冬も相変わらずだけど、真霜はいい年だから、いい男性を見つけなさいよ。結婚して、孫の顔が見たいわ~♪」
「…っ!///よ、余計なお世話です!わたしは忙しいし、明後日にわたしは横須賀に帰るから切るね!」
真霜は赤面しながら電話を切り、受話器を戻した。
「…男性ねぇ…」
横須賀に出現した正体不明の飛行物体を目撃して以来、彼女自ら調査を行ってきたが、未だに調査はほとんどゼロ。
時間だけが過ぎる中で、真霜の監督室の窓の片方が開いた。
「…あれ…?風が吹いていないのに窓が…きゃっ!?」
真霜が窓を閉めようと近づいた時に一羽の鳶が室内に入ってきて。応接のテーブルに着地した。
「…なんだ…鳶か...!きゃあぁっ…」
鳶が窓から飛び立って、窓の外の夜をぐるぐる回っていた。
「(…おかしな鳶ね……え…あれは…?)」
真霜が月を照らす夜空には異形な飛行船の大群が飛行していた。双眼鏡で覗くと、胴体の中央下部部分に爆弾が搭載され、いつでも攻撃態勢を整えていた。
「……大変っ!非常事態だわっ!」
真霜はブルーマーメイド入隊以来、非常事態になりつつも、冷静に非常ベルを鳴らそうとした時、窓の外を翔んでいた鳶が目付きを変え、たった一羽のみ飛行船の大群へ向かっていた。
「駄目よ!…たった一羽でできな…え……?」
鳶は姿形を変えた背中に別の翼が生え、嘴にはスクリューと似て非なる羽が生え、高速に回転する。
真霜からしては、見たことがない飛行物体に変形し、嘴から火を吹き、次々と飛行船を落としながら飛行。飛行船を殲滅した後、飛行物体は再び真霜の監督室の窓付近に飛行し、物体の背中に人が居座りながら、真霜に敬礼した。
「あぁっ…ちょっと待って…待って……!!(……はっ………)」
気が付くと、真霜は監督室のデスクで横たわっていた。
「夢か……奇妙な夢だったなぁ…」
真霜は立ち上がり、監督室の窓から呉の景色を見渡した。
「また、いつもの平和な日常が始まるなぁ~…」
東の空から太陽が昇っていると同時に、身体を伸ばしている時だった。
カッ
「…!?今の閃光…?…あれは…」
空から二枚羽根の正体不明の飛行物体が飛来、その物体が真霜の監督室の近辺まで飛来して呉の海に着水した。
「大変っ!!」
真霜は沈着にブルーマーメイドに出動を要請、彼女自ら正体不明飛行物体の現場に赴いた。
調査に向かったのは、インディペンデンス級沿海戦闘艦『みくら』が出動、艦橋には宗谷真霜とネコミミを模したヘッドセットを装着した女性艦長である福内典子と同僚の平賀倫子が不明飛行物体が着水して座礁した現場に赴いた。
「あれが宗谷監督官が横女時代に目撃した…正体不明飛行物体……」
あの日、宗谷親子三姉妹が目撃した正体不明飛行物体は海洋安全整備局の耳にも入っており、一部の役員にしか知らされていない最重要機密になっているのであった。
「急いでこの物体の回収を急いで!」
「「 はいっ!! 」」
「大変です!今確認したところ、この物体に二人の男性が乗っています!」
「何ですって!?」
『みくら』からブルーマーメイドの隊員が出動、二人の搭乗者が気絶していたため、医務室に運ばれた。
医務室ー
「二人の搭乗者の状況は…?」
「あっ宗谷監督官!男性搭乗者は気絶しているから大事には至らないです。年齢の推定は一人が高校生、もう一人は20代前半です!それに二人はいい男です!///」
「そう、…よかった…それに余計なことはいいの!」
みくら、飛行船発着甲板。飛行物体の回収後に機体の確認及び搭乗者の所持物を平賀が確認した。
「この濃緑の物体…胴体に名称が……零式水上観測機……?」
「平賀さーん!」
「あっ、監督官!」
「この物体でなにかわかったかしら…?」
「はい、簡素に確認したところ…物体の上下に大きな二枚羽、胴体の名称が零式水上観測機。武装はエンジンの上部に機銃2挺、後部座席に機銃1挺、そして所持物には短剣2、拳銃3挺、ジュラルミン製の折り畳みの弓矢、サングラスそして軍隊手帳です。」
「軍隊手帳ですって!?この二人は何者でわかった事は…?」
「それが…おかしな記述ですが…」
「……1945年……え……?」
その手帳の内容文で宗谷真霜の顔が真っ青に豹変した。
「……う……ん…ここは……?」
沖田新一郎は、何か光が刺さったと思い、うっすらと瞼を開けた。
「ここは病室か……どうやら生きているな…………」
「新一郎さん……よかった……目が覚めて…」
「…幸吉……」
新一郎の隣のベッドには傷病衣服を着た金城幸吉が横たわっていた。
暫くすると、病室の扉が開けられ、3人の白い制服の女性が入室した。。
「目が覚めたかしら?」
「…?…看護婦さん…ですか…?」
「うふふ、白衣の天使じゃなくてごめんなさいね」
新一郎は一人の長い黒髪で麗しい女性を見とれており、幸吉はなぜ一人だけ頭部にネコミミの飾りがあるのか気になっていた。
「えっと……あなたたちは…?」
「ここはどこですか…?…もしかして、…命令違反したオラたちが海軍刑務所へ…?」
「安心してください、ここは海洋安全整備局の管轄の呉病院です。私がブルーマーメイドの一等監督官の宗谷真霜です。」
「同じくブルーマーメイドの福内典子です」
「同じく平賀倫子です。早速で悪いけど、あなたたちの事情聴取してもいいかしら?」
「え…あ、はい……ブルーマーメイド…?……なんじゃそりゃ…?…本土決戦に向けての女子特別挺身部隊か…?」
新一郎は真霜たちが述べた所属の言葉に引っ掛かっていた。
そして真霜たちも、小学生ですら知っているブルーマーメイドを存じていないのが疑問に感じた。
「特別艇身?…本土決戦って…なに…?」
「じゃあ早速だけど、あなたから生年と名前を聞かせてちょうだい。」
平賀倫子の質問に先に新一郎が答えた。
「沖田新一郎、大正9年(1920年)11月22日、24歳。高知の四万十村出身。日本海軍大尉、鹿屋基地の所属パイロットです!」
「同じく金城幸吉、昭和2年(1928年)4月30日、17歳。北海道の小樽アイヌ村出身。日本海軍の一等飛行兵曹、観測機の電信員です!」
「「「 ……え? 」」」
新一郎と幸吉は素直に述べたが、3人は目を丸くする。そこへ福内から質問があった。
「どうしたんですか…?」
「あの…沖田新一郎さん、金城幸吉さん?生年と出身もそうだけど、大日本帝国海軍は1945年に解体されているわよ」
「なにっ!?………解体…?…くそっ…日本が…負けたんだ…」
「…戦争が……終結したんですね…」
二人は戦争終結で愕然とした。ところがー
「戦争って…なにと戦争をしていたの?日本は日露戦争以来、どこの国と戦争はしていないわよ…」
「…戦争が無い…?…そんな……馬鹿な…」
「そう言えば宗谷さん、福内さん、長崎に落とされた特殊爆弾は…?…ロシアの参戦はどうなったんだ!?」
「ちょっと、沖田さん落ち着いて下さい!」
真霜が新一郎を抑えながら目を細め、何やら怪しむ様に見ていた。二人は真実を伝えても戯れ言は一切言っていない。
彼女たちも半信半疑の表情を浮かべていた。福内と平賀は会話に食い違いだらけでついていかず唖然としていた表情をしていた。
そして、平賀が質問の内容を変え、タブレットを動かした。
「あの…沖田さん、金城さん、あなたたちが乗ってきた物体って…なんですか…?」
二人にタブレットに写った零観をみせた。だがー
「なんだ…?…この板の機械は…?」
「新一郎さん!写っている零観が天然装飾に写っていますよ!!」
「なんて…奇天烈な…」
新一郎は真霜たちが扱うタブレットは未知なる道具であった。
「あの…あなたたち、二人が搭乗していた…この物体は…?」
「あぁ、これは零観です。」
「零観?」
「えぇ、正式名は零式水上観測機。敵艦隊上空の艦砲射撃の砲撃支援や敵地の偵察任務をやりこなす水上機です。」
「……観測機……?水上機……?それは一体どういうものなの………?」
「ん?どういうものって…航空機の一種で…上空で情報伝達するために作られた機種です。」
「なるほど……それで、航空機とはどういうものなの…?」
「え?……ちょっと待って下さい!航空機を知らないんですか!?」
「えぇ、初めて聞いたわ…あなた達こそ……タブレットも……知らないなんて…」
「(まてよ…なにかの本で読んだことがある…)」
幸吉は驚愕していた。彼らがまだ小学生ですら知っている航空機という機種は存じていなかった。
新一郎はふと、あることを考える仮説を創造する。
「…俺たちは、長崎の特殊爆弾の爆発で生き延びた訳じゃない!!…その影響で別の世界に飛ばされたんだ!!」
新一郎は昔読んだSF小説を読んだことを思い出した。
パラレルワールド。
それは、ある世界から分岐して、それに並行して存在する別の世界を指す。
並行世界、並行宇宙、並行時空とも言われている。新一郎と幸吉はパラレルワールドの世界に飛ばされたのだった。