【完結】皇帝(おとめ)は姫(おれ)に恋してる 作:霧風弦十六
最終話、どうぞご覧ください。
「ルドルフ、これなんかどう? 似合うと思うよ。ペンダントくらいなら校則の範囲内でしょ」
「ふむ……だが綾羅錦繍、少しばかり派手ではないか? 私のイメージからすると、あっちのような落ち着いたものがよさそうだとは思う」
「わかってないなぁ、ギャップってやつだよルドルフ。普段あんなに真面目な生徒会長サマが、少しだけおしゃれなアクセサリーを……ってのはポイント高いよ?」
女は3人集まれば……などというが、それは間違いだと言わせてもらおう。二人集まればすでにかしましい。
いやまあ俺は女ではないが。女ではないのだが、実質的に女としてカウントしてもいいだろう。現にこれだけ盛り上がってるのだし。
「エアグルーヴも驚くでしょ、これなら。『か、会長!? その、アクセサリーは……』って目を丸くしながら言うのが想像できるよ」
「ふふっ、今のはエアグルーヴのモノマネかい? なかなか似ているじゃないか、トレーナーくん」
はぁ、やっと笑ったか。今日のルドルフはとにかく表情が堅かった。朝はこんなことなかったのにな。
「で、どう? 私は悪くないと思うんだけど」
「これは……無しだね。それこそトレーナーくんのほうが似合うと思うが」
「あー、うーん……どうだろう。色合いがね、少しダメかも」
うん、これはない。どちらかというと落ち着いた雰囲気の俺には、いささか派手過ぎる。
落ち着いたのも派手なのも似合うルドルフなら、こんな感じのやつでもいけると思ったんだけどなぁ。
「そんなことはないさ。それこそ『ギャップ』がよいアクセントになると思うよ。ネックレスがあんまりならば、こっちの髪飾りなんかはどうかな」
「ええ……これは、その……」
そう言ってルドルフが俺の頭に、透き通るような色をした髪飾りを乗せてくる。
うーん、しっかりキメてる時ならいいんだけど、普段着にこれは……過剰というか……派手というか……
「ルドルフ、これウマ娘用じゃない……? 色合いとかは落ち着いてるけどさ、デザインが……」
「だろうね。ティアラなんて普段使いするのはウマ娘くらいだろう。とはいえ、トレーナーくんなら似合うと思うんだが」
「いやいやいや……」
「謙遜することはないよ。今似合ってないように見えるのも、お忍び用の服だからさ。私としては、是非ともつけてもらいたいんだけどね」
なんかルドルフが急に強引になった。
静かに怒ったり、落ち込んだり、かと思えば強引になったり……実に落ち着きがない皇帝サマだ。
はぁ、どうするかな。
「ルドルフがそこまで言うならば買ってもいいけど……」
「ああ、是非そうしよう。支払いは私がしておくよ」
「えっ。さすがにそれは」
「なん、かわいらしい彼女へのプレゼント……と思ってくれ。仙姿玉質、可憐な姫への献上品さ」
そう言ってこちらにウィンクをすると、そのままティアラをレジへと持って行ってしまう。
まあさすがに普段からつけて欲しい、なんて言わない……よな?
「それじゃあ次に行こうか。トレーナーくんのことだ、この後のプランも立ててあるのだろう?」
「ん、まあね。とはいっても簡単なのだけど」
スマホを開いていくつか確認する。
よし、こことここと……
「決まった! いくわよルドルフ!」
「仰せの通りに、姫」
デートプラン、というのは案外難しいものだ。
まず自分と相手、二人の趣味を把握していないといけない。
次に、それっぽい店を探さないといけない。
そして最後に、それをどの順番で回るかを考えなくてはならない。
頭の中で即席で練り上げたプランを元に、ルドルフをエスコートする。
「で、ここが目をつけてたお店なんだけど……」
「定休日、みたいだね」
「えええ……」
まさかこんな形でプランをおシャカにされるとは。
スマートフォンのマップアプリとにらめっこしながら、次なる店を探す。
そうしていると、横から声がかかった。
「トレーナーくん、せっかくだから私が知っているお店でどうかな? トレーナーくんがよければ、だけど」
「本当に? じゃあルドルフにお願いしようかな」
「ああ、そうしよう。ふふ、こうしていると、初めてのデートを思い出すね」
そういえばあの時もルドルフのエスコートでディナーに向かったのだった。
そこまで昔のことではないはずなのに、遠い昔のことの用に思えてしまう。
「そうだね。ねぇ、ルドルフ」
「ん、なんだい」
どうして機嫌が悪かったの、とは聞けなかった。それを聞いてしまうのは、ルドルフに悪いと思った……いや、自分をごまかすのはよそう。『自分に原因があるとわかった時、どうしていいのかわからなかったから』だ。
自分が情けなくて、本心を出すことができないのがみっともなくて、それをごまかすようにルドルフの手を握ってしまう。
「あっ……」
「ふふ、甘えん坊じゃないか、トレーナーくん。こうしたかったのかい? せっかくだ、指も絡めてあげよう」
「る、ルドルフ……その、はずかしい、んだけど……」
「いつもしてることだろう? 遠慮しなくていいさ」
指同士を絡め、恋人でなければしないような握り方。そっとルドルフが、俺の手を握り返してきた。
ルドルフの細い指が、俺の手を、指を優しく撫でる。
しっかりと切りそろえられた爪が、心地のよい感覚を手へと伝えてきた。
「随分とウブな反応だね。ここ最近はそういったトレーナーくんを見れてなかったから、実に新鮮だ。ああ、本当に食べてしまいたいくらいだよ」
「ルドルフっ!」
「ごめんごめん。さて、そろそろだと思うんだけどね」
全く、このウマ娘は……気を抜くとこうやってごまかそうとしてくるのが、ルドルフの悪い癖だ。この前だってエアグルーヴに仕事時間を問い詰められて、面白くもないジョークでごまかそうとしてたし……
他人に対しては誠実なのに、なんでこうも自分のことになると無理をするのか。
「さあ、トレーナーくん。今日のランチはここにしようか」
「えっ」
ルドルフに連れてこられた場所。それはどう見てもチェーン店のカラオケボックスだった。
あの、シンボリルドルフさん?
「おや、トレーナーくんはこういうのは嫌いだったのかい? 私が歌っているところを心地よさそうに眺めているから、てっきり好きなのだと思っていたのだが」
「それは好きだけど……ランチ?」
「最近のカラオケボックスは食事も充実しているらしいよ。後輩の受け売りだけどね」
「まあ、それならひとまず入るだけ入ってみましょうか」
受付を済ませ、案内された部屋へ入る。
二人で使うには少々広いのではないか、とも思える大きさの部屋。というか簡単なステージまであるのには驚いた。
とはいえ問題は設備ではない。部屋に備え付けられたメニューを手に取り、中を確認する。
「どうだい、トレーナーくん」
「……どれにしようかしら」
中を見て不安はすべて吹き飛ぶこととなる。
軽食からデザート、果ては定食までそろっていた。ファミレスよりもメニューが充実してるんじゃないだろうか。
「そんなにかい? どれ……ほう、これはすごいね。ランチもあるじゃないか。チーズハンバーグ目玉焼きランチ、魅力的だね……」
「好きだよねぇ、ルドルフ。意外と食の好みが子供っぽいんだから」
「そんなことはないと思うが。ほら、佃煮とかも好きだろう?」
「……今度、フライ数種類にハンバーグ、オムライスに追加でプリンアラモードを盛り付けた、特性ランチプレートでも作ろうと思ってたんだけど……」
「そ、それはっ……!」
ルドルフが目を輝かせながら、耳をピンと立てて尻尾をぶんぶん振る。かわいい。
「でもこれ、『お子様ランチ』を参考にしたやつだから、大人なルドルフには不要かな……」
「ひ、卑怯だぞトレーナーくん! 私の好きなものを全部乗せたランチプレートなんて!」
「はいはい。で、作って欲しいの?」
「もちろんじゃないか!」
全く、ああやって大人っぽく振る舞ってても根っこはまだまだ子供だ。こういう風なところを見せられると、普段とのギャップも合わさって心の奥が揺さぶられる。
抱きしめて、耳をわしゃわしゃしながら、頭をよしよししてやりたい気持ちが湧き上がってくる。
母性、とでも言えばよいのだろうか。男なのに母性とは少しばかり奇妙ではあるが。
「ルドルフ、私の前でくらいは大人ぶらなくてもいいのよ?」
「そんな、ことはしてないが……」
強情な皇帝サマだ。
適当に数品頼み、料理が届くのを待つ。そんな時視界の端に写ったのは、1本のマイク。
ふむ。
「ねぇルドルフ、一曲歌ってよ。なんでもいいからさ」
「……わかった」
ムスっとした表情のまま、電子端末に曲名を打ち込んでいくルドルフ。
それが終わるとステージへと……向かわずに俺の前までやってきた。どうした……?
「じゃあ始めようか」
ルドルフがそう告げたのと同時に、カラオケ機器から音が流れ出す。
……聞き覚えがないな。ルドルフが歌うような、いわゆる『ライブ用の曲』ならほぼすべて把握してるんだが。
「ルドルフ、これって」
ルドルフからの返答は、熱い視線と歌の歌詞によってなされた。
男が女への愛を囁く、熱烈なラブソング。それが、俺一人へと向けられている。
「その、そんなに見つめるのは、あの……」
恥ずかしくなって思わず顔を反らす。
そんなことはさせない、とばかりにルドルフの指がこちらの顎をつかんだ。そのままゆっくりと、前を向かせられる。
再び、ルドルフと視線が合う。
「や、だ……そんなに、見つめるのは……」
そのまま一曲分、ルドルフと見つめ合ったまま時間は過ぎる。
「さて、どうだったかなトレーナーくん」
「恥ずかし、かった……」
一曲歌い終えた達成感からだろうか。ルドルフは少しすっきりとした顔で、取ってきたドリンクを口にする。
それと同時、料理を持ってきた店員が扉を開けた。
「さて、食事にするとしようか。なかなか美味しそうじゃないか」
料理はすぐに胃袋の中へと収まり、皿の上から姿を消した。
満足そうな顔をしたルドルフに向かって、俺はゆっくりと口を開いた。問いかけるならば、このタイミングしかないと思ったのだ。
「ルドルフ。今日はとても機嫌が悪そうだったけど、どうしたの」
「……ごまかせないか。こうして思いっきり迫ってみて、うやむやにしようと思ったんだが」
「そんなことできるはずないでしょ。ねぇ、話してよルドルフ。私は、あなたの『彼女』なんだから」
その言葉を聞いたルドルフは、じっとなんかを考え込むように目を閉じる。
どれくらいそうしていただろうか。決心したように目を開くと、ルドルフは俺の手を取った。
「トレーナーくん、散歩をしよう。大して歌ってないのに退店するのは名残惜しいかもしれないが、付き合ってくれないか? 大切な話がある」
「ルドルフがそういうなら」
ルドルフに連れられてやってきたのは思い出深いあの場所。ルドルフからの告白を受け、彼女を受け入れたあの場所だった。
並んで海を見ながら、ルドルフに寄り添うように体を預ける。
「ルドルフ、話っていうのは……?」
「そうだね、なんから話せばいいだろうか。まあ簡単にいえば、『怖くなってしまった』んだ私は。ふふ、皇帝が聞いて呆れるだろう?」
「怖くなった……?」
ルドルフが小さくブルリと体を震わせる。
「私はトレーナーくんを守るために、キミにそんな格好をさせることを提案した。だがそう思っていたのは、始めだけだったんだ」
「えっと、じゃあなんで……」
「簡単な話さ。キミに一目惚れした。あの時、女装したキミを見て、心の底から惚れてしまったんだ。我慢が、できなかった」
「……それで私に女装を?」
「ああ。もちろんキミを守る手段としても有効だとわかっていたからね。一石二鳥というやつさ」
まさかそんな意図があったとは……いや確かにルドルフの俺を見る目に違和感を感じることはあった。だがしかし、ここまでとは。
「同棲も、偽装カップルも。全部全部、実益そして私の欲望を同時に満たすためのものだ。すまなかった、トレーナーくん……」
「まあ、それはいいわよ。なんだかんだ楽しいし。でもそれだけじゃないでしょ? それがルドルフの機嫌が悪くなるのにどうつながるの?」
俺のその言葉に、今までよりもさらにバツの悪そうな顔をして言葉を濁すルドルフ。
だがここまで来て話さないで終わるなんてあり得ないだろう? ルドルフの手を優しく包むようにして握り、じっと目を見る。
「ルドルフ、お願い。話して?」
「……その、トレーナーくんが離れていってしまうのではないかと、心配だった」
「は?」
えっ、いやちょっと待って? それが理由?
思い返してみれば、ルドルフが機嫌が悪くなるのは決まって『俺が他のウマ娘と親しげにしているとき』だった。
えっ、ええ……
「じゃあその、嫉妬……してたってこと?」
「嫉妬とは少し違うかもしれない。その、私たちはなし崩し的にカップルになっただろう?」
ルドルフの言う通りだ。偽装カップルから始まり、気づけば付き合うことになっていた。
「もしかするとトレーナーくんは、雰囲気に流されただけで、本当は私とこういう関係になる気はなかったのではないか、とね。そう、思ってしまうんだ……」
そう吐露するルドルフの姿は、妙に小さく見えた。
俺の中のなんかが、優しくくすぐられるような感覚を味わう。
「ルドルフ」
「なんだい、トレーナーく、んっ!?」
彼女の両頬に優しく手を添え、唇と唇を重ねた。
突然の行為に、ルドルフが目を丸くしているのがわかる。ああ、本当にかわいいなぁ、私の皇帝サマは。
長いようで短いキスを終え、再びルドルフの顔を見る。
「まさかルドルフがそんなことを考えてるだなんてね。全く、嫌なら同居なんてしないし、偽装カップルも拒否するに決まってるじゃない。まさか義務感だけでここまでやったと思ってた?」
「その、トレーナーくんは責任感の強いほうだと思っていたからね……」
「責任感があってもそこまではしないってば。はぁ、本当に……」
呆れた。本当に呆れた。
これだけ悩んでたのに、まさかそんな理由だっただなんて!
そんな俺に気づいたのだろう。ルドルフは意を決したように俺に向き直る。
息を吸って、吐く。そしていつも通りのイケメン顔で、俺を抱きしめる。さらにはこちらに耳元に口を寄せ、優しく囁くように語りかけてきた。
「トレーナーくん、知っているかい? 皇帝の妻というのは『姫』ではないんだよ」
「なん、を」
先ほどまでの少しばかりウブな様子はどこへやら。覚悟を決めた女は、ウマ娘は強いと昔から言うが……ここまでなのか?
ルドルフの声に背筋がゾクゾクと震え、心の中の『女』がトキメキを感じてしまう。
「キミを姫のままではいさせない。この意味、もちろんわかるね?」
「ひゃ、ひゃいっ……」
ああ、これダメだ。こんなこと、耳元で囁かれたらダメになるに決まっている。
前々から姫扱いが嫌いだった。恥ずかしいし、何より『皇帝と釣り合うのは姫ではない』から。
ルドルフの口がこちらの口を塞ぎ、先ほどよりも長く深いキスが始まる。
この日、俺たちは本当の意味で対等に、そして恋人同士になれたのだろう。
俺たち二人を、青空だけが祝福していた。
***
フラッシュが瞬く。いくつものレンズが俺たちを見つめ、余すことなく記録していく。
「しかしここまでとはな。シンボリルドルフとそのトレーナー、まさしく驚異だ」
「ああ。話題だけのウマ娘や見た目だけのトレーナーなんて言ってたやつらはみんな手のひらを返すことになったな」
「当たり前だろ? 前人未踏の七冠だ。取材のためなら靴くらいは舐めるってやつは多いんじゃないか?」
「だろうな。俺だって独占取材できるなら靴でもなんでも舐めるよ」
記者たちの会話が漏れ聞こえてくる。その中に、悪意のあるものはない。
「しっかし美女同士のカップルか。URAも考えたよなぁ。グッズとか写真集とかの売り上げもすごいんだろ?」
「らしいぞ。トレーナーとウマ娘のペア売り、増えるんだろうなぁ」
「ここ最近は停滞気味だったからな。マルゼンスキー、ミスターシービー、シンボリルドルフ……強豪ウマ娘の登場も相まって、これからは大きく動くだろうな」
通路を歩き、用意されたステージへと二人で向かう。
もう何度着たかもわからないドレス。すでに足を取られ、歩みを止めるようなミスはしない。
「ふふ、大人気だねトレーナーくん」
「ルドルフこそ。みんな私たちを、私たちだけを見ているのよ」
皇帝は自らを支える杖と出会い、その杖は姫になった。
そして姫は伴侶となり、皇帝の隣に立つにふさわしい者にまで成長したのだった。
だが同時に、未熟であった皇帝もまた、杖と供に成長し、愛を育んだのだ。
「さあ行きましょうかルドルフ。みんなに伝えてあげないと。まだ私たちの行程は終わってないって」
「そうするとしよう。皇帝の行程……ふふっ、どうだろうか?」
「やめたほうがいいよそれ……あんまり面白くないかも……」
「うっ、ならやめておこう」
皇帝とその伴侶の旅路は続く。
二人の歩む先には、真っ赤な絨毯が敷かれているのだった。
8話、約55000字という期間お付き合いいただきありがとうございました。
この話は元々夏コミ用に書いた作品でした。ですが、健全二次創作本は初めてだったので塩梅がわからず、『とりあえずハーメルンに全文投稿して反応見るか……』の精神の元に投稿しました。
という訳でもしかしたら夏コミで改稿・加筆修正等をして本にするかもしれません!!
まああくまで記念品的なものとして、少部数だけ刷ろうかなと思っています。
そんな訳で投稿されたこの作品、本当にご覧くださってありがとうございます!
作者のTwitterもよろしくね……