バッドエンドから逃げるために   作:落ち着けおさかな

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おそらく次回は別キャラ視点です。


刹那主義者 そして自主訓練

 廊下の端で思い思いに話す同じ制服姿の生徒を横目に足を進める。

彼女たち視線が私に刺さる。いや、私というより、私の腕についている【赤いリボン】にだろう。

新入生であり、訓練生であることを表す赤いリボンを付けた生徒。それを先輩たちが奇妙そうな目で見ているのは、向かっている場所が訓練場だからだ。新入生が初日に来るような場所ではないのだから無理もない。

 

 この施設には大きく分けて三つの設備が整っている。

一つは校舎。先ほどまでいた真っ白な校舎はこの学園内で最も歴史の浅い建造物であり、私たち部隊員が中心に動くことになる拠点である。その役目は先述したとおりだが、部隊運用のために必要な設備の揃った基地のような役割だ。私たちの知識の補完や主な指揮系統はここに集っており、ゲームでは武器や装備を扱う売店もここに存在した。

 

もう一つは学寮。私たちが休むことのできる唯一の場所であり、主に二人一組の部屋を割り当てられる。ゲーム内では主人公が対象を部屋に呼んで仲を深めるイベントや、ちょっと言えない素晴らしいイベントなんてものもあった。一部特殊な理由で専用の部屋を割り当てられることもあり、そういったキャラクターは決まって面倒くさい性格をしているなんてもとの世界の掲示板では言われていた記憶がある。かく言う私も専用の部屋を割り当てられている身ではあるが、少なくとも面倒な性格をしているとは思えないので所詮は掲示板の噂程度の話だったのだろう。

 

そして最後の一つ。私が今向かっている先にある設備は訓練場。入隊式の行われた室内運動場と同じ構造の建物であるこの建物は他の建造物とは大きく異なる役目を持っている。

それは疑似的に敵を再現した機械人形の有無。

【黒渦】の動きを真似ることのできる訓練用の機械人形である【くろまる】君が数機配備されているのは現在この学園のみだろう。少なくともゲーム内では他の場所にも存在するなんて言う話も上がっていなかったし、そもそも【黒渦】に対抗できる存在である私たち以外が扱ったとしても資材の無駄でしかない。大型のトラクター程度のサイズゆえに対人での使用程度はできるだろうが、そもそも人が争っている場合でもないためその用途で使う人間はいないだろう。

 

「ちょっとキミ」

 

後ろから話しかけられ足を止めた。

その姿を見て最初に目に入ったのは漆黒の髪。光を吸収してしまいそうなほど黒い髪は、まったく整えられていないのかぼさぼさで乱雑に伸びてしまっている。そんな髪を揺らしながらこちらを見てくる少女を、特徴的故にすぐに思い出すことが出来た。

 

「先輩か」

「そうだね、ボクはキミからすれば先輩にあたるだろう」

 

何の用かと、そう聞きたくなる口を閉じて目の前にいる少女を見る。

正直、あまり関わりたい人物ではないと舌打ちしたくなる。

【青いリボン】を付けたこの人物は148部隊に所属している先輩の一人___スミレと呼ばれる人物を私はどうも好きにはなれなかった。楽しい思い出を大事にする思想、刹那主義者と呼ばれる彼女は何事もなければ共に楽しい思い出を作るのもありだったのかもしれないが、今はその彼女が大きな障害になる。今を楽しむその思考は未来のために今を犠牲にする私の思想とは真逆を行くもの。私たちが相いれない存在なのは関わる前から分かることであり、だからこそ私は関わらないようにしなければならなかった。

 

「用がないなら行く」

 

だが、運命のいたずらか出会ってしまった。少しでもかかわりを減らそうと、そう言って身体を反転させて進もうとして腕を掴まれる。

 

「なに」

 

少し、キレそうになる心を抑えて後ろを見れば、スミレが私の腕をつかんで移動を阻害しているのが見えた。

 

「いやなに、新入生がこんなに早く訓練場に行くのは珍しいと思ってね。少し、ボクと話をしていかないかい?」

「断る」

 

そう言ってウィンクをする彼女の姿はとても絵になるものだ。ファンからすれば黄色い悲鳴でもあげるであろうその姿は、私にとっては邪魔でしかない。しかし即座に断るとは思っていなかったようで、唖然としたのち信じられないような表情でこちらを見てくる。その姿はきっと本編でも珍しい表情だっただろうが、すまない。私の推しはサクラだけだ。

 

忙しい表情筋は最後に真剣な顔で止まり、私に一言疑問を投げかける。

 

「キミは死にたいのかい?」

 

と。一瞬、私は彼女が何を言ったのかと脳が理解を拒んだ。

私は死にたくない。それは生物として当然の思考だと思う。そして私は死にたくないから、今を足掻いている。そんな人間に死にたいのかと聞く彼女の思考が、まったくもって理解できなかった。

 

「キミがなぜ訓練場に行くのかは知らないけど、その先はまだキミのような子が行く場所じゃないんだ。今を、まだ楽しんでいてほしい」

 

そう言う彼女の瞳は何処か濁っている。

それは精神を疲労したからか、それとも真実を見た代償か。

だが、だからこそ、私は先に進まなければならないのだと思う。そんな状況でも人の心配をすることのできる人をこれ以上不幸にしないために。

人は極限状態に陥ると他のものを犠牲にしてでも生き残ろうとする。それは絶対ではないが、多くの人間がその行動を起こすのは間違いないだろう。私だって、そうはならないと胸を張って言えるかと聞かれれば答えられない。きっと自分だけでも生き残ろうとしてしまうだろうから。

義務感のような、強迫観念のような感情であることは理解している。しかし私はそれを悪いことだとは思わない。異物一つで世界を救う、等価交換とはかけ離れた計算式が成り立つのであればそれは実践すべき可能性の一つなのだから。死にたくないという行動理念自体は変わらないが、それでも覚悟はすべきなのだと思う。

 

「楽しむだけじゃ世界は救えない」

 

ただ一言そう言って、優しい彼女に背を向けた。

 

 

 

....

 

 

 スミレから逃げる様に足を進めて十数分。

体育館のような建物には似合わない重々しい見た目の扉の前に着いた。目的地である訓練場で間違いはないかと耳を澄ませれば、中から戦闘音が聞こえる。それはつまり、間違いなく目的地である訓練場に無事に到着したということであり、私よりも先に誰かが訓練を行っているということでもあった。

 

 そもそも私が訓練場に向かう理由は一つしかない。

最強の部隊___6代目の第1部隊との接触こそがその目標だ。

作中最強の部隊と名高い部隊は、他の部隊の追従を許さない圧倒的な戦力を保持している。

それは人数によるものではない。隊員それぞれが強く、隊員それぞれが常に考え、隊員それぞれが最善の行動をする。全員が第一線で活躍できるすべてを兼ね備えているからこそ、彼女たちは第1部隊であり不動の最強なのだ。

しかし彼女たちだけでは戦力は足りない。せめて今の二倍はいなければ守りきることは不可能である。それは私の想定している敵の数が正しければの話だが、おそらく間違ってはいないだろう。だからこそ私は行動する。戦力を少しでも増やすために、本当のハッピーエンドを目指すために、足りない戦力を少しでも増やす。そのためにまずは私が強くならなくてはならない。レベルではなく、私自身が最強と肩を並べて戦える存在に成りあがらなくてはならない。

 

 ドアに手を当て、そして押す。

重々しい見た目とは裏腹に少しの力で開くドアは、小さな音を立てて動きを止めた。

 

「___いた」

 

三人で構成された部隊。部隊の制限として四人以上と書かれているというのに三人で構成された部隊を、私は一つしか知らない。だから運勝負に勝ったと、そう確信して頬が無意識に上がり、そして、この学園に四人しかいなかった特徴的な【白いリボン】が確信になる。

 

他の人とは違う特注の装備を纏った三人はくろまる君を用いた訓練を行っている。

その動きは今の私でも完全に目視することは出来ず、大まかには見ることは出来るがフレームレートの落ちたゲームのみたいに角ばった映像が何となく理解をさせてくれるだけ。これがステータスの差だと丁寧にわからせてくる光景に、まだ私が目指す上は遠いのだと改めて理解する。

 

 彼女たち6代目第1部隊は、その名前の通り第1部隊の6代目(・・・)だ。

その力は歴代の第1部隊と遜色ないと評価されている。と言っても資料でしか確認できない歴代第1部隊と、実際に見ることのできる今代の第1部隊が本当に歴代と遜色ないのかは不明だが。ゲーム内でも歴代の第1部隊は最初のプロローグに少し出た程度で、表に出たことは一度もなかったのだから元プレイヤーとしても彼女たちがそれほど強いかの明確なランク付けは出来ない。

だが、間違いなく彼女たちは現存する部隊内では最強だ。たとえ私がいかに努力をしても、すべての内容で彼女たちを超えることは出来ないだろう。

 

「...」

 

私が彼女たちに話しかけることはない。ただ訓練を行っている第1部隊を遠くから眺めているだけ。

もとから話しかけるために探していたわけではなかった。その動きを知るため、その動きを見るために私は第1部隊を探していた。

話しかけるという行為は、単独での行動をするためには下手に友好関係を広げるよりも一人でいる方が楽、私のこれからの目的からすればリスキーな行動だ。無論友好関係を持つことの利点も存在する。だが、それは今必要なものではない。世界の流れを変えるというのはそれだけで未来を変えてしまう行為なのだから慎重に検討すべきだ。

だから私は第1部隊に話しかけることはない。遠くでその戦闘を見て、学ぶ。そしてそれを今後の私の戦闘に活かす。話しかけて教えてもらうだけがすべてではない。

 

 目を凝らし、第1部隊の動きを見る。

彼女たちの戦闘スタイルはその圧倒的殲滅力で端から端まで掃除と言わんばかりの速度で敵を倒していくもの。裏に配備されているであろうくろまる君も総動員しているはずなのに片っ端から撃破しているのだからその能力は恐るべきものだ。最もそれを利用する頭がなければ囲まれてやられるだけだから、脳筋というわけでもなく思考と動きのバランスが重要である。細かな動きを見ることは出来ないが、そちらはそもそも参考にする気がないから問題はない。

 

「行こう」

 

自分を奮い立たせるように一言だけ呟いて、第1部隊から視線を外し武器庫に歩き出す。

訓練で使用される武器は、基本的に貸し出されている武器を使用することになっている。主にくろまる君を壊さないようにという何とも夢のない理由がなのだが、一応他にも訓練をしている人への負担を減らすために訓練用のダミー武器での訓練をするようにという理由もある。わざわざそのために剣の類は刃を潰し、槌の類は当たる部分を柔らかい素材にし、銃の実弾はゴム弾だったりビームはレーザーポインターを使用しているのだから資材に余裕がないというのも噂ではないらしい。

 

大量の武器をしまっている武器庫、その中から一本の刀を手に取る。

銘は【無斬】。斬れないからこんな名前をしているらしいこの刀は訓練用に配備されている武器の一本で、その分類は刀。ゲーム内で初期ステータスでは最も技量の高いキャラがようやく持てるレベルの要求ステータスの癖に武器の性能はそこまで高くないという色々悲しみを背負っている武器だ。だからゲームでも装備するキャラがいなかったが、それはここでも変わらないらしい。案の定武器庫の最奥に埃をかぶっていた姿で見つかった。

 

 何度か振って感覚を確かめる。

武器を振ることが初めてというわけではないが、久々であることに間違いはなく身体が忘れていないか不安だった。だがそんな心配は不要だったらしい。無意識に刀を構える姿はそれなりに様になっており、振る感覚も空気を切り裂くように透き通っている。

 

これなら戦える、そう安堵して武器を降ろす。

私のステータスはバランス型だ。すべてのステータスがほぼ平均的に上がる成長をする特徴を有する私はすべての武器が使えるといっても過言ではない。しかしそれは同時に弱点でもある。特化出来ないということは同時に瞬間火力では特化型に後れを取ってしまう。戦術の幅が第1部隊並であっても、戦闘能力自体は最終的にはどのネームドキャラにも劣る。だからこそ代わりになる戦い方が必要になる(・・・・・・・・・・・・・)

 

刀を鞘にしまいベルトで固定し、新たに別の武器を取る。ショットガンは左手に持ち、ダガーは足にセット。最後に大剣を背中に背負えばお試しフル装備の完成。それなりに重いがステータスのごり押しで無理やり動けば戦えないことはない。

一つの武器の扱いが劣るなら大量の武器を使用すればいい。単純な思考だがその分効果も高いはずだ。

 

一歩歩くたびにその重さを実感する。武器の重みは大剣以外はそんなに重くはないが、さすがに数が多くなれば重い。身体が悲鳴を上げることはないが、それでも負荷がかかっているとわかるほどに装備が重い。だがそれも強くなるため、生き残るため。手段を選んでいる暇は、もうそろそろ無くなってしまうから文句は言えない。

 

 

 訓練場、その一角に立つ。

長い間訓練に使われているためそこら中に傷がついている訓練場は200メートルの正方形で10分割されており、それぞれにくろまる君が配備されている。その内の一機を起動し、ショットガンを左手で突き出し、刀を右手で牙突の構えを取る。

片方のだけなら上手く使えるかもしれないが、それを両方使うというのは非現実的かもしれない。しかしそれを試すのも訓練の醍醐味だろう。私たちがどんな戦い方ができるのか、それを知るためのチャンスが訓練なのだから。

 

 ちなみにくろまる君にはいくつかの難易度設定がある。ゲームの様にレベル1とか2とか分かれており、確か最大でレベルは90あたりまであった。と言ってもその頃にはくろまる君を使うよりも普通に戦闘に出た方が経験値を貰えるため、くろまる君は倉庫番になってしまうが。

 

 私が起動したのはレベル32モードのくろまる君。

私自体のレベルで言えば既に40ほどだが、訓練自体一人で行うためのものではない。そのため通常よりもレベルの低いモードで訓練をすることになる。あくまでくろまる君自体がチームでの訓練を目的としている存在だからだ。多少なり慣れ始めればもっと高いレベルで起動するのもありだろうが、それはもう少し後の話だろう。

 

 大きく息を吸う。

目の前に待機しているくろまる君はこちらが動き出すのを待っている。私が一歩前に進めば戦闘が始まるだろう。

最後に戦ったのは大体1年ほど前なのだから戦闘自体久々なものだ。できれば戦わないで済む方向に、そんな方針で進んでしまったがゆえに、気が付けば戦うという選択肢が私の選べる唯一の選択肢になってしまった。

 

 態勢を少し落とす。

一歩歩けば戦闘は開始される。私とくろまる君、互いに見合うこの状況は私が苦手とする状況であり、最も大事なタイミング。だから私は___

 

「____チッ」

 

大きく踏み出しショットガンを2発打ち込む。

だが巨体には意味はない。くろまる君が動きを止めることはなくこちらに突撃してくる様子を見て舌打ちをする。

 

そもそも現在戦っている【くろまる君】は中級の【黒渦】である【バッファロー】を再現したものだ。初級である小型の奴らは一般人でも銃さえあれば倒せなくもない能力であり、正直私たちが出なくても正規の軍人だけで対処が出来てしまう。それこそ自動制御のタレットでも対処できてしまうのだから訓練の必要性はあまりない。問題は中級以上の【黒渦】だ。奴らは一般的な銃での対処は不可能、大砲などが運よく弱点にあたったとしても多少怯む程度で決定打どころかダメージにもなっていない。上級でえあればそもそも一般人は近づくことさえできなくなる。私たちの武器でも対処は困難となり、最悪十人以上の先輩が戦って敗れたなんて戦闘結果さえも存在する。そしてその上位に君臨する特級と呼ばれる存在(ばけもの)。この時代では存在は確認されていないが、奴は間違いなく来る。遅かれ早かれ五年以内には。

 

「くっ」

 

突撃してくるバッファローを避けて、ショットガンと刀を投げ捨てて大剣を両手で持つ。

刀に関しては一切使っていないが相手が悪い。バッファローという名は動物のアメリカバイソンに由来する。それは対峙した初期の部隊員が仮名としてバッファローと名付けたからだ。何故そんな名を付けたかと言われれば、強固な装甲と巨体から繰り出される突撃を見て脳内で直感が言ってきたと言っていたらしい。正直わけが分からん。

 

話を戻すが、バッファローの突撃を止める方法は少ない。

壁に激突させる方法や、疲れるまで回避し続ける方法とないわけではないが200メートルの長方形で構成された訓練場ではどちらも非現実的だ。部隊を組んでの行動であればヘイトを取っていない部隊員が攻撃をしてヘイトを取れば回避に専念するという戦法で戦うのが一般的だが、私一人の現状ではそれも不可能。別の答えが必要になるのは明白だ。

 

すれ違うようにバッファローに一撃を入れてみるが、その装甲に傷が入ることはない。逆に大剣が弾かれ腕が痛くなる始末、この方法でも倒せなくはないかもしれないが時間がかかるし何より腕が持たない。

回避ついでに投げ捨てたショットガンを回収する。2発しか弾を入れられないため既に弾は切れている。リロード用のゴム弾でも持ってくればよかったのだが見事に忘れていたのだからもう射撃することは出来ない。...なんで拾ったんだろう私。

もう一度、今度は拾うことがないようにもっと遠くに投げておく。具体的には私の使ってる訓練場の外、移動用の通路がある場所に投げておいた。

 

ここからどう戦うか。そう思考する。

突撃してくる巨体を避け続けるだけの闘牛のような戦いでは互いに疲労するだけ、戦闘が終わっても、もし次があるなら疲労した状況で次に向かわなければならなくなる。

 

「___〈強固な身体を〉」

 

一つ、装備(スキル)を起動する。

汎用スキル。そう呼ばれる装備は武器についているスロットを埋めるだけで誰でも使用できる便利な代物だ。しかし代わりにその分出力は低く、オリジナルであるスキルの所有者には遠く及ばない。私が使用したのは[単体の防御力アップ(弱)]のスキルだが、もし本来の使用者が使ったのであれば私以外の人にもその効果が適応される全体バフになっていたはずなのだから、その性能の低下率がよくわかるだろう。

 

 大剣を地面に突き刺す。

強度の上がった身体が地面に突き刺した大剣の衝撃を受けても痛まないことから、スキルの効果がしっかりと適応されていると安堵する。

 

 

 近づいてくるバッファロー、残り15メートル。

その姿を目視して態勢を低く、衝撃を受けても態勢を崩さないアメフトのような構えをする。

 

 残り10メートル。

地面に足を突き刺して固定用のバンカーの代わりにする。

 

 残り5メートル。

あとは奴を真正面から受け止めるだけ。

 

「___ッ」

 

声にならない声。

まるで巨大なハンマーに潰されているかのような衝撃が身体全体を襲う。痛みよりも先に脳が揺れて飛んでしまいそうになる意識を全力でつなぎ留めながら、地面に足を刺したはずなのに押されている再度身体に力を入れる。

 

だが意識が安定してしまえば次に来るのは身体を襲う数々の痛み。

自身に防御のバフをかけているにも関わらず身体の関節のすべてが悲鳴を上げる様に叫んでいる。現状に顔を歪め、そして新たなバフを用意する。

 

「〈鈍感な愚者よ〉」

 

身体に装着されたスキルが起動する。

その[効果はダメージの鈍足化]。ゲーム内では受けたダメージを次のターンに持ち越すという性能だったが、この世界では十秒後に痛みが来る。鎮痛剤のような効果かと期待して使ったときの私はひどく落胆したものだ。

しかし今はその効果を発揮するには十分な状況だ。十秒あれば、奴を倒せる。

 

「〈我、救いに足掻くものに力を授けたまえ〉」

 

最後に腕につけられたスキルが起動され、何かが上昇するのを感じる。

ソレの効果は微妙なものだ。火力を上げるわけでもない、防御力を上げるわけでもない、何か特殊な状態異常を与えるわけでもないスキル。ただ[何かを得る]だけの、私のオリジナル。

 

「ハアァァァァァァッッ!」

 

その瞬間、身体に残る力すべてを使い切ったような気がした。

全力で上に投げられたバッファローは、空に投げられて宙を舞い。そのままの勢いで地面に叩きつけられて動かなくなった。それと同時に訓練終了のブザーが鳴り響く。

 

勝った。

そう言っていいのかはわからないが、少なくとも私はバッファローを倒せたらしい。

倒れ込むように地面に座り込み、乱れた息を整える。

 

少し消耗をしすぎた。

そう言いたくなるほどに疲れている現状に、そんな状況にならないと勝てない自分に、少し苛立ちを覚えた。




スミレ:刹那主義者である原作での先輩キャラの一人。
    先輩であるためか全体的にステは高く、レベルも最初から高い。原作では主人公たちが危機に陥った際に助けてくれる部隊の一人である。スキル構成は速攻型、火力は高いが消費が重い。

スキル(装備):武器や防具につけることのできる誰でも使える特殊効果。
        その便利さゆえに付けない人はいないレベルだが、その効果のオリジナルとなったスキルよりは劣っている。

スキル(オリジナル):本人の素質により使用できる特殊な効果。
           その強さは意志や性格によって変化すると言われており、どれも効果は一級品。全員のHPを全部回復するものもあれば、速度が上がり目視出来ないレベルで攻撃が可能になるスキルもある。しかしその分の代償がいる。...と言ってもそこまで重い代償ではない。

訓練場のレベルは、単独で戦う場合は自分のレベルの半分を目安にしてください(訓練場使用時の注意より
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