バッドエンドから逃げるために 作:落ち着けおさかな
「あ、行っちゃった」
話しかけても一切返事を返してくれなかった不思議な女の子。
先生からの話が終わったと思えば少女はすぐに「訓練」と一言いい残しどこかに行ってしまった。
「わたし、何かしちゃったのかな...?」
少し伸びた髪を触りながら、少し不安になった自分自身の行動を考える。
何かあの子の気に障る行動を起こしたのであれば謝った方がいいと、そう思うけど。
「まったくわからない...」
そもそも少女は何故か最初からわたしを無視していたのか。その理由にまったく心当たりはなく、考えても考えてもそれらしい答えが出てきてくれることはない。
「でもなんでだろう?どこかで会ったような気がするんだよなぁー」
白い髪をした少女。
あんなに特徴的なのだから一度見れば記憶に残っているはずなのに、どこかで見たことがある気がする程度にしか彼女を見た気がしなかった。
だけど、彼女もわたしに見覚えがあったのか話自体は無視していたがこちらを見ていた。だから話を終わらせることもなく話し続けていたのだけど、それを聞く前に何処かに行ってしまった。
「訓練」そう言って廊下に出たあの子は何処に向かったのだろうか?
これから【黒渦】と呼ばれる存在と戦うのがわたしたちの運命というのであれば、それはきっとあの子も同じ。だからはきっと、わたしたちは共に手を繋げるようになれるはず。それまでに、仲良くなれるといいな。そう思い、彼女がしていたように空を見上げる。いつも通りの空がそこにある。わたしたちの日常の象徴である青い空が、わたしたちを包むように広がっている。きっと彼女もこの空を守りたいんだ。
「よう!」
「うひゃぁっ!?」
後ろから聞こえる声と共に腰に手が巻き付けられて、お腹のあたりを愛でるようにソッと触れられたわたしの口からは情けない声が出てしまう。それだけでも恥ずかしいのに妙な声が聞こえたからか周囲の視線が一斉にこちらを向き、顔が赤くなっているのが実感できるほどに顔が熱くなっているのが分かる。
恥ずかしい気持ちに冷静さを取り戻す間もなく、そんなことをしてくるであろう知り合いの名前を言う。
「アイビーちゃんっ!いつもいきなりそういう事をするのはやめてって言ってるでしょ!?」
「ありゃ、バレちゃった?」
「もう...」
アイビー、わたしの幼馴染。その特徴的な緑色の短い髪と白い瞳をした少女は、わたしの記憶と同じように悪びれる様子もなく楽しそうな笑顔を見せていて、それにつられるようにわたしも笑う。
普通の学校の様にクラス分けされるわけではないこの学園でアイビーと再会するのは予定調和のようなものだと言える。互いにこの学園に入学するのだと別れる前から言っていたのだから再会しない方がおかしいのだけど、実際に再会すると安心する。やっぱり知り合いがいるかいないかで新しい場所での生活は大きく難易度を変えるから。
「____それで、サクラは部隊どうするのさ?」
「へ?」
少し話した後に出たアイビーの話に気の抜けた声が出る。
部隊、その言葉の意味は知っているけどこの学園においてこの言葉がどんな意味を持っているのかわたしは知らない。
「そんな話してたっけ...?」
「してたしてた。まったく、また寝てたんじゃないだろうな?」
「そ、そんなことはないけど」
「じゃあどんな話してたよ」
「うぐっ」
図星を疲れてまた変な声が漏れる。
「い、いやまったく聞いていない訳じゃなかったんだよ?でもあの子に話しかけてたら、気が付いたら先生の話が終わっていたっていうか...」
「言い訳をしない。ってかあの子ってミナミのことだろ?」
不思議そうに首を傾げながらアイビーちゃんは聞いてくる。
あの子、私の横にいた話を無視する女の子。そういえば確かにミナミ特例兵と呼ばれていた。
「アイビーちゃんはミナミちゃんのこと知ってたの?」
「んー?いや、知ってたというかそれなりに有名な子だぜ?」
「有名?」と返しながら記憶をたどってみるが、わたしの記憶にはミナミという名前はない。
有名というなら知っていてもおかしくないんだけど、なんでわたしは知らないんだろう?
「学力は並、だけど戦闘技能は新入生の中ではトップクラス。一部じゃ先輩方よりも強いなんていわれてるらしいからな彼女」
「にしたって先生に対してあの態度は驚いたけど」とメモ帳を取り出して確認しながらアイビーちゃんは話す。
昔からメモ帳に色々書いていたと思ったけどこういう時のためのメモ帳だったんだね...。
「まぁあいつのことはいいだろ。で?部隊はどうするんだ。サクラ」
「え、あ、うーん。部隊、だよね?」
「あぁ、これから【黒渦】と戦うためのチーム。これから一か月はその部隊固定で戦うことになるからしっかり考えないと駄目だぞ」
顔の前に人差し指を出して「一か月!」と改めて言うアイビーちゃん。特に悩む様子もなく話しているけどアイビーちゃんは、既に部隊を決めているのかな?
「ちなみにアタシはサクラと一緒の部隊に入るからな」
「えぇっ!?」
「なんだよ嫌なのか?」
「そういう訳じゃないけど...そういえば、アイビーちゃんは素質検査どうだったの?」
わたしには才能がない。
厳密には少し違うかもしれないけど、入学前の素質検査でのわたしの能力は支援を除いてすべてが最低値。後方支援の部隊に入るならまだしも、前線で戦うような能力はない。もしアイビーちゃんの素質が後衛向きだったら一緒に組めるかもしれないけど、多分そんなことはないから、きっとわたしはアイビーちゃんと一緒の部隊に入ることは出来ない。
「おうっ!耐久マシマシのバリバリ前衛だった」
「あはは...アイビーちゃんらしいね」
ドンと、その大きな胸を叩きながらそう答えるアイビーちゃんの表情に影はない。もしわたしみたいに後衛だったら、と一瞬でも考えてしまったけど、きっとアイビーちゃんの能力を欲しがっている部隊はいるはずだし、それならわたしと一緒の部隊よりも他の部隊に入った方が活躍できる。
「そういうサクラはどうだったんだよ?」
「うぅっ...コンナカンジデス」
一応持ち歩いていた検査報告書を見せれば、先ほどまで満点の笑顔だった表情が苦笑いに変わった。
一緒に組もうと言っていた人がびっくりするほど支援しか適性がないのだからそうもなる。わたし自身ここまで適性がないと笑うしかなかった。初めてこの結果を見たときはもう唖然として、そのあと結果を脳が理解してからは五分くらい笑ってしまうほどには予想外だったし。
「うっへー、これは酷いな」
「何も言い返せないのが悔しいです」
何の反論も出来そうにない検査結果は今のわたしの2番目の悩み事。
一番は間違いなくミナミちゃん、どうすれば仲良くなれるのかを現在絶賛考え中。強いらしいし、何でかわたしをすっごく見つめてきてたし仲良くなれないなんてことはない!...多分。
「でもごめんね、アイビーちゃん」
「...?なんだよ急に謝ったりして」
「だって、わたしの適性じゃ一緒の部隊に入るのは難しそうだし」
折角わたしと組むって言ってくれたのに、わたしのせいで組めない。心苦しいけどアイビーちゃんにはもっといい部隊があるはずだし。わたしもわたしで活躍できそうな部隊を見つけなきゃ。
「いや、別に普通にアタシ達で部隊結成するけど?」
「へ?」
突拍子のない言葉。
予想外すぎるアイビーちゃんの言葉は、それでも心の何処かでは言ってくれそうな気がしてたのか、脳はするりと理解した。
「い、いやわたしの適性見たよねっ!?支援だよ?支援?支援しかできないのに前衛のアイビーちゃんと同じ部隊は無理があるよねっ!?」
「でも襲われたときに守れるやつがいた方がいいからな」
「...それは、そうだけど」
「なんだぁ?アタシと一緒の部隊は嫌だってのかぁ?」
「おっさん臭いよその絡み方」とジト目で言ってみれば「そんなバナナ!?」と言って倒れ込むアイビーちゃん。正直そのネタも相当古いものだと思うんだけど、いったいどこからそういうネタを拾ってくるんだろう?前だって待ち合わせしてた時に「今北産業!」とか言いながら登場してたし、ネットに変な影響を受けてなければいいんだけど。
「でも本当にいいの?支援と前衛の組み合わせって前例は少ないと思うんだけど」
「何事も最初はお試しからだから」
「というか、そんな部隊編成になる部隊に入ってくれる人、いるのかな...?」
「...(プイ)」
「....アイビーちゃん?」
わたしから目をそらすように顔を横に向けるアイビーちゃん。ご丁寧にわざわざ口で効果音を言いながら顔を動かしてるあたり確信犯だ、これ。
「まさか、他の部隊員考えてなかったとかないよね...?」
「...ソ、ソンナワケナイジャナイカー」
「目を合わせようね?」
「ハイ、ゴメンナサイ」
少し虚ろな瞳でわたしに目を合わせないようにしながら謝るアイビーちゃんは、頭を下げたのちに少し考え込むようなポーズを取り始める。いったい何を考えているのかなと思いつつ、わたしは教室を一周ぐるりと見渡すことにした。
大学の講義室のような巨大な教室は、先生からの話が終わった今でも多くの生徒が残っている。それはこれからの部隊を決める話だったり、旧知の仲を改めて深める話だったり、わたしたちの様に他愛のない話をしている人が多い。...彼女は、ミナミちゃんはそのどれにも該当していない。ただ一人、誰とも話すことなく教室から出ていった彼女は多分、今も一人で何処かにいるのだと思う。
「ねぇ、アイビーちゃん」
「どしたよ?そんな何かいいことを思いついたかのような顔をして」
だから、一ついいことを考えついた。
「____ミナミちゃんをうちの部隊に入れられないかな?」
「なぁ、昔から思ってんだけどさ。サクラは冗談が下手だよな」
「冗談じゃないよっ!?」
わたしの言葉を冗談か何かかと思っているのか、呆れたような顔をしながら答えるアイビーちゃん。
わたしはそこまで冗談にしか聞こえないような提案をしたのだろうか?部隊を結成しなければしなければいけないのだから、ミナミちゃんも何処かの部隊に所属することになる。それはつまりわたしたちにもそのチャンスがあるということなのだから、そこまで夢物語というわけでもない筈なのに。
「あのなぁ、あいつはおそらく新入生内だと最強だぞ?それがアタシたちのバランスが悪い部隊に入ってくれると思うか?」
「...自分からバランスが悪いって言っちゃうんだね」
しかしその通りなのだろう。
ミナミちゃん、実際に戦いを見たわけではないけど情報通であるアイビーちゃんがそういうのであれば間違いなく彼女は新入生の中では最強なんだと思う。
でも___
『サクラ...?』
『訓練...じゃ』
そう言って出て言った彼女の表情は、やっぱりどこか引っかかる。
昔を懐かしむような、何か覚悟を決めたようなあの瞳はわたしの記憶に引っかかる。本当に、わたしたちは何処かで出会ったことがあるのではないかと、そう思ってしまうほどに。
「どうしたよ?」
「あ、うん。やっぱりミナミちゃんに」
「いまミナミさんと申しましたかっ!?」
わたしの言葉を遮るように大きな声が教室に響き渡った。
若干低い、しかし安定した鋭い声の主ははわたしたちの会話を正面から断ち切るように現れた。制服を改造したのかロングのスカートはまるでドレスのようで、その服の一部にはベルトが付いている服を身に着ける。なのにその髪型はお嬢様のようなロールは青色の髪をしていて、なのに不思議とその姿に似合っていて、表情は自信に満ち溢れている。アンバランスなのに完成された見た目をした少女は、その瞳をわたしたち二人に向けていた。
「お二方、いまミナミさんと申しましたね」
「え、あぁ話してたけど、アンタは?」
目を輝かせながらこちらにアイビーちゃんに顔を近づけていくお嬢様チックな少女は、きっと悪い子ではないんだと思う。嬉しそうに、楽しそうに笑顔でいるその姿は創作物によくいる悪役とは大きく異なったイメージを連想させる。
「紹介が遅れましたわ!わたくしはヤルマ!この部隊に入れてくださいませ!」
「そうか、アタシはアイビーだ。んでこっちが」
「あ、サクラです...へ?」
お嬢様...ヤルマさんの自己紹介の後に驚くべき言葉が入っていたような気がして、自分の耳を疑った。『この部隊に入らせてほしい』その言葉は今もっともほしい言葉であると同時にもっともありえない言葉なのだから無理もなかった。
アイビー:サクラの幼馴染であり初代241部隊の一人
能力は作中に書かれている通りの耐久高めの前衛。攻撃力は決して高くはないが、ヘイトを上昇させるスキルが多くヒーラーとの相性がいい。
ヤルマ:初代241部隊の一人
能力は前衛アタッカー。高い火力を活かした単発火力が優秀である。火力以外は並で自分へのバフもないため支援なしでの戦闘は少々弱め。
PS.えっと、何でこんなに伸びたのか不明なのですがいったい何があったのですか?あまりにも急に伸びたため驚きよりも恐怖の方が上に行ってしまって...でもお気に入りや評価は嬉しいです。できれば、感想とか頂ければこれからの方針も固まってやりやすくなると思います。