バッドエンドから逃げるために 作:落ち着けおさかな
なので描写練習用と割り切りました。
森。
多くの草木により視界の確保が難しいこの地形は戦闘時の周囲警戒を学ぶには最も適した環境だと言える。それは敵への警戒だけではなく足場への警戒も合わせた意味だ。さらに言えば武器のリーチを考え木に引っかからないようにするなどの意識も必要になるため、味方との連携などをふまえれば少なくとも4つ以上は意識をしながら戦わなければならない。
そう言う意味では私にとっても初めての経験だと言えるだろう。
今まで単独での戦闘しか行ってきていない私は味方との連携など全くしたことがない。ついでに言えば木に引っかかろうとも木ごと切ってたので武器のリーチによる武器の引っかかりなんて言う部分も意識したことがなかった。
その点に関しては間違いなく悲しいことだが私は素人同然の半端ものだ。
なまじ力があるだけ厄介極まりない。胸を張るほどの力はないと口では言っていながら、頭の中では胸を張っているのだから矛盾している。
そう、矛盾している。
この勢いに畳みかけるように私は私に刃を向けよう。
私は矛盾しているのだ。誰かが言った救いを求めるだけならば誰かに助けを求めればいいという発想そのものは間違いではなく正しい選択だと、そう脳では理解しているしそうした方がいいと思っているのに実行に移せないあたり、私は矛盾を隠すことが出来ていない。
何故そんな話を急に始めたかと言われれば純粋に暇だからだろうか。
学園の訓練場として使用される森の広さは、東京ドームで表すことは出来ないが大体東京の某ネズミ―ランド一個分程度のサイズがあるとどこかに書いてあった。それが公式の設定かはわからないが、いろいろ調べてみた結果それしか記憶に残っていないというのはつまりそういう事なのだと、もう調べることが出来ないからそう言い聞かすことしかできなくなってしまった。
「全員、体力は大丈夫か?」
若干先行しているアイビーが確認として私たちの聞く。
いや、私には聞いていないのか、その視線はサクラにしか向いていない。ヤルマに関しては聞く必要がないほどにイキイキと動いているし、私に関してはそもそも眼中にないのかもしれない。一切視線を向けられた気がしないことから予想する。
しかしそれも仕方ないだろう。私は今までの訓練で結果を出してしまっているし、ヤルマも同様だ。それらと比べてサクラはまったくもって訓練での結果を出しておらず、それどころか体力テストの類でも最低レベルで突破出来ている程度の能力のみ。今の様な前線に移動して戦闘を行うという戦い方自体が彼女のスタイルには全くあっていないと言っても過言ではない。
「ハァ...ハァ...だい、じょうぶ」
「いや何処がだよ」
息切れを起こしているサクラの言葉にツッコミを返すアイビーの言葉に心の中で同意する。
既に見た目て分かるレベルで持久走大会を走りきった後の帰宅部みたいな息切れを起こしているのだから、仮にアイビーでなくとも同様にツッコミを入れるはずだ。
移動し始めて十数分しかたっていないというのにもかかわらず彼女の膝は笑っているし、頬には汗が流れいる。それだけでなく心なしか目の焦点も合っていないように見える。
この世界においてサクラの様子は何度か見たことがあるが、ここまで酷いものなのかと唖然としたのは記憶に新しい。何度か行われていた戦闘訓練でも彼女は同じような状況になっていた。何故それほどまでに貧弱なのか、彼女に何らかの設定であって、それによってこれほどまでに貧弱になっているという設定は過去調べたことがあるが書いていなかった。だが、だからと言ってそれが彼女の身体能力のせいだとは信じることが出来なかった。
足場がぬかるんでいる地面は先ほどまで降っていた雨が原因だと容易に想像することが出来る。
一歩歩くたびに身体が沈むのだから余計に体力がとられてたまったものではない。ただでさえ動きづらい森がさらに動きづらくなるのは面倒以外の何物でもなく、部隊員それぞれの身体能力の差がより大きく出てしまうという難点も存在する。
運動能力が高い人はそれなりの速度で前に進めるが、運動能力の低い人間にとっては通常時でも移動が大変な森だ。しかも今はその地面がぬかるんでいる。そんな状態で進もうとすれば足を捉えてまともな移動は難しいだろう。私だって元の身体で今の速度での移動ができるかと聞かれれば答えは間違いなく「ノー」と答える。今こうして動けるのはこの身体があってこそなのだ。
そんな立地でも他のものと比べて無意識に前へ先に進んでいるアイビー。それはきっと素の能力と性格ゆえだろう、歩みと同じように無意識で斥候のような役割を担ってしまっている。
それを危険だと知っていながら注意することのできない私は、きっと裏切者なのだ。その問題点を、そして改善点を知っているというのに伝える勇気がないのだから。そしてそれが後の危機を呼ぶと知っているのに目をそらしてしまっている私は、きっと彼女たちに顔向けすることが出来ない。知っているからこそ、その先にあるものを理解しているからこそ、私は一を犠牲にすることを選んでしまったのだから。私では十のすべてを救うことは出来ないと、納得してしまったから、その犠牲を許容してしまっている。
「おいおい、戦闘部門主席がそんな顔してて大丈夫かよ?」
「___っ!べ、別に...問題ない」
思考に耽過ぎていたらしい。
気が付けば前に出すぎていたらしく、目の前にいたアイビーの顔に驚きながらも、意図的に行っているポーカーフェイスが崩れないように意識を集中する。
ポーカーフェイスをしている理由は純粋にうれしいからだ。
元々好きだったキャラたちと同じ戦場に立つことのできる夢のような展開に私は自分の表情がニヤケないでいられる自信がない。
誰だって憧れている人物や好きな人物がいる。私にとって彼女たちがソレに類する存在なのかと聞かれれば明確な答えはないが、それでも憧れに近い感情を抱いていたのは事実であり、そして現在そんな彼女たちと共に行動できている今を喜んでいるのは疑いようのない事実だ。しかし彼女たちとの接触はあまりいい状況を作るとは思えないからこそ、私は彼女たちに内心を悟られないようにしなければいけない。そのためのポーカーフェイスだ。
多くの関わりの結果の先で話の流れが変わってしまえば、間違いなく私の知らないイレギュラーが発生する。
ただでさえ難しいバッドエンドへの対応にそれらイレギュラーが混ざれば、私の力では間違いなく目的を果たすことが出来ないだろう。
だからと言って、私が未来を知っているという話をしても信じてくれる人はいない。誰もが憧れる能力だからこそ無理だと理解も出来ている。正確には未来予知の類ではないが、途中経過を知らない人間にとっては同じなのだ。【未来予知】それと全く変わらない結果を持つ私の言葉を他人が信じてくれる可能性はゼロに近い。
それでもサクラたちならば、そう考えたことは何度もある。
彼女たちは主人公だ。選択肢によって大きく変わるが基本的には真偽を見抜く能力があり、きっと私の話もしっかりと聞いてくれるはずだ。だが、それがイレギュラーの基になってしまう。
考えたことはあるだろうか、もし未来を知ったらどう動くだろうと。
未来の知識を得た人間が真っ当に働くだろうか。それこそ宝くじなどで一発当ててしまった方が楽だと、そう思ってしまうのではないだろうか。それと同じだ。
すべてを話してしまえばある一定のラインまでは楽に進むことが出来るだろう。犠牲を一つも出すことなく、被害を一切出すことなく、原作よりも設備の整った状態で最後を迎えることが出来るのは間違いない。だが、その結果彼女たちの能力は原作に劣ることになる。犠牲の上に成り立った覚醒イベント、どのゲームにもある話だがソレはこの世界の原作も同様で一部のキャラクターは誰かの犠牲なくしては強化できない。そして私はそれを回避する方法を思いつけなかった。
【黒渦】との戦闘ではあまり役に立たない設備の万全と戦闘で前線を張ることになる【花の巫女】の強化。どちらを取るかと言われれば後者を取るのが安定だろう。設備が重要なのは承知しているが防衛という点においては戦力の方が重要だろう。
【花の巫女】と呼ばれる私たちの役目は重要なのだ。
宿る【
「___いたぞ」
川が近い小さな花畑の真ん中。斥候の役割を果たしたのかアイビーの声がインカムを通して鼓膜を震わせ周りを見れば、その特徴的な四つの羽と針を持った【くろまる君】がいた。
おそらく昆虫系に類するその形状は【ビー】と呼ばれている種類の【黒渦】を模したものだろう。
花の付近に多く出現していた【黒渦】で、今こそ数が減ったが昔は空を埋め尽くすほど出現したという設定がある敵だ。【ビー】つまりは蜂だが、そのサイズは成人男性の平均身長の半分ほどもある。それが空から襲ってきたと考えれば当時の人間はちょっとどころではないトラウマになったことだろう。
しかし現在、時間にして約二十分の索敵の結果ようやく接敵できた【ビー】は一体だけ、それもこちらには気が付いていないらしい。
花を中心に飛び回っている光景は記憶に懐かしい虫に似た行動かもしれないが、悲しきかな花とのサイズ差的に花に止まることは出来ないだろう。
「...?一体だけか、なんだよ拍子抜けだな」
「でも敵が隠れてるかも」
「そうだな、警戒するに越したことはないか。ヤルマとサクラは後方で援護してくれ」
サクラの言葉を肯定しつつ二人に確認したのち「それでいいか?」そう私に聞いてくるアイビーに頷きを返す。
ヤルマは前衛と後衛、その両方が出来る数少ない人物だ。いざという時にサクラを守ることが出来るし、いざということがなければ私たちの援護が出来る。それをふまえれば今の配置するのは間違いではない。
そもそも実力を把握できていない私を唯一無二の役割に配置していないことからそう言った考えなのだろう。仮に私とアイビーが逆の立場だとしても彼女と同じ配置をしていたはずだ。実力を知らないものがミスをしても自分がカバーすればいいという思考、そこに至る思考が違うだけで私たちは根本が似た者同士なのだろう。
「背負ってる大剣は使わないのか」
「飛んでる相手には当たらない」
背負った大剣ではなく、腰に差さっている刀を手に取った私を挑発するように言うアイビーの言葉に返答した私の言葉は悲しいが事実だ。
多種の武器を扱おうとしている私は、一つ一つの武器の扱いがお世辞にも上手とは言えたものではない。
初日のの自主訓練で私が選んだ銃がショットガンだったのはそのせいだ。拡散する弾を撃つことのできるショットガンは私のような射撃が苦手な人間にも扱うことが出来る。少なくとも他の銃よりは当たりやすいはずだという想像からの選択をした。その結果大したダメージを与えられていない点から分かるだろうが、私の射撃技術は高くない。近接においても私は正しい剣の振り方が出来ているわけではなく、斬ることのできるはずの敵も斬ることが出来ない。【バッファロー】との訓練の際に大剣で歯が立たなかったのはそれが原因だ。
「敵を倒せればそれで充分」
「まっ、それはそうだな」
だが斬れなくても倒すことは出来る。
握られた刀は入学初日の訓練で使用したものと同じ【無斬】。相変わらず使用された様子はなく奥の方にしまわれていた不遇な武器だが安定して残っているのだから、私はこれを選び続けるだろう。
「行くぞ主席さんよ!」
叫ぶアイビーを横目に、彼女より前へ先へ、私は踏み出した。
彼女の戦闘スタイルは覚えている。
自分へのバフをかけつつ、敵からのヘイトを全て受け入れる。そんなタンク型の戦闘を行う彼女はこの世界においても同様の戦闘スタイルを取る。それは何度か行われた訓練で確認することが出来た。そしておそらく今回の戦闘でも彼女は同様の戦闘スタイルを取るだろうと予想できる。だからこそ、私は彼女より前に出る。
「アタシの戦い方、分かった上でか?」
「...来る前に全部狩る」
「へっ、もうちょっと言い方があるだろ」
こういう戦い方もある、そう教えるように。私は彼女の盾になるように前に出た。
その意図に気づいてくれたかはわからない、それでも苦笑いしながら了承してくれたアイビーはサブスキルを一つ起動した。
〈傾注の招き猫〉そう呼ばれるサブスキルの効果は[ヘイトの集中]。使用者以外に意識を向けられなくする効果を持っているこのスキルは他とは違い使用者が動けなくなるという難点がある。名前についている招き猫が動けるものではないからだろうか、ゲーム内でもスキル使用中はそのキャラは攻撃などの行動が一切できなくなっていた。そういう意味では、アイビーは私を信用しているということなのだろうか。
「ありがとう」
ただ一言、そう言って刀を構えた。
両手でしっかりと握られた刀を剣道の様に構える。武術に類する知識をあまり持っていない私が分かる剣の構え方などこれしかない。付け焼刃であることは間違いないがそれでも何も知らないで持つよりはマシなはずだと、そう考えている。
敵が来る。
ただ一直線に私の方へ、私の後ろの彼女の方へと飛んでくる。
「___ッ!」
それを避けるという選択肢はなかった。
真正面から来る突撃を刀で受け止める。
避けることは容易だが、【ビー】の目的は私ではない。そのヘイトの先は後ろにいるアイビーだ。もし私が避ければ彼女に攻撃が行く。
それならば動けなくしてしまえばいい。
刀に込めた力を強くし、そのままの勢いで【ビー】を地面に叩きつける。
地面にヒビが入るほど強く押し込まれたその敵はビクリとも動かなくなった。それを撃破と言っていいのかはわからないが、それでも今は倒せたと考えていいはずだ。
叩きつけられ動かなくなった敵を横目に、悔しさに刀を持つ手が強く握られる
決して刀の戦い方ではない。刀は切るためのものであり、剣と比べ強度が劣っている。今のような戦い方をすれば長くは持たないと理解しているのにそれを行動に移すことのできない私の技量は、まるでそれが今の私にとっての限界であると丁寧に教えられているようで気分が悪い。
「ふぃー、無事倒せ__」
「___フンッ!」
「...倒せたみたいだな」
終わった戦闘に安堵するアイビーの言葉を遮るように【ビー】に止めを刺す。
これで安心していいだろう。訓練用だからちゃんとした止めではなく動かないように羽の部分に刀を刺しただけだが、これで十分だ。だが、
「まだ終わってない」
足に装備されたダガーを取り出してサクラたちの居る方角へと投擲した。
「なっ!?お前!」
その光景を見て最初に動き出したのはアイビーだ。
投げられたダガーを横目に、私に近づいて胸ぐらをつかんでくるまでにそう時間はかからなかった。それが私を警戒していたからか、戦闘後の残心があったからか、詳しくは分からないが彼女の反応は私よりも早い。
「お前、何で!?」
「敵はまだいた、それだけ」
呟くように答えた言葉に、アイビーはゆっくりと反応を返した。
そう、ゆっくりと。まるで再生速度をゆっくりにした映像の様に、ゆっくりとサクラたちの居る方向に視線を向ける。
そこにあったのは隠れていた一体の【ビー】。
サクラたちを後ろから襲うような形で現れたソレは私の投げた投擲したダガーが命中し、刺さりはしなかったが空中でバランスを崩してそのまま地面に墜落している。そんな【ビー】を冷静さを取り戻したヤルマが止めを刺すように一撃銃弾を撃ち込んでいた。
そんな光景を見たからか、怒りに身を任せそうになったアイビーは冷静になった。
表情から分かるほどに怒っていた彼女の表情は驚きへ変わり、そして安堵の表情へと戻っていく様は少し面白い。
「わ、わりぃ」
最終的にばつの悪そうな表情になった彼女はこちらに謝るが「気にしないで」と一言言って私は周囲警戒に意識を戻した。サクラの警戒していた隠れている敵がいるかもしれないという話、それは紛れもない事実だ。知っているからこそ私は警戒をしていた。そして、知っているからこそ行動を起こした。
回避したとしても問題がないイベントはなるべく回避させたい。
ただそれだけの考えで起こした行動だ。
このイベント、訓練での不意打ちはゲーム内では不利な状況から始まる戦闘を教えるためのものだ。だが、それ自体はそこまで重要なものではない。それ以上に彼女たちが傷を負うのを避けてほしいという願いの方が強かった。
矛盾は理解している。それでも行動を起こしてしまう自分に苦笑いをするが、そんな表情を見ていたアイビーは不思議そうに首を傾げるだけだった。
「...ほ、ほかに敵がどこにいるか、分かるのか?」
「いや」
私は未来が見えるわけじゃないから、敵がどこから襲ってくるのかはわからない。
先ほどの不意打ちだって、そういうイベントがあったから知っているだけでイベントがなければ知り得ない情報だ。この先発生するランダムエンカウントの明確な情報など知り得るはずがない。
「ははっ、流石にそうだよな...」
頭部を掻きながら、やはり何処かばつの悪そうな表情で返答する彼女は居心地が悪そうに少し早歩きでサクラたちの方へと向かって行った。
「...はぁ」
空を見た。いつもの癖だ。
いつものように空を見る。元の世界とは大きく異なるこの空を、もとの世界に思いをはせながら見上げ続ける。先ほどまで戦闘していたとは思えない花畑に吹く風は甘いにおいを感じながら、私は空に思いをはせる。
「私は、ここにいる」
誰かに理解してほしい。
小さいけれど大きい、そんな一つの思いを。
___何も話さないのに理解してもらえるとか甘えたことを言ってるんじゃないですよ主人公。
今回は何というか、戦闘描写を少し練習したい感じだったので話すことはあまりありません。なので登場した敵の説明でも、
【ビー】:蜂型の【黒渦】。一般的な兵器でも倒すことのできる小型に分類される敵であり、本来であれば【花の巫女】が出るほどの敵ではない。
しかし訓練にはちょうどいい強さのため、【ビー】を模した【くろまる君】の出番は割と最初の方の訓練にある。
基となったのは初期のころに斥候として送り出された【黒渦】の一種であり、戦闘能力は低め、使用する武器もしっぽの部分についている針だけであり近づかれなければ問題なく倒すことが出来る。
PS.良くも悪くも、そのステータスと同じく成長途中で止まってしまった主人公、それが本作の主人公のイメージです。
作者より
誤字報告など本当にありがとうございます。
わたし自身何度も見直していますが、それでもこういった誤字脱字が発見されるのを見ると足りていないのだなと実感します。
実は明確な予定もなしに書いているので、これからこれまで以上に作品のストーリー自体に問題点が出てくると思います。ストーリー考える人は大変ですね(他人事)。
...僕はね。刀使ノ巫女やアサルトリリィの小説が、書きたかったんだ(震え声)