人間どうしたって、色々あるから。
でもまあ、それでもなんとか歩んでいく。
まだまだ先は長い、どうにかなるさと嘯きながら。
私は特に人付き合いが得意な方ではない、と思う。ただ、人あしらいは上手いようだ。
当たり障りなく、クラスの輪の中に溶け込んで。男子にも女子にも嫌われない、一番気楽なポジションに落ち着いている。
バスケにしたって、私は特別優れている訳ではない。団体競技は総合力であり、関係性を上手く回していければ円滑に進んでいく。その辺を取り持つのが私の役割、という事だ。どんなに練習に励もうと、私の力はみんなに及ばないから。優しい皆は私をチームの要だとか言ってくれるけど。
私にはそれほどの価値はないから、あんまり期待しないで欲しい。
そんな何処か卑屈な私だけど、このままではいられなくなってきた。
こんなのに憧れてくれている、大喜くんの為に。
猪股大喜くん、バド部の一年生。そして私の、同居人。
色々あって私は二年になると同時に、彼の家で居候させてもらっている。まあそのきっかけになったのも、他ならぬ大喜くんなのだが。
最初は朝練で毎朝会う後輩、というだけだった。でも大喜くんが思い出させてくれた、悔しさに涙した頃の事を。今よりはまだひねくれていなくて、だからこそ敗北を受け入れられなかった。泣きながら無駄な練習をし続け、倒れるまでシュートを打ち続けていた。
あの私を、見ていた人がいた。私の気持ちを、汲んでくれる人がいた。それは置き捨てていくには、あまりにも大きすぎたのだ。だから私は、日本に残ることにした。せめて後輩の前でくらいは、格好つけたいし。
……ただ、なあ。大喜くんは、私を過大評価しすぎる癖があるのがちょっと困る。
なにしろ彼の友人である笠原くんが言うには、私に影響されて頑張っているそうだから。毎日朝練に励むのも、放課後ひたすらバドに打ち込むのも、そのせいなのだとか。
さすがにそこまで大袈裟に言われると心苦しい、と言うか光栄すぎて死にそう。しかも一つ屋根の下にいる都合上、ちょっぴり息苦しい。
そりゃ憧れてくれるのは結構だけどさ、そのうち幻滅させてしまいそうで怖い。私は大した人間でも無いんだから。
ふとした拍子に、目に入る。そんな距離感でいると、気が付くこともある。
大喜くんには仲の良い女の子がいる、ということとか。
蝶野雛さん、私と違って自信満々のスーパーエース。新体操全国上位、という逸材だ。顔の印刷も上々、でも距離感の測り方が独特なのがちょっと気になるか。初対面でいきなり「彼氏とかいるんですか」とか聞いてこないでほしい、そんなのはいないし別に欲しくない。
まあ、良い子ではあるだろう。憚りながら大喜くんの姉貴分を自称するようになりつつある私としては、二人が仲良くするのは構わない。
構わない、筈なんだけど。
なんだかどうも、気に入らない。私なんかが文句を言える立場ではないけど、なんとなく。どうにも二人が一緒にいると、ザワザワしてしまう。
……まったく、小さい子じゃあるまいし。
いや、はて。でもなんだか違う気もする。蝶野さんじゃなくて私を見なさい、なんてそんなのは――。
「そんなのは……なんだろうな」
この気持ちに名前はあるんだろうか、それにしても厄介だな。大袈裟にされるのは気恥ずかしいくせに、放っておかれるのも嫌なんだな私は。やれやれ、我ながら呆れるばかりだ。
こんな事で私は、ちゃんと大人になれるのだろうか。だろうか、じゃないな。そうやって他人事みたいにする辺りが、まだまだ子供だな。
今日も今日とて、部活に励む。こんな幼稚で卑屈な私へ敬意の眼差しを向けてくれる、可愛い後輩の為にも。
いつか自分に胸を張れるようになれたなら。誇りをもって前へ進められるようになれたなら。
その時は大喜くんに、恩返ししよう。こんな私を支えてくれる、大切な人だから。
もっともっと、頑張ろう。
蝶野さんにも負けていられない、私は勝ってみせる。……まあ全然違う競技で、勝ち負けもないけど。
さて、やってやるさ。見てなさい、大喜くん。