勝てるなんて思っていませんでした。
勝つつもりだって、ありませんでした。
『外からスノーハリケーン、あっという間に先頭に並びかけた!』
正直、このレースは負けていいレースだったと思います。
そんな気持ちで出るのも申し訳ないのですが、その上で好走さえすれば満足でした。
満足、というより十分だった、というべきでしょうか。
私は別にクラシックに興味があったわけではありませんでした。
確かにGⅠレース、重要レースではあるのですが。
だからといって、私の夢がこのレースを勝つことではない以上、勝つ必要は欠片もありませんでした。
好走さえすれば実績としては十分。
あとはなにか適当な重賞レースでも勝って、欧州に遠征するつもりでした。
私の夢は、日本の夢『凱旋門賞』です。
凱旋門賞を勝ちたかっただけなのです。
勿論茨の道ではあるのでしょう、けれど私はどうしても凱旋門賞が勝ちたかった。
だからこそ実績が欲しかったのです。
日本から欧州という遠い場所に行って、その場所の最高峰のレースに出られる程度の実績。
それこそがGⅠレースの好走。
私が一番求めていたもの、でした。
『スノーハリケーンがかわした! かわした!』
なぜ、私は今先頭を走っているのでしょうか。
なるほど、ここから私は差されるのでしょう。
だとしたら好走できないかもしれない、……それは嫌ですね。
あれ、でも。
私は確か、一番後ろから仕掛けませんでしたっけ?
『強い、後続を完全に引き離した!』
いけません、このままでは勝ってしまいます。
勝つつもりもない私が勝つなんて……でも、わざと減速するなんて、侮辱以外の何物でもない。
どうしよう、なんて。
そんなことを考える時間はありませんでした。
『スノーハリケーン、今ゴール! 9番人気の前評判を覆す圧勝でした!』
私は、ゴールをしていました。
ですが、私の心は申し訳なさでいっぱいです。
GⅠレースを勝ったというのに、私の心は酷く苦しい。
『3戦3勝で見事無敗の皐月賞ウマ娘となりました、スノーハリケーン! 6年振り、ミホノブルボン以来の達成です! 2着はセイウンスカイ、3着はキングヘイロー!』
後ろには悔しそうな表情をしたウマ娘達。
ああ、私はこんなに悔しがれる人たちに勝ったのか。
そのことを今一度認識して、私の心はズキンと痛みました。
けれど申し訳ない表情をするわけにはいきません。
それは皆さんを愚弄する行為です。
必死に、表情を固めました。
このあとに皐月賞ウマ娘となった私の記者会見があると思うと、やはり憂鬱になりました。