連作 『雨の日に』   作:あずき犬

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旅先で出会った物(可愛い子には旅をさせろ)

急に漠然とした不安を抱いた僕は、昼から学校を抜け出して家に戻り、貯まりに貯まった落とし玉やら、着替えやらを親父のリュックに詰め込んで、初めて旅というものに出てみた。

 

 

 

 

特に行くあても無かったので、友達から聞いた電車乗り放題の切符というものを買って、専用列車に乗り込み、目が覚めた適当な田舎の駅で電車を降りた。

興味も無いので駅名すら見ていない。

無人駅。勝手に降りていいものかと、誰もいない改札口でうろうろしていると、いかにも地元のおっちゃんという感じの人に声をかけられた。

バスに揺られて随分時間が過ぎた。窓から見える景色は霧雨に煙る緑の水田。それだけ。

ずっと窓の外を眺めている。なぜならば、横に座るおっちゃんが僕の肩に顔を乗せて大いびきで爆睡しているから。

 

なんやかんやで、家出をしてきたことを口走ってしまった。

 

「暇なら手伝え」

 

おっちゃんの持っていた荷物を持たされて、一緒にバスに乗った。

ムシムシと蒸れるバスの中、雨が入るので窓を開ける事が出来ない。天井で古びた扇風機が頑張って回っているが、蒸し暑い空気を掻き回しているだけである。

少し曇った窓を拭き、景色を眺める。

 

相変わらずの緑の水田。

急に横のおっちゃんがガクンと首を落として目を覚ました。

と、同時にバスが止まる。

霧雨の中、おっちゃんと僕は水田の間に果てしなく続く道を歩いている。

湿度120パーセントのバスの中に比べれば、吹き抜ける霧雨混じりの風が気持ちいい。

 

おっちゃんの家は、水田に張り出した森の中にあった。出迎えてくれたおばちゃんが優しく迎えてくれた。

それから日が暮れるまで、僕はおっちゃんに頼まれた用事を次から次とこなしていった。

井戸の水汲みは腰が入ってないと怒鳴られ、牛の餌やりでは、わざと餌箱に顔を近づけられて、顔中が涎まみれになった。

でも、薪割りの時に、筋がいいと褒めてくれた。

いやいや続けていた剣道がこんな所で役に立つとは思わなかった。

 

おばちゃんが作ってくれた夕飯をみんなで食べる。

湯気を立てるご飯。おっちゃんが釣ってきた焼き魚。僕とおばちゃんで収穫した野菜。

 

僕が割った蒔きを燃やしておっちゃんと風呂に入った。

ひょろひょろの僕の体を見て、もっと飯を食えと怒鳴りつけた。

 

夜、蚊帳に入って、おっちゃんと布団を並べた。

 

僕はおっちゃんに僕の悩みについて聞いてみた。

 

おっちゃんは笑い飛ばすかと思ったが、真剣な顔で僕を見ていた。

 

「空気にな、湿気が多くなると、人の心が伝わりやくなる」

 

特にこの梅雨の時期。悩む僕を放って置けなかったのもそのせいだと言った。

おっちゃんはたどたどしく、慣れない言葉を使って、僕に田舎での生き方を教えてくれた。

僕なりに要約する。

田舎の生活に無駄な事は一つもない。労働は直ぐにその対価を与えてくれる。薪割りしかり、収穫しかり。でも、なかなか対価をくれないものもある。

米作り、野菜畑、牛の世話。直ぐに対価を得ることが出来ないもの。生きていく上の悩みは殆どそんなものだろう。

まず動きなさい。すぐに対価は求めてはいけない。必ずいつかは僕の所に返ってくるから。

 

次の日、僕は霧雨の中、家に向かって帰ることにした。

 

 

 

 

「さてと」

 

おっちゃんと呼ばれた男性は襖を開けて端末を取り出す。目の前に浮かび上がるディスプレイ。端末に、若い女性の姿が映る。

 

『ご苦労様でした。現時点、内政省から入金がありました』

 

ディスプレイが消えると同時に、周囲に展開された3Dリアルホログラムが解除されていく。

 

興廃した荒れ地に点在する巨大なガラスのドーム。

もう、この国に緑豊かな田舎など存在しない。

 

都会という地上のコロニーの中、管理されて生き延びる人達。現実から乖離されている彼等の心に稀に生まれる違和感。続発する自傷行為。

頭を悩ませた政府は、気象管理局が試験的に導入した梅雨を利用し、それに連動した民間委託による教育管理システムを構築した。

あの列車の切符を手にした者はみな、再教育システムに組み込まれていく。

 

 

 

 

「3Dリアルホログラムはよく出来ていたよ」

 

音声認識装置に話かけ、腕に巻いていた干渉装置を外してディスプレイに目を戻す。

ネットに広がる情報はどうやら本当らしい。

 

 

―― おしまい ――

 

 

【1727文字。一人称。青春18切符、いまでもあるのかな。二段落ちに挑戦。でもこれは失敗作。気が変われば削除します。一定のクオリティを維持するのが本当に難しい。】

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