「ターボ知ってるよ! ターフの中にはね、カミサマがいるんだ!」

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「何か」が見えたキタサンブラックの話

■

 

 え?

 ……ああ、うん。

 あたし、手、振ったよ。

 いや、空、っていうより、お日さまに。

 なんで、って……あ、そっか。

 そういえば、ダイヤちゃんにはこのお話、まだしてなかったっけ。

 少し、長くなるんだけど、いい?

 

 えっと、確かあれって、半年くらい前のことだったかな。

 ほら、あたし、少し前にターボさんのお世話になった時があったじゃん。

 そうそう、ヘリオスさんとパーマーさん、それにテイオーさんとネイチャさんも一緒だった。

 それで、その人たちと一緒にトレーニングをさせてもらう日が、しばらく続いたんだけど。

 

 ちょうど、その日だけかな。珍しく、他の人たちがみんな都合でいなくて。

 ターボさんとあたしの二人だけでトレーニングした日があったんだよね。

 まあでも、ほら。ターボさんって、ちょっと飽きっぽいところもあるからさ。

 その日は一応トレーニングもしたんだけど、途中からお喋りばっかりしてて。

 食堂の新しいメニューとか、読んでるマンガとか、そういうお話をしてたんだよね。

 

 それで、どういう話の流れかっていうのは、忘れちゃったんだけど。

 あたしが「神様って本当にいるんですかね?」みたいなことを、言ったの。

 そしたらさターボさん、すぐにこう答えたの。

 「ターボ見たことあるよ! ターフの中にはね、カミサマがいるんだ!」って。

 

 急にそんなこと言われたから、あたし、びっくりしちゃってさ。

 でも、ターボさんがウソをついてるようには、見えなかったんだよね。

 なんだろう。あの人って、ウソをつくときすぐにバレちゃうからさ。

 そもそも、そんなウソをついたって、ターボさんの得になるとも思えないし。

 だから、そこはひとまず、ターボさんのお話を聞くことにしたの。

 

 ……あ、うん。それはあたしも思った。

 もしかして、そのカミサマって三女神さまのことじゃないかなー、って。

 でもね、ターボさんのお話を聞いてると、どうも三女神さまとはまた違う神様みたいで。

 「カミサマは、たまにレースの時に応援してくれるんだ」とか。

 「そうするとね、力がすっごく湧いてきて、レースに勝てるんだ!」とか。

 なんだか、だんだん話が怪しい方向に進み始めちゃってさ。

 止めようにもターボさん、その神様について話してるときは、すっごく楽しそうだったし。

 とりあえず聞き流すのも失礼だから、その神様について聞いてみよう、って思ったの。

 

 どんな神様なんですか、って聞いたら、「白くって大きな手なんだ」って。

 その神様は、何をしてくれるんですか、って聞いたら、「空から応援してくれる」って。

 あたしにも見られますかね? って聞いたら、「レース中、空を見たら見えるかも!」って。

 まあ正直、聞いてもあたしにはよく分かんなくってさ。

 その日はもう時間が来たから、ターボさんとは別れちゃったの。

 

 でも、それからしばらく経っても、ターボさんのそのお話が忘れられなくってさ。 

 もしかしたら、あたしに見えてないだけで、他の人には見えてるんじゃ? って思ったのね。

 いや、だって、ターボさんがあんなに楽しそうにお話してたからさ。

 その時は半分以上、そういうのがいる、って思わざるを得なかったんだよ。

 だから、とにかく、その神様について他の人にも聴いてみよう、って思って。

 それで思い当たったのが、あの人なんだよね。

 

 あ、そうそう。マチカネフクキタルさん。

 ほら、あの人って確か、神社の娘さんでしょ?

 だから、そういう神様についても詳しいんじゃないかな、って。

 

 それで、フクキタルさんのところに行って、ターボさんのお話をまるまるお伝えしたんだけど。

 「聞いたことありませんね」って、フクキタルさん、不思議そうに答えててさ。

 ああ、やっぱり見えてないんだ、って安心もあったんだけど。

 それよりも、フクキタルさんでも知らないんだ、っていう驚きの方が強かったの。

 でも、やっぱり神社の娘さんって凄いんだね。

 「少なくとも神霊の類ではなさそうですね。土着神とか、そちらの方が近いかもしれません」

 みたいなことを、パッと言ってくれてさ。流石、って感じで。

 そこから、その神様について調べるあたしに、協力してくれたんだ。

 

 その日はまだ時間があったから、図書館でそういう文献とか、ちょっと探してみたんだけど。

 やっぱり、ターボさんが言ってるようなお話は、ぜんぜん見つからなくって。

 そしたらフクキタルさん、怖いこと言い出したの。

 「もしかすると、怪異の類かもしれませんよ」って。

 今更、って思うかもしれないけど、あたしそこですっごく怖くなっちゃってさ。

 もしそうだったらどうしよう、ってなってると、フクキタルさん、

 「安心してください。詳しい方を知っているので!」

 なんて、すごく得意そうに言ってくれたんだ。

 それでまあ、その日は一旦お開きになって。

 翌日になって、フクキタルさんと一緒にその人に会いに行ったの。

 そう。その人が、マンハッタンカフェさん。

 

 マンハッタンカフェさんと、マチカネフクキタルさん、元々知り合いだったみたいでさ。

 「アナタが解決できなかった人を私に回すのは、そろそろやめてほしいのですが」とか。

 「そんなこと言わないでくださいよ、私とカフェさんの仲じゃないですか」とか。

 ね、意外だよね。あの二人、そこそこ仲良しだったらしいの。

 それで、カフェさんがフクキタルさんに、「でも、気になるでしょう?」なんて言われて。

 カフェさん、嫌そうだったけど「放っておいたら危険そうですしね」って答えてくれて。

 まあ、そこから、あたしのお話っていうか、ターボさんが言っていたことをそのまま伝えたの。

 そしたらカフェさん、急に「一度、レースをしてみましょうか」なんてこと言い出してさ。

 「模擬レースですか?」「はい。それでも、できるだけ本番に近づけたものを」

 「勝負服とかも必要ですかね?」「発バ機の利用申請もしておきます」

 みたいな感じで、なんだか二人だけでどんどん話が進んじゃって。

 

 たぶん、あの二人の間で、何か共通する考えがあったんだろうね。

 今のところ何も分からないけど、こうしてみたら、少なくとも何か分かるんじゃないか、って。

 ほら、二人とも、そういうのには詳しい人だからさ。

 それが多分、模範解答、とか、マニュアル、みたいなものだったんじゃないかな。

 

 まあ、それであたし、完全に置いてけぼり喰らっちゃってさ。

 「では、私たちとターボさんの四人で、また後日」って。

 何が何だか分かんないまま、とりあえず模擬レースする流れになったのね。

 

 それでまあ、普通にレース当日になって。

 あたしとターボさん、カフェさん、フクキタルさんの四人が集まってさ。

 お昼くらいだったかな。太陽が、真上にあったのは覚えてる。

 「変なメンバーだな!」ってターボさんが言って、まあ、確かに、ってなって。

 特にカフェさんとターボさんとか、初めましてだから、そこの挨拶とかして。

 それが終わったら、コース入りして、発バ機の中に入った時にね。

 一応、スタートする直前に、もう一回ターボさんに最終確認したんだ。

 ほんとに空を見上げたら見えるの、って。

 そしたら、やっぱりターボさん、楽しそうに、「もちろんだぞ!」って言ってて。

 フクキタルさんとカフェさんも、それで了解っていうか、納得したみたいで。

 やっぱりあたしだけ、なんだかよく分かんないままだったんだけど。

 とにかく、それでレースを始めたのね。

 

 まあ、普通のレースだったよ?

 スタートも普通に切ったし、ターボさんとは脚質が一緒だから、競り合ってさ。

 後ろの方ではフクキタルさんとカフェさんがあたしたちのことを狙ってて。

 一応、目的は別だけど、だからって負けるのもなんだか、嫌じゃん。

 だから、ちょっと本気になっちゃって。

 第四コーナーに入ってから、ようやく思い出したの。

 あ、空を見上げなきゃ、って。

 

 そしたらさ、『いた』の。

 いや、『いた』っていうより……『あった』なのかな、それとも『映ってた』?

 そこは正直、よく分かんないんだけどさ。

 でも、あたしたちの言葉で表すなら、たぶん、『いた』んだと思う。

 

 うん。

 空にぽっかり浮かんでる太陽の真ん中に。

 あたしたちのことを、じーっとみつめてる、おっきなひとみが。

 

 それ見た瞬間、思わずあたし、脚止めちゃってさ。

 フクキタルさんとカフェさんも、あたしより先に気づいてたみたいで。

 たぶん、二人とも、あたしと同じものが見えてたんだと思うよ。

 だってそうじゃなかったら、あんな怖い顔してないもん。

 

 それからあたしたち、ずーっとその太陽のひとみを眺め続けてて。

 なんだろうなあ。目を逸らしちゃダメ、って思ったんだよね。

 ああ、いや、違うの。怖いとか、そういうのじゃなくて。

 ちゃんと向き合わないと、みたいな。上手く言えないけど、そんな感じ。

 

 だってさ。

 そのひとみがね、まばたき、してたんだ。

 ってことは、ちゃんとあたしたちのことを、見てくれてる、ってことでしょ?

 それなら、ちゃんと、一人のウマ娘として向き合ってあげないと。

 ほら、トレーナーにダンスのレッスンを受けてるときも、同じこと言われない?

 たぶん、そういうことだと思うよ?

 

 でも、ちょっとだけ悪いことしちゃったかなあ。

 だって、そのひとみがね、しばらくすると急に慌てたみたいに、こう。

 ほら、目が泳ぐ、ってよく言うじゃん? あれみたいになってさ。

 そしたら、太陽の後ろから、ぬぅ、って。

 白くっておっきな手が、出てきてさ。

 そのひとみをね、隠したんだ。

 

 それから、どれくらいだろう。

 たぶん、十分とかかな。意外と長い間、あたしたちはその太陽と向き合ってて。

 「もしかして、カミサマ見えた!?」ってターボさんの言葉で、我に返って。

 一度ターボさんの方を見てから、もう一回、太陽を見たんだけど。

 当然っていうか、太陽にひとみなんかあるわけなくて。

 でも、幻覚じゃないよ。

 だってフクキタルさんとカフェさんも、あたしと同じような顔、してたもん。

 

 「あれが、カミサマですか?」「そうだぞ」「カミサマって、手だけじゃないんですか?」

 「……なんで? 手だけの生き物なんて、いないぞ?」「そういう訳ではなく」

 みたいな話を三人がしてるけど、やっぱりそこでもあたしは、ついていけなくて。

 「結局、あれって何なんですか?」

 話が一通り落ち着いてから、ターボさんに改めてそう聞いたんだけどね。

 「カミサマだぞ」

 やっぱり、ターボさん、そうとしか言わなかったんだよねえ。

 

 それから翌日、改めてフクキタルさんとカフェさんと集まって、お話をしたんだけど。

 「一体、あれは何だったんでしょうね」「さあ?」なんて、二人もお手上げって感じで。

 「本当にカミサマだったのでは?」「確かに、それっぽくはありましたが」

 「でも、宇宙人とか何かだとしたら、そちらの方が怖いでしょう」

 「あるいは、もっと別の何かかもしれませんね」「何か、って何ですか?」

 「私たちの言葉では表すことのできない、私たちがまだ知り得ない、何か」

 そうやって色々、想像したり予測を立ててみたりは一応、したんだけど。

 結局、あのひとみが何だったのかは、よく分かんなかったんだよね。

 あ、でも、一個だけ、悪いものじゃない、っていうのは分かったんだ。

 なんで、って……そりゃ、まあ。

 あんなに、恥ずかしがってたんだし。

 

 それから結構、たぶん一週間くらいかな、時間が空いてさ。

 また、ターボさんと二人っきりでトレーニングするときがあってね。

 その時、あたし、ターボさんに注意されたんだ。

 「カミサマは恥ずかしがり屋さんだから、そんなに見つめちゃダメだぞ」って。

 いや、あたしも、そんなに見つめるつもりはなかったんだけど。

 まあ結果としては、恥ずかしがらせるようなことになっちゃったから。

 ごめんなさい、って謝ったんだよね。

 

 「あんまり『ファンサ』しすぎるのもよくないんだぞ」

 なんてこと、ターボさんに言われちゃってさ。

 それと、ほら。えっと、あの……そう、あの人。デジタルさん。

 あの人とお話してると練習になる、ってターボさんは言ってたよ。

 正直なところ、あたしには、よく分かんないんだけどさ。

 でも、さりげなく『ファンサ』すると喜んでくれるんだって。 

 

 けどさ、あたし、そこで気になったんだよね。

 あのひとみのことを、ファンって呼んでいいのかな、って。

 そしたらターボさんが、言ってきたの。

 「応援してくれるなら、それでいいんじゃないか」って。

 それはまあ、確かに、そうだけどさ。

 でも、それだと少しおかしいんだよね。

 ならどうしてターボさん、わざわざカミサマって呼んでるんだろうって。

 だから、聞いたの。

 そしたら。

 

 「だって、カミサマって元々はお日さまなんでしょ?」

 ほら、日本神話にいたよね。天照大御神、ってカミサマ。

 あのカミサマのお話の一つに、天岩戸って洞窟に隠れちゃうお話があるんだよね。

 まあ、だから、ってわけじゃないけどさ。

 たぶん、そういうことなんだろうね。

 

 あ、今?

 うん、ぜんぜん見えるよ。

 レースの時、空を見上げたら、『いる』んだ。

 大きなひとみで、あたしを見てくれて。

 白い手を振って応援してくれてるの。

 だから、あたしも手を振り返してるんだ。

 恥ずかしがり屋さんだから、少し控えめにだけどね。

 

 まあ、何かっていうと、そういうお話があってさ。

 ダイヤちゃんも気づいたときでいいから、空、見上げてみるといいよ。

 もしかしたら、ダイヤちゃんのことも、見守ってくれてるかもしれないし。

 

 あっ、やっとトレーニング場、空いたって!

 それじゃ行こっか、ダイヤちゃん!

 

■

 

 了

 






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