「好色淫乱な武蔵が鈴木君を救う話」を書いて一年経ちましたが、この話を読んでくださる方がまだ居られることに気を良くして書いてみました。

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武蔵が洗脳を解く話

私には想い人がいた。

想い人―――夏川君は、中学、高校と同じ学校に通っていた。

高校に上がった頃、私は夏川君のことが好きなんだと自覚した。

自覚はしたけど…それだけだった。

 

夏川君は本当に誰からも好かれる人だった。誰からも好かれる、ということはそれだけ存在感のある人だったと言うことだ。

対して私はどうなのか。

…嫌われてはいない、と言うだけだった。自分でも、自分の存在感が薄いと言うことはわかってた。

(そんな私にも、夏川君は話しかけてくれた。)

 

夏川君の周りには、いつも誰かがいた。男子もいたし…女子も…。

私の周りはどうだったか。…誰もいない、と言うわけじゃなかったけど、好きな本について話せる子が何人かいただけだった。

(夏川君と、本の話をしたことはあった。)

 

私と夏川君では、釣り合いがとれていないということは自覚できていた。

諦めた方が賢明なのだろうと、自分でもそう思っていた。

 

それでも私は、夏川君と同じ大学に進んだ。

 

…夏川君を追いかけての選択だったのだけど、そこから先の見通しはなくて、その先には進めずにいた。

高校の時と何も変わらない境遇。輝く夏川君。くすむ私。

 

夏川君と会話することもあったけど、本当にしたかった話はできないまま。

 

何も変わらないまま夏を迎えた頃、私は佐藤君…佐藤裕一君に出会った。

 

佐藤君は私と同じ基礎演習のクラスに所属していた。

その時まで、あまり親しく話すことはなかったのだけど。

 

その時、私は学生食堂にいた。その場には夏川君もいた。夏川君の周りには、何人か人が集まっていた。

私は少し離れたところから、その様子を見ていた。

もう少し近づきたい、話ができるところまで近寄りたい。

そう思ってはいても、くすんだ私が輝く夏川君に近づくことは叶わなかった。

そこに、佐藤君が現れた。

「隣、いいかな?」

 

私は拒まなかった。

佐藤君は私の隣に座ると、受け取った食事に手をつけながら、夏川君の方を見た。

「…夏川君、か…。完璧超人って言うのは、居るところには居るものなんだね。」

完璧超人。…佐藤君は夏川君のことを賞賛した。賞賛してくれた。

私は何故か喜んだ。喜ぶような理由は何もなかったはずなのだけど。

「彼の周りには女の子も結構集まってきているけど、彼はどんな子を選ぶのかなあ。」

私ではない。それは確かだった。くすんだ私が夏川君に、いや、誰かに選ばれるなんてことがあるわけがない。

その事実が、私の心に重くのしかかった。

 

「そう言えば君、結構頻繁に髪型変えてるよね。」

…?

この頃、確かに私は頻繁に髪型を変えていた。髪は割と長く伸ばしていたので、毎日のように変化をつけていたと思う。

でも、特に誰に気づかれるというようなこともなかった…この時までは。

「ああ、ゴメン。急にこんな話振っちゃって。でも僕、そんな風に毎日何かを…自分を変えようとしている人には凄く惹かれるんだよね。」

…惹かれる?…私に…?

「いつも思ってたんだ。この子はいつも一生懸命なんだって、ね。初めは単なる興味だったけど、ずっと見ているうちに興味だけじゃなくなってきたんだ。そう…さっきも言ったけど、惹かれたんだ。」

…佐藤君は…ずっと私を…見て…。

「急に変な話しちゃったね。でも、君のこと、これからも見続けることぐらいは許してくれないかな。」

…私に惹かれてるって…今までずっと見てきたって…これからも、って…。

 

その日、私は佐藤君を受け容れた。

それから三日三晩、私と佐藤君は愛し合った。その三日間、大学にも行かずに、私と佐藤君はお互いを貪り合った。

夏川君を想って自らを慰めたことは何度もあったけど、実際に誰かを、佐藤君を私の中に迎え入れて得られたこの感覚は…悦びは…!

そして私は、佐藤君について行くことを心に誓った。

 

佐藤君とは、毎日のように交わり合った。佐藤君の部屋で交わることが多かったけれど、時々大学学舎の…あまり人目につかないところですることもあった。

佐藤君との行為は、私に今までの私を、くすんでいた私を忘れさせてくれた。

佐藤君を介して、お友達も増えた。

かおるちゃん、みなみちゃん、あいかちゃん…みんな素敵な子達だ。

私たちは時々佐藤君の部屋に集まり、みんなで佐藤君と楽しく、気持ち良く夜を過ごすこともあった。

佐藤君と愛し合うようになって、私は確実に変わることができた。

 

佐藤君との日々は充実していたけれど、完璧というわけではなかった。夏川君のことだ。

私はすっかり変わってしまったけれど、夏川君は相変わらず輝いていた。…輝いていた。

 

夏川君が輝いているからどうだと言うの?夏川君を気にしてどうするの?私はもう、佐藤君について行くと誓っているのに!

 

佐藤君と二人で、あるいは他の子を交えてする時、そうでなくても佐藤君達と一緒にいる時の私は、間違いなく幸せだ。

でも、ふと一人になった時…夏川君のことが私の心に影を落とす。

 

そしてこの時私は、心に夏川君の影を落としたまま、その喫茶店に居た。

所用で外出して、ちょっと休憩するつもりで立ち寄っただけだった。

紅茶でも飲んで、すぐ店を出るつもりだった。すぐに佐藤君達のところに飛んでいきたい気分だった。

けれども私の後ろの席から、話し声が聞こえてきた…。

 

「武蔵さん、ありがとう。…マジで良かったよ。」

「そうか、それは何よりだ…。私も満足させてもらった。」

「ね、ねえ武蔵さん…良かったら、さ…これからもボクと…。」

「構わんぞ。」

「え、ま、マジで?」

「ああ、セックスを楽しめる相手は何人いても良いからな。」

「え?何人いてもって…武蔵さん、他にもしてる相手…いるの?」

「ああ、提督、金剛、その他営業所の同僚達…営業所外で知り合った人間の何人か…何より、姉さんがいる。」

「ええー!?それじゃボク、武蔵さんにとっちゃその他大勢の一人なの?」

「何を言う。お前は私の体を楽しんだし、私もお前の体で楽しんだ。お前とはセックスを楽しむ仲になった。その他大勢の一人などではない。」

「でも武蔵さんは、提督さんとか金剛さんとかともセックスしてるんでしょう?何かセックスの特別さって言うか、そういうのが薄まっちゃうなあ。武蔵さんにとっては、セックスってのはただの遊びなの?」

「遊びだ。だが、ただの遊びという言い方には賛同できないな。」

 

「セックスは『気持いい』を分け合い、親愛の情を交わし合う遊びだ。人間にとって、我々にとって、とても大切な遊びだ。」

「だからこそ人間は、安全適切にセックスを遊ぶために技術を進歩させ、方法を論じ、相手を気遣い、自重することを学んで来たし、これからもそうして行くのだろう?」

「戦争によって科学は、人類は進歩したのだと言う者もいるようだが。」

「人類はセックスを通しても進歩できるし、そうしていた方が良かったんじゃないかと、私は思う。」

「…まあ、それだと私はこの世に生まれてこなかったわけだが。」

 

「…とりあえず、武蔵さんはまたボクと遊んでくれるってことでいいのかな?」

「勿論だ。私はよくこの辺を訪れる。見かけた時は声をかけるといい。都合が悪くなければ、応じようではないか。」

「ホントかなあ…それじゃ、次見かけた時に試させてもらうよ。いいかな?」

「いいとも。私も楽しみにしている。」

 

このやりとりの後、男の人は店を出て行った。

私の後ろには「武蔵」と呼ばれていた女の人がいた。

この人は何人もの相手とセックスをしていると言ったし、セックスは遊びだとも言った。

 

許せないと思った。

女が男の人に身を任せることって、遊び、なんて軽いことじゃないはずだ。

それに、何人もの相手とセックスするっていうのは、女としてあまりに不実じゃないのか。その人達の誰かを、あるいはその人達全てを裏切っているとは思わないのか。

私の心には、反感と怒りが溜まっていった。

 

…その時…。

 

「後ろの方、すまないが私に殺気を向けるのは止めてくれないか。」

 

 

******************************

 

 

「姿を見せろと言ったわけではないのだがな。」

私・黒鉄武蔵は「殺気を向けるのは止めてくれ」と言っただけだったのだが、彼女は私の正面に席を移してきた。

 

もうそろそろ暑くなる頃だというのに、肌の露出がほとんどない、サイズ大きめな灰色のトップス。

黒のロングスカート、白のソックスに黒のローファー。肌を見せることを極力避けるような装い。

髪は…一口に言って「何の変哲もない」ロングヘア。「何の変哲もない」とは言ったが、丁寧にケアされていることは見て取れる。

顔は…大きなラウンドフレームの眼鏡がまず目につく。ほとんど仮面じゃないかと思うほどだ。

しかしその仮面のような眼鏡を通して見える顔は幼さと…確かな色香がある。

それから、肌を見せることを極力避けるような装いで覆われてしまっているが、豊かな体つきまでは覆い切れていない。

うちの艦娘で言えば…愛宕の体形が近いだろうか。この体に迎え入れられる男が居れば、その男は幸せ者に違いない。

 

…その彼女が私に憤りを向けて、私の正面に座っていた。

「貴女と私は初対面だと思ったが、何処かで会ったかな?」

「いえ、確かに初対面です。」

「それなら私は、貴女に憤りを向けられる覚えはないが。」

 

「ごめんなさい。でも、私にはあなたの…態度が、考え方が許せないんです。」

…態度や考え方が許せない、などと言われてもな…。

迂闊に「殺気を向けるのは止めてくれ」と口にしたことで、面倒ごとを招いてしまったようだ。

どうも私は、他所の武蔵に比べて軽率なところがあるらしい。

あるいは、運が悪いのか…。

 

まともに相手をしても仕方がないが、どうやら言いたいことを一通り言わせないと治らないようだ。

私はテキトーな相槌と、テキトーな質問で彼女をやり過ごすことにした。

(「テキトー」というのは、「適当」ではない。あくまでも「テキトー」だ。)

 

「私の態度や、考え方…というと?」

「あなたはセックスは遊びだと言いましたけど、女にとって男の人に身を任せると言うことは、重い意味があるんです。遊び、なんて一言で軽く扱っていいことじゃないでしょう。」

「不躾な質問をしてしまうが、貴女はセックスをしたことがないのか。」

「ば、バカにしないでください!私だってセックスはしています。私は佐藤君と日々愛し合っているんですから!」

「佐藤…。」

「何か?」

「いや、何でもない。」

私はここで、もう会うことはないであろう友、鈴木のことと、その鈴木を一度絶望の淵に追い込んだ男、佐藤のことをふと思い出した。

偶然だろう、佐藤なんてそう珍しい苗字ではない。私は質問を続けた。

「佐藤とやらと愛し合うのは気持ちよくないのか?楽しくないのか?」

「た、楽しいに決まってるでしょう!私は佐藤君と愛し合って、心も体も満たされていますっ!」

「して楽しいことなら、それは遊びとしての一面を持っているとは思わないのか。」

「…!それは…!で、でも私にとって、佐藤君と愛し合うことは大切なことなんです!愛し合うことを遊び、って軽く扱うのは…!」

「貴女にとって遊びは軽く扱われることのようだが、私にとって遊びは軽く扱われるべきことではない。私にとって遊ぶことは生きること、生きることは遊ぶことだ。」

 

「だから私がセックスを遊びだと言ったとしても、それは私がセックスを軽く扱っているということにはならない。」

「…と言うか、私からすれば、貴女こそ遊びを軽く扱うのか、生きると言うことを軽く扱うのかと憤りたいぐらいなのだが?」

 

もう少し突っ込んでくるかと思ったが、彼女はここで話を変えた。

 

「あなたは、何人もの相手とセックスをしてるんですよね。」

「ああ、提督、金剛、その他営業所の同僚達…営業所外で知り合った人間の何人か…あと、姉さんだ。」

「そんなに何人もの人とセックスして、あなたはその人達に対して自分が不実だと思わないんですか。自分がその人達を裏切っているとは思わないんですか。」

セックスの相手に「姉さん(大和)」を挙げたことについての指摘はなかった。私も余計なことは言わず、彼女の質問に答えた。

「思わんね。」

「それじゃ、例えば提督さんと他の女性がセックスしていたら、あなたはどう思うんですか?」

「していたらと言ったが、実際している。」

「え。」

「提督と金剛は実際にセックスしている。」

「えっ、でも、金剛って…あなたのセックスの相手じゃ…。」

私のセックス相手と言うことで、彼女は金剛のことを男性と思っていたようだ。

「金剛は女の肉体を持った存在だ。私は…まあ、バイセクシャルというやつでな。男も女も受け容れられるんだ。」

端折りすぎではあるが、別に嘘は言っていない。私は話を続けた。

「提督と金剛の仲は睦まじい。そして二人はお互いを受け容れることができる。そんな二人の交わりは、妨げられるべきではないと思う。」

「男の人っていくつも愛を持っているのね、なんて歌の歌詞があったが、男も女も、愛…とまでは言わずとも、親しみや好意と言った気持ちはいくつ持ってたって良いんじゃないか。」

「それでお互いに好意を持って、お互いに受け容れられるのなら、セックスという遊びを通して親愛の情を交わし合うという流れは、ごく自然な流れなんじゃないか。お互い他にも好きな相手が居るということは、この流れを妨げる理由にはならないんじゃないか。勿論、親愛の情を交わし合う方法はセックスでなくても構わないわけだが。」

 

「愛は、愛する一人の人に捧げるべき気持ちです。…私は、佐藤君に愛を捧げると決めたんです。」

 

テキトーに相槌を打って、テキトーな質問をしてやり過ごすつもりであったが、気がつけば割と真面目に対話に応じていた。軌道を修正しなければ。

「佐藤君に愛を捧げると決めた、か。それは貴女にとって決断であったわけだな。」

「貴女は何故そう決断したのだ。」

 

「私は、夏川君という人に憧れていました。夏川君は本当に、誰から見ても完璧な人で…。私は憧れてはいましたけど、こんな…くすんだ私じゃ、輝いてる夏川君には相応しくない…。」

「でも、佐藤君は、こんなにくすんでいた私を見てくれたんです。それだけじゃなくて、こんな私に惹かれたって…好きって言ってくれて…。」

 

…聞き覚えのある話だ。…この佐藤という男…まさか…。

「…話を聞いただけだが、私はどうもその佐藤という男には好感が持てないな。なんだか貴女の傷心につけ込んで貴女をモノにしただけのような…。」

「佐藤君を悪く言わないでくださいっ!」

彼女は急に大声を上げた。

 

「佐藤君は優しいんです!私だけじゃなくて、かおるちゃん、みなみちゃん、あいかちゃんにも…優しい人なんです!」

「!?」

 

私は一瞬息を飲んだ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…そのかおるちゃんとか、みなみちゃんとか、あいかちゃんとか言うのは何なのだ?」

「佐藤君のお友達です。私のお友達です。」

「佐藤君とやらは、その三人にも優しいと言うことだが…。」

「私たち、だいたい一緒に居るんです。一緒に遊びに行ったり、一緒にお泊まりしたり。」

「お泊まり?佐藤も交えてか?」

「当たり前でしょう?」

「佐藤を交えてお泊まりと言うことは、ちょっと聞きにくいが…セックスも?」

「当たり前です。佐藤君は優しいだけじゃなくて、凄いんです。」

 

白状すると、私はここで酷く混乱した。

「待ってくれ…待ってくれ…私は、貴女という人間がわからなくなってしまった。」

「初対面のあなたが私の何をわかっていたって言うんですか。」

「いや、私の貴女に対する理解など、所詮決めつけや偏見に過ぎないと言うことは承知しているが…。わからなくなってしまった、というのはその決めつけや偏見が吹き飛んで、空白になってしまったということなのだ。」

「どういう意味ですか。」

「そもそも貴女は私の何が気に入らなかった?」

「セックスを遊びと言ったり、それで何人もの相手とセックスするようなところです。」

「貴女は佐藤と、かおるちゃん、みなみちゃん、あいかちゃんとお泊まりをして、セックスを楽しむこともあるのだな?」

「そうですけど。」

「貴女は私が何人もの相手とセックスするようなところが気に入らないと言うことだったが…佐藤が貴女、かおるちゃん、みなみちゃん、あいかちゃんとセックスすることについては何とも思わないのか?」

「……!?」

「私が許されなくて、佐藤が許される理由は何なのだ?」

「それ…は…佐藤君…は…佐藤君…だ…から…。」

…それが本当に理由になると思っているのか?この疑問は抑え、私は質問を続けた。

「…貴女は佐藤君とそういう仲になってから、佐藤以外の男性に近づいたか?佐藤以外の男性と、何か話をしたか?」

「私…は…佐藤君、を…。」

「愛しているから他の男には近づかないというのか?他の男とは話さないというのか?」

「だ、だ…って…。」

「佐藤はかおるちゃん、みなみちゃん、あいかちゃんとも話すし、セックスもしているのだろう?何故貴女は佐藤以外の男と話すことはおろか、近づくこともできないのだ?」

「それは…それは…。」

「貴女は夏川君という人に憧れていたと言っていたな。佐藤とこういう仲になってから、夏川君とはどうなった。」

「………。」

「佐藤は貴女を見ていた。貴女はそれで佐藤に愛を誓ったと言ったが、貴女はその時夏川君に対して何か行動を起こしていたか?」

「私が…私なんかが、何をしても…。」

 

「佐藤は貴女を見ていた。なら佐藤は夏川君に憧れる貴女を応援しても良かったはずだ。だが、佐藤はそうはしなかった。」

「佐藤は貴女を見ていた。だが佐藤も、貴女が夏川君に対して何をしても無駄だと思っていたのではないか?」

「そして佐藤は、貴女を自分のモノにするために、この状況を利用しただけなのではないか…。」

 

「あ…あ…ああああ!」

彼女は絶叫した。

 

彼女を落ち着かせ、店の人に頭を下げてから、私は彼女の相手を続けた。

「あ…私…私…何てことを…。」

私自身が酷く混乱して、矢継早に疑問を畳みかけてしまったことで、図らずも彼女に仕掛けられた洗脳を解いてしまったようだ。

「私…汚れちゃった…。」

「…その『汚れた』というのが、佐藤とセックスし続けてきたことを指して言っているのなら、私の前でそういう言葉遣いはしないでくれ。」

「でも…。」

「セックスは汚らわしいことなどでは断じてない。佐藤などに抱かれたからと言って、自分を『汚れた』と見なすことは貴女自身を追い込むだけではなく、私を不愉快な気分にさせる。自分を『汚れた』などと考えるのは止めてくれ。」

彼女はしばらく沈黙して、私に問うた。

「私…これから、どうしたら…。」

「すまない、私にもあまり先の見通しは立っていない…。だが、貴女は佐藤から離れなければならない。」

「でも。」

「離れるんだ。このまま佐藤の側に居続けては、貴女はそのうち人間ではなくなってしまう。」

私は名刺を彼女に手渡した。

「これは…。」

「くどいようだが、貴女はまず佐藤から離れなければならない。そして、もしそのことで貴女が身の危険を感じるようなら、そこへ…海神警備・岩川台営業所に連絡してくれ。」

「身の危険って…。」

 

「話の内容次第では、料金をいただくことになるかもしれない。料金、と言う点に抵抗があるなら、身の危険を感じた時は即座に警察に駆け込んでくれ。躊躇してはいけない。」

「…正式に岩川台営業所へ身辺警護を依頼したり、警察に駆け込む前に、何か相談したいことがあったら、岩川台営業所敷地内にある甘味処・『間宮』に来てくれ、武蔵からここを紹介されたと言えば、そこに居る艦娘の誰かが相談に乗ってくれるはずだ。」

 

…彼女は名刺を手に取ると、力なく店を後にした。

 




本当は武蔵と佐藤を直接対決!させた方が良かったのかもしれませんが、いかんせん私の才では…。この後、岩川台営業所の艦娘達からの全面攻撃によって、佐藤が完全に(社会的に)息の根を止められる様を想像していただければ、と思っております。


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