目が覚めたらIF世界ドイツ総統(美女)になってたので、少しでもマシな戦後を目指す 作:夜叉烏
仇敵の見送り
「艦影見ゆ!左20度、戦艦と思われる大型艦1、小型艦4。距離29000!」
「ジブラルタルを警備中のイギリス海軍だな」
重巡洋艦『ドイッチュラント』の艦橋に届けられた見張り員の報告に、司令官席に腰を預けている艦隊司令ロルフ・カールス少将が誰ともなしに呟いた。
カール・ツァイス社製の双眼鏡で報告された方向を確認すると、確かに大型の艦影が1つ、小型のそれが3つ見えている。
重巡『ドイッチュラント』以下、最新鋭のZ級駆逐艦4隻、補給艦『アルトマルク』『ノルトマルク』にて編成され、地中海に浮かぶサルディーニャ島のイタリア海軍泊地を目指していた艦隊は、ジブラルタル付近を警備しているイギリス海軍と邂逅したのだ。
とはいえ、事前にイギリスにはジブラルタル海峡の通過を伝えてあるため、特に問題にはならないが。
「艦型は何だ?」
「大型艦はクイーン・エリザベス級乃至リヴェンジ級。小型艦はB級駆逐艦と思われます」
『ドイッチュラント』艦長パウル・ファンガー大佐が問いかけ、見張り員は艦型を見抜いて報告する。
クイーン・エリザベス級、リヴェンジ級は速力が遅いものの、42口径38.1センチ連装砲4基8門と、ドイツ本国で近代化改装中であるバイエルン級戦艦とほぼ同等の火力を持ち、防御力も申し分ない。イギリス海軍自慢の超弩級戦艦だ。
イギリス海軍は両級を5隻ずつ、"ビッグセブン"の異名を持つネルソン級2隻、巡洋戦艦『フッド』『レナウン』『レパルス』といった大型艦を揃え、さらに新造艦の建造も行っている。
ドイツとの海上戦力の差は、比較するべくもないだろう。
嘗て、日本やアメリカの海軍を優にしのぎ、世界第二位の海軍国として、イギリス海軍と鎬を削っていたドイツ帝国海軍の面影は、全くない。
第一次大戦にて、帝国海軍の一員として巡洋艦『ブレスラウ』に乗り組んでいたカールスは、その事実に一抹の悔しさを感じていた。
(いや、我が海軍はこれからだ)
だが、ドイツとて足踏みしているばかりではない。
キールやブレーマーファーフェンでは新鋭戦艦をはじめとした艦艇の建造が進んでいるし、バイエルン級の改装も間もなく終了する。兵站維持に必須な輸送船等の支援艦艇、敵の補給線に大打撃を与えるUボート、Sボートも、かなりの数が揃う。
ドイツとイギリスが争うこととなった際、自分たちを侮っていた彼らの驚く顔が目に浮かぶ…。カールスは内心でほくそ笑んだ。
――ジブラルタル海峡へ近づいていくにつれ、イギリス艦隊の艦影も大きくなっていく。
見張り員の「リヴェンジ級との距離、8000!」の報告と同時に、カールスは自身の双眼鏡でイギリス艦隊…その旗艦であろう戦艦を観察する。
光学機器の名門であるカールツァイス社製の双眼鏡とはいえ、流石に見張り員がよく使う据え置き式の大型のものには及ばないが、この距離であれば対象をはっきり確認できた。
戦艦らしいボリュームのある艦体、背負い式に配置された連装4基8門の主砲塔、中央部に屹立するがっしりした艦橋とひょろ長い三脚檣が良く見える。
さらに距離が近づき、薄っすらと甲板で作業する乗員が見えた。恐らく、彼らも『ドイッチュラント』を遠巻きに見ているのだろう。
(本艦の姿に戸惑っているかな?)
カールスは自問した。
というのも、『ドイッチュラント』の艦様は1933年の就役時に比べ、かなり様変わりしているのだ。
就役時は、箱型の艦橋とその上面から突き出るような単脚式の細長いマストが聳えていたのだが、改装によって細長い台形をした塔型艦橋が据えられた。
史実の『アドミラル・シェーア』『アドミラル・グラーフ・シュペー』と同様のもので、比較的凹凸が少ないすっきりとした形状となっている。
それに加え、それまで装備されていた副砲、及び魚雷発射管が全廃され、65口径10.5センチ連装高角砲SKC/33が合計7基、56口径37ミリ連装機銃Flak36 8基、75口径20ミリ単装機銃Flak35 14丁と、対空火力が著しく強化され、その艦上は針鼠のような様相を呈している。
前後に1基ずつ搭載した28センチ三連装砲は変わらないが、それでも就役時の面影は殆ど残っていない。
もしかしたら、あの戦艦の見張り員は、艦型の識別に苦労しているのかもしれない。
「艦長、イギリス艦隊に信号。『貴艦隊ノ航海ノ無事ヲ祈ル』」
「了解」
カールスの命令を受け、ファンガーが信号員に命じ、『ドイッチュラント』のマストに信号旗が掲げられた。
そのままイギリス艦隊と、7000メートルの距離を置いてすれ違う。
「イギリス艦隊より信号。『貴艦隊ノ航海ノ無事ヲ祈ル』」
イギリス戦艦の艦上にも信号旗が掲げられ、双方共に相手の航海の無事を祈ったところで、彼らは「用は済んだ」とばかりにドイツ艦隊の後方へ立ち去っていく。
何ともあっさりしていた。
「やれやれ。正直、距離8000まで近づいたときは、反射的に砲撃開始を命じそうになりました」
すっかり緊張が解けたファンガーが、そう言ってカールスに笑いかけた。
大改装により防御力が大幅に向上したとはいえ、『ドイッチュラント』はあくまで重巡。もし、あの距離で38センチ砲弾を食らおうものなら、1発轟沈もあり得た。
今はイギリスと敵対関係にない平時の状態であり、発砲してくることはまずないが、戦艦のすぐ横を通り過ぎるのは、かなりの心理的圧力がかかったらしい。
「気持ちは分からんでもないが、安心するのはまだ早いぞ。我々は義勇軍としてここに来ている。我が艦隊が攻撃に晒される可能性は十分にあるのだ」
カールス率いるこの艦隊は、物見遊山でここまでやってきたわけではない。
1937年7月17日、エミリオ・モラ、フランシスコ・フランコを中心とした反政府軍と、マヌエル・アサーニャ率いる左翼人民戦線政府の間で生起したスペイン内戦にて、前者を義勇軍の立場で支援するためにやってきたのだ。
もし、左翼人民戦線政府が内戦に勝利し、戦後のスペインを率いることになれば、ただでさえソ連の脅威があるというのに、ドイツの反対側にも思想的に相容れない国家が誕生することになる。また、多数配備された新兵器の性能を確認したいし、軍にも実戦経験を積ませたい。
それらを考慮したリリア以下ドイツ首脳により、フランコ側を支援することになったのだ。
なお、イタリアもこれに呼応し、4個歩兵師団と航空部隊、海軍部隊等、ドイツを上回る規模の義勇軍を派遣している。
支援の内訳は、武器兵器の供与の他、義勇軍の派遣だ。
後者に関しては、カールスの艦隊をはじめ、新鋭戦闘機Fw159Aを擁した空軍主体の義勇部隊"コンドル軍団"、装備車両をⅡ号戦車で固めた三個戦車中隊を基幹とする"イムカー戦闘団"、国民戦線軍の訓練を担当する陸海軍の軍事顧問団と、大盤振る舞いである。
そして、今のカールスたちは正規のドイツ軍人ではなく、"義勇軍"の立場だ。
スペイン人民戦線政府軍は、フランコ率いる反政府軍の攻勢を止めるだけで精一杯であり、ドイツをはじめ他国を敵に回すことはしないだろう。
しかし、カールスらは義勇軍という立場上、ドイツとは一切の関係を持っていないことになっている。仮に、人民政府軍が艦隊に攻撃を加え、戦死者が出ようとも、何ら問題はない。その逆も然りだが…。
「彼らが我々を攻撃しても、法律上全く問題ない。反政府軍の味方をする我々が、攻撃されないとは考えにくい。…覚悟はしておくべきだろう」
「…そうですな」
もしかしたら、ここが俺の死に場所になるのかもしれないな…とでも思ったのだろう。ファンガーの表情が引き締まった。
「…だが、必要以上に緊張しすぎるのも良くない。非番の者は強制的にでも休ませ、最良のコンディションを発揮できるようにしておいてくれ。…そうだ、例の新刊も出ているのだろう?交代で読んで息抜きをしたまえ」
「了解しました。新刊に関しましては、乗員同士で取り合いにならぬよう、注意いたします」
『例の新刊』…とは、軍艦を擬人化した少女たちが織り成すハートフルな小説及び漫画だ。
軍民の士気向上や慰安の為、ドイツ各地の小説家・画家に命じ、リリアのキャラクター設定や世界観をベースに製作されている。
いきなり遥か未来の日本の文化を見せられた作家たちだが、『何だこれ、結構面白いぞ!』と案外乗り気であり、直ぐにそれらの製作が開始された。
これらの作品は、特に軍人たちに好評で、書店に並んだそれらは瞬時に売り切れた。
軍の女性枠が解放されたとはいえ、まだまだ軍隊は女気の薄い職業であり、彼らも飢えているのだろう。
因みに、ベルリンやキールといった都市の書店では、軍服を着こなした高級将校たちが列を成している異様な光景が散見され、その様子が写真付きで新聞に掲載される事態になった。
各出版社は、最新のジアゾ式複写機M型を総動員し、小説・漫画各種を大量に印刷、書店に納品しているが、需要に対して供給が追い付かず、地味に貴重品となっている。
というわけで、まだ購入できていない者は、運良く購入できた者から借りる、若しくは共に読むことで、その場しのぎとしていた。
「サルディーニャに寄港するまでの辛抱だ。
「おっ。いいですね、美食の国の料理ですか」
先の緊張などどこへやら、『ドイッチュラント』の艦橋には和やかな雰囲気が漂っていた。
この辺りから総統閣下シリーズめいてくる予定です。漫画を見せてからちょっとおかしくなった首脳&国防軍・親衛隊の高官がボケ、若しくはセクハラしてリリアがツッコむ…みたいな。
それでも締めるところは締めるし、忠誠を持って接されるよりも気楽だし、確かに五月蠅いけど何だかんだこっちの方が楽しいなぁ…みたいな感じです。
・ドイッチュラント級重巡洋艦(改装後)
全長:200.5メートル
全幅:23.6メートル
基準排水量:13800トン
最高速力:30.5ノット
機関:ワグナー高圧重油専焼缶8基+艦本式ギヤード・タービン4基4軸推進(出力129000馬力)
航続距離:20ノット/8100海里
武装:
54.5口径28.3センチ三連装砲SKC/34 2基
65口径10.5センチ連装高角砲SKC/33 7基
60口径37ミリ連装機銃Flak36 8基
75口径20ミリ単装機銃Flak35 14丁
装甲:
舷側150ミリ
甲板62ミリ
弾薬庫60~150ミリ
主砲塔正面防盾200ミリ
主砲塔天蓋105ミリ
バーベット162ミリ
司令塔150ミリ
海軍力の貧弱なドイツにとって、中途半端な性能であるドイッチュラント級も貴重な海上戦力であることには変わらないため、カイオ・デュイリオ級やアンドレア・ドレア級も吃驚の近代化改装を施すことになった。
淩波性改善のため、艦首に向かってなだらかな坂を描くアトランティック・バウに変更し、さらに速力向上を図るため艦首喫水下にバルバスバウを設置、さらに艦首を13.5メートル、艦尾を6メートル延長した。
機関はオール・ディーゼルから高性能を誇るワグナー高圧重油専焼缶と、艦本式ベースの新型タービンに変更し、速力・信頼性が向上。
塔型の艦橋に換装、射撃指揮装置や測距儀を一新し、重心が高くなったが、水雷防御強化を兼ねたバルジの増設によって克服。
防御力は、後年米海軍が建造するボルティモア級に近い水準で、20センチ砲弾の直撃に余裕で耐えられる。門数が少なく、被弾による火力低下を嫌った海軍の要望で、特に主砲塔やその付近は堅牢に造られており、砲塔を直接破壊されないことは勿論、電路が切断されないよう最大限配慮されている。
・Flak35 20ミリ機銃について
この世界のドイツ海軍は、主力機銃としてこれを採用している。史実のFlak30を改良したものだが、使用弾薬を20×110ミリ弾に改めているのが特徴。
ドイツは1936年末にイスパノ・スイザHS406 20ミリ航空機関砲の製造許可を取得し、ドイツ空軍向けの独自改良型を開発中だったのだが、本砲が用いる20×110ミリ弾と互換させるための措置である。
航空機関砲と同様、新兵器の1つである薄殻榴弾を使用することができ、威力は高い。
フランスにどうやって攻め込む?
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史実ルート:アルデンヌの森を通る
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マジノ線ルート:マジノ線を正面突破