目が覚めたらIF世界ドイツ総統(美女)になってたので、少しでもマシな戦後を目指す   作:夜叉烏

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 こんばんは。夜叉烏です。

 日本の皆様にドイツの凄さを知ってもらう回になります。

 作者のYouTube
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日本、思い知る(前編)

 

 

 「まるで別世界だ…」

 

 東郷茂徳以下、彼が代表を務めるドイツ視察団の面々は、ベルリンの街並みに圧倒されていた。

 

 流石にアメリカほどではないだろう。

 しかし、立ち並ぶ高層ビルやアスファルトで整備された大通り、道路を行き交うダイムラー・ベンツ、ポルシェ製自動車の群れは、明らかに帝都を上回る発展ぶりだ。

 ドイツ贔屓で有名な大島浩駐独武官から事前情報を与えられてはいたが、実際に見てしまえば驚く他ない。

 

 「偉大なる我が総統閣下の他、党幹部による適切且つ熱心な指導の賜物です」

 

 ドイツ人の案内係が、日本語で誇らしげに言う。

 実際、得意げな顔でそう言われても許されるほどの光景だった。第一次大戦の敗戦により、一時期気息奄々な状況にあったとは到底思えない。

 

 列強に数えられている祖国日本だが、その列強の中でも我々は最弱か――と、彼らは自信を喪失しそうになった。

 

 東郷らにとって意外だったのが、自分たちが厳重な監視下に置かれなかったことだ。

 自由に見てもらって構わない――そう、総統から直々にお墨付きをもらっていた。

 

 それなら遠慮なく、隅々まで見てやるぞと意気込んでいたわけだが、いきなり凄まじい光景を目の当たりにしてしまった格好である。

 

 「どこを見て周りましょうか?ベルリン市内でも、近隣の都市でも構いませんが…」

 

 「…では、工場を見せていただけるだろうか?」

 

 「畏まりました。では、ルール工業地帯まで参りましょう。他にご覧になりたい場所がございましたら、遠慮せずに仰ってください。会談は明後日ですので、時間はたっぷりとございます」

 

 少し前まで貧乏国家と言うべき状態だったドイツだが、工業力を着実に高め、更にその優れた技術力によって作られた工業製品を売却することで、巨万の富を得ている。

 今や、オイルマネーで潤いに潤うイタリアに次いで、欧州で2番目に儲かっている国だ。そのイタリアですら、ドイツからの製品を大量に買い付けている。

 

 日本の国力を向上させるためには、何としても工業力を高めなければならない。

 そのために、ドイツの工業基盤を目にしっかりと焼き付けておきたかった。

 

 

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 (レーダーとデーニッツは日本艦隊の見学、日本視察団の皆様は今頃…ベルリンを回っているか、ルールの見学かな?)

 

 そんなことを心中で呟きながら、私は目の前の騒がしい光景を眺める。

 

 ドイツ国防陸軍の大規模演習だ。自衛隊の総合火力演習に近く、民間人も招いての訓練である。

 無論、ヒムラー率いる親衛隊の厳重な警備の元でだ。会場のあちこちには、ホルスターに拳銃を収めた親衛隊の隊員が、怪しい人物に目を光らせている――民間人を必要以上に刺激しないよう、小銃等は装備していない――。

 

 そして、使節団として派遣されてきた日本陸軍の皆様との挨拶と握手――女性、長身、見た目だけは滅茶苦茶若いという三拍子が揃っている私に、彼らは総じてドギマギしていた――を終え、我がドイツ自慢の陸軍を見せる時が来たわけだ。

 

 それと、前世大学生がINしているため、無論日本語は普通に話せる。

 しかし、そのことを知らないヴィリエル、フリッチュたち、使節団は完璧な日本語を話す私に目を丸くしていた。

 

 来賓の席に座っているリリア、ヴィリエル、フリッチュ、日本陸軍の視察団の前を、複数の車両が通過していく。

 やっぱり注目されるのは戦車か…と勝手に思っていたのだが、彼らが関心を寄せているのは別の車両――史実よりも早く開発・量産が行われたSd.kfz.251だった。

 ただし、米国のM3ハーフトラック同様に前輪にも動力を持ち、シンプルな設計で量産性にも配慮された型だ。

 

 後部の装軌式になっている足回りも、ティーガーやパンター戦車のような、無数の大型転輪を咬み合わせたような形状ではなく、Ⅲ号・Ⅳ号戦車を思わせる、小型の転輪が並んだよりシンプルな造りになっている。

 動力は、新開発のダイムラーベンツ製V12気筒35型ディーゼルエンジン(150馬力)。被弾時に炎上し難く、燃費も良好な車両に仕上がった。

 

 「失礼。先ほどから戦車に劣らず大量の兵員輸送車が散見されますが、あれほどの数を用意する必要はあるのですか?」

 

 質問したのは陸軍技術本部の職員だ。

 まぁ、無理もない。日本軍の兵士は行軍の際、自前の足が頼りだ。一部は自転車を使う部隊もあるが。

 

 「行軍中の兵士を、ある程度敵の銃砲火から守るためには必要です。戦車のみならずこういった車両も、全ての部隊に行き渡らせなければなりません」

 

 「何と。戦車のみならず、全ての部隊に行き渡るほどの兵員輸送車があるとは…」

 

 一様に驚く日本サイド。

 別に、日本軍は兵員輸送車を軽視していたわけではない。そもそも自動車免許を取得している者が少ない時代だ。

 それに、戦時になると航空機や船舶に予算を多く振り分けたため、兵員輸送車の量産には金が回ってこない。

 それでも、史実では全装軌式・半装軌式の兵員輸送車計1000両程度の量産に成功したそうだが、輸送艦毎海没させられたりで、活躍したとは言えない。

 

 「私は全てのドイツ国民を守る義務がありますが、それは兵も同じです。戦争まで発展してしまうのは外交の敗北…つまりは私たち政治家の責任。我々の不手際で戦うことを余儀なくされた彼らのためにも、多少無理をしてでも負担はなるべく軽減しなければなりません。それが、彼らに対するせめてもの償いです」

 

 この場にいる全員に聞こえるよう、私はそう言う。

 あ、フリッチュと山下奉文陸軍省軍事調査部長が感極まった目でこっちを見ている。照れるからやめてくれ。

 

 「まぁ何にせよ、戦争をするには軍拡以前に、まずはしっかりと工業基盤を整えることです。そして十分に武器兵器を揃え、前線での栄養が整った食事をはじめ物資の補給等を充実化させ、定期的に休暇を与えることで、兵のコンディションを万全にしておくこと…精神論だけでは、戦争はできません」

 

 『精神論』の部分を若干強調して言ってやった。

 日本人の何人かは図星を衝かれたような表情になり、栗林・山下は同感と言いたげに頷いていた。

 

 日本軍は輜重を軽視していたとよく聞くが、正確には"重視できなかった"といったところだろうか。

 確かに、他国に比べて輜重兵科の充実度は後れを取ってはいたようだが、軽視しているほどではなかったはずだ。

 国自体が貧乏なのが全部悪いのだ。

 

 丁度、私たちの目の前を走り抜ける野戦調理機材――通称"シチュー連装砲"。大きな煙突2本が特徴的な、ドイツ製フィールドクッカーの中でもかなり大型の部類――を牽引して走るキューベルワーゲンType82と、弾薬をはじめとした物資輸送を担当するSd.kfz.251、医療機器を満載した野戦救急車仕様の同車両の群れを見ながら、日本の皆様はドイツ陸軍の後方支援体勢の充実さに、ただただ驚いていた。

 

 すると、私たちの座る席の後方から、何やら美味しそうな匂いが…。

 

 「失礼いたします!お食事を用意いたしました!」

 

 国防軍の軍服を纏った給仕兵らしき若い男たちが、湯気の立つ容器と平皿を乗せた盆を持ってやってきた。本来なら作業着やエプロンを身に着けているはずだが、総統や視察団の前ということで、格好に気を遣っているようだ。

 そういえば、丁度お昼時だったな。

 

 そういえば、私が色々提案した携行食糧の開発進捗はどうだろうか。

 缶詰のパンとか、化学反応で熱くなるレーションとか、何気なく意見してみたんだけど。陸軍の糧秣部門は結構食いついていたし、近いうちに実現はできそうな気がする。

 

 それから、イタリアに行ったときにムッソリーニから聞いたのだが、彼国も新型携行糧食の開発にご執心であり、前線の兵士が飛び上がって喜ぶほど美味い糧食を開発している。

 独伊陸軍のみならず、両国食品会社が共同で開発する話も持ち上がり、つい1週間前にその話が纏まった。

 美食の国に数えられるイタリアが開発チームに加わってくれるのなら、百人力と信じたいが…。

 

 …まぁ、私の出る幕ではない。彼らを信じよう。

 汁物はどうやらアイントプフ…憑依後の私が初めて食べたものらしい。あれ以来、すっかり好物になってしまったものだ。平皿にはソーセージが3本とマスタードが乗っていた。

 

 「…もしかしてこれ、"シチュー大砲"で作ったやつ?」

 

 「はい、仰る通りです!」

 

 私の問いかけに、若干緊張しながら応える兵。

 戦場で食べる食事にしては、中々の出来栄えだ。まぁ、命のやり取りをする兵士たちの食事であるし、これ位の完成度でなければ困る。

 私以外にも、ヴィリエル、フリッチュ、そして日本視察団の面々にも食事が配られる。

 

 「我が軍にも野外炊具はありますが、殆どが馬匹で牽引しますからなぁ。こういった設備は地形にも左右されますし、貴軍のような贅沢な真似は、中々できません」

 

 「そもそも、我が国は自動車の運転に慣れ親しんでいる若者が非常に少ない。機械に対する習熟度が全く違います」

 

 …そういえば、日本にも一応フィールドキッチンはあったな。

 1937年には九七式炊事自動車という、自衛隊の野外炊具のご先祖みたいなのが実用化されるんだっけ。そういうのを配備してるってイメージがいまいち沸かないから忘れかけていた。

 

 「自走式野外炊具が運用できるよう、道路を整備するためにブルドーザーや自走蒸気ショベル等を装備する工兵部隊もあります。道がなければ、通れるようにすれば良いだけです」

 

 フリッチュが言う。

 如何にもアメリカ的な、脳筋思考のように思われるが、自動車輸送を効率的に駆使するため人工的に道路を建設・改修するのは当たり前のことなのだ。

 史実の日本は、その根本概念を欠いてしまった所為で、輜重兵の自動車化は進まなかった。

 

 「また、野戦飛行場などの建設を担当する設営隊が空軍にもありますが、そちらにも大量の重機が行き渡っております」

 

 「…お話を聞く限りでは、貴軍の設営隊は人力が頼りの様子。よろしければ、こちらの機材及びライセンスを輸出しましょうか?100人で1週間かかる作業を、重機1台あれば3日で終わらせることができますよ?」

 

 私の言葉に、目の色が変わる日本サイド。

 大勢の兵員が鍬やスコップ片手に未開の地を耕し、飛行場やらインフラやらを作っていた日本軍にすれば、重機の存在はありがたいことこの上ないはずだ。

 

 「…我が軍は、戦車をはじめとした武器兵器を揃えることばかりに集中していましたが、こういった下働きをする部隊も重視しなければならない…ということですな」

 

 「戦略・戦術を語る以前に大切なことです。兵站を重視しない軍など、私は三流…いえ、五流の軍だと思っていますから。…もし兵站を軽視して進軍を強行させる者が軍にいるなら、私自らぶち殺して毒ガス室に叩き込みますけどね」

 

 使節団の一員として参加していた栗林忠道陸軍省軍務局高級課員の言葉に、私は容赦なくそう返してやると、使節団の皆は僅かに引き攣った表情を浮かべていた。

 幼気さが残る美しい女性、それも総統という立場を戴く者が、公の場で口に出す内容ではない言葉を発したことに、困惑と畏怖を覚えているようだ。

 

 …ここに牟田口廉也がいたらどんな反応を示しただろうか。

 

 ヴィリエルが、横目で咎めるような視線を向けてくる。

 あ、これ今夜に色々お小言を言われるやつですね。「使節団の前であの言動は何なの?」とか。怒った顔も可愛いので無問題なんだが。

 

 …まぁ、この位言わないと日本軍は変われないよ。

 我がドイツの頼りなる盟友になってもらわなければ困るからね。

 今の姿勢を根本的に改めてくれることを祈りながら、私はアイントプフに口を付けるのだった。

 





 次回は大規模陸戦演習の見学になります。
 そこで、今現在どんな戦車を陸軍が保有しているのか、将来的にどんな戦車を配備するのかを書こうと思います。

フランスにどうやって攻め込む?

  • 史実ルート:アルデンヌの森を通る
  • マジノ線ルート:マジノ線を正面突破

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