目が覚めたらIF世界ドイツ総統(美女)になってたので、少しでもマシな戦後を目指す   作:夜叉烏

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 こんばんは。夜叉烏です。

 お久しぶりです。ちょっとスランプ気味でどうやって書くか迷ってしまいました。

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日本、思い知る(後編)

 

 

 (憎たらしいほどに速い)

 

 空母『龍驤』に搭載され、遥々ドイツまで運ばれてきた三菱九試単座戦闘機を操る板谷茂少尉は、横転した自機の真横を通過していく黒い影を見、そんな感想を抱いた。

 

 日本海軍次期艦上戦闘機のテストベッドである三菱九試単座戦闘機と、ドイツ空軍の時期主力戦闘機による、新型機同士の模擬空戦。

 試作機とはいえ、次世代の日本海軍空母機動部隊の一翼を担う新型戦闘機の操縦桿を握る者に選ばれたこと、それを駆ってドイツ空軍機との模擬空戦を行えること、どちらも武人の誉だと思った。

 日本の新型機の威力を見せつけてやる――その意気込みで板谷はこれに臨んでいたのだが…。

 

 「なんて無様な戦だ…!」

 

 現在主力となっている三式艦戦の要領通り、巴戦に引き込んで撃墜判定を出してやるつもりだったが、相手は板谷の誘いに乗らず、上昇・急降下による接近・降下の勢いを利用しての離脱を繰り返すだけ。撃墜できたかどうかは関係ない、一撃を加えたら戦果に関わらず離脱だと言わんばかりだ。

 自分が同じような飛び方をしようものなら、同期や上官から『何が何でも敵機を堕とすという戦意に欠ける』、『あんな空戦のやり方があるか』と咎められそうだ。

 

 追いかけようにも、九試単戦の速力・上昇力はドイツ機に及ばない。常に、相手が優位なポジションに陣取り、一撃離脱を仕掛けてくる。

 特に、急降下速度の差は如何ともし難く、上方からの一撃を躱すだけで精一杯だ。急降下の勢いを利用しての上昇にも付いていけない。

 

 急降下攻撃を10回ほど繰り返し受け、その度に自慢の旋回性能で躱したが、躱しきれずに何回か撃墜された、と確信した場面があった。ドイツ空軍のJu52に乗り込み、模擬空戦の推移を見守っている日独それぞれの観測班も、そのように判断していることだろう。

 悔しい限りだが、九試単戦はドイツ空軍の新型戦闘機に敗北したのだ。

 

 『模擬空戦止め。降りてこい』

 

 空戦実施にあたり、ドイツ側の手配で供与・搭載された無線電話機から命令が飛び込んできた。

 それに従い、板谷機とドイツ機は機体を翻し、降下に移った。

 

 九試単戦の右前方を飛んでいるドイツ機に目をやり、その機影を観察する。密閉式のコクピット、引き込み脚、低翼配置、全金属製の単発単葉機。

 

 空へ上がる前に駐機してあった機体を眺めた時もそうだったが、やはり九試単戦よりも洗練された印象の強い姿だった。

 

 

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 模擬空戦が終わった時、その結果にドイツ側は満足げな、日本側は通夜のような雰囲気を隠そうともしない状態だった。

 

 今回、ドイツ側の次期戦闘機――フォッケウルフFw159の試作機が九試単戦に攻撃を仕掛けた回数は13回。その内、確実に九試単戦を射程内へ補足したのは7回だ。

 逆に、九試単戦がFw159を射程内へ捉えた回数はゼロ。そもそも、攻撃を仕掛けることもできなかった。

 

 上昇力に優れるFw159が常に優位なポジションを占め、急降下一撃離脱を仕掛けることができたため、九試単戦は常に受け身で戦わざるを得なかった恰好だ。

 

 自信を持って送り出した海軍次期主力機のプロトタイプが、手も足も出ずに敗北してしまったことは、日本サイド――『三菱航空機』や海軍航空技術廠の技術者及び横須賀海軍航空隊の士官クラス数名――に大きな衝撃を与えたようだった。

 

 一応、模擬空戦の場に同席していた設計者のクルト・タンク技師とFw159のテストパイロットが、九試単戦の旋回性能の高さや板谷の操縦技術はドイツ空軍の平均以上だということを賞賛したが、日本側がそれで気を取り戻せるわけがなく、逆に気を使われている感が酷かった。

 

 「コクピットの計器が見易い、レバーも直感的に操作ができますね」

 

 「航空機は人間が操るものですから、パイロットにも最大限配慮せねばなりません。また、実戦となれば必ず損失が出るものですので、数を揃えやすいよう生産性やコスト削減も設計に反映させております」

 

 唯一、九試単戦の設計主務者である堀越次郎のみ、興奮した様子でタンクと航空機談義に花を咲かせ、Fw159のコクピットへ乗せてもらうなど、終始はしゃいでいたが。

 

 「エンジンは1175馬力を発揮するBMW134Aを搭載、最高時速513キロ、高度5000メートルまで5分16秒を記録しております。基本的に上昇力と急降下性能を活かした一撃離脱戦法が専門の機体ですが、動作が比較的軽快で扱い易く、ある程度の格闘戦も可能です」

 

 「それは凄い。我が国のエンジンは非力で…1000馬力級のエンジンも、時速500キロ以上の戦闘機も、夢のまた夢です」

 

 「そこは工業基盤が充実しているか否かの差でしょう。それさえ満たしていれば、貴方方も高出力エンジンの開発・大量生産が早い段階で可能になると思いますよ。決して、貴国の航空技術レベルが低いというわけではありません」

 

 タンクの言葉に、その場の日本人全員が自国の工業力の限界を悟っていた。

 熟練工をはじめとした人的資本への依存度が高く、更にあらゆる国から買い入れた中古の工作機械によって作られた部品は寸法がバラバラで、その度に切削し直すといった余計な作業が発生。また同じ機種でも部品を共有できない問題があり、部品の仕上がりに伴う性能のばらつきが顕著だった。

 これら問題は、企業や空技廠の技術者、現場の整備員・搭乗員を大いに悩ませていた。

 

 「そういえば、上海事変では中島の三式艦戦が発動機からよくオイル漏れを起こしていたと…」

 

 「恐らくそれは、エンジンに合わない部品が使われているためかと。我が国は、総統閣下やシュペーア軍需大臣の御尽力で、工業規格の統一を実現しております。貴国もそれを実施すれば、効率的な生産体制の構築と信頼性の確保ができるでしょう。前線での整備も容易になり、仰られたような事態は起こらないはずです」

 

 三菱・中島の技術者らは、タンクの言葉を熱心にメモし、心中で商工省へ工業規格統一に対する報告書を提出しようと決心するのだった。

 

 その一方、横須賀海軍航空隊から派遣された源田実大尉も、頭の中で考えを巡らせていた。

 

 (最早、格闘性能にものを言わせる時代は終わったということか)

 

 彼は元々、複葉機にも迫る九試単戦の格闘性能に惚れ込み、同機の熱心な支持者となった男だ。この機体が改良の後量産されれば、我が海軍航空隊に敵なし…そう確信していた。

 

 だが、今日の模擬空戦でその自信は木っ端微塵に打ち砕かれた。源田が惚れ込んだ機体は、自慢の格闘性能をほとんど発揮することなく――敵から"逃げ回る"ことには十分発揮されていたが――、彼の目の前でほぼ一方的な敗北を喫してしまったのだった。

 源田の中にあった九試単戦無敵神話は、呆気なく崩壊してしまったのだ。思わず、地面に膝を着きそうになったほどだった。

 

 ――しかし、同時に立ち直るのも早かった。

 

 「おい板谷」

 

 「大尉殿…」

 

 源田は九試単戦の操縦桿を握った板谷を呼び止め、彼は鯱張って敬礼した。それを制すと、源田は板谷に意見を求めた。

 

 「そう固くなるな。別に負けたことを責めるわけじゃない。…率直に言って、どうだった?あの機体は」

 

 九試単戦と並んで駐機してあるFw159に顎をしゃくりながら訊いた。

 

 「…格闘性能では、間違いなく九試単戦が上です」

 

 遠慮がちに応える板谷。

 

 「しかし、速度・上昇・急降下性能といった、格闘性能以外の全てで九試単戦を上回っていました。また、此方が格闘戦に誘おうとしても、彼方は一切乗ってきません。常に此方よりも優位な位置を占めて一撃離脱を仕掛けてくるため、全く追い付けませんでした。今後、あのように速力と上昇力を重視した機体が空戦の主力になっていくのだと思います」

 

 直後、板谷は口ごもった。今思っている事柄を口に出して叱責されないだろうか…とでも言いたげに。

 

 「遠慮なく言ってくれ。貴様が何を言おうが叱責しないと誓おう」

 

 横須賀航空隊教頭である大西瀧次郎の「中央当局は単に机上の空論に頼ることなく、もっと実際に身をもって飛ぶ者の披見を尊重して方針を定められたい」の言葉に感銘を受けた源田は、搭乗員の忌憚のない意見を何よりも重視する。

 上層部や自国機体を批判するような言葉でも、彼は叱責せずに受け容れるつもりだった。

 

 「…Fw159は操縦席背部への防弾板の他、防弾仕様の燃料タンクや風防を備える予定だと聞きました。実戦ともなれば、何処から弾が飛んでくるか分かりません。たった1発の流れ弾で命を落とすような戦闘機では、無為に搭乗員を失うだけになると確信します」

 

 『敢闘精神に欠ける』、『防弾装備を欲しがるなど臆病風に吹かれたか』といった言葉を投げられることを覚悟したらしいが、板谷はそれでも最後まで言い切った。

 

 「なるほどな…」

 

 板谷が危惧するような言葉を投げるわけもなく、源田は納得するように頷いた。

 

 搭乗員である彼も、板谷の言いたいことは分かる。

 源田自身、常に全方位を見張れるとは思っていないし、まったく被弾せずに空戦を済ませる自信もない。実際の空戦とは、武道の試合のような一対一の果し合いではないのだ。

 

 それに、戦争とは相手があるものであり、此方の思う通りに事が運ぶとは限らない。受け身で戦わねばならない状況もあり得る。

 

 「旋回性能が多少落ちるとしても、敵に追いつける機体が必要なのは、今日の模擬空戦で嫌と言うほど思い知った。それと、防弾装備の必要性もな。貴様の言う通り、熟練の搭乗員をたった1発の流れ弾で失うことは大きな痛手になること、防弾装備が国防上必須であることを、報告書に記しておこう」

 

 海軍や航空本部のお偉方を相手にするのは骨が折れそうだが、何としても説得してみせる…心中で決心した源田だった。

 

 「源田大尉。ドイツ側より、Fw159を試乗しないかとのことですが…」

 

 源田の部下が、顔を上気させながら連絡してきた。九試単戦を打ち負かした高性能戦闘機の操縦桿を握れることに、興奮冷め止まない様子だ。

 

 「…貴様も乗るか?」

 

 「では、是非」

 

 「分かった…おう、今行く!」

 

 これまで、散々九試単戦を最強戦闘機と持て囃してきた源田だったが、呆気なく別の…それも外国の機体へと乗り換えたのだった。

 

 

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 フォッケウルフFw159V(外見:Fw190をそのまま小さくした感じ)

 

 全長:8.02メートル

 全幅:10.32メートル

 全備重量:2.36トン

 エンジン:BMW134A空冷星型14気筒1175馬力(ドイツ版のR-1830エンジンみたいな感じ)

 最高時速:513キロ

 航続距離:1208キロ

 上昇率:15.8メートル毎秒(九試単戦は14.2メートル毎秒)

 武装:MG131 13ミリ機銃×2(主翼)、MG17 7.92ミリ機銃×2(機首)

 爆装:SC50 50キロ爆弾×2





 クルト・タンクとフォッケウルフ社:
 シュライヤー姉妹とは一次大戦の従軍経験者ということで個人的に親交があり、技術者としての手腕や実用重視の思想をリリアは高く評価していた。
 技術部長としてタンクが就任したフォッケウルフ社は、資金的に恵まれた会社ではなかったが、タンク程の天才には最高の環境で飛行機造りをさせたかったリリアが資金援助を実施。史実よりも会社規模がかなり拡大しており、メッサーシュミット社にも比肩するほど。
 タンクとリリアは時たま航空機の発展について話し合っていたのだが、令和のミリオタ理系大学生が憑依したリリアが急に航空機に詳しくなったことに驚きつつ、より専門的な会話ができるようになって喜んでいたりする。

 源田実:
 九試単戦の熱心な支持者だったが、模擬空戦での一方的敗北を見せつけられたことで、圧倒的速力と上昇力、防御力を持った戦闘機が今後の主役になる、と考えを新たにした。
 Fw159を帝国海軍の主力艦戦として採用した方が…と考えるようになった。
 これからの航空機の在り方に関して、どうやってお偉方を説得するか頭を悩ませている。

 フォッケウルフFw159V:
 タンクが開発した全金属の低翼単発単葉戦闘機("V"は試作機の意)。史実のパラソル翼機ではない。リリアの梃入れでフォッケウルフ社の規模が拡大し、資金的余裕が大きいこと、英国やフランスの目を盗んで史実よりも早く航空機技術研究を進めさせたこと、周辺国の対ドイツ感情が史実よりも良好で各パーツのライセンス生産が可能になったことで実現した。
 見た目はFw190をそのまま小さくした感じ。引き込み脚は主翼内格納式で、脚の間隔が広いため着陸時の安定性は高い。
 武装のMG131は純国産の新型航空機銃であり、構造的にはMG151と全く同一。使用弾薬はフランスから試験的に購入したホッチキスM1929 13ミリ機銃に使用される13.2×99ミリ弾。
 30口径弾に対応する防弾装備も搭載されているが、1150馬力の出力を持つBMW134の搭載によって、速力・上昇力は九試単戦を上回る。
 正直、後継機登場までの繋ぎ的な位置づけなので、大規模な量産はしない予定。

フランスにどうやって攻め込む?

  • 史実ルート:アルデンヌの森を通る
  • マジノ線ルート:マジノ線を正面突破

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