ハイネセンの眠り姫   作:伊藤 薫

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下の名前は筆者が勝手に付けました。


第3回:ラーヒズヤ・ムンガイ

 ラーヒズヤ・ムンガイは実に地味な男だった。その用兵も人柄を現すように手堅く、大崩れするということが無かった。迷宮と評されるダゴン星域において、無秩序な帝国軍の反撃に他の提督たちが圧されている中、ただ独り戦線を維持して、ついには味方に逆転をもたらす契機を作ったことが一度や二度ではない。

 寡黙で性格は堅苦しかった。酒席で冗談が弾んで僚友が笑った時でも、ニコリともしなかったという。彼がある時に他人から聞いたという艶っぽい話を披露した。なかなか面白い話だったので、僚友たちは盛大に笑った。笑い声が収まった時、彼は真剣な表情でこう言った。

「今の話はどこが面白かったんだ?」

 周囲は返答に窮してしまった。部下に対しても上官に対しても、リップサービスをするような男ではなかったために双方から人気は無かった。だが、リン・パオはこの堅苦しい男を最も信頼していたかもしれない。オルトリッチは回想録にそう記している。トパロウルは対照的に、決して好いてはいなかったようである。

 ムンガイはトパロウルから麾下の第8艦隊より3000隻を割いて、オレウィンスキーの第5艦隊に移すよう命じられる。緒戦時に被った損失の穴埋めを求めた形だが、彼はにべも無い返答をする。

「わが艦隊に遊軍はありません」

 トパロウルは苦い表情を浮かべる。

「なぜだ?」

「ここで3000隻も供出しては、わが艦隊の前線が維持できません」

「貴官の3000隻がないと、全軍が崩壊する恐れがある。貴官がその責任を取るのか」

「責任はともかく、そのような要求をなさる理由をうかがいたい」

 トパロウルが声を荒げる。

「そんなことをいちいち説明する時間はないぞ!」

 ムンガイは眼を細めて総参謀長を睨みつける。凍りついた会議室の空気を和らげたのは、オルトリッチだった。第8艦隊から供出する3000隻を第5艦隊ではなく、総司令官直属に移す名目にする案を示したのである。この措置にムンガイも矛を収めた。彼が大人げなく命令を拒否したことについて、オルトリッチは無理も無いだろうと回想している。オレウィンスキーに自分の「虎の子」を奪われて無為に消耗させられることに対する個人的な反目もあってもおかしくはない。

・・・ダゴン星域会戦は7月21日にクライマックスを迎える。この日にトパロウルはある懸念を胸中に抱えていた。包囲網が兵力の最も薄い箇所(第5艦隊)で突破されれば、同盟軍の勝利は無くなるだろう。実際の戦況も当初はそのように推移したが、戦艦「サンタイサベル」の艦橋全体を覆う恐怖は次第に解消した。第8艦隊が第5艦隊の戦線を補強して包囲環をさらに強化したのである。トパロウルは後に「ムンガイの行動が同盟軍の勝利を決定づけた」と記した。

・・・冷静沈着なムンガイは宇宙歴642年に大将に昇進する。昇進の辞令を受けても別に嬉しそうな素振りを見せなかった。宇宙艦隊総参謀長から同艦隊司令長官を歴任して、655年に統合作戦本部長に就任した。661年、元帥号を授与された直後に軍を退役する。

・・・統合作戦本部長としての彼は優れた実務能力と筋が通った人事を行った。当時の同盟軍は帝国軍と同様に、白系の人種が要職に就きやすい環境だったが、縮れ毛と濃い肌色の皮膚を持つムンガイは能力さえあれば、有色人種の将官も積極的に登用して人種間の不均衡を無くそうと奔走した。今では「名本部長」と称されるに足りうる業績を上げたとして評価されている。

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