ラウル、頑張れ。
アキってリヴェリアとかガレスに対して「さん」つけってしてたっけ……
黄昏の館
考えろ、考えろ、考えろ!
思考を回せ、思考を止めるな!
いつもは幹部達が集められる執務室。
いつもの賑やかさは失われ、ぽかんと穴が開いたかのように静かだ。そこに1人、青年がいた。派閥の要であるフィンもリヴェリアも幹部であるアイズ、ティオナ、ティオネ、ベートも今はいない。派閥の舵取りができるのは現状、二軍の指揮を担っているラウル達だった。
「団長もリヴェリアさんもいない今、自分達がこの派閥を、あの人達の留守を守らなきゃ……!」
そう思っているのに、頭が碌に回らない。
もうあれから大分時間は経った。
仲間達も怪我をしていたが、派閥内の治療師で事足りた。ただ、死者が出たこと、派閥の頭である人物達が倒れてしまったこと。これがただただ仲間達の士気を低下させた。これではそこらの派閥にだって負けてしまいかねないほどには。中でもエルフ達は酷かった。王族であるリヴェリアが戦闘不能状態にあるからだ。尊きお方と敬っている人物を守れなかった、自分だけが無事であった、大丈夫だろうなんて満身が少なからずあった等々と言っては自責の念に絡めとられて、碌に行動がとれやしない。他派閥の妖精に叱責されればそれを当然のように受け入れてしまいかねない。そもそも、自分達は役割を与えられてそのように動いていたのだし、預言者じゃないのだから防げるものにも限度がある。彼等の足元が崩れるなんてどう予想すればいいというのか。気にしすぎだ、なんて言葉はきっとそれでも気休めで彼女達を癒す言葉にはなり得ないのだろう。ラウルは1人、執務室を
「敵の目的……自分達【ロキ・ファミリア】の打倒……いや違う、それだと今更すぎる……【フレイヤ・ファミリア】とどちらを先に倒すかという点では【ロキ・ファミリア】を選ぶのは正解だとは思うっすけど、多分この考えは間違っている……っ」
胃が痛い。
頭も痛い。
閉じていたカーテンの隙間から日の光が見えた。もう朝になるほどまで時間が経ってしまっているらしい。アキ達には仲間達を休ませるように頼んだ。そのおかげか館は静まり返っている。
「ふぅー……」
椅子に深く座り込んで天井を見つめて息を吐き出す。身体は鉛でも詰め込まれたように重いし、思考も碌に回らず堂々巡り。きっとアキ達が来れば酷い顔だと言ってくるだろう。ラウルは誰もいない執務室をやけに広く感じて、使命感にも似た強迫観念に囚われながら立ち上がり、カップに入った冷めた珈琲を喉に流し込んで部屋の隅に置かれているボードに現状を整理するために文字を書き殴る。
・『武装したモンスター』達が地上に進出した。
・暴走していた
・団長の槍が
・別の槍が
・フィン団長が、同族殺しだという情報を流されて貶められた。誤解だ。
・悲鳴を上げた女性は見つかっていない。だけど、その声音は分かる。
・神様が複数、送還された。爆発のせいで自分達は見えなかった。要ロキに確認。
・
・『ダイダロス通り』が爆発した。以前から『不審火騒ぎ』があった場所だ。
・爆発による火災に乗じて、【
・武装したモンスター達が【
・武装したモンスター達が出てきた場所から、ベル君が出てきた。何故?
わかる範囲で書き殴って、そして痛む頭を抱えた。
もっと多く情報が欲しい。
きっとダイダロス通りだけで起きたことではない。他の場所でも起きているはずだ。クノッソスから出てきたベルからの情報しかり、都市内で何が起きたのかを他の神々や住民、冒険者から貰いたい。
「疑心暗鬼に陥ってしまったせいで……少なくともあの時、ベル君に攻撃的になって手を出そうとした人がいたせいで、ベル君はどこかへ姿を消してしまった。どうして彼がクノッソスから出てきたのかという情報は得られないっす」
幹部勢がやられてしまったことや、【
「ラウル、戻ったわよ……って何しているの?」
「ア、アキ……いや、ちょっと整理を」
「顔色、酷いわよ。休んでないでしょ」
「………休んでられないっすよ」
「皆には休めって言っておいて何言ってんだか」
扉をノックして入ってきたのは、アキだ。
疲労の色が見えるが、いつもの調子で話をしてくれる。同期というのもあって話しやすい相手にラウルはアキに言われて頭をポリポリと掻いた。
「それで……フィン団長達は?」
「団長とリヴェリアさんは打撲で気を失っていただけ。そりゃあ、骨を折ったりとかはあるけど……問題ないわ。ガレスさんなんてピンピンしてたわ」
「よかった……ア、アイズさん達は?」
「【
「そう………すか」
彼等の一命はとりとめた。それだけで、緊張の糸が切れそうになる。ふらふらと椅子に座り込んで、遠いところを見つめているラウルにアキは溜息をついた。
「それで、もう一度聞くけど…何をしていたの?」
「敵の目的が知りたいんすよ、それで……そうっすね、起きたことの整理をしてたんすけど」
ボードに書き殴られたラウルの文字をアキは見つめる。つい数時間前の出来事が疑問点も含めて記されている。アキは腕を組み、考えるような仕草をして、カチコチと時計の音が大きく感じられるほど間を置いてようやく口を開く。
「敵の目的……はわからないけど、整理するならもう少し遡ってみるのはどうかしら?」
「遡る?」
「そ」
言うとアキはボードに書かれた文字を一度消すと、新たに書きだした。
☆大前提:男神エレボスは7年前に逃亡している。
+その責任を女神アストレアに追及された。
+神ヘルメスが「その場に俺もいたけど」と女神を擁護。
+曰く、唯一の眷族が命を引き換えに男神エレボスを逃がしたとのこと。
①『怪物祭』。
+モンスターが逃げ出した。
+アイズ達が食人花と交戦。
+ベル・クラネルが脱走したモンスターと交戦。
+都市内で初めて魔法を使用。
+
②ダイダロス通りで『不審火騒ぎ』が起こるようになった。
+犯人は見つかっていない。
+被害規模は軽微なもの。
+憲兵達が到着する前には消火されている程度のもの。
+最初は火の不始末だと思われていた。
③【ロキ・ファミリア】遠征、59階層に到達。
+【アストレア・ファミリア】から【大和竜胆】、【疾風】が同行。
+59階層は極寒の世界から樹海のようなものへ変質していた。
+59階層で極彩色の怪物、『
+18階層で【大和竜胆】、【疾風】、【
④18階層で異常事態発生。
+18階層で『
+取り残された冒険者達によって交戦。
+ベル・クラネルによって最終的に討伐された。
⑤グランドデイ。
+『死の砂漠』より『
+空に
+ダンジョン内のモンスターが暴走。
+複数の異常事態が重なった異常事態。
⑥
+汽水湖にて食人花を発見。
+密輸とクノッソスのもう一つの入口の存在を探る。
+【カーリー・ファミリア】がやってきた。
+ティオナ、ティオネが女神カーリーに接触される。
+食人花が港町で暴れる、アマゾネス達も暴れる。
+ベートが『妙な術師がいる』と言っていた。
+騒動の中に【イシュタル・ファミリア】がいた。
⑦クノッソス進攻
+人造迷宮へ進攻した。
+赤髪の怪人によって団長が死にかけた。
+解呪の秘薬のおかげで助かった。
+悪辣な仕掛けで分断された。
+怪我人は多かったが何とか脱出に成功。
+レフィーヤが壁画を発見した。
⑧迷宮都市が魅了に落される。
+犯神は女神イシュタル。
+何者かが魅了を解除した。
+【イシュタル・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】が戦争遊戯。
+内容は『
+『
+トドメを刺したのはベル・クラネル。
+戦争遊戯を再開するか否かの神会が開かれたが、女神イシュタルが行方不明となったため話は流れた。
⑨武装したモンスター。
+宿場街が壊滅したという騒ぎが発生、討伐隊が送られる。
+『武装したモンスター』達が地上に進出した。
+暴走していた
+槍が
+団長に『同族殺し』という烙印がついた。
+複数の神が送還された。
+
+ダイダロス通りが爆発、多くの建物が倒壊。
+爆発の火災に乗じて【
+幹部陣が全滅。
+アイズを連れて行こうとする【
+クノッソスの入口があるだろうとされる場所からベル・クラネルが出てきた。
+上記2つから【アストレア・ファミリア】に裏切り疑惑が浮上。
ボードから離れて、ペンを卓に転がす。
そしてラウルと共に腕を組んで、じぃーっと無言で見つめる。そして溜息をついた。
「わっかんない」
「わからないっすね、流れを見れば色々起きていたのはわかるっすけど」
「【カーリー・ファミリア】と【イシュタル・ファミリア】が手を組もうとしていたとかは考えられるけど、女神イシュタルは行方不明なんでしょ? 意味ある?」
「ないっす。だからそこは省いていいはずなんすよ」
「ベートが言ってた『妙な術師』ってのは、【アストレア・ファミリア】に加入した狐人の子でしょ?」
「そうっすね、綺麗な子っす。それより、どうして怪物祭からなんすか? それより前は?」
「ないとは言い切れないけど、書くほどのことは起きてないはずよ? 抗争から7年、平和だったのは間違いないもの」
「………ということは、今になって動き出した理由がある?」
「………たぶん?」
最初の
「……ミノタウロスが『
「らしいっすね、おかげでクノッソスに行くときにあらかじめ『秘薬』を持っていくことができたっす」
「それを怪物と碌に戦ったことのないあの子が倒した……?」
「聞いた話じゃすごい魔法を使ったって……まあ、自分達も戦争遊戯とかで見たから納得っすけど」
「確かにすごいけど……並行詠唱もできない子が?
「………」
話し合う2人。
呻ってエレボスが何をしたいのか、何故今更なのか、と頭を悩ませる。そこへ、主神が帰ってきた。扉を叩き、張り詰めていた2人にいつものように笑いかける。
「ほほーん、さすが次期団長。推理中やったか?」
「ロキ……!」
「ロキは分かる? 神エレボスの目的」
「さすがにわからんなあ……けど、これとこれとこれ、共通していることはあるんちゃう?」
ロキは言いながらボードに記された文字を〇で囲っていく。首を傾げる2人に、
「んでもって、あのアホのエレボスは堂々と言ってたやろ?」
<まことに済まない、平和ボケしていた諸君。俺が、ベル・クラネルを見初めてしまったがためにこんなことになってしまったよ>
「ってな?」
「そうっすね、それが原因でベル君が元凶みたいになって……んん?」
「そもそも、どうして神エレボスがあの子のこと知ってたのか気になるんだけど……」
「そこは今、大して重要じゃないなあ」
「あの子ってそもそも、怪物祭に後に冒険者になったんだっけ?」
「ランクアップしたからってのが理由らしいっすけど……」
今まで起きていたことの中でどうしても少年の名が浮上してくる。冒険者になった理由はなし崩し的だし、18階層は戦わなくてはいけない状況下になっていたし、何から何まで巻き込まれているような気がしてならない。
「ベル君がいるところに、必ず何かが起きているっすね」
「神エレボスは……ベルが狙い?」
× ♪ ♪
都市某所―
「つまり、神エレボスはベル・クラネルという1人の少年を標的として何か目的をもってこれまで事件、いや、神々が起こすことだ……『試練』と言った方が正しいか? まあ、起こしていたことになる」
ラウル達が頭を悩ませている同時刻。
フェルズは人知れず寂れた屋敷で、呟いた。
卓にはラウル達のように情報を整理していたのか文字と駒が配置されている。
「『怪物祭』の後に彼は冒険者になった。
18階層では【ロキ・ファミリア】の遠征隊が立ち去った後に神が神威を解放したことにより、黒い怪物が生まれたという。これは他ならない祈祷を捧げていたウラノスが証言している。18階層は出入口を塞がれ、戦わなくて生きて帰れない状況に陥った。
「【ロキ・ファミリア】の冒険者が数名、戻ってくれたというのもあるが……最終的にトドメを刺したのは、ベル・クラネルだ」
その時の詳細を異端児達も見ていたし、またこうして出会うことになるとは彼等だって思いもしなかっただろう。
「グランドデイは『ベヒーモス』と『アンタレス』の同時討伐という神々でいう『無理ゲー』が発生した。だがこれは……『ベヒーモス』が亜種とはいえ復活するという異常事態と『アンタレス』の封印が解ける、アルテミスが喰われるという『異常事態』が重なった事件だ。これを神エレボスの手腕とはとても思えない。だが空に展開された『アルテミスの矢』という神の力の影響でダンジョン内でモンスター達が暴走した。それを解決したのは……ベル・クラネルだ」
巨大な筒状の水槽の中で、石竜が眠っている。
ぼこぼこと時折空気が下から上へと上がっていくが、それを見守りフェルズは続ける。隣にある長椅子では
「迷宮都市が魅了によって落とされる……美神による侵略があった。突然、前触れもなく。犯神は女神イシュタルとされているが、今となっては真相を知る術は無い。何者かの介入によって魅了が解除され、【アストレア・ファミリア】と【イシュタル・ファミリア】の戦争遊戯が開催された。これにも、ベル・クラネルが関わっている。そして、戦争遊戯に乱入してきた『
しかし、穢れた精霊が地上に進出していたというのもおかしいし、船に乗って現れたというのもおかしな話だ。あれが地上に出ていたのであれば、既にその被害情報がオラリオにまで届いている筈だ。わざわざオラリオから外に出し、戻ってくるように船を動かしていた……としか思えない。戦争遊戯に乱入させるためだけに。
「だが、お題目が『
× ♪ ♪
黄昏の館
「ロキ、戦争遊戯のお題ってどう決めるんすか?」
「その時によるなあ……なんせ、戦争遊戯なんて子供達からすれば『代理戦争』やけど、
「その結果、メレンが消滅してたら笑えないわよ」
『
「武装したモンスター……これは、ベル君が何か知ってるってことっすかね」
「アホな子達が「お前が犯人かー!」って追っかけてもうたせいで逃げられて、知りようはないけどな」
「だとしても今みたいな状況を作り出そうとはあの子、考えないでしょ」
「18階層にいたはずのあの子がクノッソスから出てきたっちゅーのは、そうせざるを得なかったってことちゃうか?」
「その結果、【アストレア・ファミリア】の信用が落ちた……?」
「そら、18階層に行ったはずの子が、どうしてかあんなところから出てきてアリーゼちゃんがアイズたんを連れ去ろうとしたんやから……なあ?」
「いったい、どうして……?」
「神々が起こすことに、理由なんてあるのかしら?」
× ♪ ♪
ギルド―ギルド長執務室―
「ロキ達の打倒が狙いではないわ」
「では何だと言うのです?」
執務室で、アストレアは卓を間に挟んでロイマンと対峙していた。身柄の拘束とはいうが、あくまでもそれは体裁にすぎない。女神アストレアがオラリオを裏切るというのは彼女の人望などからして、あり得ない話。けれど今、混乱状態にある都市の民達を前に彼女を自由に行動させるというのは難しいものがあった。現在もまだ【アストレア・ファミリア】の団員は戻っておらず、恩恵が減ったとはアストレアが言っていないことから恐らくは18階層で治療を受けている最中だろう。ならば女神の身を保護するためにも匿う必要性があった。そして、彼女にしかわからないこともあるのではと踏んだロイマンが今、こうして話をしているのだ。アストレアの隣には不安そうに縮こまっている非戦闘員の春姫がいるが、2人の話の邪魔をしないように口を閉ざしている。
「アルフィアの……英雄達が残していった遺産、ベルが狙いでしょうね」
「――――」
卓に置かれている茶菓子や紅茶にはアストレアは一切手をつけず、淡々と言葉を紡ぐ。美しく柔らかな所作で見惚れてしまいそうになるほどだが、彼女から聞こえた言葉にロイマンは一度言葉を失った。
「確かに神エレボスは……あの時、かの少年を見初めたばかりになどと言ってはいましたが……それだけで?」
「神々が何か傍迷惑なことを起こす理由なんて、大して理由がなかったりするものよ」
今日は天気がいいから。
お気に入りの化粧品が汚れてしまったから。
可愛い子供を眷族にしたいから。
目立ちたいから。
そんな下界の住人達からすれば「そんなことで?」というような理由で、神々は災いにも匹敵する面倒事を起こしもする。今、オラリオが陥っている状況もそう変わらないとアストレアは言う。
「では、フィン達が落とされたのは……」
剣も魔法も使えない、まして恩恵もない男神の策略だけで1つの派閥の戦力はがた落ちした。現在もフィン達の意識が回復したという話は聞いていないし、一族の復興を掲げていた零落したという話はあまりに大きな衝撃だ。
「ロキの
× ♪ ♪
旅人の宿
「邪魔だったからだ」
ヘルメスが言う。
話を聞いていた団員達は目を見開いて固まり、凍り付く。
「じゃ、邪魔だったって……なんだよそりゃ」
犬人の少女が震える喉でなんとか言うが、その続きが紡げない。
「エレボスはベル君しか見ていない。彼に何かをしてほしい……いや、俺と同じか? 俺だったらあそこまではしないが、何らかの
「というと?」
「舞台はオラリオ。主役はベル君。
例えば、モンスターがダンジョンで暴走し宿場街を襲撃したのなら【ガネーシャ・ファミリア】や【アストレア・ファミリア】という都市の秩序を維持してきた正義の使徒達が黙っていない。当然、動く。
「これでアストレアの
「ですがそれは、火の不始末だったのでは?」
「最初のうちはそう思われていた。でも、それが連続すればそうとも言い切れない。犯人は毎度見つからず、そして今、ダイダロス通りが爆発したという結果が生まれた。するとどうだ、都市の憲兵達に対する都市民達の信用は一気に崩壊する」
今も都市内では事態の収拾に奔走するガネーシャの眷族達がいるが、彼等のストレスは計り知れないものだろう。お前達が放置していたから、こうなったんだろう? と言われても言い返すことができないのだ。詰め寄られればいくら彼等だってまともに動くこともままならないだろう。
「これでアストレアとガネーシャの派閥が身動きが取れない状態になった」
「それも、邪魔だったから……とヘルメス様は仰るのですか?」
「そうだ」
眷族達にわかるように、ヘルメスはいつもの優男風な雰囲気を沈めて真面目に答える。都市の地図を広げ、その上に駒を並べ、動かし、盤面を眷族達に把握させるのも忘れない。
「アストレアの眷族達は少数精鋭だが、強力な派閥だ。そう遠くないうちに全員が第一級冒険者になるとまで言われるくらいにはね。仮にも、アルフィアが鍛錬に付き合っていた娘達だ、弱いわけがないんだ。だから今の状況は、エレボスにとってはとても都合が良い」
「……何故、でしょうか?」
「アリーゼちゃん達がいれば、ベル君を必ず守ろうとするからさ。ベル君は他の冒険者達と違ってあまりに純粋すぎる。未知を求めている彼が、人間同士の争いごとに巻き込まれるなんてそれこそアルフィアが許さないだろう。きっと、言われていたはずだ」
だが今やアリーゼ達は18階層で動けない状態にある。
ベルだけが完全に孤立した状態になってしまっている。
「【剣姫】、【九魔姫】、【怒蛇】、【大切断】、【凶狼】、【重傑】……こちらも今や戦闘不能。【重傑】はひょっとすれば復活しているかもしれないけれど、【勇者】や【九魔姫】のように指揮能力はない。経験から基づく指示は出せても、俯瞰して盤面を見て駒を動かす能力は2人に比べて劣るだろう」
「【勇者】は同族殺しの烙印が押され今まで得てきた栄光は失われた。【九魔姫】もまた現在、意識不明で……都市内の妖精達の精神状態はよくない」
【ヘルメス・ファミリア】のエルフ達だって例外ではない。敬っている王族が落とされたのだ、怒りの感情もあれば己の無力を嘆きもする。彼女が目覚めでもしない限り、エルフ達が立ち上がることもまた難しいだろう。
「【ロキ・ファミリア】の幹部勢が全滅……【千の妖精】は【九魔姫】の後釜として幹部扱いされているが、これもさっき言ったように【九魔姫】が落とされたことで戦力にならないはずだ」
少なくとも3つの派閥を、ほぼ同時に落した。
これが数時間前の出来事であると、ヘルメスは告げる。これがエレボスの手腕であると自らも戦慄を覚えながら。
「どうすんだよこれ……! 今だって、闇派閥のやつら……!?」
「襲撃、あったかファルガー?」
ルルネの震える声が部屋に響き、ヘルメスが扉にもたれるようにして佇む青年に聞くと彼は首を横に振った。
「民衆がギルドの職員や憲兵に詰め寄ったりっていうちょっとした小競り合いはあるが……闇派閥自体の襲撃は、
「――――は?」
「冒険者同士の小競り合いもあるが、それだけだ」
敵は現状、何もしていない。
そうファルガーは言うのだ。
おかしい、それはおかしいと団員達も言葉にしないまでも思う。だがヘルメスは「だろうな」というような表情を浮かべていた。
「今、ベル君は姿をくらませている。ということは、彼が舞台に上がらない限りエレボスは何もするつもりはないんだろう……とはいえ、このまま何も起こらない筈がない」
「?」
「お前達、武装したモンスターがどこへ姿を消したか……わかるか?」
「いえ、ダイダロス通りが爆発し炎上したせいで見失ったと聞いています」
「そうだ。だが、現状、あのモンスター達がダンジョンへ帰る道はあるか? いいや、ない」
何故なら、モンスター達が通ってきた道は瓦礫で埋まってしまっているから。おまけにダイダロス通りが爆発した今、入り口を探し出すことは簡単なことではない。つまりモンスター達は姿を隠すしかないわけだ。
「闇派閥の調教したモンスターってことは?」
「ないとは言い切れないが……その可能性はゼロだろう。そうだろう、ローリエ」
「っ、はい。彼等には我々、人類と変わらない知性があります……人語こそ話せる者とそうでない者がいますが、彼等を調教するということは人間を調教するのと同じくらい困難かと」
「ありがとうローリエ。おまけにさっきローリエから聞いた限りでは、クノッソスは『崩壊』したらしい。なら、モンスター達はダンジョンに帰還できない状況にある」
「!?」
それはつまり、必ず武装したモンスター達がアクションを起こすということ。まして闇派閥の勢力ではないということは、三つ巴の状態にあると考えてもいいだろう。
「この状況、我々はどう動くのかお聞きしてもいいでしょうか? 【フレイヤ・ファミリア】は……まったく動かないとは言いませんが、あまり期待できないでしょう」
アスフィが問う。
あのフレイヤのことだ、気まぐれを起こして都市を救ってもいいがどのような見返りを求めてくるかわかったものではない。
「敵の勢力で厄介なのは怪人と
「対して我々は【アストレア・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】【ロキ・ファミリア】を戦力外に考える必要がありますね……」
「この際、クノッソス内部のことは気にしなくて良いはずだ。何せ崩壊しているのならあちらだって動きは制限されているはずだからな」
「なあヘルメス様、なんで自分達に不利になるような状況まで作ってるんだ? クノッソス、崩壊させたのおかしいだろ?」
「おかしい点なら他にもあるぞルルネ」
「?」
「
「おかしいですね、それは」
「ベル君も厄介な
現在の闇派閥の戦力とオラリオの戦力。
今の状況もまたエレボスの仕業ではあるが、最低限ギリギリなんとかなるかもしれないと少なからず思えてくる。
「神エレボスは、闇派閥の首領……エニュオではないのですか?」
「あいつがエニュオかどうかはまだわからない。だが……恐らくあいつは、どの勢力に対しても『味方』でもなければ『敵』でもないんじゃないか?」