アーネンエルベの兎   作:二ベル

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ちょっと男子ぃ……


英雄賛歌⑮

 1つ目の夜が来た。

星空が広がる空は暗雲に閉ざされ、同時に人々の心もまた暗いものになる。まるでこの下界こそが、男神エレボスの『地下世界(箱庭)』なのではと思いたくなるほどだ。

 

「さあ、暗黒期を再開しよう」

 

 

その言葉よりしばらく。

神々が、冒険者達が、頭を悩ませ休む間もなく忙しなくしている内に日付は変わり、暗黒期再開より1日目の夜が来た。

 

「? なんだ、あれ……?」

 

勿論、日中にも嫌がらせのような行為はあった。

それを鎮圧するべく冒険者達が走り回る。けれど決定的に違ったのは、やはり夜だった。それはいつからそこにいたのか、ふと冒険者の1人が細めた目で見間違いではと疑いながら見つめていたことをきっかけにするかのように始まった。

 

 

◇【東】

 

「あれって……コボルト?」

 

「でも何で触手なんか……? あれも『武装』なのか……?」

 

小柄な怪物は、生気を失ったような顔で佇んでいた。もとより本能に従って生きる怪物に生気というものがあるのかわからないが、虚ろだった。身体には『触手の鎧』とも言えるものが取りついており、幽鬼のようにふらりふらりとストリートど真ん中に立っていた。

 

 

◇【西】

 

「ったく、何だったんだい? こいつは……おい娘共ぉ、無事だね!?」

 

「にゃ、にゃー……大型級の屍の上でシャベルを担いで振り返る母ちゃんまじやべー」

 

「ミア母ちゃん、『別に倒してしまっても構わんのだろう?』みたいな後ろ姿やめてほしいにゃぁ」

 

「出会い頭に瞬殺とか、どうなってんのよ……」

 

大型級、と猫人の少女が言った怪物は、元はオークだったか。植物の触手が鎧のように纏わりついてこそいたが、うつ伏せになって倒れてピクリともしない。そんな怪物の背には、大柄な女性が立ち、シャベルを担いでいた。白いエプロンが風に揺られて靡く。

 

「「「ここだけギャグパートみたいな流れで処理された気がする……っ」」」

 

酒場で働く給仕達と共に避難していた都市民が唖然呆然と彼女の後ろ姿を眺めていた。

 

 

◇【南】

 

「ふん……別段、脅威でもない」

 

眼鏡をくいっとさせながら、白妖精が呟いた。

彼の視線の先には、超大型級の怪物が倒れ伏していた。雷にでも撃たれたように焼け焦げ、今も煙を放っている。歓楽街のあたりから出てきた怪物は、即座に無力化されていた。曰く、女神の庭を穢す輩め…と。冒険者達が取り囲んでいるが、1人の治療師の少女が恨みがましく振り返り、睨みつけてくるが知らんとばかりにまた眼鏡をくいっとさせた。

 

「【紅の正花(スカーレットハーネル)】が潜んでいる可能性もある。遅れをとるとは思わないが、恥を晒すなよヘグニ」

 

「…………【剣姫】を討ったのは、彼女とは別だと思うな」

 

「ほう」

 

ヘディンだってあの女がそんなことをするとは思えないという考えがないわけじゃない。派閥同士の闘争や抗争など珍しくもない。信頼し合うほど仲が良いわけでもないが、どういう人間なのかは知っている。ヘグニは何を考えているかよくわからないが、他人と会話なんて碌にできない何言ってるか分からないような言動をするが、そんな男が確信を持っているかのようにあれは偽物だと口にする。2人は、それ以上会話を挟むこともなく、超大型級の怪物へと向って行った。

 

「あの、なんか冒険者が怪物と鎧の間にいるっていうか取り込まれている感じなんですけどこれ私が治すんですか!? 随分容赦なく雷放ってましたけど!?」

 

「知らん、やれ」

 

 

◇【北】

 

「た、たすけてくれぇぇぇぇぇ……」

 

掠れた男の声がした。

冒険者達は目を疑い、耳を疑った。

彼等彼女等の前にいるのは、超大型級の怪物。触手の鎧を身に纏い、元が何だったのかはわからない。だが、怪物と鎧の間をよく見てみれば、そこには―――。

 

「嘘、人間……!?」

 

冒険者通りで、怪物と相対しながらアーディはその瞳を戦慄に染めた。生きた人間が怪物に囚われていたのだ。それも彼女の頭の中に入っていた『行方不明者』達がだ。

 

「攻撃を当てたら……殺しちゃう……!?」

 

冒険者達は生かさず殺さずの状態で怪物の身体に囚われ、助けを求めるように呻いている。魔法は論外、集団でかかってしまえば取り返しがつかない。まさに『肉の盾』。アーディには魔力を込めることで刃を殺す『特殊武装(スペリオルズ)』があるが、彼女1人では意味がない。

 

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 

巨大な腕部が持ち上がり、石畳を叩きつける。

衝撃と共に手も足も出ない冒険者達は吹き飛ばされる。姉が帰ってこない、友人も帰ってこない。それでも都市を守るという憲兵の1人という責務を果たそうとする彼女はどうすればいいのかわからず、時を止めた。

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』

 

「う、うぅ……」

 

咆哮とうめき声。

混ざって、耳朶を震わせる。

いやらしいほどに悪辣で、打つ手がない。

この怪物を生み出した人間は、まさに尊厳など知ったことではないのだろう。人間を養分にあの怪物は力をつけ、好き放題暴れるのだ。誰も彼もの胸の内で、警鐘が響く。防戦一方で手をこまねいて歯を食いしばる。戦う彼等の目にも、怪物に取り込まれた人間の姿が見えているのだ。中には見知った顔もいるのか、心は揺れ動き、動揺に染まる。今にも怪物の触手が冒険者達を襲おうとした、その時。

 

『―――――ギィッ!?』

 

突然夜が弾けた。

光が空を飛び散り、超大型級の怪物へ爆裂する。

どこかで見た綺麗な青い炎が、弾丸の如く奔り、怪物に被弾したのだ。

 

「え、何……?」

 

「上空から……!?」

 

誰もが空を見上げた。

目が眩むような光に、思わず瞼を閉じかけて、そして見つけた。夜闇に漂う影を。

 

「ベル君じゃ、ない……?」

 

『煩わしい……煩わしいぞ、劣悪な癌細胞ども。やはりこの世界は穢れている……浄化しなくては……』

 

宙には1体の巨大な機械竜がいた。

誰もがぽかーんと目を点にする。

そして神々は興奮の声を上げた。

 

「あ、あれは!?」

 

「馬鹿な!? あれは城之内君のデッキにいるはずじゃあないのか!?」

 

「それもなんか大きい!? 声もまるで真理を得たように理知的だ……!?」

 

「「「メ、機械(メカ)だと……!?」」」

 

ごくり、と頬から汗が滴り落ちる。

思わず握り締めた拳にも力が籠る。

神々の言っている言葉はまるで分からないが、しかし、女神達が可哀想なものを見るような眼差しを男神達に送っていることから下界の住人達はしょうもないことなのだと察することができた。

 

「「「くそ、超かっこいい………っ!」」」

 

「「「勝てるわけないよ、あんな浪漫(メカ)……!!」」」

 

「「「ちょっと男神(だんし)ぃぃぃぃいいいい!!」」」

 

荒ぶる風を呼び、竜は静かに眼下より見上げる有象無象をその赤い瞳に映す。ああ煩わしい、なんて煩わしい。仲間達を辱め貶めた何もかもが、煩わしい。故に、その竜は怒りを以てして宙を舞う。

 

『神々さえ降臨するこの世界で、なぜ争いはなくならない? 答えは明白、人だ、人がいるからだ。貴様等こそが母なる星を蝕む膿にして癌なのだ。ならば今こそ、私が母なる星の代わりに裁きを下す剣となろう……!』

 

×   ♪   ♪

都市のどこか。

 

 

「どっせぇーーーーーーーーーーーいっ!!」

 

「んぐへぁああああああっ!?」

 

 

都市が騒がしいが、こっちはこっちで騒がしいぜ。

美の女神の拳がロリ神の頬にぶち当たった! 

 

「な、なんて腰の入ったパンチ!」

 

「捻りの加わったパンチ!? 俺でなきゃ見逃してたね!」

 

出会い頭、「はぁいヘスティア~元気してたぁ~?」からの見敵必殺女神殴打(パンチ)。これには眷族も建物に隠れていた住民だって声を大にして悲鳴を炸裂させた。

 

「「って、女神様なにしてんですかぁあああああああ!?」」

 

ロリ神は身体に似つかわしくない大きな乳房を揺らして極東で言う竹とんぼの如く回転して吹っ飛んだ。ゴミ箱に突撃し、ビクビクと身体を痙攣させるロリ神へと美神は高らかに拳を掲げた。

 

「よし、処女神の生き血ゲットよ! 運びなさい!」

 

「お、俺達にできないことをやってのけるアフロディーテ様……そこに痺れる、憧れなーい!?」

 

「搾り切るわよぉ!」

 

「ちょ、あ、アフロディーテ様!? ここ、R18じゃありません! R18Gじゃありません! 女神様のお乳を搾ろうとしないでくださいお願いしますちょっと羨ましい!」

 

「美の頂点である私を差し置いて、むかつくわねこのおっぱい女神。今の内に搾って小さくしておこうかしら……いいえ、いいえ、ここは落ち着いてアフロディーテ。あまり調子に乗らない。そう、乗ってはいけないの。ヘファイストスに見つかったら何されるかわからないし……でも処女神の血は欲しいから、ヌかせてね♡」

 

貴方の生き血が、誰かを救う。

さあ、レッツ、『献血』!

 

 

×   ♪   ♪

少し前、とある研究所(ラボラトリィ)

 

 

警報が鳴り響いていた。

そこにいる者達は慌てて右往左往。

暗がりではあるが、決して真っ暗というわけでもない場所で人一人が入っても問題なさそうな大きさの筒状の水槽が複数あった。ぼこぼこと音を立てて空気が下から上へと上がっている。通路では至る所に大小さまざまなパイプが張り巡らされている。そこは魔術師(メイジ)研究所(ラボラトリィ)であり、異端の怪物達を匿っている拠点でもあった。

 

「く、何故だ……どうなっているんだ……! さっきまで大人しかったじゃないか!」

 

「おいフェルズ、お前、またか!」

 

「またとはなんだ、またとは!」

 

「やらかしたんだろう!?」

 

「わ、私はやらかしてなどいない! 断じてだ!」

 

「じゃあ、何で暴走し始めてるんだよ! これ、もうどうなるかわからねえぞ!?」

 

「な、何がいけなかった……ダンジョンに帰還するために、能力を向上させる。そのために少しばかり【剣姫】の魔力の配合を多めにしただけだというのに……!? くっ、まさか保管してあった貯蔵タンクや特殊アーマーなどの魔道具(マジックアイテム)を全て取り込むとは……!」

 

「貴様ぁ……、ただでさえ手一杯な状況だというのに事態をより余計にするとはぁ……!」

 

「ま、待て人蜘蛛(ラーニェ)、胸倉をつかんで揺さぶるんじゃあない!」

 

施設は悲鳴を上げるが如く警報の音を鳴らし、人ではない異形の者達は戦犯だろう愚者を責め立てる。人蜘蛛(アラクネ)に胸倉をつかまれたフェルズはぐわんぐわんとその細っこい身体を前後に揺らした。

 

「なーにが、中央突破しかダンジョンに帰還する方法はない……だ! もうそれ以前の問題じゃねーか!?」

 

「グロスが巨大化しているのですが!?」

 

「聞いたことがあります、巨大は負けフラグであると!!」

 

「フィア、お願い、どこかメタ的なことを言うのはやめて!!」

 

リドもレットも叫び、フィアがどこか興奮気味に言うとレイは恥ずかしいとばかりに身悶えた。フェルズは弁明する。こんなはずではなかった、と。そりゃあ君達がヒト化できればよかったが、それも難しい。何より、レイの時はこうはならなかったのだと叫び散らす。異端児達はピタリと動きを止めるとレイへと振り返る。下から上へと身体を見ると、ごくりと喉を鳴らした。

 

「地上の方は変わった趣味をお持ちなんですね?」

 

「フィ、フィア!?」

 

「右腕が疼いたり……してんのか、レイ?」

 

「リド!?」

 

「右腕じゃなくてお腹の奥が疼くんだよね、レーイ?」

 

「ラウラ!?」

 

今まさに施設を半ば壊しながら生まれ出ようとしている仲間の姿にレイを重ね、地上での逢瀬を中々変わったプレイで楽しんだのではと勘違い。レイは激怒した、必ず邪知暴虐の神を除かなければならぬと決意した。しかしレイには地上のあれこれはわからぬ。レイは、歌人鳥の異端児である。歌を歌い、暗い奈落を飛んで暮らして来た。けれど清潔感に対しては鳥一番敏感であった。同族は皆、糞尿垂れ流しでそれはもう臭かった。あんな同族に殺されたくはなかった。

 

「わ、私、こんなの知りませんよ!? というかなんか巨大化していませんか!?」

 

「男の子って興奮すると大きくなるらしいですね」

 

「いや大きくなるのスケール違うだろ……」

 

「フィア、どこでそういうのを覚えてくるんだ……」

 

「この間、冒険者の方が男女の交尾の仕方が載っている本を落としているのを拾いました! 人間って人間から生まれるんですね!」

 

「「「ダンジョンに何を持ち込んでんだ、人間ンンンンンンン!?」」」

 

わーきゃーと騒ぐ異端児達。

フェルズは頭を痛めた。

しかし目の前で起こっている暴走を止める術はない。

間もなくして、巨大化する身体に耐え切れず怪物を入れていた水槽は内側から壊された。爆発し、床が水浸しになっていく。水滴を滴らせ、もうもうとした煙を押しのけて姿を見せるのは全身を機械で覆ったような1体の竜だった。

 

 

『時が満ちる。星が解き放たれる、定めの時だ……』

 

響く、仲間の声に異端児達は「あ、察し…」とばかりに顔を逸らした。背中がむず痒くなるような感覚があるし、後々取り返しのつかない傷になるのではと瞼をぎゅっと瞑りたくなった。憐れ、なんて憐れ。

 

「グ、グロス、正気に戻ってくれ!」

 

リドが叫ぶ。

仲間達も異口同音にして同胞の回復を願った。

 

『正気だとも! 私は風を纏いし光の奔流(ライトストリーム)を浴び、目覚めたのだ! 私こそ星の第一子孫! 正統なる後継者を統べる黒き月の王!』

 

「ま、まさか【剣姫】の魔力で暴走を……? 何故だ!?」

 

ただ魔力を提供してもらうバイトをしてもらっただけだというのに。レイの時は暴走とかしなかったのに。ヒト化するどころか巨大化している上に機械仕掛けだ。どういうこったい。フェルズはダラダラ汗を流して原因を突き止めようとし、異端児達はおろおろ。グロスは静かに天井を見上げ、まるで外で何が起きているのかわかっているのか、目を細め呟いた。

 

『同胞達よ、死者達よ……命を捧げるほどのことだったのか? 仲間を捧げるほどのことだったのか……!?』

 

瞼の裏に、小さな少女が同胞と共に貫かれていた光景が浮かぶ。その小さな少女が人間に利用され同胞達を人間達の元へ連れて行っていた過去を思い出す。連れていかれた顔も知らぬ同胞達がどうなったかなど知る由もない。想像はつく。出会った時、少女は既に人としての臭いを失っていたのだから。こびりついた怪物と人間の血の臭い。装飾品のつもりか、同胞の臭いが残る遺品の数々。散々利用しておいて最後にはあの少女を人間は殺したのだ。それらがフラッシュバックのように浮かぶと、沸騰した水のように怒りの感情がグロスに力を与えた。

 

『コロシテヤル……コロシテヤル……コロシテヤル……! この星に最早、人間など不要なのだ! 今こそ、裁きを下してやろう!』

 

煌々と青い光が部屋を満たす。

グロスの口が発光していた。

溢れんばかりの魔力に、息を止めたフェルズ達。そして、一条の星炎が天井を撃ち貫き、グロスは研究所を飛び出した。彼は勢いそのままに巨塔(バベル)のある北方面へと向って行った。

 

 

×   ♪   ♪

黄昏の館

 

 

「以上が、作戦っす。何か聞きたいことはあるっすk―――」

 

「ラウルさん、大変です!?」

 

食堂に仲間達を集めて、自分の考えすなわち作戦を伝えていたラウルは駆け込んできた1人の団員の方へ顔を向ける。それは仲間達も同じでその慌てようはただ事ではないことは察することなど容易だった。最も、日中でも闇派閥達はお構いなしにどこかしらで騒ぎを起こしていて、また何か敵が事を起こしたのだとそう思っていた。

 

「都市に怪物達が出現!」

 

「武装したモンスターが出てきたの?」

 

「い、いえ、それが、俺達があの日見たのとは違うっていうか……触手が生えてました!」

 

「触手……」

 

目を細め、極彩色の怪物を思い浮かべる。

触手ならば食人花だろうか……そう思って、ラウルもアキも第二軍を仕切る者達は目を細めた。

 

「どうやらその怪物達は『冒険者』を取り込んでいるようで、攻勢にでられないみたいです!」

 

「人間を……」

 

「取り込んでいるですって!?」

 

館に休息に戻っていた者達を集めての作戦伝達。

それが終わったタイミングで流れてきた情報に嫌な汗を滲ませる。こうしている間に、どこかの酒場の最強のお母ちゃんが1体ぶちのめしていたり、どこかの女神の眷族がバチグソに砲撃していたりしていたわけだが、まさしく『肉の盾』と言えるいやらしいやり口に既にいっぱいいっぱいだったラウルは顔色を更に悪くさせた。

 

「【紅の正花(スカーレットハーネル)】は?」

 

「い、いえ、見つかっていないそうです」

 

アイズ達が倒れたあの日以来、アリーゼらしき女は姿を現していない。今回の怪物の出現に、もしかしたらと思ったがそれは団員が否定した。

 

「そう……ラウル、とにかく、やりましょう」

 

「アキ……」

 

「時間、かけてられないでしょう?」

 

数瞬、見つめ合う。

ラウルは後ろで静かに腕を組んで見守っているロキを見て彼女が頷いてくれたのを確認すると仲間達へと言った。

 

「全員、行動を開始するっす」

 

音を立てて立ち上がる道化の神の眷族達。

キリキリと痛む腹部を摩りながら、ラウルは部屋を去っていく仲間達を最後まで見送ってから動き出した。

 

「ロキ、リヴェリアさん達は?」

 

「ん、言った通り治療施設におる。ほぼ1日寝て休んで、目も覚ましてるはずや」

 

「……本当に、いいんすか? 自分なんかに任せて」

 

「面白いからええと、ウチは思うで」

 

頼りないラウルの背中をバシバシと叩くロキ。

聞いていた作戦、というよりは『奇策』にケラケラ笑って面白いと評価する。女神は直接の指揮を執りはしない。彼女は知っていたから、自分の眷族達がただやられるだけの木偶ではないことを。

 

「まず、どないするんや? フィンか? リヴェリアか?」

 

「まずは、リヴェリアさんっすね」

 

苦笑い。

滴る汗を拭って、青年は言う。

アリシアやアキ達にも頼んで、自分は今の団長と副団長の元へ。一拍置いて、ラウルは言った。

 

 

「まずはリヴェリアさんに………」

 

腹を抱えて笑うのを堪えるロキの存在が、今だけは安らげる気がした。だから少しだけ、ラウルは背伸びをした。

 

「―――死んでもらうっす」

 

 

×   ♪   ♪

治療院

 

 

重たい瞼を開けて、天井に映る白い色を瞳に映す。ぼんやりとして頭を振って、起き上がろうとして何かが身体の上にあるのか重みを感じた。

 

「……すぅ……んぅ……」

 

少女がお腹へ突っ伏すようにして眠っていた。

疲労の色から、疲れて眠ってしまったのだろうことはわかった。彼女の目元に降りてきた髪を指ですくって直し、起こさないようにベッドへ移動させる。

 

「アストレア様、アリーゼさん達……無事かな……」

 

外は爆発しているのか、普段は聞こえない音が聞こえた。

まるで7年前、本拠の外から聞こえてきた音に似ていた気がする。たった数時間ダンジョンに行っただけのはずだった。宿場街が壊滅したと聞いてアリーゼ達と一緒にダンジョンへ向かって、よくわからない怪物達と戦って、地上に戻ってくれば何かが変わっていた。

 

<こうなったのは君が原因だって……そう、言ってたの>

 

エイナはそう言っていた。

自分が何か、してしまったのだろう。

よくわからないけれど。

 

 

「いったいいつまで他人事(ファンタジー)のつもりだ、もう既に自分事(リアル)だ」

 

鏡に映る自分がそう言っているような気がした。

7年前は知らなかった世界が、きっと外では起きている。

勘がそう告げている。

今、傍にいてくれる女神も姉もいない。

守ってくれる義母も叔父もいない。

振り替えってベッドで眠る、もう長い付き合いの少女の頭を撫でて離れる。

 

「アミッドさん、ありがとう。それから、ごめんなさい」

 

きっと無理をする。

たぶん無茶をする。

その後はきっと治療師の彼女に怒られる。

そうわかっているけど、やめるわけにはいかないから。

部屋を後にして、屋上を目指す。

静かに口ずさんで詠唱を開始。

魔法円が広がり、それが廊下を優しく照らす。

階段を上り始めてしばらく、老神が腕を組んで待ちかねていたかのように立っていた。

 

「行くのか、小僧」

 

そう言われて、ベルは頷いた。

老神は「行くな」とも「そうか」とも言わず、用意してあったのか革鞄(ホルスター)と紅の槍とスモーキークォーツの眼装を投げ渡してきた。

 

「持っていけ、貴様、碌に得物がないのだろう?」

 

真裸の状態で出て行くバカがどこにいる。

そう言いたげに非難めいた視線でベルを射抜く。

頭を下げて、階段を駆ける。

すれ違いざま、ディアンケヒトは言った。

 

「死ぬなよ」

 

屋上へと続く扉を通り抜け、魔法の解放と共に飛び出した。

 

 

「――【ビューティフルジャーニー】」

 

 

×   ♪   ♪

都市 北区

 

 

機械仕掛けの竜は、空より地上を見つめていた。

胸の内は空虚で、見える景色に何の感動もわかない。

未知の怪物の姿に、同胞かと疑う気もない。あれは正真正銘、敵だ。触手だとか極彩色だとか、見覚えがないわけでもない。あの忌々しい人間共によって生み出されのだろう。あの忌々しい人間共によって利用されたのだろう。ああ、なんて忌々しい。ああ、なんて煩わしい、汚らわしい。

 

『結論は出た、人類は滅ぶべし! 消え去るがいい、神々が生み出し星屑の末裔共よ!』

 

冷酷なる竜の声が響く。

見上げる者達に彼を止める術などありはしない。

人類は飛べないが故に。

魔力が集束する。

星の煌きのように集まり、彼の胸の辺りに合わせた両手の間で球体の形を形作る。

 

我が聖書をここに(ファイナル・ジャッジメント)!』

 

怒りこそが原動力。

少女を利用するだけ利用して始末した人間など、許さない。人間が生み出した怪物が、今や人間を『肉の盾』へとしている。それもまた人間が造り出した怪物だ。全ての原因に人類がある。故にこそ、竜は怒りの声を上げて粛清の光を放とうとする。

 

「――ぁああああああああああっ!」

 

『―――ヌ!?』

 

何かが、邪魔をした。

咄嗟に腕で顔を庇い防御。

火花が散り、放とうとしていた光が霧散する。自らを攻撃した邪魔者がなんであるか確認しようと顔をそちらへ向けると、見覚えのある少年がいた。優し気な光を帯び、両手でしっかりと槍を握っている。首には罅割れた煙水晶(スモーキークォーツ)の眼装がかけられている。

 

『その槍は………』

 

見覚えがある。

あの密猟者が持っていた得物だ。

禍々しく枝分かれし、紅の色をした槍だ。

 

『その、眼装は………!』

 

知っている。

あの密猟者がかけていた物だ。

少女を利用し搾取していた男の代物だ。

 

『人間………』

 

「何をしてるんですか、随分、画風が変わってるじゃないですか」

 

竜の視線が少年のみに注がれる。

竜は少年へ向けて、砲口の構えを取った。竜が息吹(ブレス)を吐くのと同じ体勢だ。

 

『この星は穢れている……! 浄化せねばならんのだ!』

 

「させない……っ!」

 

少年は右手をまっすぐ前に砲身に見立て、構えた。

目の前にいる機械仕掛けの竜が何を言っているのかはわからない。ほんの少し、格好いいなと思わないでもないが、言動に賛同はできない。ただ下で見上げている者達の中にアーディの姿を捉えてそうするのが正しいように動いていた。両者は同時に、砲声する。

 

「アストラル――――!」

 

『カシオス―――――!』

 

竜の口から放たれようとしている青い炎に、ベルは目を見開いた。何より、竜から感じられる魔力がおかしかった。アイズと自分(ベル)のものが感じられたのだ。時を止めたのは一瞬。けれどその一瞬が勝敗を明白にするには十分。

 

「『ボルトォオオオオオオ』!!」

 

両者から放たれる、星炎。

星空を切り取ったような炎と星空を奪い取ったような炎が衝突する。拮抗する両者の炎はしかし、すぐに竜から放たれた星炎によって崩れた。

 

「がっっ!?」

 

単純な火力負け。

一瞬の動揺がそうさせた。

ベルの炎が飲み込まれるようにして、竜の炎がベルをも飲み込み吹き飛ばした。

 

『フン、貴様如きに私を破れるものか。 この私を打ち破れるのは私と同じ王、漆黒の雄牛のみ! 罪悪の灰燼になるがいい!』

 

煙をあげて吹き飛んでいくベルから竜は視線を外した。

大したことでもない、所詮は些事だ。

 

 

「く、そ………また、か……またですか………!」

 

吹き飛んで行きながら、ベルは口にする。

1人の少女を脳裏に思い描きながら、口にする。

どうしてあの竜が怒っているのか、どうしてアイズの魔力を感じられたのか、そんなの『怪しいバイト』をしていたからに決まっているし何より、彼女が秘めている怒り、恨みをベルは知っている。だからこそ、ベルはまたなのかと言うのだ。

 

「また貴方ですか、おのれアイズ・ヴァレンシュタインンンンンンンンンっ!!」




アイズ「ひっ……!? べ、ベルに怒られてる気がする……!?」


①アフロディーテはヘスティアの神血をゲットした!
②ラウルはリヴェリアを死んだことにした。
③カシオス=異端児(怪物)しか行けないダンジョンの特殊な領域の名称。
④メカグロス=アイズとベルの魔力を注入されてる。アイズのが多めなのでアイズの秘めたるもの(復讐心)が作用して暴走。
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