アーネンエルベの兎   作:二ベル

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英雄賛歌㉒

 2つ目の夜が来た。

まるで嵐の前の静けさを失ったように、悪党共はどこからともなく姿を見せ、押し寄せてきた。対する冒険者達は舌を打ち、悪態をつき、こういう時くらい盾になれと背中を叩かれ、武具を鳴らし、怒声を散らす。

 

「ちぃ、ロキめ……引退したワシ等まで巻き込むとは……!」

 

「仕方がなかろう、ダイン。 旗頭が揃いも揃って戦闘不能というではないか」

 

「死んじゃいないよフィンもリヴェリアもね」

 

「「ガレスの心配はせんのか」」

 

「頑丈なあいつが死ぬのかい!?」

 

「「一番ピンピンしておるだろうなぁ」」

 

 

ロキの眷族であるものの既に表舞台からは降りた引退組のノアール、ダイン、バーラといった老兵達もまた主神に言われるがままにこうして戦いの場に姿を現していた。7年前の抗争を生き抜いた彼等彼女等は経験、場数といった部分ではまだまだ若人達には引けを取らないからだ。故に駆り出された。鯨波の如く押し寄せる悪党共へと若者たちに交じり切りつけ、殴りつけ、蹴りつけ、対抗する。ふと千切っては投げ、千切っては投げをする徒手空拳の猛者が視界の端に見えたので何人かはそちらへ目を向けたが―――。

 

 

「もうタケミカヅチ、お前が前線いけよ!」

 

「タケちゃん、さっすがぁー!」

 

「きゃー、タケミカヅチ、抱いてッッ!!」

 

「タケミカヅチ、今夜、予定空けとくねッ!!」

 

「私に寝技を叩き込んでぇ~!」

 

という声を聞いて、見なかったフリをした。

なんだあの極東の神。

何で恩恵持ち相手に素手でやり合えてるんだ。

そんな疑問を誰もが抱くし、なんだか負けたような気分になってそれを押し隠すようにより一層大きな声を上げて叫び散らした。

 

 

「スッゾコラー! 何が武神じゃコラー!」

 

そんな感じである。

どこかで悪神は腹を抱えて笑うのを堪えた。

 

 

×   ♪   ♪

クノッソス7層

 

 

軍靴の如く音が響く。

外部からやってきた神の眷族達による進攻の音だ。

光が輝き魔法が飛び、食人花も白装束の敵もお構いなしに燃え、爆ぜ、凍てつき、貫かれる。進攻してきた者達は見目麗しい妖精(エルフ)を中心に編成された部隊である。

 

「前、敵兵3!! 二時の方向からモンスター多数!」

 

「突破します、撃ちなさい!」

 

「前後『扉』が閉じました!」

 

「前を開けます、『魔法』の行使は開門に合わせて! レフィーヤ、防壁を!」

 

アリシアを部隊長として妖精達が走る。

女性エルフのみで編成されるリヴェリアの部隊、『妖精部隊(フェアリー・フォース)』。全員が『並行詠唱』を修得し短文系『魔法』を駆使する。Lv.3以上の魔導士、魔法剣士達の集まりだ。そこにレフィーヤが加わることで完成に至るが、現在、リヴェリアなしでの運用が行われていた。全てが揃ってさえいれば、あらゆる攻撃を弾き全方位に砲撃を放つ『移動要塞』と化していただろう。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴(らくえん)の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】、【エルフ・リング】」

 

現在はリヴェリアのいない穴を召喚魔法を持つレフィーヤに代行させている。派閥の中で皆の姉のようなポジションのアリシアがリヴェリアの代わりとなって指揮を取り、何度かの闇派閥との衝突で入手していた『鍵』を前方に掲げ、閉じた門を開く。

 

「【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ――】」

 

「【行進せよ炎の靴――】」

 

「【凍てつけ、冬の縛鎖――】」

 

「【契約において命ずる】!」

 

4人の妖精達が歌う。門が開くとその向こうからは白装束の者達の姿が目視で確認できた。完全に開ききるのと合わせるように、レフィーヤは杖を振るい紡いだ魔法を行使する。

 

「前方に敵部隊、魔導士複数……それから、『魔剣』!」

 

「【ヴィア・シルヘイム】!」

 

展開された結界が敵の攻撃を防ぐ。

続いて、3人が完成させた魔法をお返しにと砲撃し、魔法剣士の少女達が爆風を突破し斬り伏せる。

 

「「「~~~~~~~~ッ!!?」」」

 

「…………」

 

自分達の攻撃が弾かれたことに驚愕し、すぐさま魔法の餌食となった悪の者達は断末魔の悲鳴を上げて動かなくなる。その光景を『妖精部隊(フェアリー・フォース)』に混じってみていた者がいた。

 

「ロキ様のご趣味で編成された妖精の集まりかと思っておりましたが……いやいや流石に『魔法種族(マジックユーザー)』が徒党を組んだとなれば、恐ろしい恐ろしい。こういう光景を思い描いての編成だとすれば、やはり神は侮れませんなぁ」

 

あくどく、口元を着物の袖で隠して目元を笑みに歪めるは極東美人(ヒューマン)の輝夜だ。頭や着物で隠れているが身体には包帯を巻きつけている。

 

「黙りなさい輝夜、ここは敵地。もう少し緊張感というものを―――」

 

「貴様こそ黙れリオン。一張羅(ブルマ)がダメになって少なからずショックを受けていたこと、忘れたとは言わせんぞ」

 

「な……なぁっ!?」

 

輝夜に注意するリューを知ったことかを手を掃う輝夜。

自分達を負かした怪物に悔しさ故に歯噛みするが、何より見逃されたというのがより一層屈辱を彼女達に与えていた。リューは目覚めると共に治療を受けている仲間達に心を揺さぶられたし、輝夜は屈辱に頭に血を上らせ素っ裸で飛び出そうとした。彼女達を落ち着かせたアリーゼや仲間達は労われるべきだろう。

 

「輝夜ダメよ! ただでさえ大きい胸が、激しく動き過ぎたら垂れちゃうわよ!?」

 

「リオンちゃん落ち着いて、私達は大丈夫だから! 新しいブルマも買ってあげるから!」

 

「ばっるんばっるん揺らしてちゃダメ! だるんだるんの美しさの欠片もない垂れ乳なんて受けないわ!」

 

「そうだぜリオン! ブルマがなんだってんだ! 今のお前はただのパンイチ妖精だ! でもな、それでもリオンなんだよ! 私達の可愛い玩具(リオン)なんだ! だから泣くな!」

 

「ベルも言っていたわ、輝夜さんのおっぱいは大きくて綺麗で美味しいって! そう、言ってた。たぶん言ってたわ! 言ってなかったとしたら言わせてみせるわ! でもよく考えて輝夜、すっぽんぽんで戦ったりなんかしたら、当たり判定が大きくて大変よ? ベルもきっと嫌がるわ!」

 

「そうだわリオン、ベルに新しいブルマを買ってもらいましょうよ! リオンが好きに選べばいいし何ならベルに選んでもらえばいいじゃない!」

 

「そうですよリオン。リャーナさんなんて、下着のラインが出るからって理由でTバック穿いてるんですか―――待って待ってくださいリャーナさん、う、腕が腕が曲がっちゃいけない方向にぃぃ!?」

 

「何でお前ら全滅したのにこんなに元気が有り余ってんだよ、こえぇよ」

 

ほんの数秒の回想を瞼を開けて終わらせるリュー。

【ヘルメス・ファミリア】の犬人が呆れたような顔をしていた気がするがもうどうでもいい。エルフのリューとしては今だけは他派閥の同胞達と気持ちを1つにしたかったのだ。

 

「尊きお方に手にかけたこと、後悔させてくれる……!」

 

そう言って【疾風】の名に相応しく走り出していくリューの背を見た輝夜は後方に控えていた女性冒険者に目をやる。頭からすっぽりと外套(フーデッドローブ)で身を隠しているが、女性らしい曲線(ボディライン)は見ればわかるほど。その中身が何者であるかなど最初から分かっているとばかりに目を細め、言う。

 

「ようございましたなぁ、貴女様がいなくては戦えないような烏合の衆ではなくて」

 

「………ああ、自慢の娘達だ」

 

声を抑えて返ってきた返答に輝夜は目を丸くする。

そしてリューを追いかけるようにして走っていく。

 

「私も……私達も、あの女に一度は言われてみたかったものだな」

 

そんなことを呟いて。

妖精達の進撃は止まらない。

前方、左右の扉が開き食人花と共に白装束が姿を見せる。蛇のようにのたうつ不気味な極彩色の花の怪物はおぞましいほどの物量で、それに紛れるようにして白装束達が魔法や魔剣を放ってくる。

 

「【純潔の園(エル・リーフ)】、前に出ます」

 

「【疾風】……分かりました、援護します」

 

言ってアリシアは矢筒から矢を一本取り出す。

それは通常の矢とは違い、鏃が鉱石でできたような色味を持っていた。矢を番え、弓を引く。リューの詠唱が聞こえ、タイミングを合わせようとその時を待つ。

 

「【千の妖精(サウザンド)】、結界を維持しろ。土の民(ドワーフ)共はか弱い妖精様達が吹っ飛ばないように踏ん張ってくださいませ」

 

そう言って輝夜ともう1人全身を外套で覆う女性冒険者が飛び出していく。足の速い2人に目を見開く【ロキ・ファミリア】の団員達は合流した力強い援軍に喉を鳴らす。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火(せいか)の加護を】」

 

「【狂い咲け】」

 

「【―――――】」

 

2人の魔力に紛れて、3人目の詠唱が行われる。

長剣を握り締めて歌うその女性冒険者に、結界を保つレフィーヤやアリシアが「え?」と漏らした。いやまさか、そんな…でも……! 頭を振り、自分の役目を真っ当しようと集中を乱しかけたのを戻しアリシアは番えた矢を撃ち放った。

 

「お三方、後ろに跳んでください!」

 

その指示が聞こえればぐっと足元を蹴るようにして跳躍して後退。放たれた矢は3人と怪物の間を通るようにして跳び、白装束の1人に着弾、爆発した。

 

「ぎゃぁああああああああああ!?」

 

『~~~~~~~~~~ッ!?』

 

「な、魔法!? 何故!?」

 

熱波が放ったアリシア達のもとにまで届くほどの威力と衝撃。魔法(オリジナル)をも超えかねないその出力に妖精達はギョッとした目をアリシアへと向けた。矢を放ったアリシアは思っていた以上に威力があったせいか笑みを浮かべたまま汗を垂らしていた。

 

「ア、アリシアさん……あれ、何したんですか?」

 

「まさかそんな、ねぇ……」

 

「ふふ……貴方達、いいですか? 毒を以て毒を制すのです。相手が魔剣や卑劣な手段を取るというのであれば、こちらも同じようにするまで。ええ、使いましたよ? クロッゾの魔剣」

 

「「「何てものを発注してるんですか、アリシアさぁん!!」」」

 

「し、仕方がないでしょう!? リ、リヴェリア様が負傷して、私も気が気ではなかったのです!!」

 

クロッゾの魔剣を使用したことも驚くべきことだが、アリシアは『鏃』型の魔剣の製造を発注、矢として加工し放ったのだ。これには先程「前に出ます」とキリッとした顔で言っていたリューもドン引き。王族がやられた怒りについてはわかることではあるが、同胞の郷を焼き払ったとされる逸話のあるクロッゾの力を使うとは…と流石に思う。

 

「お、おのれぇ、冒険者共ぉおおおおおおお!」

 

爆炎を突き破って、装束さえ焦げ、煙を出す白装束達が毒々しい短剣を握り締めて特攻をしかけてくる。それを1人、高く跳躍していたリューが容赦なく完成し待機状態にしていた魔法【ルミノス・ウィンド】を放つことで光の中へ消し去った。詠唱を止めた輝夜はリューに精神回復薬(マジックポーション)を投げ渡し、消費した精神力を回復させる。

 

「私達は必要だったのか?」

 

そうぼやく輝夜。

妖精達の連携は硬く、前衛攻役の輝夜は援軍で来る必要性はなかったのではと思わざるを得ない。ドワーフ達もいるにはいるが、彼等の役目はあくまでも瓦礫の撤去にすぎない。メインで戦っているのはどう見ても妖精達だった。そんなぼやく輝夜の左隣、外套の女性冒険者の真横の扉が開く。

 

「――輝夜!」

 

「不要だ、リオン」

 

戦況に少なからず高揚しているのか声が荒いリューを輝夜は静かに言い返す。白装束達が姿を見せ、武器を振りかざしすぐ近くの女性冒険者を餌食にしようと襲い来る。彼女は開いた扉の方を向いて敵がくるのを確認すると長剣をしっかりと握り身を低く、敵の1人へと迫る。

 

「――――は?」

 

敏捷に秀でたリューほどではないにせよ、彼女の足は速かった。下から上へと斬り上げた際にフードが脱げ、隠れていた翡翠色の長髪が揺れ動いて姿を見せる。髪の間から見えるのは長く尖った耳で、その口から紡がれるのは声量を押さえた詠唱だ。

 

「【吹雪け、三度の厳冬】」

 

 

×   ♪   ♪

クノッソス別所

 

 

「え……嘘」

 

タナトスは水面に映る光景に驚愕で表情を変える。

そこに映っているのは妖精達の進撃であるが、それ以上に信者達が「死亡した」と情報を寄越して来た人物その人だからだ。勿論、第一級冒険者である彼女がそう簡単に死ぬとは思っていないが、それでも妖精達の進撃が彼女の不在による怒りの感情からくるものだということは読み取れていた。

 

「弔い合戦っていう訳じゃないけどさ……その可能性が高いって俺は思ってたんだよ?」

 

慌てふためく信者達は右往左往と忙しない。

クノッソスは8階層のみとはいえ崩壊していて更に下の階層から援軍を呼ぶにも伝達から到着まで迂回する必要性があるし、クノッソスから一度外へ出るしかないだろう。

 

「バルカちゃんは障害を排除できるならってことでエレボスの説得に応じたんだろうけど……いやまあ確かに【ロキ・ファミリア】の頭を潰したってことは排除したに等しいんだけどさ」

 

団長、副団長が倒れたことで指揮は低下する。

それは【ロキ・ファミリア】に限ったことではないが、【ロキ・ファミリア】の強みは仲間同士の団結力にこそある。【フレイヤ・ファミリア】が個としての強さなら【ロキ・ファミリア】は群としての強さ。だがこの状況は、最悪といってもいい。

 

「ダイダロス通りを爆破した。これに【ロキ・ファミリア】は巻き込まれて【勇者】と【九魔姫】を中心に複数の第一級冒険者が負傷。でもそれだけが目的じゃない、クノッソスの出入り口そのものを隠蔽するのに大量の瓦礫は都合が良い。いくら恩恵持ちでも撤去には時間がかかり過ぎるし……【剣姫】を倒したレヴィスちゃんがいつ姿を見せるかわかったもんじゃないからね。ここまでは俺もエレボスに流石だと称賛する」

 

でもこの状況はなあ、と顎を摩る。

エレボスが自分達の前から姿を消してこの状況。闇派閥の指揮を執るのはタナトスであるしヴァレッタでもあるが、ヴァレッタは現在地上にいる。一声かけて戻ってこれるとは思えない。レヴィスもまた同じく。

 

「エインちゃんは行方知れずだし……ひょっとしなくても俺達、嵌められた? いやでも、騙されてはいないしなあ……俺の眷族達もエレボスが面白くて協力していたしそこに虚偽はない。……まずいな、【疾風】と【大和竜胆】、【重傑】だけじゃなくて【九魔姫】まで人造迷宮(ここ)にいるってなると非常にまずい」

 

ヴァレッタを戻そうにもクノッソスの出入り口を知られてしまう。そうなると武装したモンスターや冒険者達に知られてしまう。となれば乱戦と化してしまうだろう。下層から援軍を呼ぼうにも1層分が崩壊しているせいで迂回は絶対であり時間がかかり過ぎる。今タナトスが動かせる兵力(リソース)は7階層分までしかなく、ましてや地上にも兵力を持っていかれている。つまり動かせる駒が制限されている。流石にその状況が読み取れればタナトスも痛む頭を押さえる。

 

「エレボス……ひょっとして、両陣営潰そうとしてる?」

 

×   ♪   ♪

クノッソス7階層

 

 

「ぎゃぁあああああああああ!?」

 

「ば、馬鹿な、馬鹿なぁ!? 【九魔姫】ぅ!? 生きて……いや、魔導士が、剣だと!?」

 

驚倒する白装束達。

姿を現した王族の後ろ姿に妖精達は思わず涙ぐんでしまう。

 

「【我が名はアールヴ】――【ウィン・フィンブルヴェドル】!!」

 

剣を振り上げたまま、腰に佩いた短杖(ステッキ)を前に完成した魔法を解放する。極冷魔法が断末魔を挙げる暇さえ与えず、通路ごと怪物も人間も氷の中に閉じ込めた。水を掃うように借り物の短杖(ステッキ)を振るうとそのまま腰のベルトへと刺し込んだリヴェリアは少女達へ振り返り微笑んだ。

 

「私がおらずともよくやってみせた、見事だ」

 

涙ぐんでいた妖精は決壊したように喜びの顔で涙を流しリヴェリアへと駆け寄っていく。その光景を瓦礫撤去の任を受けて同行していたガレスを含めたドワーフ達とリュー、輝夜が眺めていた。

 

 

×   ♪   ♪

地上

 

 

黄昏色に染まっていた空が闇に染まっていく。

高速で飛ぶ飛行物体は風を切る音を鳴らし、やげてブラックバックを討伐したベルの元へと着地する。ドスンッという重低音を鳴らして、機械仕掛けの竜は姿を見せる。

 

『……………』

 

「……………」

 

互いの間にある距離は5M(メドル)ほど。

静かにベルを見つめてくる竜にベルは最初に相対した時と空気が違うことを不思議に思いつつも警戒は解かず目を離さない。

 

『謝罪を』

 

「?」

 

声が響く。

何を言ったのか聞き返したくなる言葉が聞こえたような気がしてベルは怪訝な顔をする。竜はそのまま、続ける。

 

『一度だけだ。人間、私は貴様を憎き仲間達の仇と誤認した……そのことについて、一度だけだ、頭を下げよう。あの時の私は理性が働いていなかった』

 

巨体を揺らし、竜は言葉の通りに頭を下げる。

その怪物らしからぬ行動に常識が揺らぐ。

 

『―――しかし』

 

言葉を発することも忘れたベルのことなど気にせず、竜は瞳を赤く輝かせて頭を上げ、言葉を続ける。手のひらを力強く握り締めて溢れ出ようとする怒りを抑えながら言葉を紡ぐ。

 

『やはり人類はこの星の膿だ。悪しき腫瘍だ。排除し、この星を清浄せねばならないことに変わりはない』

 

「…………」

 

『私がもたらすのは虐殺ではない! 秩序だ! 星の意志が赴くまま、新たな支配者を選別する! 母たる星が生み出した生命が、母を傷付けるというこの矛盾に終止符を打つのだ! 単純で、真っ当な引き算よ!』

 

機械仕掛けの竜の身体から魔力が迸る。

息を呑み、ナイフを握る力を強めるベルを見下ろし竜は言う。

 

『このまま滅びよ、星の汚点!!』

 

「…………せめて補給させてほしい」

 

極めて当然のことをベルは口零す。

何故目の前の敵からアイズや自分の魔力を感じるのか、まったくもってわからないが……いや、思い当たるふしがないわけではない。きっとアイズの怪しいバイト先が原因かもしれない。

 

《見てごらん、2人の子供だよ》

 

とか冗談でも言われたくない。

格好いいとは思う。

祖父(ゼウス)が見ればきっと「じょ、城之内のデッキから飛び出してきおったのか!?」とか言いかねない。だが、可愛らしさなんてどこにもない。何というか見敵必殺(サーチアンドデストロイ)、ザ・モンスターといった感じのモンスター絶対殺すウーマンなアイズを感じるというかやっぱりワケワカメ。女神のもとに行きたいのに連戦続きで頭がどうにかなりそうなベルはアイズにまたお仕置きしなきゃいけないのかとか考えつつも、つい口走る。

 

「あの竜の胸を揉めば大人しくなるんだろうか……」

 

『………ッ!?』

 

ベルは右腕を上げ手のひらを広げ砲口を竜へ向ける。

竜もまた同じく口を大きく開き青白い光を収束させていく。地上で初めて戦った時と同じように両者は同時に砲声する。

 

「【アストラル・ボルト】ッ!」

 

『【カシオス・ボルト】ォ!!」

 

 

星炎が衝突し、爆発。

都市の一部を青く染め上げる。

 

 

×   ♪   ♪

ダイダロス通り

 

 

瓦礫の山で、彼女は腰を下ろし待っていた。

姿を現した少女を見据えると冷たい瞳で見下ろし、飛び降りるようにして地に降り立つ。

 

「やはり生きていたか、アリア」

 

赤い長髪を一本に結わえ、装具を身に付けている彼女はアイズのよく知る女性にそっくりだ。目つきを除けば。だが、それが本物ではないことくらいわかっている。本物のアリーゼなら、アイズのことを『アリア』とは呼ばないからだ。

 

「お前と初めて出会ったのもこうして変装していた時だったか? あの時は、男に化けていたわけだが」

 

彼女は邪魔ったらしく防具を剥がしていく。

音を立てて地面を転がる鎧。

剥き出しになるのは衣装を身に付けているとはいえ、アリーゼよりも大きく実った果実だ。窮屈だったところから解放されたことで彼女は「ふぅ」と息を漏らす。

 

「また……皮をはいだの?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

「本物の、アリーゼさんは……どう、したの?」

 

「お前が知る必要があるのか?」

 

「………っ」

 

「アリア、今度こそお前を連れていく。お前の仲間のように手足を捥いででもな」

 

「ッ!!」

 

カッと熱くなる。

バラバラに斬り殺された仲間達。

目の前で手足を断たれた仲間達。

何より、フィンやリヴェリアといった大切な人達が目の前でやられてしまった。意識を失う前までの記憶がさっきのことのように思い出される。愛剣を握り締めて、アイズは目を鋭くさせて殺気を漲らせる。

 

「いいぞ、良い目だ……来い、アリア!」

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

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