アーネンエルベの兎   作:二ベル

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仮眠しに帰るみたいなことを繰り返していたのと期間空きすぎて普通に記憶が飛んでます。


英雄賛歌㉓

 砲撃が衝突する。両者から放たれぶつかった星炎は夜だろうが都市の一部を青白く染め上げるほどの幻想的な光を放っていた。

 

『!?』

 

「あの時は……動揺してしまったから、火力負けしたんだ」

 

思い出されるのは、目の前にいる『機械仕掛けの竜』との初戦。

ベルとアイズの魔力を敵から感じ取ったベルは一瞬とはいえ動揺し魔法の威力で劣ってしまっていた。魔法の爆発を突き破ってベルは『機械仕掛けの竜』へと接敵。『ヘスティアナイフ』で斬りかかった。

 

『ヌ、ゥ………ッ! 我が深淵の炎と同じものを放つとは忌々しい……!』

 

斬りつけられた硬質な身体に傷が入り、火花が散る。

致命には至らず、負傷(ダメージ)にもならない。

それを手応えで感じたベルは目を細め、すれ違い、すぐに体勢を直し竜へ向く。ベルよりも遥かに巨大で『石竜(ガーゴイル)』よりも大きい敵は自分と似通った魔法を行使する上、まだ『未知』の部分があり油断できなかい。竜はぐるりと首を回してベルを見据える。睨み合うのは5秒にも満たない時間。

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

「ぁああああああああああああああっ!」

 

鉄に覆われた爪と、2振りのナイフが連撃(ラッシュ)をぶつけ合う。

爪が石畳を破砕する。

ナイフが竜の身体を滑り、火花を散らす。

人間の身体から肉が抉られ赤い血が舞った。

機械仕掛けの竜は損傷をものともしない。

人間の身体から汗が滴った。

竜の身体から魔法を放ったことで上昇した体温を冷却するための煙が噴き出した。

 

『貴様如きの力では我が肉体に損傷(ダメージ)すら与えられん! 消え失せよ、星の汚点よ! 裁きを受け入れよ!』

 

「っ!」

 

『カシオス―――!』

 

「アストラル―――!」

 

連撃(ラッシュ)のぶつけ合いから、両者は再び魔法を放つ。

砲身を敵へ向け、声高々に叫んだ。

魔力が膨れ、流れ、奔る。

 

「『ボルトォオオオオ』!!」

 

星炎爆発。

至近距離での魔法のぶつけ合い。

機械仕掛けの竜相手では、【アーネンエルベ】や【ビューティフルジャーニー】を詠唱する時間が足りない。歌っている間に【カシオスボルト】をぶつけられるか、容赦なく肉を抉ってくる爪で致命打を与えられていたはずだ。爆発によって強制的に距離が開けた両者。機械仕掛けの竜は目を細め、巨大な翼を地に打ち付けるかのように羽ばたくと、空へと上がっていった。

 

「な………っ!?」

 

『貴様の速さは理解した。ならば私も速度を以て貴様を断罪しよう。同胞すら屠る愚かな生命よ……あの娘の仇、とらせてもらうぞ……!』

 

竜は空を飛び、大きく円を描くようにして加速していくと次には翼を畳み、身体を回転させてベルへ目がけて急降下突撃を始めた。星の炎が噴き出し、竜の身体を包み上げ、星空が竜巻になったかのように迫り来る。

 

『砕け散るがいい……【カシオス・テンペスト】……!』

 

それは魔法などではなく、必殺であった。

そもそも怪物が魔法を使うということ事態が未知だが、目の前で起きている事象は『魔法』ではなく『必殺』であるということはベルにもよく理解できた。アイズの【エアリアル】にベルの【アストラルボルト】を混ぜたら、きっとこうなるのかなと子供が想像して出来上がるそんな産物が目の前で迫ってきていた。

 

「~~~っ!?」

 

回避不可能。

防御不可能。

避けても防いでも無事じゃすまない。

【ビューティフルジャーニー】を解放しようにも間に合わない。

どうする、どうする、と手札を必死に探す刹那、ベルを巨大な影が覆った。

 

『させるかぁああああああああ!』

 

『ッ!?』

 

『正気に戻りやがれ、グロスーーーーッ!』

 

叫び声がした。

次には鉄の塊同士がぶつかった時の音が響いた。

空気が震え、迫っていた竜巻はベルを襲うことはなかった。

 

「ーーーーー」

 

深紅の瞳が揺れる。

今のオラリオに起きていることも驚かされるばかりだが、目の前で起きたことに理解が追い付かないのだ。何より、()()()()()ということに心を揺さぶられる。

 

『………無事か、人間?』

 

赤い身体のそれは、あえて言うならば『蜥蜴人(リザードマン)』なのだろう。だが、彼の身体もまた機械仕掛けであった。振り返りながら、笑っているのか鋭利な歯を見せる彼。彼が、あの竜巻を止めたのだ。どこからともなく乱入し、殴り飛ばすことで防いだ。そのせいか、彼の右腕は損傷しているようで火花を血のように散らし、本来の姿を見せている。

 

『初めまして、ベル・クラネル』

 

「!?」

 

名乗ってなどいない筈なのに、彼はベルのことを知っていた。そのことにまた、驚かされる。だが、さっきまで戦っていた相手よりも話が通じるような気がした。何も言わないベルへ赤い竜はつづけた。

 

『仲間を……助けてくれて、ありがとう』

 

「な、かま……?」

 

何のことか、理解できない。

混乱しているせいだ。

情報を整理できない。

何で彼が自分を助けてくれたのかも、混乱のせいで理解できない。

なのに、彼はベルに会えて自分の口で礼を言えたことを嬉しそうにしているように見えた。

 

『……会えてよかった』

 

「!?」

 

『へへ、俺っちの怪物生(じんせい)、充実してるぜ……!』

 

「………」

 

鼻を擦るようにして、蜥蜴人は笑っているようにベルには見えた。目の前にいるのは確かに怪物のはずなのに、何かが違っていて、未知で、理解が追い付かない。今までの常識が崩れてしまいそうな恐れすらある。彼等も先程戦った『ブラックバック』同様、武装したモンスターなのだろうか。

 

『あとは、俺っちに任せろ……!』

 

「………は?」

 

『リドォオオオオオオオオオオ!』

 

『ぐへへへ、オデ、強い……ッ!』

 

思考を遮るようにして、瓦礫を吹き飛ばして石竜が姿を現す。

リドと呼ばれる蜥蜴人はベルから石竜へと振り返る。

 

『……グロス!』

 

『何故、邪魔をする!? 貴様とて見ただろう! 同族であるはずの人間が、娘を刺し貫くのを……っ!』

 

『だからってこんなのは間違ってるだろう!?』

 

『間違ってなどいない! 母なる星を汚す悪性腫瘍を取り除き、清浄せねば、秩序などありはしない! もう耐えるだけの時は終わりを迎えたのだ!』

 

『何言ってるかわからねえぞ! 後で絶対恥ずかしい思いするからな! こんなところで暴れたって、皆の願いが叶うどころか遠ざかっちまう……わかるだろう!?』

 

『叶うとも……! 人類が絶滅し、支配者の席が空けば、晴れて我々は地上の光を浴びることができるのだ!』

 

 

瞼を閉じて聞いてみれば、仲間内で争っている……ように感じる。

瞼を開ければ、コテコテに機械仕掛けな姿で人語を介して言い争っている怪物がいる。2人は一足飛びで距離を縮めて火花を散らして衝突する。鍔迫り合いするように互いの手を掴み合う。ベルはそんな状況に置いてけぼりになっていた。

 

『リドォオオオオオオオ!』

 

『グロスーーーーーーー!』

 

目の前で戦う2体の怪物。

バチグソに人語を介し、「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」とでも言いたげな見た目をしていて、それでいて、2体から感じられるベルとアイズの魔力。ベルは所持品の中から精神回復薬(マインドポーション)を取り出して飲み干し、弁当箱に触れた。アイズのバイト先はいったい何をやらかしてくれていたのだろうか。この面倒事が終わったら、アイズお姉さんをお仕置きしようそうしよう…そうベルは、痛い頭から結論だけを絞り出した。

 

 

 

×   ×   ×

歓楽街

 

 

剣戟の音が鳴り響く。

本来ならば昼であろうとも色町としての淫蕩渦巻く空気がそこにはあっただろうが、今ばかりはそれは鳴りを潜めている。只人(ヒューマン)の肌から汗と血が飛び散り、小人族(パルゥム)は目で彼女の動きを読みながら冷静に捌いていた。

 

 

「どうしたんだい、ヴァレッタ。 僕1人相手に妙に焦っているじゃないか」

 

「っ、っるせぇ!」

 

「まさか、いい歳をした大人が呪具(カースウェポン)にビビっているのかい?」

 

「……っ!」

 

「【殺帝(アラクニア)】が聞いて呆れる。散々僕達の仲間をいたぶっておいて自分の立場になるとビクビク震えてしまうとは。立派な淑女(レディ)が……」

 

フィンが言い終える前に肉薄。

深紅色の歪な槍による刺突の連撃(ラッシュ)を見舞った。

 

「傷が増えた程度で泣くもんじゃあない。とっくに破瓜は経験済みだろう?」

 

「ぎっ、が……っ、はぁ……ッ!?」

 

呪具の効果で少しかすっただけでも流血が生まれ、フィンは連撃の最後に跳躍、身体を捻り回転、蹴りを女の腹に叩き込んだ。強制的に吸い込んだ空気を吐き出されるように声にならない悲鳴を上げて、ヴァレッタは娼館の1つへ突っ込んだ。もうもうと土煙を上げているそこをフィンは静かに見つめ、そして駆け出した。

 

「ち……くそ、がぁ……!」

 

「Lv.5が戦いの中で悠長に尻餅をついているんじゃない。君は敵を嬲ることしかしてこなかったから、そういった基礎的なこともわからないのかい? ……がっかりだな」

 

「っ!?」

 

娼館の壁をぶち破り、床を転げて止まったヴァレッタは顔を上げた時には土煙をぶち破って追撃しにきたフィンに顔を引きつらせ、後ろへ無理矢理に飛んで距離を作ろうとする。それをフィンは、背負っていた白い布を投げることで退路を断った。

 

「なっ、武器!?」

 

「自惚れるつもりはないけれど、お膳立てしてくれたラウルの言葉を借りるのなら―――」

 

「ま、待て、フィン!?」

 

正面からくるりとヴァレッタの背後にまで白い布が広がり、その中に収納されていた武器の数々が宙に舞う。今までのフィンとはまるで違う戦い方にヴァレッタは命乞いにも等しい「待て」を言うが、それをフィンは無視した。

 

「武芸百般、全、()()……なんてね」

 

「が、ぁあああああああああああっ!?」

 

「普段は槍をメインに使ってはいるけれど、決して他の武器が使えない訳じゃあないんだ。いろいろと触ってきたから……()()()()()()()()()()()()()()つもりだよ」

 

細剣(レイピア)による都合4回の刺突が、頬を抉った。

手斧(ハンドアックス)とナイフが脇腹と二の腕を裂いた。

曲刀(シャムシール)湾刀(タルワール)が、あらゆる武器の数々がヴァレッタを取り囲み、フィンはすばしっこく次から次へと武器を持ち替え、傷付ける。まるで竜巻に襲われているかのような猛襲にヴァレッタは身を守るように構えることしかできず、蹈鞴を踏みながら、気づけば後ろにあったらしいベッドへぶつかり、仰向けに倒れ込んだ。

 

(部屋が変わっ……いや、移動していたことに気付けなか……っ!?)

 

「フ―――ッ!」

 

最後にドン、という音と共にフィンは女の身体を跨るようにしてベッドへ飛び乗ると、ヴァレッタの腹へ深紅色の槍が突き刺した。娼館を通り超えて歓楽街全体に響くほどの大絶叫がヴァレッタの喉から轟いた。

 

「ぎゃああああああああああああああっ!?」

 

「聞かせてくれヴァレッタ。 あの時、刺し貫かれた同胞の少女は君達『闇派閥』の信徒か?」

 

「あ、ぎぃぃ、痛ぇ、痛ぇええよぉおおおおおおおおおっ!?」

 

「答えろ、ヴァレッタ」

 

グッと槍を押し込む。

ベッドが軋み、ヴァレッタの悲鳴が上がり、シーツは赤に濡れていく。フィンは冷たい声音で、冷徹な眼差しで敵を見つめ答えを催促する。【勇者】が同胞を殺したなどというデマを広められたあの日、あの時、あの場所でモンスターごと貫かれた少女は、そもそも何者だったのかと。

 

「闇派閥にだって小人族がいないわけじゃない。君達は使える駒はそれこそ無辜の民だろうと使うからね。だけど僕の勘はこう言うんだ。……彼女は闇派閥などではなく、武装した怪物達と闇派閥とで板挟みにならざるを得なかったんじゃないかって」

 

あの時、どうしてフィンは行動不能に陥るまで動揺してしまったのか。デマを流されてしまってそのせいで今まで積み上げてきたものが崩れ去ってしまったからなのか? それとも、同胞の少女だったからなのか? それとも貫かれる前、怪物を救おうとでもしていた同胞の少女に『勇気』を見たからなのか? あるいは、フィン自身では気づけない何かがあったからなのか? その答えを出すのはとても難しい。それこそ、神のみぞ知るというものだろう。

 

「痛ぇ……痛ぇよぉ……ふぃ、フィン、頼む、助けてくれ、こんな、こんな苦しいのはダメだっ、わかるだろっ!?」

 

「ああ勿論、わかるとも。普通、腹に立派な槍なんて突き立てないからね。せめて下の口から咥えさせてあげるべきだったかな?」

 

「ごほっ、げほっ!?」

 

「それで、答えろヴァレッタ。 彼女は……何者だ?」

 

「んぎぃいいいいいい!? ソ、ソーマッ、ソーマ・ファミリアの……ガキ、だぁ……!?」

 

「…………」

 

フィンはゆっくりと槍を引き抜きながらベッドから降りる。目を細め、確か以前より神ソーマが行方不明の眷族を探しているという話を聞いたことがあったようなと思考を巡らせた。それを隙と見たか、ヴァレッタは玉のような汗を浮かばせながらベッドから転がり落ち、窓をぶち破って外へ逃げおおせる。

 

「ところでヴァレッタ……」

 

「は、はっ、く、くそっ、くそがっ、こんな、うぐぅぅ……!?」

 

「どうして僕が」

 

「なんであのクソッたれ勇者は」

 

「普段と違う戦い方をしているか」

 

「いつもと違ぇ戦い方しやがんだ……っ!?」

 

「わかるかい?」

 

「くそ……っ!?」

 

「他のことはラウル達が請け負ってくれているからさ」

 

フィンはヴァレッタが逃げた方向へ槍を投擲する。

窓は壁ごと爆砕し、ヴァレッタの右足の腿を掠めて石畳に突き刺さった。痛苦の声を漏らしながら転がるヴァレッタは振り返り、娼館から出てきたフィンを見て恐怖に染まる。悠然とした動きで、決してヴァレッタを見逃さないフィンはどこまでも追いかけてくる処刑人、或いは復讐者の目をしていたからだ。

 

「今は君に一途でいられる」

 

「は、はぁ、はぁ、は……ぁっ!?」

 

ナイフを右手に握り締めて見下ろすフィンは言う。

散々、殺し合って来た仲なんだ。

たかだか普段と違う戦い方をしたくらいで動揺するな。この程度のことで僕を失望させてくれるな、と。

 

「僕はまだ【ヘル・フィネガス】すら使っていないぞ、ヴァレッタ」

 

「~~~~~~~~~~っ!?」

 

 

×   ×   ×

治療院

 

 

流れた涙の痕を、男神の指が拭う。

作業用のグローブを嵌めてたままで、長いこと使い込んできたのだろうか匂いがしっかりとこびりついていて、鼻につく。でも、どこか懐かしい感じがして少女はシーツをぎゅっと握りしめた。大泣きしてしまったことに羞恥を覚え、俯き、唇を噛む。それに気づいていない男神は「どうした」「どこか痛むのか」「腹が減ったか」などと言ってきて少しイラァとする。少し離れたところでは少女よりも発育の良い少女達がクスリ、と笑みを零していてまた羞恥に染まる。

 

「ソーマ様」

 

「……わかった」

 

尾を揺らしてアナキティが近付きソーマに声をかけると、ソーマは席を立ち、少し離れる。入れ替わりにアナキティが席に付き、少女のことをじっと見つめる。

 

「貴方がいた迷宮……『クノッソス』というのだけれど、それに関する貴方が持っている情報を私達に提供してほしい」

 

「?」

 

「代わりに私達は貴方の身の安全を全力で保証する」

 

「………」

 

少女は答えない。

だけど眼差しは答えていた。

別に誰かに身の安全を守ってもらう必要なんてない。私はずっと危機に晒されながら生きてきたのだから、と。アナキティは瞼を閉じ、胸に手を当てて深く息を吸うと次には深く頭を下げた。

 

「私達の大切な人を、助けて。お願い」

 

「…………」

 

大切な人、とは誰の事なのか少女はよくわからない。

だけど、助けて欲しいというアナキティの気持ちはよく分かる気がした。ずっと、ずっと少女自身も助けてほしかったから。それに、瞼を閉じればあの怪物達のことが気になって仕方がない。少し間が空いてから、少女は口を開く。

 

「……怪物を助けてくれるのなら、私も協力します」

 

「………っ、それは、武装したモンスターのこと?」

 

「武装したモンスター……ええ、そうです。今もどこかから響く吠え声は彼等が地上にいる何よりの証拠」

 

「………怪物は、敵なのよ?」

 

「そうですね、否定はしません。でも、彼等のおかげで私は生きているのも事実です」

 

「どうして、ほしいの?」

 

アナキティは嫌な汗が首筋から流れていくのを感じた。

後ろに控えているアミッドも似たようなものだろう。

長い期間、恐らくは年単位で迷宮を彷徨っていた少女のことだから、碌に知識なんて持ち得ていないだろうと甘く見積もっていたらこのザマだ。取引の主導権は自分にあると思っていたら少女に爆弾をぶち込まれたような気分だ。こちとら団長を貶められ、副団長も幹部勢も負傷したっていうのにさらにここで派閥を危険に晒すようなことを持ちかけられたとあってはアナキティも言葉に詰まるのは無理ないこと。

 

(この子、苦手だわ)

 

「私は彼等に私自身の生存を報せる必要があると思います」

 

それは、まだ彼等の吠え声が聞こえているからだ。

ひょっとすれば自分のことを探しているのかもしれないと。それと、どこかから石竜(ガーゴイル)の怒りの声も聞こえたから、自分が生きていると教えてやれば少しは熱も冷めるはずだと考えたのだ。

 

「彼等は地上に焦がれています。ですが……帰還してもらいます」

 

ここで彼等を遠くへ行かせてはいけないと、そう思ったから。

帰還させることで、今、外で起きている状況を沈められると少女は考えた。

 

「そのための退路の確保を」

 

「………無茶よ」

 

無理な注文だ。

アナキティは正直に零した。

怪物を迷宮に帰すために、その道を用意しろと言われているのだ。少女は知らないかもしれないが、ここは人間が暮らす地上で、多くの人々がいる都市だ。そして此度の騒動で人目はそれこそ多い。少ない場所こそ『ダイダロス通り』や『歓楽街』と言ったところ。迷宮への入口、都市の中心へ行くにつれて人目は増える。神の目も人の目も等しく避けていくことは無理だ。

 

「クノッソスを経由して行くというのはどう?」

 

「崩壊したあの迷宮を通れと?」

 

「っ!?」

 

自分よりも小さな少女にじっと見つめられる。

膝の上に乗せていた手はいつの間にか握りこぶしになっていて、回転させる思考は碌に答えを出せないでいる。

 

(たぶん、この子はこの場で答えを出させようとしている。先延ばしにしたら、交渉は決裂。私達にとっては派閥の名誉は守られるけど、団長の汚名は払拭できない。怪物達を討伐するにせよこの子の要求をのまなければ、彼女はデマをデマであると証言してくれないから団長は団長でいられなくなる。私達がよくても、周囲はそれを許さない……!)

 

「あの怪物達は……何なの?」

 

「……異端児(ゼノス)

 

「?」

 

「そう、呼ばれています」

 

「………じ、時間が欲しいわ」

 

「あるんですか?」

 

「ない……けど……うぅ……」

 

私、この子苦手かもしれない。

アナキティはもう泣きそうになりながらアミッドへ振り返る。アミッドは「え、私を見つめられましても」とそっぽを向き、次に見つめたソーマは首を傾げた。貴方の眷族、迷子になっている間に随分、性格捻じ曲がったんじゃないですか? そう言いたいアナキティである。

 

「私1人じゃ、計画(プラン)を立てられないわ。仲間達全員に伝達することも不可能。そんなことしたら、きっと軋轢が生まれる……っ、派閥(ファミリア)も危険に……」

 

「…………貴方達の大切な人とやらと、ファミリアとやら、どっちが大切なんですか?」

 

「ぐ………うぅぅぅ……!」

 

そりゃあ、先に頭を下げたのは私だけど!?

これ、もう交渉ですらない!!

アナキティは唇を噛み、汗を垂らし、顔をほんのり赤くさせる。ここにラウルがいれば彼はどんな反応をしてくれただろうか? いっそ代わって欲しいとさえ思う。だが、彼は今忙しくて自分の役割に精一杯で、そんな彼に頼まれて自分はここにいる。アナキティは自分の頬をパンっと叩き、勢いよく立ち上がる。

 

「どっちも大切よ、わからないの?」

 

 

×   ×   ×

 

 

『わからぬさ、誰にも!!』

 

竜が吠える。

石竜と蜥蜴人が取っ組み合っては時折、砲撃をぶつけ合う。

翼を持つ石竜は飛び、蜥蜴人は魔力を消費して星炎を逆噴射させることで跳躍。互いの身体を傷付け、ぶつかり合い、火花を散らし、言葉をも投げつける。

 

『どちらも大切だと? 笑わせるな……ッ!』

 

怒りの感情を抑えることもなく、石竜は吼える。

ビリビリと肌を震わせるほどの声音と共にグロスと呼ばれる石竜の眼球は赤く明滅を繰り返していた。

 

『我々の同胞を弄ぶどころか自分達の同族である筈の娘まで手にかけておきながら……ッ! 大切ならば何故奪った!? 大切だと宣うのならば何故殺めたッ!?』

 

『………ッ!』

 

『貴様こそ、なぜこの都市を守ろうとする!? 人類の住まう地など、何の価値もないだろうに!』

 

『………知らねえ! わからねえ! けど、それは壊すのはダメだって、俺っちの心の中で叫ぶ声が聞こえるッ!』

 

2体の怪物達がぶつかり、魔力を吐き出し、言葉を交わす。

片や怒りに飲まれた石竜。

片や理性を残し供給された魔力の元がそうさせるのか都市を守ろうとする蜥蜴人。相容れないとばかりに石竜は止めようとしてくる同胞に吼えあがる。石竜の方もまた、提供された魔力の元となった少女の影響を強く受けていた。

 

怪物(ニンゲン)の剣は同胞(だれか)を傷付ける!』

 

それは何度も味わって来た屈辱だ。

人間によって仲間になったはずの同胞の命は絶たれた。

同胞を殺し、その遺品を加工して振りかざす奴等こそ怪物だ。

 

『奴等の欲望は多くの同胞(なかま)を辱める!』

 

眼装(ゴーグル)を身に付けた男を筆頭に徒党を組んだ密猟者達が、逃げる異端児達を捉えていった。『怪物趣味』などという言葉があるくらいだ、想像したくもない辱めを受けた者だっていたことだろう。戦えない同胞を守るように撤退していく中で振り返った時、彼の瞳に映ったのはまるで快楽に酔った獣だった。エルフの少女が持ってきた、傷だらけの同胞の遺品の数々を彼は決して忘れない。

 

 

『奴等は平気で同族を殺す!』 

 

いずれは帰してやらねばならないと誰もが思っていた。

形はどうあれ地上に帰れたはずの少女は、無残にも槍で貫かれた。何年も共に歩み、迷宮の中で喰えるもの、安全な場所の見つけ方を教えてやったというのに、それらは流血に流された。

 

『私は決して許さない……許すことなどできない!』

 

魔法の炎に飲まれた同胞。

切り刻まれた同胞。

磔にされおびき寄せるための餌にされた同胞。

汚され、辱められた同胞。

瞼の裏を走馬灯のように流れいき、石竜は拳を軋ませる。

 

『また全部(すべて)失くしてしまわぬために……英雄が現れないのならば、私自らが戦うしかあるまい!』

 

慟哭にも似た激しい感情が空気をビリビリと震わせる。

蜥蜴人もその気持ちがわかるのか、鋭い歯の並ぶ唇を噛みしめて言葉を絞り出した。

 

『傷付けるのは怪物(おれっち)達も同じだろう!?』

 

爪が、牙が、翼が。

何度だって人類を傷付け血を強い、怯えさせてきた。

 

『話し合える、笑い合えるんだよ! ……手を取り合うことだって』

 

小さな少女と行動を共にするようになった今までのことを思い出して言葉を紡ぐ。

 

『俺達と同じ感情をもってるんだ!』

 

短い付き合いだったし、愚者(フェルズ)には考え無しだとボロクソに言われていたエルフの少女のことを思い出す。怪物である自分達のために怒ってくれた変な人類(いきもの)のことを彼は忘れない。

 

『帰ろう、グロス』

 

宥めようとする蜥蜴人の声が石竜の耳朶を震わせる。

黙れ、黙れ、と噛み締めた歯が、握り締めた拳が軋む。

 

『俺っち達がここを滅茶苦茶にしちまったら……みんなの願いも敵わなくなっちまう……アーデが、あいつが帰る場所が本当になくなっちまう……そんなのはダメだ、わかるだろ?』

 

『ぬ、ぅぅぅ………ッ! 黙れぇええええええええええええ!』

 

翼を叩きつけるように飛びあがる。

夜空に浮かぶ、石竜の影。

纏っていた機械仕掛けの部品の数々は同胞との戦いで損傷を起こし、今にも砕け散りそうだった。それは見上げる蜥蜴人も同じで、両者は見下ろし、見上げ、見つめ合う。

 

復讐を(コロシテヤル)復讐を(コロシテヤル)復讐を(コロシテヤル)ッ!』

 

収束していく魔力。

それは青白い輝きとなって、星々のように明滅を繰り返す。

蜥蜴人は石竜の魔力の高まりを感じて、撃ち返すべく口を大きく開け、砲撃の準備に取り掛かった。

 

『ギャラクティカ―――』

 

『スーパー―――』

 

両者共に青白い魔力を燃料に、必殺を解き放った。

アイズとベルの魔力を元にした力が、都市の一角を昼の様に明るくするほどに衝突する。

 

『セル……ッ!』

 

『ノヴァ!』

 

石竜が放つは青い炎渦巻く竜巻、【ギャラクティカ・スーパー・セル】。

蜥蜴人が放つは青白く雷のようなジグザグの軌跡を描いた光線、【ギャラクティカ・スーパー・ノヴァ】。両者の全魔力のぶつけ合い。その陰に潜り込むようにして、1人の少年が石竜へと飛び、迫った。

 

「貴方達が言っていることは、よくわからない」

 

『!?』

 

光翼を包帯のように身体へ巻き付けて、怪物の砲撃から身を守りつつ空気を吸うように砲撃を喰らい、消費していた魔力を補充する。怪物同士がドンパチしている間に魔力を可能な限り回復させ【ビューティフルジャーニー】を解放、そして砲撃の衝突へ隠れるように飛び込んだのだ。溶けるように消えていく光翼を他所に、ベルは懐からシルから貰っていた『弁当箱』を取り出す。

 

「そもそも、どうして怪物が喋ってるんですか? 中に誰かいるんですか? それに……僕とアイズさんの魔力で好き放題されるのは、面白くない……っ!」

 

ぱかっと蓋が開き、中からもわぁっとした煙が噴き出した……ように見えた。その『弁当箱』の中身は、決して美味しそうに輝いてなどいない……ように見えた。ベルは弁当箱の中身をあろうことか、勢いよく、石竜の開いたままの口の中へ放り込んだ。

 

「これが……!」

 

『ゴァ……ッ!?』

 

「『愛』というやつです!」

 

『ゴキュ、ン…………ゴホァァァァアアアアッ!?』

 

『グ、グロスゥウウウウウウウウウウッ!?』

 

口に入ってきた物を反射的に、つい、飲み込んでしまった暴走気味(ニゼル)な石竜は内部から爆発を起こした。機械仕掛けの装具も弾け飛び、みるみるうちに体も元のサイズにまで戻っていく。その名の通り、石の身体の彼では目の色などわからないがこれが人間であれば白目を向いていたことだろう。墜落していく怪物の僅かに開いた口からは泡のような煙のようなものまで漏れ出ていた。蜥蜴人の仲間の名を呼ぶ悲痛な叫び声が夜空に掻き消える。供給されていた魔力の素…石竜の心の中にいた小さな金髪の幼女もまた、なんなのだこれは、どうしろというのだ…!? とばかりに口を塞ぎ、腹を抱えてのたうち回っていた。

 

『――――アー………デ………ェ』

 

怖いなあ、人類の『愛』。

なんて思いながら、石竜は天地逆転(まっさかさま)に墜落しつつ、瞳に映った少女の姿からその名を口にした。どこかへ向かっているのか、姿は小さいが、それでも貫かれ死んだとばかり思っていた少女は生きていたのだ。やがて破壊音が響き、遅れてベルがゆっくりと着地する。振り返り、蜥蜴人を見つめて首を傾げた。

 

「どこかで会った……ような……」

 

『………ッ』

 

具体的に言うなら、あのダンジョンとは違った迷宮で。

蹴り飛ばしたような記憶があったが、目の前にいるのとは少しばかり画風(ビジュアル)が違う気がした。何せ目の前にいるのは機械仕掛けの蜥蜴人だからだ。見つめ合う両者。仲間を助けてくれてありがとうだとかなんとか言われたが怪物の知り合いなどいない。いや、直近で、あの謎の迷宮で、やたら見た目の良い怪物とか喋る怪物とかと出会いもしたが、それを知り合いとしていいものか……。

 

「………倒、す?」

 

とりあえず、みたいな感じでベルが言う。

びくっと蜥蜴人の肩が揺れた。

ダラダラと汗が流れているようにすら見える。

やべぇ、やべえよ……俺っち怪物だし仕方ねえけど、やべえよ……魔力もすっからかんなんだぜ!? 内心でバチグソに焦る蜥蜴人。だがその時、別の方角から爆発音が轟き、ベルはそちらへ目をやった。その隙に乗じて蜥蜴人は倒れているだろう石竜のいる方へ全速力で駆けていく。

 

「…………アストレア様達は、喋る怪物(あれ)、知ってるのかな」

 

相対していた2体の怪物は見た目こそ怪物だったが、それでもアイズとベル自身の魔力を感じた。なら、あのレイという女性は……と疑問が浮上する。どこかアイズに似通った姿だった彼女はひょっとすれば……なんて考えて、ふるふると頭を振った。爆発の音も消え、けれどあちこちで戦闘が行われているような音も聞こえてきて、気にはなるがベルはシルとヘイズと話していたことを思いだし足を動かした。

 

 

――ベルさんの今の勝利条件って女神様と『再会』することなんです。

 

「行かなきゃ……!」

 

 

×   ×   ×

クノッソス7層

 

 

激しい戦闘音は止み、静けさが漂っていた。

リヴェリアとガレスを筆頭とした冒険者の集団は、8階層へ続く階段を降りて、そして足を止めた。

 

「これは、いったい……」

 

「暗闇のせいで碌に見えんが……8階層が存在しないとなると、人造迷宮(クノッソス)が崩壊していると考えるしかなかろう」

 

「しかしこの悪の巣窟は、そう簡単に壊せるものではないでしょう?」

 

「【大和竜胆】の指摘はもっともじゃ……この人造迷宮は超硬金属(アダマンタイト)を素材に使われておる。そうそう魔法を撃ったところで階層そのものを喪失させることは不可能であろうよ」

 

ガレスは本来なら8階層の床に接していたはずの階段、その最後の1段を指で撫でながら目を細めて言う。

 

「破壊痕がないことから、()()()()()()()()()()()()と見える」

 

「拡張し続けていたものを、わざわざ?」

 

「【重傑】、階層が1つ丸々ないとなれば、さすがに気づくはず……音もなく破壊など不可能だ」

 

「いえ【疾風】、恐らくは可能です」

 

「【純潔の園(エルリーフ)】?」

 

アリシアはハンカチに火をつけ、奈落の底にも見える8階層へ落す。ゆらゆら、メラメラと小さな火の明りが遠ざかっていく。それを観察しながらアリシアはつづけた。

 

「貴方達は丁度18階層にいて、そして、この階層の崩壊が起きている時、地上では『ダイダロス通り』の爆発や敵による襲撃が重なっていました」

 

『ダイダロス通り』の爆発。

アリーゼ・ローヴェルに扮した敵による襲撃。

暗殺者達によるアマゾネス狩り。

派閥の首脳陣や幹部陣、仲間の死、神の送還…それら全てが重なって誰も気づけなかった。

 

「恐らくは地上での騒ぎはカモフラージュにされていた……或いは、あえて重ねて対処不能にした、か」

 

リヴェリアは目を細めてアリシアが投げ落とした光源が小さくならないことから1~2階層分が崩壊したと結論付け、ガレスと目を合わせ頷いた。ガレスもまた同じ答えを出したらしい。

 

「地上に出た武装した怪物共は、崩壊(これ)が原因で退路を断たれ、地上に出るしかなかった」

 

「現在、地上でアイズ、フィンが相手している敵にも当然、援軍の類はないとみるべきか」

 

「あっても地上に出ている者共くらいだろうよ。ワシらが飛び降りたところで問題なかろうが、上に戻るのはちと無理がある」

 

階層がまるまる1つ、2つ抜けているのなら援軍に行こうにもダンジョンを経由するしかない。仮に他にも道があったとしてもそれはオラリオの外に通じる道で、どっちにせよ時間がかかる。

 

「神エレボスは自分の手駒であるはずの赤髪の女と【殺帝】を孤立させた……?」

 

「ご丁寧に武装した怪物共を迷宮都市という袋小路に閉じ込め、我々に混乱を強いた……か」

 

「可能な限り敵の巣穴を荒してやりたいところではあるが……」

 

「手勢は知れておるだろうが、地上を放ったらかしにして無茶はできん」

 

「引き返すべき、だろうな……」

 

アリシア、リュー、輝夜。

そしてガレスとリヴェリアの順で言葉を交わす。共に下の階層に見つめながら、これ以上の深追いはするべきではないという答えを出し、踵を返すことにする。崩壊していなければ地図作成も含めて時間の許す限りの無茶はしたいところではある。何せ、今、この人造迷宮には赤髪の女もヴァレッタもいない。リヴェリアやガレスよりも強い敵はいないのだ。だが、ラウル達地上勢力を放置しておくのも憚られた。

 

「フィンのことも気になる。戻るぞ、娘っ子ども」

 

ガレスが髭を扱きながら言う。

それに頷き、エルフの少女達が従う。

隊列の後方で最後に残ったリヴェリアとリュー、輝夜はふと下の階層を悔しいとばかりに睨む。

 

「?」

 

その時、何かが動いた気がした。

暗闇のせいでハッキリとは見えないが、ハンカチを燃やしたことで作った光源は叩かれたように消えたのだけは見えた。

 

「気のせい、でしょうか」

 

「わからん……敵が闇に紛れているのかもしれん」

 

目を細め、睨む。

僅かな変化も見逃さないように。

 

 

「何をしておる、リヴェリア! 【アストレア・ファミリア】!」

 

ガレスの怒鳴り声に3人、肩を揺らして暗い闇から目を逸らし隊列に戻る。いくら睨みつけても、変化という変化はなかったからだ。

 

 

×   ×   ×

ダイダロス通り

 

 

激しい爆発音の後、アイズは瓦礫の上で仰向けに倒れていた。糸が切れて倒れたような人形の格好で身体のあちこちから血を流している。それを赤髪の女―レヴィス―が冷めた目で見つめていた。

 

「弱いな、アリア」

 

「う……ぁ……」

 

「威勢が良かったのは最初だけか……失望だな」

 

仲間の命を奪われた。

仲間の手足を断たれた。

強い仲間が、あっけなく。

自分まで、瞬殺という言葉が似合うほどに敗北した。

悔しくて、許せなくて、立ち上がったのに、身体は言うことを聞いてくれない。レヴィスの方が、圧倒的なほどに力があった。

 

 

「私が魔法を使ったのが、そんなに意外か?」

 

「………っ」

 

レヴィスの魔法は、見えなかった。

何が起きたのかもわからない。

だが何もなかった場所でカマイタチや衝撃波のようなものが生じて、仕組みを理解しきる前にレヴィスの膂力に圧倒された。

 

「……風よ(テンペスト)っ」

 

「やめておけ」

 

「がっ!?」

 

一度は貫かれた腹を踏みつけられた。

圧をかけられ、無理矢理に空気を吐き出させられる。

魔法を行使できない。

身体中が痛みで悲鳴を上げても、なお、アイズはレヴィスを睨みつけていた。目だけは死んでいなかった。

 

「わかりやすく教えてやる」

 

そう言ってレヴィスは一言(ワンワード)

アイズの腹から足を退かして、そう言った。

 

「【フェイタリズム】」

 

「――――がっ!?」

 

その一言の後。

アイズの腹に衝撃が与えられた。

それはつい今しがた、レヴィスに踏みつけられたのと同じ威力。

 

「一度起こした事をもう一度再生する。それが私の魔法の効果だ」

 

「………っ」

 

「見えなくて当然だ。運命など、誰の目にも見えないのだから」

 

禍々しい剣を天に付きつけるように持ち上げて、アイズを見下ろすレヴィス。警鐘が鳴り響くアイズの頭と裏腹に身体は言うことを聞いてはくれない。アイズの首か、手足か、どちらにせよあの刃が落とされればアイズは戦闘不能となり連れていかれることだろう。

 

「もう少し楽しみたかったが……動けないならもういい」

 

眠れ、と言うとレヴィスは迷うことなく剣を振り下ろした。

ぎゅっとアイズは瞼を閉じた。

悔しい、と涙を零したその時。

聞きなれた正義の味方の声がした。

 

 

全開炎力(アルヴァーナ)……ッ!!」

 

 

熱を感じて、瞼を開けた。

レヴィスが剣を盾にして攻撃を受け、そのまま吹っ飛ばされるのが見えた。アイズの眼前に、炎の鎧を纏う赤髪の女性の姿があった。

 

「随分ボロボロじゃない、大丈夫、おチビちゃん?」

 

口元に笑みを咲かせ、まだ小さかった頃にそう言っていたように『おチビちゃん』と言って、振り返る彼女。

 

「いつの間にか裏切り者みたいな感じになってるんだけど……フフン、汚名返上をここでしておくわ!」

 

多少成長しただろう胸を張って、両手を腰に当てて、彼女は名乗りを上げた。

 

「皆大好き、正義の味方、アリーゼ・ローヴェル……ここに参上! ちょっと私に似た人を懲らしめに来てやったわ!」




グロス:アイズの魔力7+ベルの魔力3=アイズの怪物に対する憎しみのせいで暴走。
リド :アイズの魔力4+ベルの魔力6=ベルのオラリオが大切という思いによって都市を守ろうとした。
レイ :アイズの魔力5+ベルの魔力5=アイズのベルに対する好意+ベルの未知に対する好奇心。
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