「おはようございます、ベルさん」
あるぇ?
まず最初にベルはそんなことを口にしそうになった。
瞼をあけると表情を消し去ったアミッドの顔。
いったい何があったというのか。
「落ち着いて聞いてくださいベルさん、貴方は治療院を出て1時間も経たずに治療院へ運び込まれました」
「………」
なんてこったい。
退院後に入院するまでの期間、世界最速なのでは?
ベルは口角をヒクつかせながら、同じく表情をピクピクさせているアミッドの隣に腰かけているアストレアをまっすぐ見つめた。
「覚えはありませんか?」
「えっと……アストレア様と一緒に本拠に帰ろうとしました」
「そうですね」
「その後……えっと、女の人の奇声? が聞こえたような……?」
アストレアと仲良く手を繋いで本拠へ向けて歩を進めていたベル。
しかしそこへ、不幸にもベルを見つけ喜びのあまり駆けてきた豊穣の女神と接触。
「ベルぅぅうううううううっ! 会いたかったわぁああああああ!」
「へ?」
「デメテル……?」
頬を紅潮させたデメテルが大きすぎる乳房をバルンバルン揺らして全力疾走。ベルを抱きしめようとしているのか両腕を広げていた。そのすごいバルンバルンな光景に同じ女神であるアストレアは息を呑み、ベルは喉をゴクリと鳴らし、共に目を見開いていて、アストレアが何か嫌な予感を感じ取ったその時。
「むぎゅっ!?」
「!?」
女神の中でも随一と言ってもいいほどの乳房とベルの顔が衝突。そのまま女神の弾力に吹っ飛ばされた。バルンバルン揺れていた
「事故だ! 交通事故だ!」
「おっぱいにはねられたぞ……兎が!?」
「は、はやく治療するんだ! こんなんじゃ異世界転生ものの導入になっちまう!!」
「デメテルママァ! 俺もそのおっぱいでビンタしてぇ!!」
「ベルぅぅうううううううううう!?」
「そんな、ベル……一体、誰が!?」
「自分の身体を見なさいデメテル! 事実はすぐそこにあるの!」
「え、えぇぇ!? そんな、ベルなら避けられるでしょう!?」
「今はよわよわ兎だからダメなの!」
豊穣の女神の乳房に衝突しはねとばされ、あっさりと意識を失った白兎を抱き起そうとするアストレアは見えていなかったのか混乱するデメテルに遺憾の意を表明。そうだよね、大きいと足元見えないよね! と同じ
「そうしてベルさんは再び治療院へ戻られたのです」
「ベル……その、大丈夫?」
「えと……はい、大丈夫です」
最後にベルが見た景色は圧倒的な肌色と圧倒的な質量。
感じたのは女神の中の女神と言われるアストレアをも超える
あとは甘い香りがした気がした。
沈んだと思ったらバイーンとはね返されるような感覚すらあったと思う。顔を覆ってそんな刹那の記憶を思い出したベルはちょっぴり顔を赤くした。
「
「ベル、何を呟いているの?」
「な、なんでもないです!」
「……打ち身……ですので、まあ、問題ありませんがどうかご安静に」
「アミッドさん、その、なんかごめんなさい」
「いえ、いいんですよ」
「はぁ……デメテルに悪気はなかったにせよ、女として負けたような気がしてならないわ」
「デメテル様と比べるのは、その……」
アミッドは両腕を組んで己の胸を持ち上げるようにしてみる。強調されるのは衣服越しでもわかる大きく実った乳房だ。けれどアストレアと比べれば、まだまだ物足りなさはあるし、デメテルと比べてしまえば、豊作とはとても言えない。ベルはどれくらいのサイズ感がお好みなのだろうか……そんなことを考えてしまうアミッドであった。
「そもそもどうしてデメテル様は僕を跳ね飛ばしたんでしょうか?」
「跳ね飛ばすのが目的ではなかったのよ?」
それを救出した一因がベルであるということになっているようで、これにデメテルは何としても礼を尽くさねばとなったようだ。アストレアから聞いたそんな説明にベルは首を傾げて、唸り、呻った。
「なんで囚われてたんだろう……大丈夫かな、
暗い部屋に閉じ込められていたのは覚えている。
人造迷宮を出てからは、彼等彼女等のことを考えるだけの余裕はなくてローリエが手を回してくれたんだとばかり思っていたベル。というか、ほぼほぼ忘れていた。なんなら剣を持ってきてくれたあの最後の瞬間までローリエのことも忘れていたまである。仕方ないじゃないか、内容が濃かったのだから。
「お礼をするならローリエさんにだと思うけど……うーん……」
首を傾げて身体までくの字になるほどになっているベルをアミッドとアストレアは苦笑を浮かべて見守った。悩みに悩んだ果てにまあきっと美味しい物を融通してくれるとかだろうなあと勝手に結論をつけるベルであった。
再び治療院を出て、都市内を歩く。
ベルがデメテルに跳ね飛ばされるのを見た神々や人々は無事に生還したベルを見かけると口々に好き放題言った。
「お、兎きゅん生きてるじゃーん」
「おっぱいに跳ねられる人類とか初めて見たわ」
「羨ましい……クソッたれが」
「ベルきゅーん、デメテルママのお胸、どんな味がした~?」
「どうしてあいつばっかり……ちくしょう……!」
ほぼ男性からのひがみだったりしたが、女性陣は自分の胸元を見ては溜息を吐いていた。やはり大きさこそ全てなのだろうか……そんな嘆きが聞こえてきそうなほどの表情である。
「ベル、少し寄り道をしてもいいかしら?」
「へ?」
アストレアの背後に隠れるようにしていたベルは、女神に寄り道を提案されて目をぱちくり。寄り道はいいけど、どこへ行くのだろうか。反対する理由もないので、ベルはアストレアの手をぎゅっと握りしめながら頷き返した。そうして彼女に連れられたのは、【ガネーシャ・ファミリア】が管理している収容施設だった。
「シャクティ、今、いいかしら?」
「アストレア様……はい、構いません」
入口に立っていた憲兵達の中から団長のシャクティを見つけたアストレアは彼女に声をかける。シャクティはすぐに何かを察したのか、団員に
「【
「「いろいろありましたけどね」」
「?」
犯罪者を収容している施設を歩くアストレアとベル。
シャクティの問いに2人して口調もそろって返すと、シャクティは訝し気な表情をした。
「治療院を出たらデメテルに跳ねられちゃったし……ここに来る途中でベルがアーディにタックルされちゃうし……」
「それからまた歩いてたら、ティオナさんが声をかけてくれたんですけど、背中をバシンって叩かれてまた吹っ飛んで……」
「吹っ飛んだベルがゴミ置き場に顔から突っ込んじゃったりして……
「………うちの妹がすまない。その、なんだ、あいつの御眼鏡に適う奴が私達の団員にはいないらしい……」
「………アーディ、ベルのこと大好きだものね」
ここに来るまでにいろんな試練があったのだろう。
その中に自分の妹が混じっていたことにシャクティは痛む頭に手を当てた。きっと先日のベルの戦いを見て、英雄譚オタクを刺激されたか「ベルくーん!」などと叫びながら抱き着こうとしたのだろう。【
「よく、生きていたな」
あれだけの死闘を演じて……という意味でシャクティは言った。
「そうね……不思議よね」
「そうですね、僕も外はとても危険がいっぱいなんだって改めて思い知りました」
アストレアとベルは、ここに来るまでの出来事を思いかして言い返した。恩恵がないとここまで違うのか、と。ベルの今の状態を知らないシャクティと会話がすれ違ったまま進んでいった。廊下を進み、地下へ降りて、人気も感じなくなったところでようやくシャクティは足を止める。牢の中から感じるのは、微かな神威。
「エレボス、約束通り……ベルを連れてきたわ」
「やあアストレア……待ちかねたよ」
× × ×
「よろしいのですか、2人だけにして」
「ええ、大丈夫。エレボスにはもう手を回せるような駒も切れる
「しかし、
「だからこそ少し離れたところで、私と――」
自分達が通ってきた通路の先より、1人の男神の姿を瞳に映したアストレアは言葉をつづけた。
「ガネーシャがここにいる。エレボスが神威を放って逃げたとしても同じ神である私達であれば取り押さえられるわ」
「シャクティよ、心配は無用だ! 何故なら! 俺が! ガネーシャだからだ!!」
「………うるさいぞガネーシャ」
2柱の神々と1人の眷族は、エレボスのいる牢の方を見つめベルが戻るのを待つことにした。ベルと最後に会話をする。それがエレボスが送還される前にアストレアへ望んだことであった。
× × ×
「やあ、少年。こうして会うのは何回目だろうな?」
「……」
鉄柵越しの面会。
エレボスは相変わらず微笑を浮かべてベルへ言葉を投げかける。暗い場所で光源は僅か。けれど放たれる僅かな神威がそうさせるのか、彼の瞳がぼんやりと輝いて見えた。
「天界へ戻る前に少年と会話をしたかった……安心しろ、もう何もしないよ」
「……貴方は、神様は、結局…何なんですか?」
「お前には何に見える?」
「……わから、ないです」
神に対して底が見えないという言葉を使うことは正しいのかわからない。けれどベルはそんな風な感覚を覚えていた。ある時は神威を殺してサポーターに扮してみせたり、かと思えば逃げ場なんてないぞとばかりに追い詰めてきたり……神々の中には神威をゼロにまで抑えて下界の住民に紛れ込む者もいるというが、目の前にいる男神は何がしたいのかわからなさすぎた。悪だと聞くが、自分に向けられているのは悪意ではなく好意だったから。
「英雄達が遺していった置き土産……お前がどのように成長するのか見てみたかった。だから、やった」
聞いてもいないのに、エレボスは語る。
そこに懺悔などない。
あくまでも、好奇心に突き動かされた。
よくある暇を持て余した神々のやらかしと同じだ。
「お前は毎度の如く、俺を…俺達をあっと驚かせてくれた」
「貴方は、僕をどうしたかったんですか?」
「……英雄に」
「?」
「英雄に、したかった」
「!?」
「って言ったら、どうする?」
「む………」
ベルの反応に揶揄うようにクツクツとエレボスが笑う。
不貞腐れたような表情をするベルをエレボスは一頻り笑うのも満足したのか唇を微笑の形にしたまま、見透かしたような眼差しで射抜いて口を開く。
「英雄になりたい……んだろう? 叶いそうにない、良い夢じゃないか」
「……」
「どいつもこいつもかつては抱いていた
「……馬鹿って言わなくても」
「事実だろう。妥協するのが賢い大人だというのなら、夢を追いかけ続ける馬鹿である子供でいてくれた方がいい……
「理想を、貫く……?」
「そうだ、貫くんだ。諦めず、投げ出さず、強がって、歩き続ける。その背中に希望を見る者が後に続いてくれるように。お前は今回の騒動を通じて、忘れていたはずの『願望』を取り戻した。だから、お前は大丈夫だ」
「……」
「『英雄』に憧れて……届かない憧憬があって……到達したい頂があるから、だからお前は、走り出したんだ。与えられた二つ名に相応しく、果てしない冒険をするといい」
眩しい物を見つめるように目を細めて、エレボスは目の前にいる幼い子供に語り掛ける。物静かな場所で耳朶を震わせる男神の声は、それこそ神託のようだった。
「っと、一方的に語ってしまったな。何か言いたいことはあるか?」
「………貴方は、僕の敵、なんですか?」
「さあ、どうだろうな? お前の捉え方次第だ」
「………あの喋る怪物達は、何ですか?」
「ガネーシャあたりに聞け。俺が説明することじゃない」
「答える気、ないですよね?」
「ハハ、俺は何か言いたいことはあるかと聞いただけだぜ? 質問に答えるとは言ってない」
「………」
「まあ、俺は……わるぅ~い神様なのさ。今も昔も」
立ち上がり、ベルへ歩み寄るエレボス。
鉄柵の前に立ち止まり懐から取り出した小箱を差し出した。
それを恐る恐る受け取った。
小箱を開けると、そこには1つの鍵が。
持ち手部分がトランプの柄の中にある
「これは?」
「
「
「俺が下界に残っている間に見つけた物だ。とある都市で
それは神々が下界に降臨するよりも前に、天より降ってきた超常の力を持つ道具のこと。ベルの手にはそれが今、あった。けれど神聖さというべきか特別な雰囲気というものが感じ取れない。ただのどこにでもあるような鍵としか認識できない。
「効果も発動条件も不明。
「うーん……神様が言わなきゃ、ただの銀でできた鍵としか思えないです」
「
「これを僕に?」
「ああ、やろう。売ってヨシ、捨ててヨシ、だ。ただし捨てるのなら、火山の中に放り込むなり人の手に落ちない場所にすることをお勧めしておく」
「………ありがとう、ございます?」
「……ははっ、俺に礼を言うなんて変な奴だな」
小箱を終い、ベルはエレボスに背を向けてアストレア達のいるところへ向かう。もうこれ以上の会話はないとわかったから。そんなベルの背へエレボスが一言。
「頑張れよ、少年」
「………はい」
その日の晩。
1柱の男神が下界を離れた。
正義の女神の手によって都市において最も高い場所から、胸を刃に貫かれて。
それを誰もが見上げる形でそれぞれの瞳に光の柱を映した。
長らく都市に脅威として存在していた『悪』。
その首領がようやっといなくなったのだ。
それはそこに住まう者達にとって、何よりの吉報であった。
「これが本当に
少なくともエレボスに対する認識や印象が都市民とは違うベルは、エレボスから譲り受けた『鍵』を1人書庫に籠って関連しそうなものがないか資料を探っていた。アストレアに見せてみても、彼女もまた『鍵』を
「ベル様、起きておられますか?」
「……春姫さん? どうしたんですか?」
書庫の扉からひょこっと顔を覗かせて春姫の声が飛ぶ。
ベルが振り返って声を返すと、春姫はどこか安堵したように息を吐いて入室。ベルの後ろまでやってくると顔を覗こうとしてくる。その動作にさらりと金の長髪が流れ、入浴を済ませた後だからか良い香りが鼻孔をくすぐってきた。
「ベル様、お夕食の後からずっと書庫に籠られて……かれこれ4時間」
「……4時間!?」
「アリーゼ様達もさきほど帰られたのですが、ベル様の姿が見えないと心配されておりました。お体は大丈夫なのですか?」
「え、あ……はい、大丈夫です」
外ではエレボスの送還が行われていた。
アリーゼ達は今回の被害の爪痕残る都市を見回りを欠かすわけにはいかず、またエレボスの送還ということもあって異常事態が起きないようにアストレア達のすぐ近くで目を光らせておく必要があった。そのため、帰還が遅くなっていた。帰ってみればベルの姿だけなく、春姫から聞けば書庫に籠っていて出てこないときた。まだ身体が本調子じゃないのではないかと心配する姉達に春姫も流石に放置しておくわけにはいかず、
「何かわかりましたか?」
「いえ……ダメそうです」
「そもそも英雄譚などに
「うーん……アーティファクトだぁーって明言はされないですけど、天より光が降りてきたとか、そういった表現はたまにありますね。どんな力があったのかははぐらかされているというか、そもそも描写されてないことが多いですけど……高いけど図書館に行ってみるべきなのかな……
何より、「ああその鍵ね、俺の友達の妹の知り合いの息子ん家の倉庫の鍵だよ!」とか変なこと言って頭を痛ませてくるだけなのをベルも理解している。愉快犯的な神々は多く、相手にするのはしんどいのだ。ならば入館料は高いが
「ただ恩恵が戻るまで外出禁止だしなあ……」
「春姫が行ってまいりましょうか?」
今のベルは恩恵がない状態だ。
新たに
「急ぐわけじゃないですし、春姫さんまで外出しちゃったら僕、退屈すぎて死んでしまいますよ」
「………」
「?」
「い、今のベル様は……春姫がいないとダメなお体に……ごきゅっ」
「???」
何かイケナイ妄想でもしれいるのだろうか。
春姫は両手を頬に添えて悶々。
ベルが春姫まで外出されたら困るなんて言ったのがいけないのだが、ベルには自分の発言が原因であるなどわからなかった。書庫を出て、心配していただろう姉達に無事を伝えて神室へ行き、ベッドに潜り込む。ずっと文字を読んでいたせいか、ベルはすぐ瞼が降り、就寝準備を終えたアストレアが部屋に来た時には相変わらず可愛らしい寝顔を晒し女神の喉を鳴らさせた。
別日。
都市内某所、とある喫茶店のテラスにて。
「ベルが……どこにもいない……!」
「アイズぅ、禁断症状出てるみたいになってるよ~?」
「【アストレア・ファミリア】の本拠に行けばいいじゃない」
「………こ、心の準備が、足りない」
「「準備する必要ある?」」
都市内、どこを歩いてもゴミ箱の蓋を開けてみても下水道を覗いてみても、どこにもあの特徴的な白髪ヒューマンがいないことにアイズはおろおろと震えていた。その顔はまるで薬のキレた中毒者のようである。彼女達は知らなかった、ベルが現在、恩恵がないのと同じ状態であり本拠に籠っていることを。どうにもアイズはミノタウロスとベルの戦っている光景が忘れられないようで、特に自身の必殺技である【リル・ラファーガ】をベルが使ってくれたことに胸がとても熱くなっていたのだ。ドキドキである。思い出すだけで顔が熱くなってしまうまである。そんなアイズなんて今まで見たことがあったか疑いたくなるくらいで、ティオナ達も「すごかったよねえ」と言いつつもアイズのために何かできることはないかと頭を働かせていた。
「あの、【アストレア・ファミリア】の皆さんは都市内にいるんですし……直接聞いてみるのはどうですか?」
「それが一番ではあるんだけど……都市の復興作業なんかで見回り忙しいらしいわよ? なんなら団員が1人増えたとか聞いたわ」
「ああ、そういえば同胞が加わったらしいですね?」
「うん、アーディが休めない!って言ってたよ」
レフィーヤが手を上げて提案し、ティオネが腕を組んで唸り声をあげ、そんなティオネの組んだ腕の上に乗った乳房を絶望の眼差しで見つめながらティオナが言う。
「正義の味方も忙しいものねえ……」
「いっそ本拠に突撃してみるのは!?」
「ダメに決まってるでしょ馬鹿ティオナ。そんなことしてみなさい、団長達の名まで汚れてしまうわ。【ロキ・ファミリア】は他派閥の留守中に本拠に突撃するような野蛮な派閥だとか言われたらどうするのよ」
「無人ってことはないでしょうけど……そんなことをするなら、【アストレア・ファミリア】の方々に直接聞いた方が早いですよね」
「「「うーん……」」」
気になるけど、【アストレア・ファミリア】の邪魔になるようなことはしたくない。仮にベルに何かあったのならそもそも彼女達が普段通り活動しているとは思わないし、大したことはないんだろうと変な信頼もある。でも、でもぉ……と唸る彼女達へ、声がかかる。
「何をされているのですか、【ロキ・ファミリア】の方々」
「ん?」
「あっ」
「……アミッド?」
通りからアイズ達のことを見かけたのか、声をかけてくれた治療師の友人。アミッドの姿を瞳に映して少女達は「そうだよ、この人なら知ってるよ」と満場一致でアミッドを捕獲、席につかせた。
「な、なんなのですか!?」
「まあまあまあ」
「ほらほら、茶でも飲んで」
「アミッド、聞きたいことが、ある」
「あ、何か頼まれますか? ここ、ケーキが美味しいんですよ?」
ぐいぐい来る【ロキ・ファミリア】の少女達に警戒してしまうアミッド。普段通り治療院の制服を着ている彼女は、今日も聖女と言われるようにあちこちで活躍していたのだろう。そんな彼女を労わる……わけもなく、一番ベルに近しいだろう女性のことでアミッドのことを失念していたと唯一の情報源と言ってもいい彼女を逃してなるものかと少女達はニコニコ笑顔で包囲した。訝しげな顔を浮かべるアミッドへ、少女達は一斉に口を開く。
「アミッド、ベルとはどこまで進んだの!?」
「アミッド~、ベルと『いいなずけ』って本当なの!?」
「ア、アミッドさん、あの子とはその、あの……ふ、深い仲っていうのは事実なんですか!?」
「アミッド、アミッドもベルに胸を触らせてあげたりしているの?」
ベルの姿が見えないという当初のことはいったいどこへ行ったのか、ほぼほぼ恋愛関係の方向へ話のベクトルがぎゅるるんっと向いてしまい―なんならアイズは自分の乳房を両手で持ち上げるようにすらしている―アミッドは白昼堂々とそんなことを言われてしまい爆発寸前と言ってもいいくらいには顔を赤くさせた。聖女様は叫ぶ。
「話のっ、内容っ、選んで頂けませんか!?」
「シたの!?」
「結婚するの!?」
「同衾してるんですか!?」
「胸、触らせ!?」
「全ッ員ッ、バラッバラァァァァ!!」