アーネンエルベの兎   作:二ベル

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銀の鍵はアストレアレコード編へ行くためのキーアイテム


小休止⑤

「……ベルさんなら、【アストレア・ファミリア】の本拠にいますよ。謹慎……ではありませんね、自宅療養と言ったところでしょうか」

 

小さな口でモンブランを少しずつ食べ、フォークを丸皿へ置くと紅茶を口にする。そうしてアミッドは口元をナフキンで拭って言う。先ほどまでの少女達の質問攻めというか羞恥責めなどどこへ行ったのかアミッドは努めて平静を装っていた。

 

「なんだ、いなくなったわけじゃないんだよかったぁ」

 

「それでアミッドはあいつのとこに泊りに行ってたわけ?」

 

「ほ、本当にそういうご関係なんですか……!?」

 

「アミッドとベルはとても仲良し……羨ましい……」

 

「………っ」

 

なんですか、どうして皆して私を揶揄うのですか!?とアミッドは頬を染めてぐぬぬと俯いた。ティオナやレフィーヤ、アイズあたりはまだマシだ。ティオネに関してはもう、今後の参考にするからと根掘り葉掘り聞いてこようとしてくる。まったく、困ったものだ。そういった知識は貴方の方がお詳しいのでは?と言いたくなってしまうアミッドである。

 

「どうしてベルは外に出てこないの?」

 

「今はその……少々、事情がありまして」

 

今のベルは恩恵がないのと同じ状態。というのを知っている人物は少ない方が良い。広まってもいいことでもないし、何よりどこで聞き耳を立てられて美神のもとへ届かれても困る。友人にさえ秘密にしなくてはならないというのは申し訳なさはあるが、致し方ない。アミッドはミノタウロスとの戦いのことも利用して誤魔化すことにした。

 

「ミノタウロスとの戦闘もありましたし……身体を酷使しすぎていたので、少しばかり大人しくしているようにとお伝えしたんです」

 

「じゃ、【アストレア・ファミリア】の本拠に行けばベルに会えるね! よかったね、アイズ!」

 

「……うん」

 

俯き気味に返事するアイズはとても可愛らしかった。

どうやら冒険をしていたベルがアイズの心にはとても印象深く焼き付いてしまっているらしい。アミッドはそんな普段見ることのないアイズを見ると咳払いをしてから、1つ提案してみる。

 

「アリーゼさん達にベルさんと面会してもいいか、聞いてみましょう」

 

「!」

 

「春姫さんとローリエさんがいるとはいえ、ベルさんも本拠に籠っていては退屈しているでしょうし……」

 

「?」

 

「【アストレア・ファミリア】の新しい団員の方ですか?」

 

「………面識、ありませんでしたか?」

 

「うーん……顔を見れば……どうだろ、なかったかも?」

 

「で、でも、面会の許可を貰えれば会いに行けますよ、アイズさん!」

 

「そ……うだね」

 

「どうしたんですか、アイズさん? 会いたかったんですよね?」

 

急にカチコチと緊張に固まるアイズに少女達が首を傾げ、レフィーヤが問う。間を置いてアイズは震える唇で言葉を紡いだ。

 

「ど、どどんな……顔をして会えば、いいのかな?」

 

「「「「今の顔を晒していけばいいんじゃないですかね?」」」」

 

「!?」

 

今まで見たことがないようなアイズに面白い物見たさを湧かせる少女達ではあるが、今更何を言っているんだという部分もあった。やれやれと肩を竦ませたティオネと紅茶をぐいっと呷ったアミッドは金の瞳を泳がせる挙動不審な【剣姫】にふふっと笑みを零した。ティオナはティオナで「大丈夫だって!」と何故か励ましているし、レフィーヤはレフィーヤで敬愛する先輩に応援したい気持ちはありつつも「でもあの子、女ったらしだし…アミッドさんだけでなくアイズさんまで汚されたら…うぅぅ」とかコロコロと表情を変えていた。

 

「ところでアミッドは何をしていたの?」

 

「私ですか?」

 

そんな3人のことなど放っておいて、ティオネは話を切り変えた。常に治療院にいるというわけではないがアミッドが街中で何をしていたのかとちょっとばかり気になる。何せ聖女様のプライベートなど碌に知らないのだ。

 

「実は、冒険者依頼(クエスト)を発注しようとギルドへ行っていたんです」

 

冒険者依頼(クエスト)ねぇ……何か要りような素材があるってこと?」

 

「はい。今回の騒動でベルさんもきっとランクアップされるでしょうから」

 

「うん、そこがまずおかしいのよね。あいつ冒険者になってまだ1年も経ってないのよ? なんで既にLv.3になってるのよ。Lv.2にランクアップしたときは、あーようやく昇華したのねーくらいに思ってたけど、Lv.2から3になるまでの期間が短いわよ」

 

「ベルさんですし」

 

「……それ納得する理由にしていいのかしら?」

 

涼しい顔してベルさんもいよいよLv.4ですからねみたいなことを言うアミッドへツッコミを入れるティオネ。ティオネが言うことはごもっともで、Lv.1から2になった時は誰しもが「ついに…!」と思ったものだ。しかし、Lv.2からLv.3になった期間が短いのだ。そもそも、現在記録として最速ランクアップとされていても1年とされている。それを優に超えてしまったランクアップなど今までになく、神々もチラホラと「おかしくね?」と思っている者もいる。しかし幸運だったというべきか、恩恵がない状態となっているおかげでステイタスは更新できず、今回開催された神会ではベルのランクアップは見送りとなり【勇者】がLv.7になったという話題でもみ消されたような事態となった。それでも1年を遥かに超えるランクアップなど疑問視されて当然ではあるが。

 

「と、とにかく……ベルさんはきっとランクアップされるでしょうから、たまには贈り物を…と思いまして」

 

「ふぅーん……それで、どんな素材を求めているの? 私達でよければ、手伝うわよ?」

 

「いえ【ロキ・ファミリア】の皆さんに頼むとなるとディアンケヒト様が……」

 

「何言ってんのよ、ダチに手を貸すくらいどうってことないでしょ。それに、そこらの冒険者に依頼するよりよっぽど安上がりよ」

 

「………」

 

唇に拳を当てるようにして思案するアミッド。

なになにーと話題に入ろうとするティオナ達にティオネが説明し、アイズやレフィーヤもティオネと同じように手伝うと言ってくれる。結局誰かに依頼することに変わりないのだし…それなら顔見知りに依頼したほうが信頼度は違うだろうし実力を鑑みれば達成率も高いだろうと結論してアミッドは頷き、口を開いた。

 

「実は、一角獣(ユニコーン)の角が欲しいのです」

 

 

 

×   ×   ×

 

治療院から退院して2日ほど。

本拠に帰還したことを見越したかのように、それは送り届けられた。箱は大きめで持てないことはないが重め。

 

 

「ベル様宛でございますね」

 

「誰からかわかる?」

 

「ええっと……この徽章(エンブレム)は……アリーゼ様、申し訳ございません、春姫にはわかりません」

 

「春姫が知らないのも仕方ない。これは、【ヘルメス・ファミリア】のものだ」

 

「50キロ未満ですね」

 

「まるで人間1人は入れそうな箱でございますなあ」

 

「揺らしたらゴトゴト鳴るんだけど、梱包大丈夫なのかしら?」

 

「あの派閥って運び屋でしょ? 梱包不良で送りつけたりはしないでしょ」

 

【ヘルメス・ファミリア】から直々の贈り物。

警戒しないわけがない。

それくらいには、信用がないのだ。

特に、主神ヘルメスは。

爆発物だとかを送りつけてくることはないだろうが、面倒事な匂いはぷんぷんする。あの神は平気でそういうのを持ってきてヘラヘラ笑いながら「よろしくー」とか言うのだ。

 

「ベル君宛だし……ベル君が開けたら?」

 

「え」

 

全員がベルをぐいぐいと押し、何があってもいいように後ろへ下がる。春姫とリューだけは何かあった時にベルを保護できるように…と身構えていたが、首根っこを掴まれて強制的に下がらせられる。

 

「ベルに何かあったらどうする!?」

 

「何もねーよ」

 

「で、ですが!?」

 

「春姫、貴様が前に出たところで戦闘能力も碌にないとなれば肉盾にもならん。いるだけ邪魔だ」

 

「コン!?」

 

「面倒事の匂いはするけど、危険な匂いはないし大丈夫よ!」

 

ベルの背後で交わされるそんな会話。

ベルは溜息をついて、箱に封をしているリボンを引っぱりゆっくりと開けた。箱の中へ部屋の灯りが差し込み、ベルの瞳にそれは映りこんだ。

 

「………」

 

「………」

 

深紅の瞳と濃緑の瞳が見つめ合う。

パチパチ、と瞬きを繰り返してベルは箱を閉じた。

 

「ふぅー………」

 

腕で額の汗を拭うような仕草で大きく息を吐く。

今日は僕、がんばったぞぅ! そんな感じである。見守っていたお姉さん達が「どうしたのかしら?」と言いたげな顔で見つめているがベルはそれどころではない。

 

「……………なんかいた」

 

ぼそっと呟く。

それは何名かの耳に届いたのか、警戒色が強まって目を細められたがまだベルのもとへ駆け寄ってくる素振りはない。

 

「ベル、どうしたの?」

 

リャーナが声をかけてくれた。

ベルは振り返り、「いや…」「えと…」と言葉にならない言葉を漏らしてから言う。

 

「もうちょっとだけ、頑張ってみますね?」

 

「え……あ、うん……頑張って……?」

 

いったい何を頑張るのやら。

そんなことを言って、ベルは胸に手を当て深呼吸をし、再び箱を開けた。先程よりも多く光が入り込み、内容物の姿がくっきりと見えた。

 

「………」

 

「………や、やぁ」

 

金の長髪。

濃緑の瞳。

特徴的な尖った耳。

そして肌着姿に身動きがとれないようにぐるぐるにリボンで巻かれた瑞々しい肢体。汗をたらり、と垂らしてソレはベルに挨拶する。

 

「ひぇええええええええええええっ!?」

 

「「「「ベルぅううううううう!?」」」」

 

悲鳴をあげて仰け反るベル。

絶叫と共に駆けよる姉達。

リューがベルを自身の背後に退かせ庇うようにナイフを抜く。

リャーナとセルティが短杖と長杖を構え、輝夜が小太刀を、アリーゼが剣を…それぞれが武具に手をかけて箱の中を覗いた。

 

「――――――」

 

そこにいたのは、自分に武器を向けられたことで表情を青白くさせた哀れな妖精(エルフ)。少し色合いは違うがリューと同じような金の長髪の妖精がいた。

 

「「「「リオン、いつの間にそんなところに!?」」」」

 

「私はここだぁ!!」

 

もう年末のかくし芸大会はまだまだ先よ?と言いたげに仲間達に言われてリューは顔を赤くさせて抗議する。

 

「おいおい、こんなもん送りつけやがって……常温で大丈夫なのかよ、腐ってねえか?」

 

「ええと……脈を打ってるから大丈夫じゃないかしら? 腐食具合もなさそうだし」

 

ライラが言うとマリューが妖精の腕やら首やら脈を計れる場所をペタペタ触って確認。

 

「え、でも普通ってさ、冷蔵とか冷凍で送らない? 腐ってたら大変でしょ? ナマモノって良くないでしょ常温」

 

「うーん……たしかに『なまもの』だけど……」

 

「これは、『生物』と書いて『なまもの』でございますなあ」

 

「え、なに、【ヘルメス・ファミリア】は私達に人身売買に加担させたの? 嘘でしょ!?」

 

「「「「ベル、いくら払ったの!? 私達じゃそんなに満足できない!?」」」」

 

「待って、お願い、待ってください!? 僕は無実なんです!?」

 

「ちょっと署までご同行願おうか、詳しい話はそこからってことで」

 

「まってイスカさんお願い、違うんです!?」

 

「金髪の妖精……好き?」

 

「…………はぃ」

 

「「「「はい有罪(ギルティ)」」」」

 

「なんで!? リューさん、助けて!?」

 

「……ベル、私は今、深く傷ついている。話しかけないで欲しい」

 

「そんなぁ!?」

 

憧れの金髪妖精(リュー・リオン)に救いを求めようとベルは叫ぶが、同じ金髪の同胞に現を抜かすなど……これは浮気だ、とリューはそっぽを向いた。ガーンとショックを受けるベルは、抵抗など無意味、お姉さん達に連行されていく。行先はマリューの部屋である。数人がかりによる『こしょこしょの刑』に処されるのだ。

 

「さて、貴方からも事情を聞かせてもらうわよ? こんな形の押しかけってあるのね知らなかったわ」

 

「あってたまるか」

 

アリーゼに首根っこを掴まれて持ち上げられ、箱から出された妖精。床に下ろされると、自分を見下ろしている正義の女達にぷるぷる震えながら、自己紹介をする。

 

「わ、私の名はローリエ・スワル。ヘ、【ヘルメス・ファミリア】の団員だ。その、こ、これを団長……【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】に渡すようにと」

 

「………」

 

ローリエと名乗る妖精の少女の手に握られた封筒を受け取ると、アリーゼはそれを読んだ。神ヘルメスの手によってしたためられた書状は簡潔であった。

 

 

《やあ、アリーゼちゃん! しばらく俺の可愛いローリエを君の所に預ける! 好きに使ってくれ! アストレアにも伝えておくから、よろしく!》

 

 

どういうわけか、押し付けられたらしいと悟ったアリーゼは眉をピクピク。どうした、と顔を覗かせた輝夜に書状を渡すと間を置いて輝夜も眉をピクピク。そしてアリーゼは爆発した。

 

「着払いで返送するわよ!!」

 

「すまない、返送不可なんだ!?」

 

「知った事じゃないわよ、自分の足で帰りなさい!」

 

「だ、ダメなんだ! 団長(アスフィ)に怒られるっ!」

 

「泣き喚くな妖精! 立って歩け、前へ進め! 貴様には立派な足がついてるだろう!?」

 

「そんなこと言われたって!? あいつら私をこんな格好にしたんだぞ嬉々として!」

 

「アストレア様に伝えておくからって何!? 事後承諾なの!? 事情を説明しなさいよ!」

 

「なんでもする! 他に行く当てがないんだ!」

 

「「え、いまなんでもするって言った?」」

 

「なぜ喰いつくぅ!?」

 

「……同胞、ベルへの色仕掛けはどうかと思う」

 

「まって、本当に待って欲しい! 私は決して、下心など……!?」

 

「異性に対する趣向は?」

 

「……年下、白髪、赤眼ヒューマン」

 

「「「有罪(ギルティ)」」」

 

「くぅ……!?」

 

 

こうして【アストレア・ファミリア】に1人の妖精が強引に加わった。帰還したアストレアは苦笑を浮かべ、ヘトヘトになって春姫に介抱されるベルを見て頭痛を堪えるように頭を抱えた。

 

「仕方ないわ……きっと今頃、ヘルメスもウラノスの前で飄々としていることでしょうし。借りはいつか返してもらいましょう」

 

「うぅ……申し訳ありません、アストレア様」

 

《君がこうして勝手な行動をとったことで、あの中立を標榜する男神に首輪がつくという可能性を考えなかったのか? まあ、あの男神のことだ……首輪を嵌めようとしたところで、のらりくらりと回避してみせるんだろうがね》

 

ローリエは箱に詰められる時、そして今、女神に改宗作業をしてもらっている最中、フェルズに言われたことを思い出した。首輪を嵌められるのを回避するにはどうするべきか? という問題に対してヘルメスが出した答えは簡単であった。

 

 

「え? 俺の眷族に妖精? 確かにいるけど……ローリエ? おいおい、そんな愛らしい名前の眷族、俺の派閥にはいないぜ? いたら是非、紹介してほしいくらいさ! 誰と間違えているんだい?」

 

「………」

 

勝手な行動をとった眷族への罰ともなれば、ローリエに拒否権はない。一時的な追放という体をとって他神に弱みを握らせるのも、そもそも弱みなんてないぜ!とばかりに回避。これにはフェルズもありもしない表情筋を痙攣させるのだった。

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