アーネンエルベの兎   作:二ベル

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原作だとクノッソス前にアイズはフレイヤFに「たのもー」しにいくのでそんな感じです。


アイズ+ベルvsオッタル(予定)


小休止⑧

 

 

「「「乾杯!」」」

 

 

重なる声と共に、グラスがぶつかり合う。

冒険者達で賑わう酒場、その一角で【アストレア・ファミリア】が陣取り、ちょっとした宴を催していた。酒に酔い顔を赤くした異性とのふれあいに飢えた男達は、嫉妬と羨望の眼差しを1人の少年―ベル―に注ぐ。

 

――ちくしょうめ、何したらそんな……くそが。

 

 

そんな具合に。

もっとも、そんな殺気めいた視線をぶつけようものなら即座に正義のお姉さん達に察知され「やんのかこら」と睨み返され、自分達よりも格上の美女達に対し男達は情けなく縮こまるのである。美女、美少女とよろしくしたい男達ではあるが自分よりも強い、所謂『化物女』達を落せるだけの勇気など持ち合わせてはいない。自分の命が一番なのだ。

 

 

「ベルさん、ランクアップおめでとうございます」

 

「アミッドさん……ありがとうございます」

 

「ついこの間、冒険者デビューをしたと思えばLv.4ですか……驚異的な成長速度ですね」

 

「ええと……」

 

「………」

 

宴の席にいたのは、【アストレア・ファミリア】以外にもアミッドやアーディ。アミッドは苦笑して頬を掻くベルを一瞥すると、小鞄(ポーチ)から丸めてリボンで止めている羊皮紙を取り出した。

 

「お祝いの品として、正しい物かはわかりませんが冒険者ですし、役立つのは間違いないでしょう。……今週中には完成する予定みたいですので、ベルさんがお暇な時に受け取りに行ってください」

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】からの贈り物って何かしら……ベル、何が書いてあるか教えてくれない?」

 

アリーゼに言われて、アミッドを見るベル。

羊皮紙の中を見てもいいのか、という眼差しにアミッドはほんのり微笑を浮かべたまま頷いた。リボンを解き、羊皮紙に記されている文字を読み取る。

 

「ロングナイフ……?」

 

「え、待って、素材に一角獣(ユニコーン)の角……使ってるの!? ちょっと【戦場の聖女(デア・セイント)】、正気!?」

 

「いたって正気です、アリーゼさん」

 

回復道具(アイテム)の素材として使われる超貴重素材(ドロップアイテム)を素材に武器の製作を依頼にかけたらしいアミッド。そんな彼女にアリーゼや話が聞こえた輝夜達が目を見開き、あるいは口に入っていた酒を吹き出しかけ、咽る。

 

「治療師や魔術師が悲鳴をあげるような代物を……聖女様自ら、武器の素材に……?」

 

「その、貴重な素材というのは存じていますので……派閥の倉庫からではなく、アイズさん達に協力してもらい調達しに行きました」

 

「「「嘘でしょ!?」」」

 

「い、いや、きっと都市外に取りに行ったんでしょ? まさかダンジョンになんて……」

 

「都市外でも探しに行きましたが……その、一角獣(ユニコーン)を見つけたものの……舌打ち、されまして……」

 

「「「……ッ!?」」」

 

一角獣(ユニコーン)

それは怪物でありながら、穢れを知らぬ清らかな娘を好むという少し変わった怪物であり亜人(デミ・ヒューマン)の中でも妖精と共生していることもあるらしいが……言い方を変えるならば、一角獣(ユニコーン)という怪物は神々の言葉を使うならば『処女厨』である。

 

「え、アミッドちゃん………まさか……」

 

そぉーっと正義のお姉さん達はベルへと顔を向けた。

視線が集中したことにギクッと肩を揺らしたベルが顔を赤くして、俯き、羊皮紙で顔を隠した。お姉さん達は別に怒りはしない。前々から『友達以上恋人未満』というか距離が近かったし、アミッドなら~なんて思ったりもしていたからだ。まあでも「やったのか、お前」みたいなことは思いはする。思いは、する。

 

「ティ、ティオナさん達も一緒にいましたので!? なので、その、性格的な相性といいますか…逃したといいますか!?」

 

(苦しい……!)

 

(誤魔化し方が苦しいわ、【戦場の聖女】……っ!!)

 

女戦士(トモダチ)を悪く言っちゃったよ、この子……!?)

 

「と、とと、とにかくっ! その、受け取ってください!」

 

顔を茹蛸のように赤くしたアミッドが強引に話を切り上げるようにして言った。輝夜に詳しく聞かせろとヘッドロックされていたベルは、輝夜を押しのけるようにして逃げて礼を言う。なんだかんだ、贈り物をもらうなんて思ってもいなかったのか、歓喜の色が滲み出ている。

 

「あ、ありがとうございます……その、大切に、飾っておきますね!?」

 

「「「「「使え」」」」」

 

羊皮紙を丸めて自分の小鞄(ポーチ)に仕舞うベル。

アミッドは顔の熱を冷ますようにパタパタと手を扇ぎながら、ちゃんと渡せたことにほっと胸を撫でおろした。そしてベルと目があって、一夜の過ちというか、色々と思い出しちゃって、互いに顔を逸らした。そんな2人を見てお姉さん達はどこか敗北感に襲われた。春姫やローリエも例外なくだ。

 

(アミッド様とベル様が……)

 

「銘は? もう決まっているの?」

 

(許嫁という噂を小耳に挟んだが……)

 

「アリーゼさん……ええと、銘は【薬刃(フラーテル)】といい………あの、なんですか? その何か言いたげな顔は」

 

((本当(ガチ)だったんだぁ……))

 

人形のように綺麗で、可愛らしく、高嶺の花という言葉が似合う聖女。そのお相手は、今はお姉さん達に囲まれてもみくちゃにされている白兎。春姫は後でアミッドに「お情けを頂けないでしょうか」とお願いしに行こうか考え、ローリエは「そうか、彼にはもう……私は遅かったんだ……いや、これだけ囲まれていたんだ、当然だ」と諦めムードを放った。しかしここで、さらに彼女達を打ちのめすことを聖女様はしてしまう。

 

「そ、それから……こちらを皆さんに」

 

小鞄(ポーチ)から取り出してテーブルに置いたのは、人数分のチケット。それを取って描かれている共通文字(コイネー)をベルが口にして読んだ。しかし輝夜をはじめアーディ達にもみくちゃにされ、弄られ、声は震えていた。

 

 

「け、『ケヒトの神様、お風呂の湯』……?」

 

「『お風呂の神様、ケヒトの湯』よ、ベル君」

 

「どんだけ動揺してんだよ」

 

「………うぅぅ」

 

「知らん間に聖女まで美味しく頂いていたとは……これが、万年発情兎か」

 

「うぎぃぃぃぃ」

 

「輝夜、弄り過ぎだ、場所を考えなさい」

 

「なんだリオン、お前はまだお手付きになっていないのか」

 

「黙れ……黙れっ」

 

「何でリオンがキレ気味なのよ」

 

「これって確か最近、【ディアンケヒト・ファミリア】が始めたやつよね?」

 

「巨大公衆浴場だっけ?」

 

「いいの? チケットなんて……」

 

「はい、構いません。皆さん、近々『階層主』討伐に出ると聞いていますので……」

 

ちらっとベルのことを見て、アミッドはつづけた。

 

「どこかの誰かさんが毎度のように無茶をしますので、この際です。身体のケアをおこない、万全の状態にしていただいた方が良いと思いましたので」

 

(((良い子……っ!!)))

 

何から何まで至れり尽くせり。

近いうちに【アストレア・ファミリア】が『階層主』の討伐に出ることを聞いたアミッドはチケットを用意してくれたのだ。それも【アストレア・ファミリア】の人数分を。春姫とローリエ、そしてアーディは「つ、強すぎる……っ!!」と驚愕した。

 

「アストレア様、良いんでしょうか? ベルのために武器まで依頼してくれたっていうのに……」

 

「貰ってばかりで申し訳ないわねぇ……回復薬(アイテム)類を【ディアンケヒト・ファミリア】で買い込んでそちらにお金を入れるようにしましょうか。でないとディアンケヒトもうるさいでしょうし」

 

「そうですね、消火剤は別として……多めに買い込んじゃいましょうか」

 

頬に手を当てて、眷族達のやりとりを見守っていたアストレアはアリーゼと話し合い、そしてアミッドを見つめて微笑み、吐息を吐いて口を開く。

 

「……それでベルとはいつ、籍を入れるの?」

 

「へぁっ!?」

 

「ぶふっ!?」

 

「「「「アストレア様!?」」」」

 

その話、まだ続けるんですか!?

黙って見守っていたアストレアではあるが、いじりにきたことに眷族達は驚き、ベルは変な声を漏らし、アミッドは果実水を吹き出した。

 

「アストレア様、酔ってますか?」

 

「ふふ、そんなことないわよ?」

 

ほんのり顔を赤くするアストレアはどう足掻いても酔っていた。

良い子と良い子がくっついたら、良い子が産まれるの、これは世の摂理なのよなんて意味の分からないことさえ言っている。アミッドといつくっつくのかと言いながら、彼女の腕はベルの腕に恋人のように絡み身を寄せてさえいた。この日、ベルとアミッドは宴が終わっても女神の神室で根掘り葉掘り聞かれる羽目になり、精神的に疲れ果てた末、3人で身を寄せあって眠りにつくことになった。

 

「もう子供がいたりするの?」

 

「い、いません! ちゃんと、その……後からお、お薬を……ではなく、とにかく! 大丈夫ですから!」

 

「ベルはアミッドが良いのよね?」

 

「むぐむぐぅぅ……っ」

 

「あ、あの、ベルさん呼吸できているんですか?」

 

「大丈夫よ? ねえ、ベル?」

 

「むぐぅ………」

 

女神に正面から抱き枕にされて、聖女に後ろから寝間着をきゅっと摘ままれ、寝息が耳に触れてベルは眠るに眠れず悶々とした。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

朝日が昇り、穏やかに瞼を開けて起床する。

器のズレはまだ解消しきれず、さらに力を求めるベルはどうするべきか1つの『当て』を思い浮かべながら市壁の上に続く階段を上っていた。太陽は真上を通り過ぎて昼下がり。ベルは朝から悶々とした気持ちを誤魔化すようにひたすら走っていた。それが終わり、本拠で昼食をとって、ベル宛てに手紙が来ているというので読んでみれば――。

 

 

―――市壁の上で、待つ。

 

 

である。

果たし状だとリャーナ達に心配されたが、差出人にアイズの名があったために大丈夫だろう、いつもの言葉足らずだろうとベルは説得して単身やってきたわけだ。

 

「アイズさん」

 

「ん、ベル。久しぶり……だね?」

 

「ですね」

 

市壁の上から外の景色を眺めていたアイズが、風に悪戯される髪を押さえながらベルへ振り返る。表情の変化が薄いながらも微笑を浮かべる少女にベルも微笑で応えて隣に立った。気持ちの良い風が肌を撫でて、熱くなっていた身体を冷やしてくれる。

 

「もう、外出歩けるようになったんだね」

 

「はい」

 

「その、中々君に会えなくって……ランクアップ、おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

「…………ん」

 

頬を僅かに染めたアイズが他に言葉が見つからなくてモジモジ。苦手だったはずなのに、そんなアイズが可愛らしくてドキリとするベル。どうしようかな…と頭を唸らせたアイズは、やがてベルの腰にある剣を瞳に映して、頷いた。

 

「戦おっか」

 

「………戦うんですか?」

 

「うん。ランクアップした後でまだダンジョンに入ったりしてないなら……たぶん、器のズレが直ってないはずだから」

 

ベルがよかったら、だけど…。

少し遠慮気味に、かつ、上目遣いに言ってくるアイズ。

狙ってやっているわけではない、そんな仕草に虜にならない異性はいないだろう。思わず喉を鳴らしてしまうのは仕方のないことで、忘れかけていた悶々としたものが浮き上がってしまうのも男としては仕方のない(サガ)だろう。

 

「じゃあ、その……お願いします」

 

「うん、いいよ」

 

魔法は使わない。

剣は鞘に入れたまま。

条件をつけて、準備運動で身体をほぐす。

やがて、市壁の上から甲高い、けれど決して不快ではない剣戟の音色が響いた。

 

「【アストレア・ファミリア】は今度、『階層主』を倒しに行くんだっけ?」

 

「はい、『アンフィスバエナ』を……っ、倒しにっ」

 

「ベルは経験あるの?」

 

「僕はっ、は、じめ……てですっ」

 

アイズから連続で放たれる刺突をベルが剣で往なし、前に踏み込んで反撃に移る。袈裟斬りをアイズは片足を軸に身体を回転させて躱し、そのままの勢いで回し蹴りをベルのこめかみへ叩き込む。

 

「アイズ……さん、はっ!?」

 

「む……私達は、えっと……ベルに言っていいのかな……」

 

「?」

 

ベルが剣を持っていない左腕を盾にしたことでアイズの回し蹴りは不発に終わる。今までなら回し蹴りでベルの意識は刈り取れてアイズの膝枕タイムだったが、ベルの中で意識の変化でもあったのか確かな成長を感じ取った。

 

(きっとあのミノタウロスと戦った時が、この子にとってきっかけになった)

 

自分の必殺技をベルが使ったことに驚かされて、そこから妙に意識してしまっている。先ほどベルと久しぶりに顔をあわせたときだって胸がトクンと音を鳴らしたような気がしたくらいだ。

 

「ごめん、【アストレア・ファミリア】は別行動だから、勝手に教えると……怒られる、かも」

 

「そう……なんですか」

 

「うん、でも……忙しくはなる、かな」

 

盾にした左腕に痺れを感じながら、ベルは姿勢を落して足払い。それを跳躍することでアイズはベルの頭上を軽々と越えて背後に立つ。見上げたベルの瞳はアイズの戦闘衣装、スカート部分に隠れているスパッツが映り、見ちゃいけないものを見てしまったと顔を赤くした。そんな隙をアイズは逃さない。

 

「集中、切れたね?」

 

「あっ、くっ……!? だ、だって……!?」

 

「戦ってる最中に集中切らしちゃったら、危ないよ?」

 

「ご、ごめんなさいぃぃ……っ」

 

宙で身体を捻り回転斬り。

石畳を蹴って緊急回避。

明星簒奪(スキル)】が熱を放ち、ベルの動きを加速させアイズについていかせる。転がり、跳ねて、着地と同時に駆け、すぐ目の前に迫っていたアイズを天地逆転した体勢で剣を叩き込むようにしてアイズの斬撃を防ぐ。

 

「…………すごいね」

 

「はぁ、ひゅぅ、ふぅ……ぇ?」

 

「スキルがそうさせてるのかな、反応というか、動きが早くなってるの……わかるよ。ズレ、直った?」

 

「それは………も、ぅ、少し……っ!」

 

「じゃあ、もう少しだけ……本気でいくね?」

 

「え」

 

そこから先は、ベルは防戦一方を強いられた。

正面から来た攻撃を防いだと思えば、後ろに回り込まれて背中を斬られ、蹈鞴を踏みつつも振り返り反撃に転じようとしても剣を何度も掃われる。アイズのもう一つの異名【戦姫】のような戦いぶり。踊るようなステップで軽快に、鋭く、いっそ魔法を放ってアイズとの距離を取りたくなってしまう恐ろしさが生まれた。表情を歪ませたままベルは、身体に走る痛みに歯を食いしばり、倒れることだけは足を踏ん張らせて阻止し、刺突の構えで突進してくるアイズの手首を強引に蹴り上げて防ぎ、目を見開いて硬直。勢いから仰け反ったような姿勢になったアイズの胸にベルが剣の柄頭で突く。

 

「はぁぁあああ!」

 

「甘いっ」

 

アイズの空いている手がベルの右手首を掴んで突きを防ぎ、ベルを引っ張ることで前のめりにさせて入れ替わるように再びアイズがベルの真上に踊り、そして踵を落した。

 

「ふぎゅっ!?」

 

「あ」

 

肩を蹴ったのはよかったが、アイズも昂りすぎたのだろう。

ベルは勢いを殺せず、硬い石畳と顔面衝突。

潰れた兎のような断末魔を上げて、そのままピクリとも動かなくなった。

 

「や……やりすぎ、ちゃった?」

 

サァァァ……と顔を青ざめさせたアイズは恐る恐るうつ伏せのまま動かないベルを仰向けに直す。顔は打ち付けたせいで赤く、鼻血が出てしまっている。シャツを捲れば、アイズの攻撃でできた痣が浮かんでいて怒れるアリーゼ、リヴェリア、そしてアルフィアの顔を脳裏に過らせた。少しギアを上げたつもりだったアイズだったが、実際には上げ過ぎてベルはスキルがあっても対応しきれなくなっていたのだ。ズレを直すどころではなかった。防戦一方では意味がない。心の中の幼女(アイズ)達もこれには「あちゃぁ…」である。一応持ってきていた回復薬(ポーション)をベルの口に流し込んで傷が癒えるのを確認した後、アイズはベルの意識が戻るまで、膝枕をすることにした。

 

「…………おしおき、されちゃうか、な」

 

何かを思い出して、ぽっと頬を染めてそんなことを呟いたアイズの声を聞いた者はいない。ベルの髪を指で梳くように撫でては幼げな寝顔を晒す頬に指を沈めてみたり、唇をなぞってみたり、シャツのズボンの間から僅かに見える腹に触れて筋肉の付き具合を確かめた。

 

「男の子だ……」

 

ガレスのようなゴツゴツとした感じではなく、薄っすらとして主張しすぎない引き締まった感じ。それがアイズに限らずオラリオ女子には受けが良い。普段はアリーゼ達が囲っていて中々2人きりになるのは難しく、アミッドが羨ましくなるアイズだが、こうしてベルが自分に怖がったりせずに近付いてきてくれるようになったのはとても嬉しいことであった。なんやかんやアイズの胸はベルの物になってしまっていて、おしおきのたびに揉みしだかれるのは恥ずかしいが。ベルが自分に夢中になってくれているのは何故か、嬉しい。

 

「…………君は、どんどん格好よくなっていくね」

 

恋心云々については、戦うことしかしてこなかったアイズにはよくわからないがティオネからして「今のあんたは雄を求める雌よ」と評されている。何を言っているのかわからないが、ミノタウロスと戦っているベルが自分の必殺を使った時からどうもベルのことを思い出す度に胸がドキドキしたり顔が熱くなったり、ベルが触れたところがむずむずしてしまう。この日も久しぶりに会えたことで、心の中の幼女(アイズ)達はスキップしまくっていた。

 

「でも、あんまり無茶したら……だめ、だよ」

 

きっとこの子はすごいことを成し遂げる。そんな確信を、期待を、抱いてしまう。でも、それと同じように夜空を流れる星が燃え尽きて消えてしまうように、ちょっとでも目を離せば遠いところへ行ってしまうんじゃないかなんて不安も抱いてしまう。

 

「んんぅ………」

 

「っ!」

 

ペタペタとあちこち触っている内に時間が何分か過ぎたのだろう。くすぐったそうに呻き声を零して、ベルがゆっくりと瞼を上げた。仰向けになったベルの顔をアイズは見降ろす。ベルの視点からすれば少女の成長中の胸が目の前にあるようなもので、空が半分しか見えないまではいかないものの視界の何割かを覆ってはいた。いくら年上のお姉さん達と長らく生活してようがベルもお年頃。ドキリとしないわけではなかった。

 

「お、おはようございます」

 

「ん、おはよ」

 

「…………」

 

「…………えと、ごめんね?」

 

「はい?」

 

「ズレ、直せてない……よね? 加減、間違えちゃった」

 

「………ああ、いえ、気にしないでください」

 

まだ遠いなあ…と小さく呟くベル。

怒ってはいないとほっと胸を撫でおろすアイズ。

ベルが怒ることはそうないが、母親似の彼のことだおっかないことはわかる。

 

「そういえば……」

 

「?」

 

アイズは思い出したように、ベルの顔を覗き見るように迫り問いかける。美少女が四つん這いで迫って顔を近づけてくるという行為にベルは思わず身体をびくっとさせる。

 

「ベル……集中、切らしたところあったよね?」

 

「え………あっ!? えと」

 

「顔も少し、赤かった」

 

それはベルと刃を交わしていた時のこと。

ほんの一瞬とはいえ、アイズがベルの頭上を舞った時、ベルが赤面して集中を切らしてしまったのをアイズは見逃さなかった。訓練だったからいいが、これが怪物と戦っている時だったら致命に繋がりかねない。ベルよりも先輩冒険者であるアイズは、そんな隙が生まれることは許すわけにはいかなかった。

 

「答えなきゃ……ダメ、ですか?」

 

「ダメ」

 

「どうしても?」

 

「どうしても」

 

「おしおき……」

 

「それはそれ、これはこれ」

 

「ど、どこでそんなことを覚えてきたんですか……」

 

「私のこと、馬鹿にしてる?」

 

「ま、まさかぁ」

 

「はやく、答えて」

 

「近い近い近い、顔が近いです!?」

 

「君はアミッドともこれくらい、近いよ?」

 

「ふぇあ!?」

 

「私は…………ダメ、なの?」

 

いつの間にかベルの足の上に跨ったアイズはベルの両肩をがっしりと掴む。むぅっと不満気な表情を浮かばせて問い詰める彼女の顔は、それこそ鼻と鼻がくっつきそうなくらい近かった。ベルの理性が悲鳴をあげる。何せ今朝、目を覚ませば女神と聖女にサンドイッチ。悶々としていたのだから仕方がない。そんな話をモルドあたりにでもすれば、「どうしてそこで手を出さねえんだ!」と先輩冒険者としてお説教されていただろう。

 

「その……あの……」

 

ベルは何度も言い淀んで、アイズの目が「答えないと離れない」と言っているようで、どんどん距離感がなくなってきているようでアイズの股がベルの股に接触しそうになった時、観念したように言った。

 

「アイズさんのスパッツが、滅茶苦茶食い込んでたんですぅ!!」

 

「……………」

 

「……………」

 

「くい、こんでた……?」

 

「………はい」

 

「………」

 

アイズは肩を掴んでいた手を放し、戦闘衣装のスカート部分をまくって自分の股を確認。そしてゆっくりと顔を上げてベルの深紅の瞳と見つめ合った。

 

「……食い込んでた」

 

「…………そ、ですか」

 

「……気づかなかった」

 

「集中、してましたもんね」

 

「…………気になる?」

 

「それは、まぁ……」

 

「………ベルは悪い子」

 

「なんでですかぁ……」

 

2人して顔を赤くする。

そしてアイズがベルの上から退こうと後ろへ下がろうとして、バランスを崩す。それを咄嗟に手を伸ばして身体を支えようとするベル。

 

「んっ」

 

「うわっ」

 

けれど支えきれなくてアイズを押し倒すような形になってしまう。2人の間にドキドキとした空気が流れて、心臓の音が聞こえたような気がして、アイズはそんなドキドキとする胸を押さえるように胸元をぎゅっと握りしめる。彼女の金の瞳が潤んでいるようで、どこか期待しているようで、ベルは生唾を飲み込んだ。アイズも同じように。身体が熱いのはきっと、さっきまで身体を動かしていたせいだ。でも、どこか誘っているかのようなアイズの仕草にベルはもう、抑えきれなかった。

 

「アイズさんが悪いんですからね」

 

「―――――んっ」

 

失われる2人の距離。

抵抗なんて一切しない。

むしろ喜ぶように受け入れる高嶺の花。

その日、少女は女になった。

美神は地団駄を踏んだ。

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