アーネンエルベの兎   作:二ベル

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この話からアストレア様、アミッド、アイズがベルと再会するのはずっとずっと先になります。




超越界律②

アリーゼの予告より1週間後。

全ての準備を整えて、【アストレア・ファミリア】一同は中央広場(セントラルパーク)に集まっていた。遠征ではないにしても、『階層主』を討伐しに行くという情報は出回り、見送りにくる者達が少なからずいた。

 

「ベルさん、装備を一新されたのですか?」

 

「いや……ヴェルフの所で作ってもらってた防具がようやく完成したんです」

 

「なるほど……」

 

ベルは目の前にいるアミッドに身姿を見つめられ、少し恥ずかしそうに頬を掻く。準備期間の間に完成した装備品を受け取りに行ったベル。同行したのは侍従(メイド)の春姫。熱気の残る工房で防具を試着し、ベルの身体に合うように最終調整も行われた。紫紺色を基調とした『騎士』を彷彿させるもので、胸部、腕部、脚部は特に防御性能を求めたのか厚みがある。更に両肩と腰の位置からは漆黒の布が外套のように垂れ下がっている。鎧の下には精霊の護符(ウンディーネクロス)を用いたインナーを着用し、『階層主』のいる階層に合わせられている。

 

「素材が素材だったから……ヘファイストス様も手を加えたって」

 

「そうですか」

 

胸当て(ブレストプレート)を撫でるアミッドの手に少しドキっとして、後ろから漆黒の布を指でつまんでその感触を確かめるアイズが小さな声で「すごい」と呟いて、ベルは苦笑で頬を引き攣らせた。

 

「鎧も、この布も……普通じゃない……」

 

「重量は問題ないのですか? ベルさんは敏捷系の冒険者ですし、軽装の方がいいと思うのですが」

 

「それは……まぁ、ヴェルフも悩んだみたいなんですけど、ほら、僕……しょっちゅう大怪我したりするから、防御力を重視したみたいで……」

 

「ああ……なるほど」

 

「まあ、動きの邪魔にはならないですし、多少スピードは落ちても問題ないですよ」

 

「それならいいのですが」

 

幼馴染の美少女2人に前後で挟まれて鎧をペタペタと触られては、素肌の部分をアミッドの手で触診される。くすぐったくて、恥ずかしくて、2人の女の子の香りに顔が熱くなっていく。もうただの友人だとかの域を超えているのに変に意識をしてしまって仕方がない。

 

「あ、あと、アミッドさんからの……【薬刃(フラーテル)】も受け取りました。その、グリップもしっくりして……ありがとうございます」

 

「ええ、何度も貴方の手を握ってきましたからね……しっくりくるようにしていただきました」

 

「…………」

 

「…………」

 

にへらと笑みを零すベルと微笑を浮かべるアミッド、そしてムッとするアイズ。なんだか2人だけの世界に入っていくような、甘い空気を出しているというか、それがなんかモヤモヤするのだった。

 

 

「ベルー、そろそろ行くわよー!」

 

アリーゼから声がかかる。

振り返れば、他の姉達や一緒に参加する冒険者達がベルの方を見て手を振るなり揶揄い混じりの眼差しを向けるなりしている。

 

「お気をつけて」

 

「頑張って」

 

「そっちも、気をつけて」

 

互いの健闘を、無事を願ってベルは背を向けて歩き出す。ミノタウロスとの一戦からか、目指すべきものをハッキリと定めたからなのか、彼の背中は少し大きく感じられた。

 

「ベルさん」

 

遠ざかっていくベルの背中を、アミッドは追いかけて触れる。手を添え、額をつける。ベルの肩がぴくっと跳ねた。

 

「無事に帰還してください。話したいことがあります」

 

「話したい、こと……」

 

振り返る。

少女がほんの少し踵を上げる。

風が吹いて、長髪を悪戯する。

柔らかい感触がして、甘いものを感じて、離れて互いに顔を熱くさせて、そして少女は何事もなかったような表情を浮かべてじぃっと少年の瞳を見つめた。ちらりと見えた耳は表情とは裏腹に赤く染まっていた。

 

「大事な事……ですから、待ってます」

 

少女の言葉が聞こえているのか、いないのか。

少年は自分の唇に指を触れて、それから、コクリと頷いた。

 

「……………行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

お互い今度こそ背を向け合って、離れる。

幸運にも何が起きたのかは誰も見ていなかったのか、アイズもアリーゼ達も顔を赤くする2人には疑問符を浮かべているだけだった。

 

「じゃあアストレア様!」

 

「ええ」

 

アリーゼが中心となって、目の前に立つ主神と共に階層主と戦う派閥の主神へ目を向けて言う。

 

「『迷宮の孤王(アンフィス・バエナ)』討伐隊、これより出発します!」

 

揺れる旗は3種。

【ヘファイストス・ファミリア】。

【タケミカヅチ・ファミリア】。

【アストレア・ファミリア】。

 

それぞれの主神は眷族の無事を祈り、そして『冒険』へ出向く彼等を祝福する。

 

「行ってらっしゃい、皆」

 

微笑む女神へ、眷族達が笑みを浮かべて返す。「行ってきます!」と。

 

 

 

×   ×   ×

 

迷宮へ潜った冒険者の集団は上層を難なく突破し、中層へ。

ひとまずは18階層の迷宮の楽園(アンダーリゾート)を目指していた。

 

「【武神男児(マスラタケオ)】、このままお前が前衛だ。命は遊撃、千草、お前は後方より援護。私達の負担を減らしてみせろ」

 

「応!」

 

「「はい!」」

 

「鍛冶師、戦えんだろ?」

 

「ああ、俺も前に出るぞ!」

 

姉貴分の輝夜に言われた【タケミカヅチ・ファミリア】の団員が【アストレア・ファミリア】よりも前へ出て、遭遇する怪物達を討伐していく。先達として後輩を育成する意味もあり、上層での戦闘はほぼ全て、彼等に任せていた。ライラに声を投げられたヴェルフはニッと笑みを浮かべて、背負っていた大剣を構えると桜花と同じく前衛へ飛び出していく。

 

「ローリエ、あんたも階層主と戦わないにせよダンジョン経験が少ないんだからこの際混じって経験を積んじゃいなさい!」

 

「あ、ああ!」

 

春姫と同じくサポーターを買って出ていたローリエへアリーゼが指示を出す。地上と迷宮は違うとはいえ、怪物との戦闘経験が皆無というわけでもない。今後彼女が元の派閥へ戻るのかどうかは別として、積ませるべき経験は積ませようというのだ。ローリエは背負っていたリュックをすぐ近くにいたベルに預けると、剣を抜き、命と同じ位置へ躍り出た。

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

「大丈夫ですか、春姫?」

 

「は、はい……大丈夫でございますリュー様」

 

元末っ子のリューが、後輩を気にかける。

なんだか新鮮だなぁと微笑ましく振り返るのはノイン達で、耳を揺らしたネーゼはベルへハンドサインだけで指示を出し、それを受けてベルはリュックの中から猟銃(ディープ・スロート)を取り出すと壁から生まれ、桜花達の隊の中で一番後方にいた千草を頭上より襲い掛かろうとしたライガーファングを頭部を撃ち抜いた。あっという間に17階層『嘆きの大壁』まで足を踏み入れた一同は、そのまま18階層へ。

 

 

 

 

「は、早い……!」

 

「ずっと走ってた気がするよぉ……」

 

「いえ、実際走っていました……っ! ミノタウロスが出てきた時には輝夜殿が相手をしてはくれましたが、瞳が訴えていました。お前達が()れ…と!」

 

 

同郷のよしみで面倒を見てくれている極東美人(おねえさん)に戦々恐々する極東の少年少女。少し離れた場所では、岩に腰かけて水を飲む春姫とローリエの姿があった。ローリエはまだ涼しい顔しているが春姫はそれどころではないだろう。胸に手を当てて何度も深呼吸を繰り返していた。

 

「お疲れ様、みんな」

 

アリーゼが労いの言葉を駆ける。

18階層に入るまでのすべての戦闘は、事前打ち合わせの通りに【タケミカヅチ・ファミリア】に任せられていた。ミノタウロスが複数体出た時など、彼等では荷が重いと判断すれば輝夜やリャーナ達が介入したが、それだけだ。

 

「今日はこのまま、18階層で野営をするわ。宿場町の宿は……うん、帰りにでも利用しましょうか。もちろん、空いていたらだけど」

 

「なら、野営の準備をしよう。明るい内にしてしまった方が良い」

 

立ち上がろうとしながら言うローリエを、そのままアリーゼが遮る。

 

「いいえ、野営の準備は私達でするわ」

 

「えっ」

 

「でも!?」

 

「貴方達はさっきまで戦闘していたわけだし、キツイでしょ? 私達は大して何もしていない。だから、ここは私達が。アンタ達は水浴びしてきてもいいし、そのまま座って休んでてもいいわ」

 

「「「ア、アリーゼおねえさん……っ!!」」」

 

どっかの極東美人(おねえさん)とは違うぜ! これが、『飴』か!! 後輩冒険者達はキラキラした瞳を胸を張る赤髪のお姉さんへ向け、そしてそのお姉さんは極東美人へドヤァとした顔を向けた。輝夜は微笑んだまま青筋を立てた。

 

 

 

18階層から灯りが消え、夜となった。

天幕を張り終え、水浴びで身を清めた冒険者達は焚火を囲って夕食にありついていた。パキパキと薪が音を立て、もうもうと煙が天井へ登っていく。燃える炎が、星空のように独特であった。

 

「アリーゼ殿、中層からはアリーゼ達も戦闘を?」

 

「ええ、そうよ? 【絶影】はスキルの対象を増やすために小遠征に連れて行ったりしていたけれど、貴方達はLv.2の上級冒険者。あの大樹の下からは、無理はさせられない。だから私達が先導する」

 

「が、こちらは前衛盾役が1枚。できないわけではないが、盾役は欲しい」

 

「それで、俺か」

 

命がアリーゼに聞き、アリーゼの説明を輝夜がさらに付け加え、桜花が口を開く。ガタイの良さではこの一段の中で桜花が一番盾役として似合う。小盾(バックラー)持ちのノインも盾役ができないわけではないが、専門としてやってくれる人間がいてくれた方が良いという考えだ。

 

「私達は、か弱い乙女集団ですからなあ」

 

「………おいベル、あの姉貴分達が()()()って幻想だr―――ぐほぁっ!?」

 

余計なことを言いかけたヴェルフを、見えない速度でイスカが殴り飛ばす。ベルは静かに春姫によそってもらったシチューを飲み干して、息を吐いた。

 

「ああ……平和だなあ」

 

「み、見なかったことに……!?」

 

慣れているのか、そんな反応をするベルへ春姫がおろおろ。吹っ飛ばされたヴェルフはボトボトと血潮を垂らし、戻ってきくる。足はぷるぷると震え、何しやがるとばかりの目付きをするが、余計なことを口走った鍛冶師へ向けられる瞳は複数。正義のお姉さん達が全員、ヴェルフを見据えていた。

 

「怪我、したの?」

 

「大丈夫?」

 

「ダンジョンなんだから、油断しちゃだめよ?」

 

「どこでいつ異常事態が起きるか分かったもんじゃないんだから」

 

「大変、血が出てるわ!」

 

「回復薬……使う?」

 

「でもこれから必要になるだろうし、道具類の消耗は押さえたいよね?」

 

「あ、じゃあ、僕が―――むぎゅっ!?」

 

「ほらほら、食後のデザートに私なんていかがです? え? 食べたい? もう、これだから盛った兎さんはっ。ささ、あっちの天幕でしっぽりと……いきましょうか、あ・な・た♡」

 

「むぐぐぅ……!?」

 

輝夜にヘッドロックされそのまま大きな乳房に顔を埋められたベルが息苦しそうに悶え、引きずられていく。ヴェルフはぷるぷると震えながら両膝、両手を付いて頭を地面に擦りつけた。

 

「俺が……悪かった……!」

 

「「「「え、何が?」」」」

 

「俺が、間違ってましたぁ!!」

 

あんた達はか弱い乙女ですぅ! と死屍累々に叫ぶ鍛冶師の青年を「ま、いいでしょう」といった反応を示した正義のお姉さん達は頷き、治療師のマリューがヴェルフの前で膝をつく。治癒魔法による治療が行われた。

 

「極東の諺にこういったものがあります」

 

「「「「口は災いの門」」」」

 

桜花、命、千草、春姫の声が重なる。

ヴェルフは、ぷるぷる震えながら「うるせぇ」としか言えなかった。やがて戻ってきた輝夜とベルは何もなかったように座る。

 

「……早いのね」

 

「やっとらんわ」

 

「あら、そうなの?」

 

「やってたとしたら、静かすぎでしょ」

 

「貴方達、もう少し自重するべきだ。ここには、私達以外の派閥もいる。恥をかかせないで欲しい」

 

「ベルに相手にされてなくて悶々としているリオンがなんか言ってる」

 

「なっ!? べ、べつに悶々としてなど……ネーゼ、取り消しなさい!」

 

「いや事実だろ?」

 

「~~~~~~!!」

 

事後なのかと聞かれ違うと否定する輝夜。

自重しろと注意してヤキモチなのかと揶揄われるリュー。そんな姉達を見ておかしくて笑ってしまう後輩達。

 

「………アンフィス・バエナと戦う時、試してみたいことがあるんですけどいいですか?」

 

「「「「却下(ダメ)」」」」

 

ふとベルが口を開いて、聞いてきて、どうせまた碌でもないことじゃないのかと即答で却下する。

 

「何だベル、面白いことか?」

 

「うん、()()()()()()()()()()()()

 

「却下だ馬鹿野郎」

 

自分自身でするわけじゃない時点で碌でもねえ、とヴェルフも嫌な予感がして聞くだけ聞こうとする姿勢を蹴飛ばした。むぅっとした表情を浮かべるベルへ、リューが問う。

 

「聞くだけ、聞いてみましょう。ベル、何を思いついたのですか?」

 

「……えっと、今日までの準備期間でリヴェリアさんのところでちょっとお勉強してて……」

 

なーんでこの子、他派閥の副団長で王族妖精(ハイエルフ)に習いに行ってるんだろう…と誰もがそう思ったし、長い付き合いだけどこの子の顔の広さが、交友関係が謎過ぎるとお姉さん達は頭が痛くなった。なお、リヴェリア本人は「教えてください!」とやってきたベルにとても好意的であった。何せ経験上アイズは座学から逃げるばかりだったからだ。手を焼かされたというのにベルときたら、自分から教わりに来る。決して頭が良いわけではないにしても学ぼうとするその姿勢にリヴェリアは感動すら覚えたほどだ。

 

「『アンフィス・バエナ』の息吹(ブレス)は2種類あります。それで、その息吹(ブレス)は魔力由来なのかどうかって疑問が出来たんです」

 

「ふむ……」

 

「1つは焼夷蒼炎(ブルーナパーム)。水上でも燃えて、当たったらしばらく燃え続けるから回復魔法はお手上げでしょ?」

 

「お、ちゃんと覚えてきてる」

 

「えらいえらい」

 

「それでもう1つは、『紅霧(ミスト)』。効果は魔法の威力減退。第二級冒険者の必殺でも無効化してしまう」

 

「ふむ」

 

「その通り、魔法を封じられてしまうため冒険者達は接近戦を強いられてしまう」

 

しっかりと勉強をして、頭に知識を叩き込んできた弟分に感心の声を零す。藍色の炎に照らされた少年はしっかりと冒険者の顔をしていて、つい春姫は見惚れてしまう。

 

「怪物の中には、炎を吐いたりする個体は上層からいますよね?」

 

「うん、いるね」

 

放火魔(バスカビル)なんかそうだよね」

 

「『ヘルハウンド』の火炎は、魔力由来……体の中で魔法を発生させるような器官がある……のかなって思うんですけど」

 

「どうして魔力由来だと思うの?」

 

「ヴェルフの魔法で『ヘルハウンド』が魔力暴発(イグニスファトゥス)を起こして爆散したことがあったから」

 

ヴェルフの魔法【ウィル・オ・ウィスプ】は魔法および魔法属性の攻撃を発動する際、タイミングを合わせて発動する事で魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を誘発し、自爆させる『魔法封じ』の魔法だ。威力は相手の魔力の量に比例する。

 

「……じゃあ、『アンフィス・バエナ』の息吹(ブレス)が魔力由来による魔法の発生だったら、僕の【ビューティフルジャーニー】でも防げるんじゃないかなって」

 

「魔法の無効化の効果があったっけ……」

 

「でも、接近して息吹(ブレス)に当たりに行くのは、危険だから……まだ距離がとれるヴェルフで試した方がいいかなって」

 

ううんと唸る先輩冒険者(おねえさん)達。

ライラは「こいつ、時々変な事考えやがんな」と呟き、そしてヴェルフは「こいつそれを俺で試そうとしたのか……?」とドン引きした。

 

「ベル様は時々、鬼畜でございますね」

 

春姫が呟く。

 

「だってこの子のママ、大神(ヘラ)の派閥だもの」

 

イスカが言う。

うんうんと仲間達が頷く。

 

「あー……それで、【九魔姫(ナインヘル)】は何て言ったんだ?」

 

「えっと、試した人間がそもそもいないっていうのと」

 

「「「「そりゃそうだ」」」」

 

「ドロップアイテムに『竜肝』っていうのがあって、そこで生成される液体を用いているから魔力由来ではないんじゃないかって。あと、紅霧で魔法の威力が減退するなら、無効化するこちらの効果も減退させられるから、試す意味はないって」

 

「だろうな。あの怪物は『焼夷体液(ガソリン)』が生成されやがるから、仮に魔力を用いていたとしても()()()()()()ための撃鉄みたいなもんだろうよ」

 

どっちにせよ試す意味はねえよとライラが肩を竦めた。地面にガリガリと竜の絵を描いて、そのまま攻略の手順を述べる。

 

「いいか? 攻略の正攻法(セオリー)は、『足場』になる『島』が存在する大広間(ルーム)で戦うことだ。25,26,27階層にそれぞれ存在する好条件の戦場(ぶっけん)を見つけて、待ち伏せ、階層主を誘き寄せて叩くんだ」

 

「………ああ、それで俺に氷の魔剣を発注してたのか」

 

「お、【不冷(イグニス)】は察したな? そうだ、ここで【クロッゾの魔剣】の登場だ。これで水上を分厚い氷の足場に変える。砕かれようが、しばらくは足場としての役割を持つ」

 

「【イシュタル・ファミリア】との戦争遊戯を思い出すわね」

 

「魔剣があれば、戦場を見つけて誘導する手間を省ける。勿論、道中探しはするけどな」

 

トントン、と持っていた枝で土を突いてライラは言う。先輩冒険者の説明をまだまだ未熟な後輩冒険者達は時折喉を鳴らして頭に叩き込んでいく。唇を不敵に歪ませたライラが、さらに続ける。

 

「じゃあ、戦場(ぶっけん)を見つけた後はどうする?」

 

「戦うんですよね?」

 

「ああ、その通りだ【絶†影】。戦う相手は階層主で、厄介な武器を2種持ってやがる。強力な砲撃魔法があっても紅霧で威力が弱まってしまうし霧を吹き飛ばせても割に合わない。敵に当たる頃には、大した威力にもならなくなっちまってるだろうよ」

 

「とはいえ焼夷蒼炎(ブルーナパーム)も厄介だ。あれに直撃するわけにはいかない」

 

「リオンの言う通りだ。だから、双頭をそれぞれ隊を2つに分けて注意を引く。そんでもって優先順位だが、『紅霧(ミスト)』を持っている首から落とす。必殺を封じられたまま階層主を倒すなんて縛り、やってらんねえからな」

 

2つの頭を持つ竜の絵、その1つの首にライラが×を引く。魔法の威力を減退させてしまう紅霧を吐き出す首をまず落し、魔法という必殺を叩き込むという作戦だ。

 

「まあまた明日、道中に説明するわ。【アストレア・ファミリア(わたしたち)】が中心となって戦うから、アンタ達はそのサポートをするって思ってくれていいわ。それから……ベル」

 

「はい?」

 

「ダンジョンに潜る前に管理機関(ギルド)に寄っていたでしょう? 何か言われたりした?」

 

「あー……えっと……」

 

アリーゼに聞かれて、思い出したようにリュックを漁る。中からは数枚の羊皮紙の束が出てきて、それを隣にいた輝夜が受け取った。

 

受付嬢(ローズ)さんが、冒険者の行方不明がまた出てるって」

 

「また……そう、また、ね」

 

ついこの間の騒動でも行方不明となっていた冒険者が怪物に寄生されて現れるなんてことがあった。それらはすぐに倒され冒険者達も今は元気に酒飲みをしているが、関係があるのかどうか疑ってしまう。

 

「下層に進出できるくらいの実力のある派閥で……捜索願いが出されてるから、頭の隅にでも置いておいてッて」

 

ダンジョンの中は下へ行けば行くほどに広い。

そんなところで行方不明者を探すのは非常に難しい。

故に、階層主を討伐に中層から下層に足を伸ばす【アストレア・ファミリア】に「見かけたら保護でもなんでもしといて~」と軽く告げたのだろう。

 

「既に捜索願いを受けて潜っている派閥がいるのか」

 

「はい、【モージ・ファミリア】と【マグニ・ファミリア】が。でもまだ帰還してないらしくて、夕食の前にリャーナさんと宿場町(リヴィラ)へ行った時にボールスさんに聞いてみたけど、見かけたのは最初だけでそれからは見てないって」

 

「………木乃伊取りが木乃伊になってなきゃいいけど。了解、とりあえず階層主の討伐を優先して、行方不明者については頭の片隅にでも置いておきましょう」

 

「ベルが……ちゃんと派閥のお仕事してる……」

 

「大きくなったのねえ……ぐすっ」

 

「あの、ノインさんどうして驚いてるんですか!? マリューさん泣かないでくださぁい!?」

 

自分達のことを見て真似ているのか、正義の派閥の仕事をいつの間にかこなしてくれている可愛い弟分の成長に涙を禁じ得ない姉達。アルフィア(ママ)、貴方の愛息子は立派に育っているわよ! と言いたいくらいだろう。そんな仲間達を見てクスリと笑うとアリーゼはぱんっと手を叩いて立ち上がり、宴はお開きよとウィンク。

 

「明日に備えて、もう寝ましょう! しっかり男女で別れること! 戦いの前日なんだから……夜這いでもして明日に支障出させちゃ駄目よ!」

 

「「しねえよ!!」」

 

「しないんだ……」

 

「千草、どうした?」

 

「な、なんでもない!」

 

「ベル、行こうぜ」

 

「ベル、お前はこっちだ」

 

「「おいっ!?」」

 

輝夜に掴まって天幕(テント)へ連れて行かれるベル。不公平だ!と吼える桜花とヴェルフ。彼等だって年頃で、乙女の乳やら尻やらに欲望を駆り立てられないわけではない。そう、ベルだけ年上の美女に囲まれているのはおかしいと2人だって思うワケだ。真顔で運ばれていくベルはヴェルフと桜花の「ちくしょー!」という叫びと命と千草の「はぁ…」という溜息を吐く姿だけを瞳に映した。その晩、白兎は極東美人(ヒューマン)の抱き枕にされた。




ベル君の鎧は、『アンタレスの甲殻』と『黒ゴライアスの硬皮』を使ってできてます。イメージはギャラハッド・オルタ。
インナーにウンディーネクロス。
首から『銀の鍵』をぶら下げてます。
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