アーネンエルベの兎   作:二ベル

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超越界律③

 

「――――はぁっ!」

 

斬閃が奔る。

冒険者の振るった剣が、モンスターの体躯を両断。

 

『ギシャァアアアアアアアアッ!?』

 

 

「ライラ、前に『ダークファンガス』、『巨大蜂(デッドリーホーネット)』!」

 

「追加のお客様がお見えでございます。ひぃふぅみぃ……ふふ、団体様のようで」

 

「『マッドビートル』も来ました。リャーナ」

 

「撃つわよ!」

 

地面を蹴りつけて駆ける女性冒険者達の声が行き交う。狼人のネーゼが鼻と耳を鳴らし、獣人としての五感を発揮、命の索敵系スキルを使うまでもなく敵を見つけ小人族のライラへ伝えすれ違いざま、熊型モンスター『バグベア』を双剣で切り裂いた。猫を被ったような声音で言った輝夜はざっと見て10体の雄鹿型モンスター『ソードスタッグ』を愛刀の『彼岸花』で切り裂く。派閥内で白兵戦最強とまで言われている彼女の動きは流麗で後方にいた命達は同郷の姉貴分に思わず、見惚れてしまう。【疾風】の二つ名に相応しく風のように駆けるリューはまさに『エルフの戦士』だ。木剣で叩き斬りながら、怪物の群れの一層を仲間に注文しようとして、既に詠唱を終えていた魔導士(リャーナ)が魔炎を放つ。リューの頭上を通り抜けた炎は大昆虫の群れへ着弾するとそのまま樹木でぶち当たり、樹皮を焼き焦がした。絶え間なく怪物達の断末魔が鳴り響き、アリーゼ達【アストレア・ファミリア】12名の女性冒険者達はお互いの動きが分かっているかのように連携していた。

 

「まさに一心同体……」

 

「これが少数精鋭派閥……」

 

命と桜花が呟く。

普段のおちゃらけた姦しい彼女達とは違う。

完全に切り替わった彼女達は凄まじいの一言に尽きた。

 

「でも、ベルさんもすごい……!」

 

千草の小さな声が、桜花達の耳に届きベルのいる方へ顔を向ける。視線の先には、『蜥蜴人(リザードマン)』と交戦するベルがいた。

 

「――――ふっ!」

 

『ゴァッ!?』

 

鍔迫り合いをしていた蜥蜴人(リザードマン)とベル。ベルが僅かに力を抜いて往なすとそのまま天然武器(ネイチャーウェポン)の剣を振り抜いたまま前へバランスを崩したとこで、顎に膝蹴り。

 

『キャーイ!』

 

『キャーィ!』

 

『ジュピー!』

 

膝蹴りを行ったベルの背後から『メタルラビット』が3体が飛び掛かる。ベルは視線だけで数を確認すると顎を蹴られて硬直していた蜥蜴人の背後へ周るとそのまま背中を蹴りつける。強力な蹴りで前へ押し出される形となった蜥蜴人は憐れ、3体の『メタルラビット』によってその命を終わらせる形となった。怪物が灰に変わり、兎達が目を見開いていたところへ右手を突き出してベルは星炎を放つ。

 

「【アストラル・ボルト】」

 

『『~~~~~~~~~ッ!?』』

 

2体が星空を切り取ったような炎に飲まれて絶命し、残りの1体は魔法を放った後のベルの右手によって首を掴まれると飛んできた針に対して盾にされた後、ネーゼが知らせた怪物達の群れの中へぶん投げた。

 

『ギシャァアアアアアアアッ!?』

 

『ミギュゥッ!?』

 

鉄の身体とも言える『メタルラビット』がLv.4の膂力でぶん投げられ、凶器と化す。餌食となったのは『巨大蜂(デッドリーホーネット)』だ。認識の外からやってきた凶器(うさぎ)に押しつぶされ、圧殺、爆散し、投げられた『メタルラビット』は壁面へ激突してやはり死亡した。この間、30秒。

 

『ォオオオオオオオオオ!』

 

『ジャアアアアアアアアアッ!』

 

まだいる。

仲間を討たれた怪物達は怒りの咆哮をあげ、ベルへ迫る。ベルは振るっていた『探求者の剣』を槍でも投げるかのように投擲。そのまま右手に『ヘスティア・ナイフ』、左手に『薬刃(フラーテル)』を装備し、連撃(ラッシュ)で『バグベア』を解体し、左右から襲い来る『蜥蜴人』が剣を振り落とす前に前進し後ろへ跳躍。頭上で回転しながら星炎を2連射。脳天から焼かれた怪物は絶叫を上げると灰に変わった。

 

「―――ふっ!」

 

そして先程ベルへ目がけて針を飛ばし、今もなお耳障りな羽音を鳴らす『ガン・リベルラ』が次弾を飛ばそうとしていたところへ、蜥蜴人が装備していた天然武器の『盾』をフリスビーのように投げつける。それは風切り音を立てて蜻蛉型モンスターを斬断。ベルの周囲にいた15にも迫る怪物の一団はそれで消えた。ベルはそのまま太い木々の間をタン、タン、と飛んで移動すると松かさ型の設置罠タイプのモンスター『蜂の巣(ブラッディーハイヴ)』を発見すると後方のセルティに知らせ、彼女が雷撃で破壊。ベルが進んだ先には投擲した剣によって頭を撃ち抜かれた象型の怪物『マンモス・フール』が横たわっており、あっという間にやってきた白兎に驚く2体の生き残りを死体から抜き取った剣を薙ぎと振り下ろしで焼き斬った。

 

「【アストラル・ボルト】」

 

剣を振るいながらの魔法行使。

剣の素材の性質を利用した、斬撃と魔法の融合だ。

肉が焼ける匂いが鼻孔をくすぐり、巨体が崩れ落ちる振動が空間を揺らす。ベルは剣を鞘に戻すと振り返り、姉達に手を振って無事を伝える。中層域に入ってからのベル達の戦闘はひとまずこれで終わりを告げた。

 

 

 

「こうして後ろからあんた達の戦闘を見ていると、力量差がはっきりするな」

 

腕を組んで難しい顔をしながら、桜花がそんなことを言った。戦闘終了後、春姫やローリエ、千草達が『魔石』と『ドロップアイテム』の収拾といった後処理に移っていた。そんな少女達の安全のため、周囲を哨戒しつつちょっとした休憩(レスト)をとっているところへその言葉。同じことを思ったのか、作業中の少女達も何度も頭を縦に振っている。

 

「なんだか、目付きが変わったというか……」

 

「皆さん、お互いの動きがわかっているかのようでした」

 

「仲間がどこにいるのかわかっている、仲間が求めているものもわかっている……そんな感じだろうか、連携の速度が速い印象を受けた」

 

命、春姫、ローリエが順に言う。

岩に腰を下ろし汗を拭くネーゼとベルの身体を触診しているマリューが目を丸くすると、くすりと笑みを浮かべた。

 

「『視野』の問題だな」

 

「『視野』?」

 

「ああ、『視野』。駆けだし冒険者に限らず、未知の階層に足を踏み入れた冒険者にもよくあることだけどさ、自分のことしか見えなくなっちまうんだよ。仲間に意識を向ける余裕がない……って言えばいいのかな。それを死角からの対処とか、敵の誘導とか、経験を積んで、『視野』を広げていく」

 

「『個人』の『視野』をパーティに広げるの。そうして戦況に応じてパーティに必要な行動を選択したり共有をする」

 

ハンドジェスチャーも交えながら、ネーゼの説明にマリューが付け加えて後輩冒険者に教えていく。視野を広げることができれば、パーティの指揮官の負担を減らすことができ、より密な連携を迅速に行うことができる。そうすることで殲滅効率と対処速度が上がるのだと。2人のお姉さんのちょっとした授業に「おおっ」と理解の声が響いた。

 

「指揮官が戦場全体を俯瞰してパーティを導くのに対して、実際に戦う私達なんかは状況に応じて……って感じだな。あ、今回の指揮官はライラだ」

 

「こ、今回の……?」

 

「【紅の正花(スカーレットハーネル)】が指揮官ではなかったのか……」

 

汗を拭き、水で喉を潤したネーゼが言った後に命が疑問を浮かべ、桜花が腰に手を当てて敵の姿を見逃さないと目を光らせているアリーゼの後ろ姿に視線を移して呟く。

 

「まあ、ベル君と春姫ちゃん、あとローリエちゃん以外は指揮官役やったことあるものねえ」

 

「嫌でも視野が広がったよ……まあ、私は戦ってる方が性に合ってるから二度と御免だ。視野というか……指揮官になると俯瞰して見なきゃいけなくなってくるし、『戦術眼』ってのはわかるんだけど……【勇者(ブレイバー)】の真似事はウチじゃライラが一番上手いよ」

 

「それよりベル君……ランクアップ直後のズレ、ないみたいね?」

 

「あ……はい、変なところありましたか?」

 

「ううん、速いなぁって……筋肉の疲労も問題なさそう。鎧、重たいけど平気?」

 

「スピードは落ちるけど……気にするほどでもって感じです」

 

マリューはベルの二の腕や腿を揉んだりと疲労具合を確認。

それが終わると、水筒を渡し、補給させた。

 

「もう足の速さじゃ、敵わないなあ……」

 

「アリーゼ、輝夜、ネーゼ、リオン、ベル……現状、どっちが早い?」

 

「ノイン、イスカ……ベルは【明星簒奪(スキル)】による加速がある。比較が難しいのでは?」

 

「輝夜はどう思う? スキル込みで言うなら、兎さんの勝ちでは? アレの足は第一級を凌ぐ」

 

「いったいどこで何してたんだかねえ……さっきもあんな喧嘩殺法っていうの? 凄かったよねえ」

 

「誰が思うよ【フレイヤ・ファミリア】に修行に出てたなんて」

 

「「「思わないよねえ」」」

 

「そもそもランクアップしたてのLv.4がLv.6とLv.7とやりあってるとか、おかしいんだよなあ」

 

マリューの触診が終わってヴェルフと雑談しているベルを眺めながら、お姉さん達は話し合う。ランクアップした時に起きるズレはとっくに修正されていたし戦い方もまた成長を感じさせられた。これが、『男子、三日会わざれば刮目して見よ』というやつなのだろうか。まさか【フレイヤ・ファミリア】へ行っていたなんて知らなかったし、【猛者】と【剣姫】と戦闘(バト)ってたとか聞いた時には気が遠くなった。やけに騒がしいなあとか思ってたし、ギルドから苦情来た時には私達が何したのとか思ったし、やっと帰ってきたベルがボロボロのけちょんけちょんの格好で、お土産に美神の徽章の刻まれたお皿持って帰って来るとかどんな顔したらいいのかわからなかった。

 

 

――お皿、なんで貰ったの?

 

――ポイントがたまったから?

 

――パン祭かよ。

 

そんな会話すらあった。

【猛者】と【剣姫】と時々、鬼畜妖精。

戦いの野(フォールグヴァング)』は戦場も戦場。

Lv.4の兎が入り込む余地などないというのに、ベルは時々アイズと背中を預けあって戦った。オッタルの一撃も入れることは敵わなかったにも関わらず、勇猛果敢に戦う様に強靭な勇士(エインヘリヤル)達もフレイヤのお気に入りであり寵愛を注がれているベルを認めずにはいられなかった。

 

 

閑話休題。

 

 

「アリーゼ様、後処理が終わりました」

 

「ん、お疲れ様。 じゃあ皆、あと少し進めば25階層だから、少し進んだ『ルーム』で休憩(レスト)にしましょ。お腹もすく頃合いでしょ?」

 

「アリーゼ、今いる24階層と25階層の境目くらいでいいのか?」

 

「ええ、それくらいがいいわ。階層主がまだ産まれてないなら、境目ぐらいにいた方が音でわかるだろうし。もし異常事態があってもすぐ引き返せる位置だと思う」

 

「オーケー。それなら、樹洞あたりが狙いめか」

 

春姫から報告を受け取ると、アリーゼが全員に聞こえる声量で言う。休憩をとり、補給をし、『下層』が始まる25階層へ進出、本格的に階層主戦に使えそうな場所を見つけつつ降りていく。ライラが口を挟んでささっと打ち合わせると、ライラはポーチから地図を取り出し、『ルーム』の位置を割り出し始めた。

 

「25階層からは『新世界』って言われてるくらい、別物になるわ。『下層』の始まりで『水の迷都』って言われるんだけど……景色に見惚れても、決して水場には近づかないこと。近づいたら水生系モンスターに襲われるし、間違っても水中に落ちたりなんかしたら目も当てられない。下手をすれば流されて、27階層まで落ちちゃうかもしれない。だから、水を補給しようとか思っても、安易に近寄らないこと!」

 

アリーゼの言葉に後輩冒険者達は素直に返事する。

「よろしい!」と快活な笑顔と共に言うと、全員の様子を今一度確認して出発を促す。道中、怪物達と戦闘(エンカウント)しつつもライラと打ち合わせた通り、階層同士の境界あたりまで行くと、少し正規ルートから外れ、穴をぽっかりと空けた樹洞のルームを発見。壁や床を傷付け、そこを休憩場所(レストエリア)として利用することにした。イスカ、ネーゼ、ノインが階層主が産まれているかどうか様子を見に25階層へ向かいその間に天幕を張り、食事の用意を始めた。ヴェルフは鍛冶道具を広げ、戦闘を行ったアリーゼ達の武装の不具合が起こしたりしていないかの確認も兼ねて整備をしている。ルームの入口では、リャーナが見張りをしている。

 

「『アンフィス・バエナ』はまだ産まれていないな」

 

「おかえりなさいネーゼ」

 

別れてから10分ほど。

軽く下の階層を見てきた3人が戻ってきた。

小さな焚火を囲んで食事をしている仲間達の間に入るようにして腰を下ろし、報告する。彼女達が18階層から出る前に『宿場町(リヴィラ)』で下層の情報-特に階層主の出現-について頭目のボールスに聞いてみたが、その時はまだ産まれてはいない、見た奴はいないということだった。

 

「リヴィラの連中の話を信用してもいいのか?」

 

「流石に階層主が出た出てないで嘘をついたりはしないわよ。だって階層主がいつまでもいたままで困るのは自分達でもあるんだから」

 

「だね、倒してくれるんなら是非もない。ああ、ドロップアイテムなら喜んでもらってやるぜ? って感じだよね」

 

「逞しいというかなんというか……ゴライアスに向ける情熱を他の階層主に向ければ……ってあの18階層でくすぶってちゃ言っても意味ないか」

 

宿場町(リヴィラ)』にとどまっている者達は、地上にいられなくなった訳ありも含めて『ならず者(ローグ)』だ。彼等は冒険者らしく生きぎたなく、必ずしも信用していいわけではない。そこで売られる商品は定価の何倍もするぼったくり価格だったりするし、情報1つ得るにも金を求められることもある。「ようこそ同業者!」なんて看板を掲げようとも、決して財布の紐を緩めてはいけないのだ。とはいえ、彼等もまた冒険者であることに変わりはなく『階層主』ゴライアスが産まれれば、一致団結、戦いに行く。通路が塞がれたままでは彼等だって困るからだ。なお、戦闘後は熾烈なドロップアイテムの奪い合いが始まる。

 

「んー……産まれてないなら、予定通りに戦場(ぶっけん)探しをして、備えるしかないかしら? 寝たい子は寝てもらってもいいし……」

 

「うん、それがいいと思う。モンスター達の気配も少なかったから多分警戒してるのかも。もう少ししたら産まれるかもしれないし休めるうちに休んだ方がいいね」

 

「とは言っても、いつ産まれるかわからないから思い通りにできるかはわからないけどね」

 

アリーゼがスプーンですくった雑炊を口に運びながら言って、ノインが続く。氷の魔剣で足場を作る作戦はあれど、『アンフィス・バエナ』がどこへ行っても対応できるようにしておきたい。何より、いくら分厚い氷を足場にしたとしても、階層主の動き1つで揺れてしまうのは否めない。不安定な氷の足場より島という安定した足場で戦いたいというのが本音だ。

 

「はいネーゼさん。輝夜さんが作ってくれた雑炊、美味しいですよ」

 

「ありがとうベル……それで話の続きだけど、かすかに血の匂いがした。ほんっとうにかすかに…だが」

 

「怪物の?」

 

「いや、たぶん違うな」

 

大瀑布の音とヴェルフの工具が奏でる音を感じながら、食事を口に運び、ネーゼの言葉をアリーゼ達が聞く。

 

「下の階層だと思うけど、怪物達の匂いなんかが混じってるからハッキリしないな。もし行方不明者の血の匂いだとするなら、悪いが……階層主を倒し終えるまでは、無視したい」

 

「まあ、道中ばったり出会っちゃえばその限りじゃないでしょ。命が大切。助けられるなら助けましょ」

 

「怪我人を1回引き上げて、また戻ってくんのか?」

 

「簡単な事じゃない。怪我人連れて階層主と戦うなんてことよりずっといいわ」

 

「了解、わかったよ」

 

「アリーゼ殿、自分達はどうすればよろしいですか?」

 

手を上げて命が問う。

アリーゼは「んー」と唇に指を当てて考えるような素振りをすると、その質問に答えた。

 

「戦闘は私達が中心。全員を戦わせたりするつもりはないわ、参加しない子達の護衛もお願いしたいし。近い場所にあるルームで待機してもらうつもりよ」

 

「盾役で桜花、索敵で命は参戦だ」

 

「はい、輝夜殿」

 

「ああ、わかった」

 

「春姫とローリエ、千草ちゃん、【不冷(イグニス)】は待機。守ってあげて」

 

「……了解だ」

 

「それじゃ、仮眠取る子はとって頂戴。交代で見張りをしましょう」

 

軽くミーティングを行って解散。

食事を終えて、天幕の中へ入り乙女達が汗ばんだ身体を拭いて清める。別の天幕ではアリーゼ、リュー、ベルが仮眠を。ベルはアリーゼに連行された。快眠のために抱き枕にされたのだ。それから1時間、2時間と時間が過ぎていく内に見張りを何度か交代。そして3時間が経過しようとしていた頃、下の階層から絶叫にも似た轟音がルームに届いた。

 

「………はぁ」

 

思い通りにはならないかぁーと言ったような溜息が誰からともなく漏れた。

 

「ま、予定通りにいかないのがダンジョンだろ」

 

ライラが肩を竦める。

彼女の片手には地図が握られており、いくつか印がつけられていた。戦場として利用を考えていた場所の候補だろう。

 

「しょうがないわ、下へ降りつつ戦場として使えそうな場所を見つける。【絶†影】はスキルを使って、怪物がいるかどうか教えて頂戴」

 

「は、はい!」

 

「戦場にしようと思っても怪物がいるなら、そこはナシで。他は階層主の影でも見えたら教えて」

 

「了解」

 

「お前等、改めて伝えておくが水には絶対に近寄るなよ!」

 

アリーゼとライラの指示と注意が飛ぶ。

そして下層へ続く水晶に覆われた連絡路を通り抜けて、25階層へ。涼し気な風が、大樹の迷宮にはない気流が肌や髪を撫でる。魔石灯の灯りを用いて足元を照らして洞窟を抜けた先に見えるのは『絶景』。轟然と音を奏でる、凄まじいまでの大瀑布。谷や崖を形成するのは水晶の頂き。霧の如く飛び散る水飛沫とともに空中を羽ばたく半人半鳥(ハーピィ)歌人鳥(セイレーン)。高い啼き声が高らかに響き、舞い散る羽根の軌跡が開けた大空洞を横切っていく。大いなる『水の楽園』である。

 

「流石にここからじゃ見えないわね」

 

アリーゼが崖から見下ろしながら言うがその通り、水飛沫で下の階層は25階層からでは見えそうにない。狼人のネーゼを最前列、探知スキルを持つ(みこと)を中衛につけて進んでいく。階層主の気配に怯えているのか、モンスターとの遭遇は少なく25階層から26階層へは難なく進むことができた。階層主が26階層へ足を踏み入れて10分、戦場として使えそうな場所を2つ見つけ出す。

 

「ここは、ダメだな」

 

「はい、目に見えてモンスターはいませんが……【八咫黒鳥(ヤタノクロガラス)】によると恐らくは水中に複数」

 

「『ブルークラブ』かしらね」

 

地図の写しに使えそうにない場所に×印を書くライラ。

命がライラの言葉を肯定し、リャーナが隠れているモンスターの予想をする。ダメだとわかれば次だと足を進め、27階層へ続く連絡路に到達するまでに追加で3つ。計5つの戦場候補地を見つけ出した。

 

「けどさ」

 

アスタが口を開く。

連絡路の前で仲間達が立ち止まり、言わんとしていることを待つ。

 

「ここまで来て、階層主がいないってことは27階層にいる可能性が高い」

 

「だろうね」

 

「かと言って無駄ってことにはならねえよアスタ。あいつは滝を上って上の階層にいけるんだからよ」

 

「それは……うん、そうだね」

 

滝を伝って下からモンスターが昇って来ることはまずない。()()を除いて。その一部というのが階層主『アンフィス・バエナ』だ。敵の方から冒険者を発見した場合、昇って来る可能性や戦闘時に上の階層へ逃げられるなんて可能性も決してゼロではない。そうなってくると戦場を変更せざるを得なくなるわけだ。そんな話をして、27階層へ。飛沫が冒険者達を濡らし始め、戦場となる場所を3つ見つけ、大きな滝壺が近くなってきたところでネーゼが全員に制止を促した。

 

「いた」

 

凄まじい音を立てる大瀑布、霧のように白く染まったそこで敵の巨影が悠然と佇んでいた。二つの首、『幻竜』という言葉を彷彿させる美しい巨躯、全長20M(メドル)を超え、大型級(オーク)の何十倍もの横幅を持ち、白亜の鱗に包まれた体は荘厳さを感じさせる。

 

 

――階層主『アンフィス・バエナ』。

 

 

人間など、敵からしてみればちっぽけなもの。

しかし、うねる二頭(ふたつ)の意志が混然となり、冒険者達を発見するや否や敵意と殺意を解き放つ。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

「走れ!」

 

「通路を逆走して2つ目の分かれ道で左だ! あっちに釣る!」

 

「私とリオン、リャーナで階層主(あいつ)を誘導する!」

 

「ぼ、僕は!?」

 

「ベル、お前は到着したら魔法を使え。【アーネンエルベ】だ」

 

「わかり、ました!」

 

ネーゼが吠える。

ライラが叫ぶ。

アリーゼが言ってリューとリャーナがそれぞれ武器を構える。

指示を欲しがったベルへ輝夜が望み通り指示を出し、緊張していた弟分の背中を押した。ネーゼを先頭に輝夜が殿となって隊を挟み、ベルが並行詠唱を行いながらいつでも発動できるように備えた。進んできた通路を逆走し別れ道を1つ通り過ぎ、水面から飛び出して来た『レイダ―フィッシュ』をマリューが(メイス)で叩き落し、ノインが長剣を突き刺して魔石ごと破壊。そして次に現れた別れ道を左に曲がり直進。急流となって揺らめく水路は、階層主さえ難なく通れるほど広く、進んでいった先で円形状に広がった巨大な泉へ到着。小島が7つあり、戦場としては申し分ない。さらには戦闘に参加しない者達を近からず遠からずの場所で退避させられる小さな『ルーム』もあり、冒険者達にとっては良物件だった。

 

「………『アンフィス・バエナ』、来ます!」

 

八咫黒鳥(ヤタノクロガラス)】を行使した命が頬に汗を滴らせて、言うとアリーゼ、リュー、リャーナがルームへやってきた。魔法を行使したのかリャーナの短杖(ステッキ)からは煙が吹いている。遅れて轟音を立てて水の流れを無視してやってきたのは、『アンフィス・バエナ』。水中へ深く潜り姿が見えなくなったかと思えば、間を置かず驀進、爆発したかのように水が逆立ち、巨影が冒険者達の頭上を飛び越えて泉へ。着水と共にそこにあった水が溢れ出し、冒険者達をずぶ濡れにした。双頭の白竜が正義の眷族達を見下ろす。正義の眷族達が双頭の白竜を見上げ、両者ともに睨み合う。

 

「行くわよ! 対階層主っ。『アンフィス・バエナ』!!」

 

「【アーネンエルベ】!」

 

アリーゼが濡れて肌に張り付く髪を振り払って剣の切っ先を敵へ向けて叫ぶ。

ベルが魔法を解放、雷鳴と共に雷が奔る。ヴェルフが布に巻き付けていた魔剣を取り出し、振るって水面を凍てつかせ足場を拡張。全員抜剣、ダンジョンの意志を掲げ咆哮を連ねる巨大な怪物へ駆け出した。

 




階層主戦に参戦するのは盾役として桜花。
魔剣持ちでヴェルフ。
索敵役で命。
春姫は3人にブーストかけて退避。
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