アーネンエルベの兎   作:二ベル

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前座は終わった


超越界律⑤

「―――合流したら、階層主が倒されていたんだが」

 

「「「ごめんて」」」

 

「なんかネーゼが斧担いでめっちゃ早く走り去っていったんだが」

 

「わ、悪かったって」

 

「「「「合流したら、えっ、あっ、もう終わったけど? みたいな顔されたんだが!?」」」」

 

「「「「「だからごめんて!!」」」」」

 

乙女達のきゃいきゃいとした声が行き交う。

拡がる光景は乙女の花園。

身体休める場所は『迷宮の花園(アンダーガーデン)』。

星空を切り取ったような炎が薪を焼き、濡れた身体を温める。階層主を討伐した冒険者達は27階層より下、安全階層(セーフティポイント)である28階層へ移動していた。戦闘衣装(バトルクロス)はずぶ濡れ。勿論、荷物もずぶ濡れ。身体はすっかり冷えて、一度休息をはさんでから18階層へ、18階層から地上へ戻ろうということになった。

 

「替えの着替え持ってきてても、濡れちゃったら意味ないわよねえ」

 

「下着、どう?」

 

「ぐっちょぐちょ」

 

辺りには何本もの蒼水晶(ブルークリスタル)の柱。

足元には色とりどりの美しい花畑。

とても高い天井からは青白い藤の花(ウィステリア)が垂れ下がり、不可思議な光を灯している。それに照らされる階層全体は青にも紫にも、白にも見え、魂が吸い寄せられるような神秘的な空間が出来上がっている。点々とある清冽な泉が、神秘の光を反射しては水面を揺らしている。その景色を初めて見る者達は言葉も出ないくらい見惚れてしまっている。

 

「くそっ……おいっ」

 

「…………言うな」

 

そんな『迷宮の花園(アンダーガーデン)』の出入り口となる場所をはさむ形で見張り役をしているのは、桜花とヴェルフだ。2人は階層の外へ顔を向け続け腕を組み、眉間に深い皺を寄せて瞼を閉じている。

 

「ちくしょう、こんなことあっていいのかよ……っ!」

 

「……………」

 

拡がるは『乙女の花園』。

そう、今、水に濡れた女子達は裸も裸。

嫁入り前の美女が、美しい肢体を晒し焚火を囲っているのだ。年頃も年頃の青年達は歯を食いしばるのは仕方がない。

 

―――めっちゃ気になる!!

 

だがしかし、振り向くことは許されない。

何せ、振り向いたら目を潰すゾとあらかじめ極東美人に脅されているのだ。あの女ならやりかねない、と2人は従うしかなかった。形の良い乳房、手のひらには決して納まりきらない乳房、よくくびれた腰、すらりとした長い脚、むちっとした太もも、撫で心地の良さそうな尻、濡れて肌に張り付く髪、それらが男達の背後で展開され、下着を含めた衣服がつるされている。そりゃあ気になるというもの。

 

「あ、あの僕やっぱりヴェルフ達と一緒に見張りを……」

 

「ダメー」

 

「あらあら、どこへ逃げるおつもりで?」

 

「ねえベル、私の胸大きくなったと思わない?」

 

「ベル君ずぶ濡れなんだからちゃんと温まらないとダメよー」

 

「あの2人はそこまで濡れてないから平気平気」

 

「いやでも命さん達もいるわけだし」

 

「大丈夫だ、マリューが後ろからお前の目を塞いでいるから」

 

「いやそうだけど……」

 

「それに、それどころじゃないから」

 

「は、春姫殿ぉおおおおおおお!?」

 

「春姫ちゃぁあああああああああん!?」

 

「ど、どうしたんだ!? どうして急に気絶したんだ!? おい、しっかりしろぉ!?」

 

なんだから同性からのチクチクと刺すような気配を感じたベルが立ち去ろうとするが、後ろから密着してくるマリューに両手で視界を覆われ阻止される。どころか右に輝夜、左にアリーゼとそれぞれ腕をガッチリ組んで身動きを封じられている。お姉さん達はショーツこそ履いてはいるが、裸体であることに変わりなくベルの背中にはアストレアにだって負けない大きな乳房がむにゅりと形を歪ませて押し当てられている。

 

「マリュー、いつまでそうしているつもり?」

 

「ダメかしら?」

 

「ダメよ! さっき階層主が飛んだ時からずっとじゃない! 交代して!」

 

「えぇー」

 

「ベル、あんたもなんか言ってやんなさい!」

 

大きな乳房の存在感を背中越しに感じるベルの耳は赤い。

付き合いも長い、やることもやっている……とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。だけどこの弾力を堪能していたいという想いもある。うぅーと悶々するベルは両腕からも2人分の乳房の感触を感じ取りながら、言葉を絞り出す。

 

 

「一体感って大切ですよね」

 

 

「「「「「やかましいわ!」」」」」

 

 

密着=一体感とは言わないからね! とお姉さんが叫ぶ。

ぷるりと柔らかい果実が揺れた。

見えねえ……! と男達が瞼をぎゅっと閉じて眉間の皺を更に深くした。ベルの裸体を瞳に焼き付けた春姫は憐れ、幸せそうな顔をして意識を飛ばしている。

 

「逆が良かったかもしれねぇ……!」

 

「………そういう台詞の使い方、あったのか」

 

「うるせぇ……!」

 

【アストレア・ファミリア】は美女揃いだ。

それでいて、ツヨツヨお姉さんだ。

しかし恋愛面ではヨワヨワお姉さんである。

碌に出会いに恵まれなかったが故に、ひょんなことから1人(いっぴき)の白兎を自分達で育て上げちまおうとかしちまっている残念なお姉さん達である。兎1人に対して美女が10人以上。狂ってやがる。

 

「あれで【戦場の聖女(デア・セイント)】と許嫁……どんな徳を積んだんだろうな」

 

「聞いて来いよ」

 

「無理に決まっているだろう」

 

「それでも極東男児か」

 

「極東は関係ない」

 

「あそこで素っ裸でベルに迫ってんのお前の同郷だろう!?」

 

「やめろ、言うな、殺される」

 

「あらお2人さん、随分暇そうでございますなあ? こっちに混ざりたいので?」

 

「「いいんですか!?」」

 

「遺書の用意はしておいてくださいませ」

 

「「遠慮しておきます!! よぉし、頑張って見張るぞぉ!」」

 

見なくたって浮かんでくる。

ケタケタと邪悪な笑みを浮かべる極東美人の顔が。

2人の男達は、ちくしょー! と心の中で叫び声を上げた。

ベルはお姉さん達にこんな場所だからこそ、一線は越えない程度に可愛がられた。パチパチっと薪の音が美女たちの声にかき消された。

 

 

 

 

×   ×   ×

身体も十分に温まり、戦闘衣装もある程度乾いたことで一同は休息(レスト)を終え、28階層から上へ向けて歩を進めた。

 

 

「僕の【アーネンエルベ(まほう)】は、雷兵が出現しても1つの行動を終えたら消えてしまう欠点があります」

 

「とはいっても、あれって数に限りがなさそうだから欠点が欠点になりえないんじゃない?」

 

「1体1体もベルと同じレベルだから数の暴力で押し潰せるよね」

 

「でも、その数の暴力も【猛者】相手には通用しなかったのね?」

 

「はい。それで、どうしたらいいのか考えてたらヘディンさんにそれとなく助言? ダメだし? されて……」

 

 

道を進みながら、階層主討伐戦へ挑む前、準備期間中にしていたことを思い出しながらベルが自分の魔法についての解説をする。それにリャーナやイスカといった姉達が振り返りながら口をはさむ。

ベルの魔法【アーネンエルベ】はやろうと思えば数の暴力で敵を押しつぶすことが可能。だがしかし、その数の暴力も頂点と言われる【猛者】オッタルには通用しなかった。うんうんと頭を悩ませていたベルへ、鬼畜妖精ことヘディンがお節介(じょげん)

 

 

――貴様のそれは、『質』が満たされていない。

 

 

「雷兵はすぐに消えちゃうけど、強さは僕と同じ……だから、何を言ってるんだろうって思ったんですけど……」

 

 

――ベル、ちゃんと休まなくてはダメよ? ほら、これでも飲んで。()()()()()

 

 

「……濃厚だったから、本当に」

 

「こいつ今、何を思い出しているの?」

 

「本当に何してたの?」

 

「【剣姫】も一緒にいたんだよな? 濃厚って何」

 

「濃厚……濃縮……ぎゅーっと圧縮したら、どうだろうって思ったんです」

 

((((この子、やっぱたまにお馬鹿だわ))))

 

若干、顔を赤らめるベルに訝し気な視線を投げつけるお姉さん達。

ベルは身振り手振りで両手でボールでも掴むような仕草をしながら、思いついたことを口にした。

 

「【アーネンエルベ】の初動は、『落雷』。それは、周囲の魔法の残滓……『魔素』に僕自身の魔力を付与することで支配しちゃう……マーキングみたいな役割を果たしてるんです。戦場で魔法が使われれば使われるほど、僕にとっては武器が補充されるってことなんです。これで初めて、雷兵を呼び出したりできる。それで、雷兵を出す時に『魔素』をぎゅっと圧縮するイメージ……力を込める感じでやってみたら、数は沢山出せなくなっちゃうけど、すぐ消えたりしないし1体1体が強力になった……『質』の問題が解決できたんです」

 

だからさっきまでの戦闘では以前以上の威力が出せたのだとベルはそう言って解説を締めくくった。ちなみに、それでもなおオッタルに膝をつかせることはできなかった。

 

「新しいスキル【英雄賛歌(アメイジング・グレイス)】の使い方がわかればもしかしたら……とは思うんですけど」

 

「どんだけ【猛者】倒したいんだよ……」

 

オッタルと殺し合いをしていた弟に若干引いているお姉さん達。

話は終わりか、とアリーゼがやれやれと頭を左右に振るとネーゼに視線を向けた。

 

「それで、合流する前に何かあった?」

 

「ああ、あった。ワーム系の怪物だと思うんだけど、大きな穴があって」

 

「この階層にそんな怪物いた?」

 

「うーん、どうかしら」

 

ネーゼ達が合流前に発見した大きな穴。

階層にできる縦穴とは違うそれは、怪物が通ったとしか思えないものだった。その件をネーゼはしっかりと団長に報告して情報を共有する。

 

「他におかしなことはあった?」

 

「いや、ないな。匂いの方は……悪い、ありすぎてわからなかった」

 

「まあそれはしょうがないでしょ」

 

談笑しつつ、階層を上って大樹の迷宮。

大樹の迷宮から18階層へ戻る出入口が見えてきた。

 

宿場街(リヴィラ)で休む?」

 

「高いから野営ね。行ったら行ったで、アンフィス・バエナのドロップアイテムを寄越せ~なんて言われかねないわ」

 

「あー……言われそう」

 

「アリーゼさん、ドロップアイテムってどうするんですか?」

 

管理機関(ギルド)で換金か、どこか必要としてる派閥に売るかしかお金にするわ。それで次の遠征の資金にするの」

 

「毎度のことながら、遠征は金がかかりますからなぁ……」

 

「赤字にならないように頑張らないとねぇ……」

 

野草のスープでも思い出したのか、苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべるお姉さん達に何も知らない後輩冒険者達は小首を傾げた。そうこうしているうちに18階層に到着。『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』を照らす水晶の輝きが陽の光のように眩しく、一同は身体をぐっと伸ばして新鮮な空気を吸い込み張っていた緊張を解いた。そのままゆっくりと草原を進んで、リヴィラより下にある湖を目指す。モンスターは食料のある大森林へ行くため襲われる心配は少ないからだ。

 

「このあたりで天幕(テント)を張って、休憩にしましょ」

 

アリーゼの提案に全員が笑みを浮かべて、頷く。

それぞれが分担して天幕を張り、薪を集めて焚火を設置する。

野営の準備を終えて、留守番をつけて、リヴィラへ行き食材を買いに行く。暗くなったなら少し酒も入れてちょっとした宴をするのもいいかもしれないとそんなことを考える。地上とは違いぼったくりもいいくらいな値段を吹っ掛けられるが、そこは要交渉。間違っても暴力や脅迫なんてしないよ? 本当だよ?

 

 

「あん? 高すぎる? じゃあ他をあたんな。こっちじゃこれが正規料金だ。どうしてもってんなら……ごくり。わかってんだろ?」

 

「へへ、姉ちゃん達階層主を倒して来たんだろう? んじゃあ、ドロップアイテムとか……あるよな? そ・れ・か、あれだなぁ。そのあんたらの良い身体でご奉仕してくれりゃあ……安くしてやっても……へへっ」

 

「いやぁー、さっすが【アストレア・ファミリア】だ! 信じてたぜ、お前達なら『アンフィス・バエナ』だってちょちょいのちょいってな! チッ……なんで濡れ透けで帰ってこねえんだ、わかってねえなぁ……あ? マケて欲しい? お断りだな。お前達は俺の性癖を裏切った。ぜんっぜん、わかってねえ」

 

「ねえ僕ぅ、お姉さんのところでよかったらぁ、今夜、寝床をかしてあげるよぉ~?」

 

「「「「は? そういうのはナシ? じゃあお前等、ただの雌ゴリーーーーー」」」」

 

 

刹那。

正義の戦乙女達の拳、膝、罵声がならず者たちの身体と心を襲った。

 

 

ステップ1.腕を背にもっていき捻る。

 

「ああああああああああああああああああッ!? 腕が、腕がぁあああああ!? 関節、関節ぅううううううう!?」

 

「何か言ったか、租チンがぁあああああああ!!」

 

「あああああああああああああッ!? やめてぇええええ!?」

 

「貴様、2か月前に歓楽街で娼婦共に笑われていた奴だろうがぁあああああああ! 女も悦ばせられん奴が、なーにを期待している!!」

 

「ああああああああああッ、やめてっ、リアルなの、やめてぇえええええ!?」

 

「聞いたぞ、奥まで届かない上に太いわけでもなく、とっとと果ててしまうと!」

 

「ぐへぁああああああああああああッ!?」

 

 

ステップ2.助走をつけて飛び蹴り。

 

「ぐっへぁああああああああああああああッ!? それ、ドロップアイテムじゃねえ、ドロップキックぅうううううう!?」

 

「昇華を果たした美女のご奉仕(ドロップキック)よ! なにが不満なのかしら!?」

 

「次、いっくよぉー!」

 

「いやあぁあああああああああこないでぇえええええええええええ!?」

 

 

ステップ3.湖へ連れて行き、背を押し、頭をヨシヨシ。

 

「ごぼぼぼっぼぼぼぼぼッッ!? ゴボォオオオオオオオオオオッ!?」

 

「え? 火照った体に丁度いい冷たさ? 安心して、今だけはここ、プライベートビーチだから!」

 

「ごぼぼぼぼぼぉおおおおおおおおおおッ!?」

 

「ほら、ちゃんと全身濡れておこ? 濡れてないと痛いんだよ?」

 

「ボォオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

「ほーら、頭ヨシヨシしてあげるわねー」

 

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

 

ステップ4.身ぐるみ剥いでお姉さんを外出させる。

 

「待ってお願い許して謝らせてください! だからお願い、外に追い出さないでぇ!? せめて何か着させてぇ!?」

 

「チッ、仕方ねえなあ……お、なんだよ良いベッドじゃねえか。ほら、これやるよ」

 

「……ってこれ、ベッドのシーツぅううううううううう!? 新品のやつぅううううううううう!?」

 

「わざわざダンジョンにこんな上質なベッドを持ってきたのですか? その努力をダンジョン探索に向ければいいものを……同じ同胞として失望を禁じ得ない」

 

「おいリオン、ここで兎に可愛がってもらえよ」

 

「は?」

 

「あ、可愛がる側だったか? 悪い悪い、お前はてっきり徹底的に躾けられるタイプだとばかり思ってたわ」

 

「ねぇえええええええええ、お願いだから私のベッドで男とヤろうとしないでよぉおおおおお!? 匂い染み付いたら嫌なのぉおおおおおおおお!」

 

「同胞、ベルに手を出そうものなら神々を敵に回す覚悟をしなさい。いや、それ以前に私達が彼の操を守る。決して、決してどこの馬の骨とも知らない女に手を出させはしない!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいい!?」

 

 

結果。

リヴィラの者達は笑顔で食料や酒の類、なんなら身体が冷えないようにと毛布なんかも格安で譲ってくれた。正義の戦乙女達は親指を立ててサムズアップ。

 

 

「「「商談成立☆」」」

 

「「「「「怖ぇええええええええええええええッ!?」」」」」

 

これがリヴィラでの作法よっ、バチコン☆するお姉さん達に後輩達は恐怖を覚えた。怒った美女は怖いというが、伊達に昇華を繰り返しているだけあるのか余計に怖かった。リヴィラの連中もよくもまあそんな彼女達に吹っ掛けるようなことができたなと呆れを覚えた。

 

「ベルお前、大丈夫なのか!?」

 

「え?」

 

「ああ、困ったことがあれば……言ってくれ。同じ男としてお前の待遇に妬ましさを覚えていたが、取り消す! 俺はお前の力になるぞ!」

 

「ああ、俺もだ!」

 

「え……えぇ?」

 

鬼気迫るような桜花とヴェルフがベルの身を案じてそんなことを言う。美女に囲まれた生活。嬉恥ずかしイベントもきっとあって、良い思いもしているのだろう……なんて羨ましい。事実、世の男達が血涙を流し呪詛を吐くようなことは確かにあるが、そんなことはヴェルフ達が知る筈もない。こんな心優しい弟のような少年が、美女の皮を被ったゴリ……もとい、強者に痛めつけられていては目覚めも悪い。男2人は強い決意を抱いたように叫んでいた。ベルは、ただただ困惑した。

 

「アリーゼさん達は………すごく、優しい、よ……?」

 

「「嘘だッッ!!」」

 

「おいそこの2人。言いたいことがあるなら聞くが?」

 

「「何もッ、ないッ! ベル、お前だけが頼りだ、頼んだぞ!」」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

そして秒でベルを強者(おねえさん)達に売った。

哀れ、白兎は輝夜に掴まりガッチリと後ろから抱きしめる形となった。そして夜が訪れ食事を終え、それぞれが天幕に消えていって少しした頃にはやっぱりと言うべきか抱き枕にされていた。

 

「輝夜、脱がなくてもよくない?」

 

「……暑い」

 

「ベルを離せばいいじゃん」

 

「断る」

 

「むぐぅ……」

 

 

朝が来て、瞼を開ける。

目の前にあるのは一糸纏わず眠る極東美人のたわわな果実。彼女の香りと温もりと女体の感触に悶々としていればベルの身じろぎに歴戦の冒険者である彼女はすぐに瞼を開いて微笑を浮かべると、ぐいっと抱きしめる力を強めて密着しているにも関わらずさらに密着し、柔い乳房にベルの顔を沈ませた。そのまま輝夜の細指がベルのシャツの中に潜り込んできては這い回り、下へ下へと移動する。くすぐったくて震え、悶えているとそんなベルにスイッチでも入ったか輝夜はズボンに指を引っかけた。ああ、朝から、近くに皆いるのに…されちゃうんだぁ……なんてベルが思い始めたところで、寝ぼけた輝夜の悪戯は終わりを迎えた。

 

「はい起きる!」

 

ドゴォッと輝夜の脳天にリャーナの拳がぶち当たった。

「ふぎっ!?」と無様な悲鳴を漏らして輝夜の動きが完全停止。そして手で頭を摩りながら、輝夜の後ろで眠っていただろうリャーナに非難の目を向ける。

 

「場所をわきまえなさいよ。ここ一応ダンジョンよ?」

 

「ダンジョンでだってヤろうと思えばヤれるだろう……っ」

 

「睨んでもダメなものは、ダメ」

 

「リャーナ、お前も野外プレイくらい興味あるだろう!?」

 

「……………ううん、でもやっぱり、すぐ近くに他派閥の子がいるんだから自重して。ベルが可哀想よ」

 

「くぅ………思い切り殴って……」

 

「ほら早く着物着て、顔洗いに行く」

 

「はいはいかしこまりました、直ちに致しますとも」

 

「ベル、先に外に出てもいいわよ。顔真っ赤よ?」

 

「だ、大丈夫……大丈夫です……別に輝夜さんの柔らかいのに動揺とか、ズボンの中に手を入れられそうになってドキドキしてたとか、ないですから……」

 

「………ふぅん」

 

「あらあら、殿方は朝からご子息がヤンチャで大変ですなぁ……まぁ? せいぜいそこで私の生着替えに胸を高鳴らせておいてくださいませ?」

 

「輝夜はむしろ見てみたいなポーズしないで」

 

脱ぎ散らかした着物を拾い上げて輝夜が着替えを終えるとリャーナに手を引かれる形で天幕の外に出る。天幕の中の温かく女性の香りが籠った空気ではなく少しひんやりとした空気が肌を撫でて火照った顔が冷めていくのを感じるベル。

 

(輝夜さんの……また少し大きくなってた……っ)

 

チラッと左手を握っている輝夜の胸元に視線が行く。

そんな弟分の視線などすぐにわかるのか、輝夜は緋色の瞳を細め、怪しげな笑みをベルへ向けた。ベルはぷいっと羞恥を誤魔化すように右手を握っているリャーナの方を向くと、リャーナはジトっとした目をしていた。

 

「兎って常に発情期なのね」

 

「怒ってますか?」

 

「いいえ、怒ってないわ。呆れているの」

 

「うっ………」

 

「輝夜ばっかりに夢中にならないでね」

 

「へ?」

 

「ほら、顔洗いに行きましょ」

 

ぎゅうっと強く手を握られて、湖に連れて行かれる。

遅れて別の天幕からリューの悲鳴と嬉々としたアリーゼの声が姿と共に飛び出してきたが、何があったのかなんとなく想像しつつも関与はしない。

 

「アリーゼ、いい加減私に抱き着いて眠るのをやめなさい!」

 

「いいじゃない、リオンってば体温高めでちょうどいいのよ! あと寝顔が可愛いわ!」

 

「だからといってあちこち触ろうとする必要はないはずだ!」

 

「いいじゃない、リオンを堪能したかったんだから! お返しにリオンも私に抱き着いてもいいのよ、ほらっ! カモン!」

 

「カモンではない! いい歳をして……恥ずかしくはないのか!」

 

「まったく、恥ずかしくないわ!」

 

ほらね、というようなやり取りが耳朶を震わせる。

姉達と隣り合って冷たい水で顔を洗ってタオルで拭う。そして焚火の前に座り、全員が揃ったところで朝食を。

 

「朝から元気だな、あんたら」

 

「元気なのはいいことよ!」

 

「それで、今日はどうするんだ? このまま帰るのか?」

 

「そうね。目的は達したし……」

 

ヴェルフから始まり、ネーゼが問う。

階層主を倒すという目的は終わったのでこのまま帰ろうと言おうとしたところでリヴィラの方に顔を向けながらアリーゼは言葉を止めた。そんなアリーゼに首を傾げるのは後輩冒険者達で、【アストレア・ファミリア】の仲間達はアリーゼと同じ方へ顔を向けて目を細めた。

 

 

「………リヴィラから煙が上がってる?」

 

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