アーネンエルベの兎   作:二ベル

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番外なら過去話としても出せるしギャグ時空にもできる。やったね



死ぬ気で羽子板をやれ。
負けたら太腿に『正』を刻む。


番外:新年の話

 

 

 

「はぁああああああああああ!!」

 

正義の使徒が繰り出す数多の弾丸、それを金魚を掬うが如く拾い、されど鉄槌のごとき打撃をもって反撃となす。全てを薙ぎ払う福音さえ轟いているのではと勘違いさせるほどの打撃音が、響き渡っている。

 

『英雄』だった。

その力は。

その強さは。

その御姿は。

『死の病』に侵されてなお―――誰よりも、『英雄』だった。

 

「羽根! 打ちまくれ! 火力を途切れさせるんじゃねえ!!」

 

「攻めろ! 守るな! 真裸(まはだか)の打ち合いだ!! 怯めば死ぬぞ、逃げるは恥ぞ!!」

 

ライラが叫び、輝夜が吠える。

その体を墨と傷で汚し、なおも猛りながら、眼差しの先で轟音轟かせる魔女を見据える。

 

「今日という今日こそは、勝利をもぎ取り、あのクソババアに恥をかかせてやる!」

 

輝夜の決意に、正義の使徒達はもう投げやりな咆哮をもって呼応した。

 

「背を見せてはならない……! この相手だけは!!」

 

疾る。

妖精が二振りの()()()を持ち、緑光とともに駆け抜ける。

唇を小さく開けて欠伸をする『英雄』から目を逸らさず、背を向けず、正面から立ち向かう。

 

「この新年最初の日に勝てば……きっといい滑り出しになるに違いないのだから!!」

 

加速する。

全ての景色が。

羽子板も、羽根も、羽子板も、羽根も。

閃光も、衝撃も、轟音も、咆哮も。

意志さえも。

新年一発目に全身全霊をもって、正義の使徒は、『英雄』に向って加速する。

 

 

「おかあさん、がんばれー!」

 

「み、皆、頑張って!」

 

全てが加速し、白熱するその光景は、流星の輝きにも似ていた。

立ち塞がる『英雄』に対して気炎をまき散らす『小娘共』のきらめき。

光の尾を曳いて駆け抜ける、星の軌跡。

 

「アリーゼ……みんな……」

 

兎と幼女と女神は安全地帯よりその光景を見守った。

 

 

「どうした? いつになったら私から『一点』を掴み取るつもりだ、小娘共?」

 

「く、くそがぁ……!」

 

愛息子の「がんばれ」が聞こえたか、口角をわずかに上に上げた『英雄』が文字通り目にも止まらぬ挙動をもってして羽根を打ち返す。

 

ドゴォッ!!

 

「ぐはっ!?」

 

「ラ、ライラァーーーーー!?」

 

小人族(パルゥム)の頬に文字通りめり込んだ羽根が、彼女をそのまま吹っ飛ばし仲間達は一番最初に脱落した参謀に悲鳴を上げた。

 

「余所見とはずいぶん余裕があるな?」

 

「ヒッ!?」

 

ドゴォッ、ドゴォッッ!!

 

次にやられたのは人間(ヒューマン)のノインと狼人(ウェアウルフ)のネーゼだった。

右肩に直撃し、そのまま吹っ飛ばされ。

ライラから振り返ったところに額に当たり仰け反ったように吹っ飛んでいく。

ほぼ同時、二人脱落(ツーダウン)

意識さえも刈り取られている。

 

「な、何が起きてるの? お義母さん動いてないのに、お姉ちゃん達が吹っ飛んでく……!?」

 

「あの人……強い……お父さんみたい……ごくり」

 

「【剣姫】には見えているの?」

 

こくり、と頷くは金髪金眼の幼女。

頑固頭+勉強強制+母親面女王族妖精(リヴェリア・リヨス・アールヴ)から逃げおおせた彼女はこの日、「白兎(あのこ)のところに行ってみよう」とベルのいる【アストレア・ファミリア】の本拠に足を運んでいた。するとどうだろうか、とんでもねえことが起こっていたのだ。

 

 

「いやぁあああああああああああ!?」

 

「打たないでぇえええええええええ!?」

 

はっとなって戦場に視線を戻すと、ライラ、ノイン、ネーゼと来て既にアスタとリャーナ、セルティが倒れ伏しイスカとマリューが小さく丸くなって防御態勢。が、そんなもの魔女には関係なかった。

 

「貴様らが始めたことだろう。108回、【サタナス・ヴェーリオン】を撃ち込み煩悩を祓うか?」

 

「「「普通に死ぬから!!」」」

 

そう言った直後、ドゴォッ!!と轟音が鳴り響くと彼女達はポトリ、と実った果実が地面に落ちるように崩れ落ちた。アストレアは決して口にはしないが、打ち取られた少女達の亡骸――生存しているが亡骸にしか見えない――はどう足掻いても「ヤムチャしやがって……」と神々だからこそ言いたくなるような体勢だった。残ったのは、アリーゼ、輝夜、リューの三人。

 

「輝夜、無事……?」

 

「これが無事に見えたら、団長の目は大概節穴だな……」

 

「なんだかわからないんだけど、もう私、お嫁に行ける気がしないわ……! もうどんだけ書かれたと思ってるの、この『正』って落書き。意味はわからないけど、ルールとはいえ、何か大切なものを失った気がするわ!」

 

「ア、アリーゼ、輝夜……」

 

「もう終わりか、小娘共。まだ……()()ももっていないぞ?」

 

「化物め……!」

 

「持久戦に持ち込めば勝てると思ったというのに……!」

 

 

もうだめだ、お終いだ。

そう思った時だった。

魔女が口を覆って咳き込んだのは。

 

「がはっ、かはっ……! ぐふっ―――!!」

 

「お、おかあさん!」

 

持病の発作とでもいうべきか、咳き込むアルフィアのもとへ反射するように「あぶないよ」と止めようとするアイズそっちのけでベルが駆け寄って背中を摩る。生き残りの少女(アリーゼ)達は、時間切れを感じ取り連打の最中、まだ自分達の元へ向かって飛んでくる羽根から意識を反らさず、アルフィアに、真摯に、訴えた。

 

「アルフィア……降参して。私達が1()1()()()()()()()()()()()()()()という大人げないことをしたことは申し訳ないとは思うけれど、新しい年を迎えていいスタートを切るにはこれしかないって思ったの。だから……降参して。()()()()()()()

 

アストレアは頭が痛くなった。

どんだけ勝ちたかったのよ、と。日々辛酸をなめさせられているとはいえ、どうしてそうなったのと改めて問いたいくらいには。というか、もう、なんていうか、『正義』の眷族としてどうなのかという根本的なところである。

 

「降参……降参か」

 

咳が収まったか口を拭って、耳打ちしてキョトンとするベルに「危ないから離れていろ」と頭を優しく撫でると魔女は再び立ち上がった。三つの羽根は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――貴様等『雑音』は、どこまで私を『失望』させれば気が済むのだ!」

 

次には多大な『魔力』とともに、怒りを発露させた。

 

「がっ!?」

 

「舐めるな、つけ上がるな、いくらこの身が痛苦に喘ごうとも、貴様等を葬るなぞわけないぞ!」

 

打ち返された羽根がリューの胸を直撃し、沈める。

 

「それに何を勘違いしている? 貴様等が何をしてでも私に勝つと言うからそれに付き合ってやっているに他ならん! 遊びの時だけ本気になるな! 普段から本気を出せ! ―――今も『息子(ベル)』が、期待の眼差しで私を見守っているだろうに!!」

 

二つの羽根を連続して打ち返す。

魔力をたっぷり込めた渾身の一撃。

それらがアリーゼの鳩尾に、輝夜の腹にめり込み、吹っ飛び、痛苦の喘ぎ声を上げさせる。脂汗を滲ませる二人は、なんとか意識だけは手放してなるものかと魔女を見上げ文句あり気に睨む。

 

「「こんの…………親バカがぁ……!!」」

 

団長と副団長の二人だけがなんとか意識を残すことだけに成功。

しかし、もう動けなかった。

試合終了だとアストレアとアイズがやってきたが、辺り一面は窪地(クレーター)だらけであり、まるで流星群がそのまま落ちてきたのではと言いたくなるほどだ。アストレアは「庭の芝生が全て無くなってしまったわ……」と悲し気に瞼を閉じ首を横に振る。アイズがアリーゼをつんつんと突きながら「大丈夫?」と問うもアリーゼは無理っと口を動かすこともままならずにぷるぷると震えている。そして、輝夜は吐いた。

 

 

「――――おぇっ」

 

「やぁああああ!?」

 

「か、輝夜!?」

 

腹にぶち当たった羽根がそのまま体内に衝撃を巡らせ、今朝の朝食をリバースさせてしまっていた。口から吐き出されるのは溶けてはいるがまだわずかに残っていた白く、丸いモノ。餅だ。悲鳴をあげるベルはしかし、その白い物体を見た瞬間、意識が過去へといざなわれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいかベルよ、七つの不思議ボールを集めると、どんな願いでも叶えられるんじゃ」

 

「どんなお願いも?」

 

「どんな願いも……なっ!」

 

それはまだアルフィア達の生活が始まったばかりの頃。

ゼウスに聞かされたその話は、ベルが読んだ御伽噺の中には出てこない話であり、ベルはすぐに喰いついた。ベルがアルフィアにベッタリでじいちゃん寂しい!というゼウスなりのアルフィアへの抵抗であった。

 

「まず、女子(おなご)は確定……ロキはないな、うんな板に乗ったレーズンみたいなもんだしなあ……ん? ああ、なんでもないぞい。とにかく、女子(おなご)は確定で二つは持っておる」

 

「じゃあ女の子はお願いを叶えてくれる凄い人なんだ!」

 

「うむ! もちっとして、むにっとして、すんっごいぞぉ!」

 

「へぇえええ!!」

 

「昔からな? 儂らの間では、つっかもうぜ! っちゅーフレーズが熱いんじゃ。よいかベルよ、どんな願いでもベル、お前自身が掴み取らねばならんのだ」

 

女子(おなご)の乳房もやさしーっく掴まねばならん……そんな小さな呟きはキラキラ瞳を輝かせる純粋な白兎には聞こえていない。

 

「へぇー! でも僕、何をお願いすればいいのかわからないよ? お願いってどんなお願いをすればいいの?」

 

「ふむ……いいか、ベル」

 

大きな手を小さな頭の上に乗せてゼウスは言う。

 

「他人に意志を委ねるな。精霊だろうが神々であろうが同じだ。ましてや儂は何も言わん」

 

「おじいちゃん?」

 

「誰の指図でもない、自分で決めろ。 これは、お前の物語(みち)だ」

 

「!!」

 

顎髭を揉むゼウスは一拍置いて、でもアドバイスくらいはしてやるぞ、と願いの一つをニカッと笑いながら言った。

そして吹っ飛んでいった。

 

 

「ギャルのパンティをおk――――」

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

そこでベルの記憶の再生は止まった。

そして意識は現在へと戻る。

 

 

 

「アストレア様!」

 

「ど、どうしたのベル?」

 

「ぼく、『正義』が何かわかったかもしれません!」

 

「えっ……?」

 

今までの攻防(やりとり)の中に何か気付きを得るような要素があったのかしら? 一応病人の貴方のお義母さんに集団リンチして返り討ちにあうシーンしかなかったと思うのだけれど。と心の声が言っているが、相手は七歳の少年だ。大人には見えない何かがあっても不思議ではないのだろう。そう思ってアストレアは眷族達に回復薬(ポーション)をかけてやると、ベルへと振り返って「じゃあ、教えてもらえるかしら?」と同じ視線の高さになって問うた。

 

 

「『正義』とは」

 

「せ、『正義』とは?」

 

 

深紅の瞳をキラキラさせて、テストの問題が解けたようにニコニコした可愛らしい笑顔。

そんな七歳少年の姿を女神と魔女と幼女が静かに見守り、解答を待つ。

 

「―――『掴み取る』ことです!」

 

「ちょっとまって、本当に今までの一連の流れでどうしてそこに至れたの!?」

 

アストレアは困惑するばかりだった。

 

「―――私は何か育て方を間違ったの……か?」

 

アルフィアもまた、困惑した。

ドヤ顔をする可愛らしい白兎に何も言い返せない女神と魔女。幼女はいつの間にか現れた翡翠色の王族妖精様に「アイズ! 逃げるな!」などと言われながら引きずられ、消えていった。五分ほど経ったころだろうか、いや、正確にはさほど時間も経ってはいないが、それくらい経ったように感じるほどの間が空いた後、ひゅうぅ~と風が吹き、「くしゅんっ!」とくしゃみをしたベルに二人がハッとなって現実に引き戻された。

 

「さ、さあベル? 風邪を引いてはいけないから中に入りましょうか」

 

「え、でも、おねえちゃん達が……」

 

「気にするなベル、冒険者というのは黒き生命体(G)並みに生命力が高いからな、伊達に『抗争』を乗り越えてはいない」

 

「今まさに私達の本拠は『抗争』が起こったんじゃないかというほどに荒れ果てているのだけれどね? 一体誰に頼めば失われた芝生を直してくれるのかしら」

 

「小娘共の芝でも植えれば良いのではないか?」

 

「………貴方でもそういうこと、言うのね」

 

 

アストレアがすっかり冷えてしまったベルの手を握り、アルフィアと共に本拠の中へ引っ込んで行った。『正義』の眷族達は一人、また一人と蘇生……というよりも、まるで墓地から出てくるゾンビの如く起き上がり、死んだ目をしながら互いを見合い、深い溜息を吐いて怒りを爆発させた。

 

 

「「「「誰よ、新年だから『羽子板』でアルフィアを負かすって言ったのわ!!」」」」

 

視線が一点に集められるその場所には、珍しくいつもの緋色の振袖を無残に汚す輝夜。

 

「……『極東』の、異国のものならさすがのあいつも知識がないと踏んだまでだ」

 

「「「「私達も知らないんだけど!?」」」」

 

「ちゃんと教えただろう……ダンジョンで」

 

「「「「そもそも、この『羽子板』と『羽根』、おかしくない!? 木材から鳴っていい音じゃないんだけど!?」」」」

 

「……魔力伝導率の良いミスリルを素材にしている」

 

「「「「馬鹿ァァ!!」」」」

 

 

☆『羽子板』

 ・ミスリルを素材に製作。

 ・木材に見えるように職人拘りの徹底加工。

 ・任意で殺傷能力を増幅させる特殊玩具(スペリオルズ)。使い手の魔力を注入することでショット時の威力が上がる玩具と言い張っているだけの武器。

 

☆『羽根』

 ・ミスリル、歌人鳥(セイレーン)を素材に作成。

 ・ミスリルを玉状に加工した後、黒に染色したゴムで覆うことで極東の『羽根』っぽく作成。

 ・『羽子板』から『羽根』へと魔力が伝わることでショットの瞬間、爆発的に、というか爆発して飛ぶ。

 ・風切り音はまるで歌人鳥(セイレーン)の断末魔のよう。

 

【ゴブニュ・ファミリア】作。68000000ヴァリス×12

製作者より一言「遊びで使うんだよなあ!? これもう、大砲の玉を小さく加工しただけじゃねえのか!? 【アストレア・ファミリア】は馬鹿なのか!?」

 

 

 

「まさかのアーディの剣と同じ価格であることに驚きを隠せない私がいる!!」

 

「待ってリオン、驚くのはまだ早いわ! それが12人分よ!? いったいいくらなのよ!? 破産するわよ!? 私の全財産6000ヴァリスなんだけど!?」

 

「いいやアリーゼ、『打倒アルフィア貯金』はみんなでコツコツ貯めてきたんだ。今回で全部蒸発したのは確定だ!」

 

「ち、ちなみに輝夜ちゃん……このお値段って羽根と羽子板セットでの価格よね? そうよね!?」

 

「…………羽根は、198000ヴァリス×12」

 

「「「「まさかの羽根の方が安い!?」」」」

 

「くそ、ふざけやがって……もうこれ、玩具じゃなくて武器じゃねえかよ……余裕でモンスター殺せるぞ……! 『抗争』の時にこれがありゃあ……!」

 

「いえライラ、落ち着いてください。それだとシリアスがシリアルになってしまいます。想像してみてください、闇派閥相手に羽子板片手に羽根を打ち込む冒険者を」

 

「………くそ、駄目だ、笑えて来た」

 

 

『打倒アルフィア貯金』。

アルフィアに勝つためにあらゆる手段を講じる少女達は、派閥としての運営資金とは別に貯金を貯めていた。上位経験値であるアルフィアに、一本も取れずにいる少女達は例え実戦であろうとも遊びであろうとも、本気だったのだ。しかし、今回の新年一発目の戦いでその貯金は既に蒸発していた。

 

 

「皆にはちゃんと相談して許可は得たはずだろう」

 

「そりゃあ……いきなりお風呂上がりの恰好で、「皆、次の戦は何にするか決まったぞ!」とか言われたらねえ」

 

「よっぽど自信あったんでしょうねえ……おっぱいぷるぷるさせて、水滴らせて、びっくりしちゃった」

 

「リャーナさんに髪を拭いてもらってたベルも鳩が豆鉄砲を食ったみたいに固まってましたからね」

 

まるで天啓を得たかのように、身体もろくに拭かずに素っ裸で皆がいる団欒室に駆け込んできた輝夜に皆が凍り付いた。身体から湯気を上げ、たわわに実った乳房を揺らし、水滴を飛ばし、羞恥心などどこかに捨ててきた!と言わんばかりの輝夜に誰もが言葉を失った。これは勝てる!とドヤ顔すらしていた。下着姿でうろつくことは日常的にあるものだから誰も何も言わないが、風呂上りに全裸で走って来るとはさすがに思わなかったのだ。少女達も子兎もぽかーんとした。あれよあれよろプレゼンテーションまでされ、「いいな!?」と皆の承認も得ていたが、誰もそんなのは覚えていない。だって、輝夜がドヤ顔でずぶ濡れで全裸だったのだから。

 

「リオンですら服を着ろとはあの時言わなかったもんな」

 

「いや、あの、急すぎて」

 

「「「わかる」」」

 

でも負けたんだよな。というネーゼの言葉に全員が項垂れた。

どうすればラスボス(あいつ)に勝てるんだよ、とばかりに項垂れた。輝夜以外の少女達ですら『羽子板』の扱いに数日を要したというのに、アルフィアはたった()()打ち合っただけでマスターしてしまったのだ。アルフィアには見られないように、情報を与えないように、初見殺ししてやる意気込みで徹底していたというのに……だ。羽根を落せば、太腿に一本ずつ線を引き『正』という文字にしていくという嘘ルールまで使ってアルフィアに恥をかかせてやろうと画策したというのに、返り討ちである。もう既に全員が全員、『正』が複数あった。その意味を輝夜から聞かされた彼女達は顔を真っ赤にして地面を乱打。大慌で消した。

 

「私まだ男性経験ないのに、これじゃあ」

 

「ただのアバズレじゃん!!」

 

「【イシュタル・ファミリア】のアマゾネス達に見られたら絶対、「へぇ、アンタラ都市の秩序を維持しているわりには股間の風紀は守れていないんだねえ」とか言われるに決まってる!!」

 

「「「いやだぁあああ!!」」」

 

「悔しい……悔しいよぉ……」

 

「貯金溶かしたのに……」

 

「なあアリーゼ、今回、何か成果は……あったのかなあ」

 

「ネーゼ……成果、成果ね……」

 

ふふっ、おかしなこと、言うのね! そういうアリーゼは皆の方へと向き直って土下座のポーズをとって叫んだ。

 

「何の成果も、得られませんでしたァアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

×   ×   ×

 

 

「賑やかね、あの子達……あれが若さというものなのかしら?」

 

「お義母さん、寒くない? 大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。ほら、お前も手がこんなに冷えて……また体調を崩すぞ?」

 

「うーん」

 

パチパチと心地よい音を鳴らす暖炉から温もりを得ながら、一柱と二人はココアをこくこくと飲んでふぅ、と息を吐く。庭に積もっていた雪でベルと遊ぼうと思っていたアストレアはすっかり雪が消えてしまったと改めて窓から映る景色を視界に映すと口角を引き攣らせた。

 

「私は謝らん」

 

「あの子達が提案したことだし、貴方もそれを受けた。両者が納得してのことなら私も文句は言わないけれど……お願いだから【ファミリア】で命のやり取りはやめてくれると助かるわ」

 

「善処する」

 

「ぜ、善処……」

 

「命を賭さねば、ランクアップなど夢のまた夢だ」

 

「そうかもしれないけれど……はぁ……あら、ベル、どうしたの?」

 

このままではいずれ本気の殺し合いになるのでは、と一抹の不安を胸に抱くアストレアは「まあしないだろうけど」としつつも長椅子(ソファ)を飛び降りて窓のほうへ走り外を眺めるベルに意識が向いた。それはアルフィアもまた、同じだった。

 

 

「アリーゼさん達、いなくなっちゃった」

 

 

 

「―――何だと?」

「―――何ですって?」

 

 

 

数時間後。

ベル、アストレア、アルフィアは『円形闘技場(アンフィテアトルム)』にいた。

 

 

 

『あー、あー、テステス! 会場の皆ー! 聞こえるかなぁーーーーーーー!?』

 

「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 

熱気と絶叫が闘技場全体を越え、都市内を震わせる。

『抗争』の後始末もあってか、まともにイベントというイベントもなかった神々も市民も冒険者も突如行われることになったビッグイベントに興奮を隠せないでいる。魔石製品(マイク)片手に大声をあげる薄青色の髪のアーディが実況を務めていた。

 

 

『では改めまして皆さん、こんにちわ! 今回の『新春!【ゼウス】と【ヘラ】どっちが強いの!?』対決の実況を務めさせて頂く【ガネーシャ・ファミリア】所属、品行方正で人懐っこくてシャクティお姉ちゃんの妹でイベントの発起人【アストレア・ファミリア】の親友のアーディ・ヴァルマだよ! じゃじゃーん! あ、二つ名は【象神の詩(ヴィヤーサ)】、知らない人は覚えていってね!』

 

オラリオに悲しい爪痕を残した『抗争』はしかし、まったく強力してくれないどころか戦ってもくれないLv.7の二人によって陰ながら調整されていた。『覇者』と『魔女』が率先して戦いに参加しなかったのは、いずれ二人がこの世を去ることはわかり切っていることでその時、自分達の力で守り抜けるのか? まさか死者に助けを求めるようなことはしないだろうな? という理由からである。しかし、【勇者】のように頭のキレる者や神々には二人が誰にも気づかれずに暗躍し、絶妙に戦力バランスをとっていたことは知られており、そういった限られた者達にはこの『抗争』を「バランス調整されたゲーム」とまで評されている。それでも何も知らない者達からすれば二人のことを「どうして助けてくれないの」とよく思っていない者がいるのも当然で、そして娯楽に飢えてしまっていた彼等彼女等は乾いた喉を潤すようにこのような催しに喰らいついていた。

 

「………くそ、なぜこうなった」

 

「あの小娘共……溶かした金を私達を見世物にすることで取り戻そうとしているな?」

 

「アルフィア、何があった」

 

「なにもかもだ」

 

「…………」

 

とはいえ本人達にとっては、いい迷惑でしかないのだが。

友でもなく同じ派閥の人間ですらなく、無理矢理言うのならば『叔父』と『姪』のような、年齢が二回以上も離れた腐れ縁の二人。その二人が、闘技場の中心に用意されたコートに立たされ完全な見世物にされていた。青筋を立てて苛立ちを隠さないアルフィアと深い溜息を吐くザルド。ザルドはここに来るまでの一連の流れをおおよそ知っている。というか、リヴェリアに引きずられて戻って来たアイズに「あのおばさんまじやば」と命が惜しくないのかと言いたくなるような言葉を聞くわ、その後にやってきた【アストレア・ファミリア】の少女達が「ザルド叔父様~たすけて~」などとゴマすりをしてきたのだから嫌でも知っている。そして、運が悪いことに悪ノリしたロキに、任せろとばかりにすべての準備を整えられた。ジェバンニが一晩でやってくれましたどころのスピードではなかった。ロキからフレイヤ、フレイヤからガネーシャ及びギルドへと情報が伝達され、あれよあれよと今に至る。

 

 

「これ、木材ではないな?」

 

「…………」

 

「ミスリル製……お前、これでやりあっていたのか、小娘共と」

 

「年若い小娘共に猫なで声されて鼻を伸ばすな、気色悪い」

 

「待て待て待て、俺は鼻なんて伸ばしていない。第一、歳が離れすぎだ。さすがに「これが新手のおやじ狩りか」と思ったほどだ」

 

 

縦8m、横4mのコート。その中央にはネットまで張られている。所謂、テニスと同じものが用意されていた。

漆黒のロングドレスを纏うアルフィアと恐らくは若輩達に手ほどき、或いは特訓に付き合っていただろうせいか全身鎧を着たままのザルドの、二人の手にはそれぞれアリーゼ達が使っていた『羽子板』が握られていた。

 

 

『さあ、二人が羽子板を持つとどうしてかあれだけで階層主を倒せそうな気さえしてきたよ! アリーゼ達【アストレア・ファミリア】では落としたら負けというルールだったみたいだけど、LV.7相手にそれは通用しないと思うんだ! というわけでガネーシャ様達による協議の結果決められたルールは【先に10点取った方が勝ち】というシンプルなもの! Lv.7の二人の試合なんてそうそう見れない! そうだよね、みんな!』 

 

興奮するアーディに観客達もまた興奮を隠さず呼応する。

そしてアーディに「ガネーシャ様、何か一言!」と言われて闘技場最上部の賓客席にいるガネーシャが立ち上がり叫ぶ。

 

「俺が! ガネーシャ、ダァッ!!」

 

『はいありがーございましたー!』

 

 

会式の言葉もそこそこに、観客達は勝手に飲食類まで持ち込み、賭けまで始めて会場の興奮度は最高潮に。そしてもうこれは逃げようがないと諦めたザルドのサーブから始まった。

 

「加減は……しないぞ、アルフィア!」

 

羽根を宙へと投げ、叩きつけるように撃ち出されたサーブ。

大砲でも撃ったのではないかというほどの爆音が轟き、衝撃が闘技場を揺らした。

それをアルフィアは「やかましい」とばかりに舌打ち、下から掬うようにザルドのいない位置へと打ち返した。Lv.7同士の激戦はここに開幕した。

 

 

 

「叔父さんとお義母さん、どっちが勝つんだろう」

 

「ベルはどっちに勝ってほしいの?」

 

「お義母さん!」

 

「じゃあアルフィアを応援しましょう」

 

「はい!」

 

主催者だからなのか、その関係者だからなのか、賓客席にはガネーシャの他に、ロキ、フレイヤ、アストレア……そしてベルがいた。ベルまでこの場にいるのは、アストレア以外に見ててくれる人間がいないためだ。アリーゼを中心とする【アストレア・ファミリア】の女傑達は今、会場内で発生する迷子や窃盗などに目を光らせ常に動き回っており、とてもベルの相手をする余裕などない。

 

「ふふ、ベル、ポップコーンはいらないかしら?」

 

「えっ」

 

「コーラもあるわよ?」

 

アストレアにくっつくように座って見えもしない『覇者』と『魔女』の戦争(おあそび)に瞳をキラキラさせるベルに煽情的な衣を纏うフレイヤがニンマリと微笑みを浮かべて近寄る。アルフィアの教えからか美の女神に警戒するベルはぎゅっとアストレアの身体に抱き着いた。

 

「……私、何かしたかしら?」

 

「自分がほいほい手出そうとするん、純粋なチビッ子達にはわかるんちゃうか? ほら、小さい子って幽霊とか見えへんもんが見えるっていうやろ?」

 

「失礼ね……大丈夫よベル、なにもとって食べたりなんてしないわ」

 

今は。最後の方だけなぜか聞こえなかったが、女神と男神にはしっかり聞こえていた。「おもいっきり狙ってるじゃん」である。しかし聞こえていないベルは、おずおずと手を伸ばし、小さな手でポップコーンを摘まむと自らの口に放り込み「美味しい」と表情に浮かべた。

 

「「「「くっ………!!」」」」

 

そんな純粋無垢な笑顔に、大人達は胸を貫かれるような衝撃を受けた。

フレイヤは謝った「淫らでごめんなさい」と。

ロキは悔い改めた「眷族(こども)使って一儲けしようとか考える汚い大人でごめんなさい」と。

ガネーシャは頷いた「アーディが欲しがるのも分かる……!」と。

アストレアは胸元をぎゅっと握りしめながら「これが……男の子……ッ!」と。

胸の内は様々だが、アンデッドが浄化される感覚をここに4柱の神々は共有することとなった。

 

「アストレア様、あーん」

 

「へ!? あ、あーん」

 

さらにここへ「あーん」攻撃。

アストレアはもう駄目だった。

フレイヤもダメだった。

ロキもダメだった。帰ったらアイズにやってもらおうとすら思うほどに。

ガネーシャもダメだった。あとでアーディにやってもらおうと思うほどに。

 

 

「おいこらザルド、何もう4点とられとんねん! お前にいくら賭けとる思ってんねん! 花京院の魂もかかってんねんぞ!?」

 

「知るか!?」

 

余所見をしている内に得点がついていたようで、既に『4-0』。

ザルドは一度もアルフィアからポイントを取れていなかった。

ロキは罵倒する。その筋肉は見せかけなのかと。

 

「お前、アルフィアを負かして抱いてやろうぐへへとか思わんのか! おおん!?」

 

「誰が抱くか!? ふざ、おい、ちょ、待て、なんか玉増えてないかぁああああ!?」

 

「ベルたん、ザルドがベルたんのママに魅力なんか感じんって言うてるで!? ほれ、なんか言うたり!」

 

「叔父さん、お義母さんは世界で一番綺麗なんです! 謝って!」

 

「お、俺に味方はいないのか!?」

 

一方的集中攻撃。

派閥の仲間の息子にしてアルフィアの妹の息子には母親が魅力的でないなんて嘘だとキレられる始末。歳の差的に『姪』のような存在であるアルフィアにはロキの「アルフィアを抱く」という言葉に殺意を増し増しに向けられ、ザルド叔父さんは泣きそうだった。

 

 

「ふぅん……それにしても随分頑丈なのね、あの羽子板。Lv.7の力に耐えられるなんて」

 

「アホぬかせフレイヤ。あれでも加減しとるわ。でないと下手して流れ弾作って死人でたらどないすんねん」

 

「……それもそうね」

 

「けれど既に5分が経過している。ラリーの時間も伸びている……でも妙ね」

 

「どうして神様達は見えるんですか?」

 

「「「「神だから」」」」

 

「そっかぁ」

 

 

超越存在だからこそなのか、ベルには決して見えないのに解説までしてくれる女神達。

そしてふいにフレイヤが口を開く。

 

「そういえば、アストレアの眷族(こども)達はあくまで裏方なのね……やらせておいてどうなのかと思うのだけれど」

 

「何言うてんねんフレイヤ。うちがそんなん許すかいな。ザルドに助っ人を頼んできたから、事情聴いておもしろそうやからウチも乗る!つってここまでこぎつけたけど、あの子らが何もせんのはさすがにおかしい。せやからアルフィアに負けたんやから罰ゲームを受けなあかん、せやないとウチは協力せん!って言うたら素直に受けてくれたわ」

 

「……内容は?」

 

「ん? 恥ずかしい恰好して会場で警備係すること」

 

アリーゼ達がいる場所を指さしながらロキが言う。

アストレアはもう何も言いたくなくなってベルを抱き寄せもふもふの髪に顔を埋めた。

 

「【疾風】が顔を真っ赤にしながらバニーガールですって……!? ロキ、正気なの!?」

 

「ふふ、それだけやない! セルティたんにはスク水! アリーゼたんにはビキニ! 他にもメイドさんとかヒューマンの子にあえてアマゾネスの恰好させたりとかさせとる!」

 

「他派閥の眷族だろうが容赦しないロキ……恐ろしいゾウ!?」

 

「あれ、でも【大和竜胆】だけまともじゃないかしら?」

 

一人、興奮して腕が当たったか喧嘩になりかけていた男達を止めに入る輝夜の姿を見つけたフレイヤが疑問を浮かべた。赤と白の花柄の浴衣を着ているのは輝夜ただ一人。彼女だけは露出がないのだ。そこがおかしいとフレイヤは言う。しかしロキは「ちっちっちっ」と舌を鳴らしてフレイヤに耳打ち。ロキから聞かされたフレイヤは雷に打たれたような衝撃を受け思わず立ち上がった。

 

「そ、そんな……まさか()()()()()()ですって!?」

 

「ふふ、なにも露出だけが恥ずかしいとは限らへん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っちゅースリルを味合わせられるっちゅー寸法や!」

 

「外は確かに着ているのに、その内側は何も身に付けてはいない……着ていると着ていないの同居、まさに矛盾。それに浴衣ならハプニングが起きて脱げてしまうこともあるかもしれない。これなら下界の子供達は露出よりも倍の羞恥を味わうことになる……ロキ、私は今、改めて貴方の恐ろしさを感じたわ」

 

「ふふ、この天界のトリックスターを舐めてもらっちゃー困るで」

 

「アストレア様、僕あの女神様達が怖いです」

 

「あとで逮捕しちゃいましょうねーね、ガネーシャ?」

 

「お、おう……がんばるぞぅ」

 

他派閥の眷族になにしてんだ、なんてことアストレアはもう言わなかった。というかもう言いたくなかった。頭が痛すぎて。なので全てが終わったら【九魔姫】に全部投げようと決意した。これは語られることはないが、この日の晩、アストレアからすべてを聞いたリヴェリアはゴミを見るような目でロキを反省室に閉じ込めたという。

視線を戻して再び戦場へ。

左右に走らされるザルドに、一歩も動いていないアルフィアに自然とガネーシャとアストレアは違和感を抱いていく。

そしてその違和感は更なる衝撃へと辿り着いた。

 

「おかしい、何かがおかしい!」

 

「どうしてアルフィアは一歩も動かないの!?」

 

「いや、アルフィアの足元を見ろアストレア! 弧を描くような足跡が出来ている! 恐らく片足を軸に動いているのだ!」

 

その二柱の驚きの声にロキとフレイヤも意識を戻して見てみれば、彼女達は目を見開いて有り得ないものを見たような感覚を共有する。

 

「そ、そんな、あれは……!?」

 

「「「知っているのか、らいで、ロキ!?」」」

 

「これも『才禍の怪物』の所以なんか!? くそ、やられた……! あれは、『アルフィア・ゾーン』や!」

 

ロキ曰く、相手が打ち返しても勝手に帰ってくるように回転をかけて球を打ち返すことにより、その場を殆ど動く事無く、相手の球を打ち返し続ける技なのだという。体力の消耗を避けるためにアルフィアは短い時間の中で編み出したのではないかと解説してみせる。それに戦慄するのは会場中にいる神々だ。

 

「完成させてしまうなんて、【静寂】のアルフィア……どこまで才能に愛されているというの……!?」

 

「ザルドぉおおおおおおおお!! 勝てぇえええええええええええ!! お前も、やるんや! 『ゾーン』には『ファントム』しかない!!」

 

無茶言うな! と罵倒が帰って来るが、もう後はなかった。

なにせあっという間に得点は『8-0』。

ザルドの惨敗が目前となっていた。

 

 

 

「ザルド、私が勝ったらベルに『落とし(だま)』を寄越せ」

 

ドゴォッ!

 

「『たま』って何か間違っていないか!?」

 

ドゴォーン!

 

「極東の文化で正月とやらには子供に血涙を流して得たものから『落とし(だま)』をくれてやるそうだ。私はまだあの子を見守ってやりたいからな、お前が適任だ」

 

ゴォーンッ!

 

「絶対何か間違えているだろうお前!」

 

バチコーンッ!

 

「私が負けたら、ベルと私に『お前が料理を振舞う権利』をくれてやる」

 

ドッ、ゴォーン!

 

「どっちもお前が得をするだけだろう!?」

 

 

 

勝負はザルドの敗北に終わった。

ザルドは久しぶりにガレスと自棄酒をしにいった。

今回のイベントで得た金銭は全て都市の復興に賄われた。

『お年玉』のことなど知らないベルは後日、輝夜から正しい知識を教えられた()()()()()()()()()()をされ、リヴェリアの元へと訪れた。

 

 

「あけましておめでとうございます!」

 

「ああ、あけましておめでとう。今年もよろしく頼む」

 

優しく微笑む王族妖精。

ベルの背後では見守るアルフィアもどこか穏やかな顔をしていた。

そしてベルは両手をリヴェリアへと差し出し、リヴェリアもまた知識としては知っていたのか「ああ、あれか」と用意しようとしたところでベルの口から出た言葉に凍り付く。

 

最強の魔女(おかーさん)の席が空いて、そこに座り込んで最強って言っちゃう癇癪持ちの年増妖精さん、お年玉を寄越しやがりください」

 

「―――――――」

 

「ぶふっ」

 

「? お義母さん、リヴェリアさん動かなくなった」

 

「ふふっ、いやっ、ぶふっ、気にするな」

 

 

リヴェリアはその日一日寝込んだ。

ベルは死んだ魚のような目をしたリヴェリアから確かに『お年玉』を受け取った。なんと10万ヴァリス―後ほど『正義』のエルフ二人が謝罪に行き畏れ多すぎてこの額は受け取れないと返還済み―であり、寝込むリヴェリアの看病をするアリシアが「リヴェリア様、金銭感覚がバグってますぅううう!?」という悲鳴が『黄昏の館』に響き渡った。


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