アーネンエルベの兎   作:二ベル

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シルバリオ・ゴスペル②

 

 

「―――フッ!」

 

『ギシャアアッ!?』

 

 

ダンジョン7階層。

薄緑色の壁面が広がるそこで、ベルはキラーアントやニードルラビットを始めとした複数のモンスターを相手に戦闘を行っていた。無論、正規ルートではない場所でだ。

 

「ベル、魔法のことは私の専門外だ。とにかく使ってお前自身で理解しろ・・・つまり、好きにやれ」

 

「はいっ!」

 

「ベルッ、キラーアントは瀕死の状態になると仲間を呼び寄せるらしいから気をつけろよ!」

 

「わかった!」

 

ヴェルフ、輝夜の二人の前で、雷を覆うベルは間断なく押し寄せてくるモンスターの群れに一人で立ちまわっていた。

繰り出された大薙ぎの一撃が、キラーアントの細い胴を捉え真っ二つにする。

 

『ジギギギギギギッ!』

 

「バンッ!」

 

『ビュギ!?』

 

上空から降下してきた『パープル・モス』を往なし、そのまま直剣で真っ二つにする。

 

「シッ!」

 

ベルが向かう場所には再びキラーアント。それも二匹。

昆虫系特有の口腔を大きく開けて威嚇してくるモンスターに対し、次には、一挙に加速。

二匹のキラーアントを同時に相手取ると見せかけ、右の一体に狙いを絞り込む。

 

『―――ガッ!?』

 

「もういっちょ!」

 

突撃にものを言わせた刃の刺突がキラーアントの胴体中央を串刺しにする。硬殻を砕き肉を焼き切った直剣の威力に、モンスターは断末魔を上げることさえままならない。内側から煙を上げ、キラーアントは沈黙した。すぐさまベルはもう一匹のキラーアントを対処しようと体を捻ったところで、ベルと背中合わせになるようにして人の形をした雷が現れ、ベルの左腕に装備された円形盾を掴み、そのままキラーアントへと殴りつけた。

 

『―――ギッ!?』

 

同胞を殺されて怒り狂うモンスターは大きく回り込み、その鋭い爪をベル目掛けて振り下ろそうとして、バチバチと音を奏でた盾によって殴られ放電を喰らう。ピクピクと体を痺れさせ、まともに動けないキラーアントの胴体にベルはそのまま刃を収め止めを刺した。人の形をした雷は、キラーアントを殴ったところで役目を終えたのかその姿を消していた。

 

 

「「ベル様お強い~!」」

 

「・・・・急にどうしたの?」

 

ベルがモンスターを蹴散らす光景に、ヴェルフと輝夜が魔石を拾いながらそんなことを言った。思わず、ベルは何事かと振り返るも「悪い悪い、言いたくなっただけだ」とあしらわれた。ベルは首を傾げて、再びモンスターとの戦闘を再開させ、そんな姿を二人は眺めながら会話を続ける。

 

「あれがヘファイストス様が言っていた『すたんど』とか言うやつか」

 

「やめてやれ、世界観が違う。そうだな・・・・便宜上、『分身』と言うのが正しいだろう」

 

「結局のところ、アレはなんなんだ?」

 

「知らん、わからん、なぁんもわからん。専門外なのもそうだが、見るのが初めてだからな」

 

「・・・・聞いた話じゃ、『怪物祭』の時は沢山でてきたらしいが・・・あれか、一人で数の暴力ってのができるのか?」

 

「ベルを泣かすとリンチにされかねませんわ、今のウチに媚びを売っておいた方が良いのではございませんか元魔剣貴族様? ほら、その立派な右手でシコシコと『魔剣(イチモツ)』を鍛えてくださいませ♡ 頼るつもりはございませんが、あれば窮地を脱するのに十分役立ちますので」

 

「家のこと持ちだすのやめろよ!? シコシコって言うんじゃねえよ!? ・・・・・・イチモツって言うんじゃねえよ!? ベルが聞いてたらどうするんだ!?」

 

「何をおっしゃるかと思えば・・・女所帯で可愛らしい顔をした男が一人、暮らしているのですよ? 何も起きないはずが・・・」

 

「・・・・・起きてんのか、何かが!?」

 

ゴクリッ。

ヴェルフ・クロッゾ17歳。

彼は今、弟分のようなベルが【アストレア・ファミリア(おとめのはなぞの)】でどのような生活を送っているのか。生唾を飲み込む勢いで気になってしまった。ダンジョン探索どころじゃねえ。『掃除当番(スイーパー)』? んなもん、どっかのやらかした第二級冒険者のエルフにでもやらせておけ! とばかりにそもそも何をしに来たのかさえ忘れる勢いで目を見開き、輝夜へ叫ぶように問い返した。無理もない。彼も彼でお年頃。それを輝夜は「ぶふっ」と袖で口元を隠して笑った。

 

「おい・・・何で笑ってんだよ」

 

「そんなに目を血走らせないでくださいませwwww 一体何を想像したのやらwww 良い機会です、是非、ヘファイストス様との関係に進捗があったのかも合わせてお聞かせ願えますか? 酒の一杯くらいは奢ってさしあげますので」

 

ニッコリ。

ニンマリ。

緋色の瞳を細め、口を三日月のように歪めて怪しい笑みを浮かべる大和撫子にヴェルフは「嵌められた」と口をパクパクさせた。

 

「・・・ちくしょう、勘弁してくれ」

 

クスクス笑いかけてくる彼女はきっと、ヴェルフを酒の席に連れまわせば「敬愛するヘファイストス様とどこまで行ったのか」とか「は? まだ逢瀬の一つも誘えていないのか? クソザコか?」とか酒のつまみにすることだろう。ヴェルフももう【アストレア・ファミリア】とは長い付き合い。嫌と言うほど、思い知っているのだ。

 

そこに。

 

「・・・・二人とも、何の話をしているの?」

 

二人の前方で戦闘を行っていたベルがムッとした顔で振り返る。二人が何を話していたのかはわからないが、仲間外れにされているような気がしたのだ。

 

「ヴェルフ、輝夜さんとイチャイチャ?」

 

「してねぇよ!?」

 

「どうしたベル、嫉妬か?」

 

「・・・・・・・」

 

『―――グシュ・・・・・ッ! シャアアアアアアアアアアア!!』

 

何とも言えないモヤモヤを抱いたベル。

その背後の壁面が破れ、キラーアントが禍々しい産声を上げた。ベルは意識を切り替え、残っているモンスターを片付けると、壁から這い出ようとしているキラーアントへ疾走。

 

「うおりゃあッッ!!」

 

『グヴュ!?』

 

左足を踏み切って、飛び蹴りを炸裂させた。

ズンッと壁に鈍い音が響き渡り、首の折れ曲がったモンスターはぐったりと力を失った。

 

「お、おうベル・・・なんだ、機嫌が悪そうじゃねえか」

 

「・・・・・別に、僕は気にしてないよ?」

 

「ベル、そろそろ帰るか?」

 

「・・・・うーん、もうちょっとだけ」

 

「ほどほどにな」

 

「うん」

 

まるで穴にはまり抜け出せなくなったような間抜けな格好で壁面から垂れ下がるキラーアントを見上げるベルの元に見守っていた二人が近寄ってくる。

 

「届きそうにないなら、俺が処理してやろうか?」

 

「ん-・・・・・」

 

ヴェルフがベルの代わりに埋まっているキラーアントの処理をしようかと提案するも、ベルは何か考えるようにしてから「()()()()()」と呟く。

すると、ベルの両脇に腕が通され全身鎧の何者かに持ち上げられたではないか。

 

「・・・・」

 

見守っていた二人はその光景に何も言わなかった。

父親に抱き上げられる子供のようなワンシーンを彷彿とさせる。そんな光景を指摘すれば、きっとベルは光の消えた深紅の瞳で睨んでくるに違いないからだ。ベルもベルで、まさかできるとは思わなかったのか、かなり気まずそうに、黙々とキラーアントの上半身と下半身を繋げている胴を切断していった。

 

 

「・・・・・・帰るか」

 

「だな」

 

「・・・・・うん」

 

 

×   ×   ×

夜、『星屑の庭』

 

 

「それで、なんで初めてのダンジョンで18階層まで行ってるのかしら? バカなの、死ぬの?」

 

少し遅い夕食を全員で囲って食べるそんな一時。

ベルのダンジョンデビューの成果を聞いたファミリアを代表して、団長のアリーゼが微笑みながら青筋を立て、そんなことを言った。アストレアに至ってはニコニコ微笑んで何も聞かなかったことにして眠そうにしているベルに「はい、あーん」している始末。輝夜は静かに怒るアリーゼに「待て待て」と言ってから弁明した。

 

「7階層で蟻の駆除をしたら帰る予定でございました」

 

「そうよね、なのに何で18階層まで行ってるの? 夕方・・・ううん、遅くても夕飯時には帰ってくると思ってたんだけれど二人が帰ってきたのは22時よ!? 良い子はとっくに寝てるの! 見て、ベルのあの眠そうな顔ッ! アストレア様にされるがままよ!? 羨ましいッッ!」

 

「アリーゼ、欲望が出てます。押さえてください」

 

「ハッ!? しまったわ、私ったらつい、アストレア様に「あーん」してもらいたい衝動とか、逆にしたい衝動が出てしまったわ・・・ッッ!」

 

「まぁその欲望はどうでもいいとして・・・別に就寝時間などどうでも良いことでしょうに。あいつも今や14歳だ、夜更かしの一回や二回・・・徹夜の一回や二回、夜這いの一回や二回、したくもなるでしょう? 気にするほどのことでございますか?」

 

「待ちなさい、しれっとベルが夜這いをしたみたいに言うのをやめなさい」

 

「何を言っているのやら、お年頃で、異性に囲まれて、女神と同衾をしているのですから」

 

「何も起きていない方がおかしいわよ」

 

「!?」

 

「「まあ各々、たまに眠っているベルを自室に連れ込んでいるんですけど」」

 

「!?」

 

「おいアリーゼ、輝夜。リオンの顔見てみろ、エルフが魔剣喰らったみたいな顔になってんぞ」

 

「「うける」」

 

「ウケるなぁ!!」

 

「コホン・・・・別に夜更かしするなとは言わないわ、他人のこと言えないし。でも徹夜はダメ、アンドロメダみたいになっちゃう」

 

 

×   ×   ×

【ヘルメス・ファミリア】本拠『旅人の宿』

 

 

「ぶぇっくしょいっ!!」

 

月明りが都市を照らす頃。

とある優男を主神とした派閥の団長はくしゃみで山積みになった書類をぶっ飛ばした。

 

「おいおいアスフィ、風邪か? 淑女(レディ)が体調管理をおろそかにするなんて主神としては見過ごせないぞ」

 

「・・・・・」

 

「あれだ、規則正しい生活をした方がいい。俺はそう思うぜ、じゃなきゃその瞼の深い深ーい隈、いつまでたっても消えないぜ?」

 

「・・・・・」

 

ズレた眼鏡をクイッと元の位置に戻して、床に散らばってしまった書類を拾い上げ再び椅子に深く座り紅茶で喉を潤し、ペンを手に取り作業を再開するアスフィ。彼女の目の下にはそれはもう深い隈が出来上がっており、机には空になったいくつもの小瓶が並んでおり、眠気やら疲れを誤魔化しているのは明らかだった。美女が台無しである。そんな己の眷族の有様を長椅子(ソファ)にどっしりと座って寛ぐヘルメスは怪訝な顔をして注意した。アスフィはガン無視である。

 

「まったく・・・・誰だ、派閥(ファミリア)の団長一人に仕事を押し付けているのは。よし、ここは主神としてガツンと言ってやらないとな!」

 

「犯人は、お前じゃああああああああああああいッッ!!」

 

「ぐっほぁあああああああああああああああッッ!?」

 

 

横でやいやい言っているヘルメスに堪忍袋の緒が切れたのか、アスフィは近くにあった分厚い本をヘルメスの顔面目掛けてぶん投げた。それが一体どれほどの威力だったのか。ヘルメスは顔の形を歪め、窓ガラスを割り、悲鳴と共に夜空へと消えていった。

 

 

×   ×   ×

『星屑の庭』

 

「とにかく、徹夜はダメよ。体の成長によろしくないし・・・そりゃぁ、一睡もせずにアストレア様の寝姿を眺めていたい気持ちはわかるけど、ダメなものはダメ」

 

「・・・なあアリーゼ、そもそも兎の徹夜云々の話じゃなかったはずだろ? なんで初ダンジョンで18階層まで行ってんだって話だったよな?」

 

「・・・・そうだったわ、ごめんなさいライラ。うっかりしてたわ」

 

「で、輝夜。なんでなんだよ」

 

視界の端でアストレアの肩に頭を乗せて寝落ちを決め込んでしまったベルを眺めながら、ライラに問われた輝夜は改めて事情を説明する。曰く、帰ろうとしたところ、【ロキ・ファミリア】のとある山吹色のエルフがしょんぼり顔で歩いているのに遭遇。事情を聞くと彼女はダンジョン探索中にちょっとしたミスをしてしまったとかで、その罰として『掃除当番(スイーパー)』を任されたのだという。しかし、行けども行けどもモンスターはおらず、かと言って「モンスターはいませんでした!」なんて報告などできるはずもなく、下へ下へと潜っていたところ輝夜達三人のパーティに出くわしたのだとか。単独(ソロ)で潜っているそんなレフィーヤのはるか背後に隠れて見守っているらしいリヴェリアを確認した輝夜達は仕方なく、レフィーヤの手伝いをしてやることにしたのだ。

 

「それでもベルを連れて18階層まで行くってのはどうなのかしら」

 

「「リヴェリア様がいらっしゃるのなら、問題ないでしょう。はい、解決」」

 

「エルフは黙ってて」

 

「【九魔姫】は監督役でこっそり見守っていたらしい。【千の妖精】が何をやらかしたのかはしらんが・・・奴は神々が言うところの豆腐メンタル。詠唱中にモンスターにでも迫られて詠唱をやめてしまったとかでしょう」

 

「なんで【九魔姫】はこっそり見守ってたのよ。一緒に行動してあげたらいいじゃない」

 

「「尊きお方の威光に下々の者が耐えられるはずがない、リヴェリア様はあえて気を遣ってくださったのでしょう」」

 

「・・・・エルフって面倒くさくない?」

 

「そりゃ面倒くせぇだろ。いつだったか【フレイヤ・ファミリア】の小人×4が【九魔姫】を殺しかけたとかいう話があったじゃねーか。あんとき、ここの妖精(バカ)二人もブチキレて襲撃に行ってたくらいだしな」

 

「とりあえずセルティとリオンは正座しておいたら?」

 

「「えっ」」

 

過去にとある美の女神が眷族を連れずに一人で都市内を徘徊したせいで彼女の眷族はあちらこちらを走り回った主神を捜索。何かやらかすんじゃないかと怪しんだ【ロキ・ファミリア】と抗争直前まで行くわ、【九魔姫】を殺しかけて【ロキ・ファミリア】以外のエルフ達からも怒りを買って返り討ちにされた小人達がいたり、いろいろあったのだ。当時のことを思いだしたアリーゼは、王族万歳するエルフ二人になんとなく正座を命じた。律儀に正座したエルフ二人は数分後、産まれた小鹿のようにプルプルと足を震えさせていた。

 

「フーッ、あの時ほど・・・アルフィアがいないとこんなにも私達は力不足なんだって思い知ったことは無いわ。とりあえず事情はわかったから許すけど、あんまり無茶なことさせないでよ?」

 

「当然でございましょう。変に傷をつけたらそれこそ、あの世にいるアルフィアに何をされるかわかったものではございませんので」

 

「じゃあ皆、食べる物食べて、お風呂入って、寝ましょ。明日もあるんだし」

 

最後に「解散!」と言うとアリーゼは自分の食器を片付けてから自室へと姿を消していく。それに続くように、【アストレア・ファミリア】の女傑達は各々行動を起こし、『星屑の庭』は静かに寝静まっていった。

 

 

 

 

×   ×   ×

別日 『星屑の庭』

 

 

『魔力』を上げるために『掃除当番(スイーパー)』作業というていで、多くのモンスターとの戦闘を終えて、ベルは本拠に帰って来ていた。日は既に落ちて、大空には微かに星が輝いていた。

 

 

「あの、リューさん。『へいこーえいしょう』?ってなんですか?」

 

「・・・・誰かに聞いたのですか?」

 

「今日、ダンジョンに行ったときにレフィーヤさんが言ってました」

 

「・・・・・その時に聞けばよかったのでは?」

 

「うーん、よくわからないんですけどレフィーヤさんが「はぁ? 貴方にはまだ早すぎます! あと10年待ちなさい! ダンジョンデビューしたばかりの貴方に並行詠唱を覚えられたら、追い抜かれたみたいになるじゃないですか!」って言われて。それなら、リューさんなら教えてくれるかなぁって」

 

「そ、そうですか。し、仕方ないですね私で良ければ、教えてあげましょう」

 

 

風呂上りでソファに寛いでいるリューの元に、ベルがやって来る。

『魔法』といえば、エルフだよねという考えからリューに教えを乞うたのだ。

リューは肩にかけていたタオルをベルに手渡し、それを受け取ったベルはリューの後ろに回ると濡れた髪を拭き始め、リューは頼られているという心地よさにニヤけ、頭を触れる感触に時折うっとりとしたような顔をしながらベルが聞いたことに対して返答する。

 

「『並行詠唱』とは、本来発動の失敗や魔力の暴発を防ぐため停止して行われる詠唱を高速移動しながら展開する離れ技です。私もできます」

 

「離れ技ってことは難しいんですか?」

 

「ええ、多くの者達に守られなければ戦闘もままならない魔導士が、この詠唱技術を習得すれば、高火力の移動砲台と化すでしょう。しかし、『魔力』というどんな武器よりも難物(じゃじゃうま)な得物を扱いこなさなければならないこの技術を有する者は、上級冒険者の中でも圧倒的に少ないとされます。ちなみに、私もできます」

 

「僕もできるようになりますか?」

 

「火薬の大樽を片手に火の海の中を走るに等しいほどに高度な技術なため・・・教えたらすぐできるものではありませんよ? まぁ、私はできますが」

 

ちょいちょい「私、できるんですよ?」アピールは忘れないリュー・リオン。

後ろにいるベルには見えていないが、彼女の表情はドヤ顔に染まっていた。この時点で、帰還していた仲間達はリューのその顔を見て、いつおちょくってやろうかとぷるぷると震えていた。

無理もない、あの普段はあまり表情を変えないリュー・リオンが、異性に髪を拭いてもらいながら、気持ちよさそうな顔をしていたかと思えば、ドヤ顔をしているのだから。

 

――『並行詠唱』、習得しておいてよかった。 この子に「リューさん格好いい!」と思ってもらえるかもしれない。何せ、彼は金髪のエルフに憧れがあると、かつてアルフィアも言っていましたし。

 

などと考えていることくらい、【アストレア・ファミリア】の女傑達にはまるっとお見通しであった。なにせ、アルフィアとベルが来る前までは彼女こそが末っ子だったのだから。

 

「うーん・・・じゃあ実際に火薬の大樽を片手に火の海の中を走ってくれば・・・・」

 

「待ちなさい」

 

「あ、そうだ。『戦いの野(フォールクヴァング)』にいけば・・・・」

 

「いけない、やめなさい、行ってはいけない! ほら、貴方のすぐ近くに頼れる人がいるでしょう!?」

 

なぜ【フレイヤ・ファミリア】のところに行こうとするんですか!? 

なぜ危険を冒せば習得できるという思考にいくのですか!?

頭、アルフィアですか!?

私、『並行詠唱』できるんですよ!? 頼って!?

 

と、考えていることなど【アストレア・ファミリア】の女傑達にはまるっとお見通しであった。なにせ、彼女の目はすごい泳いでいたから。席に座って果実酒に口をつけていたアストレアがベルの言葉に「ぶふぉっ!?」と吹き出していたが、リューは何とかベルに頼られようと必死だった。

 

「すぐ近く・・・・」

 

「え、ええ! 貴方の知己をよく思い出しなさい!」

 

髪を拭くのをやめ、櫛で金の髪を梳いていく。

すー、すー、と櫛が通っていくたびに「ぅうん・・・いい・・・」と気持ちよさそうに身を捩るリューに、見ていた女傑達は「私もお風呂上りにやってもらおう」と心に決めた。頼めばベルはやってくれる、そういうヒューマンなのだ。ベルはリューの髪でシニヨンを作り、三つ編みを作り、シニヨンを囲っていきながら頭の中で魔法が使える知己を思い浮かべた。

 

 

 レフィーヤさんはまだ訓練中って言ってたよね。アイズさんは・・・泣かされたら嫌だしなあ。ヴェルフは・・・たぶん習得してない。ティオネさんも魔法は持ってるって言ってたけど使ってるとこ見たことないからたぶん習得してない。フィンさんもたぶん同じ。【フレイヤ・ファミリア】はダメっぽいし・・・豊穣の女主人にいるクロエさんは多分、「じゃあ報酬として尻を出すニャ!」って言いそうだしなぁ。

 

 

「ク、クラネルさん? あの・・・」

 

「あ」

 

「!」

 

よし、ようやく私を思い浮かべてくれましたね!?

そんな顔をするリューを他所に、ベルの口からはある妖精(じんぶつ)の名が出る。

 

「リヴェリアさん?」

 

「・・・・・・っ」

 

何故、私じゃない!? と叫びたい衝動をぐっと抑え込む。

何せ相手は王族だ。

頭を垂れるべき相手だ。

「ふざけるなぁ!」なんて言えるわけがない。

 

「た、確かに・・・あのお方も『並行詠唱』はできますが、た、他派閥に教えを乞うのは、その、情報漏洩とか、技術流出とか、あの、その」

 

リューが頼めば、「まぁ同胞のよしみだ、手ほどきくらいはしてやろう」と言ってくれるかもしれないが。自分が頼られていないと思い込んでいるリューはもう、ぼろっぼろだった。二人きりで修行して独占しようという打算なんて浮かぶ前に沈んでしまっていた。もう駄目だ、おしまいだぁ。ベルはリヴェリア様に取られてしまうんだぁ。そう思ったその時。

 

「でもお義母さんが「よく覚えておけ、こいつは空いた席に座って最強の魔導士とか言ってるだけのクソザコだ」って言ってたしなあ」

 

「は?」

 

聞いてはいけない言葉が聞こえた気がした。

思い起こされるのは、過去の出来事の一つ。【静寂】のアルフィアと【九魔姫】のリヴェリア・リヨス・アールヴの戦い。「『ウィン・フィンブルヴェトル』でも当ててみたらどうだ? 当てられるんならな」という見え見えの挑発に顔を真っ赤にしたリヴェリアは「望み通り氷漬けにしてやろう!」と詠唱を開始。そこに、一瞬にして近づいたアルフィアが往復ビンタを繰り出し、「は?」というような顔をしているリヴェリアにさらに、おまけと言わんばかりに胸倉を掴み、投げ飛ばしたのだ。芝生に倒れたリヴェリアのその身姿にロキは思わず「ヤムチャしやがって・・・ちゅうか容赦なさすぎやろ」などと言っていたがアルフィアは「お義母さんすごい!」とキラキラした瞳を向けるベルを抱きかかえ、リヴェリアに指を差して言った。

 

「いいかベル、これが―――『惨め』というんだ」

 

「わぁ・・・・!」

 

眷族達のやりとりをそれとなく聞きながら、アストレアは当時の出来事を回想して「嗚呼、たぶんあのあたりからベルの中でアルフィアを基準にするようになったのかもしれないわね」と溜息を吐いた。

 

 

「「()()()()()()()()」って言ってたしなあ」

 

「は?」

 

また聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がした。

この時点で、同胞のセルティの瞳から光が消え失せた。

女傑達がざわつきはじめ、アリーゼやライラが「おいやめろ、兎ぃ!」「それ以上言ったらだめぇ! 世間知らずはあんたも一緒!」と小さな声で叫んでいるのがリューの耳に届いた。

 

「「ベル、更年期の女には気をつけろ? ()()()()()()()()ほど手に負えないものはないからな」って言ってたしなあ・・・リヴェリアさん、綺麗だけど、()()()()()()()()()()

 

「クラネルさん・・・・いいえ、()()

 

「! リューさんが僕のこと『ベル』って呼んでくれた・・・どうしたんですか、リューさ―――ひぃっ!?」

 

キリキリと壊れた人形のように振り返ったリューの目つきは、それはもう泣く子さえ黙るほどの恐ろしさを秘めていた。まるでファミリアを壊滅させられて復讐に燃える堕ちたエルフのそれである。さらには、いつの間にやらベルの背後に陣取っていた妖精(セルティ)が、ベルの両肩に手を置いて振り返ったベルに、ニッコリと微笑んだ。絶対零度の微笑みである。

 

「ど、どうしたんですか二人とも?」

 

「セルティ、彼の上半身を。私は下半身を持ちます」

 

「任せて」

 

「えっ、えっ!?」

 

「「ベル(君)には、リヴェリア様がどれほど素晴らしく、高貴であるかを教育する必要性があります。任せなさい、明日の夕方には解放してあげます」」

 

「もう既に夜なんですけど!?」

 

セルティに両脇に腕を通され、リューに両の腿を、二人がかりで持ち上げられた形となったベルは大混乱。アリーゼは喪に服し、輝夜は痛む頭を押さえて溜息を吐き、ライラは「終わったな」と零し、ネーゼ達は「アルフィア、助けて」などと言い、アストレアは「ふ、二人とも許してあげて、ね?」と救おうとして「いくらアストレア様でも譲れません」と首を横に振られてしょげた。

 

「こんな・・・・リヴェリア様の素晴らしさを理解できない子が近くにいたなんて。外に出たらと思うと・・・嗚呼、恥ずかしい!」

 

「で、でもお義母さん言ってたもん! 大したことないって言ってたもん!」

 

「高貴なお方に対する侮辱は許せない、安心しなさい、明日の夕方には貴方も立派なリヴェリア様信者になるでしょう」

 

「こ、怖い! は、離してください! 許して!? ぼ、僕っ、眠っているアストレア様によしよししてあげる役目が」

 

「「そういうのいらないから」」

 

「あっ、あああああああああああああああああああッ!?」

 

エルフ二人によって、ベルはリューの部屋に連行された。

これからじっくり、時間をかけて教育的指導(せんのう)が行われるのだ。女傑達は可愛い弟が、明日にはエルフに転生してるんじゃないかという心配を抱きながら、アストレアの方を向いて「いつもよしよししてもらっているんですか!?」と話題を強引に逸らした。アストレアの顔は真っ赤だった。

 

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

ベル・クラネル

所属【アストレア・ファミリア】

Lv.2

力:I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

幸運:I

 

■スキル

雷冠血統(ユピテル・クレス)

・早熟する。

・効果は持続する。

・追慕の丈に応じ効果は向上する。

 

灰鐘福音(シルバリオ・ゴスペル)

戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

戦闘時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

戦闘時、修得発展アビリティの全強化。

 

■魔法

【アーネンエルベ】

 【我等に残されし、栄華の残滓。 暴君と雷霆の末路に産まれし落とし(愛し)子よ。】

 【示せ、晒せ、轟かせ、我等の輝きを見せつけろ。】

 【お前こそ、我等が唯一の希望なり】

 【愛せ、出逢え、見つけ、尽くせ、拭え、我等が悲願を成し遂げろ。】

 【喪いし理想を背負い、駆け抜けろ、雷霆の欠片、暴君の血筋、その身を以て我等が全てを証明しろ】

 【忘れるな、我等はお前と共にあることを】

 

・雷属性

自律(オート)による魔法行使者の守護。

他律(コマンド)による支援。

 

 

 

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