アーネンエルベの兎   作:二ベル

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べ、別に体調崩して寝込んでたりとか、ホグワーツに入寮なんてしてないし、本編18巻、外伝13巻なんて読んでないし、陰実全巻揃えたり、StrangeFake8巻読んだり、ブルアカしたりミクトランにいったりしていたわけじゃ・・・ないんだからネ‼




いつも描写に困る。



ミセス・ムーンライト⑧

 

 

 

『竜巻』の内部に入り込んで、ベルが最初に感じたのは『孤独』だった。闇の中にただ一人迷い込んだような心細さがあった。そして、視界に映り込んだ複数の蠍達と巨大なモンスターの身体。

そんな異様な光景に、思考が停止する。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「………あの、人達なら」

 

停止した思考を。

アルフィアとザルド(あのひとたち)ならやってのける。なら、自分もできないと」と虚勢をはって強引に加速させる。打ち鳴らされた咆哮(ハウル)に耳を塞ぐ。

 

山そのものを相手にしているんじゃないかと思うほどの巨体。

『大型』というよりも『超大型』。

アポロンもアルテミスも、逃げているだけでいいと、無理に戦う必要はないとそう言っていたのに。それが許されないほどの存在感がそこにはあった。ギョロリ、とベルの存在に気付いた小型の蠍達は一斉に走り出す。巨大な黒い獣が咆哮を上げる。それが、開戦の合図。巨大なモンスターの頭上、天空に見えたのは神々しいまでに輝く『三日月』。

 

 

そして、第一射――『散弾』。

頬に伝っていく汗を、纏う雷が弾き飛ばし、ベルは無理矢理に口を吊り上げて笑う。

 

 

「――――――――勝負だ」

 

 

天空を引き裂き、巨竜の絶叫のような轟音と共に大地に降り注ぐ。

黒い獣も小型の蠍達も敵味方お構いなしの、超無差別射撃。

 

「はぁあああああああ!」

 

『――――――――ッッ!』

 

黒い獣、その足元へ向かって疾走する。

降り注ぐ『光の矢』の雨を、敵の巨体を利用して身を守るためだ。

軋む金属のような咆哮を鳴らす蠍達は、凄まじい勢いでベルへと突っ込んでいく。あった筈の間合いは互いの肉薄によってあっという間に消失し、一匹、また一匹と飛び掛かる。自然界に存在する蠍とは明らかに規格(サイズ)の違うそれが、空中を貫いてくる。ベルは右手に持つ『槍』を後ろに構え、左腕に装備している小型盾(バックラー)をかかげた。

大きく開かれた相手の(ハサミ)に、ベルは盾を噛ませた。

 

「ぐ、っっ!」

 

重い。

けれど、耐えられる。

鋭い鋏が牙のように小型盾(バックラー)に食い込む中、ベルは飛びつきの衝撃を受けながらも、その場で踏みとどまった。勢いを失って宙を泳ぐ蠍。そしてその瞬間を逃さず、後ろへと構えていた槍で敵の無防備な身体へ容赦のない一撃をお見舞いした。

 

『ギッ!?』

 

一刀ならぬ、一槍両断。

縦に振り上げられた槍が、蠍の身体を真っ二つに断ち切る。

盾に喰らい付いている鋏を振り落とし、背後から飛んできた蠍に意識を切り替えると身体を低く屈ませ、円を描くように槍で薙ぎ払う。

 

『ッヅァ!?』

『ギィーーッ!?』

 

都合三体の蠍を討伐してすぐ、ベルは再び走りだす。

降り注ぐ『矢』の雨は容赦なく地面を爆砕し続けているためだ。忙しなく動く視界の中には、木端微塵に破壊された蠍の亡骸が宙を舞い、紫色の血液が雨のように散り、生きている個体も死した個体も黒い獣とベルを閉じ込める結界のようになっている『竜巻』の境界へと吸い込まれていくように消えていく。

 

「『進軍進撃進攻(ゴーゴーゴー)』!」

 

雑な指示(コマンド)を声を上げて飛ばす。

バチッと稲光と共に雷兵(ブンシン)達が姿を現す。腰に帯剣していた『探求者の剣』を抜いた人間(ヒューマン)と思しきもの雷兵(ブンシン)が雷の軌跡を描きながら、ベルに迫る敵を斬って捨て姿を霧散させる。宙でくるりくるりと回転して落下していくソレを、再び発生した稲光と共に現れた女戦士(アマゾネス)と思しき雷兵(ブンシン)が蹴りを繰り出す。強烈な蹴りを叩き込まれた剣は弾丸のように飛び進路上にいた敵を破壊。蹴りを放った女戦士(アマゾネス)は、その姿勢のまま役目を終えて霧散させた。

上空からの射撃を避けながら出来上がった道を進み一直線。見上げる首が疲れるほど巨大な黒い獣は根を張ったように動かず、咆哮を上げる。

 

「―――――ッ」

 

(肌が……痛い)

 

咆哮はまるで毒の吐息(ブレス)で、ベルを飲み込むと、肌に焼くような痛みが走る。

毒が体を蝕んでいくような感覚に顔をしかめるが、女性のような細くしなやかな腕が伸ばされ、手が頬を優しく撫でるとその痛みも不快感も消えていく。振り返ったところにいたのは、『義母』に似た容姿の雷兵だった。

 

『ォオオオオオオオオオッ!』

 

吐息(ブレス)が効かないと判断したか、黒い獣は姿勢を低くしたかと思えば、八本の角を持つ頭部を使った掬い上げを繰り出した。ベルの疾走と黒い獣の掬い上げ。互いの距離は消えていき、ベルの前には巨大な獣の角と顎が待つ。ベルは互いの間に転がっている『探求者の剣』を視界に納めると再び指示をするように腕を振るう。

 

「『行け』!」

 

稲光が発生。

全身鎧の雷兵が現れたと思えば、指揮棒を振るうように下から上へと―――剣を()()()()()。全身鎧の雷兵と入れ替わるように、今度は飛んで行く剣の元に狼の耳を持つ雷兵が出現。剣を取ると体を大きくひねって、迫りくる頭部、その眼球目がけて投げつける。

 

『―――――――――ッ!?』

 

 

雷を帯びた剣が眼球に突き刺さり爆発(スパーク)

ベルはその隙に、身体を低く低く倒して巨体の下に潜り込んだ。

そこで豪雨のように降り注いだ『光の矢』が戦場を破壊しつくした。振り返ったところで目に映るのは死んでいるとはいえ生えていた草木など跡形もない窪地(クレーター)の数々。小型の蠍達も巻き込まれ、肉片を、残骸を撒き散らせ、或いは竜巻に吸い込まれるように巻き上げられていきその姿を『灰』へと変えていた。

 

 

「フーッ、フーッ、フーーーーッ!」

 

暴れまわる心臓。

スピードは緩めるが足は止めず、胸を掴んで無理矢理呼吸を落ち着かせる。ホルスターから精神回復薬(マインドポーション)に口をつけ、流し込む。

 

(とりあえず生き延びた……!)

 

潰されない内に巨体の下を通り抜けようと、黒い獣の左前脚の辺りに進路を決める。

『竜巻』は依然、消えておらず黒い獣は元気いっぱい。

そして決めた進路へ向けて走行しているところを、()()()()()()()()

 

 

「―――――――ぇ」

 

一射目が終わって一分も経たず、空が強く光る。

その輝きはまるで、夜なのに昼になったかのよう。強烈なまでの月光の光は、その直下に存在する生命体たちの目を眩ませた。

それは巨体の下にいるベルだろうと例外ではなく、本能が()()()()()と警鐘を上げた。

 

 

第二射――『一点集束』。

 

それは、ゆっくりと落ちてきたように思えた。

撃ち放たれた『光』が、『夜』を切り裂きながら地上へと落下していく。それを目撃した生命体たちは己の時を凍結させる。受け入れがたい事象であると思考が止まり、おおよそ現実的でない光景に悪い夢だと思うものさえいたことだろう。そしてそれは、生命体たちが有り得ない現象であると思っていたからこその時間の凍結であり、地上へと着弾した衝撃と共に時間は再び動き出した。

 

『ガ、アアアアアアアアアアアアッ!?』

 

「あ、あああああああああああああああっ!?」

 

まるで巨人が槍を大地に突き落としたような光の柱が落ちてきた。ベルの進路方向――黒い獣の左前脚付近――へと着弾、爆発する。最早それは、『矢』に非ず。光線と表現する方が正しいほどの一撃。悲鳴を上げるのは怪物と人間。一瞬、ベルを退避させようと現れた雷兵がベルを投げるも強烈な光線に視界は『白』に埋め尽くされ、衝撃で右も左も前も後ろも分からずベルの小さな体は吹っ飛ばされた。

 

 

「あ、ぎぃ……がはっ、ごほっ………痛っ」

 

 

何度も転がり、身体を打ち付け、ようやく体を起こした時にベルが理解したのは自分が進路方向は全く違う方向―遺跡に近い黒い獣の後方―に吹っ飛ばされたということ。そして着弾地点すぐ近くにあった黒い獣の左前脚は蒸発し、残った血肉が煙を吹きだしていたということだった。ベルと共に上げられた悲鳴は紛れもなく黒い獣にとって致命打となりうるダメージを負ったがためのものだったのだ。

そして、ベル。

纏っている雷が忙しなくベルの身体を撫でるように奔り、傷を消していくが裂傷と火傷の痛みが襲っていた。

ここまでの一瞬、出来上がった光景に息を呑み、そして悟る。()()()()()()()()()()と。自分でも理解できていないほど、ひょっとしたらダメージを負っているのではないかと。或いは、雷兵がベルを守ろうと動いてくれていなければ今目の前で煙を上げている怪物の肉体のように蒸発しているのではないかと。故に、魔法を解除するわけにはいかない。

 

 

「狙われてる……確実に」

 

 

肉の焼ける匂いが鼻孔をくすぐる。

決して食欲をくすぐるような匂いではなく、鼻を摘まみたくなるような不快な匂い。

けれど、今の強烈な一撃で『竜巻』は消え去っていた。ならばこれにてベルの『囮』としての役割は終わり。直ちに、輝夜やヒュアキントス達が援軍として突撃してくることだろう。

 

 

「僕の仕事は、ひとまずお終い……あとは輝夜さん達が…………ぇ?」

 

 

行動停止する怪物を他所に頭上を仰いで、やり遂げたような達成感をわずかに抱き荒い息を吐いて、マリューが到着すれば治療をしてもらい魔法を解除しよう。そう考えて、ベルは凍り付いた。

何故なら、見上げる空の向こう――つまりは、上空には、そんなベルの安堵を嘲笑うかのように()()()()()()()()()のが見えたからだ。

 

 

 

 

第三射目――第二射発射後すぐ再装填。

次弾、再び『一点集束』。

 

 

 

絶望に染まるのを他所にベルの後方にて沈黙を貫く『遺跡』が、怪物を封印していた『檻』が破壊される。

 

 

 

×   ×   ×

エルソス―『竜巻』外部。

 

 

第二射が撃ち落されるのを、アルテミス、アポロン、そして三柱の神の眷族達が怪物達と戦いながらも確認する。第一射と共に降り注いできたのは、『光の矢』だけにとどまらず、『竜巻』に巻き込まれた蠍の亡骸や生きた蠍そのもの。これによって冒険者達は混戦を強いられた。『光の矢』を回避しながらの戦闘に最初は混乱に飲まれた冒険者は、それでも対応してみせた。魔炎が焼き払い、斬撃が軌跡を描き、光輝の円盤が敵を薙ぎ払、傷ついた者には癒しの光が授けられた。その行動の切り替えの早さは流石の『オラリオ』の冒険者といったところか。地上のモンスターとは質が明らかに違うダンジョンで日々命を燃やす彼等は、異常事態における対処が地上で活動する神の眷族よりも速いのだろう。一射目が収まり、神々しいまでの光は消え失せ夜闇が地上を塗り替えていく。第一戦の終わりに一同は安堵の溜息をついたけれど、一分と待たずに次に発射された第二射は『散弾』ではなく、『一点集束』。まさしく『オリオンの矢』だけを狙った狙撃だった。

 

「まるで神の送還だな」

 

そんな言葉は誰の口から出たのか、戦慄に染まる神々と眷族達。

まるでこちらの作戦を読むかのように、アンタレスは下界に撃ち落される『完成されたアルテミスの矢』よりも劣るが強力なものを撃ち落としてきたのだ。まさしく神の送還時に発生する光の柱の如き一矢。巨竜の絶叫のような轟音とは別。いっそ星そのものが落ちてきたような大爆音に誰もが耳を抑え、衝撃に吹っ飛ばされないようにある者は身体を低くし、ある者は得物を地に突き刺して踏ん張り、ある者は木に、ある者は岩にしがみつく。

 

音と光が消えて落ち着いた頃。

冒険者達は互いの安否を確認し合いながら、先程まであって巨大な『竜巻』が消失していることを確認。

そして再び夜闇が地上を染めていく。

ゴクリ、と誰もが喉を鳴らし空洞音のような怪物の呻き声が獣人達の耳に入り、「敵は生きているぞ」という囁きが木霊する。

 

「しかし、竜巻は消えた。ならば当初の作戦通り……」

 

「……ベルは無事なのか?」

 

「わからない、でも、行かなきゃ」

 

「行こう」

 

武器を取り、立ち上がり、一人の少年の元へ援軍に。

二柱の神は顔を合わせて頷いて、冒険者(こども)達の後に続く。続こうとした、その時。

夜なのに昼になったかのように、下界を光が覆いつくす。

 

 

第三射目――『一点集束』。

 

 

 

「「「――――は?」」」

 

 

二射目が終わってすぐの、余りにも早い次弾装填。

誰もが凍り付く、行動を止める。

天上におわしますは、神々しく輝く『偽りの三日月』にして、『アルテミスの矢』。光が集束されていく光景に、女神が、男神が、冒険者達が、悪寒と共に混乱に飲み込まれる。

 

 

「早すぎる!?」

 

「ベヒーモスごとやってくれれば御の字とは言ったが、これほどとは!?」

 

「…………くそっ!」

 

凍り付いた面々。

その中から最初に意志の炎を滾らせ、走り出したのは剣客(かぐや)だった。派閥中白兵戦で最も強いと言われる所以を見せつけるように進先にいる怪物達を斬り捨てながら彼女は疾走する。

 

「ま、待て、【大和竜胆】!?」

 

「か、輝夜ちゃん!?」

 

「盾持ちはさっさと来い! 前衛攻役(アタッカー)にあれを対処させる気か!?」

 

「っ……くそぉっ!?」

 

走り出した輝夜にファルガーとマリューが叫び、輝夜の怒声に意を決したように走り出す。やがて辿り着いた場所にて冒険者達が視界に納めるのは焼け野原同然の地獄絵図もかくやという光景。

 

 

「ベヒーモスだったか……?」

 

確認するように、言葉が漏れた。

震える瞳に映るのは、確かな巨体を持つ『黒き獣』。

 

「うっ……酷い臭い……!」

 

鼻を口を覆うようにして、目を細める。

腐臭を始めとしたあらゆる汚臭がそこにはあった。岩盤さえ焼け焦がして出来上がった複数の窪地(クレーター)は未だに火を燻ぶらせており、巨体の肉は絶えず煙を吹きだしている。冒険者達が更に驚愕に取りつかれるのは、その巨体の怪物たるベヒーモスが未だ、それでもなお()()()()()ということだった。呻いている、血を吹き出している。瀕死なのは見ればわかる。それでも、それは生きていた。驚異的な生命力が『死』を許してはくれないのだ。

 

 

「ベル……ベルッ!」

 

 

黒髪を振り乱し、辺りを見渡す輝夜は声を上げてベルの名を叫ぶ。続けて、マリューとリャーナもまた同じく。けれど返事はなく、聞こえてくるのは肉の焼ける音、風が吹き抜けて聞こえる空洞音、怪物の呻き声。

 

 

『ォ………ォオオオ………ッ!』

 

 

破壊されつくし立ち上がることもできない黒き獣が吠える。毒素を含む血液を吹き出しながら、目の前に現れた冒険者達に『苦悶』と『怒り』と『殺意』を以て自身の存在を主張する。その怪物の眼窩には、『鏡』のような剣身―『探求者の剣』が突き刺さっていた。

 

 

「オリオン!」

 

「!」

 

女神の高らかな声に、輝夜達がベヒーモスから視線を切り声の方へと向ける。そこに、彼はいた。少年はいた。弱々しく蠢く雷に身を包まれながら意識を失っている『正義』の眷族。その末席の少年がいた。アルテミスに抱き上げられ、身体を揺らされ声をかけられるが返事はなく動かない。だらり、と下がった腕から『オリオンの矢』が落ち、瑞々しく少し筋肉の付き始めた細腕は()()()()()()()。魔法によるダメージの後回しという効果が魔法が弱まってしまったがだめに追いついていないのだろう。

 

「三射目の時に、あそこまで吹っ飛ばされたのか?」

 

ベヒーモスは『遺跡』へと続く道を塞ぐようにいた。そしてベルはそのベヒーモスの後方で倒れている。さらに後方、『遺跡』そのものは、()()()()()()()され巨大な窪地(クレーター)が出来上がっていた。治療師のマリューが走り、治癒魔法を行使するのを見守りながら輝夜は呟くように声を漏らした。『遺跡』が破壊されている。それは誰もが見れば理解できることだ。けれど、自分のいる場所を破壊するような馬鹿真似をするのかという疑問が同時に生まれる。ここまでのことをした『アンタレス』というモンスターは、()()()()()。のであれば、わざわざ自分を危険に晒すようなことをするとは輝夜は思えなかった。

 

 

「誘っているのか……」

 

 

眷族に守られるようにして追いついてきたアポロンが、そんな輝夜の思考を読み取るように呟く。その顔に輝夜の知る『馬鹿な神』の一面はない。

 

 

「ベル君は無事かい?」

 

「あれが無事に見えます?」

 

マリューを始めとした治療師達に治療されるベルの身体は煙を上げていた。『冒険』というよりも『無謀』をさせるに至った結果だと言うように輝夜は神を睨むように、けれどベルに任せるしかなかった無力感を呪うように輝夜は、それでも猫を被って言葉を紡ぐ。アポロンはそれに対して何を言うでもなくベヒーモスへと目を向けた。

 

 

「あれではもう、毒を吐くことはできないだろう……さすがアルテミス。狩猟の女神の一矢は確かに獣の権能を射抜き破壊したようだ」

 

「?」

 

何故ここで女神を褒める? そんな疑問に訝し気な顔をする輝夜はベルの元へ行くと膝を付き、意識のない少年の前髪を掻き分けるように頭を撫でる。そんな星乙女達を見やりながら、アポロンは己の眷族達がベヒーモスの後処理に動こうとしているのを確認し、確かにベルがベヒーモスと戦っていたことを眼窩に突き刺さったままの剣を見やりながら賛辞する。

 

 

「見事、見事だベルきゅん……。逃げていればいいとは言ったが、私達の予想だにしない攻撃によくぞ耐えてくれた。見事な成果と言っていい」

 

 

瞼を閉じ、神々だけで躱した『提案』を思い返す。

目覚めない少年相手に行使するか、或いは()()()()()()()に行使するかをアポロンは決めあぐねる。その『提案』はアルテミスも嬉々として受け入れられるものでは決してなく、この旅を否定するに値する結末が故だからだ。

 

 

「アルテミスとアストレアはよく比較される。だからこそ、アストレアは今回、アルテミスとベルきゅんの旅に同行するわけにはいかなかった」

 

同行すれば、ベルはきっとアストレアを一番に選んでしまうからだ。そうなれば絆など深まる筈もなく中途半端な『オリオンの矢』では威力は発揮されることはない。

 

 

「さて、どうしたものかな」

 

 

下界を照らす『偽物の三日月』を見つめながら、アポロンは思考を巡らせる。結末はもうすぐ。結果は『最悪』。手段によっては『最低』となることを神々だけが知っている。


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