はじまり①
よく、夢を見る。
会ったこともない人達が、心底嬉しそうに話すそんな夢を。
「これで私達は救われる。」
「これで私達は報われる。」
誰かが、膨らんだお腹を柔らかな笑みを浮かべて優しく撫でて、そんなことを言う。
「どうか私達の分まで健やかに育ちますように。悪い神様に見つかりませんように。」
先のない未来を託すように、或いは、自分達の分まで生きてくれと誰かが言う。
―――さぁ、早く。早く。早く。早く。
早く産まれていらっしゃい。貴方をこの腕に抱かせてちょうだい―――早く、貴方に逢いたい。
愛し合う2人の間から産まれる子供に誰かが、待ち遠しそうにそう言う。
「きっと私達は貴方の傍にはいてあげられない。けれど、私達は貴方のすべてを信じています。
貴方のすべてを、私達は愛しています。今は何もない
少し時間が経って、待ちに待った子供が産まれた。
「こんな幸運はめったにないぞ■■■■■。頑張ったなぁ、偉い、偉いぞぉ」
「この子はきっと『最後の■■』に違いない!」
「やめろ、私達の業を引き継がせるようなことを言うな」
「でも、ちゃんと産まれてきてくれた。それだけでも十分俺達にとっては■■さ」
「■■はいる?」
「いや、いない・・・というか、お前が孕んでいたこと自体知らんだろう。知っていたら今頃・・・」
「ああ、聞きたくない、聞きたくないわ姉さん。そもそも、あの
産まれてきた子を優しく抱いて、嬉しそうな顔をする誰かが子を揺り籠へと乗せてもらって寝顔を眺めながら、微笑む。
「素敵な人に出逢いなさい」
「好きなものを見つけなさい」
「愛せる誰かに尽くしなさい」
「誰かの涙を拭ってあげなさい」
それはよくある、産まれた子供が将来こんな人になってくれたらいいな。というものなんだろうと思う。周りにいる人達も、嬉しそうに、或いは少し悲しそうに微笑んでいた。
「『
ぽろぽろ、と涙を零す誰か。
ごめんなさい、ごめんなさいと小さく零す。
『家族』を教えてあげられなくてごめんなさい。
『親』を教えてあげられなくてごめんなさい。
『愛』を教えてあげられなくてごめんなさい。
『親』として何もしてあげられなくてごめんなさい。
「・・・だから、多くは望みません。■■■■になりなさい。」
ふわり、と風が入り込んでカーテンが揺れてそこでいつも夢が終わる。
優しくて、細い指で撫でられながら「忘れないで、私達はいつだって貴方と共にある」なんて言葉を送って夢は消えていく。
× × ×
夕暮れの帰り道。
周囲にはのどかな街の風景が広がっていた。
西の彼方に沈もうとする日の光によって、灰色に近い石畳から、建造物は茜色に染められていく。昼の喧騒とは違って、これから夜の街へと切り替わっていくのだろう。剣や弓、槌や槍、杖や盾などを装備している人間達、或いは土埃や油で汚れた衣類を着用している人間達は1日の終わりをどこで過ごそうかと賑やかに通りを歩いている。
辺りをぼんやりと眺めていたベルは、そこでふと、自分を背負っている人物に目を向ける。
目が覚めるような美しい女性だ。
髪は灰色で、長い。
彼女は薄汚いと嫌っているようだが、ベルは好きだった。
瞼は常に閉じられている。
目を開けずどうして生活できるのだろうといつも不思議に思っているが、彼女が言うには「瞼を開けることですら疲れる」のだそうだ。
身に纏う漆黒のドレスはこんな街中にあって、酷く異彩を放っている。
何せ、この街の中でドレスを普段から着用している人物なんて女神達を除けば彼女くらいだと思うからだ。
見れば見るほど美しい女性だった。
彼女は、ベルが起きたことに気が付いて視線を後ろに向けるように首を回す。
夕日に照らされた彼女の横顔は、やはり美しい。
「ようやく、起きたか」
「ん・・・おはよ、ございます」
「ああ、おはよう」
治療院の帰り道だった。
アルフィアと、ベルの父親と同じ
「あの【ディアンケヒト・ファミリア】の娘・・・診察中に眠っているお前を見て唖然としていたぞ?」
「ペタペタ冷たいし、くすぐったかったから・・・ううん、朝も早かったし」
「まあ、オラリオに来てまだ2ヶ月ほどなのだから疲れがたまっていても仕方ないか」
しかし、とアルフィアは笑みを浮かべる。
何せ、診察をしてくれた治療院の少女は11歳でとても小柄で、現在世話になっている
何より、珍妙だったのがいくら『恩恵』を持ったからと言って、その小柄な少女が6歳の少年の胸に聴診器を当てたりしているのだから、これを笑うなというほうが無理があった。珍妙すぎる光景だ。所謂、『お医者さんごっこ』状態だった。
「お前の診察だというのに、本人が寝てどうする」
「うぅ・・・」
「まあいい、帰ったらちゃんと薬を飲んでおけ」
「はぁい」
ベルはよく体調を崩す。
ベルが5歳の頃にアルフィア達は出会ったが、2人の命がベルが大人になるまでもたないことや、ベル自身が見る『夢』のことで精神的に追い詰められてしまったが故に、よく体調を崩すようになってしまったのだ。2人がいついなくなってしまうか分からない、だから良い子でいなきゃいけない、2人を困らせたくない、そんなことを思っては不思議な夢を見て「英雄にならなきゃいけない」となぜかそう思うようになって、けれど才能も素質もなくて、勝手に追い詰められた。アルフィア達はそんなベルを心配して、さすがに放置はできないとオラリオに行くことを決めて現在、オラリオにいる。もしかしたら、自分と同じく不治の病を患っているのではないか、という懸念もあったのだがそれをアルフィアが口にすることはなかった。そんなことを言ってベルを余計に追い詰めたらそれこそアルフィアは自分がどうにかなってしまいそうだったからだ。
「良かったな、病気ではなくて」
「・・・・うん」
「まったく・・・お前はそもそも良い子なんだから、気にするな」
子供は親に迷惑をかけるものだ、10もいってない子供に気を遣われるなんてたまったもんじゃない。愚痴を零すアルフィアは、けれど、ベルには自分と妹に宿った病魔が現れてはいなかったことに安堵でいっぱいだった。勿論、「100%」という言葉は、不完全たる下界の住人である治療師の少女の口から出ることはなかったから、後天的に病を患うという可能性もあるにはあるのだが。それでも、健康な体であることほど嬉しいことはなかった。ベルが病弱になってしまったのは精神的なものであり、やがては解決するだろう・・・というのが結論だった。
「しかし、早めに出たのにすっかり夕方だ」
「僕が寝ちゃったせい?」
「いや、朝早かったのもある・・・何より、まだ6歳のお前には長時間の拘束は身体に堪えたのだろう」
治療院はいついっても人が多かった。
怪我人もいれば、定期健診で来る者もいる。
別段急ぎでもないから待ってはいたが、1時間以上も待たされた。
同じ場所にずっといるのは、大人でも飽きてくるし余計に疲れるのだから子供が眠ってしまうのは仕方がないことだ。泣き出してしまうよりはマシ、と思うしかなかった。
アルフィアは一度ベルを跳ねさせて持ち直すと、話題を変える。
「何か、夢でも見ていたのか?」
「・・・・うん」
ベルはよく、おかしな夢を見るのだという。
別段、怖いと感じたわけではない。
どちらかといえば、のどかだ。
顔はよく見えないし、自分よりも大きい人間が自分を見下ろしてきて何かを語りかけてくるのだ。アルフィアはその話を聞いた時、妹の腹の中にいるころの話と、出産後の話であると気づいた。この子が知っているはずがない、私達の会話を、この子はおぼろげながら覚えている・・・と戦慄したくらいだ。
「早く、早く、早く、って」
「・・・・・そうか」
「何か・・・しなさいって」
「・・・・・そうか」
「ごめんなさい・・・って」
「・・・・・そうか」
おぼろげだから、ベルは曖昧にしかわからない。
それが実母からの言葉なのかも、わからないのだ。
ただ、それらがベルを焦らせてしまっていた。
アルフィア達の命がいつ終わるかわからないということも相まって、焦らせてしまうのだ。
2人が生きている間にベルは大人になれるのだろうか、とか。
独りぼっちになってしまったら、自分はどうなってしまうのだろうか、とか。
残された時間がわからないから、早く英雄にならなきゃいけない。
英雄になって、2人を喜ばせなきゃいけない。
もういない家族に、誇りに思われるように生きなきゃいけない。
そう、思うようになってしまっていた。
だから、アルフィアもザルドも、もっと言えば一緒に暮らしていたゼウスも悲しんだ。
「お姉ちゃんたち、帰ってるかな?」
「さぁ・・・どうだろうな。小娘共は毎日ご苦労な事だ、都市中を駆け回って秩序を守って」
「やっぱり痛いのかな」
「神経があるのだから、痛いに決まっているだろう?」
「そっか・・・痛いんだ。痛いのは、やだなぁ」
「痛いのが嫌なら、せいぜい平穏に暮らせ。冒険者なんぞにならずにな」
「・・・・・・」
アルフィアは、ベルが冒険者になるのを反対している。
どうせなるのだろうが、平穏に暮らしてほしいというのが本音というもの。
消えない傷でもついてしまったら、妹になんて言われるかわかったもんじゃないし。
「ねぇ、おかあさん?」
「ん?」
「ぼくの、ほんとうのお母さんって、どんな人だったの?」
これも何度も聞かれたことだ。
ベルは母親のことを何も知らない。
物心ついた時は、側にいたのは祖父だけだった。
悲しい、と思ったかはわからない。だが、寂しい、と思ったことはある。
でも、今はもう大丈夫だ。
ベルにはアルフィア達がいるから。
オラリオに来て、新しい『家族』もできたから。
でも、でも・・・・アルフィア達がいなくなったら、と思うとどうしようもないくらい怖くなる。
純粋な疑問だ。
実母のことが、何でもいいから、知りたかった。
ベルの母親のことを一番よく知っている彼女に、聞いてみたかった。
彼女はベルを下ろすと小さな手を握ってゆっくりと歩き出す。
「・・・・」
何度もしたのに、何度も聞くのか。
とは、言わなかったし言えなかった。
くどい、と言えばきっとベルはもう母親のことを聞こうとはしないのだろう。
言いたくない、と言えばきっとベルはアルフィアに気を遣って口を開くことはしないだろう。
だけど、アルフィアはゆっくりと唇を開く。
顔も声も知らずとも、覚えていて欲しかったから。
「優しいやつだった」
「やさしい?」
「ああ。いつも笑みを浮かべ、ただいるだけで他者の心を解きほぐした。病弱で、しかし儚さを感じさせず、普通のことを言っているだけなのに、あぁそうかと間違いを気付かせてくれる。不思議と誰からも愛される、とても白い女だった」
「しろい・・・僕の髪と、一緒?」
「ああ、一緒だ・・・お前の髪も表情も、母親譲りだ」
アルフィアの声音は穏やかで、いつになく口数が多く、その口元には笑みの気配すらある。
そこには確かな愛があった。
「誰かの手を借りなければ生きられなかったからこそ、お前の母親は『生きる』ことの尊さを忘れなかった。己を卑下せず、感謝を忘れず、地獄のような苦痛にも屈せず……笑みを浮かべながら、今を生きることを誰よりも噛みしめていた」
だからこそ、お前の母親は誰よりも優しかった、と。
結局お前が私と同じ病を持たずにいられたのは、他でもない母親のおかげなのだと、アルフィアは言った。
いずれ、ベルは母親の出てくる夢を見ることもなくなって、忘れてしまうだろう。
そもそも、赤子の頃のことを覚えているほうがおかしいと言ってもいいくらいだ。
だから、忘れること自体は悪いことではないのだと、アルフィアはベルのいう夢の話をそう片付ける。
「お義母さんとそっくり?」
「私とか? さて、どうだったかな」
「叔父さんが、アルフィアお義母さんは双子だって」
「・・・・・」
「お義母さんが黒色だから、お母さんはきっと白色だね」
なんの話だ、と言おうと思ったがそれはすぐに分かった。
ドレスだ。
ドレスの色だ。
漆黒のドレスがアルフィアなら、純白のドレスはメーテリア。
「ふふ、もしあいつが生きていたら、すごい光景だろうな」
2人の双子の女と手を繋いで歩く、白髪の男の子。
そんな光景が、アルフィアの中で思い浮かぶ。
でもやっぱりそんなあり得ない光景は珍妙というか、おかしいというか、つい笑みが零れてしまう。
視線の先にいよいよ本拠が見えてきた。
「お前が望まずとも、別れは必ず訪れる。ベル・・・何度も言うが、決してそれを忘れるな」
「・・・・」
「お前が永遠を願っても、神ならざる我々では叶えられない。私たちは不変ではないからだ。ずっと一緒にいることは、できない」
「・・・・」
いずれ、『お別れ』はくるのだろう。
ベルはそう思った。
だって、アルフィアの咳の数は増えていた。
誰もいない場所で彼女がよく咳き込んでいることを、ベルは知っていた。
その中に赤い血が交ざっていることも、知っている。
いつ終わりがくるか分からないから、アルフィア達がこうして『お別れ』がくることを忘れるなと言ってくる。でもベルは、そんなことを言ってほしくはなかった。
アルフィアがいて、ザルドがいて、ゼウスは・・・何やら女神達のお風呂を覗いたとかでオラリオには行けないと言っていたけれど、それでも『家族』とずっと一緒にいてほしいと思ってしまう。
「ほら、また泣く・・・まったく、男だろう、簡単に泣くな」
「だ、て・・・」
必死に涙を零すのを堪える。
でも視界が滲んでしまっていて、きっとベルは今にも喚いてしまうだろう。
アルフィアがそんなベルが、まだ『死別』なんて理解できないベルが、いたたまれなくて、目線を合わせるようにしゃがみ込んで抱き上げた。震えるベルの背中をぽんぽんと叩いて、あやす。壊れないように。
ベルは今年で6歳になる。
アルフィア達と出会って2年。
いつかもわからない別れの時が迫っている。
だから、ベルは2人に誇りに思ってもらいたくて、安心してもらいたくて、必死だった。
どうすればいいのか幼いなりに考えて、一番わかりやすかったのが、『英雄』だった。
だから、ベルは英雄にならなきゃいけないと思うようになった。
アルフィア達が成し遂げることができなかった黒竜討伐を成し遂げれば、きっと、彼女達は救われるとそう思ってしまった。
会話が途絶える。
視界の全てが黄昏に染まっていく。
泣き虫なベルは結局また抱き上げられて、抱いてくれている彼女にしがみついて涙を止めることもできず静かに泣いてしまう。張り裂けそうな胸の痛みに耐える方法さえわからず、縋るように、遠くへ行ってしまわないようにアルフィアにしがみついていた。
遠い所から、時刻を教えるための鐘の音が聞こえる。
ベルの大好きな音だ。
アルフィアはよく魔法でゼウスを吹っ飛ばして家を破壊してしまうが、それでも大好きな音であることに違いはなかった。
すぐ近くから、最近お世話になっている新しい『家族』の声もする。
どうやら、先に帰って来ていたらしい。
「夢のような日々はいつかきっと終わる。お前はきっと悲しむだろう、苦しむだろう・・・・けれど、どれほど辛い別れでも、輝くものはきっとある」
「・・・・っ」
「だから、もう少しだけ、一緒にいよう」
「・・・うんっ」
ベルは止まらない涙をどう止めたらいいのかもわからず、アルフィアの顔を真っ直ぐ見つめた。
そこには瞼が開かれ、美しいアルフィアの双眸がベルのことを見つめ、微笑を贈られて細指で涙を拭われた。
「さて、今日の夕食はなんだろうな」
「叔父さん、来てる?」
「小娘共が頼んでいたから、作ってはいるんじゃないか?」
「一緒に食べればいいのに」
「若い娘と一緒にいると、大の男は肩身が狭いんだよ。分かってやれ」
「うーん」
「ベェエエルゥゥゥゥ、ただいま! おかえり! 癒して!!」
「むぎゅっ!?」
「喧しい」
本拠がもうあと数歩のところで、待っていただろう少女達の1人が赤い髪を揺らして猛進。
アルフィアに抱きかかえられているベルを背後から抱きしめた。
それをアルフィアが、肌に止まった蚊でもはたき落すかのように手刀を繰り出した。
少女は顔を抑えて地面に倒れ込み悲鳴を上げて悶え苦しんだ。
「ア、アリーゼさぁん!?」
「痛い痛い痛い痛い!?」
「はぁ、Lv.3は貧弱だな・・・将来が心配だ」
「だ、大丈夫よ!? 日々ザルドの美味しいご飯を食べて育っているからネ!」
「・・・・・少し太ったか?」
「ぐふぅっ!?」
冷たい眼差しを贈られたアリーゼはお腹を押さえた。
違うの、ちゃんと動いてるから!?
火は通ってるから、実質カロリーオフって誰かが言ってたから!?
むしろ食べておかないと冒険者は身が付かないっていうか!?
必死に言い訳する。
心なしか後ろにいた団員達も似たり寄ったりだ。
「ちゃんと食べて、ちゃんと動いてるから問題ないわ! ええ、ないわ! おっぱいが育ってきてるっていう嬉しいことはあるけど!」
「それは全体的に大きくなっているのではないか?」
「ち、違うわよ・・・ベルだって大きいのが好きでしょ?」
「?」
「やめろ、この子に下世話な話をするな。穢れる」
「け、穢れ!? そこまで!? 将来的には私達の・・・」
「歳の差を考えろ、阿呆」
「だ、だって!? ベルより可愛い子いないでしょ!?」
「・・・・・それは認める」
「お義母さん、何の話をしているの?」
「ベルには関係ない」
「ベルには関係ないわ」
アルフィアの腕から降ろされたベルは、わけわかめになって悲しかったことも忘れて首を傾げて本拠の中に入って行ってしまう。息子が可愛くて仕方がないアルフィアと、アルフィアが連れてきた男の子が可愛くて仕方がないのと出会いに恵まれなくて「いっそこの機会だから自分好みに男の子を育てればいいのでは」などと思い始めた残念な少女達。疲れて帰ってくればもふもふとした白髪の少年という癒しが待っているのだから、即落ちだった。
「はぁ、ベルが欲しければ強くなってみせろ」
「・・・・・も、もちろんよ」
「私がいなくなった後、お前達があの子の『家族』なんだ。あの子を置いて死んでみろ、殺すからな」
「ひぇっ」
死んだら殺す。
その言葉のもと、今の『家族』である【アストレア・ファミリア】はことあるごとにアルフィアによって徹底的に苛め抜かれていた。死んだ魚の目をして帰ってきて、ベルを撫で繰り回して精神回復して、また死んだ魚の目をして帰ってくるのだ。まさか、街中で親子で【ファミリア】探しをしているアルフィア達に声をかけて「まぁこいつらならいいか?」と勧誘に成功してみれば、まさかのLv.7である。上位経験値とはいえ、最凶さんがやってきて女神も眷族も驚いたものだ。
言うだけ言ってアルフィアも本拠に入って行き団員達も中に入って、アリーゼも入って行った。
本拠の中では、また泣いていたと見抜かれたベルが顔を真っ赤にして女神から逃げようとして捕まって膝の上で丸い頬をぷにぷにと突かれたり、摘ままれたり。今日一日の仕事を終えた少女達に頭を撫で繰り回されていた。
アルフィア達の死後、ベルが独りぼっちになってしまうと心配したアルフィア達は治療院にベルを診てもらうのと同時に【ファミリア】探しをした。
ただ・・・
「【フレイヤ・ファミリア】」
「論外、搾りかすにされるし性格が悪くなったらどうする」
「まぁ論外だな・・・【ロキ・ファミリア】はどうだ? 団員数もいるぞ」
「あそこにはベルより年上だが幼女がいるらしい」
「ほう・・・ならそっちにするのか」
「いいや。なんだか気に入らなかったからダメだ」
「幼女関係なくないか?」
「・・・・そもそもあいつらは私達を追放した側だろう。誰が好き好んでベルを託す?」
「はぁ、やれやれ」
そんなやり取りをしていたことがあった。
結局どこもかしこもアルフィアが「ここなら」と思えるところはなく、なんなら知らない派閥もあったから悩んだものだった。そんなときに声をかけてきたのが、【アストレア・ファミリア】だった。結局はベルが彼女達に懐いてしまったものだから、2人の保護者はもうここでいいか、と。都市の秩序に貢献している『正義』を司る眷族達なら、託してもいいか、とそう思ったのだ。
ベル・クラネル6歳
恩恵は、まだない。