アーネンエルベの兎   作:二ベル

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アストラルボルト⑤

 

 

「アミッドさん、匿ってください!」

 

「――――――話を、聞きましょう。扉を、閉めて頂けますか?」

 

 

開口一番。

アミッドの元にやって来たベルは勢いよく扉を開け放ち、そう言った。着替え中らしく下着姿の少女は「またですか」と慣れたように溜息を吐き、着替えを済ませる。その後で、そう、軽くお説教をしてやるのだ。

 

 

「えと、フレイヤ様から貰った大切な魔導書(もの)を僕、アストレア様と逢瀬(デート)があったから置いてて」

 

「ええ」

 

「そのことすっかり忘れちゃってて…リャーナさんが紙袋に入れて僕のだってわかるように名前も書いててくれていたみたいなんですけど」

 

「はい」

 

「その、リューさん……が見ちゃったらしくて」

 

「はあ」

 

アミッドはベルの口から、『いつもの』というべきか【アストレア・ファミリア】の茶番(日常)を聞かされることとなった。

 

 

×   ×   ×

時は少し遡って昨晩。

 

 

 

「ベル、あんた忘れていること、ない?」

 

「忘れていること?」

 

アストレアとの逢瀬から1日明けて2日後のこと。女神共々、時々にへらっとだらしない笑みを浮かべる弟分に苦笑を浮かべる姉達の中、魔術師のリャーナが言った。

 

「ベルの私物でしょう? 堂々と置いていったのは……まあ、ベルが気にしないなら私もあえて触れないでおくけど…」

 

「んー?」

 

「本よ、本。ぶあっついの。置いていったでしょ? 誰のかわからなくな……ることはないだろうけど、紙袋に入れて名前、書いておいたんだけど? 神室に勝手に入るわけにもいかないから団欒室に置いてあるんだけど」

 

「あ」

 

リャーナに言われてようやっと思い出したベル。そう、ベルはアルフィアを喪ってからアストレアと同じ部屋で過ごしている。当時のベルを1人にしていられなかったとか、見ていられなかったとか、色々な思いもあって同室で過ごさせるようになったわけだけれど、とはいえ、主神の部屋に勝手に入るわけにもいかない。なら団欒室に置いておけば気付くだろうと思っていたのだが、この子兎、すっかり忘れていたのだ。まったく、と溜息を吐いたリャーナは苦笑を浮かべつつも「誰もとったりしないから、ちゃんと回収しときなよ」と言うとベルはとことこと団欒室に向って行った。

 

「ベルに()()()()()()があったなんて、知らなかったなあ」

 

そんなしみじみとした声がベルの背中にかかった気がしたが、ベルにはよく聞こえていなかった。

 

 

団欒室に入ったベルはテーブルのど真ん中に置かれた「べるの」と可愛らしい筆致で記された紙袋を発見。リャーナさんの字って可愛いんだなあなんて感想を覚えながらも、その中にしっかり分厚い、魔導書(グリモア)があることを確認。アストレアはイスカ達と孤児院に出かけていてまだ帰ってきていない手前すぐにステイタスを更新してもらうことはできないが、それでもどんな魔法が発現するのか楽しみであり自然と口元がにやけてしまう。年相応の少年らしい、未知へのワクワクである。

 

「―――ベル」

 

そこに、1人のエルフが声をかける。リューだ。美しい金の長髪に、空色の瞳にして【ロキ・ファミリア】のリヴェリアをも唸らせるほどの並行詠唱の達人。まるでベルのことを待っていたかのようにリューが声をかけてきたのだ。

 

「リューさん? どうしたんですか?」

 

若干、長く尖った特徴的な耳が垂れ下がっていることから落ち込んでいるように見えたベルは「また輝夜さんと喧嘩して言い負かされたのかな」と思った。逆にリューは内心、複雑な思いを抱いていた。無理もない、彼女は偶然にも放置されていた本を表紙だけとはいえ見てしまったのだ。アルフィアがいた時から皆で可愛がっていた弟分。初めて派閥に加わった男というのもあり、ムサイ男性冒険者が多い中、可愛い系は希少というのもプラスされてそれはもう猫かわいがりだ。良い子であるベルはリューにとっても『唯一触れることのできる異性』というのもあって特に意識してしまいやすい。そんな、そんな処女雪の中を走り回る可愛い可愛い白兎(おとうと)の意外な一面……いや、覚醒を知ってしまったかもしれないのだ。仮にも『正義』を司る女神の眷族が目覚めてしまったかもしれない歪んだ『性癖』を知り、その対象は自分かもしれないという『戸惑い』。同胞(金髪エルフ)に被害がいくくらいなら私が犠牲に……という覚悟。勝手に覗いてしまったという行為に対して潔癖なエルフとして抱いてしまう罪悪感。彼女の心は、複雑であった。けれども何とか平静を装って―装いきれていないが―自身が座っている長椅子(ソファ)の隣を軽く叩いて座るように促して口を開く。

 

「その、あの……如何わしい書物(それ)は貴方の物で間違いないのですね?」

 

「え、あ……はい、魔導書(これ)は僕のです!」

 

「ちなみに、それは…何処(どこ)で?」

 

どこでこのような、如何わしい書物を手に入れたのかリューは姉として保護者の1人として知っておかなくてはならなかった。恩恵を刻み冒険者となれば、飲酒だって許されるため大人としての扱いは受けるのだろうが、それでも彼はまだ『子供』なのだ。未熟な身体であり、精神であり―リュー自身未熟者という自覚もあるが―未成年の手に渡ってしまったことは、その店に指導を入れるなりする必要性が大いにあるとリューは思うのだ。別に、店の前に立ち、いきなり【ルミノス・ウィンド】ぶち込んでやろうとか、そんなことは思っていない。

 

「えっと、フレイヤ様からですけど」

 

「!?」

 

美の女神から頂戴した『卑猥(えっち)な本』。リューはそう解釈した。フレイヤがベルを特別目にかけて気に入っているらしいことは派閥内でも周知の事実。デメテルも含め他の女神達にも気に入られていることはわかっているが、操やら貞操やら、とにかくそういった部分ではフレイヤはダントツで警戒すべき対象なのだ。そんな女神から、頂戴してしまったのだ、この子兎は。リューの脳は高速で回転し、闇派閥にトラウマを植え付けるレベルの並行詠唱を披露するかの如く、『兎に高度な性教育(手ほどき)を施す美神』の絵面が、いや、一つのお話が出来上がっていた。生まれたままの姿を晒す美神があれやこれやと……というやつだ。

 

「りゅ、リューさん? 顔が赤いですけど…体調が悪いんじゃ…?」

 

「っっ、ゃ、い、イケナイ……それは、ダメだ…」

 

まずい、とにかく、まずい。

かの女神に何を教えられ、何に目覚めたのかはわからないが…とにかく、まずい。このままでは地上の金髪エルフが子兎に蹂躙されてしまうかもしれない。そう、きっと、彼はもう可愛かった子兎ではなく、兎の皮を被った獣になってしまったのだ。そんなのはダメだ、まだ間に合う。とにかく、とにかく何とか軌道修正しなくてはいけない……しかし、どうすれば…? いや待て、そういえば彼は数日前、アストレア様と逢瀬を…その日は帰ってこなかったし……ま、まさか!? アストレア様も彼に!?

 

リュー・リオン、大混乱である。

泣き喚く女神アストレアをこれでもかと責め立てる兎さん。そんなものを思い浮かべて、赤面し、ダラダラと汗を垂れ流す。膝の上に乗せた拳は汗ばんで、つい力んでしまう。もう彼は、手遅れなのかもしれない。そんなことを察してしまうくらいにはリューは混乱の境地に至っていた。

 

「ベ、ベル!」

 

「は、はい」

 

「あ、貴方も男性なら……じょ、女性は……ま、守るべき、だ」

 

「え? あ、はい…そうですね」

 

「わ、私達はその、貴方に守られるほど…よ、弱くはありませんが……そ、それでも、弱点がないわけでは、ない」

 

「う、ん? はい、そうですね? 叔父さんもお祖父ちゃんも言ってました、いつかお前も女を抱けば守ってやりたくなる気持ちも理解できるって」

 

ベルは瞼を閉じて叔父(ザルド)祖父(ゼウス)の顔を思い浮かべる。後ろから優しく抱きしめてやることがあればきっと理解できるだろう…と。幼いベルにはまだ理解できなかったことではあるが、そんなことを言っていた。なおゼウスは「普段強気な女ほど弱っている時にされると落ちやすい」と付け加えていた。お祖父ちゃん元気かなあ…ヘラのお祖母ちゃん?には会えたのかなぁ…どんな女神(ひと)なんだろう…なんて考えているベルとは逆にリューは目を開き動揺に動揺を重ねた。

 

「だ、抱く!? 【暴食】と神ゼウスは、お、幼子になんて教育を……!?」

 

【暴食】は常識人枠だと思っていたのに!! 【ロキ・ファミリア】共々、料理の手解きをしてもらった女性冒険者はそこそこいるし、だからこそ信頼していたのに!! 結局はヤツも性欲に飢えた獣だったのだ!! 女を後ろから力づくで、だだだ、抱いて泣かせ、他の男に奪われないように……!? などなど、リューは狼狽。

 

「ア、アルフィアは……そのことを、し、知って…?」

 

いやいやまさか。あのアルフィアが、「あの子を甘やかしてしまうのは仕方がないが、甘やかしすぎるなロクデナシにしかならん」と厳しくも彼女なりに優しかった完璧で究極の最凶の義母(マザー)が、そんな【ゼウス】の教えを許すはずがない。

 

「はい、お義母さんにその話をしたら、ああ、そうだなって」

 

「そんな馬鹿な……ッッ!!」

 

「うわぁ!?」

 

リューは驚きのあまり、隣に座るベルに顔を近づけた。それにビックリしたベルは後ろに仰け反り、そのまま倒れ込んだ。傍から見ればリューがベルを押し倒したようにさえ見える絵面がこの時、完成した。リューはベルを見降ろしながら馬鹿な馬鹿なと頭を左右に振る。その度に金の髪が揺れる。【ゼウス】の教えを【ヘラ】が許した…?そんなこと、あるわけが、あって良いわけがない! 何度も脳内で否定するがリューの瞼の裏では「☆(ゝω・)vキャピ」とかしちゃうあり得ざるアルフィアが浮かんできて、たちまち鳥肌を立たせた。

 

「リューさん、本当にどうしたんですか!? 変ですよ!?」

 

「わ、私は変なエルフではない!」

 

「そこまで言ってないです!!」

 

もし、もしここにアリーゼや輝夜、ライラ達がいれば「旧末っ子と現末っ子がなんかやっているわ」とか言ってとりあえずこのお馬鹿(ポンコツ)同士の茶番を飽きるまで見守っていたことだろう。だが残念ながらこの時、彼女達はまだ留守にしていた。なんでもここ数日、ダイダロス通りにて不審火が相次いでいるとのことで目を光らせているのだという。

 

「ベル、お願いだ。他の金髪妖精(じょせい)には手を出さないで欲しい……!」

 

「な、何の話ですか!?」

 

【アストレア・ファミリア】(わたしたち)の中から前科持ちが生まれるなんて、末代までの恥だ…!」

 

「…リューさん達に子供がいないなら、僕を含めてリューさん達が末代なんじゃ…」

 

「わ、私は決して負けたりしない!!」

 

「だから何の話ですか!?」

 

「ここまで話して、(しら)を切るのか! そんな風に育てた覚えはないぞ!」

 

「リューさん、ほんと待ってください! 近い、近いです!?」

 

ジタバタ逃れようとするベル。逃すまいとベルの腹の上で馬乗りになるリュー。止める者は誰もいない。何故か激昂するリューはいよいよもって紙袋の中身を引っ掴みベルに叩きつける勢いで見せつけた。

 

 

『ドキッ、オークでもできるエルフの堕とし方! ―金髪エルフ編!―』

 

 

「こ、これを見てもとぼけるつもりか!」

 

「た、確かに題名(タイトル)は変かもですけど……でも、ためになる魔導書(もの)なんですよ! き、きっと、明日くらいになったらリューさんだって、わあってなります!」

 

「た、ためになる……だと……!? こんな、こんな如何わしい題名(タイトル)卑猥な本(もの)が……!?」

 

「……というかリューさん、まさか、これ、読んだんですか!? 僕のだってわかっているのに!?」

 

「っっ、そ、それは……!?」

 

 

ふるふる震えるリューの肩を掴んで、ベルは体勢を戻す。向き合った形とはいえ膝の上に乗っかった形となるリューの空色の瞳をじっと見つめるとリューは罪悪感があったのか視線を逸らす。

 

 

「あの潔癖な妖精のリューさんが、他人の私物を物色したんですか……!?」

 

「ち、ちがっ!? お、置き忘れる……貴方が、わ、悪いので、あって……」

 

ほぼ後半は消え入るような声でベルの耳には届かない。両肩を掴むベルの手が妙に強く、熱く感じて震えるリューを逃さない。ここにきて形勢は逆転されたのだ。信じられない物をみるようなベルの瞳がリューの罪悪感を刺激する。

 

「確かに、僕が置き忘れたのは悪いかもしれないですけど……リャーナさんが気を遣って、僕の名前まで書いてくれて、置いておいてくれたのに……輝夜さん達だってきっと勝手に触ったりしないですよ!?」

 

「っっ!?」

 

「ぼ、僕……魔導書(これ)を読むの……フレイヤ様が最高品質のよって言ってたから、楽しみにしてたのに………ッ!」

 

「た、楽しみに……!? そ、そそ、そんなに怒るほどに……!?」

 

いや待て、最高品質の『卑猥(えっち)な本』とはなんだ!? 揺れる空色の瞳が涙で潤んだ。

 

「僕の大好きな憧れのリュー・リオンはそんなことしないと思っていたのに……!」

 

ベルもまた、泣きそうになっていた。無理もない、彼は魔導書(グリモア)を勝手に読まれたと思っているのだから。1回きりというくらいの知識は当然持っていて、それこそショートケーキのイチゴを最後に食べるくらいには楽しみにしていたのに憧れの金髪妖精お姉さんに横取りされたと思えば泣きたくもなる。いくらあのフレイヤでも1冊目はノーカンで2冊目をくださいなんて言えば対価を求めてくるに違いない。フレイヤのことは嫌いではないが、ベルとしては時々舐めるような視線が怖いと感じる手前、可能なら近寄りたくはないのだ。

 

「うぅ……」

 

「ベ、ベル……あの、その」

 

「リューさん、見損ないました!」

 

「―――ッ!」

 

プチンッとリューの中で何かがキレた。目を吊り上げ、『卑猥(えっち)な本』を取り上げ、開き、ベルの顔に押し付けた。

 

「そこまで言わなくてもいいはずだ!! 私は内容まで読んでなどいない! さあ読め! 声に出して読め! その卑猥な文字群を、一言一句余すことなく! 音読してみせろ! わ、私が裏切り者なら、貴方は性犯罪者だ! 私は何としてでも、貴方の歪みきった性癖を正してみせる!」

 

「だから何の話ですk――――魔法は種族により素質として備わる先天系と神の恩恵『ファルナ』により芽吹く後天系の2つがあり、後天系の魔法はいわば自己実現である」

 

「……ベル?」

 

「何に興味を持ち、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか、引き金は常に自分の中にある」

 

「あ、あの、ベル……何か様子が……?」

 

文体に、文字の海にベルは引きずり込まれる。ページが捲れ、のめり込むように口を動かす。困惑するのは勿論、リューだった。子供の癇癪についカッとなってしまった、強く当たり過ぎてしまったかもしれない…そんな反省の色さえ浮かばせるが、どうやらベルにはリューの声など届いてはいないらしい。

 

「じゃあ、始めよう―――――――」

 

団欒室は静かになった。

本の内容を口にしていたベルは沈黙し、彼の膝の上に跨ったままのリューは戸惑いの色を隠せずオロオロ。やがて後ろに倒れていくベルを優しく受け止め寝かせてやったリューは彼が寝息を立てているのに気がついた。

 

「?????」

 

いったいどういうことか。

ベルは眠ってしまっていた。先ほどまで、初めてというくらいには喧嘩…喧嘩?をしていたというのに、彼の口から『卑猥(えっち)な本』の音読が披露されると思っていたというのに。彼は眠ってしまっていた。

 

「ちょっとベル、誰かと喧嘩でもしているの? 騒がしいけ……ど……」

 

そこに、リャーナが現れた。

彼女は何やらベルが言い合いをしているような声を聴いて、団欒室に足を運んだのだ。ベルが激昂するなんてそれこそ珍しいからよっぽどのことなのだろう、と。それがどうしたことか、そこにいるのは長椅子(ソファ)の上で仰向けになって寝息を立てているベルと彼の腰の上に跨ったまま、オロオロと瞳を潤ませたままのリュー・リオン。リャーナは悟った。

 

 

「あー……ごめん、邪魔しちゃって。その、えっと、匂い消し……いるわよね……ごゆっくり……」

 

「違う! リャーナ、待って!」

 

「いいっていいって、リオンがムッツリなのは皆知ってるから。でも場所は考えた方がいいと思うわ。団欒室、皆が使う場所だし、ここでリオンとベルがしちゃったって考えたら、なんていうか、団欒できなくなっちゃうでしょ? 団欒どころかムラっとしちゃうでしょ?」

 

「だから違うと言っている!」

 

ベルの上から降りたリューがリャーナを追いかけ部屋を出て行った。その後、帰ってきたネーゼが「何でこんなところで寝てるんだ?」とベルを部屋に運んでくれたわけで、床に転げ落ちてしまった『卑猥(えっち)な本』を拾い、中身を拝見したセルティが「え……これ……魔導書(グリモア)!? しかも使用済み!?」と阿鼻叫喚しつつもベルの枕元に置いてくれたわけだが、その辺り、ベルの記憶はないのだ。

 

 

 

×   ×   ×

時は戻って【ディアンケヒト・ファミリア】、アミッドの私室。

 

 

「――――こんな導入があっていいはずないんです!!」

 

「…………はあ」

 

導入とかメタなことを言うベルに、アミッドはジトッとした目を向けつつも溜息をついた。なんだか、どうでもいい茶番を長々と聞かされて体力まで消費してしまった気さえする。

 

「とりあえずベルさん」

 

「?」

 

アミッドは使用済みとなった魔導書(グリモア)をベルから受け取り、膝の上でどのようなものなのか確認し「題名(タイトル)だけでここまでややこしくなるのは【アストレア・ファミリア】だけでは」と思いつつ、再びベルへと瞳を向けて口を開いた。

 

「私はもう腐れ縁なのでやいのやいのと言うつもりはありませんが……その、女性の部屋に入る時はノックをしましょう」

 

「あ」

 

完全に忘れていましたね? と胡乱な目を向けるアミッド。ベルは忘れてたと頬をぽりぽり。

 

「女性が着替えているのですから、そっと出て、待つくらいしましょう」

 

「…………はい」

 

「何故、顔を逸らしたのですか?」

 

「いや……その、ごめんなさい。つい、【ファミリア】だと、その」

 

「……なるほど」

 

言いたいことは、なんとなくわかった。

女性しかいない派閥なのだ。ベルの意図とは違って着替えている最中に出くわすことも、あるのだろう。

 

「女性の裸なんて、見慣れていますか」

 

「どうしてちょっと怒ってるんですか?」

 

「怒っていませんよ? こほん……それで、発現したのですか? 魔導書(グリモア)を使用しても必ず発現するとは限りませんけれど」

 

「それがまだステイタスを更新してもらってなくて……朝も気まずくて朝食も取らずに本拠を出ちゃったし……」

 

「未使用だと分かり誤解も解けたのですから……仲直り、してください」

 

「リューさんと喧嘩なんて初めてで……仲直りってどうすれば?」

 

指の腹どうしを合わせてもじもじし、見つめてくるベルは姉に縋る弟のようだ。こういう所が年上の女性の庇護欲だとか母性を刺激してしまうのだろう。困った人ですね、とアミッドは何度目ともわからない溜息をついて頭を振った。

 

「素直に、謝罪すればそれでいいのでは? リオンさんもきっとご自身が誤解していたことを理解しているでしょうし…」

 

「………」

 

「もうずいぶんと長い付き合いになるんですから、そう思い悩む必要もないでしょう。もしかしたら、本拠を飛び出した貴方を心配して迎えに来ているかもしれませんし」

 

などと言いながら、ベルの背中を押しつつも私室を出るアミッド。喧嘩なんて碌にしたことがないのだろうベルは「何を言えば…」「ごめんなさいでいいのかなあ」なんて悩んでいる。それが珍しかったのか、当然のようにやってきては頼ってくれることに後ろを歩くアミッドは嬉しさもあってクスリと笑みを零す。

 

「なるようになりますよ」

 

「…………うん」

 

とそんな姉と弟のようにも見て取れるやり取りをしつつ出入口近くまでやって来ると、案の定というか、噂をすれば…というか、彼女がいた。金の長髪に空色の瞳、覆面、若葉色の外套に木刀を装備した妖精(エルフ)の戦士。

 

「リュー……さん?」

 

「………ベル」

 

俯いてはベルのことをチラッと視線を向ける。彼女も彼女で気まずいらしい。ほら、と背中を押されて一歩二歩と前に進むベル。僅かな沈黙の後、2人は視線を交わしてほぼ同時に頭を下げた。

 

「ごめんなさッ!?」

「すいませんでしッ!?」

 

ごつんっと額と額が衝突する。姉弟の仲直りの良いシーンが台無しである。うわぁというようなアミッドや近くにいた治療院の者達の残念なものをみる視線があまりにも痛い。ベルとリューは蹲り額を擦り、瞳に涙を滲ませ、それがおかしかったのかクスクスと笑いだしてゆっくりと立ち上がり、治療院を出て行った。去り際、額を擦りながら振り返ったベルがぺこりとアミッドに頭を下げて、リューの後を追って行った。

 

 

「どうして治療院にいるってわかったんですか?」

 

「貴方が家出すれば、廃教会かアーディか【戦場の聖女(デア・セイント)】の元だと、だいたい予想がつく。それに……アリーゼ達に、仲直りするまで帰って来るなと追い出されてしまった」

 

「あ、あはは……」

 

「その、もう昼も近い……シルの所に、食べにいきましょう。勘違いとはいえ、貴方にはキツく当たってしまったので……今日は私が出します」

 

「そんな、気にしなくても……僕だって、見損なったとか言ったのに」

 

「………で、では、割り勘ということに」

 

「はい、それでいきましょう」

 

 

2人きりで豊穣の女主人へ。

シルにはバッチリと弄られ、リューはやはりというか耳を朱くして涙目になり、ベルはベルで「2冊目は有料よ? 必要ないでしょうけれど」とこっそり耳元で囁かれた。

 

「ところでベル。貴方は金髪の妖精をメチャクチャにしたい願望があったりするのですか?」

 

「………言うと思うんですか?」

 

「言いなさい、姉として……そう、姉として、知っておく必要性が、ある」

 

「ないです。絶対、ないです」

 

 

×   ×   ×

 

ベル・クラネル

所属【アストレア・ファミリア】

Lv.2

力:G 211

耐久:G 202

器用:F 357

敏捷:E 485

魔力:F 332

幸運:I

 

■スキル

雷冠血統(ユピテル・クレス)

・早熟する。

・効果は持続する。

・追慕の丈に応じ効果は向上する。

 

灰鐘福音(シルバリオ・ゴスペル)

戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

戦闘時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

戦闘時、修得発展アビリティの全強化。

 

月華星影(ミセス・ムーンライト)

破邪の加護(アルテミス・ディパル)

・夜間発動。

一定周期変動(ナイト・コール)

 

 

■魔法

【アーネンエルベ】

詠唱式

【我等に残されし、栄華の残滓。 暴君と雷霆の末路に産まれし落とし子よ。】

【示せ、晒せ、轟かせ、我等の輝きを見せつけろ。】

【お前こそ、我等が唯一の希望なり】

【愛せ、出逢え、見つけ、尽くせ、拭え、我等が悲願を成し遂げろ。】

【喪いし理想を背負い、駆け抜けろ、雷霆の欠片、暴君の血筋、その身を以て我等が全てを証明しろ】

【忘れるな、我等はお前と共にあることを】

 

・雷属性

自律(オート)による魔法行使者の守護。

他律(コマンド)による支援。

 

 

【ビューティフルジャーニー】

詠唱式

【雨の音、風の音、波の音、月の涙、雷の大笑、鐘楼(かね)の歌、星の光輝(ひかり)

【星に刻もう。私は忘れない】

【貴方達がいたことを】

【誰よりも遠く、夢よりも速く】

【行こう、冒険はどこまでだって続いていく】

【傷を癒し、飢えを凌げ、この身を戒めるものは何もない】

【陸を越え、海を渡り、至れ前人未踏の領域へ】

【天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る】

前へ(エンゲージ)

恐れずして(リフト)

前へ(テイクオフ)

 

 

・自動治癒。

・光翼展開。

・魔法捕食。

・魔法無効化。

 

【アストラル・ボルト】

・速攻魔法

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