アーネンエルベの兎   作:二ベル

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輝夜さんにゴスロリを着せるなんてことをしたけど、中の人繋がりですらないっていう。中の人繋がりあるとしたら『毒』持ちの静謐ちゃんくらいしか知らないんですよね


水天日光⑥

 

カツン、と金属が打ち付けられる音が鳴り響く。火花が散り、熱が籠り、汗が落ちては蒸発する。振り上げられた槌は熱された鉄へと振り落とされ、再び音が鳴り火花が散る。そこは鍛冶師が鍛錬を重ねる聖域であり、新たな武器(いのち)が生まれる工房である。場所は【ヘファイストス・ファミリア】所有の平屋造りの小ぢんまりとした建物。

 

「ヴェルフ、素材持ってきたよ」

 

「……………」

 

そこへ、少年の声が。

鍛冶師の青年は反応しない。意識を研ぎ澄まし集中しているからだ。別段それにムッと不貞腐れることもなく、ベルは両手で抱きかかえるようにして持つ木箱を邪魔にならない隅の方へと置いてやる。女神ヘファイストスより素材を持って行ってやって欲しいと頼まれたためだ。それが終わると適当な場所に腰かけ、青年の作業が終わるのを黙って待つ。ベルの動きに合わせて頭部にある黒色の兎の耳がぴょこぴょこと揺れ動き、胸部に本来ない筈の膨らみ―大きすぎるわけでもなくあえて言うなれば『並』―もまた揺れる。

 

火花が散り、熱が弾け、汗が飛び蒸発し、音が木霊する。それが何度も何度も繰り返されること10分か、それとももう少し長いか。何分、換気のために鎧戸を開けてこそいるが外の景色の変化が分かりにくい故、時間間隔が狂う。ヴェルフを待つベルが工房の中へと視線を巡らせていると、売れ残りか、或いはできたばかりの作品達が鎮座しているのがわかった。

 

(全身鎧……? に、布切れ……、ハンマー……)

 

マネキンに装具された鎧は着用者が細身であることを想定しているのか、ゴツイ冒険者では着用するのは難しいように思われる。腕、脚、胸、腰を濃紺の加工された金属が覆っており、肘や膝などの稼働部分は覆われてこそいるが邪魔にならないように工夫されている。加えて両肩、腰から膝下あたりまでを布地が垂れている。ベルにはその鎧に忌避感を感じたが、見た目だけながらどこか『騎士』を思わせるものだった。次いで、黒色(こくしょく)の布切れ。まだ加工途中なのか、元の素材から切り取った状態で置かれている。恐らくは巨大なモンスターの硬皮を切り取ったのだろう。最後にハンマーは長い柄の先には赤色の鉄塊が取り付けられている。『両口ハンマー』と言われるものだ。『武器』と言うよりは『工具』が正しいかもしれない。最も、生物に振るえば等しく凶器であることに変わりはないが。工房内を見回したベルは、その中にザルドの大剣と鎧が既になくなっていることに気がついた。あれらは砂漠の灰に晒され状態も悪く、整備したところでそのままでは使うことはできないと確か言っていたはず。この場にはないということは既に別の武具に打ち直されたか、素材として使ったのか。

 

(蠍のドロップアイテムもない……時間がかかるって言ってたのに)

 

存外にヴェルフの仕事が早い、と思ったベルはしかし次には椿のことを思い出した。彼女のことだ、珍しい上に貴重な素材とあれば未だLv.2の身になったばかりの下っ端(ヴェルフ)に任せるなど、宝の持ち腐れだと持ち出すなりしているのだろう。もっと言えば『蠍』の素材も曰く付き故に鍛冶神自らが「眷族には触らせるわけにはいかない」と鍛錬している可能性もある。どちらにせよ鍛冶師ではないベルではわからないことだし、職人の話は職人に任せるのみだ。

 

 

「――ふぅ、おお、いたのか…………悪い」

 

「ん」

 

と独り言ちていると、青年は巻いていた手拭を外し汗を拭い、ベルの方へと振り返り、一度自分の目を疑うようにして―疲れているのかもしれねえと眉間を摘まんだ―待たせていたことに謝罪した。それに対してベルは慣れたものだと「気にしないで」と手を振った。

 

「どうした、お前、その恰好」

 

「起きたら、なってたんだ……()()()()()なんだよ、きっとね」

 

「………そうか」

 

ヴェルフは弟分のようなベルが、普段とは全く違う装いをしていることに「姉貴分に苛められたか?」という意味も込めて問うたがベルは、ふっと鼻で笑って「よくあること」とでも言いたげに返答。まあベルが女の恰好をさせられているのを見るのが初めてではないから、掘り返すことはしないが、振り返ったら『バニーガール』がいれば眉間を摘まみたくなるものだ。頭から順に黒を基調としており、兎耳に網目の細かい黒タイツを含むバニー衣装、その上から燕尾服を思わせるようなジャケットを着用しており、何より同性のヴェルフが目を疑わざるを得ないのは胸元である。衣装で寄せられているとはいえ、決して『巨乳』には分類される規格(サイズ)ではないが『並』よりは少し上程度のモノ―鍛冶眼(ヴェルフ・アイ)はそう推定する―。特殊な道具でも用いているのか繋ぎ目すら見えない。工房内の熱気から発汗していたのか汗が滴り偽りの谷間に流れ落ちていく。髪は処女雪を彷彿させる白色であるが、腰に届くほどの長さであり椅子に腰かけているベルの座り方というか所作のそれは男のような、どかっとした雑なものではなく丁寧な女のそれ。非常に訓練されていることが見て分かる。そしてそんなベルの背中には『猟銃(クロスボウ)』が。起きたらなってたということは、寝ている間に着替えさせられたのか……羨めばいいのか分からないが頭痛を振り払うように頭を振ったヴェルフはベルが倒れないよう―過去に見学していたベルが熱中症で倒れたことがある―に扉も開けて換気する。外から入り込む風が冷たく感じられ、非常に気持ちが良い。

 

「それで、何か用か?」

 

「えっと、ダンジョンに行く前にヘファイストス様のところに行ったらヴェルフのところに素材を持って行ってやってほしいって言われて」

 

「ああ、成る程」

 

ベルは昔からよく素材を運ぶ手伝いをしてくれている。それは冒険者をする前の彼のバイトでもあったわけだが、頼まれれば断らないベルのことだ、女神に頼まれるままここへやってきたのだろう。頼まれごとをしてくれた弟分へ礼を言ってヴェルフはチラチラとベルが見ている方へ視線を向けてニッと笑みを浮かべた。

 

「あれ、お前のだぞ」

 

「!」

 

「まあ、まだ完成品じゃないのがほとんどだけどな」

 

ヴェルフは立ち上がり、両口ハンマーを片手で持ち上げるとベルへと差し出した。両手を伸ばし受け取ったベルはその重みをしっかりと感じ取りながら自分の元へと寄せた。

 

「とりあえず、兎には(ハンマー)だろ」

 

(きね)だよ」

 

即答のツッコミ。

しかしここで会話は終わらないのが2人だ。新しい武器が出来たとなれば、必要な儀式は当然ある。

 

「銘はそうだな……暑かったし『熱気退散(チョイサム)』でいいだろ」

 

「『甘味処(スイーツ)』にしようよ」

 

良いも何もあったものではない。

酷いセンスだ。

その銘を言いながら武器を振るってみろ、モンスターだって唖然呆然だ。

 

「……………気に入らねえか」

 

「いらないね、もっとこう、ひねりが足りないよ」

 

「やっぱりそう思うか? 確か前回は……『ビーフストロガノフ』だったよな」

 

「うん」

 

「そうだな………」

 

腕を組んで、ヴェルフが唸る。

ベルは両口ハンマーに縋るように抱き着きながら、唸る。

 

「よし、じゃあ、『ザッハトルテ』でいこう」

 

「――――つよそう」

 

よしじゃねーよ、いこうじゃねーよ、とここにツッコミ役がいれば言っただろう。だがしかしここにツッコミ役はいない。残念無念だ。

 

「他は途中?」

 

「ああ、まだもう少しかかりそうだ。 鎧の方は見た目のわりに重くてな……重量を何とかしたいから渡すなってヘファイストス様が。とりあえず形にしただけらしい。それと『マフラー』も素材が何分硬いわ重いわで加工するにしてもそのまま切った状態で完成とはしたくねえ。だから待ってくれ」

 

「わかった」

 

「それから、【暴食】の鎧と大剣はそれぞれ鎧やらの素材として再利用している。武器として作れないことはないが、ナイフか短剣になる……どっちがいい?」

 

「重いと魔法が使いにくくなるし……ナイフがいい、かな」

 

「よし、じゃあナイフにする」

 

ぱぱぱっと『鎧』『マフラー』『ナイフ』と武具の進捗を含む話をして、用事も終わってベルは工房の外に身体を向ける。彼はこれからダンジョンへと赴くのだ。ここに来たのは、モンスターの素材について鍛冶神に資料を見せてもらいに来ただけ。ヴェルフも一息入れて一緒に行こうとも思ったが、仕事がまだ残っている。それを途中にして出かけるなどできない。同行を諦めて弟分に「気をつけろよ」と言葉をかけて、さらにその小さな背中に声を投げかけた。鍛冶師として、気になることがあったのだ。

 

「ベル、お前その『猟銃(クロスボウ)』はどうしたんだ?」

 

「んー………ここに来る前に輝夜さんが刀を整備に出すって言うから一緒に【ゴブニュ・ファミリア】に行ったんだけど、その時に珍しいのがあったから譲ってもらったんだ」

 

「お前、俺が専属鍛冶師ってこと忘れてないか?」

 

「忘れてないけど椿さんだって僕に造ってくれるし、あんまり気にしてないよ」

 

「気にしてくれ、頼む」

 

「まあ………わかったよ」

 

「それで、それの銘はなんて言うんだ?」

 

「『深く突き刺さり抉り取る者(ディープスロート)』………なんだってさ。一度遠距離武器を使ってみたかったんだ」

 

「………そうか」

 

じゃあ僕、行くね。そう言ってベルは出かけて行った。ヴェルフはしばらく眉間を摘まんだまま固まっており、5分経った頃くらいにやって来た女神ヘファイストスが「何してるのよ」と声をかけたところでようやく動き出した。

 

 

「あいつ、銘の意味わかってんのか!? 誰だ、そんな最低な銘付けた奴は!! 14のガキに渡していいもんじゃねえ!」

 

「銘についてはアンタ、他人のこと言えないでしょうに……」

 

「そもそも! なんであいつは、あんな恰好して平然としていられるんだ!? 羞恥心はどこに行ったんだ!?」

 

「遠い所に行ってしまったのよ……いいじゃない、似合ってるんだし。あの子、母親似だし」

 

「バニーですよヘファイストス様!? あいつ、男なのに……おぱっ、胸がっ、揺れてたんですよ!?」

 

「よくできてるわよね、『神秘』ってすごいわ」

 

「あいつが物を持つとその上に乗っかってるし、さっきだってハンマーを持った時に胸の形が………ァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「耐えなさいヴェルフ、長い付き合いでしょう?」

 

ヴェルフは弟分が今や『歩く全自動性癖粉砕装置』と化していることに、ましてや自分もまたその被害に遭いかけたことに絶叫を上げた。作業どころではない。鍛冶師の工房に入り浸る『バニーガール』というだけでも破壊力があるというのに、持ち運ぶ木箱に形を歪めて乗っかる偽りの胸部装甲、重いハンマーの柄にもたれ掛かる際にも形を歪める胸部装甲、あいつわざとやってるのか!?と言わざるを得ない所業。ヘファイストスはあっけらかんとして「可愛いじゃない」「似合ってるわよ」「本人も慣れたものよ」などと言って動揺すらしていない。俺がおかしいんですか、ヘファイストス様!?とヴェルフの脳みそは破壊されかけた。

 

 

「起きたらなってたってなんだよ、【アストレア・ファミリア】、弟を何だと思ってんだ!」

 

「可愛い弟なんでしょう?」

 

「起きてたらなってるもんなんですか!? あいつ、そういう日なんだって言ってましたよ!?」

 

「仕方ないじゃないヴェルフ。下界の子供達にはいろいろあるのよ! 起きたら性別が変わってることもあるかもしれないじゃない! 多い日かもしれないじゃない!」

 

「あってたまるかぁ!」

 

 

×   ×   ×

 

「春姫、とお前の()()()をした娘はそう名乗ったのだな?」

 

「…………なんでっ、ちょっ、と怒ってる……ぶふっ、んですか輝夜、さんっ」

 

「………ふふふ」

 

「……へへへ」

 

畳の上で正座して身支度をする輝夜は片手間に聞いてきた。時は少し遡ってベルがヴェルフの工房に行く前のこと。向き合い、弟分―瞼を閉じているせいでアルフィアがチラついて仕方がないが―に化粧をしてやる輝夜は前夜、ベルのお相手をしてくださったお狐様について聞き出していた。黒の長髪に白の長髪という白黒コンビは色違いの姉妹にも見えても許されるだろう。もっとも首から下は『ゴスロリ』姿の20代女と『バニーガール』姿の10代少年なのだが。こうしてベルが姉にいいように弄られようが大人しいのは、もう既に慣れてしまったからであるとしか言いようがない―女神や義母が「似合っているわ」「メーテリアそっくりだ」などと褒めてくれたからとか、そんなんじゃないんだからネ!―わけで、この時も大人しく輝夜が「ついでにやってやる」と薄く化粧を施してくれていたわけだが、ベルは目の前にいる『ゴスロリ』のお姉さんに、つい吹き出してしまいイラッ☆とした輝夜に顔面を鷲掴みにされた。

 

「んぎぃぃぃぃぃ!? イタタタタタタタッ!?」

 

「私の恰好で笑うのか? ほお、お前、自分の恰好を見てみろ」

 

「み、みんな喜んでくれるよ!?」

 

「まず目覚めたら自分の恰好が変わっているということに驚け。何を平然としているんだ。取り戻せ、羞恥心を」

 

「でもでも、朝起きたらアストレア様の谷間があったから!?」

 

「知らんわ!」

 

「僕、自分の部屋で寝てたはずなのに……」

 

「お前が何故か泣き出しべそをかいて濡れた身体でベッドに潜り込むからだ、馬鹿者」

 

輝夜の手が離れ、頭頂部を軽くはたかれ、ぐわんぐわんとする頭を押さえ涙目になってベルは姉を睨んだ。くっ、となって輝夜は顔を逸らしたが彼女からしたら『涙目のアルフィア』が可愛らしく睨んできているように見えるのだろう。輝夜は咳払いをしてから、話を戻した。

 

「で、その春姫という娘の家名は……『サンジョウノ』と言っていたか?」

 

「え? うーん……サンジョウノ……サンジョルノ……うん、サンジョウノだったと思う」

 

「………ふむ」

 

「?」

 

考えるように口元に指をやる輝夜に首を傾げるベル。訝し気なベルに気がついた輝夜は「なんでもない」と言いつつも軽く昨晩、(みこと)達に歓楽街で出会ったことを話した。

 

「【タケミカヅチ・ファミリア】って身売りしなきゃいけないほど困窮してたの!?」

 

「だと思うだろう? どうやら違うらしい」

 

「じゃあ、何でまた?」

 

「実はだな………」

 

かくかくしかじかと少女達が友人関係にあるという話だとか、何故娼婦をしているのかとか、そういった話を聞いてベルもまた春姫と話したことを輝夜に聞かせた。「ふむ」と短く頷いた輝夜は面倒くさそうな案件だなとでも言いたげな顔をして音も立てない洗練された所作で立ち上がり、愛刀と小太刀を武装し出かけて行った。

 

 

 

「―――とにかく、お金がいるよね」

 

そんなことを呟きながら、ベルは輝夜との会話を思い出しつつストリートを歩いていた。目的地はダンジョン。輝夜が何を考えているのかはわからないが何をするにせよ、金はいる。武器や防具然り、春姫にもう一度会うこと然り。道行く人々は『両口ハンマー(ザッハトルテ)』を両手で抱え、『猟銃(ディープスロート)』を背中に装具する白髪の『バニーガール』さんにギョッとした目で振り返る。

 

「あんな冒険者、オラリオにいたか?」

 

「【静寂】のアルフィア……生きていたのか!?」

 

「ベルきゅん、ベルきゅんじゃないか!」

 

等々、市民や冒険者、神々がそれぞれの反応を示す。長い白髪を揺らして歩く『バニーガール』さんはそれはもう目立った。

 

「聞いたか!? 【大和竜胆】が神々の言う『ごすろり』っていうのに目覚めたらしいぜ……!」

 

「普段は着物で隠れている素肌が見えるあの姿……イイ!」

 

「やっぱ大和撫子はいいよぉ……」

 

今日もどこかで正義執行している剣客のお姉さんのことを言っている声がチラリと聞こえ、そちらへ目を向けると男達も視線に気がついたのか鼻の下を伸ばして手を振ってくる。ベルは愛想よく笑みを浮かべて振り返し、そして背中に背負っていた『猟銃(クロスボウ)』―『深く突き刺さり抉り取る者(ディープスロート)』―を構え、速射。

 

「「「ぐぉおおおおおおおおおおっ!?」」」

 

姉に欲情する不届き者を成敗。

細く造られた『(ボルト)』型の魔剣が爆発し、男達を吹っ飛ばす。ぷすぷすと煙を吹いて倒れる男達に「うわぁ」と言った声を洩らす群衆と笑顔で爆裂矢を発射してきた兎さんに悲鳴を漏らす群衆。ベルは『猟銃(クロスボウ)』を背負いなおすと、トテテ、と小走りでダンジョンへと向って行った。特徴的な兎耳と小振りな丸い尻尾、そして偽りの胸―『巨』ではないが『並』より少し上ほどのサイズ―がぷるぷると揺れていた。そんな後ろ姿を、とある派閥の少女達が開いた口が塞がらないとばかりに見ていた。

 

 

×   ×   ×

 

 

「い、今の、ベルですよね!?」

 

「女の私でも嫉妬するくらいには女の子だったわね」

 

「………私よりおっぱい大きかった」

 

「泣かないでティオナ」

 

「あー……あの子、何やらかしたのかしら?」

 

レフィーヤが見慣れない恰好に驚愕を隠せず、ティオネが言外に似合っていると言い、ティオナが絶望し、アイズが励ます。そしてアキが何をやらかしたのよ、とその恰好が何かしらの『罰』或いは姉達の『戯れ』であると察し溜息をつく。そんなアキの隣を歩くアリシアは、まるで背景に宇宙が広がっている猫のような顔をしていた。彼女達はアリシアの懺悔より、まずはアリシアとベルの関係改善のためにもベルの様子を見に行こうと街に出向いたところ、『冒険者を狙撃するバニーガール』という破壊力抜群の光景に出くわしたのだ。これは後を追わねばなるまい。『未知』を追い求める冒険者の(さが)が疼いた。

 

耳をぴょこぴょこ、尻尾をふりふり揺らしてかけていく子兎の後を追う少女達はそのままダンジョンへ。ベルは摩天楼施設(バベル)の下にて狼人(ウェアウルフ)の姉と只人(ヒューマン)の姉と待ち合わせをしていたのか、そのままダンジョンへと入って行った。少女達もまた彼に気付かれず、そもそも普段の彼が何をしているのか気になるというのもあったが、とにかく後を追った。

 

「て、あれ? 消えた……?」

 

「もしかして、もう尾行にバレた?」

 

「まあ【アストレア・ファミリア】ってほぼ全員が第一級冒険者になっててもおかしくないって言われてるし……」

 

狼人(ウェアウルフ)の【正しき牙(ミネル・ラウバ)】が一緒なら余計、匂いとかで気づかれてもおかしくないわ」

 

「彼は男の子彼は男の子彼は男の子彼は男の娘………」

 

「「「「アリシア、帰ってきて」」」」

 

アリシアだってあの子が女の子の恰好させられてたとこ今までだって見たことあるでしょう!? と木偶の棒(ポンコツ)と化しているアリシアに言い聞かせるアキ。場所はまだダンジョン1階層だというのにボロボロである。

 

 

「待てー!」

 

 

と、そこに少女達の前、幾つもある道を走って行く白い人影が。その声音は聞きなれたものであり、ベルのものであるとすぐに分かった。何かを追いかけているらしく、声の方に反応し顔を向けた少女達は次には目を丸くした。

 

「コ、コケェエエエエエエエエエッ!?」

 

一攫千金(100万ヴァリス)ゥウウウウウウウウ!!」

 

「キェエエエエエエエエエエエエッ!?」

 

走り去る少年と、ふわふわとした黄緑色の羽毛を生やした鶏らしきモンスター、『ジャック・バート』が追いかけっこを繰り広げていた。ベルよりも長く冒険者をやっている少女達でさえそのモンスターの情報は頭の片隅にある。滅多に姿を現さないとされている『レアモンスター』。発見すればどんな冒険者でも目の色を変えて捕獲しようと躍起になるという、一攫千金。そのモンスターは戦闘能力は皆無で逃げ回ることしか能がないが、子兎よろしく恐ろしく足が速い。しかし、そんなモンスターを倒した際、()()()()()()ドロップアイテムがあるのだ。それがお腹の中に宿しているとされる、『ジャック・バードの金卵(こうらん)』だ。

 

「「「「うっそぉおおおおおおおおおおおお!?」」」」

 

少女達は驚愕し絶叫を上げた!

ダンジョンに入ってすぐにレアモンスターに出くわすとかあるぅ!? とティオナが叫んだ! 少女達は「ナイナイ」と左右に首を振るって否定する! しかし、現に、目の前で、獲物が逃げ、狩人(ハンター)が追いかけているのだ、これは夢ではない。現実だぁ!!

 

「わ、私達は下に行けば稼げるとしても……」

 

「それは『レアモンスター』に遭遇できるってことじゃないし」

 

「リヴェリアが言ってた……ベルには『幸運』っていう発展アビリティがあるらしいって」

 

「待って、お願い待って。何で他派閥のステイタスを私達の副団長は知ってるのよ?」

 

「ベルがLv.2になったとき、すごいでしょ?みたいな顔で見せに来たって……」

 

「「「見せに来ちゃ駄目でしょ」」」

 

自分のステイタスを何だと思っているんだ、個人情報だぞ。でも思い浮かべてしまう。白髪を揺らしてステイタスを写した羊皮紙を持ってリヴェリアの元にやって来るホクホクしたベルの顔を。きっとリヴェリアのことだ、小言を言いつつも近所の子供か親戚の子を褒めるような慈愛を以てベルの『冒険』を称えたのだろう。などと言っている少女達が未だベルに気付かれていないのは、ベルが雌鶏(ジャック・バード)に対して『猟銃(クロスボウ)』から矢を絶えず撃ちまくっているからだ。

 

 

「―――――キュケェッ!?」

 

 

響き渡る、断末魔。

それが決着を報せるものであることくらい容易に理解できた。やがて討ち取った雌鶏の首を握り締めてやり遂げた顔をした『バニーガール』が通った道を戻り、2人の姉の元へと戻っていった。

 

「やったねベル」

 

「矢はまだ残ってるのか……って壊れてるじゃん。何した?」

 

「えと、フルスイングでこうっ、ズバッと」

 

「「射撃武器を鈍器として使ったんだ……」」

 

足元に転がされた雌鶏の亡骸を只人(ヒューマン)のノインが魔石を取り出し、しっかりドロップアイテムも回収。ベルは壊れた『猟銃(ディープスロート)』の代わりにネーゼに預けていた『両口ハンマー(ザッハトルテ)』を装備。更に下の階層へと降りていった。それを見ていた少女達はしばらくの沈黙の後、乾いた笑みを浮かべた。

 

「うん、帰ろっか」

 

「帰りましょう」

 

「帰ろう」

 

「バニーガールが笑顔でクロスボウ連射してきたかと思ったらフルスイングで殴りかかってくるとか恐怖ですよ、帰りましょう」

 

撤退である。

ダンジョンに入ってすぐに100万ヴァリスゲットしちゃう兎とか、化物なのである。

 

 

×   ×   ×

ダンジョン18階層

 

 

ベル達は何の問題もなく18階層まで辿り着くと、そのまま宿場街(リヴィラ)にある喫茶店で休息をとっていた。丸卓の上には戦利品(ドロップアイテム)が置かれており、金卵(こうらん)が余程珍しいのか、ノインが指で弄びながら瞳をキラキラと輝かせていた。

 

「まさかベルが『放火魔(ヘルハウンド)』の炎を喰っちゃうとは思わなかったよ。まあ、あれも魔力から来てるんだろうからできないこともないんだろうけどさ」

 

「見てるこっちとしてはヒヤッとしたよ」

 

「数が多かったから、咄嗟に……」

 

「2つ目の魔法の効果の1つだっけ……」

 

「あんまりヒヤヒヤさせるなよ~?」

 

「うぐ、ごめんなさい」

 

紅茶や珈琲を口に運び、ちょっとした軽食を食べる。道行く冒険者達が卓の上でノインが弄んでいる金卵(こうらん)を見るや否や目を丸くし、レアモンスターのドロップアイテムであると喉から手が出るほど悔しがっては、ネーゼの睨みに怯み立ち去っていく。中にはベルであることに気がついていないのか『バニーガール』姿の冒険者が珍しいのか「ぐへへ」な顔をした男すらいたがそれもネーゼの眼力によってそそくさと退散していった。交渉しようとすらしないのは、彼等が彼女達には敵わないと思っているからか、交渉する余地などないと知っているからか。

 

「それよりさ」

 

「?」

 

ノインが金卵(こうらん)を弄るのをやめ、頬杖をついてベルに目を向ける。サンドイッチを齧っていたベルは視線に気づいて首を傾げ、「よかったの?」というノインの言葉の続きを聞いた。

 

「ダンジョン入ってすぐにっていうか、たぶんその前からだろうけど……ベルのこと、見てたじゃない?」

 

「ああ、何もしてこなかったから放っておいたけど……よかったのか?」

 

「んー……用があったら、声をかけてきてただろうし、いいんじゃないかなあ」

 

「ベルがいいならいいけど……女の子って大変よ?」

 

「うん、知ってる。見てよ僕の恰好を」

 

「「ごめん、ちょっとわからないなあ」」

 

 

顔を逸らす姉2人に溜息を1つ。

ベルはノインの持っていたバックパックから1冊の資料集を取り出してページを捲っていく。姉の玩具にされることはもう既に慣れたことなので今更なのだ。捲られたページには『秘獣(カーバンクル)』の絵が描かれており、ネーゼはそれをチラリと見てベルの次のお目当てに見当をつけた。これまたレアモンスターであった。

 

「2時間は付き合うけど、それ以上はお断り」

 

「うん、わかってるよ」

 

「まあベルがいれば私達も稼ぎが上がるから、一緒に探索する分にはいいんだけどね」

 

「レアモンスターに的を絞るのはなあ」

 

「それより、お金が欲しいならここに来る前に討伐した『ゴライアス』の戦利品も貰っておけばよかったのに」

 

「いやでも……後から来た僕達が貰うのは何か違うような気がして」

 

「冒険者なら図太くいかないとダメだぞ」

 

「うーん、でもやっぱり前の黒いゴライアスの時は()()()()()()()()んでしょ? だから、いいんですよ」

 

18階層に入る直前。

階層主の咆哮と冒険者達の叫び声を聞いたベル達は迷うことなく参戦した。宙を跳んだベルが、『両口ハンマー(ザッハトルテ)』を振りかざしてゴライアスの顎を強打。顎の外れたゴライアスは冒険者達の群れに討伐されたのだった。戦利品の分配を頭目のボールスを中心に行われたが、ベルはそれをあっさり断った。これが先程からノインが弄んでいた『ジャック・バード』のドロップアイテム『金卵(こうらん)』を得ようと冒険者達が交渉しようとすらしてこない理由の1つだった。宿場街のボスが、「幸運の兎には手ぇ出すなよ」といった具合に睨みを効かせていたのだ。ベルとしては後から参戦した者が貰うのは……といった躊躇いがあったから断っただけなのだが。ネーゼとノインはベルが断ったのならまあいいか、と今回はあくまで弟分に付き合っているだけだしと反対もしなかった。どちらにせよベルと一緒に行動していれば彼の『幸運』のおこぼれを頂けるのだ、困りはしない。なお、ベルは3つ目の魔法は使用していない。曰く、手札を全てさらけ出すのは愚か者のすることなのだという。いったい、誰に吹き込まれたのか。

 

「でもどうしてまたお金が欲しいのさ」

 

「欲しいものでもできたのか? ベルにしては珍しい」

 

「うーん……と、輝夜さんと(みこと)さんの知り合いに春姫さんって人がいて、その人にもう一度会ってみようかなって思って」

 

「ふーん……」

 

知らない女の名だ。

ノインがあからさまに唇を尖らせた。

ネーゼはやれやれと嘆息して、ベルにデコピンを喰らわせる。

 

「ベルも男だから、女遊びに興味が出てもしかたない年頃なのかもしれないが……ほどほどにな」

 

「女遊び……ネーゼさん達が遊んでくれるでしょ?」

 

「「わかってんのかなあ……この子……」」

 

2人の姉は、わかってるんだかわかってないんだかな弟に頭を痛めた。




ベルの武装

・探求者の剣:正史だと『ヘスティアナイフ』の立ち位置。

兎鎧(ぴょん吉):現在使用しているもの。

・アルテミスの遺剣:アルテミスが使用していた剣を整備して使えるようにした。

紅の長剣(ビーフストロガノフ):ミノタウロスの角、シルバーバックの頭髪、ミスリル等の素材から作成。

・『両口ハンマー(ザッハトルテ)』。

・『深く突き刺さり抉り取る者(ディープスロート)』:猟銃(クロスボウ)、【ゴブニュ・ファミリア】製←破損。



製作途中となっている『鎧』は、ギャラハッド(オルタ)の鎧をイメージしています。
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