アストレア・レコード書籍化に狂喜乱舞しています。
かかげ先生が挿絵担当だそうで、なお嬉しいです。
でもアストレア・レコードと原作14巻が読み返せません(つらい)。
活気が満ちる迷宮都市オラリオ。
今日も多くの亜人で賑わい、旅人が、商人が、そして冒険者が喧騒を織りなしていく。
そんな都市の南方、繁華街の一角で、周囲と異なった喧騒を広げる場所があった。
『
四方を壁で覆われた、都市最大派閥【フレイヤ・ファミリア】の本拠である。
「――ぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
白や黄の小輪が揺れる美しい原野が広がり、敷地の中央の丘には『神殿』あるいは『宮殿』と見紛う巨大な屋敷が建っている。都市の中にあって世俗から切り離された雄大な光景は一枚の絵画のようですらある。そこで繰り広げられているのは、激しい『殺し合い』だ。
ガツン、ガツン、と鉄のぶつかる音なのかと疑問に思うほどには重たい音が響き火花が散り、血潮が飛び散っては足元を赤く染め、衝撃波が空気を揺らがし、はた迷惑なことに近隣の建物にまで被害を及ぼしていた。そして、初めて見る叔父の
大剣と大剣がぶつかっただけで都市が揺れるとまで言われるほどで、そんな衝撃に安全圏で見ていたとはいえ、幼い兎は後ろにひっくり返ってしまい無様な悲鳴が響いた。
「・・・大丈夫、ベル?」
「・・・うぅぅ」
「あんまり近づいてはダメよ、ベルは軽いんだから」
原野での戦いが見える距離で巻き込まれることがない場所でお茶でもしながら観戦していたのはベルとアストレアとフレイヤ。アストレアとしては【フレイヤ・ファミリア】の所に行くのは嫌だったし、アルフィアもまた女神フレイヤにベルを会わせるのは「喰われる」という意味で反対していたのだが、色々あって行かざるをえなかったのだ。
「ふふふ、兎さんったらよっぽどザルドに構って欲しかったのね」
「むっ」
フレイヤが頬杖をつきながら微笑を浮かべ、ベルは不満そうな顔を表に出した。
ベルとアストレアが『
【ロキ・ファミリア】で給食のおばさんならぬ叔父さんでもしていると聞いていたのに、若輩の育成に協力しているとか聞いたのに女神と一緒に会いに行ってみればロキに「ん-・・・あいつ最近、フレイヤんとこの猪育てとるからなぁ・・・そっちにおるんちゃう?」と言われたのだ。これにベルは珍しくご立腹。ただでさえ現在ベルを除く【アストレア・ファミリア】の眷族達は『
× × ×
『星屑の庭』少し前のこと。
「・・・・というわけでベル、悪いが数日ほど留守にする」
何が「というわけで」なのかとベルは思った。
アリーゼ達もまた顔を真っ青にして、「ベル、貴方に会えて私幸せだったわ・・・」「私この『小遠征』が終わったら・・・ベル君と結婚するの」「ああ、アストレア様、今日もお美しい・・・ちょっと谷間に顔を失礼させてくださいお願いします後生です」「最後のガラスをぶち破ってこの場を脱したい・・・」とか言っているし、ベルはわけわかめだった。事の発端は、【アストレア・ファミリア】が敵対していた派閥の罠に嵌って全員が死にかけたことにあった。ダンジョンが大爆発して階層間が崩落、生き埋めにされるも何とか生還。けれどその直後、異音が響いたと思ったら謎の初見殺しモンスターが出現。1人の団員が犠牲になる寸前、いや、もう走馬灯を見ていた刹那の時間、そのモンスターの姿を誰よりも早く視認したアルフィアが庇ったのだ。結果としては全員が何とか生きて帰ってきた。しかし、アルフィアもそのモンスターと遭遇したことはなかったようで「魔法が効かないのはずるくないか?」「貴方が言わないで・・・」「ぐすっ、ひっく・・・うぇっうぇっ」「リオン、いい加減泣き止めよ」「漏らしたか小娘」「漏らしてない・・・ぐすっ」なんて言って帰ってきたが全員火傷やら裂傷やらしていることに変わりはないし、アルフィアに至っては初撃を防いだ時に左腕を肘から下を切断されたらしく右手で取れた左手と握手した形で帰ってくるものだからベルは悲鳴を上げて倒れた。無理もない、大好きなお義母さんが血まみれで、取れた左手と握手していて、「ただいま」と言っているのだから。アストレアとてこれにはドン引き。
「貴方達まず治療院に行きなさい!」
「で、でも!?」
「でもじゃない!」
「アルフィアがまず本拠に帰るべきじゃないかって」
「団長は貴方でしょうアリーゼ!? アルフィアもアルフィアよ!?」
「これくらい綺麗な断面ならくっつくだろう?」
「そういうことじゃないの!
アストレア様、大☆激☆怒。
ぷらんぷらん左腕を振って切断面からビチビチ血を振りまくアルフィアに「貴方・・・痛覚って知ってる?」と言えば「ああ、産まれてこの方長い付き合いだ」と肩を竦めて言い返されて痛む頭を押さえてフラフラ。気絶したベルを抱きかかえて神室に引きこもることにした。というか、その際に「治療院でちゃんと治してくるまで全員帰ってこないで」とあろうことか自分の眷族を出禁にした。それからしばらくして、どうやら治療院で某聖女様が顔を真っ青にして「なんで涼しい顔しているんですか!?」なんて言わせて、治療が終わって、次の日には帰ってきて、アルフィアが【アストレア・ファミリア】に課す訓練の度合いがヒートアップ。さらには地獄の小遠征をすることを独断で決定したのだ。アリーゼ達が「え、ちょっと待ってアルフィア様?」なんて口を挟むと「黙れ、喋るな、お前達に発言権はない。生まれてきたことを後悔させてやる」と言わんばかりに圧力で黙らせられた。
そして。
「・・・・というわけでベル、悪いが数日ほど留守にする」
である。
まったくもってわからない。
アルフィア閣下、言葉が一言も二言も足りない。
アルフィアの真意はこうだ。
「私が死んだらベルにはお前達しか頼れる相手がいないのに、まんまと罠に嵌って・・・私がいなかったら全滅か1人が生き残って復讐ENDだ。馬鹿なのか? それであの子の「嫁になりゅ!」だと? 言語道断だろうに!! よし決めた、お前達が全員Lv.6になるまで殺す、殺し続ける。殺して殺して殺して間引いてやる。安心しろ、生きていれば帰れる。 私が安心してあの子を任せられるくらいにはなってもらはなくては!」
罠だとわかっていても向かって行ったことはまだ良い。
ただ、死にかけたことだけが許せなかったらしいのだ。
「アストレア様と仲良くね」
「新妻アストレア様に、裸エプロンとかしてもらうといいよ」
「いやほんと、アストレア様が新妻とかそこはかとない背徳感が・・・はぁ、はぁ」
「アストレア様も・・・ベルを私達だと思って可愛がってあげてください」
遺言のようなことを言い残して、少女達は出て行った。
まるで重力魔法でもくらったかのように足取りは重たかったけれど。
× × ×
『
ベルはアルフィアが大怪我して帰ってきたことや、その日以降アルフィアが一緒にいてくれない日が増えてきたこと、ましてや長期間留守にするとあって、ふつふつと不満が胸の中をチクチクしていた。忙しいのはわかるけど、僕だってお義母さん達と出かけたり遊んだり・・・と子供ながらの欲求が叶わず封じられる。アストレアと2人きりで数日過ごした頃にあまりにも居た堪れないベルに何か行きたいところとかはないかとアストレアが聞いてみれば「叔父さんのところ」というのだから、【ロキ・ファミリア】に行ってみれば案の定、ザルドは【フレイヤ・ファミリア】で猪を育てていると来たもんだから、ロキにザルドの居場所を聞いた際ベルは不満が爆発した。
「ザルド叔父さん、僕が剣教えてってお願いしたのに、なんで猪育ててるの!?」
「ベ、ベル!?」
「お義母さんも最近、全然一緒にいてくれない!」
「お、おう・・・大丈夫か自分? アイズたんに会ってくか?」
「おかしい・・・おかしいよ・・・おかしいですよね!? 僕、英雄にならなきゃいけないのに、何も教えてもらえない! 叔父さんはそんなに筋肉がいいの!? お義母さんは・・・その、えと、何が良いの!?」
「思いつかないなら無理に言わなくていいのよベル・・・寂しいですって言えばいいのよ・・・?」
「アストレア様、ぼくっ寂しい!」
「よしよし、そうよね、寂しいわよね・・・はぁ、行ってみましょうか【フレイヤ・ファミリア】」
そんなこんなで致し方なく、なぜかあっさり『
「むぐむぐ・・・叔父さんもお義母さんも最近変だよ・・・」
「そうね、2人ともあんまりよね」
「ここに来ればザルドに毎日会えるわよ?」
「あの庭、血の匂いがして
「・・・・く、臭っ!?」
絶賛、大剣と大剣がぶつかり合い、拳が筋肉を叩き合いオラオラと叫び合う。そんなおっさん同士の戦いをチラチラとやっぱり興味があるのか、けれどアストレアからは離れず彼女の腕に抱き着いてアストレアにお菓子を口に放り込まれるベルと最近あの2人焦ってないかしらと思うアストレア。2人とも体調面の話を全くしてくれないからアストレアとて2人が何を考えているのかわからないのだ。アルフィアがアリーゼ達がまんまと死にかけたことに激怒していることは仕方ないにせよ、少し急ぎ過ぎではないかと疑問がどうしても浮かんでしまう。そして子供ながらの率直かつ鋭い言葉の斬撃が、「臭い」と言われたことがフレイヤの微笑を引き攣らせてしまう。
「フレイヤ様みたいな女神様のこと、『やりさぁのひめ』って言うんですよね?」
どこで覚えてきたのかその言葉。
まだ7つの少年が口から放っていい言葉ではないというのに。
可愛い顔から出てきた言葉に、アストレアとフレイヤは飲み込もうとした紅茶が変なところに入って揃って咳き込んだ。殺し合いをしている、おっさん2人でさえその第一級の聴覚から内容を拾ったのか足を滑らせてしまうほどだ。確かにフレイヤは気に入った相手なら男だろうが女だろうが喰うだろうが、欲しいものを手に入れるためなら「今日一日私の体を好きにしていいわよ」なんて言っちゃうけれど、いくら何でもそれはないだろう・・・・とアストレアは擁護しようとして、「あれ、擁護する要素がわからない」とやっぱり頭を痛めた。
「こほんっ・・・ねぇベル知ってる? 幼い頃に女神のお乳を飲むと体が丈夫になるのよ?」
「・・・そうなんですか?」
「そうなの。 あそこで戦っている
「すごく・・・・大きいです」
だからその言葉遣いはどこで覚えてきたのか。
「立派でしょ? 昔、あの子を拾ったときはいつ死んでもおかしくないくらいだったのに、大切に育ててあそこまでなったのよ? ・・・・すごく、大きくなったのよ?」
「あの顔でフレイヤ様のおっぱい吸ってたんですか?」
「「ぶふっ」」
幼いオッタルが、今のオッタルの顔なわけがないのに何を想像したのこの子は・・・とアストレアとフレイヤはまたまた思わず吹き出した。オッタルは自分が話のネタにされてしまっている、間接的というか近くて遠い場所からフレイヤに苛められていると感じ取り、また足を滑らせ片膝をつき背を反らし、いわゆるズッコケ体勢でそこに大剣を叩きつけてきたザルドの攻撃を腰と背中に悲鳴を上げさせながら必死に耐えていた。「その程度かクソガキぃいいい!」とか「う、うおぉおおおおおお!?」とかオッサンが叫びあがっているが、女神と少年の会話はなおも途切れない。まだお昼過ぎだというのに、話のネタが酷いのだ。
「ベルはよく体調を崩すってザルドから聞いたわ・・・アストレア、ダメじゃない」
「何が・・・かしら」
「お気に入りの子なら、ちゃんとお乳を吸わせてあげないと」
「出るわけがないでしょう!?」
「そこは【
「・・・?」
「フレイヤ、ベルにはそういうのはまだ早いわ。変なことを教えないでくれないかしら」
「あら、早いに越したことはないでしょう? なんだったら私が相手してあげてもいいのよ?」
「相手ってなんのですか?」
「ダメよベル。そんなのダメ。他所の女神はダメ、浮気よ浮気」
「ぼく、アストレア様がいい!」
「ヨシヨシ」
女神の乳を吸うと体が丈夫になる。
まったくもって真偽が定かではない、フレイヤの言。
現在ザルドと戦っているオッタルは確かにフレイヤが拾ったらしいのだが、衣食住と環境が整っていれば後は本人の努力次第なのではないかとアストレアは思うし、やっぱり女神の乳は関係ないだろうと思う。もし本当に女神の乳を飲めば体が丈夫になるのなら、今頃、デメテル牧場が出来上がってデメテルは日々、絞られまくっているに違いないのだ。何せあの破壊力抜群の
「・・・・はっ!」
「「どうしたのベル?」」
何か、思いついたのか。
或いは、何か閃いたのか。
いや、やっぱり、私の胸に興味が・・・? 男の子だものね・・・? 2人きりの時になら・・・いやいやでもやっぱりまだ早いような?と思うアストレア。
ベルは目を見開いてザルド達の方を見つめ、けれど先程よりもフレイヤに連れて行かれないようになのかアストレアに密着しているベルは口を開いた。
「叔父さんは・・・だから、フレイヤ様のところに来たんだ!」
「「・・・・ん?」」
「ロキ様は・・・男神・・・様・・・だから?」
× × ×
『黄昏の館』
「誰が無乳やねん、ぶっ殺すぞ!!」
神室で己の机を思いっきり殴り飛ばしてロキは叫び散らした。
部屋中には酒の瓶が、空のものも含めて散乱しておりとても女神が過ごしている部屋とは思えないほどには汚い。
偶然にもそこを通りかかった眷族は、ビクゥッと肩を揺らして「すんませんっしたー!」と走り去って行った。
× × ×
『
「ベル、ロキは女神よ」
「あう、えと」
「「内緒にしてあげるわ」」
「えへへ」
「「はぁ・・・尊い、可愛さの暴力っっ」」
「?」
「「つづけて?」」
「あ、はい! それでそれで、ザルド叔父さんはフレイヤ様のおっぱいを求めてここに来たってことですよね!?」
まさかのベルからの物言いにザルドはグサッと槍で突きさされるようにショックを受けてすっころんだ。そこへオッタルが「仕返しだザルド、死ね」と大剣をギロチンのように振り下ろしそれをザルドが「舐めるな、乳離れもできんクソガキが」と打ち返した。なおオッタルはザルドに対して「あそこで女神に抱き着いている兎にも同じことを言ってみろ」などと言い返し、「10歳もいっていないガキとお前を一緒にするな!」とやはり言い返された。
「叔父さんって『ふだんし?』だから」
グサグサッ。
事実だけど言い方をどうにかしてくれないか、ベル。
誰にその言葉を教わったんだ?
良くない教育をしている奴がいるな。
ザルドは精神にダメージを負っていた。
戦いはまず精神攻撃は基本とはいうが、まさか直接戦っている相手ではなく観戦している側からだとは誰が思うか。
「えっと・・・ザルド叔父さんとあの猪人の人がフレイヤ様のおっぱいを仲良く分け合ってるんでしょう?」
「えー・・・・っと・・・アストレア?」
「私は知らないわ・・・貴方が始めた会話でしょう?」
「だから、つまり、ザルド叔父さんと猪人の人は、きっと『あなきょうだい』ってやつなんですよね? よかった・・・叔父さんにも家族はいたんだ」
なにがつまりなんだよ。
よかったじゃねーよ。
俺にも
ザルドもオッタルもだいたい似たようなツッコミを心の中で叫びながら2人して精神ダメージを負って滑りこけた。
「ねぇベル、誰に教わったのかしらその言葉」
「それを言っちゃうと私が食べた男達はみんな兄弟ね・・・ベルもなってみる?」
「いーやーでーすー」
「やめて、ベルを汚さないで頂戴! 汚れを知らないこの子は私が大切にするって決めているのよ!? でもベルに変な言葉を教えている人にはお礼をしなきゃいけないわよね?」
誰が教えたの?
女神2柱が。
おっさん2人が。
ベルへと視線を送っていた。
ベルはうーんうーん、と脳みそを回転させて「ロキ様とー」「ヘルメス様とー」「眠れなくて本を読んでくれた輝夜さんに本の中にあった『嬲』って字をなんて読むの?って聞いたら教えてくれました」とニコニコとゲロった。その瞬間、2柱の神と1人の美姫が寒気でも感じたかぶるっと体を震わせたことは誰も知らない。
「・・・・コホン、とにかく・・・とにかく、よ。ベル、女の味を知りたかったら私の所に来なさい? アストレアを悦ばせる方法も教えてあげるから」
「アストレア様を喜ばせる・・・アストレア様はどうしたら喜んでくれるんですか?」
「う、うーん・・・・ベル、そろそろ帰りましょうか? 夕飯の支度しないと・・・。もうこれ以上、変な話は嫌だし・・・うん、帰りましょうか。デメテルのところで卵を分けてもらったしオムライスでも・・・」
フレイヤの言っていることがわかっていないベルは、大好きな女神様を喜ばせるにはどうしたらいいのかと頭を唸らせる。アストレアに手を引かれて去り際にフレイヤと原野で余計に疲れているおっさん2人にも手を振り『
× × ×
数日後、『星屑の庭』
【アストレア・ファミリア】の眷族達が『
迷宮都市オラリオに、1つの大きなビッグニュースが出来上がっていた。
それは、ここ数日、ほんっとうに迷惑なほどに都市を揺るがしていた元凶である【猛者】と【暴喰】の殺し合いが終了し【猛者】オッタルがLv.7に至ったのだ。
「『【猛者】オッタル、Lv.7に
「3人って言っても・・・ザルドは出て行ったんでしょ?」
「ええ、出て行かれたようでございます。【ロキ・ファミリア】にも確認はとりましたので確かかと」
迷宮都市オラリオに、3人目のLv.7が誕生し【暴喰】のザルドはオラリオを出て行った。
元々ザルドは一番可能性のある【猛者】をLv.7にすることを目的としていたらしく、その目的も達成したために旅立つことにしたのだ。
情報誌をテーブルで広げ、囲うようにして読んでいる少女達は少し離れたソファで女神に抱き着いて泣き啜っているベルに視線を向ける。
「ぐすっ・・・ひっく・・・」
「よしよし・・・」
抱き着いているというか、本人は意図してやっているというのはなさそうだけれど絵面は女神の乳房に顔を突っ込んでいるようにしか見えなかった。アストレア自身大して気にしていないようで、困ったような微笑でベルの頭を撫でて宥めている。少女達もまた、ここ最近というか――ダンジョンで全滅しかけ、アルフィアから『
「そうよね、ザルドは酷いわよね・・・「一緒に神聖浴場でも覗きにいくか! なに、ゼウスがやったんだ、孫のお前にもできるさ!」とか言っていたのに結局やることやったら出て行くんですもの」
「ひっく・・・うえぇぇぇぇ」
7歳児になんで覗きの英才教育しようとしてるんだよ【ゼウス・ファミリア】はと少女達は心の中で抗議した。
「覗くくらいなら一緒に入れば良いのではありませんか? 私、ベルならいつまでも一緒に入りますが」
「うん、そうね、でも覗きって世間一般的というか常識的にアウトだからそれはファミリア内だけにしてね。もちろん私もベルのことは好きだから一緒に入りたいわ!」
「ていうかあいつの祖父、碌でもねぇな・・・アルフィアが言ってたぜ? 昔、胸に手を突っ込もうとしてきたって」
「よく生きてたわねゼウス様」
「兎の実父と一緒に女湯を覗いたりしてたとかザルドが言ってたような」
「禄でもないわね【ゼウス・ファミリア】。良い皆、ベルにそんなことは教えない事。私達ならまだ良いとしても、他派閥に迷惑がかかるようなことは決してダメなんだから」
ベルの顔も知らぬ父親や大神ゼウスの醜聞を少しだけ聞きかじっていた少女達はベルの教育方針を改めて話し合った。勿論ザルドはきっと冗談で言ったのだろうが、何もすぐに出て行くことないだろうに・・・とは思う。おかげさまでベルはすっかり泣きじゃくっている。女神の乳房は涙でビチャビチャだ。
しかし、ベルは知らぬことではあるが。
オッタルをLv.7にした時点で、ザルドの肉体は限界を迎えていた。
つまり、もう永くないのだ。
内側から腐っていく故に、死んだ後の姿をベルが見るのはトラウマになるのではと思ったザルドは「最期くらい主神と酒でも呑むか」とそう言って出て行ったのだ。
『剣も女も、人生すらも、思い立ったときこそ至宝』
そんな
幼いベルにはまだ理解なんてできない。
永遠に一緒にいられないと常言われてきたことではあるが、それでも「今日がその日だ」なんて思うはずもない。だからベルはすっかり落ち込んで泣き出してしまっていたのだ。
「もっと一緒にいたかったんだろうねぇ」
「やりたいこととか?」
「剣を教えてほしいって言ってたらしいですよ」
「でもアルフィアはベルが『冒険者』になるのあんまりよく思ってないんでしょ?」
「本人の意志を尊重するとは言ってましたが、英雄にならなきゃいけないと生き急いでいるところをたまに見るそうで・・・まぁ、母親としては危険なことはせず平穏に暮らしてほしいということでしょう」
「ゼウスとヘラが残した子・・・かぁ。プレッシャーでも感じてるのかしら?」
「かもしれねぇなぁ」
すっかり静まり返る【アストレア・ファミリア】。
ザルドとの交流はそこまでなく、料理の腕が女子力を軽く凌駕していて「ベルは舌が肥えているかもしれないから女の子は苦労するんだろうな」と思ったくらいのことがあった程度だ。むしろ彼が居候していた【ロキ・ファミリア】のほうが大打撃だろう。何せ、もうザルドの料理が食べられないのだから。
どうしたものか・・・と悩む。
こういう場合の対処法を少女達は知らない。
何せ男の子の眷族は今までいなかったのだから猶更だ。
「ていうか、こんな時にアルフィアはどこに行ったのよ」
「・・・まさかアルフィアまで出て行ったんじゃ」
「ちょっとネーゼ、余計な事言わないでっ!? ベルがこっち見てる!?」
「へっ!? ・・・・あ、や、ちがっ!? ベルっ!?」
現在、本拠にいないアルフィアに毒づくアリーゼ。
そして口を滑らせるネーゼ。
ネーゼの言葉が耳に入って肩をビクッと震わせて、姉達の方を見て、ぷるぷると震えて大粒の涙を溜めて「わぁぁぁぁん」と再びアストレアに抱き着いて泣きわめく。ネーゼが「違うんだよ!?」と慌てて言うも、アルフィア本人がいないのだからどうしようもない。
というか。
「というか、アルフィアと顔を合わせづらい」
「「「わかる」」」
「こっちから強くなりたいってお願いしている手前・・・ううん、ベルを任されているのに全滅しかけて、アルフィアは間違っていないってのはわかってるのよ?」
「「「わかる」」」
「でも、小遠征中、常に走馬灯を見ていた記憶しかないのよ」
「「「わかる」」」
「宿場街の人達が「いい加減やめてくれぇ!!」って言ってくるくらいだし」
「「「それな」」」
18階層の東端で
11人が揃いも揃ってLv.7を囲って剣やら弓矢やら魔法やらをぶち込んで叩きのめそうとして返り討ちにあっていたのだが、あまりにもその戦闘が激しかったのか宿場街の頭目がやって来て。
「もうやめましょうよこんなこと!! 命が!! もっだいな゛い゛!!」
と鼻水垂らして抗議してきたのだ。へっぴり腰で。
なお、これは少女達すら知らない事ではあるが、というか誰も知らない事ではあるが、東端には某闇派閥の隠し通路があり、内部では大混乱が起きていた。
「まさかここがバレたのか!?」
と内部で慌てふためくほどであった。
無論、誰も知らぬことではあるが。
場所を変えるにも27階層に行くと少女達は揃いも揃ってトラウマが蘇って気分を悪くするものだからいっそ更に下層――いやいっそ深層にでも行くべきかと悩んだアルフィア。結局は再び18階層で行ったわけだが、あまりにも苛烈で、ジェノられそうで、走馬灯ばかり見て、こっちから頼んでいることとはいえアリーゼ達は限界も限界。「いい加減にして! みんな死んでしまう!」とキレてしまったのだ。そこで『
しかし、せめてこういう時くらいは傍にいてやれよと少女達は心の声を揃えた。
そんな時、本拠の玄関扉が開きアルフィアその人が帰ってきた。
「アルフィア、どこに行っていたの?」
「・・・・これを」
何か小さな物をアストレアへと投げ渡したアルフィアはベルの隣に座り背中を摩りだす。そしてアルフィアが帰ってきてくれたことに安心したベルは「どこにも行かないで」などと言ってアルフィアへと抱き着く。アストレアは受け取った物を確認するとそれは鍵で、首を傾げて「これは何?」と問いただした。
「別荘を買った」
「「「ん?」」」
「メレンに」
「「「んん?」」」
「小さいがプライベートビーチというやつだ」
「「「んんん!?」」」
何の脈絡もなく、アルフィアはあれやこれや言う。
アルフィアが帰ってきたことで泣き疲れて眠ってしまったベルの目元を拭ってやるとソファから立ち上がり少女達に向かって指示を飛ばした。
「小娘共、明日はメレンだ。支度しろ」
本当は今から行きたかったがベルが眠ってしまったのだから仕方がない。といきなりなことを言うアルフィアに、それこそ少女たちは言葉を失った。私達の知らないところで何してたの?と言いたくもあるし、すっかり失望されてしまったと思っていたのになんなの?というのもある。なんならこっちから頼んでおいたのに喧嘩したみたいになってしまったことにどうしようもない気まずさすらある。しかしさっさと行動を開始しろと圧をかけてくるものだからどうしようもない。少女達は一斉に立ち上がり準備を開始した。
「いきなりすぎて困るんだけど!?」
「み、水着、水着は!?」
「メレンにもレンタルとかあったわよね!?」
「ベル君って水着持ってるの!?」
「アストレア様は!?」
「服飾系の店舗を見に行きませんか!?」
「「「行く!!」」」
ドタバタドタバタ、先程までの静けさはどこへやら。
ベルは泣き疲れて眠りについているし、少女達は慌てて買い物に。
アストレアは引き攣った微笑を浮かべてアルフィアの背中を見つめた。
「ど、どうしたのかしら?」
「・・・・私も、もう永くはないからな。残りの時間をベルに使ってやろうと思っただけだ」
どこか寂しそうに言うアルフィアに、アストレアは冷や水をかけられたように固まった。
ヘルメス「ああ、ザルドって腐男子だぜ? 物理的に」
ロキ「ザルドやったらどうせフレイヤのとこやろ。あいつどうせオッタルと穴兄弟しとんねん。かーっ、そんなにおっぱいがええんか!?」
輝夜「『あんあん、あんあん、お代官様やめてー』『よいではないかよいではないか。ここがこんなにも濡れて・・・もう準備万端ではないかぐへへ』『んあぁぁぁっ、そんな、上も下もだなんてぇええ』『すんなり飲み込みおって・・・嬲りがいのあるやつよのう』・・・・なに、『嬲』とはなんと読むのかだと? これはだな、あー・・・えと、2人の男が1人の女をサンドイッチしているのだ」