アーネンエルベの兎   作:二ベル

71 / 137
★★☆


水天日光⓮

 

 

「――【限定降臨】」

 

 

それが、サクヤヒメが宙へと舞い上がっていく『何者か』から聞いた祝詞(フレーズ)の1つだった。あの特徴的な白髪は生え変わるように白から青へと、瞳の色さえ深紅から緑へと変色。姿そのものが最早、ベルのそれではなかった。

 

 

「やってくれたな、美神(クソチート)。私は炉の女神(ヘスティア)ほど優しくはないぞ」

 

 

天高く、指さしたるは満の月。

弓とナイフの名手なれば、生業とするは『狩猟』也。

 

 

「悠久の空、恵みの大地、大いなる森、純潔の月。いかなる権能をも弾く聖なる領域、聖なる貞潔。あらゆる権能をも貫く至高の矢、至高の鏃。我が身は月の影法師、偽りの射手。月は弓、星は弦、誓いは矢」

 

 

彼女の背後から身の丈ほどに伸びた光翼が出現、更に上空へと飛翔。満月と重なり地上からはそれが少しばかり歪な三日月に見えた。

 

「来たれ、破邪の一撃、浄化の豪雨」

 

絶句するサクヤヒメの視線の先で、彼女は、静かに右腕を振り下ろした。

 

「【月に代わってお仕置きよ(ショット・ザ・ムーン)】」

 

「―――!」

 

それはいつぞや下界を滅ぼしかけた『天界最強の矢』を彷彿させるものだった。偽りの三日月から放たれる無数の光の雨が豪雨の如く都市に降り注いだのだ。一発、一撃など生温い。十や百を超えたその弾数にサクヤヒメもまた胸を射抜かれた。

 

「ぅ……ぐぅ……!」

 

仮に炉の女神の彼女であれば、その浄化の炎をもって()()()()のだとすれば、彼女が今まさに行った御業とは、()()()()()()()()()()ということ。恋のキューピットよろしく『ハートを射抜いた』というやつだ。

通りに、酒場に、館に、塔に、建物をも貫通する神速の矢は神と人にも及ぶ。渡し守の神を、正義の神を、医神を、鍛冶神を、武神を、美神を、全ての者どもを。地面と床に倒れ、瞼を閉じる神々と眷族達を、光の矢は等しく撃ち貫いた。矢の雨は、やがて止むと、氷が砕け散るかのようにその身を消失させていった。全てが幻だったかのように、都市に静寂が返ってくる。

 

ほんのわずかに呻く神々と人々。

痛みはなく、背後から何かが通り抜けたような感覚こそあれ風穴など開いておらずほんの少し混乱して何が起きていたのかを理解する。

 

「サクヤヒメ?」

 

「あいつはオラリオにはおらんぞ」

 

「春姫殿…!」

 

「イシュタル派がフレイヤ派を潰したとかなんのギャグだよ」

 

「輝夜はどこ!?」

 

「ベルの所属が不明って何!?」

 

 

限定された人物達のみが、怒りを浮かべそうでない者達はいったい何ごとかと頭の上に『?』を浮かべてしまう。しっちゃかめっちゃかな状況が広がっていた。

 

 

×   ×   ×

摩天楼施設(バベル)最上階

 

 

「ふふ、やっぱりあの子はやってくれた」

 

美神(フレイヤ)はグラスに注がれた葡萄酒を揺らしながら窓辺から都市を見下ろし美酒に酔いしれるように笑みを零していた。

 

「でもこれはやっぱり、驚いたわ」

 

あの子、負けず嫌いにも程度というものがあるでしょう? なんて零すフレイヤの視線の先には月の光に照らされた()()がいた。

 

「私を怒ってる? でも、歓楽街という限定された小さな(まと)よりも都市そのものを(まと)にしたほうが楽でしょう? 解除されてしまえば、情報も一気に拡散できるわけだし。まあ、本当はヘスティアに何とかしてもらうつもりだったから円形にしたわけだけれど」

 

彼女は何も言わない。

フレイヤはそのまま続ける。

 

「私は都市を魅了した。これは本当。だけれど、私がしたのはイシュタルの魅了を上書きした上で範囲を広げたにすぎない。頂点に立ったと思っている彼女、きっと天狗になっているのではないかしら? いつでもあの子が反旗を翻した時にほんの僅か、あの子達は嫌がるでしょうけれど、手助けになるようにオッタル達をイシュタルの配下に置いた」

 

上空からフレイヤを睥睨する彼女は、静かで冷ややかな眼差し。それに肩を竦めるのはフレイヤで、2人の視線が交差した後聞こえているのかどうかもわからないのに、フレイヤは問うてみた。

 

「ねえ、貴方……一体、『何者』?」

 

そこにいるのは、フレイヤのお気に入りのベル・クラネルではない。魂の色こそ観測しているが、明確に()()と認識してしまうし、何より見てくれが違う。彼は男であり、目の前にいるのは女だ。月の涙を彷彿させる青い髪を揺らした彼女は、やがて静かに人差し指を唇に押し当てながら、言う。フレイヤの問いかけに答えるように。

 

 

 

―――月の影法師(みんなには内緒だよ)

 

 

ベルの腹部にあった3つの聖痕(キズ)の内1つが淡く輝いていた。流れる雲が影を産み、再び月の光が都市を照らし出した頃、そこには眠りから覚めたようにぼんやりとした瞳で降下していく白兎(ベル)がいた。

 

 

×   ×   ×

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)

 

 

空中庭園もまた、都市に起きていた異常にざわめきを立てていた。それは、正気を取り戻したが故に脳内を走り回る情報が故だ。ざわめく眷族達、それ以上に沸点を瞬く間に超えたのは他ならない道化(イシュタル)だ。

 

 

「私の魅了を……上書きして……歓楽街だけでなく、都市全体に……?」

 

それはすなわち、春姫を贄にして禁忌とされる魔道具(マジックアイテム)を作ろうとしていることも、それが【フレイヤ・ファミリア】を潰すためであるということも、まして【アストレア・ファミリア】の眷族に逆役割演技(ロール・プレイング)させたことも、イシュタルがしたことの一切が限定された場所だけでなく都市全土に知られることになる。

 

「フ、フレイヤァアアアア………!!」

 

摩天楼施設(バベル)の方へとイシュタルは血走った眼を向けた。見えるはずもないのに、フレイヤの言葉が聞こえたような気がした。

 

 

「どうイシュタル、楽しかった?」

 

「魅了していると思ったら魅了されていたっていう展開なのだけれど」

 

「うふふふ、()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、そういえば極東でこういう言葉があるのだけれど、知っている?」

 

「三日天下」

 

 

ソプラノボイスが、いっそ清々しいほどに挑発的に。

そう聞こえたような気がしたイシュタルは当然、怒髪天を突かれたように空中庭園の端、手すりに拳を打ち付けていた。

 

「フゥウウウウウ、レイヤァアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

美神の美貌が怒りに歪む。

それに恐れおののき悲鳴を上げるのは当然、眷族達。

 

「お前達ぃ、儀式をはじめ―――――ッ!?」

 

怒声をもって眷族達の行動停止を強制再開させる。

けれど、振り返った時に見えたのは、祭壇の上にして春姫の隣に、彼はいた。

 

「―――――ぁ」

 

金の手甲や膝当てが月の光を反射し、黒の外套がふわりと、背中に背負うは蝙蝠の翼を彷彿させる鍔を持ち炎の結晶を固めて鍛え上げたかのように色鮮やかな『竜の剣』を連想させる剣。処女雪のような白髪が揺れて、その合間から見えたのは深紅(ルベライト)の瞳。ここに来る前に戦闘でもあったのか、ところどころボロボロだが春姫は隣に現れた彼を見間違えることはなかった。

 

(生きていた……!?)

 

自分が生きていたことも驚きだが、彼が生きていたことも自分のこと以上に衝撃だった。あの剣客に仲良く斬り殺されたと思ったのに、心のどこかで彼が生きていてくれたらなんて思っていたのに、彼はまた、春姫の前に現れた。

 

「どうして……何故っ!?」

 

春姫は悲鳴にも似た声で抗議する。

せっかく助かったというのに、どうして来てしまったのだと。ベルは自らの懐を漁るようにして一冊の本を取り出しながら、答えた。

 

「貴方が願ったんじゃないですか」

 

 

『また春姫に会いに来てくださいますか?』

 

 

「―――っ」

 

思い出すのは、1つ目の願い。

いつの間にか失くしてしまったベルがくれた『ランプ』を抱きしめながら言った願い。英雄のような少年は正しく、願いを叶えたのだ。

 

「貴方だけは…生きていて欲しかったのに……」

 

せっかく助かったのに、敵の本拠地に乗り込むなんてなんて愚行。春姫にだって理解できる。目の前にいるアマゾネス達を跳ね除けてこの場を脱することなんてできるわけがないと。

 

「何を言っているんですか、春姫さん」

 

ベルは優しく笑いかけた。

空を見上げ、輝く月と星々を瞳に映して唇を動かす。

 

「こんなにも月が綺麗な夜なんだ。なら、僕は()()()()()()()を助けにくるさ」

 

「――――」

 

「ほら、笑おう! 唇を曲げるんだ! 月が似合う貴方には、涙なんて似合わない!」

 

「ぁ……ぁあ……っ」

 

両腕を拡げて満面の笑みを浮かべるベルに、春姫はとうとう涙を流した。『英雄』の真似事をしているベルを見上げて、それが嬉しくて、込み上げていたものが溢れて止まらない。

 

 

×   ×   ×

迷宮都市

 

 

全てを理解した男神と女神がそれぞれの場所で星空を見上げながら呟く。

 

 

「いけ、ベル君」

 

「いきなさい、ベル。貴方のやりたいようにして構わない」

 

旅行帽を摘まんで、成り行きに任せることにした男神が言う。

悩ましい胸に手を当てて、もういない『誰か』にどうか見守ってあげて欲しいと願うように女神が言う。

 

 

 

 

 「今度こそ―――。

 

 泣いている女の子を、救ってあげなさい。」

 

 

 

 

×   ×   ×

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ) 空中庭園

 

 

 

「僕は、貴方の笑顔も信じたい……心からの、笑顔が見たい」

 

 

『僕は見たかった……あの人達の、心からの笑顔を……!』

 

 

いつかの日、泣きながら零したベルの心の内。

それを繰り返すように、ベルは呟く。潤んだ翠の瞳から流れる涙は止まることを知らない。

 

「僕はまだ、あなたの願いを叶えていません」

 

パラパラと、ページが捲れていく。

怒れる女神が眷族達に命じる、あいつを排除しろと。

血気盛んな女戦士(アマゾネス)達が駆け寄ってくる。

 

「わ、たしの……願い……」

 

 

適当に開かれたページをまるで押し付けるように、春姫の前に持って行く。春姫の瞳に、文字の羅列が吸い込まれていく。

 

「僕は、僕に与えられた全てを以て、勝ちに来たんだ……輝夜さんと一緒に帰らなきゃいけないし、貴方を笑えるようにもしなきゃいけない……ほんとうに、こんな、英雄みたいなこと、僕の柄じゃないのに……」

 

眠るように意識が落ちていく春姫に、事態を察知したイシュタルは眷族達を静止させた。ベルはそんなイシュタルへ向けて、()()()()()()()本を見せびらかす。

 

 

「お前……何を、何をした……!?」

 

「春姫さんの命に比べれば、安い買い物でした」

 

「何をしたと聞いている!!」

 

「これで貴方は儀式を行えなくなった」

 

 

まさか、まさか、と察しの良い眷族達は気づき始める。ベルが春姫に何を見せたのかを。真っ白になった一冊の本が、何を意味しているのかを。

 

「お前……魔導書(グリモア)を使ったのか!?」

 

 

×   ×   ×

都市某所 廃教会

 

 

「こんなことになってしまうなんて……! イシュタルを焚きつけたのは他でもない、俺だ……!」

 

歓楽街のある方角へ視線を向けながら、1人の男神が笑みを浮かべていた。胸ポケットに仕舞ってあった折りたたまれた羊皮紙を拡げれば、それは自分であらかじめ用意しておいたメモ書きが。

 

 

―・―・―・―

これはロールプレイングだ。

神の役を得た娘が1人。

存在を消された娘が1人。

絶対順守すべきルールは存在しない。

改竄は杜撰であることは予想していたことであり、情報と記憶が一致していなければ予想的中。

お前は神である。

白髪紅眼の少年は魅了が効かない。

主神であることを告げてはならないが、思わせること(ミスリード)は良しとする。

導け。

イシュタルはフレイヤに勝つつもりでいる。

『殺生石』を作るための時間稼ぎに魅了を行使させた。

レベルブーストは目を見張るべき異能だ。

満月の夜、儀式は行われる。

お前(おれ)は何を名乗っても構わない。

構わないが、エレボスを名乗ってはならない。

お前(おれ)は優しい神様であり、善神だ。

左のポケットに【ヘラ】の徽章を入れている。

活動資金だ。

お前(おれ)の前に現れた少年は気が動転していることだろう。

利用しろ。

お前(おれ)は、少年を英雄として育てるのが自らに課した役職(ロール)だ。

ヘルメスの真似でもしていろ。

 

―・―・―・―

 

そう、これは役割演技(ロールプレイング)

神という役割(ロール)を押し付けられた娘。

サンジョウノ・春姫という役割(ロール)を周囲から忘れられた娘。

『英雄』の役割(ロール)を買って出ざるを得なかった少年。

導くのは、冥府の河の渡し守たるカロン。

名前はなんだってよかった。

そして、フレイヤによる追加役割(ロール)分担。

それが、『フレイヤを打倒し頂点に君臨した』イシュタル。

 

「自分達の認識と、紡がれてきた記録は一致しないがために違和感が生じてしまう。そして、違和感に気付いたところでリセットされない」

 

故にこそ、絶対順守すべきルールが存在しない。

ベルだけが魅了が効かず、だからこそ『おかしい』ことに気がつく。そして、現状を把握するために駆けずりまわれば、周囲が違和感に気付き始める。神々は理解するだろう、あまりにも杜撰であると。

 

「そう、詰めが甘いというやつだ。その理由は、イシュタルが魅了を行使した直後に格上(フレイヤ)が魅了を上書きするからこそ、最後の詰めを行えなかった。いや……させなかった、が正しいか」

 

『殺生石』の儀式をするために、ゴジョウノ・輝夜をコノハナノサクヤヒメという美神にし、邪魔者を排除する番人へと仕立て上げる。

 

「少年自身を極東美人(ヒューマン)が斬れば、正気も失せるだろう。前主神の名を聞いただけで動揺させることができたのも都合がよかった」

 

美神(イシュタル)美神(サクヤヒメ)を従属させる。

サクヤヒメがイシュタルの領域を守る番人となる。

地上の住人では神を手にかけるなんてとてもできやしない。

そら、面白いだろう?

 

「イシュタルを焚きつけるのは実に簡単だった」

 

歓楽街の営業はあえて通常通りにしておけば、不審に思われることもない。なにせ儀式を行うのはイシュタルの本拠の上、空中庭園。部外者が足を踏み入れることなどまずありえない。まさか自分達が情欲を貪っている真上で憐れな小娘の命が終わるだなんて誰も思わない。春姫を傷付けベルとの繋がりを引き裂いたのも、今やベルが春姫の前に現れたことで小娘は感涙にむせび泣くという最高のシチュエーションのエッセンスに。テンションぶち上げだ。

 

「無論、想定外な事態が起きることは、まぁ……()()()()()()()()()()程度には思っていたさ。さすがに少年の中に女神の残り滓が残っているなんて思わない」

 

ヘスティア辺りが解除してくれるとばかり思っていた。

だが事実どうだ、実際に起こったのは、偽物とはいえ天界最強の矢の雨だ。まさかまさか、消滅したはずの女神が散り際に何かを残していったなんてどうして予想できる?

 

「すべてが俺の掌の上で、自分は道化であったと知ったお前は、怒るだろうなイシュタル」

 

しかしどうか安心してほしい。

俺は期待には応える男だ。

黄昏の色がかった瞑色の双眸を輝かせ、男神は―――エレボスは微笑んだ。

 

 

「まだ、()()()()()()()だ」

 

 

エレボスは床下に転がる宝石の数々を目にしながら、滑稽な女神とお気に入りの英雄の卵に祝福するかのように、まるで神父のように口上を述べる。

 

 

だから。

さぁ――――。

 

 

×   ×   ×

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ) 空中庭園

 

 

「綴るぞ、『英雄日誌』!」

 

 

『英雄 ベル・クラネルは美の女神に宣戦布告をした! さあ、報復の時だ!』

 

 

パタリと閉じられた魔導書(グリモア)だった物を小脇に抱え、ベルは不敵に唇を曲げて硬直する【イシュタル・ファミリア】の面々に向きあう。イシュタルは瞳をこれでもかと泳がせ、思考を巡らせようとして失敗し、宙より舞い降り春姫を眠りに誘ったベルを見て事態に動揺するイシュタルを見てほのかに唇を曲げたのはアイシャ。血管が切れるのではと怒りに燃えて今にも飛び掛かろうとしているのは、巨女のフリュネ。

 

「さあ、儀式を行うのならば行ってみるがいい!」

 

「―――っ!!」

 

無理だ。

無理なのだ。

魔導書(グリモア)なんて高価なものを使われたとあっては、もう、無理なのだ。儀式自体はできるが、砕けた『殺生石』は一方の力しか使えなくなってしまう。つまるところベルは、不遜にも主神(イシュタル)の目の前で眷族(春姫)()()()()()()()()を読ませたのだ。階位昇華(レベル・ブースト)の力に固執しているイシュタルは、怒りと共に『未知』に対する好奇心がせめぎ合っていた。

 

 

(ベル・クラネルに出会ってからの春姫は()()()()……! 影響を受けているあのへっぽこが、何も発現しないなんてことは、まずない……! いやらしいことをしてくれるじゃないか……!!)

 

 

「ステイタスを更新……いや、しかし……!!」

 

「イシュタル様ぁ、どうするんだぃぃ!?」

 

「黙れ! 黙れっ、フリュネ!?」

 

 

知りたい!

眷族に何が発現したのか!

あのクソガキが品質の悪い魔導書(グリモア)を選ぶとは考えられない!! イシュタルの神の勘が寸分たがわず春姫の中で何かが芽吹いていることに気がついていた。だからこそ、ステイタスの更新をするわけにはいかない。いかないけれど、やはり、下界に刺激を求めてきた神の一柱である以上、目の前にある『未知』を無視することがどうしてもできない。見たことがないほどに動揺する女神に、眷族達―フリュネでさえ―慄き、一歩も動けない。そこへ――。

 

 

「ぐぅうううううううううううッ!!」

 

 

動けずにいる女神へ、さらにベルは声高らかに。嵌めていた手袋を投げつけ指さし言った。

 

 

「輝夜さんを泣かせた貴方を、僕は許さない。春姫さんを道具にしようとする貴方を許さない! だから、僕は貴方に――――」

 

 

風が吹く。

星が流れる。

あらん限りに見開く目は、指さす白髪の少年を確かに映す。

どこかで男神が笑って言った。

戦争遊戯(ウォーゲーム)を行ってくれ』と。

男神の企てが正しく履行されるかのように、その言葉が女神達の耳朶を震わせた。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込む!」

 

「ふ、ふざけるなぁあああああああ!!」

 

いよいよもって我慢ならなくなった女神は眷族達に号令をかけた。あのクソガキを潰せ、アストレアの眷族だろうが知ったことではない! 眷族(春姫)に余計なことをしてくれた不届きな輩を許せるわけがないと。

 

 

「なるほど、フレイヤ様はこれを待っていたのか」

 

「ではどうする?」

 

「ならばどうする?」

 

「決まっている」

 

「「「「拒否などさせるものかよ」」」」

 

そこへ、完全武装の小人達の影が4つ。

槍が、斧が、大剣が、槌が、女神の眷族達を吹き飛ばす。

接近する巨女を何食わぬ顔で、猪人(ボアズ)の武人がまるで「撫でただけだぞ」とでも言いたげに吹き飛ばす。

 

「―――――は?」

 

凍り付く女神。

動揺のあまり忘れていたことが1つ。

 

「我々のことをすっかり忘れていたらしいぞ」

 

「アレン達がいないことも加味して、これは正しい反応だろう」

 

「さすがフレイヤ様、ここまで見越していたとは」

 

「いや絶対私情であいつら逃げただけだろ」

 

「確かに、【フレイヤ・ファミリア(我々)】が見届け、受理した」

 

まるでイシュタルに拒否権はないとばかりに四兄弟の後にオッタルが告げた。神が魅了というカードを切ったのだから、少年が戦いを申し込むというカードをとってもそれを拒否する権利はない。いや、そもそもフレイヤがベルの望みを拒否させない。だからこそ、彼等を【イシュタル・ファミリア】に置いたのだ。

 

「な……なぁ……っ!?」

 

ぱくぱくと喘ぐ魚のように口を何度も開閉させ言葉を失うイシュタルは、いよいよもって膝を折った。魅了が解除され、あまつさえ自分の魅了が上書きされていたことまで突き付けられ、常に強靭な勇士(エインヘリヤル)達に刃を向けられていたのだと理解し、最後の最後に『生贄』に『未知』という不純物を流し込まれたのだ。理解が追い付いても、手の打ちようがなくなっていた。

 

(どれも、これも、全て……あいつは……エレボスは……!?)

 

恨み節を吐くように、長い髪が無様に揺れて、都市を見渡すイシュタルはどこにいるのかわからない男神の名を心の中で呟く。口にはできない、だって『闇派閥』との繋がりという点について釘を刺されているからだ。オッタル達がいる今、その名を口にすれば簡単につぶされることも分かり切っていた。だから、口にできない。

 

(織り込み済みだった……!? 魅了されることも……!?)

 

『ああ、イシュタル。俺のことは『カロン』と呼んでくれ』

 

(偽名を魅了で真名にした……いや、させたのか……!?)

 

冷えていく頭が、心が、自分がエレボスに踊らされていたことに気がついて悲鳴を上げさせる。イシュタルはフレイヤに固執するあまり忘れていた、仮にもあの男神は7年前、『闇派閥』の旗頭であったということを。

 

 

「くっそぉおおおおおおおおお!!」

 

宣言は既になされた。

拒否する術はなく、神に挑戦状を突き付けた少年に神は受理せざるを得ない。見届け人は現最強の冒険者達。

 

こうして、【アストレア・ファミリア】と【イシュタル・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)は約束されたのだ。




春姫の魔法は3つ目は考えています。
2つ目までは正史のままです。


①エレボスはイシュタルに魅了を使わせて『箱庭』を作らせました。イシュタルの『箱庭』は小さいのでフレイヤが上書きして拡張しました。解除と同時に情報が解禁されます(原作では暴動になってましたよね?)。

②ー①輝夜をサクヤヒメにすることで、イシュタルの元に第一級に近い戦力(白兵戦最強)を置くことができます。魅了解除後にアストレアF達は仲間をいいようにされたと怒りに燃えます。大義名分が作られました。

②ー②フレイヤが上書きしてイシュタルが頂点のオラリオにしてしまった(設定上乗せするとはエレボスも思っていなかった)ので、イシュタルの元に四兄弟とオッタルがいます。魅了解除されても逃げる事ができなくなった。

③謎の存在による魅了の解除。
・ヘスティア←聖火をもって不浄を焼き祓う。
・アテナ  ←盾をもって害を弾く。
・アルテミス←矢をもって心を射抜く。
という解釈。


④春姫とベルの絆を引き裂くことで、ベルが春姫の元に現れた時、春姫の仲でベルに対する『英雄視』が強まる。ベルが英雄にならざるを得なくした。

⑤エレボスの元にあった宝石←ヘラ・ファミリアの徽章から現金ではなく宝石に変えさせた。

魔導書(グリモア)を春姫に読ませることで、不純物の投入による儀式が実質不可能に追い込んだ。※魔法が複数ある場合、殺生石を砕いても行使できる力はどちらか一方。未知という刺激に引っ張られる神として目の前にある『未知』を無視することは難しい。

⑦ベルによる戦争遊戯の申し込み。理由「輝夜を泣かせた」=「ファミリアに手を出された」ので、理由としては十分。原作のアポロンFでも演技込みとはいえ大義名分つくってましたしね。

⑧イシュタルは当然、拒否しようとするけどそこへオッタル達(②-②)が動いて強制受理させた。「受けないなら、今すぐ潰すけど?」という意。


②ー②+③はエレボスの想定外。
③は想定外だけど怪物祭でのベルの魔法のこともあるので、想定外のことが起きる想定はしてた。もし謎の存在がでてこなかったら、フレイヤあたりがヘスティアを動かすんじゃね?くらいに思ってた。
⑧はまあオッタル達じゃなかったらアストレアの眷族がくるかなあ・・・くらいには。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。