アーネンエルベの兎   作:二ベル

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前回、もし仮にイシュタルが戦争遊戯を拒否した場合。
フレイヤ「じゃあ私と戦争しましょう? したかったんでしょう? いつするかですって? 今からよ」
とか言って、その場にいる四兄弟+オッタル+バックレた幹部達による蹂躙が始まっていました。



今回書いている私が頭こんがらがりそうになってます。


水天日光⑮

 

 【アストレア・ファミリア】と【イシュタル・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)は、間もなくギルドに承認されることとなった。同時に開催される運びとなり都市の動きは活発に、そして慌ただしくなっていく。割を食らったのは都市管理機関であるギルドだ。派閥同士の総力戦という物騒な催しによって間違ってもオラリオに被害が及ばぬよう、物資や人員の手配、宣伝、戦争遊戯(ウォーゲーム)の舞台候補となる戦場の絞り込みなど、近隣地域への呼びかけも含め様々な作業に追われることとなった。神々の身勝手な要望もそれに拍車をかける。件の話題が冒険者や一般人問わず持ち切りになるのは言わずもがな。何せ、都市の秩序を維持してきた派閥の1つ、『正義』を司る女神の派閥から『美』と『愛』と『戦い』の女神へと宣言されたからだ。

 

「あの【アストレア・ファミリア】が戦争遊戯を申し込むなんて、よっぽどのことだぞ」

 

 

つまりは、そういうことである。

さらに付け加えれば、冒険者になったばかりの新米(ルーキー)であるはずの【探索者(ボイジャー)】ことベル・クラネルが女神イシュタルに直接申し込んだことは風に流れるように人々の耳に入った。

 

「アストレア様がそれをお許しになった…ということよね?」

 

「団長のアリーゼちゃんも×(ノー)とは言ってないらしいぜ、むしろやる気らしい」

 

「「「「ていうか、あの兎、怒る事あったんだ」」」」

 

何やら、最強(さいつよ)冒険者が女神に拒否権を与えないよう喉元に刃を突き付けていたとか不穏な噂もあったが、暇を持て余す神々からしてみればそんなことはどうでもいいことであり、すぐさまその噂は戦争遊戯の話題で塗りつぶされていった。こうして都市内外で注目を集める中、戦争遊戯(ウォーゲーム)への準備は着々と進められていく。

 

 

「アストレア、お前の男は随分とやってくれたな」

 

「あらイシュタル、貴方こそ私の眷族を可愛がってくれたみたいでお礼を言った方がいいのかしら?」

 

 

せめて皮肉くらいは言ってやらねば気が済まない。そんなイシュタルをアストレアは肩を竦めて苦笑を浮かべた。見えない炎と雷がぶつかり合うかのような、竜と虎が睨み合っているかのような、そう女同士の戦いを幻視する男神達がちらほら。あのアストレアが怒ってる…と冷や汗を流す女神もちらほら。だってそうだろう、アストレアからしてみれば、自分の眷族が女神に仕立て上げられた上に可愛がっていた最年少の少年を斬り殺されかけたのだから。

 

 

「で? なぜ、この場にガキがいる?」

 

 

つとめて冷静に。

怒気を抑え、普段通りに、けれど女王のようにどっかりと椅子に腰を下ろすイシュタルは卓を挟んで正面に座る白髪の少年を見やった。それは他の神々も同じではあるが、ベルの後方―他の神々が座っている外周の席―にいるアストレアは短く「その権利があるから」とだけ答えた。場所はオラリオ中央、摩天楼施設(バベル)30階。神会(デナトゥス)の席である。

 列柱が高い天井を支え、円卓が配置されている大広間には、現在多くの神々が集まっている。戦争遊戯(ウォーゲーム)規則(ルール)や形式の打ち合わせは、対戦派閥である主神の合意のもと、他神達の意見が織り交ぜられる。

 

織り交ぜられる理由?

そんなの決まっている。

 

「「「「「最高の娯楽にするためさ!!」」」」」

 

故にこそ、当事者間の話し合いでは決して終わらないし終わらせない。この神会(デナトゥス)の場は通常、神以外が居座ることはまずない。()()()()()がある場合において特例として下界の住人達に貸し与えることがあるくらいだ。

 

 

「別にいいんじゃね、7年前の抗争の時にもロキのとことか、ガネーシャのとこの眷族達に貸してたんだろ?」

 

「絶対に踏み入れちゃいけないわけじゃないんだし、私は良いと思うけどー」

 

「挑戦状を叩きつけたのは、アストレアではなく【探索者(ボイジャー)】なのであろう? であれば、その者がこの場にいないのは違うであろう」

 

「ちゅーか、魅了して女王気取ってた阿保が文句言うなや、なあフレイヤぁ?」

 

「うふふ、そうねえ~」

 

「おい何を知らん顔して流そうしとんねんゴラ」

 

「うふふふふ」

 

「うふふふふっちゃうぞぉ!?」

 

 

神聖な場所に足を踏み入れるとはどういうことか、とまではいかないが文句あり気なイシュタルに特段気にしないとばかりに神々は言う。最後にロキ辺りが「いやお前文句言える立場ちゃうし」と切って捨て、魅了の上書きをした女神(フレイヤ)に殺気を隠すこともなく噛みつこうとしては禁忌の業(テヘペロ)するフレイヤを見てぎゃーぎゃーと吼えていた。

 

 

「アストレア様、ヘルメス様」

 

そんな周囲でぎゃーぎゃー言い合う神々に囲まれながら、ベルがおずおずと手を上げて主神と中立を標榜する男神ヘルメスの名を呼ぶ。1人の少年が言葉を発したことでようやく場が動くと神々は一斉に黙り舞台を眺める観客へとその顔を切り替えた。アストレアとヘルメスは「どうぞ」と頷き、子の発言を促した。

 

「僕、頭が良いわけではないので、助言いいですか?」

 

「構わないわ」

 

「ふむ……まあ、いいんじゃないかな? というよりアストレア、君は彼の主神であり当事者でもある。なら君は俺達のいる席ではなく、彼の隣に座るべきだ」

 

「……それもそうね」

 

席を立ち、他神(たにん)の視線を一身に浴びながら、アストレアはベルの隣へと腰掛けた。これにて神会(デナトゥス)の準備は整った。神であるイシュタルと超越存在(デウスデア)ではない下界の住人(こども)であるベルとでは対等の会話とはなり得ない。

故にこそ、アストレアを隣に。

舞台に上がらせた。

 

(アストレアはあくまでもベル君の補佐だ……この場にベル君がいる理由は、()()()()()()の魅了を解除した者がベル君であるという疑いがあるからだ。簡単な話、彼から神威を感じる。あり得るはずがないが、『半神半人(面白い未知)』の疑惑が上がっている。だから神々(おれたち)は彼にこの場に立ち入ることを許可した)

 

『何者か』が魅了を解除した晩から1日おいて今日(こんにち)。ヘルメスは旅行帽を摘まんでその視線をベルへ向けつつ思考する。アストレアに補佐するようにベルの元に行かせたのは『建前』半分、『保護』半分だ。時間が経過してしまっているせいもあるだろうが、あの晩、魅了が解除された際に神々は確かな異常事態に隠せない動揺を覚えていた。

 

――()()()()()()()()()()()()()

 

ありえない事態だ。

だが、それはほんの一瞬の出来事で今はその気配すら感じられない。ただし、目の前にいるベルを除けば。残り香のようにベルの身体に残っていた微かな神威。それがもし仮にあの晩のまま残っていたなら、神々は涎を垂らしてその『未知』を調べようとするだろう。つまり、()()()()()()()()()()可能性が高い。

 

(もっともな話、それならこの場に呼ぶべきではなかったんだけどね)

 

ヘルメスは今回、事態の介入に悉く失敗している。『殺生石』の件にしても、結局のところは自分が駒を動かす前に、カードを切る前に、動きが封じられてしまったように彼自身がそう判断する。この場にベルを呼んだのは戦争遊戯(ウォーゲーム)の宣言をしたのがベル本人だからというのもあるが、魅了による支配下にあったときのベルの立場が故というのもある。

 

『所属不明の冒険者』であり『正義の女神とただならぬ関係』という矛盾。後者は最早周知の事実―ベル本人に聞いても、もにょもにょするだろうが―と言ってもいいが、前者をそこに混ぜ込めば、あからさまな違和感が発生。どこの誰かもわからない冒険者―男―を、主神のお相手として眷族達が認めるのか?という話になってしまう。

 

(まるで「お前ならこうするんだろう?」というのを先回りされて余計にほじくりまわされた感じだ……やっぱり、少しずつではあるが、足音が聞こえだすかのように表舞台に上がってきているな…きっと戦争遊戯(こうなること)も予見…いや、起こさせたんだろうな…)

 

思わず、溜息を吐いてしまう。

多能神(マルチタレント)が聞いてあきれるぜ、とばかりの醜態に自嘲し舞台の上にいる2柱の女神と1人の少年に目を向けた。そんな男神の右隣…席をいくつか挟んだ先で、鍛冶神に時折気を遣われるようにしながらも暗い顔をする竈の女神(ヘスティア)がいた。

 

 

「では、始めましょう」

 

「ふぅ……いいだろう、始めろ。ベル・クラネル、望むことがあるのならお前から発言しろ」

 

神として、子に発言の順番を譲る。

鼻を鳴らす美神は、胸の下あたりで腕を組み、長い足を交差させて深呼吸する白髪の少年に紫の瞳を向けた。

 

「ではまず、戦争遊戯(ウォーゲーム)を宣言した上でハッキリと、僕の、僕達の立場を明確にしておこうと思います」

 

「?」

 

「それは―――」

 

一瞬、隣に座るアストレアの顔を見て再びイシュタルにしっかりと深紅(ルベライト)の瞳を向ける。神々の視線が集まる今、ベルからしてみれば重力に押しつぶされそうなほどの緊張感で、けれど、時折肌を撫でる風が、卓の下で密かに、膝に乗せられたアストレアの手から感じる温もりが緊張をほぐす。そしてベルははっきりとこう言ったのだ。

 

 

 

「――僕はサンジョウノ・春姫さんを救いません」

 

 

 

×   ×   ×

時を少し遡り廃教会

 

 

「ベル、神と対等に対話をすることはまず諦めろ」

 

それはベルが歓楽街へと向かう前、魅了が解除される前の話。男神(カロン)は英雄という『形』をとれと最初に言ったがその次に言ったのが神との対話を諦めろというものだった。意味が分からないといった顔をするベルにカロンは肩を竦めて笑みを漏らし、続ける。

 

「まず、『殺生石』の儀式とやらを悪視したところで意味はない。儀式、生贄、そういった類は神が下界に降臨する前より行われている人類(おまえたち)の文化の1つだからだ」

 

人身供犠(ひとみごくう)

神をはじめ超自然的存在への捧げ物のうち、とくに生きた人間を殺すことにより、その血や肉体や霊魂を捧げることによって加護を得て望んだ結果を得ようとすることだ。疫病の流行や天災などの災厄を『神の怒り』によるものだと考え、それを宥め慰めるために行われることもあった。それは無論、モンスターが跋扈する時代となろうとも変わらず、ひいては神時代となった今でも行われなくなったという保証は一切ない。むしろ、とある都市では呪術などの素材として『部品』を売買するという話まである。

 

「古代の時代、人類は考えたわけだ。疫病だとか天災だとか、モンスターだとか……こんな酷い世界になってしまったのは神様が怒っているからじゃないのか?とな。 じゃあどうすればいいか? 簡単な話、怒っている神様を喜ばせればこの酷い惨状は解決するはずだ。そして行われたのが、『生贄』の儀式。暴虐なる怪物に生娘を捧げる。祭壇の上に寝かせた生きた『贄』から心臓を抉り出す。いろいろ、だ」

 

無論、全ての神がそれを良く思っているわけではない。むしろ、「え、捧げられても困る…」と思っている神もいるだろう。

 

「それは、『天授物(アーティファクト)』であろうとも変わらない」

 

「……アーティファクト」

 

「まあ、現存している物があるのか怪しいからそれについては気にしなくていい。つまり、だベル。俺が言いたいのは、『ハルヒメさんを生贄にするなんて間違ってる!』っていうのは、あまり意味のない言葉だ。口にしたところでイシュタルは「だから何だ、お前達だってしていたことだろう?」と言うはずだ。まあ『子供がしているのだから大人がしてもいい』なんて馬鹿な発言は流石にイシュタルもしないだろうが」

 

「………」

 

「そうむくれるな。『許せない』は良い。個人の感情にすぎないからな」

 

「じゃあ、対話を諦めろっていうのは?」

 

「神に意見するのなら対価を支払え」

 

「?」

 

「存在としての立場(スケール)が違う。目線が違うんだよ、だから諦めろ」

 

さて。

そこでどうするか、という話だが――。とカロンは間を置いて、指の腹を合わせて微笑を浮かべた。

 

「神から冷静さを奪え、思考する余裕を与えるな、嘘であれ動揺させてしまえばいい」

 

もし仮にも魅了が解除されるなんて事態に至っていれば、それだけで美神の思考を乱すことは可能だろう。そこでさらに一工夫を加えるんだ。

 

「大前提、後悔しないためとお前は言ったが、お前はいったい、何のために戦うんだ?」

 

愛する義姉(輝夜)のためか?

憐れな娼婦(春姫)のためか?

 

「それは……」

 

答えは決まっている、とカロンはベルの顔から見てとると最後に一言。

 

「それを言葉にできれば、上出来だ」

 

 

×   ×   ×

神会(デナトゥス)

 

「ふむ――」

 

顔が良いだけの男神(ミアハ)が口元に拳を持ってきて思考するように。

 

「んぁー……?」

 

道化の神(ロキ)が欠伸を漏らしながら。

 

「んんんん??」

 

鍛冶の女神(ヘファイストス)がベルの口から出た言葉に耳を疑いながら。

 

「――――」

 

豊穣の女神(デメテル)が豊か過ぎる胸に手を当てながら目を見開きながら。

 

「――――は?」

 

その場にいる神々が、誰も彼も、動けず、何も言えず、しかし、なんとか動いたとしても今なんて言った?と再度聞くかのような反応が精一杯。

 

「え、えぇーー?」

 

そして最後に、ベルの隣に座っていたアストレアと成り行きを見守っていたヘルメスが悲鳴を上げるように叫びをあげた。イシュタルに至っては「こいつ今、なんて言った?」とばかりに完全に稼働停止(フリーズ)してしまっている。

 

「え、えぇ!? ベル君!? ちょっと待ってくれ!?」

 

「待ちませんヘルメス様」

 

痛む頭を押さえるようにして言うヘルメスにベルが頭を振る。そしてイシュタルは「はっ!?」とようやく現実に帰って来たかのように息を漏らして、皆を代弁して大きな声で叫んだ。

 

「一体、どういうことだ!?」

 

思わず、立ち上がってしまうイシュタルにベルは無理矢理に笑ってみせる。神々の疑問の声が伸び、息継ぎのために切れたのを見計らうと、言葉をつづけた。

 

「だって当然でしょう? 冷静に考えてくださいイシュタル様。――春姫さんを救ったら、今後【アストレア・ファミリア(ぼくたち)】は彼女を涎を垂らして襲い掛かってくる神様達から防衛し続けなきゃいけないんですよ? ただでさえお姉さん達は忙しいのに…負担かけられませんよ」

 

「ま、待てぇぇぇぇええ!? お、おまっ、お前っ、兎っ、な、何を、何を言っているんだ!?」

 

「? ぼく、何かおかしなことを言いましたか?」

 

「春姫を助け…救わない、だと!? 何だそれは!?」

 

「? イシュタル様は春姫さんのこと、やっぱり主神(おや)として実は救って欲しいとか思ってたりしますか?」

 

「そうじゃあないだろ!? お前はっ、あの娘の気持ちを知っていてっ!? それでそんなことを言うのか!?」

 

イシュタルは卓に手を何度も叩きつけ、声を荒げた。彼女からしてみれば、戦争遊戯(ウォーゲーム)をすることとなった発端には春姫が関係しているからであるという確信があるし、事実だから今の状況があるとすら思っている。更に付け加えてイシュタルもまた春姫に好いた男が出来たということは知っている。それでいてその男が目の前で言ったのだ「面倒なので助けませーん」と。『愛』を司る女神としては眷族の恋路をたとえどのような結果であれ実らないにしても侮辱にも通ずるものを感じ憤らずにはいられない。が、ベルの次の一言で強引に黙らせられる。

 

階位昇華(レベル・ブースト)なんて『未知(バクダン)』をいつどこで狙われるかわからない、隠し続けなきゃいけないなんて大前提で、僕は彼女を抱えたくない」

 

「――――」

 

隠していたイシュタルの『隠し玉』が神々の囲む場で、ぶちまけられる。目を見開き開いた口は塞がらず、耳鳴りでもしているかのように凍り付いたイシュタル。周囲の神々はベルの口から出た『未知』に耳を疑った。

 

階位昇華(レベル・ブースト)とか言ったか、今?」

 

「ランクアップさせるスキル……じゃなくて魔法ってことよね?」

 

「イシュタルのとこって確か、実力を偽っているなんて疑いをかけられてた時期なかったか?」

 

「ていうかさっきからちょいちょい出てた、『ハルヒメ』ちゃんがその持ち主?」

 

「それが事実だとして……」

 

「だとしても何も、【探索者(ボイジャー)】は嘘をついてはおらんぞ」

 

「ごくりっ」

 

「まじか」

 

「欲しい……」

 

「SSR……いや、URか……?」

 

ひそひそと、けれど確かなざわめきが生まれ始める。神々にとって『未知』となれば騒がない理由にはならない。ましてそれが、神の眷族を()()()()()()()()()魔法ともなれば。隠し通していたイシュタルの秘中も秘中が、神でもない人間の口から暴露されるという屈辱。さらにベルは言葉をつづけた。

 

「貴方の眷族が教えてくれたんじゃないですか」

 

瞼の裏に映るのは、イシュタルが魅了を行使したあの雨が打ち付けていた日のこと。

 

『冥土の土産に教えてやる。これが春姫の『妖術(ちから)』、レベルブーストだ』

 

1人の女戦士(アマゾネス)は確かに言ったのだ。他派閥の人間である、ベルに。

 

「――――!」

 

「僕はその話を、()()()()()()()()()()()なんて聞いていません」

 

(確かにそれならベルが、この場で口にしたところで今後リスクにはなっても今この時においてベルの責任にはならない。ただ単にイシュタルの眷族が教えてくれたというだけのことなのだから)

 

この子、どこでこんないやらしい舌戦を覚えてきたのかしらライラ?それとも輝夜?なんて【ファミリア】のひねくれ組の顔を思い浮かべては、うぅん…と眉間を摘まんで呻くアストレア。女神相手に相対していることもそうだが、本当は救いたいくせに無理をして救わない側としての口ぶりでイシュタルを翻弄している眷族に驚きっぱなしである。

 

「それからイシュタル様、何か勘違いしていませんか? 僕は、春姫さんを助けるために戦争遊戯(ウォーゲーム)をするなんて一言も言っていません」

 

「――――何?」

 

そう、ベルは一言もそんなことは言っていない。

春姫が絡んでいること、それは否定しない。否定しないが最大の要因ではないのだ。

 

「僕は……僕は、貴方が許せないから、戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込んだんです。都市を魅了しただとか、そんなことはどうでもいいんです。アストレア様は無事でしたし、アリーゼさん達も無事でした。ただ、輝夜さんを傷付けられた以外は、僕からしてみれば大した変化じゃありませんでした」

 

「うーん、ベル君……じゃあ君は、イシュタルが許せないから戦争遊戯(ウォーゲーム)を宣言したと? 私情だろ、それ?」

 

「神様達が戦争遊戯(ウォーゲーム)を始めるのだって、娯楽のためじゃないですか。欲しい眷族がいるから強引に奪い取る手段としても起こす場合、ありますよね? それに、僕とイシュタル様の前でフレイヤ様の眷族……強靭な勇士(エインヘリヤル)達が見届け、受理してくれました」

 

ベルがフレイヤへ目を向ければ、微笑む美神は恍惚とした表情を浮かべつつ肯定する。

 

「ええ、確かにその通り。そしてその宣言をするだけの大儀が、彼にはあった。身内を傷付けられたのだから、やり返されても仕方のないこと。それを都市を巻き込む抗争ではなく、戦争遊戯という『形』にさせたというのはむしろ正しい判断ではないかしら」

 

(アルフィアあたりから聞いていたか…痛い所を突いてくる……そう言われてしまえば、神々(おれたち)は何も言い返せない……娯楽とはいえ私情なのは確かだからな)

 

「すまないベル君、続けてくれ」

 

「ヘルメス様ちょっと落ち込んでます? なんていうか気持ち5割減くらいには表情が暗いっていうか、アスフィ・アル・暗黒メダさんくらいクマが深いっていうか」

 

「いや、落ち込んでないぜ? ぜんっぜんっ、事態に介入できなくてすることなくてスタンバることもできなくて落ち込んでるとか、ぜんっぜん、ないぜ!? きっと、ほら、次章とかに活躍の場があったりするから!? ていうか俺の眷族にしれっと変なあだ名をつけないでくれ!? 殺される、主に俺が!?」

 

「……次章?」

 

「ベルは気にしなくていいの、話を戻しましょう」

 

脱線しかけたところを痛む頭を押さえるようにしながら、アストレアが軌道修正させる。

ベルは黙り込むイシュタルを再度見やりながら、言葉を発する。

 

「ふぅー……。イシュタル様、教えてください」

 

「―――?」

 

「春姫さんを救えば他の神様達に狙われるかもしれない。もしそうなっても、春姫さんを救った方が得になるってことは、あり得るんでしょうか?」

 

ベルの声が、響く。

助言を求める相手が、まさかの敵女神。

 

「僕は第三級冒険者(レベル2)で、決して強いわけじゃありません」

 

(うそつけ)

 

(Lv.1でミノタウロス倒す阿保はお前だけじゃ)

 

(馬鹿みたいな雷の魔法持ってて、弱いとかないわ)

 

「この問いに自分で答えを見つけられません。だから、だからイシュタル様。『愛』を司る女神様、イシュタル様。馬鹿な僕に教えてください」

 

助言が欲しいと言っておいて、ここにきて敵に助言を求める。ベルのことをよく知る神々はいよいよもって言葉を失った。

 

(……立場を逆転させていたのか!)

 

(本当と嘘を混ぜて…場を混乱に陥れた上で)

 

(優しいあの子のことだから本当は『助けたい』。だけどここではあえて『助けない』側として…恐らくは、本来のイシュタルの側になって発言をしていた!)

 

(気持ちを知っていて…とイシュタルが言っていたが、それはつまり春姫はベルを特別視している…それも恋慕の類でだ。イシュタルのあの反応は眷族()を侮辱された主神(おや)としての憤りそのもの……であれば、それは『愛』の女神としてのもの。そしてその『愛』の女神に『娘』の救い方を教えろと言うのか)

 

(言うだけ言って頭に血を昇らせた(イシュタル)に助言を求めた……なんやこの子、フィンとは違ういやらしさ……どこで覚えてきた!?)

 

(ハッ、あの愛玩兎(アニマルセラピー)が……このような(テク)を持っておったとはな!)

 

旅人の神(ヘルメス)が。

鍛冶の神(ヘファイストス)が。

美の女神(フレイヤ)が。

武の神(タケミカヅチ)が。

悪戯好きの神(ロキ)が。

医療の神(ディアンケヒト)が。

未だ『正義』を見いだせずにいる1人のちっぽけな少年の戦いに目を見開き、あるいは口を開けたまま、あるいは興奮に頬を染めて見守っていた。それは一番近くにいるアストレアも変わらない。ひょっとすれば誰よりも神々と冒険者達を()()()()子供の成長が確かにそこにはあったからだ。呵々大笑に笑う好々爺のようにとは言わないが、見守らずにはいられなくなっていた。

 

「お前は、あの娘に何も求めないのか?」

 

「……大地に足を踏みしめて欲しい。大きく息を吸って欲しい。大声で叫んで、大声で笑って欲しい。別に春姫さんにだけ求めているわけじゃないですけど、うん、たぶん突き詰めると僕の願いはきっと、そんなものです」

 

だからこの僕の望みを叶えるにはどうすればいいのか、教えてください女神様。そう最後に言ってベルは言葉を終えた。イシュタルは目の前にいる白兎(クソガキ)が決して眷族(春姫)の恋慕を侮辱しているわけではないことをその言葉から読み取り、言葉を噛み締めると、席に腰を下ろして肘をつき右手の平で顔を覆って大きな溜息をついた。

 

(イシュタルが完全に追い込まれている……『殺生石』の儀式をすれば春姫という少女は死ぬのであれば、本来ベルの『助けない』という立場はイシュタルのもの。だけれどベルは、先に発言権を譲ってもらったことでイシュタルからその立場を奪った。そして最後にこの議会の初めにイシュタルが言った通りに『望み』を答えた……)

 

アストレアは隣で周りの神々にはバレないようにでもしているのか、静かに深呼吸して平静をなんとか保とうとする未熟な眷族に何度目とも知れない苦笑を浮かべた。ヘルメスの方に「貴方が仕込んだの?」という視線を送るも彼も驚いていたのか勢いよく頭を左右に振っていた。

 

「…………」

 

イシュタルは息を吸い、吐いて、痛む頭を押さえながら長くも短い沈黙を終えて口を開いた。

 

「春姫を救う事による利点を教えてやる」

 

利点。

つまりはベルにとって得になること。

 

「あの娘の妖術は強力だ。制限時間はある、獲得できる経験値は半減する。だが、冒険者にとっては逆境を覆せる『切り札』にもなるだろう。その妖術(チカラ)の恩恵を常に手元におけるということだ」

 

クソッたれめ。そう言いたげな雰囲気を隠すこともなくイシュタルは告げる。イシュタル自身が敗北した場合、春姫はベルの元に移動するであろうということも見越したうえで。女神は続ける。

 

「あの娘は『尽くす』タイプだ。娶れば良い良妻狐になるだろうよ。私の手元にやってきて衣食住も確かなものを与えている。胸にはしっかりと肉が詰まり男好きのする身体に育っている上、あいつに遊女達は男の悦ばせ方も教え込んでいると聞く。つまり、春姫がお前の元に行けば、日夜、あいつはとことん自分を救った英雄(オス)のために全てを捧げるだろうということだ。 喜んで奉仕の限りを尽くすだろう」

 

(僕は何を聞かされているんだろう……)

 

(イシュタルは何を言っているのかしら……)

 

(お得だなあ……)

 

(専用娼婦……やと?)

 

「しかし、生娘だ」

 

(な、【ファミリア(内部)】の)

 

眷族(内部)の)

 

身体(内部)情報を……)

 

(漏らしたぁ!?)

 

イシュタルは至って真面目に口を動かすが、ベルは「え、なんか思ってたのと違う」みたいな反応だしアストレアは「え、えぇー」だし、ヘルメスは何故か嬉しそうだしロキは細い瞼をこれでもかと開いていた。

 

「そしてお前の『望み』を叶えるためにはどうすればいいか、だったか……」

 

言葉にすれば簡単だ。そう言ってイシュタルは肩を竦めて「まあ無理だろうが」とでも言いたげに言った。

 

 

階位昇華(レベル・ブースト)なんて妖術(チカラ)があっても意味がないという偉業を見せつければいい」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)をするのだから、偉業を成し遂げる機会(チャンス)は必ず存在する。なるほど言葉で聞けば簡単だ。できるかどうかは別として、とアストレアは納得する。

 

「もっと、わかりやすく言うなら……」

 

思考しながら口を手で覆ってイシュタルは言う。

彼女が頭に思い浮かべるのは『怪物祭』でのベルの成し遂げた『偉業』。

 

「『怪物祭』以上の『偉業』を成せば、さしもの――」

 

周囲を見渡し、神々を睥睨。

最後にベルに輝く金の瞳を向けて言い終える。

 

「神々とて手を出そうとは思わんだろう。今のお前の階位(レベル)も付け加えれば」

 

現在のレベルで『怪物祭』以上の『偉業』を成し遂げろ。それが神イシュタルが告げたベルの『望み』を叶える手段である。言うことは言った、と黙り込むイシュタル。場は静まり返る。苛立ちはやはりイシュタルの中から消えることはなく、自分の手札を晒したような不快感でいっぱいいっぱいである。そっぽを向くので手一杯。

 

「…………?」

 

沈黙が続き、何故何も言わないのかとイシュタルはベルに再び目を向けた。ベルはただ真っ直ぐ、いや、よく見ればいよいよ神に囲まれているこの状況に限界が来ているのか汗を滲ませているが、それでも真っ直ぐとイシュタルのことを見つめていた。

 

「それだけですか?」

 

「―――――何?」

 

「もう、ないんですか?」

 

何が言いたいの? という空気。

怪訝な顔のイシュタルに()()()()()()()()()()と勘を働かせる神々がニヤついた笑みを浮かべる。ただ、ヘルメスやロキといった化かし合いの上手い一部の神と主神のアストレアが何かに気付いたかのように目を見開いた。それは、この神会(デナトゥス)の場において、ベルが最初に言った言葉だった。眷族の恋路を踏みにじられたと主神が憤るに足る大したことのない、けれど確かな一撃だった。

 

 

「――僕はサンジョウノ・春姫さんを救いません」

 

イシュタルは『殺生石』の儀式を行うつもりでいた。そしてつもりでいる、今であっても。だがしかし、それでも、春姫を無理矢理に道具(アイテム)にしようとしていたわけではない。本人の意志はどうあれ娼婦にこそなったが、満足な衣食住を与え、春姫の確かな変化に笑むことさえある。だがしかし、目の前にいる少年は春姫の気持ちを知っておいてなお、その言葉を発したのだ。故に、主神(おや)であるイシュタルは吼えた。

 

 

「そこは、助けろぉ!!」 

 

音が消え失せる。

沈黙。

静寂、或いは、静謐。場の空気はそのようなものに包まれた。そして、悪戯好きの神(ロキ)は机につっぷして肩を揺らし始めた。

 

「馬鹿なのか、お前はっ!? 今までの会話は何だったのだ!? 言っていることが滅茶苦茶だぞ!? ここまで私に言わせておいて、『助けない』だと!? 馬鹿にするのも大概にしろ!! あの娘の気持ちを知っているなら、助けるべきだろう、いや、助けろ!? であればこそ、私はお前を完膚なきまでに叩き潰す理由もできるというのに!! この戦争遊戯(ウォーゲーム)が私を許せないから起こすものであっても、他にも理由はあってしかるべきだろう!? それが人類(おまえたち)だろう!? お前は、この戦争遊戯(ウォーゲーム)、誰のために剣をとるんだ!?」

 

「――輝夜さん」

 

「は………はぁあああ!?」

 

「輝夜さんは泣いてた。泣かせたのは貴方。だから、剣をとる、戦う」

 

 

 

×   ×   ×

廃教会

 

 

「―――愛する誰かのために戦うことは決して不自然なことじゃない」

 

エレボスは廃教会の扉から摩天楼施設(バベル)へと目を向け、目を細める。そして、踵を返しどこかへと姿を消していく。

 

()()()()()()()()じゃないか、なあ、アルフィア」

 

もういない英雄に言うかのように、茜色がかってきた空を見つめながら独白めいて零す。遅れて何者かが地を駆ける足音が廃教会へやって来る。その人物は、紅の着物に長い黒髪を背に流した1人の極東美人(ヒューマン)。帰るに帰れない彼女は、7年前に取り逃した悪神を怒れるままに取り押さえようとやって来たのだ。

 

「――――っ!!」

 

勢いよく開ける扉はない。

ただ入り込み、外とは違う明るさに目を慣らすのもまたず、辺りを見渡し気配を探る。別にここにいるという確信はなかった。ただ、ここならあるいはという勘があっただけ。もう塞がって傷痕も残っていない腹が、悪神にナイフを押し入れられた腹がズキリと痛む。けれど知ったことじゃない。よくもやってくれたなという怒りで頭に血を昇らせた彼女は、しかし、無人の廃教会でただ寂しく陽の光を差し込み輝く彩色硝子(ステンドグラス)が彼女の訪れを優しく迎え入れるのみ。

 

「………くそっ」

 

誰かがいた痕跡はあった。だから一足遅かったという悔しさが募る。唇を噛み、拳を握り締め、血を滲ませる。物に当たりたい衝動に駆られるが、ここがベルにとってアルフィアにとって()()()()()とわかっていてはそれもできない。やがては罪の重さに耐えかねた罪人のようによろよろと彩色硝子(ステンドグラス)へと近づいて、年季を感じさせる教会椅子(チャペルチェア)に腰を下ろし、背を折り膝の上に腕を乗せ手のひらで顔を覆って呻く。罪とは過去を思い出してしまったことであり、嫉妬してしまったことであり、何より、己が手で過去を再現するようにベルを斬ってしまったこと。魅了が解除されたとはいえ、自分がしたことの重大さを彼女は何より痛感している。たとえ「仕方がないわ」と許されたとしても彼女自身が許せない。

 

 

「私は……どうすれば、いいんだ……」

 

 

×   ×   ×

神会(デナトゥス)

 

 

「『愛』する誰かのために剣をとり、戦う。それは別に不自然なことじゃないと僕は思う」

 

「!?」

 

おもむろにベルは席に立つ。

少しよろめいて、アストレアに支えられて、したり顔になって言う。

 

「そして今、僕は、女神イシュタル様に依頼(クエスト)を受けた」

 

何度も何度も言葉を失わせられるイシュタル。

いよいよもって吹き出したのは、堪えきれなくなったロキであり、イシュタルが何をやらかしたのか気がついた神々だった。

 

「アッハハハハハハハハハハハーーーッ!!」

 

「ヒーヒッヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 

「ギャッハハハハハハ!!」

 

「ふ、ふふふふ」

 

下品な笑い声ばかりが目立つが、それでも神々は笑ってしまう。ベルが何かをやらかしてくれるという神々の期待に応えるようにこの状況はできあがった。

 

依頼(クエスト)……なんのk―――」

 

言葉を絞り出すイシュタルの声は、神々の笑い声の前に搔き消える。胸に手をあて深呼吸をした後に神々に聞こえるように声を張ったのはベルだ。

 

「女神イシュタル様は、仰りました! 『我が眷族、サンジョウノ・春姫を助けて』と!」

 

「な……っ!?」

 

「ウチはそういうふうに聞こえたでー! わたちの可愛い眷族、たちゅけて~ってそう言ったように聞こえたで~!」

 

「は、はぁ!?」

 

「……ベルは、その依頼をどうするの?」

 

「受けます、アストレア様! 眷族の助けを求めている女神様がいるんです、貴方の眷族として無視はできません!」

 

「そうね、助けを求めている人がいるなら……その手を取ってあげるべきよね」

 

自分の眷族に終始驚かされっぱなしのアストレアは、苦笑しか浮かばせることはできないが、滅茶苦茶なことをする眷族に頬を引き攣らせるばかりだが、もういっそイシュタルが可哀想に思えて仕方ないくらいだが、ベルはイシュタルから春姫を救うことの『得』とベル自身の『望み』を叶える方法、そして最後に『助けろ』という言葉を吐き出させたのだ。帰ってアリーゼ達に聞かせてやりたい。彼女達は「アルフィア並にえぐい」なんて言うかもしれないと思うと、やっぱり苦笑を漏らしてしまう。それ以上のイシュタルとベルの会話はないと踏んだか、神会(デナトゥス)はヘルメスや何故か影が薄くなっていたガネーシャ―ベルが怖いゾウ! アーディィィィ!?などと証言している―彼等によって進行されていく。お題目を何にするかとなれば、『くじ』で決めようと神々がやりとりしている間にベルは席に腰を下ろし、隣のアストレアに身体を預けて小休止。与えられた冷水で喉を潤して、頭を撫でる女神の手の感触に心地よさそうに身を捩る。そんなちょっとしたイチャコラに男神達がイラァと血の涙を流す。女神達はいいなあと羨ましがるばかりだ。

 

「よし、では【アストレア・ファミリア】と【イシュタル・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)のお題目は―――――!」

 

 

1人の男神が代表して宣言する。

決定したお題目が何であれ神々ははしゃぎまわり、そうして神会(デナトゥス)は閉会していく。

 

「おい、小僧」

 

閉会間際。

イシュタルがベルに瞳を輝かせたまま問う。

 

「お前は何故、『魅了』が効かない?」

 

「うーん……スキルの副次効果……だから……?」

 

「ちっ、ますますいけ好かんガキだ」

 

「あとは……うん、お義母さんにもお姉さん達にも言われたことだけど……」

 

「?」

 

「恥じらいのない裸は、ただの景色です」

 

「「――ぐはっ!?」」

 

その一言にイシュタルと、そしてまだ残っていたフレイヤの2柱の美神が喀血と共に突っ伏した。神々の「おい美神が死んだぞ!?」「フレイヤ様が息してない!?」「おい、化物だ、化物がいるぞぉ!?」なんて悲鳴をあげたどんちゃん騒ぎを始めた。さらにベルはイシュタルに追加攻撃(オーバーアタック)

 

「そういえば春姫さん、新しい魔法発現しましたか? せっかく最高品質(5億ヴァリス)魔導書(グリモア)を使ったんですし……僕にも知る権利はありますよね?」

 

「お前、ほんっと、嫌いっっ!! 意地でもステイタスを更新するものか!!」

 

 

×   ×   ×

星屑の庭

 

空はすっかり暗くなり、星々が輝き都市は夜であるにも関わらず騒がしい。そしてそれは【アストレア・ファミリア】であっても変わりはない。まずは戦争遊戯(ウォーゲーム)について。ぱちんっ、と頬を叩く音が、ベルから鳴った。頬を叩いたのは団長のアリーゼだ。何せ、今の今までベルと再会していなかったのだから彼女達からしてみれば『魅了』が解除されて美神に怒りの炎を燃やしていたはずなのにいつの間にか戦争遊戯(ウォーゲーム)が決まってしまっていたという状態なのだから。まあ、やるけど、でも……というやつだ。

 

「馬鹿」

 

頬を叩いて、すぐに抱きしめる。

彼女曰く成長しているらしい胸が服越しに形を歪め柔らかさと彼女の体温が伝わってくる。頬を叩いた彼女ではあったが、全然痛くはなかった。勝手に決めたことには怒りたいところだが、それ以上に彼女は、彼女達は心配していたのだ唯一の弟分のことを。そして、帰ってこなかった副団長のことを。背中に手を回して抱きしめ返して「ごめんなさい」と謝り、「いいの、無事だったなら」と許されて、額をくっつけられて笑みを向けられる。

 

「おかえりなさい」

 

そして遅れてその言葉を贈られる。

だからベルは、「ただいま」と返して本拠の中に入った。その後は夕食を取りながらアストレアが神会(デナトゥス)であったことをアリーゼ達に聞かせて、アリーゼ達はアストレアが思っていた通りに「アルフィアくらいえぐい」といった反応を示した。

 

「神様達に囲まれて……勇者様でもねえくせによくやるぜまったく」

 

「それがこの子ったら、やっぱり無理していたみたいでね? 神会(デナトゥス)が終わったら吐いちゃったのよ」

 

「い、言わないでくださいアストレア様!? 末代の恥です!?」

 

「「「「「子供が産まれなきゃベルが末代だよ」」」」」

 

多くの神々に囲まれた中での、美神との相対。当然、ストレスが溜まるわけで、なんとかやり切ったと緊張の糸が切れたベルは「二度とやりたくない」とばかりに摩天楼施設(バベル)内のお手洗いにて内容物を吐き出したのだ。だからベルは星屑の庭に帰ってきた時、若干ゲッソリしていて、頬を叩いたアリーゼは「どうしよう…」とおろおろしたものだ。嘔吐したという正直恥ずかしい話を女神に暴露されて、慌てふためくベルにお姉さん達はすかさずツッコミをぶちかます。

 

「輝夜さんは?」

 

「気まずいんでしょ」

 

「気まずいんでしょうね」

 

「気まずいんじゃね」

 

ベルがどこにもいない輝夜のことを問えば、付き合いの長さからくるのか即答でそう返って来る。そして「めんどくさい女だから」と肩を竦める彼女達。空席を見つめて寂しそうな顔をする弟にクスリと零すのはアリーゼ達、夕食が終われば団欒室で就寝までの時間をのんびりと過ごす。

 

「輝夜ちゃんは愛されててうらやまちいでちゅねー」

 

「やめてやれよアリーゼっ、笑っちまうだろぉ? ぶふっ」

 

アリーゼがおどけ、ライラがニヤケては吹き出す。2人だけではなく、割と派閥の中で重い過去を持つ彼女だからこそ抱えているものがあるんだと、各々が言っては帰ってきた時にどんな風に揶揄ってやろうかとそんな話題が上がり、生真面目な妖精がやれやれと頭を振る。

 

「はい、終わったわ」

 

そして女神の声に彼女達は声の方へと向く。

そこには上半身を生まれたままの格好にして女神に背を向けるベルの姿。

 

(冒険者になってから、男らしく引き締まった身体してきたよね)

 

(ゴリゴリしてない丁度いい身体…ごくり)

 

(ちびっ子の時の太ってはないけどぷにっとした感じも愛らしさがありましたよね)

 

(あれでいて寝ている時は、相変わらず可愛い寝顔なのずるくない?)

 

((((一緒に寝てくれないかなあ)))))

 

「貴方達、どうして獲物を狙う捕食者の目をしているの?」

 

「い、いえ、別に、アストレア様とベルと一緒に寝たいなあなんて思ってませんよ!? アストレア様のおっぱいに顔を埋めて眠ってるベルが羨ましいなあとか全然思ってませんよ!?」

 

「ちょっとは誤魔化せアリーゼ」

 

困った顔をするアストレアに飢えた女豹のような顔をする姉達に若干、歓楽街でのアマゾネスに追い回されたことを思い出したか怯えた顔をしたベルは素早くアストレアの背後に回る。

 

「そ、それより、ベルのステイタス! あーなんか久しぶりな気がするなあ……!」

 

「1章分くらい見てない気がしますね」

 

「なんの話?」

 

「神様達の言うメタなこと言わない方がいいと思うなあ」

 

「はい、これがベルの最新のステイタス。ランクアップには……至ってはいないのだけれど、スキルを発現させることができたわ」

 

―・―・―・―・―・―

 

ベル・クラネル

所属【アストレア・ファミリア】

Lv.2

力:D 529

耐久:B 782

器用:A 823

敏捷:SS 1010

魔力:SS 1084

幸運:I

 

■スキル

雷冠血統(ユピテル・クレス)

・早熟する。

・効果は持続する。

・追慕の丈に応じ効果は向上する。

 

灰鐘福音(シルバリオ・ゴスペル)

戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

戦闘時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

戦闘時、修得発展アビリティの全強化。

 

月華星影(ミセス・ムーンライト)

破邪の加護(アルテミス・ディパル)

・夜間発動。

一定周期変動(ナイト・コール)

 

明星簒奪(スイングバイ)

任意発動(アクティブトリガー)

・一定範囲内に存在する全眷族からの能力(ステイタス)加算。

・簒奪した運動エネルギーによる加減速に超域補正。

・対象の運動エネルギーによる回避行動に高補正。

・対象の運動エネルギーによる高速攻撃に高補正。

・加算値及び補正値は階位(レベル)反映。

 

■魔法

【アーネンエルベ】

詠唱式

【我等に残されし、栄華の残滓。 暴君と雷霆の末路に産まれし落とし子よ。】

【示せ、晒せ、轟かせ、我等の輝きを見せつけろ。】

【お前こそ、我等が唯一の希望なり】

【愛せ、出逢え、見つけ、尽くせ、拭え、我等が悲願を成し遂げろ。】

【喪いし理想を背負い、駆け抜けろ、雷霆の欠片、暴君の血筋、その身を以て我等が全てを証明しろ】

【忘れるな、我等はお前と共にあることを】

 

・雷属性

自律(オート)による魔法行使者の守護。

他律(コマンド)による支援。

 

 

【ビューティフルジャーニー】

詠唱式

【雨の音、風の音、波の音、月の涙、雷の大笑、鐘楼(かね)の歌、星の光輝(ひかり)

【星に刻もう。私は忘れない】

【貴方達がいたことを】

【誰よりも遠く、夢よりも速く】

【行こう、冒険はどこまでだって続いていく】

【傷を癒し、飢えを凌げ、この身を戒めるものは何もない】

【陸を越え、海を渡り、至れ前人未踏の領域へ】

【天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る】

前へ(エンゲージ)

恐れずして(リフト)

前へ(テイクオフ)

 

 

・自動治癒。

・光翼展開。

・魔法捕食。

・魔法無効化。

 

【アストラル・ボルト】

・速攻魔法

 

 

―・―・―・―・―・―

 

「変態だ」

 

「うへぇ」

 

「これって攻撃とかの衝撃を自分に付与するってことでいいんでしょうか?」

 

「運動エネルギーってことはそういうことでしょ?」

 

ライラがすっぱいものを口にしたような顔をして、イスカが言葉通りに、セルティとリャーナが早速考察。もう彼女達はベルの変なアビリティの数値なんて気にしていない。気にしたって無駄なのだ。だって彼のお義母さん、常時限界解除(リミット・オフ)しているような化物(ひと)だし。わぁ数字しゅごーいと思う程度が丁度いいのだ。

 

「それじゃあ、ベル?」

 

「あ、はい、寝ますか、アストレア様?」

 

「そうね、寝ましょうか……でも、そうね、明日から戦争遊戯(ウォーゲーム)までの1週間、リュー達と()()()()してきてね?」

 

「…………え?」

 

(((((あ、アストレア様も少し怒ってるやつだ)))))

 

「まだステイタス伸びそうだし、せっかくならオールSにしたほうが気持ちいいし……ね?」

 

「え、と……あの?」

 

「【明星簒奪(スキル)】も使い慣らしておかないといけないでしょう?」

 

「で、でもでも!?」

 

「ね?」

 

「……」

 

「ね?」

 

「…………ぁぃ」

 

「よろしい、それじゃあ、寝ましょう!」

 

いつまで上半身裸でいるの?風邪をひいてしまうわ。というアストレアに手を繋がれ、神室へと連れられて行く憐れな兎。彼は去り際、救いを求めるように姉達へと振り返って不安に染まる眼差しを向けた。

 

「「「「ごめん、ベル。アストレア様は武闘派の女神様だから」」」」

 

お姉さん達は目を逸らし、各々就寝の準備に取り掛かった。

団欒室から人がいなくなり、アリーゼがベルのステイタスの更新用紙を摘まんで灯りを消す。テーブルにはたった1枚だけ残された羊皮紙が。羊皮紙には、以下の文が記されていた。

 

 

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)

演目:『海戦(ナウマキア)




明星=金星
金星=ヴィーナス、イシュタル、アフロディーテ=美神

兎「奪っていきますね」
美「キィイイイイイ!!」


・修行編はありません。

・輝夜に何か、美神特効的な(18巻ベル君)スキル発現させたいけど思いつかないんだよなあ。
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