―――『
『あー、あー! えーみなさん、おはようございますこんにちは。今回の
熱気渦巻くオラリオの一画、ギルド本部の前庭では仰々しい
『解説は我らが主神、ガネーシャ様です! ガネーシャ様、それでは一言!』
『――俺が、ガネーシャだ!!』
『はいっありがとうございましたー!』
実況者イブリの横で巨大な象の仮面を被った男神、ガネーシャが吠える。観衆は一斉に喝采を送った。商人等と提携し盛り上げる
此度の
『場所は、メレンより先に進んだ沖合にて行われます! と言いますのも、本来の
『ニョルズゥゥゥゥ!! ありがとぉおおおおおお!! 別に、怪物祭での
『どうして余計なことを言うんですかねガネーシャ様ぁぁああああ!?』
例によって都市の秩序維持に貢献していた【アストレア・ファミリア】から【イシュタル・ファミリア】に戦争遊戯を申し込むというその話題が熱を失うことはなく、そして戦場が水気のありすぎる場所ということもあり男神や男性冒険者達は
× × ×
「さて、頃合いかな。アストレア、イシュタル、構わないかい?」
「ええ、問題ないわ」
「ふん、好きにしろ」
取り出した懐中時計は正午が目前に控えていることを告げており、ヘルメスは2柱の女神の言を取り、顎を上げ、宙に向って話しかける。
「それじゃあ、ウラノス、『力』の行使の許可を」
空間を震わせた彼の言葉に、数秒を置いて応える声があった。
【――許可する】
ギルド本部の方角より、重々しく響き渡る神威のこともった宣言を聞き届けたかのように。オラリオ中にいる神々が一斉に指を弾き鳴らした。瞬間、酒場や街角、虚空に浮かぶ『鏡』が出現する。
『~~~~~~~~~~~~~!!』
都市の至る場所で無数に現れた円形の
× × ×
メレン沖合
海上で、複数のガレー船が小さく揺れていた。解説者イブリの説明通り、戦場の外周はちょうど円を描くように『
「――――操舵師なんて、いないんだわ」
「
「ライラちゃん……気持ちはわかるけど、言葉に気をつけた方が……」
「決まってしまったものは仕方がない。操舵師がいないのは敵も同じのはず…条件は一緒………の筈」
「自分の言葉にはもっと自信を持てよリオン」
「そもそも、私達とあっちとじゃ人員が違うからなあ……戦争遊戯までの1週間、ベルのアビリティ上げを手伝いつつ考えたけど、やっぱり数ばかりはどうしようもないよ」
ガレー船とは、
「ライラ、これ、人力じゃなくても動くわ」
「お、まじか」
「はい、
「確か砂漠のあたりなんかでも使われてる船の仕様ね」
「つまり?」
「魔力を動力にできます」
「ふふん! ということは、リャーナ! 貴方は今からエンジンよ!」
ばちこん☆とウィンクしてみせるアリーゼにリャーナは少しイラァとしたが、まあ仕方ないかと頭を振って溜息を吐いた。後輩のセルティがそんな
「リューさん、向こうに見える島は何ですか?」
「あれは……ちょっと待ってください、今確認します……無人島みたいですね。名前は……『ゆーじんとう』と言うらしいです」
「無人なんですよね?」
「ええ、恐らく。そしてそこへ行くことはありません」
「しかしベル、人と話をするときは相手の目をみなさいと教えた筈だ」
「………」
「おい元末っ子と現末っ子、その微妙な距離感はなんだ、もう始まるんだからしっかりしてくれ」
「ネーゼ、私は別に……か、彼が、その、変に怯えるから……っ!」
「まあ仕方ないよねえ……アストレア様のご命令とはいえ、『セオロの密林』でひたすら主にリオンに追いかけまわされてたんだし……」
「ベル君、ひいひい言いながらリオンちゃんの魔法から逃げては体力の限界で倒れた後にアストレア様に
「ベルったら、すっかりリオンとアストレア様に怯えちゃって
「そ、それは……し、仕方がなかったのです! アストレア様のご命令とあれば…‥そう! 仕方のないことだった!」
「まあその結果、アビリティは随分上がったけど……いやなんで上がるのさ…」
「もう、ベルだからとしか……」
「「「「「そのうち、追い抜かれるんだろうなあ……」」」」」
何を思い出したのか自分の身を抱いてふるりと震わせるベル。だって仕方ないのだ。ダンジョンではない地上での特訓で、女神様が差し入れだとかくれるにしても見ていてくれるにしても背後から【疾風】が当たらない程度に【ルミノス・ウィンド】をぶちかましてくるのだから。やりすぎてしまうレベルであったのだから。
「ね、ねえ、これ何?」
そんなリューとベルの何とも言えない空気を忘却の彼方に吹っ飛ばしたくなったか、ノインが皆を呼んだ。ガレー船に設置されているとあるもの。布が被せられており、皆が集まったことを確認するとアリーゼが布を剥がすと顔を出したのは、ガレー船には本来あるはずのない装具だった。
―――
巨大な
(C--rō-……?)
小さく掘られた文字を見つけたベルは、目を細めて確認したが強引に掘って刻んだのか癖が強く読み辛い。本来設置されているはずのない代物に首を傾げる一同。しかしそこで、視界にチカチカと点滅する光を確認。
「よし、皆、装備は問題ない?」
「問題ないわ、
アリーゼの声に、リャーナが答え仲間達も同じように頷く。普段と変わりない装備―整備済み―に加え、彼女達は左肩に
「ベルも問題ない?」
「――はい、大丈夫です」
ベルの装備は
「
「殺しに来ていますね」
「剣だけで……ひぃふぅ……いくつ持ってんのよ……」
「重くないのですか、ベル?」
「あ、はい……重量の問題もあって、鎧は『
「その盾ってさ、私達、実物を拝むのたぶん初めてなんだけど……
「はい、
ベルは知らない。お願いしたときに後ろにいたアストレアがヘルメスに微笑みかけていたのを。引き攣った笑みで引き受けるしかなかったヘルメスのことを。
魔剣が1つ、剣が4、短杖が1、指輪が左右に1、そして盾が1つ。これがベルの武器と防具だ。主な製作者であるヴェルフ・クロッゾは死にそうな顔をしながら「使え」と差し出してくれたのだ。無論、とある蠍の
「いいかお前等、前日に言った通り初っ端から飛ばすのはナシだ特に兎な。相手の船が10、こっちは4。どうしてこっちの船が少ねえのかっていう理由は単純明快
× × ×
【イシュタル・ファミリア】
「勝利条件の1つは相手を全滅させること。これは相手を海に落とすもアリ、要は場外=戦闘権の剥奪ってことらしい。そしてそれぞれの船に設置されている団旗を破壊すること。俺達の場合は船の数が【アストレア・ファミリア】よりも6隻多い。が、その分守らなきゃいけない団旗の数はこっちが1つ。あっちは3つとなっている」
「団旗を隠すのはありなのか?」
「
「なら、俺達のが有利じゃん」
「…だといいがな」
「?」
副団長のタンムズが
「タンムズぅ! どうして春姫がここにいるんだい!? イシュタル様はバラすつもりかい!?」
団長であるはずのフリュネが故だ。
全身を鎧に身に纏い、兜のバイザーを上げて喧しくのたまう。彼女は団長ではあるが団員達との信頼関係など皆無。異種族であるアマゾネス同士の雄の取り合いなど見慣れたものではあるが、それでも姉貴分のようなアイシャと比べれば圧倒的に信頼の度合いが違う。彼女を馬鹿だとは思わないが、傲慢が服を着て歩いているような彼女に団員を纏めるカリスマ性などなく、では副団長のタンムズがやるしかないのだ。彼は嘆息し、フリュネの怒声に肩を揺らして怯えを見せる
「そんなの、【
「なんならお前があの夜に使わせたのが原因だろうに、ヒキガエル」
アマゾネスの少女レナに続いて、アイシャが半目で巨女に言う。忌々しい兎が「え、言っちゃ駄目だったんですか?」と心の中で言っている気がするが、あの夜、春姫に妖術を使わせたのはフリュネであり、その妖術が春姫のものであると口にしたのはアイシャだ。
「お前が口を滑らしたからだろう、アイシャ!」
「なら使わせるな、ボケ」
「何ぃ!?」
やかましく吠える巨女に静かに殺気を漏らすアイシャに何名かの団員達も流石に小さな悲鳴を漏らす。タンムズは痛む頭を押さえるようにしながら―勘弁してくれと思いながら―話を戻した。
「この
《え、イシュタル様、『とっておき』を置いて来ちゃったんですか?》
《見たかったなあ春姫ちゅわ~ん、美神の眷族だからきっと美少女なんだろうなあ》
《レベルブーストとかいうぶっ壊れをこの期に及んで隠すとかないわ~》
頭の中に浮かぶ神々―主にイシュタルを毛嫌いする女神―が敬愛する主神にやいやい小馬鹿にするような顔しながら口々に言うのを想像し、そして負ける気はないが負けた場合を想像してタンムズは唇を噛んだ。
《え、出し惜しみして負けるとか…イシュタル様はっずかしい~》
《舐めプして負けるとかないわ~イシュタル様ないわ~》
《アフロディーテよりないわ~》
青筋を立て握りこぶしを作るタンムズは声量を上げた。
「絶対、あってはならないのだ!!」
((((あいつ何想像したんだろう……))))
「春姫、お前は船内に隠れていろ、5名ほど護衛につけ。妖術の行使はフリュネ、お前が指示しろ」
「…フン、春姫、お前は檻から出るんじゃないよ……!」
「っ!」
戦闘能力のない春姫を船内に隔離し護衛する。船に取り付けられる団旗の防衛組も用意する。前線に出るだろうということはタンムズのこの言葉からアイシャは読み取った。フリュネに妖術の行使のタイミングを任せたのは気に入らないが、あれでいてLv.5の化物。戦いに関してはセンスはあるとわかっているのだろう。そして未遂に終わったとはいえ『殺生石』の破壊を行おうとした自分は一定の信頼はあっても信用はされていないと線引きされているのだと理解する。
「あ、あの副団長!」
「? どうしたシャレイ」
「船はどう動かすんですか?」
団員達も当然というべきか、操舵の経験を持つ者がいないようで皆一様にタンムズに顔を向けた。タンムズは「ああ」と零すとすぐに返答する。
「この船がガレー船とは言うが、魔力を動力とするらしい。人力でも動かすことはできるが……恐らく、船を動かすこと自体は最初の瞬間だけだ」
「というと?」
「あちらの船とこちらの船は、開戦の後……
だから人力で船を漕ごうが、魔力で動かそうが、大した問題ではないのだとタンムズは言い切った。当然ガレー船にバリスタなんてものが設置されているはずもなく、唯一設置されているのは『
× × ×
【アストレア・ファミリア】
「輝夜、いると思うか?」
「ええ、恐らく……勘だけど、輝夜は敵として私達にぶつかって来ると思う。イシュタル派が知っているのかはわからないけれど……忍び込むなり、しているんじゃないかしら」
ネーゼが海原を見つめるアリーゼに問い、アリーゼはすぐに答えた。派閥の中で一番面倒くさい女であると苦笑と共に肩を竦めるアリーゼはネーゼへと振り返り続ける。
「魅了されていても、その時の記憶は残ってる。なら、ベルを斬った輝夜の中ではきっとシコリが残っている筈よ。魅了が解除されて、じゃあすぐに帰るかって言われたら難しいと思う」
「敵対してくる……それはつまり」
「ええ、それはつまり、よリオン。輝夜はきっと私達と戦って負けることで、傷を負うことで『ケジメ』を取ろうとしている筈」
「ほんっとうに面倒くせえな……」
派閥の中で白兵戦最強と称される輝夜の敵対は正直に言えば【イシュタル・ファミリア】よりも恐ろしい。けれどこういう機会でもなければ本気の彼女とぶつかり合うこともないだろうと『冒険者』らしく笑みを浮かばせる戦乙女達。
「だから、そうね……全員で徒党を組んでボコりましょう!」
「「「「発言が悪役のそれじゃねえか!」」」」
かつてアルフィアに勝つために他ならない輝夜が口にした作戦ではあるが、団長のアリーゼが親指立ててサムズアップしながらの言葉に全員がツッコミを入れた。そうこうしている内に開戦の狼煙が上がった。
× × ×
ギルド前庭
『では
酒場や大通りなど場所に合わせて大きさが異なる円形の窓には、それぞれ『正義の剣と翼』、『娼婦』を象った団旗を取り付けたガレー船が映し出されている。一気に盛り上がっていく都市全体に対し、実況が拡声器を通し
「ちっくしょぉおおおおお!!」
「【
「だって、海だぜ!? 水着だろう!? なんで普段通りなんだよ!? 俺達はポロリに期待してるんだぜ!?」
「アリーゼちゃぁあああん!! どうしてだぁあああああああ!!」
膝から崩れ落ち、美しい正義の戦乙女達の水着姿が見れなかったこと、そしてそれはつまり『ポロリもあるよ!』がないということであり、男神を中心として涙を流しながら拳を地に打ち付ける阿保達がいた。それに冷ややかな眼差しを向けるのはやはり女性陣であった。
「ゴミにゃ」
「下界の汚点だわ」
「死ねばいいのに」
「ほらほら神様達、
「「「「アマゾネスじゃあ、ダメなんだわ!!」」」」
「「「「恥じらいのない裸は、ただの景色なんだわ!!」」」」
(((うわぁ、普通に死んでほしい)))
「ベルきゅんだって言ってたもん! 恥じらいがあってこそだって!!」
「ゼウスの孫が言ったんだもん! 俺達のベル君が言ったんだもん!!」
「どうせあいつあれだろ、チビのときからアストレア様達の生まれたままの姿見てんだろ! 殺していいか!?」
「「「女の子が裸になって恥ずかしがっているのが、俺達は見たいの!!」」」
「「「「【
『それでは、間もなく正午となります!』
× × ×
鏡の向こうから実況者の声がはね上がる。
ギルド本部の前庭のざわめきが波のように広がるのをバベルにいても感じ取れる。
「アルフィア、どうか……あの子達を見守っていて頂戴」
アストレアが胸に手を当てて眷族が無事に帰還することを祈る。
「勝て、お前達」
アストレアの眷族達が粒ぞろいで、油断ならない相手であると数で勝っていても慢心しないイシュタルは小さく呟く。
× × ×
『黄昏の館』
「アイズ、始まるよ!」
アマゾネスの少女、ティオナに手を引かれ
「フィン、あの
「はは、いやぁまあ彼が持っていてもおかしくはないけどね……『遺産』と言えば『遺産』だし」
「ギルドはよく許可したな……他人事だが頭が痛い」
ベルが装備している盾の正体にいち早く気がついたリヴェリアが眉間を摘まみ、フィンが苦笑しながら肩を竦めた。
「実際にあの子が【アストレア・ファミリア】の方々と戦うところってあまり見たことないですよね」
「他派閥だし、それは仕方がないわよ」
「アイズはどうなの? 一緒にダンジョン行ったりしてるんでしょ?」
「ん……と」
別にアイズだけがベルとダンジョンに行っているわけではないが、頻度で言えば彼女の方が多いのだろう。ティオナの疑問にアイズは唇をへの字に歪ませて思考して――
『
「たぶんだけど、本気を出したことはないと思う」
号令と大鐘の音とかぶさった少女の声を聴きとれたものが、どれほどいただろうか。
× × ×
メレン沖合、アストレアF
開戦の号令が上がった同時刻。
『
「アリーゼ、始まった!」
「ええ、始まった! じゃあ、勝ちに行きましょう! リャーナ、船をお願い!」
「了解!」
「イスカ、ライラ、ネーゼ、『魔剣』を用意して―――」
アリーゼが声を上げる。
指示通り、3人の団員達が腰に差す大小それぞれの同属性の魔剣を抜剣しながら、ガレー船の前方に移動する。
× × ×
メレン沖合、イシュタルF
「魔力を動力源に一気に距離をつめ、突撃する! 全艦、前へ!」
タンムズの指示に従って、アマゾネスを中心とした団員達が水晶球に魔力を注ぎ込み、船を動かす。かのカイオス砂漠に用いられている『
(魔法持ちを動力源にするのは下策……数で勝る我々が人力で進み敵船に衝突させる。これが一番良いはずだ)
なまじ恩恵持ちだ。
一般人が漕ぐのとでは訳が違う。Lv3以上の冒険者を多く抱えるとはいえ、魔法の有無や魔力の大小は人それぞれ。魔力を消費することを前提とするなら多い者を使った方が交代する人数を減らせるが、
しかし、それはすぐに崩される。
がくんっと誰もが倒れかけ、なんとか何かに捕まり体勢を取り戻す。まるで岩礁にでもぶつかったかのような衝撃にも似た感覚だったが、この場所にそんなものは存在しない。しかし、船は開戦の号令から3分も経たずに
「どうし――――なっ!?」
馬鹿な、と【イシュタル・ファミリア】の団員達は誰もが目を疑った。
「ば、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!? た、退避、退避ぃいいいいいいい!?」
頭上に影が差す。
太陽の光を遮る異変に、冒険者の勘が嫌な汗を流させる。頭上を仰ぎ見てみれば、そこには不敵に笑う【
間もなくして【イシュタル・ファミリア】のガレー船が1隻、潰された。
× × ×
メレン沖合、アストレアF
イシュタル・ファミリアが行動不能に陥る少し前。
アリーゼは指示を続けていた。
「魔剣を用意して――――海面を凍らせて、橋を作って!
アリーゼの指示は単純であり、笑いたくなるほど馬鹿げていた。
『
× × ×
ギルド前庭
『開幕早々、船潰したぁああああああああああ!?』
敵船をほぼ真上から押し潰すという行為に、イブリが悲鳴を上げた。
『ていうか
鏡に映る光景に、誰もが絶句し神々は爆笑と悲鳴を上げた。魔剣の威力もさることながら、【アストレア・ファミリア】団長のやり口に様々な反応を示すほかなかったのだ。
× × ×
メレン沖合、氷上
「船の動かし方なんて経験ないし無理無理! じゃあ、自分達が戦いやすいように変えてしまえば良い!」
「アリーゼ、
「冷気で動きが鈍っている内にできるだけ多く、戦闘不能&団旗破壊して!
「アリーゼちゃん、
「ベルはLv.2だから仕方ないにしても、リオン、情けないわよ!? 衝撃に備えてって言ったでしょう!?」
「こ、こんな……事前に聞いていたとしても、やはり無理だ……! 上空からの墜落なんて!?」
「できちゃったものは仕方ないでしょう! 切り替えていきましょう! 輝夜もきっと空の上で笑って言っているに違いないわ!」
「「「「勝手に殺すなぁ!!」」」」
姦しく【アストレア・ファミリア】の星乙女達は煙が立ち込めていてもお構いなしに進軍を開始した。開幕時に使用した魔剣は5本、そのすべてが砕け散っていた。
「アリーゼ、今ので魔剣は砕け散ったぞ」
「あと何本ある?」
「兎が持ってるのだけだ。さすがに用意できねえし鍛冶師も無理させられねえよ」
「了解、ならライラはリオンと一緒にベルをサポートしてあげて」
「アリーゼは?」
「リャーナ達と一緒に船の数を減らすわ! 隠された団旗を探すより船を潰した方が楽!」
「ゴリラかよ……」
「何か言った?」
「んや、何も?」
んじゃなーと小さな身体を煙の中に消して、ライラはアリーゼから離れていく。腰に手を当ててふっと息を吐くアリーゼは自分達の船に乗り込んできた青年に目を向けた。
「なんて無茶なことを……お前達は船が俺達より少ないんだぞ!?」
「貴方がベルを撃ち落とした人ね。弟が世話になったわ、お返ししてあげる。それに貴方、勘違いしているわ」
「?」
身構えるタンムズの身体は霜がわずかに覆っていて、冷気のせいか動きが鈍っていた。それを見逃すアリーゼではなく、彼女がLv.5の膂力で一気に距離をつめた。
「な……!?」
「各派閥が持つ船の数が0になったら負けなんて
言い終える前に、アリーゼの拳がタンムズの右頬に打ち込まれる。力んだ拳をそのままにアリーゼは打撃を振り抜いた。青年の頭が甲板に叩きつけられたのは、言うまでもない。
× × ×
黄昏の館
「
「滅茶苦茶だぞ……」
「く、クロッゾの魔剣……オリジナルを超えるって聞きましたけど」
「あの小娘共、海面を凍らせて自分達に都合の良い陸地、氷ではあるが作り上げおったか。船で圧砕させるのも正気を疑う所業ではあるが、数では劣るのであればこれでまず数を減らすことはできる、か」
「おまけに【
【アストレア・ファミリア】を昔から知るフィンを始めとした冒険者達が彼女達の成長に引き攣った顔をしつつも称賛と畏怖を抱く。使用された魔剣にエルフのレフィーヤがドン引きしているが、それでも船による上空からの圧砕に誰もがドン引きである。
「全員が第一級冒険者になってもおかしくない派閥って言われてるっすけど……あの人達、自分と同じ歳って考えるとやっぱ敵に回したくないっすね」
「やめてよラウル。まるで敵に回すことがあるみたいに聞こえるじゃない」
ラウルがそう思うのも無理のないことで、彼女達とはほぼ同期もいいところ。それでいて【ロキ・ファミリア】とは違って少数であるにも関わらず誰一人として油断ならない存在なのだ。敵に回したくないと口にしてしまうラウルを「想像させないで」とアナキティが言ってしまうのも仕方のないこと。
「そんな彼女達に囲まれているベル……イシュタル様に色々言ったってロキがすごい笑いながら言ってた」
「……あの女神の派閥の秘密を暴露したとか、色々やらかしたと自慢げに語っていたな」
うひゃひゃひゃ、と酒の肴に大爆笑しながらロキが語っていた頭の痛くなる話をアイズとリヴェリアが口にする。そして口にしたところで噂の人が鏡に映りこんだ。美神の眷族達から放たれる魔法の群れに、両腕を顔の前で交差させ防御の構えを取りながら恐れることなく突っ込んでいく白兎の姿。まだまだLv.2だというのに怖れ知らずな行動にグラスに口を付けながら見守っていたリヴェリアは次の瞬間、噴き出した。
『―――【
× × ×
メレン沖合、氷上
「ベル、前衛は私が。貴方は、後衛を潰しなさい!」
「――はいっ!」
ガレー船の1つに、ベルとリューが乗り込みアマゾネス達へと進撃する。前衛達が【疾風】に叩きのめされていく中、必死に歌い、作り上げた魔法を迫り来る兎へと向かって砲撃する。火炎、雷、風、呪い。複数の魔法がベルへと向かって飛んで行く中、ベルは姿勢低く疾走しながら、顔の前で両腕を交差させ防御の構えを取りながら『魔力』を奔らせ右手薬指の宝石を淡く輝かせながら口ずさむ。
「―――【
『海戦』
ガレー船の数
【イシュタル・ファミリア】=10隻。
【アストレア・ファミリア】=4隻。
※アストレア側がそこまで船の管理ができないため4隻。
守る団旗の数
【イシュタル・ファミリア】=1
【アストレア・ファミリア】=3
勝利&敗北条件
・相手を全滅させること/自軍が全滅すること。
・『海』に落とすこと/『海』に落とされること。
※場外判定。
・全ての団旗の破壊。
どちらかを満たせば良し。
協力してくれたメレンの皆さん。
・『
・場外となった者の救出のため『
・オラリオと共同で船の用意。
ベル装備
・防具 =
・ロングマフラー =素材は黒いゴライアス。
・徽章を刻んだ片外套=
・雷の魔剣。
・紅の長剣。
・虎鉄 =
・アルテミスの遺剣。
・片刃の剣。
・短杖。
・龍の鱗の御守り。 =アイズから貰ったもの。
・紅の指輪 =右手薬指。
・蒼の指輪 =左手薬指。
・黄金の円形盾 =左腕。