絶対1クールで収まらなーい!
海上で爆発が起こる。
流氷は溶け海水へと戻され、爆発のエネルギーによって上へ上へと押し上げられる。ともすれば鏡からその光景を見ている者達、戦場でそれを見ていた者達の瞳には、それが『下から上へと昇る大瀑布』なんてものに見えていることだろう。6つの光翼に閉じ込められた魔法―魔力―を高速回転させて一斉に爆発させたというだけではあるが、『6人分の魔力暴発を意図的に行う』なんて所業、オラリオをひっくり返してもそうそうできる者はいないだろう。大瀑布が出来上がったのは短い時間であり、海面にはその短い時間に
「きゃぁあああああああああああっ!?」
「う、うぉおおおおおおおおっ!?」
悲鳴が響く。
海面にできた
『―――――ボ、
ギルド前庭の舞台上では、解説役イブリが言葉を詰まらせる。無理もない、何せ、前代未聞の話だからだ。
「
「―――勝っちゃった」
「彼の母親が母親だから、驚くつもりはなかったけれど……実際に見せつけられると、言葉を失ってしまうね」
「「「アリシア、
「なっ!? わ、私は別に何も!?」
黄昏の館では、リヴェリアが膝の上で拳を握り締め驚嘆の声を上げ、アイズが呟き、フィンもまた言葉に詰まる。そして食堂に集っていたアキやラウル、クルスといった幼少のベルを知る人物達は1人の妖精さんに「ダメ、あれはまずい」と何故か警告を発していた。
「「「「おいおいおい、死んだわ【
「どういうことだ、アストレアッ!? あのガキ、本当にLv.2なのか!?」
「ええ、あの子はLv.2よイシュタル」
「――――――」
光翼の残存数は、5。
「ベル……流石にやりすぎだ」
戦場は雨が降っていた。
晴れ渡る青空、雲一つない快晴。
その雨は偽物であり、海水が降り注いでいるのだ。
それを浴びながらリューは爆心地に振り返りながら呟いた。そしてすぐ近くにいた
「な、何をする、ネーゼ!?」
「いや、お前が言うなよって思ってさ」
「うっ………」
帰す言葉もない。
『いつもやり過ぎてしまう』は、リュー・リオンの代名詞のようなものだ。良くも悪くも幼い頃から自分達のことを見ていたベルには、そういったところも染み付いてしまっていたらしい。わ、私のせいですか……なんて落ち込みかけるリューに近付いてきた
「やり過ぎてしまうのは、リオンに限った話ではありませんよ。きっと」
「………それも、そうか」
「し、しかし随分と戦場が様変わりしてしまった……最初に凍らせ敵の足を止めたというのに、結局は元通り」
「完全な元通りとは言えませんよ。引き寄せられる力で敵味方の船の距離が縮まっていますし、船は錨で固定していたわけでもないので、激しく揺らされましたし」
「で、ここからどうするんだ?」
彼女達も未だ少しばかり揺れる船、甲板に突き刺した武器で間違っても船から落ちてしまうということを防いでいた体勢から立ち上がり、話し合う。ネーゼがふるふると頭を振って水を払い、リューが顔に張り付いた前髪を退け、セルティが水浸しになった
「相手の
ネーゼの問いかけに、別船にいる
「私達はまだ、『レベルブースト』の持ち主に出会ってねえ。正直なところを言えば、そっちは兎がなんとかしろって感じではあるんだが……」
ライラは後方―開始時、自分達がいた場所―に振り返りながら肩を竦める。あちらには、アリーゼと輝夜がいたはずで、
「まあ輝夜が本調子じゃないってのは、わかるよ」
「魅了されてたんだもんねえ……そりゃあ、怒るよ。私だってできるものなら女神様をぼこぼこにしてやりたいし」
「ま、腹が立つってのはわかるぜイスカ。だから私等が勝って、絞るもん絞りまくってやればいい」
「じゃあ、ここからは私達だけで?」
「残る敵のガレー船は私達が乗り込んだのも含めて5隻。左右から攻め込む形になるから……うん、最後には合流できるわね」
リャーナが
「――――ところでリャーナ」
「何かしら、ライラ?」
「【
「いや……光翼に魔法を封じ込められて、じゃあそれって魔力暴発起きたりするの?ってあの子の魔法を調べている時に口にしただけで、流石に『精霊の六円環』とかいう御伽噺は私、碌に知らないわよ?」
だ、だから私、悪くないもん!
× × ×
???
「エレボスのお気に入りの子、随分と頑張っているみたいじゃん」
「だろう? 俺が下界に留まるだけの価値は確かにあるだろう?」
光源乏しい暗い場所。
2人の男神達は、バーカウンターに頬杖をつきながら、鏡に映る光景を眺めていた。長い髪を耳にかけるようにしながら、『死』の神タナトスはグラスに口を付け、喉に流し込んだ後にベルの『必殺』に感嘆の声を上げた。
「【
「ああ、そういえば
「そ。確かあれを見たのは……【
「ふむ……『三大冒険者依頼』の目標が地上に出てくるまで地上を恐怖のどん底に陥れていた化物……まさに名に相応しく
「と言ってもあれってさ、ようはパンパンに膨らんだ水風船を一斉に破裂させたようなもんでしょ?」
「水風船に例えると急に可愛らしくなってくるな、まあ否定はしないが」
グラスを揺らし、酒を喉に流し込んで微笑を浮かべるエレボスは鏡に映る少年に眩しいものを見るように瞳を細める。タナトスはそんなエレボスを頬杖をついたまま、見つめ、言う。
「前から思ってたけどさあ……エレボスって『
タナトスは思う。
7年前、アルフィア達がまだ生きていた時に起きた抗争のこと。
『悪』はあの時代、敗北したことは間違いない。
エレボスが送還されることなくこうして下界に留まっているのは不思議なことではあるが、彼の眷族がいないということは
(とは言え、あの2人の覇者が特段何かをしたというわけじゃあない。むしろ手を出さないでいてくれたくらい)
まあ終わったことはどうでもいいのだ。
あの時代はよく命が天に還ってくれて充実していたし。
重要なのはその後。
闇派閥の頭目の位置にいたエレボスがいなくなった後に、『
(今のエレボスには眷族はいないし、抗争の後、オラリオ勢力はエレボスは送還されたと『
エレボスが『
「
「――――っ」
思わず同じ神であるタナトスでさえ、生唾を飲み込んでしまう緊張感が生まれる。バーテンダーをしていた信者の1人はその神威に腰を抜かししめやかに失禁。泡を吹いて気を失ってしまっている。
(敵わないなあ)
タナトスにはエレボスの神意などわからないが、目の前にいる原初の神が一柱は自分よりも何枚も上手であると自覚させられる。
(でも、確認したくなる俺の気持ちもわかってほしいもんだよ……だって、本当に金を用意して、イシュタルの
本当に、眷族もいないのによくやるよ。
そんなことをタナトスは呆れた笑みを以てエレボスに返すのだった。
× × ×
戦場
剣と刀がぶつかる音が響いていた。
ベルの為した偉業にして異常には目を張り驚かされたし、ガレー船が激しく揺れて戦うどころではなくなったが、彼女達は揺れが落ち着くと戦いを再開させていた。海水は雨のように降り注ぎ彼女達の身体を頭から足まで余すことなく濡らしつくしている。
「はぁああああああああ!」
「ふ――――っ!」
アリーゼが声を上げ剣を振るい、輝夜は居合刀を薙ぐ。降りそそぐ偽りの雨が斬り裂かれ、剣と刀の衝撃に吹き飛ばされ、一瞬だけ雨のない空白が生まれる。片や第一級冒険者。片や白兵戦最強の剣客。力の差など感じさせないほどの闘争がそこにあった。
「小さかった頃、私は曲がったことが大っ嫌いだった!」
アリーゼにとって『正しさ』とは一つの指標で、絶対の価値観だ。正答と正論こそが自分の身の周りを豊かにすると信じていた。幼い子供の
対立する子を力づくで黙らせた。
曲がったことを正すよう心掛けた。
『正義』を標榜していた。
けれどある日、1人の子に怪我をさせた。
友人を苛める、意地悪な男の子だ。
初めて咲かせた鮮やかな血は、とてもじゃないが『正義』には程遠かった。大人達に誰よりも怒られ、助けた友人には怯えられ、離れられた。
「結果、私はアストレア様に出会うまで『
結局のところ、『正義』の答えは見つけられなかった。
神様達に聞いてもニヤニヤされるだけで、そうして泣きながら、雨に打たれていたら、彼女は出会った。『正義』を司る女神に。
槍のように鋭い刺突が輝夜を襲う。
桜を模した仮面の奥で、輝夜が唇を噛んだ。
彼女は刺突を半身になって躱し、戻りに合わせて刀を振る。けれど目の前にいるアリーゼは第一級冒険者。当然彼女の戻しも速い。アリーゼは剣の戻しと同時に身を沈め、輝夜の刀を避ける。そして反撃に転じていく。
「出会った頃のアンタは、それはもう狂犬もいいところだったわ! アストレア様に罵詈雑言の嵐だったし!」
何度も立ち位置を入れ替えてはぶつかり合う2人。
瞬く間に数十の剣撃が飛び交い、
「アンタは、どうなの?」
「っ、私は――――」
無視をすればいいのに。
言葉を詰まらせて、何かを言おうとして、そして2人は自分達を見つめている少年の気配に気づいた。気づいて、生きていてくれてそして姿を見ることができたことに今一度安堵を抱いて輝夜は空を見上げて独白するように唇を動かした。
「国に言われるがまま、家に命じられるがまま、多くの命を散らしてきた」
極東において『
「それでも『
『正義を志す者が、過程の中で擦り切れ、最後には犠牲となるなんて、違う筈だ』
昔、そう輝夜に言った少年がいた。
戦う力もないくせに、高潔な少年がいた。
いつか輝夜を一族にまつわる因縁を断ち切り救いたいと言った、そんな少年。輝夜に自分の『正義』に疑問を覚えさせてくれた真面目な少年。
「私は二度、同じことをした」
少年は輝夜を救うことはなかった。
だって輝夜が殺したのだから。
反乱分子となった少年の一族は、輝夜の一族によって抹殺されたのだ。一族に謀反を起こして少年を守ろうとした輝夜の意志など関係ない。『十』のために『一』を斬り捨てる。その『一』に輝夜がいただけのこと。
「私は死に場所を求めて……自分が気に入らないと思う『正義』とやらを道連れにしてやろうと、目障りな連中を斬り伏せてきた」
輝夜は自殺することができない。
そういうふうに、かつての主神にされてしまった。『夜の
「私は――――」
輝夜がふらり、と身体を揺らしてベルを見た。
あの日、イシュタルが魅了を行使したあの時、自らが斬った弟分を見た。純粋で白くて綺麗で、自然と他者に好かれる質な不思議な
「私は、お前と歓楽街に来たことを後悔している」
邪な気持ちがあったからこそ、情欲があったからこそ、連れてきた。殺してしまうかもしれないという不安は勿論あったが、本拠とは違う場所で、男女が交わる場所に踏み込んで空気を味わうくらいはしたっていいはずだとそう思ったのに、仮にベルが我慢ならないとなったならば粘膜接触を避けた行為で発散させてやろうくらいは思っていたが……出会いというのはいつだって残酷だった。
「
もちろんそれは輝夜の勝手な思いに他ならない。
ベルが誰を好こうが本人の自由であるし、アリーゼ達だって「その時は応援してあげましょう」と決めていたことではあるし。でも実際その時が来ると「いやだ」と輝夜が思ってしまったのだ。
「
それは輝夜にはできなかったことだった。
結局のところ庇いきれなくて2人は仲良く血の海に沈んでいたけれど、触れ合う2人の手に、輝夜の胸の中にあった
《どうして?》
《私よりも弱い小娘のくせに》
《ずるい》
《羨ましい》
《どうしてそこにいるのが、
枝から花弁が咲き乱れるように輝夜の心は平静を保てなくなった。美しく、強い、剣客の女は醜く嫉妬の炎を燃やす化生となってしまっていたのだ。
「私は倒れているお前達を思い出す度に、羨ましい、どうして私じゃないんだと思ってしまった! そう思う度に、なんて私は醜いのだとも身体を引き裂きたい衝動にかられた!」
血の海に沈んでいた2人を思い出す度に、過去の自分を重ねて
「私はっ、死にたかった!」
「輝夜さん」
ベルの声を無視して輝夜は長い髪を振り乱して胸に拳を当てて叫び続ける。
「私はあの時、死ぬべきだった!」
「輝夜さん!」
「お前はっ、あの遺跡で自刃したな! どうしてお前にはできて私にはできないんだっ!? 私はお前よりも強い! 大人になったはずだ! なのに、どうして子供のお前にできるんだ!?」
そんなこと言わないで。
そう訴えるようなベルの呼びかけなど聞こえないかのように輝夜はまるで悲鳴を上げるように絶叫する。彼女の言葉がベルの胸を抉る。
「何故、誰も私をっ、
「―――っ」
「ベル、あんたはリオン達のところに―――」
「いやだ」
「ベル?」
「絶対に、嫌だ、僕は……
大好きな姉が死にたいと叫んでいる。長い付き合いでこれほどまでに彼女の胸の内を聞いたことがあっただろうかと逡巡する。仮面の中で泣いているのか、それはわからないがベルには輝夜の気持ちが痛いほどにわかって泣きたくなった。そしてアルテミスとの一件で、自分がしたことのせいで輝夜が傷ついているのだとようやく理解した。アリーゼはこれ以上ここにベルにいて欲しくないと遠ざけようとしたが、ベルはそれを拒んだ。逃げないことだけは決めていたから。震える声音で、ベルは一歩、前に足を出した。輝夜は静かに震える刀を、その切っ先をベルに向けた。
「
それ以上、輝夜は何も言わない。
激情に振り回されるままに言いたいことだけを言って、殺気を飛ばす。ベルは目元を擦り、アリーゼはベルの横に立つ。
「もっと、聞かせてください……!」
「―――――」
刀を下に向けて半歩、剣客が身体を揺らす。
「言葉を捨てるな……っ」
「―――――」
剣客の身体がわずかに前に沈む。
アリーゼが剣を構え、前に走り出した。
「っ、この野郎―――!」
ベルの叫びに答えることなく。
剣客の姿は瞬きの間に消え、ベルの目の前へと肉薄していた。
アルテミス編
・ベルが自刃した。
輝夜←自分が奪われた権利を行使したことに対して羨ましいと思ってしまった。燻ぶっていた火が力を増した。
イシュタル編
・春姫とベルが出会ってしまった。 火
・ベルが遊郭に通いつめてしまう。 炎
・エレェボスと再会してしまう上に精神状態乱される。災炎
・イシュタルが魅了を使う。 爆!
・血の海で手を触れ合わせて倒れている2人。 大爆炎!!
輝夜さんはめんどくせぇ女であってほしいんです。
なお、現在のベル君は輝夜さんとやることやっても死ぬことはないです。スキルと魔法のおかげです。でも2人ともそれを知りません。