アーネンエルベの兎   作:二ベル

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水天日光㉒

 両陣営のガレー船は、港町(メレン)を南として東西に配置されていた。そして現在、北方向から全てを洗い流すように津波が両陣営を飲み込んだ。直線状に放たれた津波(魔法)港町(メレン)まで押し寄せ猛威を振るった。停泊していた船は当然使い物にならなくなり、海に近い場所の被害は言わずもがな。民間人の被害こそ少ないがそれは、漁師と男神ニョルズが誰よりも速くその異常事態を察知していたからに他ならない。

 

 

「――そうだ、全て押し流せ『天の雄牛(グガランナ)』。精霊(おまえ)達を忘れ去った者共に自らの存在を焼きつけろ。それこそがお前に相応しい末路だ」

 

 

巨大な船があった。

いつから、どこから現れたのかは分からない。

ガレー船よりも大きく、あえて言うならば帆のないガレオン船。巨大な怪物を乗せるには、風の力を得る帆など邪魔だった。声の主は赤髪の女。鍛え抜かれておきながらも豊満な男好きのする肢体をしている。彼女は輝ける太陽が久しいのか鋭い緑色の目を細め、そして送迎は終わりだとばかりに海へ飛び込み姿を消した。

 

原初の幽冥の神(エレボス)からの祝福だ、そこに『アリア』はいないが……()()()()()()

 

そんな言葉だけを残して。

怪物は微笑む。

青い空、自らを閉じ込める狭苦しく暗い天井も壁ももうない。伸びをするように両手を伸ばし胸を張り、嬌声を上げるように吐息を漏らす。温かな日差しを浴びて、下界の景色に懐かしささえ感じながら、発散した魔力の残滓を回収する。

 

 

×   ×   ×

黄昏の館

 

 

「――――――ぇ?」

 

 

もう戦争遊戯も終わる。

当然の帰結ともいえる結果ではあったが、面白いものは見れた。帰ってきたら彼女達に祝いの言葉でも贈ろう。なんて思っていた矢先、圧倒的な力の横やりに都市最強派閥の一角は『鏡』に映った光景に目を疑った。

 

そこにいるわけがない。

いるのはおかしい。

 

そんな現実を否定する言葉が各々の脳内を駆け巡る。

魔法によって生まれた津波は港町(メレン)にまで爪を伸ばし傷付ける。一瞬の出来事だった。唖然呆然としてしまうのは無理のないこと。『鏡』から聞こえてくるのは、果たして冒険者達の悲鳴か民間人達の悲鳴か。

 

「あれって……ねえ!?」

 

「『精霊の分身(デミ・スピリット)』!?」

 

「なんでいるのさ!?」

 

「知るかぁ!?」

 

 

×   ×   ×

摩天楼施設(バベル)30階

 

 

「おいおいおいおいおい!?」

 

「何だ、アレ!?」

 

港町(メレン)は、ニョルズは無事なのか!?」

 

「戦争遊戯どころじゃないわよ!? ガネーシャ、貴方の眷族達は!?」

 

「ぬぅん、俺の眷族達も港町(メレン)にいるゾウ!?」

 

「これはもう戦争遊戯(ウォーゲーム)どころではないな……」

 

「今からでも遅くは無かろう、援軍を送るべきだ」

 

「俺もミアハに賛成だ、ロキ、お前の所は出られないのか?」

 

「出て良いんやったらフィン達が出させるやろうけど、アストレアの眷族達もイシュタルの眷族達も、決して()()()()()()()()。判断が難しいなあ」

 

 

神々が阿鼻叫喚の声を上げる。

戦争遊戯(ウォーゲーム)という娯楽の最中に、突然の横やりによって今までの興奮など水に流された。男神やそこに住まう者達を心配する声や飲まれた両派閥の眷族達の安否を気にする声とが行き来する。アストレアやイシュタルも例外ではなく、思わず席を立ってしまうほど。自分の眷族達の恩恵(ファルナ)の反応を確かめ、生きてはいることに胸を撫でおろしつつも、安心などできない。

 

(な、何故、ここにいる!?)

 

そんな神々の中でも、イシュタルの胸中は混乱の渦にあった。横やりを入れてくれた犯人である怪物をイシュタルは知っているからだ。美神(フレイヤ)を討つための切り札として投資(カネ)を落として育てさせた怪物。それは本来、地上などではなく地下にいるはずのもの。それが地上にいるとあれば、イシュタルは戦争遊戯に水を差してくれた犯人の見当など当然、つける。

 

(タナトス……!! あいつ、何を勝手なことを……!!)

 

【イシュタル・ファミリア】と闇派閥(イヴィルス)の残党、この両者は繋がっていた。正確には、前者は主神(イシュタル)とごく一部の者が。闇派閥――ひいてはバルカ達名工(ダイダロス)の血族は人造迷宮完成のために莫大な資材、資金を必要としている。イシュタルは、取り引き相手としてタナトス達に莫大な資金を投資していたのだ。その取り引きに応じているのは無論、見合った見返りを条件にしてのこと。それこそが、津波を起こした『怪物』。出資者(スポンサー)を裏切ったタナトスにイシュタルは怒りの矛先は無理からぬこと。握る拳には力が入るが、すぐに己の心情を見抜かれまいと無理矢理に平静を装う。

 

(悟られるな、悟られたら終わる……!)

 

闇派閥と繋がっているなどと、口が裂けても言えるわけがない。情報が漏洩してしまえば弱みなど握られてしまえば例え送還されずとも首輪をつけられるのは当然のことだし、ましてや『正義』の女神に知れ渡ればその腰に佩く剣により断罪を下され、イシュタルは下界を追放され天に送還されてしまう。

 

(冗談じゃないぞ!?)

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)にまで発展するまでのこの数日間で、イシュタルの精神はかき乱され、最早、真の黒幕のことなど思考の外に置いてしまっていることなど気づきもしない。

 

 

×   ×   ×

戦場

 

 

最初に響いたのは、高波の押し寄せる音だった。全てを洗い流す暴力的な海水の壁。それは【イシュタル・ファミリア】側のガレー船を4隻が飲まれ、破壊、沈没、転覆。【アストレア・ファミリア】側のガレー船は開幕時に氷壁で防護した3隻以外が被害にあった。

 

悲鳴も、絶叫も、何もかもが洗い流され無事だったガレー船も大きく動かされ、冒険者達はしがみつくしかなかった。

 

「ア、アリーゼ、ベルッ、マリュー!?」

 

「輝夜ぁ!?」

 

「何がどうなってる!?」

 

「おいしっかりしろぉ!?」

 

飲まれた仲間達の名を叫ぶ正義の戦乙女達。頭を強く打ち付け、或いは船外に放り出されてしまった仲間を案じ絶叫する戦闘娼婦(バーベラ)達。北方からやって来た敵影、おぞましき怪物は未だ外の景色に心地よさそうな呼吸を繰り返し瞳を眩しそうに細めている。彼女達の中で唯一、心当たりのあるリューがその怪物の種名を口にする。

 

 

「―――『精霊の分身(デミ・スピリット)』、なぜ、ここに……!?」

 

 

×   ×   ×

ガレー船内部

 

 

アイシャは飛び降りるように、甲板より内部に潜り込み、檻の中にいた春姫の元へかけていた。津波に飲まれなかったことは幸運だった。が、その波の影響によって船は大きく揺さぶられた。戦闘も碌にできない弱っちい狐の娘など、どうなっているか目も当てられない。

 

「春姫、無事か!?」

 

「――――――ぅ」

 

大朴刀を投げ捨てる勢いで、檻の前までやって来たアイシャは妹分の呻きを確かに聞いた。『ここから出るな』などと言う文言1つで動けなくなる小娘は律儀にその言葉を守り、檻の中で意識を失っていた。頭から鮮血を流しながら。

 

(馬鹿が! どうしてこんな状況でも逃げないんだ!?)

 

逃げないのではない、()()()()()()のだ。もう傍にいるはずのない父の怒声が『この部屋から一歩も出るな!』という言葉が、少女を苛み呪いとなり、行動不能(リストレイト)にも等しい症状を起こしていたのだ。そんな小娘が、乱暴に檻の中で揺さぶられれば当然、頭を打ち付けてしまうのはわかりきったことだろう。そんな自分の身を守る事すらできない小娘にアイシャは苛立ち歯を噛みしめ拳を握る。ベルと出会って明るい顔を見せるようにまで変化した春姫など見る影もない。

 

「アイシャ、どうする!? 戦争遊戯(ウォーゲーム)は!?」

 

「馬鹿か!? それどころじゃないだろう!? 信号弾を上げろ! 戦えない奴を優先して逃がしな! 浮標(ブイ)の外側に【ガネーシャ・ファミリア】の憲兵共と漁師共がいるはずだ、奴らに乗せてもら―――いや、一隻奪えたりしないかい?」

 

「ア、アイシャ、流石に無理だって! 奪ってどうするつもりなのさ!?」

 

「………何でもない。戦う気のある奴は表に出な、どうせ奴さん、逃がしちゃくれないんだ、逃げる奴の時間くらいは稼ぐよ」

 

アイシャは春姫に背を向けて甲板へ戻ろうと歩を進めた。僅かに振り返り、意識を混濁させている小娘を、今なら小舟を奪い、流れるままに逃亡させるのも手だ。なんて考えたが不可能だというのもわかっていて、舌打ちと共に考えを捨てた。

 

(お前は……私が何を言おうが、そこからは出られないんだろう?)

 

他のアマゾネス達は、春姫のような『弱虫』なんて気にもとめない。自分達が強くなれるのならイシュタルの神意に従い『道具』として消費する。弱い奴を気に掛ける理由が、アマゾネス達にはなかった。甲板へと出て行く戦闘娼婦達の中で春姫に目を向ける者がいても、それは案ずる眼差しなどでは決してなく『道具』を見るような眼差しでしかない。うじうじといつまでも動けないでいる小娘にアイシャはどうしてやることもできない。もう自分達は戦争遊戯に敗北した。それは確かだ、状況が物語っている。横やりを入れられて混乱もするが、運よく助かった自分達にできることがあるとしたらそれは傷を負った仲間達を逃がすための時間稼ぎくらい。諦観で心を塗り固めて一歩、また一歩と光指す甲板に出て―――――。

 

 

 

「おいあの化物は、何アルフィアだと思うよ」

 

「5アルフィアでは?」

 

「いやいや、アルフィアも魔力を回収したりはできないよ。無力化はするけれど」

 

「うーん、では3アルフィアでしょうか? ですが牛の部分は深層種でしょうか? 魔法も使えて……馬力もありそうですね。加えて4ザルドはどうでしょうか?」

 

「3アルフィア4ザルドかあ……うーん、何それ怖い」

 

「セルティ、リャーナ、リオンの砲撃で船を破壊して海に落とすのはどうだ? あの巨体じゃ溺死するんじゃないか?」

 

「ネーゼ、知らないの? 牛って泳げるのよ? 4アルフィア4ザルド、これでトントン」

 

「ちょっとノイン…あれが泳げたとしても、重心どうなるのさ。額から女体が生えてるってことは、前の方が重いってことでしょ? 溺死はワンチャンあるんじゃないかな?」

 

 

「なっ―――――!?」

 

アイシャ・ベルカは輪になって軽口交じりに作戦を立てているような『正義』の戦乙女達を見て絶句した。逃げようとする素振りなど微塵もない。周りにいた戦闘娼婦(バーベラ)達もそんな彼女達に唖然としていた。

 

「お前等……何をしているんだ……?」

 

「何ってお前……」

 

決まってんじゃん、と言いたげにライラが振り返る。

 

「無論、倒します、あれを野放しにはできない」

 

リューは覆面で口元を覆う。

 

「あれを放っておいて上陸されたらそれこそ人類(わたしたち)の負けですから」

 

セルティが杖を抱くように握り締めて眼鏡を直す。

 

「援軍が来てくれたらラッキーだけど、それで都市の守りが薄くなっても困るし、あんまり期待しない方がいいからね」

 

イスカが準備運動がてら身体をほぐす。

 

「まあ、ベル達のことが心配なのは本当だけど」

 

ノインが濡れた身体から水を拭う。

 

「あっちは私達の団長と副団長がいるし……そのうち帰って来るだろ」

 

ネーゼが信頼をもって笑みを浮かべる。

 

「ここで逃げたら、アルフィアにベルをやるもんかって唾を吐かれちゃうわ」

 

リャーナが肩を竦める。

彼女達の口元は笑みを咲かせており、絶望になど染まってはいなかった。これが【アストレア・ファミリア】。これが【静寂】のアルフィアが虐め抜いてきた女集団。

 

(そりゃあ……勝てないわけだ……)

 

アイシャは目を見開き、大朴刀を握り締める手に力を入れる。

 

「勝てると思っているのかい?」

 

「さあ、やってみなけりゃあわからねえ。けどよ、『戦えない』は『戦わない』理由にはならねえしなあ……ここで逃げたら、それこそ私ら、何者なんだって話になっちまう」

 

「―――あんたたちは、何者なんだい?」

 

思わず、聞いてしまう。

自分とそう変わらない歳の女達に。

彼女達は、微笑みを浮かべ、怪物に向き直り、武器を構えて口にする。

 

「私達は――――」

 

 

×   ×   ×

 

「ゴホッ、ゲホッ!」

 

冷たい海水が体温を奪う。

漂うのは船だった瓦礫と自分達。どこかもわからないところに放り出されなかったのは幸運か、救助しようと漁船を近づける漁師たちの声がした。

 

「ベル君、大丈夫!?」

 

「ケホッ、マリュー………さん?」

 

「よかった……」

 

「むぐっ、く、苦しいです!?」

 

ベルはマリューに抱きしめられる形で海を漂っていた。津波が来た際、Lv.2のベルよりも上位の器を持つマリューが咄嗟に身体を抱き寄せ、引き離されるのを阻止したのだ。それでも波にのまれ、振り回されてしまえば意識の喪失は仕方のないことであり、意識を取り戻した可愛い弟分に派閥一の巨乳お姉さんは安堵と共にむぎゅっと抱きしめた。

 

「ア、アリーゼさんと輝夜さんと……えっと、タンムズさんは!?」

 

「ええっと……あ、いた、かなり離れてるけれど、ほら、あの漁船に乗ってるわ」

 

豊満な身体に溺れないようにしがみつき、マリューから体の温もりを分けてもらいながら、近くにいないアリーゼと輝夜とついでに青年の安否を確認するベルにマリューは目を凝らし離れた位置にいるアリーゼ達が漁船に救い出されているのを確認し、指を差す。それに気がついたか、アリーゼが大きく手を振っている。

 

「あとはアスタちゃんは……一番最初に離脱したから、救助されてるでしょうね」

 

戦争遊戯で海上に落ちた脱落者は、浮標(ブイ)の外側で待機している都市の憲兵や港町(メレン)の漁師達が回収する手はずになっている。事実、アスタはベルがフリュネを倒した直後に回収されていた。

 

「大丈夫か、アンタ達!」

 

「すいません、この子から先に! この子、泳ぐの得意じゃないんで!」

 

「おうよ、坊主、手を伸ばしな! なんだ、姉ちゃんに抱かれるのがそんなに嬉しいのか!」

 

「あ、あの、揶揄わないでください……」

 

ドワーフにも劣らない恰幅の良い中年男性に手を取られ、ぐいっと船に乗せられる。続いてマリューが「さあさお嬢さん、お手をどうぞ」なんて紳士的に救助された。濡れて張り付く戦闘衣装(バトルクロス)はマリューの豊満な肢体のラインを浮かび上がらせ、海の男達はどこかが熱くなるような気がした。

 

「むっ………」

 

大好きな姉に不埒な視線を向けてしまう―仕方のないことではあるが―男達にベルの視線はきつくなり、それをマリューがいち早く感じ取りベルの腕を抱き寄せる。

 

「わ、私達ぃ、もうすでに婚約しているんです~」

 

「「「くそぉ!! 俺も少年(ショタ)になりてぇ!!」」」

 

「マ、マリューさん!?」

 

「しーっ、ベル君が怒るとアルフィアに目付きが似ちゃうから怒っちゃだめよ~」

 

誤魔化すように頭を撫でまわし、マリューは漁師達にアリーゼの方へ行くように頼む。水も滴る良い女に微笑みで頼まれれば断れるはずもなく、男達はえんやこらと漁船を移動、アリーゼ達と合流を果たす。

 

「マリュー、なんかベルとイチャついてた?」

 

「ううん、してないわよ~」

 

「本当に? どうなのベル?」

 

「ウウン、シテナイワヨー?」

 

「…………まぁ、いいわ。今はそれどころじゃないし」

 

ジトっとしたアリーゼの視線にマリューとベルは顔を逸らす。漁船の甲板ではタンムズと輝夜が寝かされている。着物はすっかり水を吸い、身体に張り付き、重そうだ。艶のある黒髪のせいで眠っている彼女の表情は隠れ見えない。

 

「大丈夫、人工呼吸は済ませたから」

 

「「え」」

 

「あ、輝夜のね」

 

「「あ、はい」」

 

「タンムズ君は、そこのおじ様達がやってたわ」

 

「「え」」

 

「人命優先よ?」

 

「「あ、はい」」

 

「ベルもしてあげましょっか?」

 

「「え」」

 

「あとでね」

 

「あ、えと、その…」

 

「私、この戦いが終わったらベルと―――」

 

「アリーゼちゃんっ、それフラグだから言っちゃだめぇ!?」

 

腰に両手を当てて、薄い胸を張ってドヤァするアリーゼも水浸しであり、赤い髪が風呂上りのように水を滴らせており、戦闘衣装(バトルクロス)も彼女の身体に張り付いてボディラインをはっきりとさせている。シャツを絞ってはいるがその程度で乾かすのは無理だろう。

 

「『精霊の護符(ウンディーネクロス)』のおかげで、無事と言えば無事ね! ま、流石に津波はびっくりだけど」

 

アリーゼは快活な笑みをいつも通りに浮かべて、状況を整理。一番階位の低いベルの体温を保つためかアリーゼもマリューも手こそ握っているが話の内容は既に怪物についてに変わっている。ガレー船にいるリューやライラ達と同じように話す。

 

「あれってアリーゼちゃんの知り合いだったりする?」

 

「うーんマリュー、流石に清く美しい正義の炎を宿す私でも、あんなに大きなお友達はいないわね!」

 

「あれって地上のモンスターなんですか?」

 

「どうかしら~……だとしたら情報があると思うのだけれど……アリーゼちゃんは心当たりは?」

 

「【ロキ・ファミリア】の遠征に付いて行った時に似たようなのとは戦ったわ。あの時は固定砲台みたいな感じだったけど……それの亜種かしら。ごめんなさい、あれの原種が何なのかは流石にわからないわ」

 

と言ってアリーゼはマリューの耳元に口を近づけて「前に話した『精霊の分身(デミ・スピリット)』だと思う」と付け加える。

 

「あの、港町(メレン)は大丈夫なんですか?」

 

ベルがアリーゼ達から漁師達に顔を向けて言う。漁師達は「大丈夫なもんか」と困ったように言って続ける。

 

「でも、あっちにはニョルズ様がいるからな」

 

「ああ、ニョルズ様がいてくれるなら、女房も子供達だって安全なところに避難しているはずだ」

 

「伊達に俺達の神様してねえからな! 津波がくるってんならいち早く異変に気付いてらぁ!」

 

彼等はニョルズのことを信頼し、この場に残っていたのだ。「正直、あの怪物がおっかないから逃げたい」と口にするが津波に飲まれた冒険者達を見捨てるほど海の男達は臆病者ではなかった。

 

「ベル、魔法は使える?」

 

「えっと……うん、【ビューティフルジャーニー】ならあと1回くらいは唱えられると思います」

 

アリーゼは考える。

身体が冷えてか、それとも見たこともない怪物の存在に本能的な恐怖を感じてか、どちらかは分からないが震えているベルの手を温めるように摩りながら、手札を確認する。

 

(輝夜……は望み薄。制空権はベルが取れるけど、階位(レベル)的にキツイ。漁師のおじ様達にお願いしてガレー船にいるリオン達と合流……は少し無茶かしら。流石にこの人達は安全なところに避難してほしいし。なら、残ってるガレー船に乗り込んで接近……ガレー船……)

 

アリーゼは目を見開いて1つの装具を思い出す。この戦争遊戯が開始する直前、ガレー船に乗り込んだ仲間達と共に船を確認している時に見つけた代物。

 

―――捕鯨砲(ハープーン・キャノン)

 

「この状況は……用意された脚本(もの)……? アレは最低限の攻略の『鍵』?」

 

「アリーゼさん?」

 

「アリーゼちゃん、どうしたの?」

 

「ごめん、なんでもないわ! おじ様達、あの氷の壁のとこにあるガレー船まで連れて行ってもらえるかしら?」

 

アリーゼの中で指針が定まった。

真剣な眼差しを漁師達に向けると、彼等は「まさか戦うつもりか!?」とおっかなびっくり声を荒げた。

 

「馬鹿、海なんだぞ!?」

 

「ええ、そうね」

 

「あんたら、海の上で戦えるのかよ!?」

 

「うーん、難しいわ! 流石に私も海中じゃ魔法使えないし!」

 

「じゃ、じゃあ、何でだよ!? 逃げた方がいいだろ!?」

 

「でも、逃げたら、貴方達の住む家がなくなっちゃうわ」

 

「――――――」

 

当然のようにアリーゼが言う。

漁師達は言葉を失う。

 

この子(ベル)のこと任されてるし、背を向けて逃げたら誰があれを倒すのって話になるし……そんな格好悪いことをしたらきっと怒られちゃうわ」

 

ベルの頬を撫で、覇者(アルフィア)の顔を思い出す。逃げれば、きっと地上が更なる被害を被るだろう。援軍は来るかもしれないが、来た頃にはどうなっているかなんてわからない。背を向けて逃げるなんてことは、できない。そんな覚悟を決めた戦士のような顔をするアリーゼにマリューは微笑みを浮かべ、頷く。普段は揶揄ってきて快活な笑顔を見せるアリーゼのその横顔にベルが瞳を揺らす。漁師達は思わず、聞いてしまう。ライラ達にアイシャが問うのと同じように。

 

「―――あんたたちは、何者なんだ?」

 

 

自分達よりも若い、娘達に。

彼女達は、微笑みを浮かべ、立ち上がり、胸を張って口にする。

 

 

「私達は―――正義の味方よ」

 

 

 




春姫:頭部を打って気絶。
輝夜:頭部を打たれて+羞恥で気絶。
タンムズ:輝夜に顔面を膝を見舞われて気絶。
アスタ:フリュネを打倒した際に離脱。
フリュネ:???

戦争遊戯中止、舞台転換『天の雄牛』乱入戦へ移行。
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