アーネンエルベの兎   作:二ベル

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ギャグ回ですから。


ベル・クラネルの休暇
小休止①


 

「春姫さん、大丈夫ですか?」

 

「は、はいぃ………」

 

戦争遊戯が終わって早1週間。

強制休暇中のベルはこの日、春姫と2人で都市内を散策していた。『紅楓(きもの)』姿の春姫の顔は疲労という疲労が張り付けられており、アストレアの指示もあってベルに連れ出されていた。気分転換というやつだ。

 

「派閥に兎の娼婦(ペット)が加わっちまった。が、階位昇華(レベルブースト)なんて異能(チート)を持て余すわけにはいかねえ。狐にその気があるんなら【イシュタル・ファミリア】の時のように(ケージ)に入れて運ぶとかやってらんねえからな……ダンジョンの知識とか、その辺叩き込むぞ。ただの性獣(オナペット)で収まれると思うなよ」

 

そんな参謀(ライラ)の御下知によってここ数日、春姫は机に張り付き、縛り付けられ、【アストレア・ファミリア】の到達階層分の情報を脳みそに押し込められていた。遊郭のお姉さん達に教え込まれた『男を悦ばせる手練手管』とかに使われていた脳内要領は当然の如く踏み越えられ、ぐちゃぐちゃになり、『ダンジョンを悦ばせる四十八手』とワケワカメなことになっていた。この期間の春姫にとっての唯一の癒しと言えば、ベルが差し入れと共に部屋に入ってきてくれる僅かな時間だけだ。それも春姫の頭痛が知恵熱に変わり、羊皮紙に記されている文字がヘコヘコと腰を振る男女に見えるくらいにゲシュタルト崩壊を始めたタイミングでのベルである。さらにベルが湯浴みをしているのを知らずに戸を開け、互いに生まれた姿でご対面。自分よりも年下の少年の裸体を見て気絶。ベルが入っているのを知っている上で突撃して気絶。春姫の記憶としてはそのままお風呂で『ご奉仕(イチャイチャ)』していたはずなのだが、どうしてか目が覚めると浴衣姿で自分のベッド―元はベルの部屋だったらしい―で起床。しかし昨日の疲れは心なしか癒されており、ベルの摩天楼(バベル)を妄想して鼻血を垂らし、1日が始まる。

 

なお、全て参謀(ライラ)の企てである。

 

「兎、あと1時間したら甘味もって部屋に来い。あ? 狐の差し入れだよ。犬の餌(ドッグフード)食わすわけにいかねーだろ」

 

「兎、リオンが入った後で今誰も入ってねえ。1人で入って良いから湯浴みしてこい」

 

「春姫が気絶した、助けて? 好きなだけ乳揉んでりゃいいじゃねえか……こんなエロい身体した女に手を出さないとか正気か? お前今まで輝夜達に何を教えられてきたんだよ。終わったらベッドに運んでおけよー」

 

そう、全て参謀(ライラ)の企てである。

春姫が突撃してきて気絶してベルが悲鳴を上げたり、助けを求めたりしてもお姉さん達は知らんぷり。意識のない揺れ動く女体に、年上とはいえ歳が近い故に妙にドキドキしてしまって、「うぅ~うぅ~」言いながらベルは春姫を介抱しベッドに運び、神室のベッドで就寝前のアストレアのお腹に顔を埋めて「うぅ~」と呻くのだった。アストレア様は苦笑し白兎の頭を撫でてやった。

 

 

閑話休題(それはそれとして)

 

 

「その、大丈夫ですか? 色々と……」

 

「はぃ……ダンジョンがダンジョンでザラザラとしたところが弱点にございまして……。ベル様の摩天楼(バベル)は今日も立派にオラリオにてそびえ勃っております………」

 

「…………」

 

「ハッ!? 春姫は今、何を……!? そ、それにベル様の眼差しが出会ったこともない魔女様のような冷たいものに!? よもやクローゼットの中で眠るあのドレスの持ち主!?」

 

元娼婦と言えど、教え込まれたことは消えることはなく。

アイシャから聞いた話では、ベルとよろしくやっちまう夢を見るなんて相談されたとかで「あいつの妄想力は53万だよ」とか言われたベルである。

 

「あと3回変身を残してるのかなあ……」

 

話題を切り替えるように慌ただしくオロオロした春姫は市場(バザール)の露店の1つへ足を運び込んだ。その後ろ姿をどこか遠い所を見る目をしながらベルは眺めていた。遊郭の外のことを碌に知らなかった少女は、何に対しても興味津々とばかりに太く長い尻尾を右に左に揺らして瞳を輝かせていて、そんな姿を見てしまえば思わず微笑まずにはいられない。

 

「べーるくんっ」

 

そこに、背後から1つの声が投じられた。

振り向く前に柔らかな感触が押し付けられるように衝突した。薄蒼色の短髪が揺れるのが瞳に映り、誰かがわかった。

 

「アーディさん」

 

「今日も可愛いね、抱きしめてもいい?」

 

「もう抱きしめられてます、あと当たってます」

 

「………嫌だった?」

 

「………嫌じゃ、ないです」

 

「正直でよろしい」

 

呼ぶと共に抱きしめてくるのは、彼女しかない。照れくさいながらも拒絶することはなく、背中から伝わる柔らかい感触に耳を赤くしながら少し振り返ると、大人の女性というよりは少女感を残すアーディは、はにかみ、春姫の姿に気がつくとゆっくりと抱き着くのをやめて離れた。

 

「ああー……『守りたい系』かあ……」

 

「?」

 

「ううん、なんでもないよ。良い物語(もの)、見させてもらいました」

 

ごちそうさまですっ。とばかりに言うアーディにベルは「私にもして欲しいなあ」という念のようなものを感じた。

 

「あのベル様? そちらの方は?」

 

アーディからにじみ出る嫉妬の炎に冷や汗を流していると春姫が戻ってくる。黒の仕事着(ワンピース)と白い前掛け(エプロン)を両腕で抱くようにして戻って来たあたり、気になるものを買ったのだろう。

 

「えっと、この人は【ガネーシャ・ファミリア】のアーディさんです」

 

「ベル君のお嫁さんのアーディ・ヴァルマだよ、じゃじゃーん」

 

「「!?」」

 

驚きの余り春姫の腕から、新品のメイド服がぱさりと音を立てて零れ落ちた。

 

 

×   ×   ×

 

 

「お金………お金が、欲しい………」

 

太陽が真上から照らす昼時、彼女は幽鬼のような足取りで、且つ、まるでゾンビの呻き声のようにそんなことを口にしていた。第一級冒険者なのだから稼ぎなんてそんじょそこらの冒険者の比ではないというのに、彼女の懐事情は【ウィン・フィンブルヴェトル】並に寒々しい。

 

「ア、アイズさぁん……」

 

そう、【剣姫】ことアイズ・ヴァレンシュタインは誰もが知る高根の花でありながら、第一級冒険者(さいつよ)の1人である。しかし、金がない。不思議なことに階位昇華(ランクアップ)すればするほどに、出費というものは増えていく。武器がお手頃価格で買えるはずもなく、まして命を預けるものであるからして、妥協など許されるはずもなく、借金(ローン)がかさむばかり。

 

「魔力を注ぐバイトしたけど、お金……大した事、なかった……変な衣装まで、着たのに……ガッカリ……あの魔術師(メイジ)の人、絶対、妖しい……」

 

「怪しいバイトをしないでくださぁい」

 

「お金、ないと、ゴブニュ様に怒られる……」

 

愛剣の修繕中に借りた武器もダメにしてしまい、その弁償代もツケになる。となればまた借金は膨らむのだ。モンスターを殺しても殺してもお金を稼いでも稼いでも足りない。これにはさすがにアイズも「あっれれ~おっかしいぞ~」となる。

 

「リ、リヴェリア様に相談するというのは……どうでしょうか……?」

 

「ダ、ダメ……リヴェリアに怒られる……」

 

すぐに用意できる額ではないことはゴブニュとてわかってはいるが、毎度ツケにするわけにもいかない。無論、自分の装備のことなのだからそれを毎回母親(リヴェリア)に頼むわけにもいかない。というか頼っていたら自分よりも後に派閥に加わった後輩達に格好がつかない。

 

「深層に……単独……遠征……」

 

「ダ、ダメですよそんなの!?」

 

「で、でも……【猛者】はしたって聞いた…よ」

 

「一緒にしちゃだめです!」

 

【フレイヤ・ファミリア】は頭おかしいんですから! なんて大声で言えたらいいがそんなこと、レフィーヤにはできなかった。というか、恐ろしくて無理だった。もういっそ、空から金の塊でも降ってくれればいいのに……そんなことを思うアイズであるが、その時、『幸運』にも、彼女は見つけたのだ。

 

「――――ゴクリ」

 

「ア、アイズ……さん?」

 

視界の奥を歩く『白』は、アイズの良く知る男の子。左には憲兵のお姉さんを、右には如何にも守ってあげなきゃと思ってしまう金髪狐人の少女がいる。しかし、この時のアイズは幼馴染の姿しか目になかった。足取りが自然と速くなり、縋るような思いで、彼女は口ずさむ。

 

 

「―――【風よ(テンペスト)】」

 

 

 

×   ×   ×

 

 

「なるほど、アーディ様も英雄譚や御伽噺に造詣が深いのですね」

 

「いやー、まさか共通の趣味を持つ同志に出会えるなんてねえ……戦争遊戯の後、どうなったのかと思ってたんだよー。なんでも、イシュタル様が行方不明なんでしょ?」

 

「見つかっていないのですか? アイシャ様に聞いても、アイシャ様は既に派閥を変えていらっしゃるようですし……」

 

「見つかってないんだよねえ……なぁんか言えない事情でもあるのか知ってそうな人からも情報引き出せてないらしいし……やっぱ、闇派閥関連なのかなあ…ただでさえ、またダイダロス通りで不審火騒ぎが起きてるっていうのに」

 

「「闇派閥?」」

 

「あ、ううん、なんでもない!」

 

腕に抱き着くようにしてアーディが、少し遠慮がちに袖を握って春姫が、間に挟むベルと共に歩いていた。

 

「アーディさん、今日はお仕事は?」

 

「休暇だよ? 散歩してたら君を見つけたから……これはメインヒロインとしてデートするしかないよねって思ったんだけどね」

 

「……申し訳ございません本妻(アーディ)様」

 

「いいんだよ…あんな良い光景見せられたら、ダメとは言えないよ……」

 

(ああ、訂正しないんですねアーディさん……)

 

「英雄色を好むっていうし、愛人とかいても私は怒らないよ。まあ、輝夜みたいに悪堕ちしたら結婚できるかもしれない可能性をちょっと考えちゃったけど……さすがにねえ……」

 

「女神様と同衾されていらっしゃるのは、流石に驚かされました。ベル様のお部屋はどちらなのかと聞けば、アストレア様のお部屋でしたので」

 

「ああ、この子、7歳の時から女神様の部屋で過ごしてるんだよ。女神様と私達の抱き枕になってるんだ。安眠効果抜群だよ、今度、春姫もやってみるといいよ」

 

少し歩きにくい、そして周囲の視線―特に男性陣からの―が痛い。モテる女の子ことアーディが腕に抱き着くようにしているのもそうだが、そのせいで彼女の大きく膨らんだ胸が形を変えているのだ。男達は血の涙を流した。更には遠慮がちな春姫の『袖を摘まんでいる』というのがまた、男達の獣欲というか情欲というか、グンッとさせていた。あの兎、突風にでも攫われればいいのに……そう思ったくらいには男達の心は一つになっていた。さらにさらに、アーディの口から幼少期より女神や【アストレア・ファミリア】の美人達に抱き枕にされていると聞けば、血反吐を吐かざるを得ない。というか何人か崩れ落ちて石畳に拳を打ち付けている者すらいた。この日、冒険者が向けるモンスターへの視線は、それはもう恐ろしいものであった。そして、その時、まるで美人を独り占めするクソッたれ兎に天罰でも下るかのように男達の願いは叶った。そう、都合よく兎だけを襲う一陣の風が吹いたのだ。

 

 

「ベル、会いたかった―――!」

 

空気を切り裂く音と共に、ベルの身体がくの字に曲がった。ぎょっとするアーディと「こんっ!?」と仰天する春姫。ベルを襲った一陣の風の正体が3人の瞳に映る。金の髪、金の眼、背中が丸出しの軽装。伸びるしなやかな肢体は眩しいくらい美しく、繊細な身体のパーツの中で自己主張する胸の膨らみは腰に抱き着いたせいでベルの男の象徴に押し当てられてしまっている。その正体は誰が見てもわかってしまう人物。【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者。

 

「――――()全自動命摘み取り機(アイズ・ヴァレンシュタイン)!?」

 

ベルが仰け反りながら言った。

 

「【剣姫】……()最強の幼馴染(アイズ・ヴァレンシュタイン)!?」

 

アーディが笑顔を浮かばせる余裕を失って言った。

 

ベルの口から出た人名に、春姫は見開かれていた目をさらに見開いた。自分から見ても美しく、整った容姿をしていて、如何にも『高嶺の花』な美少女だ。そんな少女が、自分の英雄に、仕えるべき主人に抱き着いているのだ。腰に。柔らかな胸は形を変えてしまっている。しかし、突如現れた美少女の胸がベルの男の象徴に押し当てられているのは決してわざとではないことは見れば不思議とわかった。腰に抱き着いた美少女はお腹に顔を埋めていたのをやめ、瞳を潤ませ、上目遣いに、まるで縋るように両腕でガッチリと腰に抱き着いて口を開いた。

 

「助けて」

 

「ひぃやぁああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

「ベ、ベルくぅうううううううううん!?」

 

「ベル様ぁあああああああああああああ!?」

 

アイズの助けを求める声が掻き消えるほどのベルの悲鳴。周囲からしてアイズは『高嶺の花』であることに違いはない。ベルにとっては戦い方の師匠であることに違いはない。しかし、だがしかし! ベルはアイズのことが過去の行い(トラウマ)もあって苦手なのだ。

 

 

『・・・・おかあさん』

 

『?』

 

『夢だって思ったけど・・・死んじゃったんだ・・・』

 

『・・・・』

 

『僕のことぎゅっとして、眠っちゃって、もう・・・』

 

『・・・・・・そっか・・・・・・・・・・()()()()()

 

 

ちゃんと見送れてよかったね。悲しいけど、お別れできてよかったね。アイズは自分とは違ってちゃんと看取ることができたことや、『冒険者』にしては幸福な死を迎えられて良かった――とこれが16歳のアイズであればそんな風にもう少しうまく言うことができただろうことを、言葉足らずが災いして、ベルを勘違いさせた。帰ってきたのは、拳だったのだ。ベルよりも器を昇華させているアイズには何のダメージもない、けれどその拳には悲しみだとか怒りが確かに籠っていた。頬に拳が食い込んだままベルのことを見たアイズは「どうしてそんなことするの」とモヤモヤと形容しがたい黒いものが浮上して、ベルが泣いていることにも気が付かず、考えるよりも先にアイズはやり返していた。当時Lv.4間近の幼女が、『恩恵』を授かっただけのベルを殴ったのだ。

 

 

それだけではない。一悶着の後、保護者達と共に謝罪に来たアイズはまたもやらかしたのだ。

 

『うきゅぅ~~~~』

 

『ごめんなさい・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッッ!!』

 

浴室で仰向けに倒れる、入浴中だったのだろう生まれたままの姿のベルの上に、同じく生まれたままの姿のアイズが乗っかり背を丸くしながら謝罪の連呼。

 

『ロキが、「一緒に入った方が身も心も解れて仲良くなれるんやで」って言ってたから・・・背中を洗ってあげたらベルも許してくれるかなって』

 

アイズとしては悪気はなかったが、そんなこんなでベルの中ではすっかりアイズによってトラウマが出来上がってしまっていたのだ。それでも迷宮都市で暮らしていれば嫌でもお互いのことは知る事であり、顔を合わせることもあり、仲介されてようやっと苦手意識は残りつつも、最近では特訓をする間柄にまでなったというのに。この所業である。普通なら喜ぶところだが、ベルには逆効果だった。

 

 

(ぼ、僕に何の恨みがあるんだ、全自動命摘み取り機(アイズ・ヴァレンシュタイン)ンンンンンン!!)

 

 

突然の突風と共に抱き着かれこそすれ、痛みはなかった。それは彼女の絶妙な力加減からくるものなのだろうが、しかし、今、ベルには別のものが襲い掛かっていた。そう、少女のこれからも成長するであろう2つの果実がむにりと形を歪めて押し当てられているのだ。

 

(何で今日に限って防具を着けてないんだこの人はぁあああああああああ!?)

 

ベルが後ろに下がろうとすれば、アイズはベルを離すまいとさらにぎゅっと抱き着く。そうすれば布越しとはいえ、果実が押し当てられ、ベルの摩天楼(バベル)が刺激され内部では緊急神会(デナトゥス)が開催され「冒険者を都市外に派遣するべきだ!」と会議を白熱させる。ベルの顔は真っ赤になり、悲鳴が鳴り響き、そして、怖いと恥ずかしいと歳の近い年上の女の子の肢体に女の味を知ったばかりのお盛ん兎さんは涙を散らせながらその心地よさから脱出できない。そしてそれをアーディと春姫が見逃すはずがなかった。ムッと不機嫌な顔になった2人は右腕と左腕にそれぞれ抱き着き、引っ張ったのだ。ベルを憎き恋敵から取り戻すために。ネトラレだと? そんなもの許してなるものか! 幼馴染がなんだ、こっちは育ててきたんだぞ! アイズ・ヴァレンシュタイン、何するものぞ!

 

「ベル君! おっぱいなら私のがあるでしょ!」

 

「ん……? 何か、ベルのここ……硬い……武器……?」

 

「ほわぁああああああああああああああああ!?」

 

「ベル様っ! 乳房なら私の方が勝っております! お望みとあらば、ご満足いくまで奉仕いたしますからっ! それはもう遊郭のお姉さん達に教え込まれたあらゆるご奉仕を!」

 

命摘み取り機(アイズ)さん、お願いします、離れてください!?」

 

「い、いや……! ベル、お願い……行かないで……!」

 

「ほわぁああああああああああああ!?」

 

「「イッちゃダメぇええええええええ!?」」

 

両腕にも柔らかいものが押し当てられ、無自覚に股間にも押し当てられ、ベルは既にキャパオーバー。どうしてアーディさんも春姫さんも僕に追い打ちをかけるの!? 僕、何かした!? 状態である。これにはさすがに周囲の視線が、同情のそれになった。

 

「ど、どうして僕に……僕なんですか……!?」

 

僕のことがそんなに嫌いなんですか!? 何の恨みがあるんですか!? 大人しくしていれば美人さんなのに! 僕を苛めなきゃ気が済まないんですか!? そんな想いを込めたベルの言葉。

 

「もう……幼馴染(ベル)しかいない……! 【静寂】をお義母さんに持つ、ベルしか……!」

 

ベルが結構なお金を持っていることはアイズも知るところ。さらに言えばアイズはアリーゼ達から「ベルってお小遣いあげても特に物を買ってくることないから貯まる一方なのよねえ」というのを聞いたことがあるのだ。正直なところ、金銭目当てで頼るのは自分でもどうかと思うが、人としてどうかと思うが、頼れるのは彼しかいなかったのだ。

 

「お、お義母さん………!?」

 

お義母さんに恨みが!? そりゃあ「邪魔だ、ダンジョンの娘」とかなんか言って吹っ飛ばしていたような気がしないでもないけれど、だけど、それで僕を!? とベルは震えた。この金髪お姉さん、小さい頃から八つ当たりをしていたのだとそう思ったのだ。

 

「お願いベル……!」

 

「や、嫌ぁ……!?」

 

(ベル君が可愛い……「イヤぁ」じゃなくて「ヤァ」って……)

 

(ベル様が幼児退行……!? この【剣姫】様、強い!?)

 

ぎっちりと腰に抱き着くアイズは、さすが第一級冒険者。振りほどくことがまるで敵わない。ベルは顔を真っ赤に、涙目になり、両腕にも女体を感じながら、顔を左右に振る。追い詰められた兎のようだ。そしてそこに、遅れてアイズに追いついてきたレフィーヤが到着。ベルの悲鳴が聞こえたのだろう、何事ですかとでも言いたげな顔で彼女は事態を見た。

 

「ア、アイズさん!? こ、こんな白昼堂々、何をしているんですか!? う、うらやま……じゃなくてダメですよ!?」

 

「レ、レフィーヤざぁん……だずげでぐだざぁぃぃぃぃ」

 

救いの手が差し伸べられた、とそう思ったベルはレフィーヤに助けを求めた。周囲をいく者達も「ああ、やっと終わるのか」と安堵し、だけどちょっと羨ましいななんて思いつつ通り過ぎていく。しかし、世はいつだって理不尽だった。

 

「アイズさんの胸の感触を味わっておいて何を言っているんですか? 死にたいならそう言えばいいじゃないですか」

 

「理不尽!?」

 

「これ以上、アイズさんの胸を穢さないでください!」

 

「ボクワルクナイノニ!?」

 

アイズさんに抱き着かれて……なんて羨ましい……と嫉妬心の方が勝っちゃってるレフィーヤの言葉は、蜘蛛の糸を斬られた罪人のようにベルを叩きのめした。頭を垂れたベルは喉を震わせ、そして抵抗の力を抜いた。

 

「お願いします……何でもしますから、許してください……ぐすっ」

 

「ベ、ベル君……?」

 

「ベル様? 今、何でもと……?」

 

「ありがとうベル……」

 

さすがにやりすぎたかもとアーディが顔色を変え、春姫が脳内で何でもしてもらうご立派な妄想を働かせ、アイズがベルを見上げつつ微笑んだ。とても綺麗な微笑みだった。カクカクシカジカとアイズが事情を説明し、アーディが「えぇー」と残念なものを見る目で罪悪感にチクチクと胸を突かれ、可哀想になってきたベルの頭を撫で、春姫が「これは最早……援……?」と訝しみつつベルの背中をさすってやり、何かを思い出したかのようにレフィーヤが頭を抱え、そしてベルは「お金が欲しい」的なことを言っているくらいにしか話が聞こえていなかった。

 

「アイズさんが……ぐすっ……決めてください……僕、わからないから……ひっく……偉い人がなんか言ってました。お前の……値段はお前が決めろって……ぐすん」

 

「でも、ベル……!」

 

「お願いします……僕じゃ、決められない……ッ!」

 

「……! ごめんね、ごめんねベル……!」

 

アイズとしてはベルに貸してもらうくらいにしか考えていなかったが、どうやらベルでは決めかねるらしい。いくら必要なのか、そしてこのお礼は必ず、何としても絶対に。そして借りたものも遠くない内に返す。具体的にはダンジョンに行った時とか遠征での稼ぎとか、その大半をベルに差し出すくらいには。その気持ちは当然、あった。アーディと春姫に「少しだけ2人きりにさせてください」なんて言って離れた路地に2人、入り込んで内緒話。そして戻って来た。

 

「ベル……今度、お礼、するね?」

 

全てが終わり、アイズとレフィーヤが去っていく。申し訳なさそうな顔で微笑を浮かべていた。これでアイズの悩みの種である溜まっていたツケが解消される。怪しいバイトをせずにすむ。アイズにとってベルは恩人になったのだ。

 

「いいんです気にしないでくださいアイズさん……お礼なんて……むしろ僕がするべきで……ぐすっ、取り返しのつかないことをしてしまったから……これでアイズさんにお礼なんてされたら、僕、どうしたらいいか……!」

 

何もかも失ったような表情でアイズから顔を逸らしてベルは言う。ああ、空はあんなに青いのに……僕の心は真っ青だ。でも、仕方ないじゃん。男だもん。アイズさんのおっぱい柔らかくて…温かくて…下着つけてるのかなあ…とにかく柔らかくて、幼馴染相手に、苦手なはずなのに、僕の中の【最強(ゼウス)】の一面が正直に反応しちゃったんだから、仕方ないんだ。高い買い物だって思えば……お礼なんてされたら、僕どうなっちゃうんだろう……壊れるぅ……ああ、リヴェリアさんに謝らなきゃ。許してくれるかなあ…なんて頭の中でぐるぐると変な思考を巡らせた。アイズのことは苦手だが、アイズは綺麗で美人さんで容姿が良いのは本当で、巡り合わせが違えば好きになっちゃってたかもしれないわけで、ベルは春姫にちり紙を差し出され鼻水を拭った。

 

 

「ベル……私の借金(ローン)であんなに泣いちゃうなんて……ベルは優しいね」

 

「…………ソウデスネー」

 

今までの会話に勘違いというかすれ違いが大いにあるような気がしたが、ツケが解消されればその分、ダンジョンで得た収入から引かれる金額も減るだろう。そうすればベルにも返せるし、まあ、大丈夫…かなあとレフィーヤは溜息を吐いて遠い所をみた。

 

 

「ベル君、大丈夫?」

 

「ベル様……?」

 

「………ふふ」

 

2人が去っていった。

まるで嵐が通り過ぎた後の様に静かだった。好いた男が泣いているところなんて初めて見るだろう春姫は「ど、どどど、どうすれば!?」とオロオロ。アーディは普通に心配した。

 

「えっと……ベル君……」

 

「うぅぅ……僕、アイズさんのおっぱいを買っちゃったぁ……最低だぁ……ごめんなさいお義母さん……」

 

「ま、まさかベル様……!?」

 

こんな、日の下で!? 達してしまわれたのですか!? そう思ってしまった春姫はすすすっとベルの前に移り、膝を折り、スンスンと鼻を鳴らした。雄の独特な匂い(スメル)を嗅ぎ、よもや冒険者達が無駄死にしているのではないかと一匹のポンコツ元娼婦はそう考えての行動であった。アーディはまたもぎょっとしながら、すぐに顔を上げた春姫がほっとしたような表情をしたことから、何故かホッと胸を撫でおろした。

 

「アーディ様」

 

「ん?」

 

「ベル様の英雄の都(オラリオ)、そこにそびえる摩天楼(バベル)は健在でございます」

 

「う、うん」

 

この子、英雄の都を隠語として使っちゃうんだ……すごいなあ、と一周回って感心したアーディである。

 

「冒険者達は都市外に出ることなく、都市の秩序は保たれました……! 辛い戦いでしたが、失われるものはございませんでした」

 

「おお……意味が分かっちゃう私が怖い……でも、ベル君、【剣姫】の乳圧に耐えたんだ……女の子の味覚えたばっかだから、ダメだと思ったのに……秩序、保たれたんだ」

 

「僕の風紀が保たれてない!」

 

励ましやら慰めやら、アーディお姉さんはそれはもうベルの頭を撫で繰り回した。顔を赤くし俯いてぷるぷる震える白兎は見上げる形になっている春姫の翠の瞳と目が合い、余計に羞恥を覚えた。このお狐様、えっちがすぎる……と。

 

「春姫さん」

 

「はい」

 

「その、書くものありますか?」

 

「え、あ、はい……こちらに」

 

「アストレア様に一筆、したためますから……渡してください」

 

そう言って何かアストレア宛てに手紙を書き、春姫に手渡した。そしてベルは全力で逃走した。

 

「え、ベル君!?」

 

「べ、ベル様!?」

 

「家出します! 探さないでくださぁああああああああああい!!」

 

本能的なその逃走に、お姉さん2人は完全に置いていかれた。ベルに置いていかれた春姫は市場(バザール)で購入したメイド服を抱きしめたままアーディに「どうすれば!?」と言うが、そこは長年ベルのことを見てきたお姉さんである。余裕があった。

 

「あー……とりあえず、その手紙をアストレア様に渡せば大丈夫だと思うよ。家出先も書いてあるだろうし」

 

「家出先が……書いてある……?」

 

なんだその家出、と思いつつも春姫は従うことに。帰り道、リャーナとネーゼ、マリューに再会し「あれ、1人?」と言われつつも本拠に戻り、女神に手紙を渡した。

 

「ベル様からでございます……」

 

「ベルが、手紙……?」

 

―・―・―・―・―・―・―・―

アストレア様へ。

 

ごめんなさい、本拠には帰りません。

今日は、アミッドさんのところにいきます。

この都市を怪我人達を癒しつくす薬を、彼女は作っています。

本当は、アストレア様が恋しいけれど、でも……。

今はもう少しだけ、知らないふりをします。

幼馴染のあのお胸も、きっといつか、克服してみせるから。

 

 

ベルより。

―・―・―・―・―・―・―・―

 

「………」

 

手紙を読んだアストレアは苦笑しつつ眉間を摘まんだ。幼馴染のあの娘との間になにかあったのだろう。結果、腐れ縁であり、もう1人の幼馴染と言っても過言ではないアミッドのところに家出したのだ。理解できてしまう自分もそうだが、どこで覚えてきたのかこのテンプレート。笑いを堪えるので女神は必死である。

 

「ア、アストレア様?」

 

眷族達がどうしたのかと戸惑いの声を投げかけてくる。

アストレアは胸に手を当て、深呼吸をした後、眷族達に微笑みながらベルが今日は帰ってこない旨を伝えるのだった。

 

 

×   ×   ×

【ガネーシャ・ファミリア】本拠

 

 

アーディは椅子に縛り付けられていた。

テーブルの上には山のような書類の数々。顔を真っ青にしつつ、汗を頬から滴らせ、谷間に吸い込まれている感覚を感じながら、壊れた人形のように隣に立つ姉の顔を見た。

 

「お姉ちゃん、これ、何?」

 

「仕事だ」

 

「私、今日、休暇」

 

「代休とれ」

 

「いや、あの」

 

「白昼堂々、憲兵が騒ぎを起こしていたらしいが……心当たりはあるか?」

 

「さ、さぁ……どうだろう……?」

 

「白い兎が泣きながら走り去っていったらしいが、心当たりはあるか?」

 

「………お仕事、楽しいなあ」

 

「そうか、お代わりもあるからな」

 

「わぁい……労働ばんざーい」

 

 

アーディは山のように積み重なった書類とにらめっこをする罰を受けていた。お昼にあった出来事がまるで数年前の出来事のように過去のようだ。今は、この苦行もとい罰を終わらせ、ちゃんと助けてあげなかったことを猛省しよう。

 

「お姉ちゃん、お風呂入ってきていいかな?」

 

「終わったらな」

 

「一緒に、入ろ?」

 

「終わったらな」

 

「傍に……いてくれる?」

 

「ああ、見張っていてやる」

 

「わぁい、お姉ちゃん大好きぃ」

 

シャクティお姉ちゃんの監視の目から、アーディは大人しく罰を受けた。それが終わってリュー達と再会したとき、リュー達はアーディが悟りでも開いたような顔をしていたと後に語った。

 

 

×   ×   ×

【ディアンケヒト・ファミリア】治療院

 

「何故、いるんですか?」

 

アミッドは普段と変わらない表情で、私室の椅子に座っているベルを見た。目元が少し赤く、泣いた後であることがよくわかる。椅子の足には小さなタイヤが付いており、ベルはそれで遊ぶように椅子で回転していた。

 

「はぁ……来るならそう言ってください、ビックリします。あと窓から侵入せず正面から来るように」

 

小言を零しながら、ベルの下へ。

私、まだお仕事終わっていないんですよ?と書類をテーブルに置くとひょいっとベルごと椅子の上に飛び乗った。扉は自動で閉まるスライドドアだ。勝手に閉まる。

 

「うぐっ」

 

「………どうして硬くなって……?」

 

どうせ退いてくれないんでしょう? と思ってベルの膝の上に座る形をとったが、尻に伝わるその感触に聖女様の表情がわずかに変わる。そして、「あの、その、すいません……痛かったです、よね?」と申し訳なさそうな顔をした。そんな2人のやり取りを、偶然にもアミッドの私室の前を通りかかった治療師の少女が夕日のせいでシルエットしかわからないが、勝手に閉じていく扉より室内の光景を見てしまった。ベルの膝の上に座っているアミッドを。

 

「!?」

 

2人分の重み、跳ねた故にギシリと軋む椅子、音。

 

「!?」

 

2人の影は重なっており、アミッドが振り返ったのだろう向き合う男女の影。

 

(まだ太陽落ち切っていませんよ、アミッド様!?)

 

やっぱり2人の関係ってそういうことなんですよね!? お盛んなんですね!? 仕方ないですよね、アミッド様はアルフィア様が認めた唯一の女性ですもんね! でも、扉をしっかり閉めて、鍵をかけるくらいした方がいいんじゃないでしょうか!? 待ちきれなかったんでしょうか!? アミッド様も年頃ですもんね! 19歳ですもんね! 

 

(身を清めもせず……恐らく、着衣で……!?)

 

アミッドのことだ、もし自分が呼ばれたらすぐに出ていけるようにその辺り考えているのだろう。そして何もなかったかのような、いつものアミッドの顔をして表に出ていくのだろうと少女は思った。興奮で息が荒い。心臓がバクバクとウルサイ。仕方ないよ、少女も年頃だもの。

 

(あ、降りた……いえ、え、えぇ!? 今度は、アミッド様が床に膝をついて!?)

 

椅子に座るベルの前で膝をついて何かしているらしいシルエット。扉の隙間から見ていた少女は目を血走らせ、興奮で息を荒くし、ご奉仕しているようにしか見えないアミッドのその光景に喉を鳴らした。興奮冷めやらぬ少女は、閉まってしまった扉の向こうがどうなっているのか気になるが、()()同士の情事を盗み見るなど、ましてや敬愛する聖女のはしたないところを見るなんて畏れ多く、野暮なことはしない。平静を保ちつつ保てず、ふぅふぅと荒い呼吸を繰り返し、勝手な決意をし始める。

 

「わ、私達がアミッド様を支えなくては……! ええ、そうです。まずはベビー用品を……!」

 

本人達の知らないところで加速する彼女達の勘違いが解かれる日は、遠い。

 

 

そんな見ている少女がいるなんて気づかず、アミッドはひょっとして自分のせいで痛めてしまったかもと魔法による癒しを捧げていた。ベルは顔を逸らして「いや、いいですから」と言うがアミッドは「後に響くとアリーゼさん達に何言われるやら…」とほんのり頬を染めて真面目に魔法を行使した。

 

「あの、ベッドでしたら座って構いませんから。私、まだ書類仕事が。あと勝手に人の眼鏡を使わない」

 

「……似合いますか?」

 

「……ええ、とても」

 

退こうとしないベルに溜息を吐いて、再びベルの膝の上に着席。身体を捻り、中指と親指で眼鏡を掴み取り、自分にかける。そのまま書類にペンを走らせる。

 

「家出ですか?」

 

「うん」

 

「…アリーゼさん達に揶揄われすぎましたか?」

 

「違いますよ」

 

髪を編み、弄っているベルのことは気にせず、とはいえ自分のところに来たんだ、家出だろうと腐れ縁故に察し、とりあえず理由を聞く。アリーゼ達に揶揄われすぎて恥ずかしくなって逃げてきたかと思ったが、どうやら違うらしい。手を止め、ティーカップに淹れた紅茶で喉を潤そうとしたとき、ベルが口を開いた。

 

「アイズさんのおっぱいを××××万ヴァリスで買いました」

 

「ぶふぅっ!?」

 

吹き出し、書類に染みていく。

ビックリ仰天で振り返ると、ベルはアミッドの前に腕を回し肩のあたりに顔を埋めた。震える彼の手は温かく、そして冷たかった。

 

「ど、どどど……!?」

 

「僕、知らなかった……幼馴染のおっぱいが、意外にも大きく育ってたこと……戦い方教えてもらってたのに、今日、街中で押し付けられるまで、気づきもしなかった……! すごく、温かくて、柔らかかった……!」

 

僕はいったい今まで、彼女の何を見ていたんだ…! 謎の懺悔を始めるベル。なんというか、急に自分と同じく腐れ縁の友人であるアイズの乳房のサイズアップの感想とかされてビックリするのもそうだし、なんて言うか、こう、何かと頼られてたり? こうして家出先としてやってくるくらいには信頼を寄せてくれているというのに、なんだ、この敗北感というか悔しいと感じるのは……私の下着がほぼ白しかないと知っているの都市内で貴方だけなんですよ? いえ、別にいいんですけど。

 

「……おのれ、全自動命摘み取り機(アイズ・ヴァレンシュタイン)……!」

 

「………」

 

お腹に回っているベルの手に妙に力が入ってアミッドは、どんだけこの子は彼女のことが苦手なんだと頭を痛めた。もう仕事どころではない。いや、もうなんていうか、アホみたいな額で幼馴染の乳房を買ったという字面が酷過ぎて、何も手に付かない。え?彼、歳の近い女性に所謂…援助交際みたいなことしたと? 綺麗なお姉さん達に囲まれておいて? え? ベルの手に自分の手を添えて驚いた表情のまま固まるアミッドは眼鏡を外し、ベルにかけ、引き攣る口で何とか言葉を紡いだ。

 

「ベ、ベルさん……夕食、食べに行きましょう……」

 

「え? 僕、作りますよ? 泊めてもらうんだし……それくらいしないと。あ、お風呂上りのアミッドさんの髪も、僕が拭いてあげます」

 

「魅力的な話ですね……ですが、今日は外食にしましょう。あと、湯浴み後の話はまた後にしましょう。とにかく、食事です。私の奢りです」

 

「わかりました、アミッドさんの上着取ってきます」

 

「ええ、私も身支度を整えますので」

 

そうと決まれば話は早いとばかりに眼鏡をかけたままのベルはクローゼットを開けるとアミッドの上着を取り、アミッドは治療院の制服を脱ぎ、白と浅紫(マゼンダ)を基調とした調合用としても使う衣装に着替えた。そしてベルが触っていたクローゼットから適当な上着を取るとそれをベルに貸し与える。華奢なベルだ、身長はいつの間にか少しだけれど、追い越されたけど、問題ない。

 

「夜は冷えますので」

 

長い髪を一本に束ねて肩掛けカバンを取り、2人は治療院を後にする。それを陰から見守る治療院の少女達。ほら、やっぱりあの2人は……!と2人の進展に嬉々とした声をする少女達は皆で2人を支えなくてはと勝手な勘違いを加速させた。

 

「それから、先にリヴェリア様に謝りに行きましょう」

 

「で、でも……」

 

「誠心誠意、謝罪すればリヴェリア様もお許しに……なって……くれるはず、でしょう…………たぶん。わ、私も一緒に頭を下げますから」

 

「………うん」

 

アミッドの袖を摘まみ、2人は夕食に行く前に【ロキ・ファミリア】の本拠、黄昏の館へ足を運んだ。突然の来訪に何かあったのかと思う者もいるが、2人はリヴェリアの下へ。

 

「どうした2人とも……私に何か、用が? そういえば、昼頃だったか? 何か街が騒がしかったらしいが……そのことで私が必要になったとかか?」

 

柔らかな表情で迎え、紅茶と茶菓子まで用意してくれたリヴェリア・リヨス・アールヴ。アミッドは何とも言えない表情で、ベルの横っ腹を突いた。首を傾げ、訝しむリヴェリアにベルはおずおずと、彼女の前で土下座をかました。ティーカップに唇をつけたまま目を点にするリヴェリア。アミッドは紅茶に一切手をつけなかった。次にどうなるかわかっていたからだ。

 

 

全自動命摘み取り機(アイズ・ヴァレンシュタイン)さんのおっぱいを××××万ヴァリスで買いました。それでお礼するねって言わせてしまいました……ごめんなさい」

 

「ぶふぅっ!?」

 

ほらね。とアミッドは思った。しかし顔を逸らしたアミッドは酷過ぎる字面に笑えばいいのか泣けばいいのか怒ればいいのかよくわからなかった。ただ、今リヴェリアがどんな顔をしているのかはわかる。お美しい王族妖精の顔が、とても引き攣っているのが手に取るようにわかるのだ。

 

「ア、アイズとその……恋仲になった……とかでなく……か?」

 

リヴェリアとしてはまあ、付き合いも長いし、2人がくっつくのも悪くないかなあ程度には、しかし過去のアイズの行いもあってベルさえよければ? みたいな? くらいには思っていた。だってベルのことは【アストレア・ファミリア】に加わった時からよく知っているし。良い子だし。心配させすぎなところもあるが、ハーレムとかどうかと思うが、言い方悪いが優良物件だとリヴェリア・リヨス・アールヴ思うワケだ。

 

「濃い……? 大丈夫です、そこまでじゃないです。耐え切りました」

 

「そこまでじゃない……だと……!?」

 

リヴェリアの口端がひくひく。

ベルの中のアイズがいったいどうなっているのか全く分からない。しかし、好意を抱くほどではないと、そう言っているのだとリヴェリアは受け取った。容姿は良い、表情があまり変わらないし、勉学は苦手で手を焼かされたし、怪物を倒すことばかり考える戦闘狂(バトルジャンキー)だが、良い子ではあるはずなのに…どうやらダメらしい。親代わりとしてショックだ。

 

『リヴェリア、いる?』

 

ノック音と共にアイズの声が。

ビクゥッと肩を揺らしアミッドの後ろに隠れるベル。それを見てリヴェリアは何かを察した。あ、これ、やらかしたやつだ…と。

 

「アイズか…どうした?」

 

『アミッドと……ベルが来てるって』

 

「……それが、どうかしたのか?」

 

『えと………リヴェリア、怒ってる?』

 

声で察してしまったらしい。

はは、怒っていないさ…とフィンなら言ったかもしれないがリヴェリアは妖精(エルフ)であり、その中でも尊い王族妖精(ハイエルフ)である。その辺、難しいのだ。アミッドとベルに筆談で「隠れていろ」と指示を出し、2人は隠れられそうな場所に身を潜めた。その後は勿論、事情聴取したリヴェリアからアイズへお説教であった。

 

 

「借金を返すのに借金をしてどうする!? 恥を知れ、馬鹿者!」

 

リヴェリアの怒声にアイズは怯え、ベルも怯え、アミッドは怯える白兎を姉の様に抱きしめた。その晩の夕食はとても美味しかったけど何を食べたのか覚えていないとベルは語る。

 

「ほらベル、好きなだけ食べていいんだ。育ち盛りだろう?」

 

「ベルさん、口周りが汚れていますよ」

 

「んむぅ…」

 

「アイズの件は、もうあれだ……ベル、お前の好きにしろ。返済まであいつの収入はお前のものだ。アイズも何でもすると言っていたしな……ああ、頭が痛い」

 

「なんでもするアイズさん………」

 

「ベルさん?」

 

「ひっ、アミッドさんっ!? ぼ、僕何も考えてないですよ!?」

 

「ふーん」

 

「お前達は本当に仲が良いな……アイズは何故、こうできないのか……はぁ……」




アイズさんはいずれベル君におしおき(R18)されるんだ。だから……いいんだ。
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