アーネンエルベの兎   作:二ベル

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この世界のベルアミつよない・・・・? たぶんきっと、添い寝とかしてる2人を偶然見かけたディアンケヒト様あたりが「これで付き合ッとらんとか・・・化物か?」なんて思ってるに違ない。



小休止②

 星屑の庭、神室のベッドの上で上裸になったベルの背中をアストレアの指がなぞる。行われているのは神の手による『恩恵(ファルナ)』、ステイタスの更新だ。起床してまだ寝ぼけているベルの背をアストレアは慣れたように指を走らせていた。

 

「戦争遊戯からだいたい半月かしら。アビリティ、スキル、魔法のすべての項目が復活して更新できるようになったし……元に戻らなかったらどうしようかと思ったわ」

 

『恩恵』の休眠状態。

それがベルの身に起きていた異常事態であった。力、器用、耐久といったアビリティに加えスキル、魔法の全てが機能停止。ただ『恩恵』があるだけの人間という状態に陥っていた。日を追うごとにそれらは少しずつ復活し、ようやく今日、全てが戻ったのだ。これでようやくステイタスを更新することができていた。

 

「あれだけのことをしていたのだし、偉業としては十分すぎるのだけれど……それでも、()()()()わね。はい、こっちはLv.2の最終ステイタス」

 

アストレアから羊皮紙に写されたステイタスを受け取り、確認する。

 

 

 

ベル・クラネル

所属【アストレア・ファミリア】

Lv.2

力 :A 899

耐久:S 966

器用:S 990

敏捷:SSS 1238

魔力:SSS 1275

幸運:I

 

■スキル

雷冠血統(ユピテル・クレス)

・早熟する。

・効果は持続する。

・追慕の丈に応じ効果は向上する。

 

灰鐘福音(シルバリオ・ゴスペル)

戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

戦闘時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

戦闘時、修得発展アビリティの全強化。

 

月華星影(ミセス・ムーンライト)

破邪の加護(アルテミス・ディパル)

・夜間発動。

一定周期変動(ナイト・コール)

 

明星簒奪(スイングバイ)

任意発動(アクティブトリガー)

・一定範囲内に存在する全眷族からの能力(ステイタス)加算。

・簒奪した運動エネルギーによる加減速に超域補正。

・対象の運動エネルギーによる回避行動に高補正。

・対象の運動エネルギーによる高速攻撃に高補正。

・加算値及び補正値は階位(レベル)反映。

 

■魔法

【アーネンエルベ】

・雷属性

自律(オート)による魔法行使者の守護。

他律(コマンド)による支援。

 

 

【ビューティフルジャーニー】

 

・自動治癒。

・光翼展開。

・魔法捕食。

・魔法無効化。

 

【アストラル・ボルト】

・速攻魔法

 

 

 

「それと、発展アビリティなのだけれど……」

 

「?」

 

「全部で4つ出てきているわ。『耐異常』、『治療』、『魔防』、『神器』」

 

「じん……き……?」

 

「レアアビリティなのでしょうけれど、正直なところ分からないわ。ただ、文字通り『神』の『器』となるものであるなら、おすすめはしないわ」

 

「どうしてですか?」

 

「ダンジョンに神が入ってはいけないというルールは知っているでしょう? 仮にこの発展アビリティを獲得してベルがダンジョンに入って、ダンジョンが勘違いしたら大変なことになりかねない。となると冒険者を続けるつもりならベルにとっては害にしかならないわ」

 

「……なる、ほど?」

 

「とはいえレアアビリティだから、どういったものかっていう確証はないわ。あくまでこれは私の勘」

 

「……勘だけど、アストレア様は『神器』以外から決めて欲しいんですよね?」

 

「そういうことね」

 

身体を起こしてシャツを着たベルがベッドに腰かけているアストレアの膝の上にうつ伏せになって倒れ込む。そんな最年少の眷族の頭を愛おしそうに撫でれば、心地よさそうに目を細めるのは必然だ。

 

「『耐異常』はとっておいたほうがいいんでしたよね?」

 

「そうだけれど、【月華星影(ミセス・ムーンライト)】が耐異常に似た効果を発揮してはいるから、後回しでも構わないわ。このアビリティに関しては今後も発現するでしょうし」

 

「うーん……『治療』を取って魔法の回復効果を上げるか、『魔防』を取って魔法に対する防御力を上げるか……」

 

「アリーゼ達にも相談してみなさい、あの子達の方が実際、冒険者をやっているのだから助言は得やすいでしょうし」

 

「そうですね、夕飯の時にでも聞いてみます」

 

 

×   ×   ×

【ディアンケヒト・ファミリア】治療院

 

 

「――ということなんですけど、ティオナさん達はどれがいいと思いますか?」

 

「あー……私達でいいのかなあ……」

 

「というか、戦闘スタイルが私達と似ているようでいて魔導士寄りなのよねえ……」

 

「魔法を捕食したり治癒しながら迫ってくる魔導士とかいませんよティオネさん」

 

 

朝食の後、ベルはアストレアと一緒に本拠内の清掃を終えるとアミッドを尋ねに来ていた。困った時のアミッドさんである。しかしながら治療院の扉を開けてみれば、そこにいたのはダンジョンに行くために回復系道具(アイテム)を求めにやって来たらしい、アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤといったおなじみのメンバーだった。なお、アイズと目があったベルは『アイズ・ヴァレンシュタインの乳房(おっぱい)を阿保みたいな額で購入した』件を思い出して頬を赤くし、ぷいっと顔を逸らした。そんなベルの行動に『借金を返すために借金した』男の子に顔を逸らされてガーンっとショックを受けていた。仲良くなりたい、なのに、未だにうまくいかないのだ。難しい問題であった。

 

「ええっと……確か、スキルで一時的に発展アビリティが発現するのもあるんでしたよね?」

 

「あ、はい。『魔導』と『精癒』ですね」

 

「被ってるのはないみたいですね……となると、うーん……『魔防』がいいんじゃないですか? 貴方、魔法被弾率高そうですし」

 

「被弾というか」

 

「自分から喰らいに行ってるもんねえ……普通はしないよ」

 

「気になってたんですけど、魔法を食べるって……味とかあるんですか?」

 

「味……じゃないですけど、喉越し?はありますね?」

 

「「「「急におじさんみたいなこと言い出した」」」」

 

「……リヴィラの人達がベルのこと『怖いもの知らず(ドレッドノート)』って言ってた」

 

戦争遊戯でのベルの戦いを見ていた冒険者達は普通にベルの正気を疑った。魔法をパクりと食べたり、それを吐き出してカウンターにしたり、何なら第一級冒険者を吹っ飛ばしたあの『古代の奇跡の再現(ヘヴンズ・カタストロフ)』は記憶に強く焼き付いており、「あの兎やべえよ」というものである。格上相手にお構いなしに突っ込んでいくところから、『ドレッドノート』なんて渾名までつく始末だ。なお、第一級冒険者(フリュネ・ジャミール)を吹っ飛ばした第三級冒険者(ベル・クラネル)をワンパンした【戦場の聖女(デア・セイント)】という字面が彼らの耳に入った時、彼らはまるで背景に宇宙が広がる猫みたいな顔をしていたという。

 

「僕、ひょっとして怖がられてますか?」

 

「さあ、どうかしら」

 

「私達からしたら、普通だよねえ……ああいう反応って」

 

「ところで、どうしてベルは治療院に? 例の小さい頃から受けてるっていう定期健診ですか?」

 

「え? アミッドさんに会いに来ただけですけど」

 

「「「…………そっかあ」」」

 

そういえば治療院に入ってからアミッドの姿を見ていない。カウンターの向こう側にもいないことから患者の所を周っているんだろうかと首を傾げ、ベルはカウンタードアを通り抜けるとそのまま奥の方へと入り込んでいった。まるで自分の家での振る舞いのようなその身のこなしに4人は唖然。開いた口が塞がらないとばかりに口を開けて、互いの顔を見合わせた。

 

 

『アミッドさーん、いーまーすーk――――』

 

『ベルさん、あの、私、今、着替え中なんです。すぐに行きますから、その、扉閉めて頂けませんか?』

 

『あー………うん、今日も綺麗な白ですね』

 

『…………今度、買物に付き合ってもらいますからね』

 

『キャミソール姿も、いいと思います』

 

『そうですか、ありがとうございます』

 

何のやり取りがあったのか4人には聞こえなかったがベルは戻ってきてカウンターに備え付けられている丸椅子に腰を下ろした。

 

「え、アミッドさんいたんですか?」

 

「患者の部屋に行ってるんだとばかり思ってたんだけど」

 

「自分の家みたいに奥に入っていったね……ここ、一応他派閥の場所なのに」

 

「ベルは6歳の頃からアミッドと仲良しだもんね」

 

「へぇ……そういやアイズとアミッドとベル、付き合い長いんだったわね。ベルとしてはどうなのよ、昔から知ってる女子の成長とか見てるわけでしょ?」

 

ティオネの疑問に、ティオナやレフィーヤが「昔のアイズ(さん)かあ」なんて言いながらベルの方を見た。幼馴染故に感じるものもあったりするのだ、そういう話、聞きたいところではある。アイズは自分が話題にされて少し恥ずかしそうに髪を指で弄び、ベルは少し考えてから口を開いた。

 

「2人とも昔から綺麗でしたけど、すごく美人さんになりましたね」

 

「他には?」

 

「おっぱいが育ってます」

 

「「「「ぶふっ」」」」

 

思わず吹き出す4人。

その時、ベルの後頭部をぺしっとアミッドが叩いた。治療院の制服を身に付けた仕事モードのアミッドである。

 

「余計なことを言わないでくださいベルさん」

 

「酔っぱらったアミッドさんも可愛いなあって思います!」

 

「よ、余計なことを……思い出させないでください!」

 

(アミッドさんが顔を赤くしてる!?)

 

(アミッドが赤くなってるー)

 

(何かあったわねこの2人)

 

(アミッド……風邪……?)

 

「こ、こほん、ええっとアイズさんティオナさんティオネさんレフィーヤさん、ようこそ我が治療院へ。何かご入用ですか?」

 

「あ、え、ええ、ちょっと回復系道具(アイテム)が心もとなかったから補充に来たのよ」

 

「なるほど。ベルさんもですか? 今日は定期健診の日ではありませんが……いえ、来たのなら診て上げますけれど」

 

「? 会いに来ただけですけど」

 

「………なる、ほど」

 

((((あ、嬉しそう))))

 

表情はたいして変わってはいない。だけど確かに満更でもなさそうなアミッドの僅かな反応を少女達は感じ取った。アミッドは棚から道具(アイテム)類を取り出しカウンターの上に乗せ、椅子に座ろうとする。

 

「………」

 

しかし、椅子は既にベルが座っていて他にはない。じぃーっと見つめてくるアミッドの視線を感じ取ったかベルは半分だけ位置をずらし、そこにアミッドが座り込んだ。1つの椅子をシェアしたのだ。

 

(((何でこれで付き合ってないんだろう………)))

 

(2人とも仲良し……羨ましい……)

 

「アミッドさん、『耐異常』『治療』『魔防』、どれを取るべきだと思いますか?」

 

「『治療』一択では。ただでさえ『怪物祭』以降、怪我が絶えないんですから」

 

「そっか……アミッドさんがそう言うならそうします! ありがとう、アミッドさん大好きー!」

 

「えぅっ!?」

 

にっ、と笑みを浮かべてベルは椅子から飛び降りそのまま治療院を出ていった。残された少女達はぽかーんとした後、ニヤァとした笑みでアミッドを囲った。

 

「『治療』を取らせて、あの子に治療師(ヒーラー)としての立ち回りを教えるのね?」

 

「いいえ、教えつもりなどありませんよティオネさん」

 

「え、どゆこと?」

 

「回復効果を上げてベルさんの死傷率を下げる、これが1番の理由です」

 

治療師(ヒーラー)としての立ち回りを教えてあげれば、あの子、かなり有用ですよね? 空、飛べるわけですし」

 

「レフィーヤさん……………教えれば、自分で治せるからなんて理由で私の所に来てくれなくなったりしたら嫌ではないですか」

 

次第に小さくなるアミッドの声音。

しかしティオナもティオネもアイズも第一級冒険者。聞き逃すはずもない。なんとも可愛らしい言い訳、そして誤魔化そうとでもしているのか髪を弄る仕草。少女達はさらにアミッドに迫った。というか捕まえた。

 

「で、どこまでヤったのか聞かせなさいよアミッド」

 

「ど、どこまでとは!?」

 

「お、お2人の関係っていったい何なんですか!? 友達の枠超えちゃってますよね!?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいレフィーヤさん! 腐れ縁、腐れ縁ですから! な、何もやましいことなどありませんから!?」

 

「えー……一緒の椅子に座ったりしてたのに、何もないんだー?」

 

「ほ、本当に、本当にありませんから……!」

 

「この間、リヴェリアと3人でご飯食べに行ったっていう日……ベルが酔ったアミッドを連れて行ったって言ってたけど…大丈夫だった?」

 

「ぶふぅっ!?」

 

「「「その話、詳しく」」」

 

やんややんやと色恋の話に食いついてアミッドを離さない【ロキ・ファミリア】の少女達。3人はアミッドを半ば強引に治療院から引っ張り出し、昼食ついでに聞き出すことにした。そう、ベルとのあれこれについてを。アイズも少しワクワクするような感覚を胸に4人の後を追った。

 

 

×   ×   ×

 

 

「ええと……『治療』にする、ということでいいのね?」

 

「はいっ、アリーゼさん達もいいんじゃないって言ってました!」

 

「そう……じゃあ、ランクアップしましょう」

 

シャツを脱いでうつ伏せになって、と言われ言う通りにする。『冒険者』を初めてまだ短いが、それでも引き締まってきた体付きにアストレアは思わずゴクリと喉を鳴らした。もうこのまま後ろから覆い被さってしまおうかなんて邪な気持ちに抗い、針を取り出し人差し指をブスリ。血を滴らせれば、華奢な少年の背中を走らせた。ステイタスの更新作業が始まった。

 

 

ベル・クラネル

 

【アストレア・ファミリア】

 

Lv.3

 

力 : I 0

耐久: I 0

器用: I 0

敏捷: I 0

魔力: I 0

幸運: H

治療: I

 

 

■スキル

雷冠血統(ユピテル・クレス)

・早熟する。

・効果は持続する。

・追慕の丈に応じ効果は向上する。

 

灰鐘福音(シルバリオ・ゴスペル)

戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。

戦闘時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

戦闘時、修得発展アビリティの全強化。

 

月華星影(ミセス・ムーンライト)

破邪の加護(アルテミス・ディパル)

・夜間発動。

一定周期変動(ナイト・コール)

 

明星簒奪(スイングバイ)

任意発動(アクティブトリガー)

・一定範囲内に存在する全眷族からの能力(ステイタス)加算。

・簒奪した運動エネルギーによる加減速に超域補正。

・対象の運動エネルギーによる回避行動に高補正。

・対象の運動エネルギーによる高速攻撃に高補正。

・加算値は階位(レベル)反映。

 

■魔法

【アーネンエルベ】

・雷属性

自律(オート)による魔法行使者の守護。

他律(コマンド)による支援。

 

 

【ビューティフルジャーニー】

・自動治癒。

・光翼展開。

・魔法捕食。

・魔法無効化。

 

【アストラル・ボルト】

・速攻魔法

 

 

 

昇華した器、そのステイタスを羊皮紙に写し起き上がったベルと肩を並べて目を通す。新しいスキルはなし。魔法は既にスロットが3つ埋まっているため発現することもない。発展アビリティはベルの要望通りに『治療』を取った。アストレアは新しいスキルがなかった点でベルが不満を抱えていないかと横目に彼を見たが、それよりもランクアップしたことが嬉しいのか口元は笑みを作っていたのでまあ良しと頭を撫でてやった。

 

「明日からまたダンジョンに行くの?」

 

「はい、そのつもりです」

 

「そう……あまり無茶をしてはダメよ?」

 

ぐいっと顔を近づけて釘を刺しておくのも忘れない。ザルドに何故アルフィアに付き添うのか聞いた時もそうだったが「無茶ばかりする」のだ。それは血縁が故か、ベルも同じだ。もう少し近付けば唇がくっつきそうなほどの距離に、ベルは顔を赤くしアストレアもまた次第に頬を染めて顔を離した。女神の中の女神なのだ、押し倒してペロリと食べるなんてはしたない真似はしない。抱き枕として今夜も抱きしめて眠る所存だが、はしたない真似はしないのだ。タタタ、と足音を立てて神室を出ていったベルはアリーゼ達にステイタスの写しを渡し、ランクアップの報告を済ませる。

 

「ベル、シャツ着なさいよ風邪ひくわよ?」

 

「襲われちゃうわよ?」

 

「喰っちまうぞ」

 

「あらあら、2人で旅行に行った時も思いましたが……冒険者らしい身体付きになりましたなあ」

 

「ベ、ベルしゃまの裸体……きゅぅ」

 

「「「春姫の霊圧が……消えた!?」」」

 

「この子、本当に娼婦してたの? これで?」

 

「意識のない春姫を……ぐへへしてたとか?」

 

「どうなのベル、ぐへへしたの?」

 

「してません!」

 

気絶した春姫をアスタとイスカが介抱し、アリーゼ達がベルの上半身をペタペタ触りまくる。ベルはくすぐったそうに悶絶、抵抗しようにも第一級冒険者のアリーゼ、リャーナ、輝夜がさせてくれない。唯一の救いであるリューに助けを求めようにも耳を赤く染めてチラチラ見ているだけである。このエルフ、使えない。

 

「明日からダンジョン行くの?」

 

「そ、そのつもりでひゅっ!?」

 

「ではでは、お弁当の一つも用意せねばなりませんなあ」

 

「あ、あの、輝夜さん、ズボンの中に手を入れないで!?」

 

「安易に半裸で出てきたのが運の尽き。諦めてくださいませ……ほぅら、ここがええのんか? ん?」

 

「ひぅっ!?」

 

「相変わらず可愛い反応……じゅるり、接吻してさしあげましょうか」

 

「だ、だめ!? 輝夜さんとキスすると身体が変な感じになるから、ダメです!」

 

「何を嫌がるのやら……私と旅行に行った時に、強引に純潔を奪っておいて」

 

「あ、あれは輝夜さんが悪い! それに輝夜さん悦んでた!」

 

「ベル、これからお風呂行くけど背中流してあげようか?」

 

「リャーナさんありがとうでも僕もう1人で入れるから! 子供じゃないから!」

 

「「「そうだね、子供じゃないよね」」」

 

「お姉ちゃん達、飢えた野獣みたいな目をして言わないで!?」

 

「あ、貴方達、い、いい加減にベルから離れなさい! 汚れる!」

 

「ムッツリがなんか言っているわ」

 

「淫乱クソエロフさんが何か言っておられますなあ。ちょっと声が聞き取れなかったのでもう少し声を上げて頂けますか? ほら、膜から声をお出しくださいませ?」

 

「なっ!?」

 

「安心してリオン、ベルの脱ぎたてはちゃんとリオンの部屋にプレゼントしてあげるから! バチコン!」

 

「バチコンではなぁい!」

 

もみくちゃにされる白兎、弄られる生娘妖精。

ベルは反省した、次からはちゃんと着替えてから姉の前に現れよう、と。

 

 

×   ×   ×

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)、宝物庫

 

 

女神が姿を消してから半月。

娼館は通常通り営業を再開させ、淫都という言葉相応しく女が男を誘い男が女を買っては部屋に入り込み情事を交わしていた。そんな夜の街を無視して他派閥の本拠内を忙しなく動き回る冒険者達がいた。

 

「ガサ入れです、『殺生石』の他に怪しい物はないか徹底的に調べなさい」

 

一房だけ白く染まった水色(アクアブルー)の髪に銀の(フレーム)の眼鏡をかけたアスフィが団員達に指示を飛ばす。そう、そこにいたのは【ヘルメス・ファミリア】の団員達である。主神不在の派閥の一室に忍び込み、『闇派閥』との繋がり匂うイシュタルの所在を掴もうとしているのだ。

 

「戦争遊戯中、イシュタルが港町(メレン)に行くまで動揺の仕方が俺達と違っていた。ま、元々不穏分子として怪しんでいたから調べるにはいい機会だ。あの時、海上から現れた『精霊の分身(デミ・スピリット)』……そうだな、個体名を『天の雄牛(グガランナ)』とでもしようか。それに関する資料でも見つけられたのならめっけもの。もうじき外で活動している眷族()との会合もある。それまでに何か情報を掴もう」

 

「とはいえヘルメス様、いくら主神が不在だからってその眷族がいないわけじゃないんだ。その辺り、どうするんです? 見つかったら奴さん、激怒しますよ」

 

「だからこその『漆黒兜(ハデス・ヘッド)』、透明化(インビジブル)だ。ま、ファルガー、その点は問題ないさ。何せ―――」

 

金品を物色するヘルメスは一度言葉を紡ぐのをやめ、扉の前で見張りをしている犬人(シアンスロープ)のルルネに外に動きはあるか確認する。首を横に振って誰も来ていないというのがわかると彼は肩を竦めて眷族達に目を向け改めて言葉を紡いだ。

 

「主神不在というのは、【イシュタル・ファミリア】にとっては外の人間にバレたくない問題なんだろう」

 

「ま、女神達の間では恨みやらを買ってそうですし、実際問題、レベルを詐称している疑惑で管理機関(ギルド)に訴えられ、探られ…といったことも過去にありましたからね。当時はイシュタル派は『白』となり、ギルドも、ギルドに訴えた派閥も罰金(ペナルティ)を課され、その結果弱体化することもありましたからね。先日の戦争遊戯で、そのレベル詐称の正体がサンジョウノ・春姫の持つ『階位昇華(レベルブースト)』であると判明したため、弱体化したとはいえ罰金(ペナルティ)を課された派閥はやり返してやろうなんて考えるはずです」

 

「そこに主神が行方不明であるなんて致命的な弱みを知られてしまえば歓楽街を乗っ取られる可能性もあるし、【イシュタル・ファミリア】の団員は少なからず改宗(コンバージョン)している子もいる」

 

「戦争遊戯はお流れになりましたがこれは明らかにイシュタル派の弱体化。他派閥にとっては格好の得物。攻め込み、女神イシュタルに敗北を突き付ければ、そこで【イシュタル・ファミリア】の財産も全て手に入れられる。今の【イシュタル・ファミリア】はまさにこの状況に陥りかねないんですよ」

 

「……女神イシュタルが行方不明ってのは都市中に知られていないのか?」

 

「アストレア、ウラノス、ガネーシャ、俺、ロキ、ディオニュソス……まあ、闇派閥の件で共闘している派閥は知っている。後はフレイヤ様かな、知っているとしたら。彼女なら教えなくても気づきそうだ」

 

「後はそうですね……あえて小さな噂として流してはいるみたいです」

 

「というと?」

 

「あえて女神イシュタルがいなくなったと噂を流すことで、【イシュタル・ファミリア】が変に動けないように緊張状態を維持。彼ら彼女らは噂が本当であるとバレないように通常通りに娼館を営業せざるを得ない」

 

「えぐいやり口だが、これでイシュタルの眷族に怪しい動きがあれば『黒』と判断できるし、動かなければ『白』、或いは眷族達だけは何も知らないと考えることができる。親を守ろうとする子を利用するみたいで心が痛いよ」

 

「どの口が言いますか」

 

戦争遊戯が終わったその後、イシュタルは忽然と姿を消した。その結果、「え、戦争遊戯は結局どうすんの? やり直すの?」という話し合いができない状態でいた。この段階で闇派閥と対峙していた派閥の神々は『精霊の分身(デミ・スピリット)』が姿を消した理由なのではと考えていた。しかし、眷族達だけは本拠に残っている始末。これはおかしいと考えるのが普通だった。知られてはいけない、ならば通常通り派閥を運営させるしかないというのがヘルメスには手を取るように読めた。こうして潜入している今、イシュタルの眷族が誰一人として怪しい侵入者に気付かないのも、人手が足りていないことの表れである。とそこで扉の所で見張りをしていたルルネが口を開いた。

 

「なあヘルメス様~、あの狐人(ルナール)と【探索者(ボイジャー)】のやり取りを勝手に書籍化して売ってるのは何か理由があんのか~? 流石に怒られるだろ、えっと、なんだっけ、『しょうぞうけん』ってやつで。【アストレア・ファミリア】のやつら、兎のこと溺愛してるから怒らせるとやべえじゃん」

 

「ああ、あれか……狙いがないと言えば嘘になる」

 

戦争遊戯の最後。

春姫とベルのやり取りは、女神を始め女性陣にウケにウケた。娼婦達は「あ~こんな恋したいわ~~~!」なんて言うくらいにはウケた。それを本人達の名はぼかし、脚色したとはいえ書籍化、流通させていたのだ。ルルネが危惧するのは、その点である。そう、本人達に許可など取っていないし、売り上げの一部もなにも与えていないのだ。バレたら何されるかわかったものではない。あの兎、やるときはやるのだ。【アーネンエルベ】で出てきた『最強最凶の保護者(ゼウスとヘラ)』の皆さんによる集団リンチだって考えられるし、それこそ兎が戦争遊戯で第一級冒険者(フリュネ・ジャミール)を打倒してみせた【終滅の天刑(ヘヴンズ・カタストロフ)】されかねない。なんだよ古代の奇跡の再現って。何であの兎、神々でも知ってるやつが少ない逸話を知ってるんだよ、大神(ゼウス)は何教えてるんだよ。

 

「あー……大丈夫大丈夫、あれ、オリジナルだし」

 

「いやいやいやいやいや!?」

 

「ベル君お金に興味ないみたいだからね、大丈夫大丈夫」

 

「いやいやいやいやいやいや!?」

 

「俺としてはアフロディーテが釣れてくれればそれでいい。少しでも、()()()の企みに支障を与えたい」

 

「は? アフロディーテ様? ほんっとうに何考えてるかわかんねーぞ!?」

 

「美神がフレイヤ様しかないんなら、イシュタルの枠にアフロディーテを挟み込む。バランスを取るなんてことは言わないが、あいつにとって美神は邪魔だろうし……今のところ俺、いいとこなしだからさ……一杯食わせてやりたいんだ」

 

「どんだけ悔しいんだよ……」

 

何かと裏で動いているとある神にいいようにされている気しかしないヘルメスは敗北感でいっぱいである。一矢報いたい気持ちいっぱいである。アルテミスが復活したような気がしないでもないがその噂も交ぜてアフロディーテを呼び寄せて、敵に鳩に豆鉄砲喰らわせたような顔をさせてやりたいのだ。金品を漁りながらヘルメスは言うと、目の前に見覚えのある剣が転がって来た。山のように積まれていた宝石の中に埋まっていたようだ。

 

「これは……おいおい、ベル君のじゃないか」

 

「それは【探索者(ボイジャー)】が持っていた剣でしたか……」

 

「戦争遊戯の時に使っていなかったから、どうしたのかと思ったがイシュタルに奪われていたのか? ま、回収しておこう。さてお前達、そろそろ撤収だ。盗人の神でもある俺としては宝物庫にある物全て持って帰りたいところだが流石に俺達が侵入していたことがバレるのは避けたい。悔しいが……各員、これだって思うだけに絞るんだ」

 

「「「最悪だよアンタ」」」

 

「臨時ボーナスだよ馬鹿野郎、1個や2個くらいバレるもんか! いらないのか! 俺は、ほしい!」

 

「「「大好きだよヘルメス様」」」

 

 

×   ×   ×

暗い所。

 

 

 

1人の男神が筆を走らせていた。

揺れるのは蝋燭の小さな火であり、壁に写った男神の影だ。

 

「次は何するのか聞いてもいい?」

 

「タナトスか……そうだな、次は……」

 

部屋に入って来たタナトスの声に一度手を止めると、男神エレボスはカップに入っていた珈琲を呷った。筆をおき、天井の向こう、とある少年のことでも思い出しているのか瞳を細めて口を開く。

 

「『怪物祭』で俺は少年にミノタウロスをぶつけることで、()()()()()()()()()()()()。結果として少年は『冒険者』になったわけだが、まだ足りなかった。『グランドデイ』については完全に俺は関与していない。むしろあれのおかげで戦争遊戯を起こさなくてはいけなくなってしまったくらいだ」

 

「へえ」

 

不穏分子(イシュタル)は少年を焚きつける都合の良い存在だった。何せ送還されようが俺達にはどっちでもいいわけだからな。サクヤヒメの元眷族である極東美人(ヒューマン)の心象を揺らがせ、イシュタルの魅了で落とし偽神にする。これで戦争遊戯を起こすに足る『大儀』はできた。更に少年を俺自らが導くことでイシュタルを翻弄させ戦争遊戯で『階位昇華(レベルブースト)』を使わせた。狐人(ルナール)の娘を救う術をイシュタル自身に答えさせた以上、娘を出させないという理由はないからな。結果、少年は()()()()()()()()()()()()()()()()()わけだ。これでおおむね軌道修正はできた」

 

「軌道修正……ね。あの少年がやった古代の奇跡の再現、あれって都市の破壊者(エニュオ)が持ち込んだ壁画と関係ある?」

 

「ある。【勇者】辺りは既に気付いている頃合いじゃないか?」

 

「じゃあ攻め込まれるのも時間の問題ってこと?」

 

「そうだな……だが、【勇者】には退場してもらう」

 

「………ん?」

 

再びエレボスは筆を走らせる。

タナトスからはよく見えなかったが誰かに向けた手紙のようだった。エレボスがサラッと口にした言葉にタナトスが目を点にするとエレボスは口元に笑みを咲かせながら言葉を紡ぐ。

 

「『ドッペルゲンガー』『ダイダロス通り』『崩壊』『蜘蛛』『小人』『女戦士』『殺戮』『風』『怪物』『邪竜』『神』『道化』『被害者』『7年前』……まあ適当に上げればこの辺りか?」

 

「それがエレボスが握ってる手札?」

 

「さて、どうだろうな。だがまあ………そう遠くない内に起こる」

 

エレボスは筆を止め、羊皮紙を畳み封筒に入れると封蝋をする。そのまま部屋を出るとコツコツと靴音を立てて、どこかへ消えていった。

 

「あとは攻めて、『因果』があればな……」

 

 

×   ×   ×

都市の外、どこかの草原。

 

 

馬車がいくつも並んでいる。

野営していたのか、天幕がちらほら。

男女が忙しなく後始末をしていて、暇そうなのは女神くらいだ。金髪に真珠といった装飾を身に付けた美神、アフロディーテだ。

 

 

『嗚呼、英雄(ビルガメス)……一目惚れだった。ずっと貴方の前で素直になりたかった。汚れている私を、受け止めて欲しかった』

 

『汚れてなんかいない。たとえ汚れていたとしても、それは恥ずかしいことなんかじゃない。私はもう貴方を誤解しない……私達はもう、解き放たれているのだから』

 

『私は貴方の本当を知った。ならば貴方がどんなに絶望しても、私があなたを笑顔にしよう。だから貴方も、私を笑顔にしてほしい。悲しむ暇も、落ち込む暇もないくらい。私は貴方とずっと笑い合っていたい』

 

『嗚呼、溶けてしまいそう―――』

 

彼女は『歌劇の国(メイルストラ)』から旅をしている折、商人が持っていたとある書籍に目を止め、今、こうして読みふけっていた。娼婦と英雄の話だが、それは女神の知る内容とは少しばかり違っていた。挿絵には英雄に抱きしめられる娼婦があったり、手を差し伸べられたりといったものがあったが、それもまた女神の知るものとは少し違う。

 

「二次創作を売りもんにする……それも堂々と。こういうのは即売会でやるのがマナーじゃないかしら」

 

まあ、内容としては嫌いじゃないわ。むしろアリ。そういう女神は読み終えると本を閉じ、青い空を仰いだ。雲が流れ、草原を揺らし、風が肌を撫でた。

 

「これを堂々と売って、偶然を狙って私の手に止まらせる……何を考えているのか知らないけれど、いいでしょう。乗ってあげるわヘルメス」

 

彼女の名はアフロディーテ。

美の女神である。

 

「私も一度、アルテミスを殺したオリオンに会ってみたかったもの」

 

 

×   ×   ×

廃教会

 

日が昇り、昼近く。

ベルは管理機関(ギルド)にランクアップしたことを報告―エイナには首を傾げられたが―した後、廃教会に訪れていた。

 

「ベル様、こちらは?」

 

「ここはお義母さんが大好きだった場所で……特別なところなんです。たまに掃除しに来てます」

 

「お義母様の……」

 

「それと、戦争遊戯の前に少しお世話になった神様がいるんじゃないかなって思って……」

 

戦争遊戯の申し込みをイシュタルに叩きつけた日から、ベルがあの男神、カロンという名の神に会っていない。素晴らしい戦績を共に残そうなんて言っていたが結局のところ何者だったのか分からず仕舞いだ。ギルドで狼人のローズといったエイナよりも長くオラリオにいる人物に聞いてみたがわかったことは1つだけ。

 

「【カロン・ファミリア】なんて派閥、少なくともオラリオには存在しないわ」

 

ということである。

下界を探せばその神はいるのかもしれないが、派閥はオラリオには存在しないらしい。ということはベルが一緒にいた神は何者なのかという話になってしまっていた。

 

「アストレア様にも話したんですけど、難しい顔をして僕の身体ペタペタ触って……いや、嫌じゃないんですけど……「変な事されていない?」って心配させちゃって……僕、怪物祭から怪我ばっかして心配かけてるから……」

 

箒で床の土や埃を掃き、拾えるゴミは袋に投げ込んでいく。

メイド服の春姫も雑巾を絞っては椅子を磨いては綺麗にしていく。そんな作業中の他愛ない会話だった。ベルは自分が頭が良いわけではないことを理解していて、探偵の真似事なんてできないけどと前置きを置いた後、続ける。

 

「少しでもその神様のことがわかるものでもあれば、アリーゼさん達なら……って思うんですよね」

 

「ベル様ではできなくても、多く経験を積んでいるアリーゼ様達であれば何か掴めると?」

 

「はい……」

 

掃除が1時間、2時間も過ぎれば汚れていた廃教会も経年劣化しているとはいえ綺麗にもなる。一度自分達の身体についた土や埃を掃い、手を洗うと2人は外に出て昼食をとることにした。

 

「マリュー様に教わりながらなので、お口にあえばいいのですが……」

 

春姫がバスケットを拡げベルの方に向ける。中にはサンドイッチが入っていて3つほど不格好な形のモノがあった。それが春姫のつくった分なのだろう。ベルはそれを摘まみ出すとパクリと齧った。

 

「……おいひいれす」

 

「!」

 

気を遣っていたのだとしてもその言葉は料理なんて碌にしたことのない春姫にとっては顔をニヤケさせるには十分なものである。尻尾はブンブンと左右に揺れ春姫の喜びを表し、頬は紅潮、熱いと自覚するくらいには赤くなっていた。

 

(これが新婚の喜び……)

 

違うが、春姫は勝手なことを想像する。

おはようから始まり、食事を用意し、入浴を共にし、自らの体温で温めたベッドを共にする。良妻賢母という言葉相応しく主人に奉仕するこの喜びはなんとも形容しがたい物である。しかし現実はそうではない。ベルは女神と部屋を共にしているし、食事は未だ見習いな手前、不格好。教え方が上手いのか、リューのように卵を黒い塊に変えることこそないがまだまだである。入浴も自分の身体を使ってベルの背中を流そうなんて思っていたのに気がつけば自室で布団の中。朝になっている始末だ。夜伽の相手だって未だできていないのだ。未だベルの味を知らないでいる。

 

「春姫さん顔が赤いですけど……大丈夫ですか?」

 

俯いて赤くなっている顔を隠しているのに気付いたのか、ベルが覗き込んで心配の声を上げる。春姫からしてベルは救ってくれた英雄であるが、こうしている時は可愛らしい年下の少年であった。顔を覗き込んできたベルはそのまま額に額をくっつけようというのか顔を近づけてきて、春姫は目をぐるぐる。

 

「い、いけませんベル様、こ、ここ、このような場所で……!? 青姦だなんて、春姫、背徳感もあいまっておかしくなってしまいます!?」

 

「????」

 

きっとこのまま押し倒され、メイド服を脱がされ、太陽に照らされながら水音を立てて責め立てられるのだ。ベルの義母、いや春姫にとってもお義母様になりかねない方の大切にしていた場所での情事……を想像してドギマギ。年下の少年にこのまま好きなようにされるのも良いが、彼との初夜はせめて布団でしたいと思う春姫であった。伸びてきた手が額に触れ、熱があるのか確認され、何ともないことがわかるとベルが離れていった。それが少しばかり残念。

 

「は、春姫、中を見てまいりますっ」

 

はしたない想像をした自分の変な顔を見られるなんて耐えられず、春姫は両の頬に手を当ててパタパタと廃教会の中へ。ベルは1人残され、「ひょっとして僕が気絶した春姫さんのお世話しているの知って精神的に不安定なのかな…」なんて、本人が知ったら「どうして手をお出しに……いえ、体液をお出しにならなかったのですか!?」みたいなことを言うだろうだろうがとにかく的外れなことを考えて残っていたサンドイッチを頬張った。飲み水を飲んでいると春姫がベルを呼ぶ声が耳朶を震わせてきた。中に入れば、春姫の手には1つの封筒が。

 

講壇(アンボ)の天井部分に張り付けられておりました」

 

春姫から受け取ったベルはナイフで封筒を切り、中の手紙を広げ、そして読んだ。

 

 

×   ×   ×

ベル・クラネルへ。

 

 

 お前がここに来て、この手紙を読んでいるということは、俺の存在に疑問を覚えているということなんだろう。まさか、何も思っていないなんてことはないだろうな? だとしたら少しがっかりだし、この手紙は無駄だが……まあ、いい。お前は、人を見る目はあるようだからな。

 

今、お前は疑問に思っているだろう。

川の渡し守(カロン)』という名の神がオラリオに存在しないことに。存在しないはずの神が、戦争遊戯をイシュタルに叩きつけるまで導いてくれたことに。もっと言えば、俺と言う神が結局のところ何を目的としていたのか。

 

 

答えよう。

俺は、お前達の敵だ。

 

お前は俺の期待を、予想を上回った成果を上げてくれた。

お前に恨みはないが、まだまだ期待は残っている。

 

悪いが、仕上げに入らせてもらう。

これから起こることにお前は対処できない。

()()()()()()()()()()()()()()お前には無理だし、()()()()()()()()()()()()()願望から目を背け続けているお前には全てを失ってもらう。

 

お前がどれほどの脅威なのかだいたいわかった。

次は、俺の手で動かせる駒を、手札を用いて、正面から堂々と、宣戦布告させてもらおう。楽しみにしているといい。

 

少年に恨みはない。

一緒にダンジョンを歩き18階層に行ったことは楽しめたし、お前の人となりを知れたいい機会だった。ミノタウロス、ゴライアスを倒したお前の勇姿を決して忘れはしない。神の眷族を見てあれほど心を躍らされたのは初めてだ。それは間違いない。だが、それだけだ。

 

英雄の子が只の一般人に成り下がることを俺は許容しない。

では少年、そう遠くない内に再会しよう。

 

 

 

原初の神が一柱、エレボスより。

×   ×   ×

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