アーネンエルベの兎   作:二ベル

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SEEDFREEDOMとてもよかった。
もう一回見に行きたいですね。
劇場を出るときに、友人と話していた知らない人の口から出た言葉が忘れられませんね。



「3回見ても、まだ足りない」

まるで「ヘヴィメタはガンに効く」に並ぶくらいの威力あると思います。


英雄賛歌②

 

 

「――嘘じゃない、モンスターが喋ったんだ!!」

 

「どうして信じてくれないの!?」

 

18階層と19階層の連絡路を上って、巨大な中央樹の樹洞(あな)から顔を出すと、出入口前の草原には(リヴィラ)の住人達と冒険者達が集まっていた。集団の前では、男女2名のエルフが叫んでいる。

 

「あー、おい、こいつ等に宿を紹介してやれ。夢見の良い枕がある場所だ」

 

「ボールス、本当なんだ! 本当にモンスターが……!?」

 

(リヴィラ)に足を踏み入れる頃にはその騒ぎは当然ベル達の耳にも入ってきた。どうにも、モンスターが喋ったとかどうとかいう内容だ。とはいえ、騒ぎが起きているとなれば【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の眷族として

 

「何だ? 何か騒ぎか?」

 

「お、【正しき牙(ミネル・ラウバ)】……いやな、鳥退治を終わらせて帰って来たらよお……」

 

「僕が、倒したんです」

 

「わ、わーったって……すごむんじゃねえよ。それでだ、こいつら俺等とは別で探索していたらしいんだが、その帰りに遭遇したモンスターが喋ったとか言いやがるんだ」

 

面倒くさそうな表情を隠すこともなく、説明したボールスはガリガリと頭を掻きむしった。集団の前にいる2名のエルフ。個人差はあれど、その種族柄、堅苦しさや嘘を嫌悪するような者が多いが、内容が内容。『モンスターが喋った』ということ信じられない出来事といい、取り乱し動揺した様子といい、2人は疲れているんだと思わざるを得なかったのだ。

 

「モンスターって言っても、どんなモンスターだったんだ?」

 

腰に手を当ててネーゼが問うとエルフの女性冒険者は瞳を揺らし、記憶を掘り起こし、震える指で額を指す。

 

「こ、ここ……額に赤い石があった……他にも、鱗があったから……ヴぃ、竜女(ヴィーヴル)だと……お、思う」

 

「『ヴィーヴル』って……19階層から24階層の中層域に出現するって言われてる希少種(レアモンスター)じゃん」

 

「ドロップアイテムの『ヴィーヴルの涙』を回収してりゃあ、巨万の富(ガッポガッポ)だってのに……」

 

「そ、それどころじゃなかったんだよ!」

 

身振り手振りで冷静さなど忘れたエルフの男女。説明を聞いたネーゼはアーディと目を合わせて肩を竦めた。

 

「【探索者(ボイジャー)】、お前はどう思うよ」

 

「え、僕……?」

 

「そらお前、宙を舞う変な冒険者(やつ)なんてお前しかいねえんだからな、上からならひょっとすりゃあ、見えてたかもしれねえだろ?」

 

そんなこと言われても…とベルは思った。

炎鳥(ファイアーバード)の討伐中にあった『おかしなこと』と言えば、全身を覆う外套(フーデッドローブ)を身にまとっていた女性くらいだ。怪我を治療し、追いついてきたアーディ達と話している間に、いつの間にか姿を消していた。ムッとしてしまうが、冒険者の中には過去に色々あった者もいると言うし仕方ないこと。戦闘中に見えたものとしたら、その一件くらいだ。

 

「喋るモンスター…………うーん……」

 

「ベル君、知らないなら知らないでいいんだよ?」

 

「いやいや【象神の詩(ヴィヤーサ)】、こいつは【最凶(ヘラ)】と【最強(ゼウス)】の混成(ハイブリット)。ひょっとすりゃあ【静寂】と【暴食】が何か教えてるかも――――」

 

「いましたね」

 

「ほーれ、いたって…………あん?」

 

「ベル?」

 

「ベル君?」

 

思考の渦から浮上したベルへとアーディ、ネーゼ、ボールス、そして(リヴィラ)の冒険者達の視線が向かった。ベルは下唇に拳を当てて記憶を掘り返すようにしながら言った。

 

「ほら、戦争遊戯の時に大きいのが」

 

「「「「……あー」」」」

 

誰もが脳裏にそれを思い出した。

【イシュタル・ファミリア】との戦争遊戯中に姿を現した、『牛』の体型を象る総身でありながら額に当たる位置から伸びる『女』の身体。不気味な微笑を張り付けた、女体の上半身の、アレだ。規格外の魔法をバカスカ撃ってきた、アイツだ。元気に駆け回っていた、最後には雷の刃で首を断たれた、彼女だ。

 

「………いたなあ、でっかいのが」

 

「アレは……うーん、確かに喋ってたけど……」

 

「そういう枠組みで……いいのか……?」

 

「あー………なんだ、とりあえず、誰か、そこの2人に宿でも紹介してやれ、溜まってるあまり……変なもんでも見ちまったんだろ、うん。盛ってこいやお2人さん」

 

「「変な話に持って行こうとするな!!」」

 

まあまあまあ、と2人のエルフ達は背を押されてどこかへと消えていった。そんな2人の背を見送ったボールスは大きな溜息をつくと、ベル達に振り返り再び口を開いた。話の内容としは炎鳥(ファイアーバード)の討伐依頼に協力したことに対するものだ。

 

「でだ、ドロップアイテムは拾ったもん勝ちってことでいいよな!?」

 

「「うーわ」」

 

なんて逞しいことでしょう。

討伐数は圧倒的にベルが勝っている。というか、ほぼベルが倒した。やはり宙を自由に移動できるという優位性(アドバンテージ)は凄まじく、追いつける冒険者がいなかったのだ。では、依頼(クエスト)に参加していた(リヴィラ)の冒険者は何をしていたかといえば、接敵(エンカウント)した炎鳥(ファイアーバード)以外のモンスターを討伐したり、ベルが倒したモンスターのドロップ品や魔石を拾ったり……だ。それを(リヴィラ)に戻ってから当分に分配或いは、ベルに全て渡すなど誰もしない。拾わないベルが悪いのだ。ニコッと白い歯を見せて笑ういい歳こいたオッサン冒険者、ボールスにアーディとネーゼは「いけしゃあしゃあと…」と言いたげな眼差し。ベルはといえば、特に気にした様子もなく「いいですよ」と頷いた。

 

「お、随分、気前がいいじゃねえか!」

 

「いいの、ベル君!? 君の手柄なんだよ!?」

 

「あんまり甘やかすと―――」

 

ネーゼが言う前に、ベルは天井に指をさした。それに導かれるように3人は天井に顔を向ける。そこは、光り輝く水晶で埋め尽くされている。咲き開いた(マム)の花のように、夥しい量の水晶が隅から隅まで生え渡っている。色は二種類に分かれていて、中心には太陽を彷彿させる白、その周囲は空を思わせる蒼色だ。そこにある水晶群に手を出せる者は()()()

 

「まさかお前!?」

 

誰も手を出せない宝の山。

そこに手を出せる者がいるとすれば、独占状態になることはわかりきっている。それをいち早く察したボールスは頬から汗を垂らして驚きの声を上げた。なるほど、これならドロップアイテムの分配など気にしない。ボールスはヘラとゼウスの……正確にはアルフィアとザルドの遺産金があるから金には困ってないだろうくらいのつもりで言った。いや、例えそうでなくても、がめつく、したたかな冒険者は、取ったもん勝ちを主張していただろうが、まさか天井に生える水晶に手を出すなんて誰が思うか。やっぱりこの兎、変な奴だ。

 

「ちょっと行ってくるね」

 

そう言って魔法を解放したベルは、真っ直ぐ上へと、緩やかに上昇していった。間もなく、カツーンカツーンと水晶にツルハシを叩きつける音が響き、冒険者達の頭上をパラパラと水晶の欠片が落ちてきた。この日、天井の水晶を砕く兎をポカーンと見上げる冒険者達という摩訶不思議な絵面が出来上がった。

 

 

×   ×   ×

???

 

そこは薄暗く、しかし迷宮が生み出した鉱物を光源にしたものではなく人工物の輝きに照らされていた。広大な空間は酷く冷たく、どこかおぞましさを感じさせる。金属だ。ただただ金属でできており、その上に土でも張り付けたようにされているが、何かの拍子に剥がれたのか、本来の姿を覗かせている。床は何人もの人間が行き来した結果だろうか、土埃、靴汚れ、さらには黒く変色してしまった液体のこびりついた汚れがあった。ともすればそこは、日の下を大手を振るって歩ける者ではない者達の住処(アジト)というのが正しいのだろう。

 

『―――――、――――』

 

呻き声。

怯えの声。

苦悶を漏らす。

 

その広大な空間には、金属でできた檻があった。

様々な声の主はその檻の奥から響いており、とてもではないが『喜』色の声はない。

 

 

「―――くそっ、完全に見失った!」

 

「せめてあの歌人鳥(セイレーン)を落せりゃあ……まだマシだったんだけどなあ」

 

鬱憤をぶつけるように坊主(スキンヘッド)の男が檻へと蹴りをぶつけた。そのせいで甲高い金属音が空間内に響き渡り、男の怒気を受けて檻の中にいる何かが『ヒッ』と怯えの声を漏らす。彼等はお目当ての獲物を逃がしただけでなく、美しい容貌を持つ金色の歌人鳥(セイレーン)まで取り逃したことで仕事の儲けが一切なかったことに怒りを燃やしていたのだ。

 

炎鳥(ファイアーバード)大量発生(イレギュラー)に出くわしたのが悪かったか」

 

煙水晶(スモーキークォーツ)が用いられた眼装(ゴーグル)を装着した男がそう言葉を漏らした。周囲にいる者達が目を向け、黙り込む。その様子からして眼装(ゴーグル)の男が頭目(リーダー)なのだろう。空っぽの檻にもたれかけ、腕を組み、億劫そうだが、口調や声音は粗暴という印象につきる。

 

竜女(ヴィーヴル)歌人鳥(セイレーン)もどちらも逃した。19階層は炎鳥(ファイアーバード)のせいで火の海。はぁ……もったいねえ。生け捕りにしてエルリアの貴族(へんたい)どもに売り払えば、とんでもねえ大金(かね)が手に入ったろうに」

 

「それにあの化物共、ここ数年で動きが人間臭くなってて……!」

 

「そうよ、まるで統率している奴がいるみたいな!?」

 

「あー……うるせぇ、黙れ、わかってんだよそんなことは。俺達があの化物共を狙っているように、あの化物共に協力している奴がいたっておかしくはねえ」

 

「どうするんだ、ディックス?」

 

毛無し(スキンヘッド)の男が聞く。

ディックスと呼ばれる眼装(ゴーグル)を装着している男は、かったるそうに頭を掻きむしると立てかけてあった赤い槍を持ち、ところ狭しと並ぶ檻の一つに歩み寄った。

 

「化物どもの『巣』は『大樹の迷宮』にある……それは間違いねえはずだ」

 

槍の穂先は捻じれ曲がった歪な形状をしていた。効率的な刺殺を度外視し、あたかも激しい苦痛を与えることを目的としているかのように。そんな赤い槍が、檻の隙間を塗って、檻の中で蠢く影に勢いよく付き込まれる。

 

「どいつもこいつも口を割りやしねえ……ったく、よぉ! てめぇらは自分の住処(うち)すら口にできねえのか!?」

 

『――――――――ッ!?』

 

何かを訴えるかの如く漏れ出ていた弱々しい啼き声が、たちまち耳をつんざくかのような甲高い絶叫へと変わった。鎖が頻りに鳴って紅血が飛び散る音が続く。降りの中の影が身を振って悶え苦しむのを前に、ディックスは表情一つ変えずに槍を引き抜いた。どろり、と紅血は滴り流れて、檻から漏れ、床に落ちた。それはやがて乾き、黒く変色してしまった液体のこびりついた汚れへと変わり果てることだろう。

 

「………ディックス、また19階層に行くか?」

 

「いや、今は行かねえ。【ガネーシャ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】が全員じゃねえが中層にいる。目をつけられても面倒くせえ。行くとすりゃあ、炎鳥(ファイアーバード)が火の海にした大樹の迷宮の修復を待ってからだ」

 

槍の柄で己の肩を叩きながら、ディックスは眼装(ゴーグル)の下で目を細めた。いくら彼等でも都市の憲兵やら正義の味方がいる中で『モンスターの捕獲』なんて真似はしない。何せ彼等が取り扱っているモンスターは、ただのモンスターではないのだから。

 

「いざとなりゃあ……【ソーマ・ファミリア】の小人族(ガキ)を使う。ここんとこ妙に知恵をつけてきているみたいだがな」

 

×   ×   ×

???

 

 

記録。

 

ギルド及び主神からの命により密輸調査を行った。

その中には、()()()()()()()()も確認。

 

密売先。

我々が潜入したエルリア貴族の屋敷。

 

経路を調べた結果。

他地域の王侯貴族のもとにも、運ばれている可能性。

 

吐き気がする。

 

地下に拷問部屋を確認。

モンスターが鎖で繋がっていた。

調教(テイム)を受けていたか定かではない。

しかし、人の所業とは思えない辱め…訂正、仕打ちを受けていた痕跡を発見。

 

気持ち悪い。

 

我々が踏み入った時点で、既に虫の息だった。

死に絶える間際、遺品(ドロップアイテム)を渡された。

 

『コレ、を……同胞、ニ』

 

手渡されたそれには、無数の傷跡があった。

何をされたのかなど、想像を絶する。

知りたくもない。

 

喋った。

助けを求められた。

人ではなく、あろうことか、怪物(モンスター)に。

我々と同じように人語を解し、涙を流していた。

 

呼吸が上手くできない。

心臓の鼓動が激しい。

錯乱しそうになるのを必死に抑えている自分がいる。

 

アレは何だ。

何故、モンスターがあのような瞳をするのか。

訳が分からない。

あれでは、()()()()()()()()()

 

このことを主神に報告するべきか、わからない。

報告するべきなのだろう、きっと。

そうすればきっと、私の動揺も、あの優男な神は預かってくれる……はずだ。

でも、その後はどうなる?

有耶無耶にされるのだろうか?

 

「ダメだ、それは……それでは、何も解決しない」

 

他者に任せて、それで終わりでは、ダメだ。

愛しき者のために命を賭した……一族に伝わる湖の護人(もりびと)に背いてしまうことになる。私はきっと後悔する。身体に流れる血が、此度のことをなかったことにすることを許さない。

 

「―――――申し訳ありません、ヘルメス様」

 

 

………記録、終了。

 

 

星空を眺めていたその瞳には、白亜の巨塔と共に輝く星々が映っている。長く尖った耳を小刻みに揺らし、目を細めて、唇を噛んで、彼女は旅装と金の髪を揺らして、迷宮の中へと姿を消していった。その日、とある派閥の集まりがあった。遠出していた眷族を迎え、その報告を聞くはずだった。しかし、そこには一緒に行動していた獣人の男女2名しか姿を現さず、報告を聞くはずだった1人の眷族(むすめ)だけは姿を現すことはなかった。

 

 

×   ×   ×

翌日、管理機関(ギルド)

 

 

「俺の眷族(むすめ)を知らないか?」

 

「――――急に顔を近づけて言わないでくださいソーマ様、びっくりします」

 

「神ソーマ、行方不明者の捜索依頼でしたらお受けしますから……少々お待ちいただけますでしょうか?」

 

「これくらいの……小さい、子……のはずだ」

 

「ええっと」

 

ベルはいきなり話しかけてきたソーマに困惑していた。

カウンター越しに話していたエイナもまた、困ったように眉を下げて注意するが効果があるのかは微妙。長い髪のせいでどんな顔をしているのかイマイチわからないその男神は、身振り手振りで探しているらしい眷族の背格好を表現するが、エイナもベルも困惑してしまうだけ。やがてソーマはがくり、と項垂れたように力を抜き、フラフラとギルドを後にした。

 

「え、神ソーマ!? 捜索依頼は!? 神ソーマ!?」

 

エイナの声が響く。

しかしソーマは孤独なシルエットだけを残すように姿を人混みの中に消してしまった。えー、と嘆くように呻いたエイナはベルと目が合い、肩を竦めた。

 

「たまにね、ソーマ様、ああやって眷族探しをしているらしいの」

 

「眷族、探し……」

 

そういえば、『怪物祭』の時も声をかけられたような…と思い出す。あの時からしばらくたってまだ見つかっていないということは、もう長いこと行方不明なのだろう。

 

「ただでさえ最近、()()()()()()()()のに……」

 

「………多いんですか?」

 

「うん……ベル君は【アストレア・ファミリア】だから、もしかしたらローヴェル氏達から聞かされているかもしれないけど、冒険者であるないに関わらず、行方不明者がね、ちょっと増えているの。捜索依頼(クエスト)の数がちょっとずつ増えてて……いつからだろう?って思うくらい」

 

「…………」

 

「あ、ベル君、無理して探さなくていいからね?」

 

「え? でも……」

 

「言われてない? 『ミイラ取りがミイラになる』から下手に探し回るなって」

 

「………言われてる、かも?」

 

捜索場所がダンジョンともなれば、行方不明者を探すのは困難を極める。下に行けば下に行くほど、広くなっていくのだ。更には、『未開拓領域』というのも存在し、そこに足を踏み入れれば、下手をすれば自分が帰ってこれなくなり、遭難してしまうなんてこともあり得る。だから積極的に捜索するのはリスクが高くついてくるために、頭の片隅に置いておく程度にしておくのだ。いくら憲兵、正義の味方とあろうが、自分の命が帰らぬ者になっては話にならない。

 

「君がいなくなったら悲しむ人……沢山いるからね。もし迷宮内で捜索依頼が出ている人を見かけることがあったら、救出か、ただ単に帰還していないだけなら、地上に帰るように促してくれればいいよ」

 

君だって、お姉さん達が帰ってこなかったらいやでしょ? そう言われて、ベルは頷く。ベルの反応を受け取ったエイナは「よろしい」と頭を撫でる。アドバイザーではないけれど、アリーゼ達の都合がつかない時は代わりに報告書等を渡しに、或いは、何か情報を貰いに来るベルとは結局、周りが「アドバイザーやっとけば?」というくらいには話す間柄。でも試しに迷宮に関するテストをすれば、しっかりと教わっているらしく間違うことは少ない。アドバイザーをする必要はあまりなさそう、というのがエイナの認識だ。

 

「ローヴェル氏達にも伝えておいてくれる? ギルドとしても、行方不明者が増えてるのって放っておいていい案件じゃないから……君も、気をつけるんだよ? 君、可愛い顔してるんだから、わるーい女神様に捕まったりしたら、パクリっ、だよ?」

 

「それは……うーん……」

 

「え、迷ってる? ねえ、迷ってるの? やめてよ、もう」

 

「ぼ、僕だって人は選びますよ……そ、それより、今日は送った方がいいですか?」

 

「え、なんで?」

 

「行方不明者の話なんてされたら、心配しちゃうじゃないですか」

 

「え、あ、え、うぅーん……」

 

ベルに送ってもらえるのは、魅力的な話だ。

アリーゼ達と話している時も、エイナは「何かストーカーとか困ってることがあったら、ベルを頼るといいわ!」と言われたこともあるし。何より、彼は飛べるのだ。正確には『飛行』ではないらしいけれど。ちょっと経験してみたいなーなんて好奇心が疼くのは無理からぬこと。たまにヘスティアがバイトに遅刻するからという理由でベルをタクシー代わりに使っているなんて話も聞いたことがある。でも、それでベルの帰りが遅くなるのは、年上としてどうかとエイナは思うのだ。

 

「送ってもらたらぁ、エイナ~」

 

そこに、ニヤリとした表情を浮かべる桃色(ピンク)髪の同僚、ミィシャが会話に混じった。彼女は学区の時から一緒で、頭お花畑だ。

 

「もう、何でニヤニヤしてるのよ」

 

「えぇ~、だってエイナ、前もストーカーの件でベル君に助けられたりしてたでしょ~?」

 

「そ、それは……そうだけど……」

 

これは語られぬ話ではあるが。

エイナはとある派閥のドワーフとエルフに熱烈な求婚をされ、彼等の主神のせいでストーカー被害にあったこともある。その時、数日護衛を務めてくれたのがベルである。ちなみに、ミィシャが頼んだ。

 

「ベル君、遅くなっても平気? アストレア様達に怒られない?」

 

「えっと、もし送るなら伝えてきますけど……エイナさんが行方不明者になったら、悲しいですし」

 

そんなことを言われたら、エイナはもうダメだった。

胸の奥がきゅんとする感覚。

アリーゼ達が「アドバイザーは結構ですわオホホホホ」と他所の女を警戒するのも、ベルを猫かわいがりするのも分かる気がする。ベル・クラネルは年上キラーというやつだ。

 

「えっと……お願い、しようかなあ」

 

頬をぽりぽりと掻いて、エイナは遠慮気味に頼む。

ちょこんと尖った耳がぴこぴこと揺れた。

その一言に、ベルの表情がぱぁっと明るくなる。

ダンジョンから帰ってきたベルは水晶を抱えていて驚かされたが、この兎は、ずるい。

 

(わかっててやってるのかなあ、この子……)

 

じゃあアストレア様に伝えてきます!と言ってギルドを飛び出していったベル。すぐに誰かが驚くような声が聞こえてきたが、きっと兎が空を飛んでるとかそんな感じのことだろう。あの兎、魔法を便利道具か何かと思っているのではなかろうか。

 

「よかったね、エイナ~」

 

「揶揄わないで、ミィシャ」

 

面白い物を見て、ホクホク顔のミィシャにエイナは溜息。

唇を尖らせたエイナは、言葉を続ける。

 

「ミィシャ、知ってて焚きつけたよね?」

 

「え~?」

 

「ベル君、許嫁がいるって話、私だって知ってるんだよ?」

 

そう、エイナだって知っている。

許嫁がいるらしいという噂を。

まあそれを聞かせてきたのは噂好きのミィシャだけど。そのお相手らしい女性と手を繋いで仲良く歩いている光景を見たことだってある。そんな相手に……なんて、エイナからして可愛い、手のかかる弟のようにしか思っていないが、それでもよろしいことだとは思えないのだ。流れる妖精の血云々に関わらず。

 

「だから、いいんじゃん!」

 

だというのにこの同僚は、ぴょんぴょんと飛び跳ねてはしゃぐ。

 

「よくなーいっ!」

 

エイナは叫んだ。

エイナは兎に家まで送ってもらった。




R18書いてる間に1ヵ月、間あいてんじゃん・・・
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