「彼等はいったい、何者なんだ?」
「………我々は、彼等のことを
暗がりの中を、2人の人物が会話していた。
1人は黒い襤褸を纏った男とも女とも分からない辛うじて人型のシルエットだと思える人物で、もう1人は旅装を身にまとった若いエルフの少女だ。
「彼等には共通した特徴がある……という説明は、必要か?」
「……『人語を解する』という点か?」
「……通常のモンスターよりも高い知能、知性を有し、それでいて『心』を持っているという点だ。我々と何ら遜色のない、意志と感情の総体、破壊や殺戮の衝動に支配されない、常軌を逸した『怪物』達……それを―――」
「だから、『異端児』なのか」
「そうだ。君に『
「………お前も、その
黒い襤褸の説明に、拳を握り締め、下界を揺るがしかねない『未知』の存在を知ったことで、鼓動が動揺と共に早まる。否定したい思いはあった。しかし、事実を叩きつけるように少女の目の前にいる人物は淡々と前を歩きながら言葉を紡いだ。僅かに見えた襤褸の中身に、人間にしては違和感を感じる姿に少女は思わず聞いてしまう。黒い襤褸の人物は、身体を揺らした。頭を振ったのだろう。
「いいや、私は人間だよ。………
「………元?
「生憎、出会ったばかりの君にこれ以上踏み込んだことを説明する義理はない、神ヘルメスの眷族」
「!」
フェルズと名乗る人物が振り返る。
金の髪を揺らすエルフの少女は、自分の派閥を知られていることに動揺を隠すことさえ忘れてしまっていた。致命的なミス。せめて動揺を隠し、「なんのことやら」と
「『中立』と言っている彼の眷族が、単独行動をしているとは何事かと思ったが……まさか、都市外の調査の最中に出会っていたとは……神ヘルメスから何か指示を受けたのか? いや、であれば単独であるはずがないか……? それでいて、彼等の同胞に出会えるとも限らないのに律儀に『
「うぐ……」
痛い所を突かれる。
返す言葉もない。
主神の名を出されただけでも心臓を掴まれたような気分だというのに、『喋るモンスター』の同胞に出会える確証もないのにダンジョン内であちこち破壊して未開拓領域を探すという無謀な行動を指摘される。フェルズに声をかけられたのも、恐らくどこかで見ていたからだろうがダンジョン内の壁やら石英の集まっている場所やらを破壊して回る頭のおかしい変なエルフなど、目立つに決まっているのだ。
「君達エルフは知に長け、堅物で、頑固で、潔癖だ。個人差はあれどそんな種族の冒険者が奇妙なことをしていれば目立つ。彼等の敵でさえ、考え無しに迷宮内を破壊して回ったりはしない」
「はぅっ!?」
「第一、考えなかったのだろうか? 彼等に出会えたとして、怪物と人類がどれほど長く殺し合っていたのかを」
「ふぐっ!?」
「出会って開口一番、「これ、君達の仲間だった物だ受け取ってくれ!」なんて言えば、君は
「ひぐっ!?」
「ああ、ちなみにだけど私が君のことをいつから勘づいていたかについては、割と数時間前だ。何故か【剣姫】と【
「きゅぅっ!?」
君がダンジョンに入る時から、実は見てたよ! とまで言われて少女は兎が喉を潰されたような鳴き声を上げてへたり込んだ。長く尖った耳までへにょっと垂れさがってしまっている。ボロクソに考え無しと言われたのだ。無理もない。言い返す余地もない。
「ああ、言っておくが私が君を神ヘルメスの眷族と言ったのは、旅装から都市外からやってきたのだと考え、それでいて中層域近くまで踏み込めるだけの階位はあるということ、そして時折、神ヘルメスへの懺悔の言葉をブツブツと呟いていたからだ」
「きゃぅっ!?」
「君がこうして勝手な行動をとったことで、あの中立を標榜する男神に首輪がつくという可能性を考えなかったのか? まあ、あの男神のことだ……首輪を嵌めようとしたところで、のらりくらりと回避してみせるんだろうがね。しかし、このことが知られれば君は
「もういいだろう! その辺にしてくれぇ!?」
少女は泣きそうになった。
羞恥やら悔しさやらで。
瞳に涙を溜め、耳まで赤く染め上げる。
もうやめて、私のライフはもうゼロよ! なんて言いたくなるくらいだった。
「それで神ヘルメスの眷族」
「……ローリエ」
「?」
「神ヘルメスの眷族と呼ばれ続けるのは、今の私には身に余る。私の名は、ローリエ・スワルだ」
「目が据わっているぞ、大丈夫かい?」
「大丈夫じゃない!」
ぷるぷるするローリエにフェルズは肩を竦めるように襤褸を揺らした。暗がりを進んで少し、広い空間へと辿り着く。そこは光源など一切ない、暗くも広い場所だ。歩みを止めたフェルズに続いて、赤面涙目のエルフも足を止める。どうしたのだ? と言おうとしたところで、気配に気づき尖った耳が揺れた。
「――――いるかい、リド。客人を連れてきた」
「………?」
誰だその名前は、とローリエは思った。
周囲を見渡し、そして、フェルズが見ているだろう正面に視線を戻すと闇の中から怪しく光る紅色の光がギラリと輝いた。
『フェルズ、そう易々と連れてくるんじゃねえよ』
「今更だろう?」
『そいつが敵っていう可能性があるだろう。それに、隠れ里を知られたって俺達には得はねえ。仲間を危険に晒しちまう』
「彼女は敵ではないよ。君達に
ローリエは警戒する。
周囲からぽつりぽつりと自分のことを見る視線が増えていくからだ。そして、フェルズが会話しているリドとやらの声音も人間とどことなく違うような違和感を感じさせるのだ。
『ただいま戻りましタ……おや、お客人ですカ?』
そこへ、別方向から女の声がした。
美しく柔らかい声音だ。
悩むように呻いて、リドはようやく口を開いた。
『お前等、灯りをつけろ』
渋々といった感じ。
リドの声の後に、魔石灯が点灯する。
鍾乳洞に似た特大の
「初めましテ、美しい髪のエルフさん」
近くに歩み寄ってきた
「フェルズ、あとで相談ガありまス。聞いて頂けますカ?」
「ああ、構わないよレイ。私にできることであれば協力しよう。ところで、彼女は?」
「新入りを見つけて隠れ里に戻った後、出て行っちまった。たぶん、また
「………そうか」
「最近、
「………ああ」
リドと呼ばれる、
「―――――――――」
「おい、そいつ白目剝いてないか? エルフってのは威嚇するときはそういう感じなのか?」
「!?」
リドの指摘に振り返ったフェルズは、言葉を失った。
ローリエは気を失っていたのだ。
有り得ざる光景に、迫り来る、武装し、人語を解する怪物達に
「………まじか」
× × ×
???
薄暗い迷宮を少女は歩いていた。
背は低く、『子供』とさして変わらない容貌。破れた衣装を身に纏って、彼女は慣れたように迷宮内を歩いていた。冒険者達が探索するモンスターの坩堝たる迷宮ではなく、人の手によってつくられたような場所だ。
「やあ、少女。おかえり。今日も素敵な
「…………エレボス、様」
それを迎え入れるように、エレボスは進路上にいた。腕を組み、待っていたとばかりに待ち構え、ニヒルな笑みを浮かべて眷族にそうするように迎えた。少女は虚ろな瞳で見上げ、その神の名を口にする。
「貴方が教えてくれた『指揮』とやらのおかげで、また生き残れました」
「それは上々」
「それより………早、く」
「………ほら、受け取れ」
小瓶がエレボスの手から投げ渡される。
ちゃぽん、と音を立てるように波打って、それを両手で受け止める。栓を抜き、一息に煽り、口端から垂れた液を舌でチロリと舐め取る。一滴とて無駄にはできない。喉を鳴らし嚥下すれば、少女は目を見開き、喉を両手で掴み、蹲って、苦しんだかと思えば恍惚とした笑みを浮かべた。それを興味なさげに見ているのはエレボスただ
「では、哀れな娘よ。忘れ去られた可哀想な子供よ、俺にも教えてもらおうか? お前の戦術を教えた俺への報酬として、イケロスの
「………」
靴音が2人分、闇の中へと消えていく。
少女がいた場所には、
「あーん? 負け犬の神様のご登場じゃねえか」
部屋へと入ったエレボスに向って、女の声が飛んだ。
布をあちこち切り刻んだような衣装に、くすんだ桃色の髪。目付きは鋭くぎらついて、彼女の笑みは嫌悪を抱くに値する。神であれ挑発するようなその不遜な態度の彼女にエレボスは肩を竦めて笑みを浮かべ、隣の椅子に腰を下ろす。ついてきた
「なんだ、まだ7年前の抗争で負けたのを引きずっているのか? 案外しつこいんだなお前は」
「ハッ、俺に任せろ!つっておいてこの
「ハハッ、予想外な出来事というのはいつやってくるかわからないというものだ。第一、当時はあれが精一杯だったのさ。下手をうって覇者2人が出張って来たらそれこそ面倒だろう?」
「………チッ」
頬杖をつきつつも悪態交じりに舌を弾く女にエレボスは相変わらず愛想よく笑う。そして、手でカウンターを叩きつけ、そこにいる者達の肩を跳ねさせるほどの音を立てて、神威をわずかに漏らして口を開く。
「頼みたい事があるんだ、聞いてくれよ……なあ、ヴァレッタ」
「………て、めぇ……!」
「俺のことを敗者と言うのはいいが、じゃあ前回、ロキとアストレアの
「…………っ」
どんな立場の人間であれ、神の前では皆『子供』。
神威に抗うことなどできず、「頭を垂れよ」と言われればそうさせられてしまう。神を神たらしめる
「…………おっと、脅しはよくないな。俺達は何と言っても『トモダチ』、なんだからな」
「……はは、どの口が言いやがる」
足に纏わりつくような重たい沼のような空気が霧散する。
それにヴァレッタは乾いた笑みを零して、表情を真剣なものに変えた。
「珍しいじゃねえか、あんたが頼みなんて」
そこに軽口を言い合っていた先程までの声音はない。
目付きもまた同じく、獲物を見つけた肉食獣の如く鋭さを増していた。エレボスは一拍置いて、口を開く。
「―――オラリオを壊すのを手伝ってくれ」
このまま終わらないために。
目的を果たすために。
恩を返すために。
「俺が……勝ちに行くために」
カラン、と溶けた氷がグラスの中で崩れる音が妙に大きく響いた。
× × ×
???
「エレボスも酷いよねえ」
その後ろ姿を、
「もう何年くらいだっけ? 抗争が終わって少ししてからだっけ……だーれも、あの子が帰ってないことに気付かないんだろうねえ」
死の神タナトスは幽鬼のように通路を歩く。
通路の所々に不気味な衣装の石像が配置されており、それを見る度にまるで自分の眷族にそうするように微笑み、手を振った。
「今日までの間に何人も死んでる。冒険者も、信者も。そして、バルカちゃん達『ダイダロス』の子を孕まされた子達も」
長い通路を何度も曲がり、進んで、広い
「タナトス様、母体が死にました」
「子は?」
「産まれてすぐ……」
「そう……じゃあ、『眼球』だけ取り出しておいて」
「かしこまりました」
黒檻の中には、女達がいた。
「処理はいかがしますか?」
「んー………あー………そっか、前は『
「ではそのように」
白装束に身を包む信者達が死に絶えた母体と母体が死んだことですぐに死んだ子を運ぶ。どちらも体液に塗れており汚れている。母体の顔など、まともな人間が見れば言葉を失うだろう。正気を失った顔をしているのだから。
「あー……この子もダメそうかなー? 肉体は生きてるけど、心が死んじゃってる」
呼吸に合わせて呻き声が漏れている。
まるで潰れた笛だとか、潰された蛙のように。
彼女達は、1人残らず『行方不明者』。
『ダイダロス』の血を続けさせるため、タナトス達『悪』の住処であり『ダイダロス』の使命を達成させるために連れ去られた憐れな娘達だ。人知れず攫われ、幽閉され、犯され、孕まされ、産まされ……そして死ぬ。タナトスは死した娘達をまるでねぎらうように頭を撫でてやると、その部屋を後にした。
「帰りたい」
「帰して」
「痛い」
「苦しい」
「生みたくない」
「出てこないで」
「来ないで」
そんな言葉を紡げるうちはまだ大丈夫。
イシュタルのように衣食住を充実させたわけでもない極限状態に突き落とされれば娘達はそのうちに発狂する。人間ではなく
「『冒険者』が行方不明になることなんてよくあること」
だから、早々探し出そうとする者なんていない。
すぐ近くで火がくすぶっていても、誰も気づかない。
「平和ボケって怖いよねえ」
× × ×
地上
空はすっかり暗く、街灯が点灯している。
されどこの都市は眠ることはない。
都市内の酒場からは冒険者達の喧しい声々が轟き、給仕が両手に盆や
「あぁん!? モルドの野郎を見失なっちまっただぁ!? どーせ、女の尻でもおっかけて未開拓領域にでも迷い込んじまったんじゃねえのかあ?」
「ちげえねえwww」
酒を呷り、怒声も交えて男も女も関係なく。
騒ぐ騒ぐ。
運ばれた料理を頬張っては卓を汚すのはいつものこと。
「ねえ、最近、農作物の値段上がってない?」
「やっぱり?」
「輸入品は高くなるのは仕方ないにしても、都市内で作られた物まで値上がりしてるのは……ちょっと、ねえ……」
「私の派閥、裕福ってわけじゃないから少しでも節約したいのに……困るわ」
都市外からの輸出品が高いのは言わずもがな。
されど女性陣達は口々に言う。
最近、都市内で作られた農作物まで高くなっていると。今年はひょっとすれば不作なのかもしれないと悲しげな顔をして派閥のお財布事情に頭を悩ませる。主神が勝手に金を使って遊ぶから悩みの種が全然解決しないだとか、そっちの派閥はどうやりくりしているの?とか、派閥違いの友人と言い合うそんなひと時。
「―――なあ、聞いたか? また、らしいぜ」
誰が言ったか、その『また』に一瞬、騒がしい会話が静まった。
「『ダイダロス通り』で不審火騒ぎが起きたってな」
「いつからだよそれ」
「わかんねえよ」
「犯人はまだ捕まらないの?」
「捕まってねえから、また起きたんだろう?」
「何をしているのよ、【ガネーシャ・ファミリア】は……憲兵でしょ?」
「いやでも、私の友達に【ガネーシャ・ファミリア】の子がいるから聞いたことがあるんだけど、自分達が到着したときには火は消えてることもあるのよ。火事になる前に消されてることもあるって」
「………何それ」
「だから
「おまけに、【アストレア・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】が現場に来ても、そこに住み着いてる奴等だとかが野次馬したりして、犯人捜しどころじゃないらしい。見つけられっこねえよ」
「『ダイダロス通り』に住んでる人達の不始末ってことではないのか?」
「それだと学習能力なさすぎだろ?」
「友達から聞いた感じだと、
少しピリつく空気に、給仕達だって動きを止める。
自分達の住む都市のことだ。
冒険者という素行は悪いが力のある彼等は、いざとなれば騎士でなくともボディーガード代わりにはなる。というか、自分達の命に関わるかもしれない問題になんて巻き込まれたくないのだ。しかしそんな空気を酒場の店主が怒鳴りつければその話はお終い。給仕達は動き出すし、冒険者達は肩を竦めて別の話題に切り替える。うまい酒にはうまい話を。こんな話ばっかりしていれば酒がまずくなる。そう言うかのように話は変わるのだ。
× × ×
ダンジョン18階層
十字に斬り込みを入れた木から、炎が上がっている。
『
「ただいま戻りました」
「おう」
2人がいる近く、森へと続く方から草を分けるような音がし、そこへ振り向けば人影が3つ。春姫が戻ったことを言うとヴェルフは短く答え、命やベル、そして春姫がそれぞれ丸太の上に腰を下ろした。命と春姫は髪がしっとりとしており、篝火に手を伸ばすと冷えた身体に温もりが帰ったように吐息を漏らした。野営の番をしていたヴェルフと桜花がそれぞれ焼けた肉を渡すと、それを頬張る。
「すっきりしたか?」
男性冒険者ならまだ我慢は聞くが、女性冒険者ともなれば汗や体の汚れは気になるというもの。大樹の迷宮から戻った5人のパーティは18階層に戻ると野営に適した広い場所を見つけて天幕を張った後、ヴェルフ達が夕食を。春姫たちが水浴びに出ていた。ベルは春姫に「一緒に参りましょう」などと言われ同行。【アーネンエルベ】による覗きを見つけたら雷で裁かれるという他者からすれば殺意が高すぎる見張り役を引き受けていた。
「申し訳ありませんベル殿。魔法を2つも便利道具のように使わせてしまって」
「大丈夫ですよ、命さん」
「それと、見張りも。しかし……仮に覗きをしていた者がいれば、死んでしまうのでは?」
「さすがに命を奪うようなことはしませんよ……たぶん。……【
「春姫としましては、ベル様と共に水浴びしたかったのですが……」
「春姫殿、自分がいますので、そういうことは別の機会にお願いします」
「いつも一緒に入ってくださいますのに」
「「「いつも!?」」」
「おいベル、聞き捨てなんねえぞ!?」
「聞かせてもらおうか、全てを」
「ベル殿、春姫殿に手を出すのが早すぎるのでは!? 改宗してすぐということですか!?」
「待って、おかしい。僕に矛先がくるのおかしい」
誰もわかっちゃいないんだ。
僕が1人でお風呂を楽しんでいると春姫の方からやってくることを。それでいて、気を失ってしまうために介抱をさせられるということを。なんてベルはそんな愚痴をこぼしたかった。でも、気絶する春姫が割と面倒くさい上に毎度悶々とさせられているなんて言えば、春姫は羞恥に顔を染めるだろうしショックを受けるかもしれないと言葉にはしない。アリーゼ達に助けを求める? そんなことは春姫が改宗して派閥の一員になってすぐにしている。でも彼女達は言うのだ。
「娼婦してた子が、男の裸を見て気絶するわけないじゃない」
と。
ベルは諦めた。
アイシャに相談するべきかとも思ったが、あの戦闘娼婦のことだ。意識のない春姫を好きなだけ貪ればいいじゃないかと言われるに違いない。間違いなく、きっと。
「…………はぁ」
ただただ溜息を吐いて、串焼き肉を頬張る。塩と胡椒をまぶしただけの男料理ではあるが、身に染みるほど美味い。ベルを囲う年上陣営は首を傾げた。
「そういえば」
「?」
ヴェルフが思い出したように切り出す。
「ベル、お前が知らない冒険者ってのはあり得るのか?」
「むぐむぐ………そりゃ、都市の外から新しく来たとかなら、知らなくてもおかしくないよ」
ヴェルフの脳裏に浮かぶのは、探索中にすれ違った集団だ。
6歳の頃にオラリオに来たベルが、知らない冒険者と言ったのだ。それが妙に引っかかる。神々……特に女神に気に入られているこの弟分は顔が広い。【ヘラ】に母親、【ゼウス】に父親というのもそうだが、【アストレア・ファミリア】唯一の男性団員というのもあって、良くも悪くも目につく。当然相手が知っていれば幼い頃からオラリオ、冒険者を見てきたベルだって知っているはず。それなのに、知らないのはおかしいとヴェルフは思っていた。
「気になるのか?」
「………まあ、な」
「そもそも、あれが新参の派閥だったとして。中層に入ってくるだけの実力者ということだろう?」
「新参の派閥の冒険者が、いきなり中層にアタックするか?」
「
「だとしても、だ。つい最近オラリオに来たとして、そんな右も左もわかってないような人間を経験者が連れていくのか? 俺ならしない。 責任とれねえよ」
「………それは、確かに」
「あいつらの中に1人も『初心者』って空気がなかった。装備も含めてな」
「ではヴェルフ様は、あの方々が普通ではないとお考えなのですか?」
「普通じゃないというか、なんだろうな……何か問題がありそうな連中と言えばいいか……」
「ベル殿はどう思われますか?」
「……うーん」
仲間達がベルに視線を向ける。
肉を齧って咀嚼していたベルは、唸ってから口を開く。
「まず、
「おう、そうした方がいい。あんな姉貴分達でも、都市を守ってる派閥の1つだからな」
「ああ……あんな親バカ、じゃない。姉バカな奴等だが、やるときはやるからな」
「ええ、伊達に惚気てばかりではありませんからね」
「………そんな風に、思われてたんだ」
× × ×
星屑の庭
団欒室に女神と眷族達が集っている。
長い赤髪を一本に束ねた美女が、自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、両手を腰に当て、ここ数年で育ってきた胸を張って、部屋に響くように声を張る。
「それじゃ、ミーティングの時間よ! 情報の整理もしときましょう! ちなみに春姫とベルは今日はダンジョンに行ってるから帰らないらしいわ!」
「「「「癒しがぁ………ッ!!」」」」
嘆く正義の戦乙女達。
あの白くてもふもふしていて、手塩にかけて育ててきた弟は今日はいない。寂しい、お姉ちゃん死んじゃう!とばかりにテンションは下がる。ライラやリュー、アストレアはそんな仲間達を残念なものを見る目で眺めているが、寂しい思いがあるのは否定しない。
「コホン、いないのは仕方ないけれど、今生の別れではないのだし……始めましょうか。アリーゼ、お願い」
「はいっ、アストレア様! 今日も今日とて『ダイダロス通り』で不審火騒ぎがありました。死傷含めて怪我人はゼロ! 現場近くにはイスカがいましたけど、駆け付けた時には鎮火済み! 野次馬が集まっちゃったのもあって、犯人は見つかりませんでした! 今までもありましたけど、【ガネーシャ・ファミリア】と話をして
「問題なのは捕まえられないということか、とはいえこの騒ぎを起こしているのは大方『闇派閥』でしょう?」
「だと思うわ。『ダイダロス通り』の下に『闇派閥』の拠点があることはもうわかっているわけだし。問題なのはそこの出入りに難があるということで、
「つーか、捕まえられないっていうよりは、放火みてーなことして、とっとと引っ込んでるってことじゃねえか?」
「まあ、それだろう」
未だ『不審火騒ぎ』を起こしているだろう『犯人』の姿を見つけることも捕まえることもできてはいない。怪我人がいないというのは運のいいことではあるが、それが続けば気味も悪い。あくまで『闇派閥』が何かをやろうとしていると予想はできるが、それだけ。歯がゆさがあった。
「次、私ね……ギルドの掲示板に気になる情報誌がありました」
仲間達が肩を竦めて、一拍間があくとリャーナが手を上げてそう言った。公式情報が集う巨大掲示板の前には冒険者が人集り、更新された情報誌がギルド職員の手によって張り出される。そこには、『武装したモンスター』というものがあった。
「
テーブルの中心に置かれた一枚の羊皮紙に全員が目をくぎ付けにする。描かれているのは、剣と鎧を纏うモンスターの絵だった。
「聞いたことはあるが……とうとう『中層』にも出るようになったのか」
「偶然だけど出会ったことがあるみたいな話、聞きましたね。あまりいい表情ではありませんでしたけど」
ネーゼが言い、セルティが続く。
怪物が冒険者の装備品を身に付けるという奇妙なことに誰もが眉根を上げる。全員が、そんな話を聞いたことがある程度のもので、それ以上の言葉は出せない。
「実際に見たことがない以上、どういう反応をすればいいのかわからないけど……中層に入る時は気をつけるしかないわね」
ミーティングは続く。
他愛ない話を交えながら。
「そういえば、勇者様が次回のクノッソス突入に兎と狐を参加させられないか? ってことを言ってきたんだが、どうする?」
「参加させないわ」
ライラが聞き、アリーゼが即答する。
だよなーとライラは最初から答えは分かっていたとばかりに言うと、アリーゼは続けた。
「春姫はまだ派閥に加わったばかりの子。それにまともに戦えるわけでもない。春姫の『
「ま、冒険者なのに何で人間相手にしてんだって虚しくなることがないわけじゃないからな。私は賛成だ」
「他ならないアルフィアが言ったことなら、守るしかありませんね」
「戦争遊戯でアマゾネス達をぼこぼこにしておいて、今更人間同士の争いなどと言われても――――」
「ぐ~かやさ~ん、~何か、言った?」
「いえ、なにも……というか、ぐーかやと言うのをおやめ頂けますか?」
「あら、ベルには特に言わないじゃない」
「………相手によりますので」
「ふーん」
アリーゼが微笑みを浮かべているのに確かな圧をかけて輝夜に近付く。顔が怖いですよ団長様? と輝夜が顔を逸らす。副団長を圧する団長に仲間達も口元を引くつかせて汗を垂らした。
「――――関係のない話になるのだけれど……」
そんな眷族達を眺めながら、アストレアはふと口を開く。
話題は当然というか、ベルのこと。
「あの子が次にランクアップしたら、流石に
「「「「えっ」」」」
「てっきり【
「えっ」
「えっ」
「「「「………えっ?」」」」
ベル君がいないところでソードオラトリアのイベントは発生しているので、クノッソスに突入とかも普通に起きてます。
・ローリエ:『喋るモンスター』の住処どこー? と壁やら水晶群やら破壊したりと如何にも怪しい行動しているのをフェルズに見つかる。具体的な解決策があるわけでもあなく、行動自体も衝動的なものが多すぎるので呆れられる。
・コミックスでは描かれてますが(ソードオラトリアで書かれてたか不明)、娘を誘拐して孕ませてダイダロスの同胞を生ませたりとかしていたようです。でもだいたいが本を読んで発狂するなりして死亡してしまうため、死後、眼球をくりぬいて鍵にしてます。