「エレボス様、ご注文されていた品が届きました」
「…………そうか」
「……失礼しました、お休み中でしたか?」
「いいや、気にするな」
暗い部屋。
背もたれに体重を預け足を組み、手の指の腹を合わせて瞼を閉じていたエレボスの元へ、白装束の信者が姿を現した。あまりにも静かな空間が故に神の惰眠を邪魔してしまったのではないかと頭を下げかけたが、それはエレボス本人によって止められた。思案していただけだと続けると、瞼を開け、体重を前に身体を傾けて笑みを作って信者の報告を聞く。椅子の軋む音がやけに大きく聞こえた気がして、信者はエレボスの神威もあってかブルりと身体を震わせた。
「聞こう」
「は」
何を考えているのか信者には分からない。
主神と眷族という関係性という間柄ではなく、タナトスの眷族でありながらエレボスに惹かれて協力を取っているだけの間柄。いっそ改宗を…と思わないでもない彼等彼女等はしかし、エレボスにそのことを言えば毎度の如く断られる。曰く、彼の眷族は後にも先にも1人でいいのだと。
「ご依頼されていた装備……『全身鎧』は既にクノッソスへ搬入完了いたしました。加えて、以前より我等に与えられていた使命、『ダイダロス通り』に対する放火作業も問題なく完了しております。野次馬もあって捕らえられた者はおりません。ミュラー博士も捕らえた冒険者を使った実験を変わらず続けておりますが、『
バインダーに止めている羊皮紙に記されている内容を読んで聞かせる。それこそまるで秘書のように。エレボスは静かに聞き、時折リズムを刻むように足をトン、トンとつま先を上げては下げている。彼の頭の中ではどのような図式ができているのかまったくもって信者には想像もつかない。
「近況ですが、以前あった【ロキ・ファミリア】等による侵攻は今のところありません。しかし、前回の進行時にヴァレッタ様を含めて使用されていた
「ふむ……イケロスの
「……地上で『武装したモンスター』などと言われている化物共のことですね。主に『クノッソス』拡張のための資金に使われているようで……直近では『エルディア』の貴族に売られていたようです。現在もディックス様が使用している区画に捕えているとのこと」
「ディックスはバルカとは違って拡張工事にはそこまで絡んではいないのか」
「……はい。むしろバルカ様のような使命感などはなく、それに反抗しているようですらあります」
「なるほど、報告御苦労。下がって良いぞ」
深々と頭を下げて、信者が消えていく。
エレボスは暗い天井を見上げ、再び瞼を閉じた。
何かを想像しているのか口元は笑を浮かべている。
「娘から『人語を解するモンスター』についての情報は得た。彼等が何故生まれたのかという要因もおおよそ予想はできた。ならば、
思い描くのは、数か月前の『怪物祭』の雄牛と少年の死闘だ。『人語を解するモンスター』は共通して下界に対する強烈な
「まあ……あの娘がどこへ行きつこうと、一向に構わないか」
× × ×
隠れ里
『しかしフェルズ? どのようにして彼と接触するト言うのですカ?』
「ああ、私も気になっていた。生憎と私は【
「そのことに関しては、1つ案がある。それを試してみよう」
他の異端児達は興味のない者、興味ありげに見つめている者―主に雌の個体が多い―、余所者である妖精に警戒を解かない者が息をひそめている。
「落ち合うなら『
「離れた森で待ち伏せるしかない、か?」
「ああ、それしかない。我々は影から君を見守ってはいるが注意はしてくれ。バレたらどうなるかわかったものじゃない。彼を囲う女性陣を怒らせるとどうなるか……」
「いいか、もし触れられそうになったら、エルフだからと言えば問題ないはずだ。エルフは心を許した相手以外に肌を許さないといった風習があるからな」
『わ、わかりました』
どうベルを呼びだすか、どこで待ち伏せるか。それらを話して待ち合わせている間の注意点についてもしっかりと釘を刺しておく。
『しかし地上に行ってモ、いいのですカ?』
「そこは運だろう。君は彼の前では『迷宮の異常事態に巻き込まれ帰還が難しくなっていた冒険者』という筋書きで行くが、そうなれば仮にも正義の派閥の眷族、地上に連れて行こうとするかもしれない。分け合って地上に帰れないだとか適当な理由をつければ防げるかもしれないが……」
フェルズはそこまで言って、遠くからじっと、
『アレガ『コイバナ』デスカ?』
『レイ、キレー』
『キュー、キュキュー』
『セッカクダカラ、地上ガドンナトコロカ、ミテキテクダサイ!』
『レイ、ダカレテ! 卵ツクッテキテ! ファイト!』
『レイ、卵ウメルノ!?』
『『『キャー!!』』』
姦しい。
とても姦しい。
フェルズは溜息をついた。
目の前の、どう足掻いても来ている衣装のせいもあってか、水着か下着姿の妖精にしか見えない
『フン、何故ソコマデスルノカマルデ理解デキン』
『そんなこと言うなってグロス。助けてもらった礼を言いたいってのは間違ったことじゃねえはずだろ?』
『自ラ危険ニ足ヲ突ッ込ムナド……』
『だからフェルズ達が監視するって言っているんだろう? いいじゃねえか、レイが我儘を言うなんてめったにないんだからよ』
『ヌゥ………』
ガーゴイルとリザードマンがはしゃぐ仲間達を遠目に眺めながら、言っている。彼等もまた古参の2体だ。命の恩人である少年に会って礼がしたいというレイのそれこそ珍しい我儘な要求にグロスは危険だと反対し、リドは良いんじゃないかと賛成した。どちらも人間には程遠い容貌で、見てくれこそ冒険者と変わらないレイの姿に少しばかり羨ましいなんて思っているが、だからこそ叶えられるものなのだろうとリドは何度も説得し、グロスは唸り声を上げて黙りこくった。
「それでは私は早速、用意をしてくるよ」
フェルズは襤褸を翻して闇の中へと消えていった。
手持無沙汰になったローリエはどうしたものかと身動ぎ、レイが近付いて人間の所作などを聞き出し始める。それを他の個体達も興味あり気に近づいて見学を始めた。
× × ×
黄昏の館
「………ん」
ぼんやりとアイズは瞼を開けた。
日中よりも気温が低く肌寒くて、布団の中でもぞもぞとして寝ぼけた頭でベッドから床へと足をつけて立ち上がる。習慣からアイズの起床は早く、全身鏡にはパジャマ姿のアイズが映っている。瞼を擦り、欠伸をして、身体を伸ばし、着替えを開始。いつもの
「今日はあの子との特訓もないし……んっと、何、しよう」
ベルと2人きりの特訓は続けてはいるが毎日ではない。
ベルには相変わらず苦手意識を持たれているのがショックだし、特訓中は加減を間違えて気絶させてしまったこともある。それはベルの成長の速さも原因ではあるが、申し訳なさはあった。最近の話でいえば、どういうわけか自分の身体の一部である胸はベルの物になってしまったらしいし、怒らせてしまったこともあってか、2時間近く揉みしだかれた。
「男の子って、やっぱり胸が好きなのかな……」
未知の感覚だったし、楽しいのかよくわからなかったがベルに触られるのは嫌な感じではなかった。ピリッと電気でも走ったのかと思うような感覚があったり、頭が真っ白になって何も考えられなくなるような感覚もあったし、心地よさのようなものが湧いてきたりがあったけど、自分で触ってもあの時の感覚は薄い。もしまた彼を怒らせてしまったら、また同じことをされてしまうのではとアイズは羞恥から頬をわずかに染め、ブンブンと頭を振って無理矢理忘れようとした。思い切って彼を遊びに誘ってみようかとも思わないでもないが、きっと会話は続かないし、遊ぶと言われても何をすればいいのかアイズにはわからない。リヴェリアには呆れられてしまうだろうが結局はダンジョンに行こうということになりかねない。それに、現在の苦手意識を持たれているという関係性が改善しない限り、ベルを誘ったりするのは却って関係が悪化してしまう気がした。アイズとしてはアミッドが羨ましく思えた。
「アイズさん、おはようございます」
「………おは、よう?」
「顔が赤い……風邪ですか?」
「う、ううん大丈夫。それで、どうしたの?」
考え事をしている内に、いつの間にか館の玄関近くまで来ていたのだろう。声をかけてきた青年はアイズの僅かに赤く染まっている顔を見て首をかしげていた。が、それが本題でないことはアイズは知っている。彼は門番を務めてくれていた団員の1人だからだ。門番の仕事をほっぽり出して本拠の中に戻ってくるなんてどうしたのだろう……何かあったのだろうか、というのがアイズの考えだ。最も、門番についてはロキは「いらんのにー」と言っていた。
「あ、はい。これ、先程届いたのですが……アイズさん宛てです」
差し出された封筒を受け取って表、裏とひっくり返して差し出し人を確認。名前など書かれておらずアイズは首をかしげたが、中身を見て目を見開いた。
<やあ【剣姫】。度々私の依頼を受けてくれて感謝する。多忙極まる君に、このような仲介人のような役を頼むのは申し訳ないとは思うが、受けてもらえると非常に助かる>
などと書かれた内容が折りたたまれた羊皮紙に書かれている。
この感じは、あの人だ…とアイズは差出人を脳裏に浮かべた。襤褸を着た人間なのかよくわからない変な人だ。24階層の調査の時や遠征の時とか協力させられた記憶がある。最近でいえば、都市内にある
<単刀直入に、【
「………」
これは悩ましい内容だ。
ベルを誘う口実、もっと言えば仲良くなれるチャンスかもしれないやつだ。何より魔力提供のバイトの雇い主だ。何かの研究者であることくらいは予想できる。払いも良い。断るのは惜しいし、何より彼が誰かの命を助けたのは派閥が違うとはいえ、嬉しい気持ちになる。お礼を言いたい人がいるというのだから、会わせてあげた方がいいのではとも思う。しかし、アイズは自分が器用でないことはわかっている。戦闘方面以外はポンコツもいいところ。心の中の
「ベルも言ってた! 怪しい雇い主って!」
「でも恩人にお礼するのは、正しいこと!」
意見がぶつかり合う。
どうしたものか。
門番の者がアイズの悩んでいる顔を見て「大丈夫ですか?」と声をかけてくるが、そんな声も遠い。
「ベルに会える!」
「!?」
「ベルを誘ってダンジョンに行ける!」
「!?」
「格好いいところを見せて、憧れてもらえる!」
「!!」
「仲良くなれるチャンス!」
「!!!」
「膝枕、頭ナデナデ!」
「!!!!」
「……もみもみ」
「………っ」
「「「「「ベルを連れて行こう!」」」」」
満場一致の声。
アイズは門番をよそに身をひるがえし、支度を始めた。行動が決まったとなればまずは朝食。腹が減っては何とやらというし、自分が急いだところでベルはまだ眠っているかもしれないし朝食を食べている最中かもしれない。
「アイズ、何か急いでいるのか?」
朝食を食べているとリヴェリアに声をかけられた。
指摘されるほど急いで食べていたつもりはなかったが、はしたないと怒られるだろうか? ピタッと動きを止めたアイズにリヴェリアは首をかしげ、怪訝なものを見るように眉の形を変えている。
「えと、ベルに会いに行こうと思って」
「ほう……」
リヴェリアはアイズとベルの微妙な関係性を憂いている。フィンやガレスといった初期メンバーで「アイズの将来の相手」なんて話題が出た時には幼馴染であり人間性を知っていることもあってベルだったらなんて言うこともあるくらいにはリヴェリアはベルのことを気に入っているし、アルフィアの死後、アイズがベルを傷付けた過去もあってか気にかけてもいる。そんなリヴェリアの悩みとしてはベルがアイズに逃げ腰になりがちであるということ。仲良くなって欲しいが、中々改善されない…ということだ。解決する日は来るのか、はたまた諦めるべきなのか。と日々頭を悩ませているのだ。何ならアミッドとベルが許嫁だとかいう、アルフィアが唯一認めた女こそがアミッドであるみたいな噂まであるのだ。
「あの子が……誰かを助けたんだって。偉い、よね」
「………ああ。あの子は、優しい子に育ったからな」
「うん………」
食べ終わり、トレーを持ち、席を立つ。
翡翠の瞳と金の瞳が交差する。
2人の間には微笑があり、こくりと頷き合った。
すれ違いざま、アイズは言う。
「だから、会って来るね」
「ああ……」
フッと瞼を閉じて娘?のようなアイズとベルの関係性が改善するかもしれない兆しを感じたかリヴェリアは柔らかく微笑んだ。
「だから? だから、なんなんだ?」
そして1人、振り返りながらツッコむがもうそこにアイズはいない。何か会話をすっとばしているような気がするが、あの天然娘、まったくもってヒヤヒヤさせてくれる。そしてそのヒヤヒヤとしたものが現実になるとはこの時のリヴェリアは思いもしない。
「アイズ、どうしてお前はいつもそうなのだ!?」
とまさか言うことになるとはこの時のリヴェリア・リヨス・アールヴは思いもしなかった。
× × ×
迷宮18階層。
時間は昼を過ぎた頃。
ベルはアイズに連れられて
「おはよう皆」
「お……よう、ございます」
朝食が並んだ頃になると春姫が2人を起こしに行き、ベルはアストレアにつれられて食堂へとやってきた。まだ眠たいのか目元を擦っている。メイド服を着た春姫が2人の椅子を引いて、そこに腰を下ろすと皆で揃って朝食を食べ始めた。ベルはその時までアイズがいることに気付いていないようだった。朝食を終えるとベルはふらふらとどこかへと消えていく。曰く、湯浴みをしにいったらしい。
「【剣姫】はどうしてここにいるの?」
アストレアはいつ口にしようか悩んでいたのか、口元を拭いながらそんなことを聞いてきた。アイズは邪魔にならないように
「…………そう。あまり、イジメないであげてね?」
はて、どこかおかしかっただろうか? と首を傾げるアイズ。
苦笑するアストレア。
湯浴みを終えて、戻ってきたベルがまだ水気の残る髪を春姫に拭いてもらっている。自分でできることだが、春姫がやりたいと譲らないのだ。そして、頭を揺らされ、湯浴みしたことで完全に目が覚めたベルはようやくここでアイズの存在に気付いた。
「ひっ」
「ひ?」
「あ、や、な、なんでも…な、なんでいるんですか? 今日は、特訓ない日じゃ」
「君を……迎えに来たんだよ?」
「?」
「ベル様、何かご予定が?」
「し、知らないです」
櫛で髪を解かれてようやく解放されたベルが身構える。それが少し寂しくて、アイズは悲し気に目を伏せ、それに罪悪感を抱いてあたふたするベル。衣装を摘ままれたアストレアが苦笑をベルに向けてモフモフの髪を撫でてやる。
「今日は特に予定もないのだし……行って来たら?」
「で、でも…」
「嫌いというわけでもないのでしょう?」
「う………」
「もう長い付き合いになるのだし、今の関係を改善するきっかけになるかもしれない。だから、きっと大丈夫よ」
「…………はい」
「帰って来たら、また話を聞かせてもらえる?」
「……はい」
「気をつけてね」
「はーい」
ちょっとまだ踏ん切りがつかない感じがあったが、渋々感があったが、なんだかアストレアに耳打ちしているような気がしたが、ベルはアイズの元までやってきて準備するから待っててほしいとだけ言って用意を済ませて出発。そして今に至る。
「ここで何するんですか?」
そして、ベルは何も知らない。
アイズはちゃんと説明することを省いてしまっていたからだ。
「えと、君に会いたい人がいる? から……私は、その案内……かな」
「?」
(見られてる……?)
何か視線のようなものを感じて、剣の柄を掴む。アイズは表情も何も変わらないが、いつでも抜剣できるようにはしているようだった。しかし視線のようなものはすぐに消えてなくなり、気のせいだったのかとベルは首を傾げた。
森の中を進む。
アイズは時折
「あそこかな」
「誰か、いる?」
気配を感じて警戒しつつも歩を進めていく。
すると、木々が開けた場所に辿り着いて、ベルのことを待っているらしい人物に出会った。くすんだ金の長髪の毛先は青みがかっており、アマゾネスが好むような
(どことなく、アイズさんに似ているような……?)
ベル達がやってきたことに気付いた彼女は深々と頭を下げて笑みを作った。どことなくアイズを思わせる相貌にベルは隣にいるアイズをちらりと見て、そしてまた彼女のことを見た。
「こんにちハ……以前、貴方に命を救われた……レイ、といいマス」
「……アイズさん」
緊張しているのかぎこちない喋り方。
ベルは気になって、アイズに声をかけた。アイズは短く反応して次の言葉を待った。
「アイズさんって生き別れのお姉さんとかいたりしますか?」
それが率直な意見だった。
アイズよりも年上だろう女性。
しかしどことなくアイズのような雰囲気を感じることから、ひょっとしてなんて思ってしまう。種族がそもそも違うのだから当然、違うのだろうが聞いてしまったのは仕方のないことだろう。アイズは視線の先にいるレイと呼ばれる『妖精』をじっくりと見つめてから、頭を振る。
「そういうのは……君の、お義母さんの方だと、思うよ?」
「―――――」
「あ」
あ、しまった。
心で思ったことをそのまま言葉にしてしまっていたことに自分で驚いて、嫌な予感がした。ベルは目を見開き、口を開いたまま固まってしまっている。またか、またなのかアイズ! と心の中のリヴェリアが激怒するレベルのやらかしをしてしまったと自分でもよくわかった。というか他人のこと言えないし……とアイズはダラダラと嫌な汗を流す。頬を滴り、喉を唾が通り過ぎ、谷間を伝わる汗の感触さえ生々しく感じる。視線の先にいる『妖精』もまたこの微妙な空気を感じ取っているのか笑顔のまま固まってしまっている。
「ご、ごめっ、ち、違うの、ベル、今のは、違うの、そんなこと言いたかったんじゃなくって!?」
すぐに弁明しなくては…。
大慌てで上手く言葉にできないアイズ。
ベルはぷるぷると震えていたかと思うと、瞳を潤ませたままアイズに吼えた。
「アイズさんきらい!」
「っ!?」
ズンズンとアイズから距離を取り、
「え、え、え?」
「行きましょ、レイさん!」
「え、しかし、え……えぇ!?」
振り返ったベルの瞳はまだ潤んでいた。
アイズは時が凍り付いたように動かない。
レイは戸惑っている。
ベルはアイズへと振り返って、言った。
「あんな、『身体が良いだけの女の子』放っておきましょう!」
「え、えぇー!?」
ズンズンと感情に促されるままに進んで姿を消していくベルに、レイは申し訳なさそうに、それでいて同情めいた眼差しをアイズに向けてお辞儀をするとそのままベルを追いかけて行った。アイズは時が戻ったようにフラフラと近くにある椅子として使えそうな丁度いい岩の上に腰を下ろすと、まるで真っ白に燃え尽きた戦士のように項垂れて動かなくなった。
1人落ち込んで帰ってきたアイズから事情を聴いたリヴェリアは雷を落した。
「アイズ、どうしてお前はいつもそうなのだ!?」
ティオネはアイズに助言する羽目になった。
「馬鹿ねえアイズ……いいわ、私がアドバイスしてあげる」
× × ×
同時刻、18階層。
森の中を進む2人の冒険者達の姿を見てフェルズはレイに頷いた。
「……あとは、レイ、君次第だ。できれば人類と君達との融和の第一歩とならんことを願う」
『は、はい……頑張りマス』
「喋り方にも注意してくれ。おかしな話し方だと、違和感を抱かせてしまうからな」
『ええ……わ、私は妖精、私は妖精、私は妖精』
正直、ローリエ的には今のレイの格好を突っ込んでやりたい気持ちではあった。何せ今のレイは妖精の姿だからだ。触れると魔法具の効果が消えてしまうとはいえ、見てくれた自分でさえ見惚れるくらいには美しい。しかし、しかしだ。アマゾネスが好むような
「ちょ、ちょっと待ってくれ……なぜ、【剣姫】がいるんだ!?」
『彼だけではないのですカ!?』
『キュー、キュキュー!?』
『キャーイキャーイ、ジュピー!?』
森を進む2人組。
しかし彼等彼女等が望んだのは、ベルなる少年1人だけ。2人で来るなんて聞いてないとばかりに怪物達は慌てふためく。そして視線に敏感なのか、見ていた者の方へと顔を向け、兎型の異端児はサッと身を引っ込め、そして他の怪物達も同じように視線を切り、物陰に隠れた。冷や汗が流れる。
「おかしいな……私は確かに18階層に連れてきて欲しいとは言ったが、地図の場所まで一緒に来いとは書いていなかったのだが」
「来てる、来てるんだが!?」
「む……いや、レイ、もう行くしかない! 今の君は妖精、バレることはない……筈だ!」
『え、エェェ!?』
仲間達に背を押されるようにしてレイが待ち合わせ場所に追いやられる。バレたら全力でレイを救出し、後日2人には謝罪しよう。そんなことを胸に秘めながらフェルズは成り行きを見守ることにした。
<アイズさんって生き別れのお姉さんとかいたりしますか?>
「!?」
「確か素材に【剣姫】の魔力が使われているとか言っていなかったか? 早速バレそうになっていないか?」
「だ、大丈夫だ……まだ慌てるような時間じゃあない」
雰囲気だけで、どっか似てるなあ程度で気づくのかとフェルズはヒヤヒヤ。そんな中、怪物の仲間達はレイがしっかりと白髪の少年かつ命の恩人に挨拶できたことに声を潜めてはしゃいでいる。まさか恩人があのような可愛げのある少年だとは誰も思っていなかったらしい。
『レイってああいう雄ガ好ミナンだ』
そんな声が聞こえた気がした。
フェルズだってそう思う。
出会ってばかりで日の浅いローリエだって同じ思いだ。
「「「「レイって白髪赤眼年下ヒューマンが好みなんだ」」」」
知らなかったよ。
始めて知ったよ。
びっくりだよ。
そんなことを皆が思っていた頃、件の少年は吼えたのが聞こえた。
<アイズさんきらい!>
その言葉を最後に、アイズは動かなくなった。
ズンズンと歩むベルに続いてレイが申し訳なさそうに後を追って消えていった。結果オーライといえば結果オーライだが、何だろうか……皆が、『お通夜ムード』もいいくらいに気まずそうな顔をしている。おいどうするんだ、この空気。と突き刺すような視線をローリエがフェルズに向けるがフェルズだってどうすりゃいいのかわかったもんじゃない。
<あんな、『身体が良いだけの女の子』放っておきましょう!>
なんだそのパワーワードは、とフェルズとローリエは思った。確かにアイズの容姿は美しい。それこそ女神にだって劣らないくらいには。というか2人の関係はいったいなんだ、この間私のラボでイチャついていたこともそうだが、ひょっとして
「「「「「う、うわぁ」」」」」
まだ名前もない
『金髪の子かわいそう……』
誰もそれを否定も肯定もしなかった。