A.ベルが直接絡んでいるわけではないから。
何を言っているのかと、聞き間違いかと…思った。
目の前の人物はちょうど『
――問.
時間が流れる。
生暖かい夏の風が走った。
何を聞かれたのかようやく理解したときには、ガラァン、ガラァン!!と空を震わせる、けたたましい鐘楼の鐘の音が鳴り響いていた。肩を揺らす3人。質問をしてきた女性が迷宮へ振り返る。アイズとベルは鐘の音の発生源であるギルド本部のある方へと振り返る。そして、舌打ちでもしたような女性が慌てて迷宮に戻ろうとしたとき、アイズが口を開いた。
「私は――――」
「………?」
アイズの声が聞こえたのだろう。
女性の足が止まり、ベル達の方へ振り返る。律儀にも質問に答えようとするアイズは、続きを言おうとして、ぎゅっとベルに手を握り締められていた。それは思っていたよりも強くて、『男の子』なんだと思わせるほどの力強さだ。
「ベル?」
「冗談じゃない」
「!?」
冷え冷えとした声音だった。
アイズの言葉を遮って、質問者たる女性にどのような意図があろうともバッサリと斬り捨てるかのように、ベルは腹の底で眠っていた炎が燃え上がったかのように言葉を紡いだ。それは昔から知っているアイズでさえ知らないベルの声だった。
「アルテミス様にあんなことをしておいて……」
「!」
痛む頭を振り払うかのように頭を振って、ベルは言う。
「お義母さん達を苦しめておいて……」
「……」
「怪物達さえいなければ、誰も泣かずにすんだのに……生きる理由? 僕達と変わらない感情? そんなの、認められるわけがない。 僕は、
「――――」
「絶対に……許さない……!」
雷に撃たれたように、一歩、二歩とよろめいて後退する女性。
それはベルの奥底で眠っていた『復讐心』でもあった。
本人に自覚があるのかはわからないし、アイズはアルテミスとベルがどう関係あるのかも知らない。ただ、グランドデイの一件の後に再開したとき、どうしてか泣かせてしまったことは記憶に新しい。アイズの手を握るベルの手は次第に力が強くなっていた。
「そう、か……答えてくれて、ありがとう。感謝する」
絞り出すような声で、女性が言った。
目の前にいるのは女性で、エルフで、エルフは『潔癖』で『高潔』で『高慢ちき』。そのエルフがそんなバカげたことを聞くなんて普通じゃないとベルは思う。迷宮へと走って、そして、すぐに止まって、何かを追いかけて走り去る女性の背を見つめていたベルは、胸に手を当てて、煮えたぎるような感情を押し沈めた。そして、手をぐいぐいと引っ張られ、ハッとして、握っていたアイズの手を離した。
「ご、ごめんなさい」
「……ううん大丈夫。それより、【ファミリア】の本拠で待機だって」
「え?」
「聞こえて……なかったの?」
痛かっただろうか。
そんな心配など無用とばかりにアイズはギルドのある北部の方角に顔を向けて言った。つられてベルもそちらへと向く。打ち鳴らされている尋常ではない激しさの鐘は、まるでかき鳴らしている側の人間達も動揺を来しているかのようで、それが聞こえないくらいにはベルは動揺していたのかもしれない。アイズはベルが言葉を遮ったおかげで、周囲に気を配れたというだけで、聞いていなかったベルに放送で聞こえたことを教えてくれた。
『――緊急警報、緊急警報!! オラリオに所属する全【ファミリア】はギルドの指示下に入ってください! ギルドは、
作動していたのは、ギルド本部にある魔石製品の大型拡声器だ。ギルド職員、声からして女性のもので、その女性の声が都市全体に響き渡っていた。
『18階層リヴィラが
誰もが時を止めた報せを他所に、酷く狼狽した声の後、放送が続いた。
『市民、及び全ての冒険者のダンジョンの侵入を
事態の切迫を物語る激しい呼びかけが空を駆け抜けていった。アイズから聞いたベルは、今、自分達に質問をしていた女性はダンジョンに入っていかなかったか? とダンジョンの方を見て、自然と向かおうとした。考えるよりも行動が先に出て、そして、それをアイズが手首を掴むことで止めた。
「ダメ」
「で、でも」
「追いつけるかもしれない。だけど、ダメ。今は指示に従わないと」
「……」
「君が戻らないと、アリーゼさん達がきっと、心配するよ?」
「それは……」
それは、とても困る。
耳に響く鐘楼の音は消えることを知らず、きっとこの後【ガネーシャ・ファミリア】や【アストレア・ファミリア】というまさに都市の秩序を担っている派閥が駆り出されることだろう。そんな時にベルが行方知れずともなれば、彼女達が動けなくなってしまうことくらいベルにだってわかる。質問者の女性を追いかけるべきだという自分とそもそも素顔がわからないのだから追ったところで意味はないという自分。いろいろな葛藤の後、ベルはアイズの言う通り、本拠に戻ることにした。
× × ♪
鐘楼が鳴る少し前
「~♪」
レイは歓喜を胸に囀り、迷宮から地上へ向けて弾むように歩んでいた。ベルとの交流を何度も交わして、色々なところを連れて行ってもらった。そのどれもが新鮮で、貴重で、好奇心をくすぐってくる。何より、閉鎖的な迷宮よりも地上の空はとても広くて、綺麗で、限界などない青空を何度見ても涙が零れそうになる。自分だけがこんなに良い思いをしてよいのだろうかと思う事さえある。人類を嫌っているグロス達は「いい加減にしろ」だとか「ほどほどにしろ」だとか言うが、それもこれもレイのことを思ってのことだ。もし本来の姿がバレるようなことがあれば、それこそレイの命がないとそう考えているのだろう。それでも、やめられなかった。
「ああ、とても楽しみです」
今日は会う時間をズラして、『星空』を見に行く約束をした。
長く迷宮を彷徨っていたと言えばベルは困ったように「わかりました」と言って応じてくれた。無理がある嘘だと思うが彼はそれを指摘しなかった。騙しているようで胸が痛いが、楽しみにしていたことは違いなかった。話を聞いてくれるフェルズやローリエは何度も頷いて無事を安堵してはアドバイスなんかをくれる。手を使わないという縛りは中々難しいが、他者からは包帯を巻いているように見えているおかげか誤魔化すのは簡単だった。
地上の光が見え、スキップするように階段を上がっていく。
身綺麗にした、おかしなところはない。
魔道具に魔力を十分に補充してもらった。
だから大丈夫。
今日も大丈夫。
『
暗い空の中に散らばるキラキラとしたものを、『星空』とやらを見るだけ。何も問題が起こるようなことじゃない。そう自分に言い聞かせて、そして楽しい日々というやつは唐突に終わるのだと教えられたのだった。
『冗談じゃない』
「―――――え?」
聞き覚えのある最近できた友人のエルフの少女の声がした。
そのあとにベルの声が聞こえた。
聞き間違いはない。
でも、この短い期間とはいえ、聞いたことのない声音だったのは確かで『怒り』の感情があるように思えた。笑みを浮かべていた口角が下がっていく。聞いたことのない鐘の音が耳朶を震わせた。動悸が激しく、気づけば地面を見つめて一歩も動けなくなっていた。
『怪物達さえいなければ、誰も泣かずにすんだのに……生きる理由? 僕達と変わらない感情? そんなの、認められるわけがない。 僕は、
大切な人を失ったらしいことが聞こえた。
瞳が揺れて、呼吸さえ忘れて、一歩、二歩と後退してしまう。
『絶対に……許さない……!』
それが聞こえてきた後、レイは走り出していた。
迷宮へと向けて。
逃げ出したのだ。
時折すれ違う冒険者達が「そっちに行くな!」と言っているような気がしたが、知ったことではなかった。そして後ろからやってきた誰かに右腕を掴まれて、足を止められる。
「待て、落ち着け、レイ!」
『――――っ!』
魔道具の効果が溶けた。
人の形に見えていた腕は、怪物らしい翼へと戻った。
所詮は
『何故、彼にあのようなコトヲ……!? 貴方ハ、協力してくれルのではなかったのデスカ!?』
「………」
『地上に想いを寄せていることヲ知っていテ、このような仕打ち……どうして、ドウシテ……!』
「ならば聞くぞレイ! いったいいつまで、彼を騙し続けるつもりだ!?」
『………っ!』
ベルなら、という楽観がひょっとすればあったのかもしれない。
けれどあの声音から、それは違うとわかる。
むしろあれが普通なのだ。
「君の仲間達だって、君の話を聞いて喜びこそすれ、君の身を何より案じていた。だから私に頼んできたんだ、『地上のヒトがどう思っているのか』聞いてきて欲しいと!」
『………』
涙が頬を伝って落ちていく。
力が抜けて崩れ落ちる。
ローリエが肩に手を当てて、周囲を気にしながら、真摯に話してくれる。身を案じた仲間達がローリエに頼んで、そしてローリエが聞いただけ。タイミングが悪かっただけだった。それでもレイはこの時、冷や水をかけられたように項垂れ、消沈していた。
「君の姿は見られていない。だから、だからまだきっと手は……」
『あるわけ、ないデショウ……!』
「……レイ?」
『先程から鳴り響く、この音は何なのですカ!?』
「!」
レイを追うのに必死だったローリエは思い出したように肩を跳ねさせる。鐘楼の音は迷宮の中にまで響いていた。地上に近い場所だからだろう。これは異常事態を報せるものだ。詳細はさすがにローリエにもわからないが、道中すれ違う冒険者達が自分を止めようとして、引き返させようとして言っていた言葉は片隅にあった。
「
それが意味することは、なんとなくわかる。
仲間達の身に何かよくないことが起きたのだ。
深呼吸を繰り返して、無理矢理にでも気持ちを切り替える。
立ち上がり、腕で涙を拭うようにして、自分の夢など敵うわけがないと翼を見て、自嘲の笑みを浮かべてレイは羽ばたいた。
『ローリエ、アーデを連れて地上に戻ってくださイ』
「アーデ? あの、小さい子か?」
記憶にある『アーデ』なる人物。
元は地上にいたらしいが、事情あって異端児達と行動を共にしているのだという。しかし時折姿を消し、そして、何度も姿を変えている。おかげでローリエは、『アーデ』の本来の姿を知らない。
『彼女ハ、人間……私達といるべきではナイ』
「………君は、どうするつもりだ?」
『仲間達が心配でス。助けに行かなくてハ』
怪物なのに仲間想いで、複雑な気持ちになる。
それに、その『アーデ』とやらのことを頼まれて断れるはずもなかった。頷き、ローリエはレイを追うように走り出していた。
× × ♪
歌声が響く。
女神の歌声だ。
宮殿の中でも高階に位置する広間。赤絨毯が敷き詰められたどこか玉座の間を彷彿させる室内で、女神は巨大な
金の長髪に緑の瞳。
全裸に必要最低限の布しか纏っていないという感じの格好にところどころに真珠があしらわれている。彼女の名は、美の女神アフロディーテ。本来は
「♪」
我が物顔で彼女が、本来の主であるイシュタルの館を我が物顔で占拠している理由など1つだ。
「アフロディーテ様、ただいま戻りましたー!」
「おかえりなさい、サンドロ。それで、どうだった?」
「はい……正直いいますと、なんの成果も、得られませんでしたぁーーーーーッ!!」
眷族である
『XXファミリアの〇〇さんがランクアップしたー』
とか
『△△ファミリアと☆☆ファミリアが戦争遊戯したらしい』
とか、そういった情報は流れてくるがオラリオの細かい内情など知らない。
「なに、じゃあアンタ、そこらの女にナンパ吹っ掛けてただけってこと?
「いやいや、そうは言いますけどヘファイストス様にビビッて隠れてるアフロディーテ様に言われたくありませんよ!?」
「は? 別に、ビビってないし……ビビってないし!」
((((めっちゃビビってる……そんなアフロディーテ様、きゃわわ☆))))
美男美女集団に囲まれる美神アフロディーテは、顔を蒼白させ、ガクブルと震えわせ、それを見た眷族達が自分達の主神ポンコツ可愛い…でトゥンク。そう、アフロディーテはオラリオにやってきたのはいいが、元カレ? 彼女? であるヘファイストスに見つかることを恐れて隠れていた。そして眷族達に命じて現在のオラリオの内情を調査させていた。昨日今日やってきたばかりの彼女の眷族達からしてみれば、何が彼女の求める情報なのかなんてわかるわけがなかったのだ。
「し、しかしイルカといえばこのような情報を……」
「聞かせなさい」
それでも眷族達はナンパに逆ナンに、あれやこれやと持ちうる手練手管を使って自分達よりも強い
「『水着姿の【
「誰得よそれっ!!」
ちょっと気になるじゃない!
アフロディーテは叫びながら拳を卓に叩きつけ、痛みに悶絶。眷族達も同様に誰得な情報を持ち帰ってきた仲間に対してとても悲し気な表情を向けた。そして、想像させんなと非難の声をあげた。
「いいこと? 私はオリオンを探しているの! ついでにヘスティアもね! とりあえずその2点でしょう!?」
「最初に言ってくださいよぉ!?」
「言わなきゃできないとか話にならないわよ、アンタ達社会人何年目よ!」
「「「ヤメテ、そういうこと言うの、ヤメテ、ヤメテクダサイ! どうしてか胸が苦しい!!」」」
アフロディーテは
「イシュタルはどうしていなくなったのか、どこへ行ったのか……眷族を残していることがおかしいわ。アストレアの眷族にビビッて夜逃げしたってんなら、眷族を連れていくものでしょう? 恩恵を残したまま雲隠れだなんて仮にも『愛』を司るイシュタルが眷族に対する『愛』を放棄したのと同義、あり得ないわ」
それにアフロディーテは気になっていることもあった。
それがヘスティアのこと。
【イシュタル・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の戦争遊戯が行われるその前に迷宮都市オラリオは『魅了』を受けた。その情報はヘルメスから得たが、気になるのはそれを解除したのが三大処女神のヘスティアではないということだ。
「オラリオにいる三大処女神はヘスティアただ
ヘルメス曰く、「不意打ちだった」というのであればいくら三大処女神であるヘスティアといえども、処女神であることを除けば『じゃが丸君』を揚げるだけの乳のでかい女神だ。堕とされていてもおかしくはない。何より、解除が行われた際に見えたものが、『炎』ではなく『矢』だったのだからその点も含めてヘスティアではない。ヘスティアではないが――――。
「戦闘型じゃないヘスティアでも、アルテミスに頼られなかったことといい、魅了を防げなかったことといい、精神的なダメージは大きいでしょうね」
アルテミスだったら。
アテナだったら。
そんなことを考えても意味はない。
ヘスティアは彼女達と比べても弱いし地味な神だ。未だに眷族がいないことには驚かされるが、バイトしていることもどうかと思うが、いやていうか
「アルテミス……あんた、本当に死んだの?」
窓に手を添えて、呟く。
どこかからけたたましい鐘楼の音が鳴り響いてきた。
ならばこれから、何かが起こるのだろう。
今までが、嵐の前の静けさだったのだ。
「『ダイダロス通り』で不審火騒ぎがあったらしいわね」
「は、はい! 犯人は不明、憲兵達が到着した頃には鎮火。鎮火させたのは、近くにいた者が……」
「ま、放置して大事になっても困るものね当然といえば当然でしょう」
まるで自分の存在を報せるような、陰湿なそれ。
オラリオに来たばかりのアフロディーテにだってわかる。それはまるで嵐の静けさを意味しているような気配で、刻一刻と迫ってきているようだった。何かが起きようとしていることは分かる。なら、他の神がわかっていないはずがない。
「いかがしますか、アフロディーテ様」
「……話の通じる子だけを優先的に避難させなさい。『ダイダロス通り』に近いこの歓楽街は放棄するわ」
「?」
「話を聞かない馬鹿は放っておけってことよ。そこまで責任は取れないし取るつもりもないわ。それに『ダイダロス通り』で起こっている不審火騒ぎ……あれは予兆でしょう? なら、近くにある歓楽街なんかも危険と判断するべきよ、わかったら動きなさい!」
「「「は、はいよろこんでー!」」」
忙しなく走り出す美男美女の眷族達に目を向けていったアフロディーテはまた、何かが起ころうとしているオラリオの景色をその瞳に映した。
× × ♪
星屑の庭
「嗚呼、ベル様っ!」
ひしっと抱きしめられる。
着物越しに春姫の柔らかさが伝わってきて、ドキっとしてしまうベル。どうやら帰還が最後だったのは自分だったようで少なからず心配させてしまっていたらしい。
「は、春姫さん、僕は大丈夫ですから」
「で、ですが……! 白髪の少年が金髪金眼の剣士に追いかけまわされていると噂になっていて……! さながら捕食者に追われる小動物の如く……! 春姫はもう、ベル様の操が心配で心配で!」
噂が流れるの速すぎませんか?
ベルは頬から汗が流れるのを感じた。
姉達に助けを求めて目を向けたが、にんまりとした笑みを浮かべるだけ。しかし鳴り響く鐘楼の音から、アリーゼが手を叩いて切り替えさせた。
「ほら春姫、ベルは無事だったんだし離して上げて頂戴。 ベル、何が起きてるかはわかってる?」
春姫がようやく離れて、ベルはアリーゼに頷き返す。
ダンジョンの中でリヴィラが壊滅するほどの異常事態が起きているのだ。以前は黒いゴライアスで18階層自体が大変なことになったが、あの時も地上ではこういった騒ぎになっていたのだろうか。
「ベルが戻ってくるのとすれ違いになっちゃったけど、ギルドから通達があったわ。【ガネーシャ・ファミリア】と一緒に18階層へ向かって事態を収束させてほしいそうよ」
皆、ベルのことを待っていたのだろう。
いつでも出れるように武装を整えた格好をしているし、どこか空気がピリピリとしたものになっていた。
「私達は今からダンジョンに行く。春姫、アンタは地上に残ってアストレア様と一緒にいて頂戴。『
「で、ですが……」
「春姫、お前はまだ派閥に加わったばかりの身。そんなお前を連れていくことは今の我々にはできん」
「輝夜の言う通りだ。私達はまだ、【イシュタル・ファミリア】のように貴方の妖術を運用しきれない。何が起こるかわからない以上、危険に足を踏み入れさせることはできない」
輝夜とリューに言われ、他の姉達の顔を見て皆が似たり寄ったりなことを思っているのか頷いているのを見て春姫はアリーゼの言う通りにすると頷いた。尻尾は垂れ、耳は畳まれて、あからさまに落ち込んでいるのがわかって周囲からクスリと笑みがこぼれた。そしてアリーゼはベルを真っ直ぐ見て、言葉をつづけた。
「ベル、あんたは来て欲しい。理由はあんたの魔法が制圧にもってこいってくらい強力だから。高い所に浮いちゃえば索敵もできるし……でもこれは団長としての判断」
キリっとした表情から柔らかないつもの姉のような表情に変わったアリーゼはベルの両手を己の手で包み込んで言う。
「姉としては、アストレア様と春姫と一緒にいてほしい。ベルと一緒にいればアストレア様も春姫も安全だって思うし……危険なことに巻き込ませたくないから。だから、選んで頂戴」
「選ぶ……?」
「そう、ベルがどうしたいのか、ベルが選んで。私達と一緒に来るか、アストレア様達と残るか」
まだ派閥に加わったばかりで戦闘能力も碌にない春姫とはベルは違う。もうベルは、冒険者なのだ。危険なこと、冒険を繰り返して、昇華を成して、今がある。それでも姉としてはベルを巻き込みたくないというのが正直なところ。そう思うくらいのことが今、起きているのだとアリーゼ達はこれまでの積み重ねで感じ取っていた。ただの冒険では済まないと察していた。いままでこんなに選択することを迫られたことがあっただろうかとベルは周りの姉達や女神の顔を見渡した。誰も助言はしない。あくまで自分で決めなくてはいけないのだと彼女達の目が語っている。時計の針が進むように、心臓の音が鳴っているのを感じて、アリーゼの瞳をまっすぐ見つめる。不安がないといえば嘘になる。正直に言えば怖いとさえきっと思っている。
(レイさんは……まだダンジョンにいるのかな……)
微笑む綺麗な顔をしたエルフの女性を思い出す。
両腕に包帯を巻いて、どれくらい迷宮を彷徨っていたのかと思うほどに地上のことを知らなくて、連れていく先々で好奇心に瞳を輝かせる田舎者のような彼女。彼女との待ち合わせはいつだって迷宮の出入り口のある『
(無事、だよね……きっと……リヴィラの人達も……でも……)
もし、地上に帰還していなかったら?
そう思うと放っておくことはできなかった。
ここで地上に残って、結果、彼女達に会えなかったら?
きっと、後悔する気がした。
「僕は……」
「ええ」
一度、アストレアのことを見た。
彼女はベルの考えなど分かっているかのように微笑んで、頷いてくれた。
「アリーゼさん達と、一緒に行きます」
「……わかったわ、じゃあ、準備してきなさい」
「はいっ!」
パタパタと本拠の奥へと引っ込んで行きいそいそと準備を整える。剣に魔剣に防具を纏い、アリーゼ達と本拠を後にする。
ベルの装備
・探求者の剣。
・魔剣(雷属性)。
・アルテミスの遺剣。
・
・金色の装具。