下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

102 / 122

気落ちしないで。出来ないことだけを見つめずに、自分の中にある強みをしっかり育ててあげて。
この町には金で変えないもので溢れている。みんな馬鹿みたいに人間臭くて、それでも周りの目なんか気にしないほどに夢中になっててさ。だけど、私にとっての本当の格好良さってそこにあると思うの。値札のつけられない生き様、みたいなさ。
テレビに映るものだけが主人公じゃないよ。


11章.魅力
102.初詣


 

下町の鶴

11章-魅力-

☆Episode.102「初詣」

 

年が明けて新しい一年が始まる。今年の抱負を聞かれたら、とりあえず美味しいものをいっぱい食べたいと答えるつもり。そうするとこで多少は食の運がこちらに味方してくれると信じているから。朝起きれば挨拶回り、親戚との会食だの何だの。新年早々、忙しい人付き合いに追われてさ。

 

「どう?河島」

多くの人で賑わう神社の境内。赤い浴衣を身に纏い、河島の前でくるりと体を一周させる。押し入れの奥で長いこと眠っていた貴重品だから気分がいつも以上に良い。ええ。割と楽しんでるつもりだよ、正月イベントってやつ。

「おん。いんじゃない」

自信満々に見せびらかしたのに、思った以上に素っ気ない返しをされてムードが押し潰れる。

「何それ。せっかく時間かけて着付けて貰ったのに」

「え、まあ可愛いと思う」

「そうだよ、そうそう。そういうのが欲しかったの。ちなみにどの辺が可愛い?」

「面倒臭いぞお前」

「ひど...」

季節のイベントなんか知ったこっちゃないとでも言わんばかりの河島の格好に目を細める。何だよ、女の子が一生懸命おめかしして会いに来てるのにジャージ姿にジャンパーってお前...。そんなんだからモテないんだよ。そんなんだから私くらいしか関わる女子いないんだよ!....いや待て、今のは何か癪だな。

「河島も甚平とかそういうの持ってないの?」

「冬に甚平は寒すぎるだろ」

「まあ...。いや、そうじゃなくてさ!何かこう、あるじゃん。季節のイベントみたいな」

「寒さ凌げて楽なら正直何でも」

「もういいよ...聞いた私が馬鹿だった」

がっかりで言葉も出なくなる。もう知らない。三分くらい口聞いてやらないことにした。

その三分間を待たずして、私たちは瑞希たちと合流した。みんなで集まってお参りして、一緒に屋台を回ろうという約束。瑞希は綺麗な水色に朝顔の模様、明希は紺色の大人びた着物。みんな晴れやかな浴衣を身に纏っていて、河島だけ場違いな雰囲気を醸し出している。ざまあ見ろと言ってやりたいところだが、相変わらず河島は気にする様子もない。

「二人とも浴衣姿かわいいね」

「つるりんも何それ、めっちゃ似合ってるね~」

そう女子だけで褒めあう姿をみて、少しくらいは悔しがってくれたら良い。

「ごめん、遅くなった!」

しばらくすると遅れて山岸がやってきた。黒い浴衣姿で息を切らし、私たちの前に顔を見せる。ほらやっぱり、山ちゃんだって浴衣じゃないか。女子の褒め合いにまぜてやり、呆然と眺める河島にこれでもかと勝ち誇った視線を飛ばしてやった。

 

「さぁーて、屋台屋台!」

ようやくメインディッシュにありつける。気分は完全にお祭りムードで、立ち込める美味しそうな匂いに完全に脳が支配されていた。焼きとうもろこし、じゃがバター、フランクフルト。定番のベタなメニューですら口から涎が止まらない。いつ見ても後ろ指を差したくなる値段設定だが、考えなしに財布の紐が緩んでしまうほど、この祭りの雰囲気というものは恐ろしい。いくらお金を持ってきても足りないよ。そうやってフードだけに一瞬で二千円を消し飛ばし、お金の減った分の憂鬱を美味しさで相殺させる。ご覧ください、これぞメンタルの永久機関というものであります。

「んふふ~、サイコー」

お腹がちょうど良いくらいに膨れてきたタイミングで、今度はゲームコーナーに足を止めた。こういうのに関しては男の子はやたら熱心で、狙った景品を確実に取りに行こうと必死になる。そんな光景は後ろから見ていても案外楽しいもので、山岸が犬のくたくた人形を獲得した時は思わず歓声を上げた。

「イヌ狩った」

「おお、凄い...」

得意気な表情を浮かべて笑う山岸。その景品を一番きらきらした目で見ていた瑞希に気付き、彼は迷いなく彼女にその景品を渡す。

「え、え?」

と、突然の出来事に戸惑う瑞希に

「引き取ってくれ、あんたなら良い飼い主になれる」

などと格好をつけて親指を立てた。

「え...いいの?」

「構わんさ」

「ごめんね、ありがとう」

瑞希はぬいぐるみに視線を落とすと、はにかんでそれを抱きかかえた。私はそんな山岸の臭くも様になってる小芝居に可笑しくなって、こつんと肘でつついてやる。

「よおよお~、随分とイケメンじゃないか貴様ぁ~」

「へへ、いつものことだよ。なーんて、ははは」

調子に乗り始めたぞコイツ。

河島もきっと、山岸に良いところを取られて悔しがっているであろう。少しその顔を拝んでやろうと目をやると、河島は射的で獲物に向けて連射していた。

パン...カチャ....パン....カチャ....

何だこの光景。復讐ものの最終話か?

単発の銃に素早く弾を込めては撃ってを繰り返し、お目当ての景品は前後にぐらぐらと揺れ始める。そして片手を伸ばし、最後の弾でトドメを差すと、大して喜んだ表情も見せずにたった一言

「食料確保」

と言って、お菓子の缶を駅弁屋みたいに抱えた。どんだけ切羽詰まってんだコイツ。一回三百円の射的で腹を満たそうとするなんて...。

「河島、お金ないの?」

「いや別に?」

「あるんかい。それならもっと美味しいのいっぱいあるのに」

「分かっとらんなあ。自力で得る喜びってのがあるんだよ」

「それで得られなかったらどうするのよ」

「ま、そん時はそん時だな」

ギャンブラー精神が過ぎる。男子ってどうしてこうも賭け事に熱くなれるんだろうか。まあ、数回で手に入れられたのならそれで良いけど。河島は手にしたお菓子を無心でムシャムシャと頬張っていた。

 

みんなして歩き疲れた頃、私たちは境内の端で力尽きるように腰を下ろした。

「もう動けない...」

「くたくた...」

こんな時期のお祭りだからこそ、人の波に乗れば数メートル進むだけでもやたらと時間がかかる。人混みをかき分ける度に見失いそうになる友達を必死に追いかけているうちに、少しずつ溜まってきていた疲労が限界値に達したのだ。

「明希、大丈夫?さっきから全然会話してないけど」

「大丈夫。少し休ませて」

瑞希は心配の声をかけるも、目がほぼ死にかけている。山岸は真っ白に燃え尽きていて、もはや状況を聞くまでもない。唯一生き残ってるのは私と河島だけで、河島に関しては今日会った時の顔色をずっと維持している。そういえば今の今まで感情の高低が全然なかった気がする。

「とりあえずみっちゃん達さ、何か軽いもの買ってくるよ」

「ありがとう」

そう言って小さなおつかいを受け持った。しかし、この人混みの中を一人で突っ切るのも正直しんどい。

「河島。一緒に来る?」

淡い期待を込めて一応聞いてみる。すると

「やぶさかではない」

声にも顔にも感情がない状態で返答がきた。これはどういう意味で言ってるのか読み取れないが、とりあえず肯定と見なして腕を引くことにした。

 

「河島さ、」

「おん?」

「何お願いしたの?」

「んー、気楽に過ごしたいとか、そういう感じ」

「うわ、適当だなあ。ま、でもそれが一番なのかもね」

「あと、出来れば三年もお前とクラス一緒がいい」

「え?」

急に飛んできた言葉に、思わず河島の方を向く。彼は何食わぬ顔で

「だって話し相手いねえんだもん」

と返してきた。何のつもりかと思ったが、馬鹿馬鹿しいくらいに河島らしい答えで笑えてきた。

「ふふ、ばーか」

「何がだよ」

「べっつに~」

軽いものとは言っても、お祭りのフードはやたらとこってりしたものばかりで選ぶのに迷う。とりあえず目についたものを買っていって、それであとは皆に選んでもらおう。瑞希たちが好きそうなものって何かな。疲れてたら甘いものが欲しくなるんじゃないかな。そんな議論を河島とかわしながら、数分後には落とさんばかりの綿菓子を指で支えていた。

「と、とととりあえずこれなら文句は言われんだろう」

私が三本、河島は一本という風に割り箸の取っ手を持つ。河島は自分の分の焼き鳥をもう片方の手で持っていた。

「はあ、これじゃあ入れ違いでぶっ倒れだよ...」

「まあ向こう戻ったらゆっくり休もうや。どうせ皆で綿菓子食べるだろうし」

「そだね。もうひと踏ん張りだあ」

お使いに出たばかりの時はそうでもなかったけど、言うほど彼女らとの疲労蓄積度は大差なかったみたいだ。

「はあ、お腹減った...」

「お前さっきまで色々食ってたよな?」

「あれは軽食だよ。あのカロリーじゃ小腹くらい空く」

「随分と都合の良い胃袋だな...」

河島が半ば呆れた顔でこちらを見てくる。

「お金ももうすっからかんだしさ...」

「はあ...俺の一口いるか?」

「え、ほんとすか!」

河島からのお情けに目が輝く。

「おん、ほら。」

「ごめん、ちょっとじっとしてて。手がふさがっててさ」

「....」

「あーん、はむっ...」

垂れてくる横髪を気にしながら、河島の焼き鳥をパクっとついばんだ。口に広がる旨味に、気分は分かりやすいほど回復していく。満面の笑みで河島にお礼を言おうとすると、彼の頬は心なしかほんのり赤くなっているように見えた。全く、さっきは唐突に妙な言葉でドキッとさせられたからな。その分だけ存分にからかってやろう。

「ふっ、照れてやんの」

 

つづく。




2024.8.26
表現追加
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。