下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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13.タンジー

 

下町の鶴

3章-策略-

☆Episode.13「タンジー」

 

「....は?」

「平穏な学校生活を送りたいなら言うことを聞くことね。」

「あんたに従うのが平穏....?」

「嫌なら好きにすれば良いけど?」

口角だけ上がっただけの表情で私を追い詰めてくる。

なんでこうなっているのかが全く分からない。

「ねえ、私いったい何をしたのかしら?」

「何をさせたことにしようかな?」

質問に答えようとしない。ずっと空気に喋ってるみたいでだんだん腹が立ってきた。

「....つまりは無実の人間に銃を突きつけて好き放題やるってわけ?」

「無実なんかじゃないよ。もし私に従えないというなら――」

「質問に答えろよ、この馬鹿。」

「ば....」

声を荒らげた。こうでもしなければいつまでも不毛な会話がつづくだけだ。

「さっきから何なの!?無抵抗の人間の弱み握ってあれこれ命令して...、「私が何したか」って聞いてんだよ、さっきからずっと!!

それなのに何?「悪いことしました~」、「そういうことにできます~」って、あんた日本語不自由か。この学校で女王様ごっこやりたいならまず、治める場所の言語くらい覚えてから出直せ、この馬鹿が。」

私が勢いに乗せて言いたいことを全部吐き出すと、彼女は目を細くして嫌悪感を出す。

「邪魔。出口塞がないで。」

そういって私がトイレから出ようとした瞬間、彼女は私の足を引っかけた。

 

勢いよく地面に叩きつけられた私を薄ら笑いで馬鹿にする藤島。

ふりかえり、その表情が目に映った瞬間、私は彼女に手を上げようと起き上がった。

しかしその途端、今度は横から何者かに蹴飛ばされる。

周りを見渡すと、複数人の女生徒達に囲まれていた。

 

藤島の命令によって、私はその女手下達に引きずられ、トイレ奥へと追いやられた。

「名取さん、ごめんなさいは?」

藤島は、奥の壁に押さえつけられた私の顔に詰め寄り、謝罪を要求する。

「何のごめんなさいか、日本語で説明して貰えるかしら。」

彼女は、私に聞こえるように舌打ちし、手下達に手を出させる。

私に平手打ちしたり、髪の毛を引っ張ったり、散々他人の手を代わりに汚させた後、最後の警告をした。

「もう一度聞くわ。私に従う気はないのか。」

口調が一気に荒くなったことに少し背筋が冷たくなったが、その顔めがけて唾を吐き、最大限の抵抗を見せつけた。

すると藤島は、頬についた唾をゆっくり拭き取り、立ち上がってこう言った。

「こいつを地獄に落とせ。」

その言葉のタイミングで手下の一人が掃除用のブラシを顔めがけて大きく振り下ろし、私は大きく目を瞑った。

 

「すいやせーん、綺麗な綺麗なお花畑があると聞いて。」

 

男性の声がトイレ内に響く。藤島と手下達は一斉にその声の方を振り向く。

私からは、こいつらが邪魔で顔が見えなかったが、それが河島の声であることが分かった。

「お前、ここを何処だと思ってんの。」

「出て行けこの野郎!!」

罵声を浴びせる手下達にも動じず、それどころか小馬鹿にしたような笑顔を振り撒きながら彼は言う。

「バラ園かあ、良いねえ。肝心の花が咲いてないけど。」

鬼のような形相で威嚇する彼女らに構わず、ずかずかと奥に向かって歩く河島。名取を囲む手下を掻き分けようとしたところで取り押さえられた。

しかし

「よお、美人。あんたのお仲間ら、マジでサービス良いな!ははは。」

藤島にキャバクラの客みたいなノリでニコニコしながら、いかにも余裕そうな態度をとった。

「何の用かしら。」

と、藤島も大人びた笑みで言葉を返す。それに対し

「ただのお花摘みだよ。」

と、そうおどけてすぐに挑戦的な表情に変え、彼女に問うた。

「そういう君こそ、俺の友達に何の用かな。」

それを聞いた藤島がクスッと笑いだす。それにつづいて手下達もケラケラと河島を笑った。

「何それ~、格好つけてんの~?ははは。」

「ねえ、貴方もしかして名取さんの彼氏志望ぉ?」

「俺、ちゃんと友達って言ったんだが...。」

彼女らは河島の反論に聞く耳を持たずに、あたかもそれに肯定したかのように押し通す。

河島は失笑しながら名取の方に首を向け、ジェスチャーで

「こいつら・頭・くるくるパーか。」

と、小馬鹿にする。

それに私がふッと笑いを溢すと、それを見た藤島が一瞬、不機嫌な表情を見せた。

ジェスチャーを見ていた手下の一人が河島の頭部を平手で強く叩いて

「馬鹿にしてんのかオラ。」

と威勢を張るが、全く動じずに

「お前ら名取に日本語指摘されなかったか?」

と、笑いながら言った。

「いいえ?仮に居残り組に指摘されても何とも思わないわ。」

「いや、思えよ少しは...。」

彼女らに困惑する。藤島は豪語するような口振りで警告した。

「居残り組程度の頭じゃ分からないだろうけど、このトイレは放課後、誰も近付かない偏狭な場所にあるの。

一時期、馬鹿なカップルがホテル代わりに使ってたことを懸念して、「お化けが出る」って噂を広めて撲滅させたのもこの場所。

そして今は私らにとって"制裁"を与えるのに一番適した場所。」

手を口元にかざし笑う藤島。あっという間に河島も名取と同じように壁に追い込まれた。

「相手が女でも、男一人にこの人数はキツいでしょ?」

と、降伏を催促する。胸ぐらを手下に掴まれた河島は

「辞めとけよ。あんたらが馬鹿にする居残り組はみんなカウンター技のプロフェッショナルだぜ?

...っていうお前が何でこんなされるがまま何だ...?」

と、ノリノリで言ったすぐに名取を残念そうな目で見る。

「プロって言う割には大したことなさそうね。」

「まあ何だ。俺らの居場所に帰してくれたら文句は言わない。」

「ええ、勿論帰してあげるわ。お土産付きでね。」

藤島は手下に臨戦態勢を取らせた。

 

「名取、お前いい加減立てよ...。いつまで体操座りしてんだよ。」

河島はそういって私に手を伸ばした。

「え....あ...。」

困惑しながらも、その手を掴んで立ち上がる。

彼は私に頷き、脱出を決意させる。それに頷き返す。

河島は最後の質問を藤島にぶつけた。

「本当にただで帰すつもりはないんだな?」

「ええ。」

それを聞いて河島は行動に移す。

立ちふさがった手下達にぶつかる前提で歩きだした。

それを手下が突き飛ばそうとした瞬間、その手を掴んで強く引き、その勢いで前に突き出る。

私は、河島が通って開いた隙間から脱出を試みた。同じように飛んできた手下の一人の腕を引っ張り、河島の元にたどり着く。

掃除用のブラシを振り上げた奴の上腕を奥に押してバランスを崩させ、ブラシを持った手が緩んだ隙に取り上げ、槍のような持ち方で出口めがけて突くように走った。

そうして先に脱出した私は河島の方を振り返る。私が脱出したことに気づいていた河島は

「行け!行け!」

と、私を逃がした。

河島にブラシを投げ渡すと、それを受け取って応戦した。

 

私は教室へ向かって全力で走った。もし角や、教室から人が出てきても、決して止まることの出来ない速さで走った。

高まった心拍のせいで息が切れそうになるのを必死に抑えながら来た道を戻り、教室へ駆け込むと...

教室は無人で、山岸の姿はなかった。

 

 

一方河島は、一番奥の個室で袋叩きにあっていた。

「男のクセして全然大したことねえな。」

「手ぇ出しても良いんだよ?ま、そうしたら学校中に噂ばらまいて退学にしてもらうけどね。」

「きゃははははは!」

服は便器の水に濡れ、身体には擦り傷や、殴打による腫れが複数できていた。

藤島がその姿を見下ろしながら言う。

「女の子を助けにきたヒーロー気取り?悪いけど私に歯向かうような奴は皆こうなるのよ。」

河島はイテテと身体を起こして、彼女らに囲まれてる中、王座に座るごとく便器に腰を下ろして言った。

「お前、学校中の憧れの的なんだってな。その容姿、テストの順位、何もかもが完璧だと。」

「フッ、今さら誉めても遅いんだよ。」

「違う。誉めてるんじゃねえよ。」

「じゃあ、何よ。」

 

「耳に化粧がついてないことにいい加減気づきな。」

 

つづく。




・花言葉...宣戦布告
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