下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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ープロローグー

あの散々な出来事から二日が経った。
あれは何だったのか、嵐の後の静けさのように、いつも通りの日常が訪れた。

青い空を見上げると、遠くに黒い雲たちが見える。
どうせ止んでもまた降るなら、頼る名言も無いだろう、と胸を撫で下ろした。


4章.詩鶴のボコボコ戦記
18.眠れない朝


 

【本編】

下町の鶴

4章-詩鶴のボコボコ戦記-

☆Episode.18「眠れない朝」

 

朝。スッキリと晴れた青い空の下、学校までの道のりを歩く。

「ふぁぁあああ.....。ねむ...。」

ここ最近、疲れが溜まってるせいか、全然寝足りない。ずっと眠たい。

七時半に母に叩き起こされ、何度も椅子から転げ落ちそうになりながら朝食を食べ、眩しい朝日のシャワーに打たれる。日焼け止め塗ったよね?記憶がない。

みんな青春がどうたらこうたらと謳ってますけれども、朝早くに制服に着替えて、やってない課題の事でわざわざ怒られに学校に向かう私の気持ちが分かりますか。他人事に言うほど青春は、優しい人好しじゃありません。

 

そんなこんなで校門に着くと、先生の挨拶検問に引っ掛かった。

「おはようござぁあーす。」

「おはよう、名取。何その髪型。」

「ぽにーてーるって言いまーす。」

「いや、うん知ってる。そうじゃなくて、とんでもないことになってるぞ。」

「うへへー、ありがとうござあーす。」

「誉めてない誉めてない。鏡見ろ。」

そういって先生が大きめの手鏡を私に向けた。

そこには酷く窶れた顔の私が映る。

「うーあー、これは酷いですねえ。」

そういってニッコリ笑顔を作って、先生に見せつけた。

「これでいいすかー。」

「寝癖だよ、寝癖!確かに顔も凄いことになってるけど...。」

寝ぼけながらフワフワとした手付きで、ほどいた髪に手ぐしをかける。先生はそんな私に呆れた様子で質問を投げ掛けた。

「昨日遅くまでバイトでもしてたの...?」

「いいえぇー、最近疲れ溜まっちゃってて...。なので先生、遠足って名目で慰安旅行、連れてって下さい。」

「はいはい。秋まで待った待った。」

その後、その先生に「後で話がある」と言われた。どうせまた、居残りから逃げ出したこととか、そういうのだろう。

 

教室に入ると、なんだか少し騒がしい。

「お!ナットリーーー!!おはよーう。」

朝から鬱陶しい空気に巻き込まれる。騒いどるこのアホは村草、この学年の情報屋たる人物。面白いと思った情報を手に入れると口々にその噂を振り撒くマジで鬱陶しい奴。何でこんな奴がよりにもよってうちのクラスにいるのか。

「何だよ朝から、うるさい...。」

机に鞄を置いて、椅子に腰かける。村草は教卓から有名人気取りな姿勢で私に向かって問いかけてきた。

「聞いたぜぇ~?二組の女子から。」

「何をだよ...。」

 

「お前、河島と"寝た"んだってぇ?」

 

一気に目が覚めた。まて...二組っていったら藤島がいるクラスじゃなかったっけ?....あのド畜生、何しやがった。

「......は?」

このアホが余計なことを言ったせいで余計に教室は騒がしくなる。

「え、マジで!?名取、話せよ!」

「え~、友達の域、越えちゃったってやつ~?」

皆が私を囲んで騒ぎ出した。こういうときのクラスの反応は尋常じゃない。本気で止められる気がしない熱量だ。

「いや、誤解だよ...!」

「またまたー、勿体振っちゃって~。」

誰一人として私の言い分を聞こうとしない。

「ちょっと...!みんな落ち着けって!落ち着けよ!!」

みんな全員、パニック状態の大騒ぎ。私はやけになって机から飛び出し、村草の胸ぐらを掴んだ。

「ぉぉお前この野郎ァー!!どうしてくれんだよこれ、無傷で帰れると思うなよコラァァ!!!」

村草はヘラヘラと笑ったままだ。

「大体、私と河島が"寝た"なんて、本当かどうかちゃんと調べたのかよお前。」

「本当だよぅ。噂好きな女子が言うんだからそうに決まってるー。」

何だこいつ.....、色仕掛けでもされたのか。まあ、口の軽い男が、尻の軽い女に騙されるなんてこの世の摂理みたいなものなんでしょうから?いつかそのお花畑な頭で可愛い女の子にホイホイついていって搾り取られるが良いさ。でも

「それは大きな誤解だよ。当の本人がちゃ~んと説明してあげる。」 

なんとか冷静さを取り繕って弁解の余地を試みる。

「え、いいよもう。今の話の方が絶対面白い。」

...無駄だったようだ。うん、私も無理。もう限界です。堪忍袋の緒が切れた。

「おのれぇぇ、そんなに殴られたいかああああ!!」

握った拳をおもいっきり振りとばそうとしたその時

 

ガラガラガラガラ

 

と扉が開き、河島がやってきた。

「おはざまーす。」

「どうすか河島君、今のお気持ちは!」

村草が余計な口を開いたので、一時停止した私の右手は青信号に変わった。

「ぐへぇあっ!」

汗が頬を伝う。心臓が大太鼓のように波打つ。今すぐこいつの口を封じなければと、私は焦りに焦っている。

「今黙れば原型は留めておいてやる。分かったら返事し―――」

「何だ村草、「眠い」以外の感想があるかよ?」

河島が教室の奥から声を飛ばした。村草がそれに返事をする。

「名取と仲が良いんだってなー?」

こめかみを両拳でグリグリしてやった。結構力強めで。

「ねえ、聞こえなかったぁ?この馬鹿。」

「いだだだ!!あはははァー!痛だァー!!」

河島は村草の問いかけに

「ああ、それがどうしたー?」

と、聞いた。村草がまた余計なことを言う前に先手をとる。そうして私は声を張って河島に叫んだ。

「河島ぁー!!こいつがあることないこと、朝から言いふらしてんだよ!!」

「本当かー雑草野郎ぉー。あることだけ言え~。」

と河島が、のほほーんとしたテンションで言う。

私はこいつを上から目線で睨み付けて警告した

「ないこと、言ったら、潰す。」

....のに。

「付き合ってるんだってなー!お前ら~。」

一瞬、五感全てが無くなったかのように、真っ白な空間に放り込まれたような気分になる。

もう私、我慢できない。覚悟しろ。

大きく宙に上げたこの足は、奴の砲台に備わった弾丸目掛けて急降下する。

 

「あ、待って名取さん。冗談だって、じょ―――」

ズンッ...!!

「ぎぃぃいやああああああああああああ!!!!」

 

悶絶する彼を背に、私はパッパと手を払う。

河島は自分の席にドカーンと座ると、何食わぬ顔で答えた。

「そんな風に思われてんの?俺ら。」

「全くよ、ふざけやあって。失礼しちゃうわ!!」

そう言って私も自分の席に座り、両肘で頬杖をついた。

しかし、まだ収まりきらないクラスメイトの熱が私たち二人に襲いかかる。

「ねえ、名取ちゃん本当?」

「何が。」

「河島と付き合ってるって。」

「誤解だって。いい加減にしてよ。」

「え、え、詳しく聞かせて!」

興奮するクラスメイトの対応に困っていると、山岸が教室に入ってきた。そのタイミングで私は

「時々うちの店に遊びに来るんだよ、二人で。ね?山岸?」

と、証人を増やした。

山岸は唐突に話を振られてビックリする。

「え、あー、うん。どしたの。」

「村草が私と河島、付き合ってるってデマ言いふらしたんだよ。」

「あー、それで悶えてるわけ、あいつあそこで。」

「そ。」

山岸は

「たまたま河島一人で店来たとこを見られた、とかじゃない?」

と、話す。まあ、あのお泊まりのこと、少しバレ始めてるし、山岸の解釈でも強ち間違ってないから良っか。しかし

「でも一人で来るのって好きだからじゃないの~?」

何を言っても「好き」の方向に持っていこうとしてくる。

こういう連中は意地でもクロにしたがる。私はもうやけになって

「ああそうかもね!!」

と、声を張った。

 

一段落熱が収まり、山岸、河島との三人で会話が始まる。

山岸の席は前の方にあるから、私と河島の席の間辺りで立っている。

名取:「ねえ、これも藤島の仕業?」

河島:「だろうな。あれから俺らの前には出てこなくなったけど。」

山岸:「残党に働かせてるんだろう。あれだけ騒ぎになったんだから、自分で泥を塗るほど馬鹿ではないはず。」

河島:「あの時の奴らはみんな生活指導から監視対象になってるんだろ?」

名取:「え、そうなの?」

山岸:「ああ。あの日、名取が脱走したあと先生がそう言ってたよ。」

名取:「あれは....!....ごめんって。」

河島:「前の奴らが監視対象なら、きっとメンバーを変えて仕返しに来るはず。」

名取:「そっか....気を付けなきゃね。」

 

河島はふとため息を吐いて、この重たい空気から解放される。

山岸が

「今度はもっと上手くやらなきゃな。」

と呟くと、河島が私の方をみてニコッと笑い、親指を立てて戯けた。

「今度はちゃんと守るからな!」

「そういうこと言うから勘違いされるんでしょ、ばか。」

 

-つづく-





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