下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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19.直射日光

 

下町の鶴

4章-詩鶴のボコボコ戦記-

☆Episode.19「直射日光」

 

「....クスクス」「....クスクス」

何だか最近、妙な視線を感じる。私のことをコソコソと噂してるのか、目の前を通れば急に黙り、通りすぎると再び小さな笑い声が後ろから聞こえてくる。

トイレに行く時や、その帰り、休み時間など、隙あらば陰口のようなものが聞こえてくる。

「名取って奴さぁ....。」

今のは確実に聞こえた!と思い、振り返るも、またそいつらはお馴染みのシカトを繰り返してくる。

「気味悪いなあ...。」

そう、小声で声を漏らすと

「お前がな、ヒャヒャヒャヒャ。」

と、悪口がハッキリと聞き取れた。また面倒臭い状況になろうとしている気がする。

 

教室に戻り、自分の席に座る。次の授業に向けての教科書を取り出そうと、引き出しに手を入れた。すると、生々しい感触が手に伝わる。

「ひいぃぃ!」

思わず机から飛び上がり、声が出た。

河島が「どしたの」と言わんばかりに笑うので、パニックになった私は

「河島河島河島河島!!」

「何だよ、聞こえてるって。」

「引き出しに何か居る....。」

「居るって何が...?」

「分からない....!な、なな何か...ニュルニュルしてる変なヤツ....。」

「え、何それ...虫か何かじゃね?」

「ひいぃぃ!!やめてよ、怖がらせないでよ、そこは普通...なんか優しい嘘とかつくもんでしょ男なら!!」

物凄いスピードで喋り倒し、平静を保てずにいる。自分でも正直、何言ってるか分からない。

「おーい、山岸ー。」

河島が山岸を呼ぶ。

「何かー?」

「お前、虫とかそういうの得意だろー?ちょっと来てくれー。」

そういうと、山岸がこっちへやってくる。

「名取、さっきから何でそんな震えてるの?」

「こここ、こん中に、なな何か虫みたいなのが居るの!!」

「ふーん。」

「ふーん、じゃないよ!取ってよ!!」

「ここに居るの?」

と、山岸が引き出しを指差す。

「そうそうそうそうそうそうそうそう!!」

頭に?マークをつけながら彼が引き出しを探ると

「うわっ、これミミズじゃない?」

山岸の周りにいる人達が一斉に数歩下がりだした。そうして取り出し、手にあったのは

「あ、やっぱりミミズだ。てか何でこんなとこに?」

私は腰を抜かした。

「いやああああああああ!!」

思わず声を上げてしまった。恐怖のあまり視界が滲んで見える。今にもこぼれ落ちそうなそれを手で拭おうとしたその時

「おい馬鹿馬鹿馬鹿、やめろ!!」

と、河島が大声で止める。私はビックリして固まった。山岸が私を見ると

「それ触った手で目擦ったら失明するよ。」

「ひっ.....。」

そう忠告した。

「早く手、洗ってきな。」

河島の提案に乗り、私は手洗い場に直行した。

 

河島が走り去る名取を見ていると、教室の窓の外、廊下で彼女をチラ見しては、クスクスと笑っている三人の女生徒を目にする。そいつらの一人がすれ違った男と小さくハイタッチをしているのを見て、そいつらの犯行であることに気づいた。

河島はボソッと呟いた。

「なあ、山岸。」

「どうした?」

「例えばだけどさ、仲間を殺した魔王が超絶美女だったり、ガキだったとして、倒さないって選択肢があったらそれ選ぶ?」

「急にどうしたよ。仲間殺されてるなら仇を打つのが当たり前じゃない?」

「そうだよな?」

「うん。....え、これ何。」

河島は小声で

「妹蹴り返す感じでやればいけるな。」

と一人言を言うと、

「山岸、ミミズ、パス。」

「え、何で?」

「手ぇ滑っちゃった~、って態で。」

山岸は状況が掴めないまま、それでいて出来る限り最大の演技で河島に投げた。

「ああっ、やっべ、手ぇ滑った!!」

「おおおお前何やってんだよぉぉおお!!」

そういって手にしたミミズを廊下側の開いた窓に向けて投げつけた。

廊下から大きな悲鳴が聞こえてきた。

「いやああああああ!!ミミズがぁぁ、顔にぃぃいいい!!」

窓の外で悶える三人を知らぬふりで見届ける河島。向こう側で三人仲良く爆弾をパスし合うかのように回す姿を背に、ほくそ笑んで言葉を吐いた。

「計 画 通 り 。」

山岸は困惑した。

「ミミズ可哀想。」

 

そうこうしている内にミミズが教室内に舞い戻ってきた。

飛んできたミミズは奇跡的なタイミングで、黒板の下でボーッと座っていた村草の首もとに着地する。

「ぎぃやあああああああああ!!!!」

大絶叫の村草に、山岸が詰め寄った。

「あー、今取るから。投げないで。可哀想だから。」

「ボクの心配はぁぁああ!!??」

 

教室内に失笑の嵐が舞い起こった。

 

 

ー手洗い場にてー

蛇口を回し、手のネバネバを洗い取ろうと頑張る。ある程度水洗いで取れたと思うが、何だかそれだけでは安心出来ないので網袋に入ったレモン石鹸も使って泡立たせる。

ただ無心に手の石鹸を擦り続けていると、隣に村草がやってきた。

村草が蛇口の水をハンカチに含ませ、それで必死に首もとを拭きだすので、不思議に思った私は

「.....何やってんの?」

と、怪訝そうな顔になって聞いた。

「誰かさんのミミズ様が飛んできたんだよ...!」

「何であたしのせいみたいな言い方してんの。」

「だって....そっちが――」

「私、被害者なんですけど....。あんたとお互い様...じゃないの?」

ため息と共に出た言葉に、村草も渋々納得する。

私はこの前のことの話を持ち出して、責めた。

「ねえ村草さ、あんた人の悪い噂ばら蒔く趣味、やめなよ。苛めの標的にされるよ?私みたいに。」

「注目されるのが生き甲斐だから、無理かな。」

「だったらもっとやり方あるじゃん。河島みたいに皆笑わせたりとかさ。」

「...お前、本当河島のこと好きな。笑いで注目されるのはもうアイツの役割だから。二番煎じはやらない流儀なの。」

なんか最初の一言がひっかかるな。異性の友達で仲良いってだけのことを勘違いしすぎだろ。

「っていうかさ。」

村草が話を切り出そうとする。

「.....?」

「さっき、苛められてるって言った?」

「さっきまで何見てたんだよ。」

「あれは単なるイタズラじゃ....?」

「イタズラで本物のミミズ入れる奴がいるかよ....。」

大きく息を吐いた。

「....誰にやられてるんだ?」

「この前、あんたを買った奴らだよ。加担した奴の顔が知りたいなら鏡見てくれば。」

「.......。」

私は先に手を洗い終えて

「授業遅れんなよー。」

と言って、教室に戻った。

 

一方、河島達は....

「ここら辺で良いんじゃない?土あるし。」

「うん、そうだな。」

ミミズ様を自然にお返しているところだった。

「全く、一体どっからこんなもん二階の教室まで持ってきたんだよ....。」

山岸が困惑する。

「さあ....手の込んだことやる奴もいるんだな。」

河島がそう言い、続けて

「さ、とっとと手洗って教室戻ろ。」

「そうだな。」

そんなやり取りをし、中庭を後にした。

 

二人が一階の手洗い場で手を洗っていると突然、声を掛けられた。

「河島さんですか?」

振り返ると、一年生と思われる男子生徒が居た。

「名前よく知ってるな。もしかして俺、有名人?」

その子は会うなり、いきなり

「第一ボタンが外れてます。あと、髪は耳に掛からないようにしてください。」

「何だ何だ?」

「すみません、名乗り遅れました。一年一組、風紀委員の小岩晴臣と申します。」

「はあ。」

「本題に入らせて頂きます。噂に聞いたまでに確かではないので、間違っていたら大変恐縮なのですが、以前、異性不純行為があったと耳にしました。本当でしょうか。」

「え、何だそれ。例えばどんなこと?」

「....ご学友とまぐわわれた、とか。」

「滅茶苦茶だなあ。寧ろそんなの、"経験してみたい"に尽き.....ごほん、失礼。」

「左様でしたか、大変失礼なことをお聞きしました。」

「い、いえいえ....。」

「貴重なお時間を頂戴してしまい、申し訳ございません。では、これにて失礼致します。」

そういって、小岩という少年はスタスタと歩き去っていった。

「山岸、あの子、知ってる?」

「いや。....それにしても物凄いピシッとしてたね。」

「あ、うん。何か....銀行員みたいで怖い。」

「ごめん、その例えは分からないわ。」

のんびりと話していると、チャイムが鳴り響いた。

「やっべ!山岸、走るぞ!」

「おー!!」

 

 

「授業始めるぞ。あれ、河島と山岸は?」

「ミミズ様を自然界まで護送してます。」

「そうか。え?」

 

ーつづくー




【雑学トリビア( ᐛ)/】

ミミズは動物
―――――――――――――――
2022.9.29
風紀委員の子、名字を石岡→小岩に変更。
2023.6.10
上記の変更で、表記が石岡のままだった箇所を今更ながら発見。確認後、修正。
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