下町の鶴   作:瀧ヶ花真太郎

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ープロローグー

放課後、人気の少なくなった玄関に数名の女生徒の笑い声が小さく響く。
「これベッタベタになるよ。」
「マジ想像しただけで無理~。」
「キャハハハハハ!!」
そこには一人の靴箱に三人群がっていて、何やら仕掛けを施しているように見える。
「これもつけちゃえば?」
「いや、それはマズいって流石に~。」
「この前、あいつのせいで怒られたんだし、もっとやっちゃえば良いって。」



20.学校さんぽ

 

下町の鶴

4章-詩鶴のボコボコ戦記-

☆Episode.20「学校さんぽ」

 

居残り組はいつもいるわけじゃない。今日は山岸は風邪で休んでいて、河島は珍しく課題をこなして来てたから教室には私ひとりぼっち。

仲間を探して他の教室に顔を出してみたけど、空っぽか、居ても私の様な奴の遊び防止で先生が居た。

「ちぇ、つまーんないの。」

空き缶を蹴るふりをして歩く。一日最後に鳴るチャイムは部活終わりの時。それと共に居残り組も解放されるのだが、私は待ちわびて、夕暮れの学校を散歩してみることにした。

 

オレンジ色に染まった廊下、薄暗い理科室。この下辺りに職員室があるのだろう、一階には怖くて降りられない。

中庭を見下ろすと像が立っているのが見える。そういえばあれ、何の像だろう。初代校長~みたいな奴かな。頭ハゲてるし。

その隣には小さな庭があって、良く晴れた夏の日だからか、カラカラに土が乾いている。

「水やりしてやろーっと。」

ちょっとした気遣いと、悪戯心を兼ねて私は、蛇口の水を口に含ませる。勢いよくその庭目掛けてピューーっと吹き出してみるも全然届かず、縁に積まれた石にかけるのがやっとこそ。

まあ良いや、と思って最後の水を吐ききろうとすると、真下に鬼教師の塚本先生が様子を見に来たので、私は大焦りで身を引いて、廊下の壁に身を隠した。

「オォルラァ、誰だこんなふざけた事してんのはァ!ただじゃ置かねえぞ。」

ひっ!!

犯人をあぶり出そうと、物凄いドスの効かせた怒鳴り声を二階の窓に叩きつけてくる。私は口をグッと押さえて息を飲んだ。それと同時に口の中の水も飲んじゃった....。

「今そこに行くからじっとしておけよ!!」

ヤバい、逃げなきゃ。そうだ、とりあえず三階に逃げてしまえば撒けるかもしれない。

そう思って、私はここから遠い方の階段に向けて走った。

教室のない長い廊下の窓から、中庭を挟んで向こう側の校舎が見渡せる。電車の車窓のようにスパスパと流れる窓枠に時々見とれたりもしながら、誰もいない廊下を駆け抜けていった。

廊下の突き当たりから少し横の薄暗い階段を駆け上り、踊り場を過ぎたところからは、その先に見える窓明かりに向かって二段飛ばししていった。

 

三階に着くと、同じ間取りな筈なのにどこか違って見える景色に心動かされた。

窓の下を覗くと、地面まで怪我じゃ済まない高さにスリルに似た快感を感じる。景色も、校舎の広い範囲まで見渡せて心地良い。

 

さて、私の教室に一番近い階段まで歩こう。そこから戻って、ぼーっとしていれば直ぐにチャイムが鳴ってくれるはずだ。

そう思って歩き始めた途端、嫌ぁーな人物に出くわした。

「また脱走かい?」

藤島先輩だ...。私は頭を抱え、ため息をつく。

「鞄持ってないのに気づきません?それに"誰か先輩"のせいで逃げれる確率下がりました。」

そう言って諦めたように、開いた窓に腕を置いた。

「ははは、それは良かった。風紀委員として活動できた気になれる。」

「バスケ部に風紀委員って....。貴方モテたいんですか、嫌われたいんですか。」

「バスケはもうやってないよ。受験があるからね。」

「そのテイでヒーローごっこと。」

「人聞きの悪いこと言うなあ。僕はわざわざ勉強に時間を取らなくたって点が取れるから、こうして君のような生徒を捕まえる余裕があるんだよ。」

「なるほど、じゃあ居られるはずの部に残らなかったのは、モテるのは諦めたって認識で良いんですよね?」

「はは、あそこにこれ以上居なくたってもうモテてるから。」

「聞かなきゃよかった。退学してください。」

さっきまで見ていた窓の外の景色が違って見える。自由を感じていたはずの景色は、檻の外を見ている感覚に陥って、オレンジ色の空にしかそれを感じられなくなっていた。

「そうだ、君に話さなきゃいけなかったことがある。」

「何ですか。告白ならお断りします。」

「いや、違う。そうじゃない。」

「じゃあ何ですか。」

「僕の妹のことだ。」

 

 

 

放課後のチャイムが鳴り響き、居残りの時間の終わりを知らせる。

正面玄関に着き、靴を取り出そうとしたとき、急に指先が濡れたので酷く驚いた。中に何か入れられている。

やたら重く、ちゃぷちゃぷと水の音がするので靴の中を見てみると、甘い臭いを放つ黒い液体が。

靴の中にコーラを入れられていた。

直ぐに近くの排水溝に捨てたが、中はベタベタしていて履けたもんじゃない。どうしたものかと困っていると

「つるりーん、どしたーん。」

と、瑞希の声が。事情を話すと

「うわ、何それ最低じゃん。あ、そうだ。つるりん、良かったら自転車の後ろ乗りなよ。」

と提案してくれたので

「本当ありがとう....。」

といってハグした。

 

手洗い場で靴の片方を洗ってくれる瑞希。

「いいよ....別に私やるから。」

「良いって良いって。困った時はお互い様~ってやつ?あはは。」

「本当ごめんね....。」

「だからなんでつるりんが謝んの。悪いのはこれやった奴らでしょ?」

「まあ....。」

「本当、最っっ低だよね。悪ふざけで済む話じゃないよ。」

瑞希があまりにも熱心に同情してくれるので、嬉しさと、手伝って貰ってる申し訳なさから頷くことしか出来なくなる。

しばらくして靴を洗い終えると、それを持って玄関まで歩いた。

外靴を履き終えた瑞希が私を待っている。上靴を下駄箱に入れた後、外まで靴下のまま、爪先であるこうとする私を見かねた瑞希が、私をぎゅっと抱き締めて持ち上げた。

「きゃっ....ちょっとみっちゃん!?あはは、やめて、離してって!はは。」

「ええーい、駐輪場まで急行だあ~。」

「きゃははは!やーめて!やめてったら!!」

そういって私を持ち上げたまま歩き出すもので、私も大はしゃぎした。

靴下のまま、みっちゃんにおぶられ、普通に歩いたら真っ黒になるであろう地面を見ていると、何だか船に乗っているみたいでとっても楽しい。

駐輪場まですれ違う奴らに凄い目で見られつつも、私達はそんなことを気にするはずもないくらいに笑いあった。

 

駐輪場に着くと、瑞希は私をちょこんとサドルに乗せ、籠に鞄と靴を置いていく。

「これで走れば少しは乾くと思うから。」

「自然乾燥機ってやつ~?」

「住宅街で夕飯の匂いが付いちゃうかも~?」

「あははー!きもーい!」

自転車が走り出しても、私達はずっと小さな子供のようにはしゃいでいた。

 

「みっちゃん、案外力持ちだよね。」

「え?」

「だって私この前、二人乗りしようとやってみたけど全然進まなくってさ。」

「あ~、なるほどね。慣れだよ、慣れ。」

「慣れで出来るもんなの?」

「うーん、まあ私、昔よく弟乗せて走ってたし。」

「へえ~、良いなあ、兄弟。」

「ふふ、実際いたら居たで結構大変だよ~?」

「うわ、でた。兄弟持ちお決まりの定型文。」

「だって本当だもん。」

「ふふ、そっか。」

「逆に一人っ子の大変なとこ、聞かせてよ。」

「うーん、さびしいっ!」

瑞希の背中にぎゅっと飛びついた。すると自転車の起動がぐらぐらと揺れて蛇行する。

「わあーー!!ちょっと辞めてよ、危ないって(笑)」

「にひひ。」

 

ーつづくー





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